ABSの普及が遅れた表と裏の理由

パワーフリー号

二輪へのABSまたはCBS(コンバインドブレーキ)の装着義務化(新型車については2018年10月から、既存車種については2021年10月から)が記憶にあたらしい人も多いと思います。
これは欧州との規制統一化の一環で欧州では2016年からABSが義務化されます。

欧州では126cc~はABS必須(CBS不可)なので、実質126cc以上はABSが装着されるものと思われます。

さて、ABSとは皆さんご存知アンチロック・ブレーキ・システムの略称でタイヤがロックするのを防いでくれる制御装置ですね。

飛行機

もともとは飛行機の為に開発されたのは有名な話です。

それが小型化&軽量化され精度が増したことで自動車にも積まれるようになり、遂には二輪にも積まれるようになったというわけです。

クルマもバイクもABS自体はどちらもアンチロック・ブレーキ・システムで仕組みは似たようなものです。

じゃあなんでクルマに比べバイクではABSの普及が遅れたのかというと

「クルマとバイクでは求められる役割も性能も違うから」

です。

四輪におけるABSの役割

クルマにおけるABSは最初に搭載した飛行機のABSと同じくタイヤロックにより

”ハンドルを奪われ衝突事故を起こしてしまうのを防ぐため”

にあります。

二輪におけるABSの役割

それに対しバイクはタイヤロックによる

”転倒を防ぐため”

です。

そんなの当たり前だと怒られそうですが、これが非常に難しい。

ABSが作動するということは
ロック

リリース

ロック

繰り返し

を機械が勝手に行うということ。

クルマは多少ガクガクした所でせいぜい車体が振られるくらいで問題にはなりませんがバイクの場合はどうでしょう。

自分の意図しない強いホッピングブレーキを掛けられてしまってはバランスを崩して転倒してしまいますよね。それじゃABSの意味が無い。

ブレーキレバー

更に言うならその挙動やレバーへのキックバックに驚いてブレーキを離してしまうと制動距離が伸びる事となり、かえって危険です。

二輪のABSは作動させてるライダーが気付かない程にクルマとは比較にならないほどスムーズなポンピングブレーキでなければならなかったんです。

もう一つ問題となったのはスペースと重さの問題。

ABSの歴史

ABSが出始めの頃はABSユニットだけで10kg近い重さが有りました。

しかし改良を重ね、高性能化、小型化、軽量化が進みスペースの無いバイクにも載せれるほどの重さとサイズになったんですね。

コンバインドABS

今では更に進化して前後連動制御や無段階制御のリニア制御など更なる進化を遂げてるわけです。

トラクションコントロールシステム(横滑り防止装置)もABS技術から生まれたものだったりします。

・・・さて表の理由はこのくらいでいいでしょうか。

ここからは裏の理由です。(長くなってスイマセン)

そもそもABSを一番最初に積んだのは名門のBMW社。

K100ABS

1987年に登場したK100が始まり。

その後、1994年にボッシュ社が二輪用ABSを開発&生産して以降、BMWはどんどんABSを搭載した車種を増やしていきました。

しかしそれに対し日本メーカーは皆さんご存知のように消極的で追従することはせず。

その理由は日本メーカーは大型のみのBMWと違い、原付からリッターオーバーまで揃えたフルラインナップメーカーだったからです。

何故フルラインナップだと追従出来ないのかというと

例えばアッパークラスの大型バイクに

「ABSは事故予防の必須装備ですよ!」

と謳って発売したとします。

そうすると

「必須装備ならなんで他のクラスのバイクには無いんだ!ユーザーの命をなんだと思ってるんだ!」

となり社会的責任(PL法)を追求される恐れがあったからなんです。

バイクは三ない運動などの歴史を見れば分かる通り、社会からの風当たりが強いのでメーカーもナーバスになっています。

だからABS義務化がここまで遅れたのも、126cc以上のバイクとなっているのも日本メーカーを筆頭としたフルラインナップメーカーへの配慮だったりするわけです。

アンチロック・ブレーキ・システム

しかしBOSCH社によると
「ABSによって生命に関わる事故が3/4に減少する」
という調査がある通りユーザーとしてはABS義務化は歓迎すべき事ですね。
まあ一番の恩恵は保険料が安くなる事だと思いますが。

BOSCHで思い出したんですが、ABSが義務化された事情にはABSユニットを作るある欧州の巨大メーカーからの強いロビー活動によるものも理由の一つと言われています・・・何処のメーカーかは言えませんが。

250もスーパースポーツ~SSの定義とジレンマ~

250スーパースポーツ

「250はスーパースポーツか否か」

という話題が後を立たずサイトへの問い合わせも頂くのでここらへんで豆知識というより客観的な考察と根拠を元に書いていきますが、最初に結論を書くと

「250はスーパースポーツ」

と言えるかと思います。

まずそもそも”スーパースポーツ”という言葉自体は1979年CB750Fなどにも使われていました。

CB750Fのカタログ

当時を知らない人からすると

「いやこれはネイキッドでしょ」

と思うでしょうが、これもAMA(全米レース)で活躍した立派なスーパースポーツ。

AMA/CB900F

CB400SFで見覚えのある人も多いますがそれの元ネタであるスペンサーカラーです。ちなみに横に写っているのはローソンレプリカの元ネタ。

もっと遡ると1952年のCB92でベンリィスーパースポーツ(通称ベンスパ)と名乗っていましたが、何れにせよスーパースポーツと呼ぶことに違和感を覚える人は多いかと。

では現在進行系の”スーパースポーツ”というカテゴリが確立したのがいつかといえば2004年頃。

スーパースポーツ

それまではレプリカとかアルティメットスポーツとか様々な言われようだったのがスーパースポーツに。

キッカケはWSB(ワールドスーパーバイク)を始めとした市販車レースのレギュレーションが750ccから1000ccになった事。

これは人気が高まっていた1000ccのスポーツバイクにあやかろうとした事が理由で、その狙いは見事に的中し人気が爆発しました。ちなみに600も同じです。

SSのサイクル

つまりスーパースポーツというのは

『人気クラス×レース準拠』

という定義が当て嵌まる。

実はこれ80年代後半に盛り上がりを見せたレーサーレプリカにも言えるんです。

250レプリカ

4st400ccや2st250ccにおいて次々に凄いマシンが登場し過激になっていった理由も実はレース。

これはまだローカルレースでしかなかった八耐などを国際レースに準拠(昇格)させる際に、ノービス(アマチュア)を排他する必要があったから。

そこで新たに鈴鹿四耐やTT-F3、他にもSS400やSP250などノービス(アマチュア)が主役の中型ローカルレースを別に設けたんです。

400レプリカ

中型というもともと身近で高い需要があるクラスだった事もあり人気急上昇。

そして競争が起こり、メーカーも応えた事でラインナップが充実した。

SSのサイクル

つまりレーサーレプリカも

『人気クラス×レース準拠』

という構図なんです・・・が、では何故

レプリカとスーパースポーツ

「レーサーレプリカとスーパースポーツは違う」

と言われるのかというと、出発点に違いがあるからです。

ホンダが分かりやすいんですが、ホンダのファクトリーレーサーといえばRCVですよね。

RCVとCBR1000RR

でもCBR1000RRは似ても似つかない姿形をしている。

これが何故かといえばCBR1000RRは出発点がCBR-RRという”公道を走る市販車”だから。

それに対してレーサーレプリカはWGP(現MotoGP)つまりファクトリーレーサーが出発点。

レプリカブーム

NSRという選ばれたレーサーしか乗れないメーカーのプロトタイプレーサーがあって、その流れを受けた市販車としてNSR250Rなどが出た。

【スーパースポーツ】

市販車→市販車レース

【レーサーレプリカ】

レーサー→市販車→市販車レース

両者の決定的な違いはここにあるわけです。

RCVとRC213V-S

だから逆に2190万円もするRC213V-SはRCVの公道版だからスーパースポーツじゃなくてレーサーレプリカと言える。

同じくスーパースポーツを代表するYZF-R1も近年ではYZR-M1を意識したモデルになりました。

R1とM1

つまりR1もレーサーレプリカと言えなくもない話。

何が言いたいかっていうとレーサーレプリカとスーパースポーツの境界線は結構曖昧なんです。なんだかスーパースポーツとレーサーレプリカの違いの説明になってしまいました。

それで本題の250クラス。

非常に盛り上がりを見せているクラスなんですが実はこれも

『人気クラス×レース準拠』

という図式が成り立っている。

『JP(Japan Production)250』

JP250

・二気筒250ccまで

・単気筒300ccまで

が条件で、年を追う毎に人気が高まっている登竜門的なMFJ公認レース。

これが一役買っている・・・と言いたいところなんですが、正直レーサーレプリカ時代のSP250/F等ほどの盛り上がりはない。

いま4st250を盛り上げているのは別のレースです。

『AP(Asia Production)250』

AP250

ほぼ同条件のアジアロードレース選手権。

名前の通り世界で一番重要な市場であるアジアのレースでその人気は凄まじいものがあります。

ちなみにラウンドには日本(鈴鹿)も含まれており日本人ライダーも活躍しているのですが、何が面白いってこの流れ80年代の日本と酷似している事。

ARRC

「腕に自信がある若者が上を目指して競い合い、多くの若者が固唾をのんで観戦する」

という80年代の日本そのままなんです。

アジアはいま正にそんなレーサーレプリカ時代の日本を追体験している状況で、またメーカーも80年代のように応えることで4st250が盛り上がり、その熱が日本まで届いているわけ。

250SS

つまり大型SSやレーサーレプリカと図式が一緒だから

「250もスーパースポーツになった」

と言えるんです。

250をスーパースポーツと言える要素はもう一つあります。

『スーパースポーツのジレンマ』

です。

先に紹介したレーサーレプリカや大型スーパースポーツの人気が長続きせずに終わってしまったのもこのジレンマのせい。

SBK2018王者

レプリカにしろスーパースポーツにしろレーサーという半身が人気に繋がっている以上、性能や戦績が人気に直結します。

そうなると当然ながらメーカーもどんどん本気になる。レースで自社のバイクを勝たせるために凄い市販車を作る、更にレースで勝つためにワークス参戦(メーカー直々に参戦)までする。

するとどうなるか・・・ユーザーがついて行けなくなるんです。

多額の開発費で性能と同時に車体価格が跳ね上がっていき、何から何まで上回っているワークスという番長の登場でレースの敷居も高くなる。

NSR250プライス

このせいで『価格弾力性』が無くなっていく。

要するにモデルチェンジに冷めてしまう、または購入を諦めて離れてしまうユーザーが増えてくるんですね。

そうなると当然ながら販売台数が落ちていき、好循環だったサイクルが一転して負のサイクルへとなってしまう。

負のサイクル

これはビッグスクーターなどブームが来たジャンル全てに当て嵌まるんですが、スペックやタイムといった目に見える数字勝負になるスポーツ系は特に直面する問題。

『性能を上げないと売れない』

『性能を上げると値上げになり売れない』

という板挟み、ジレンマに陥ってしまう。

SSのジレンマ

だからモデルチェンジされなくなり、やがてはレースも開かれなくなりカテゴリそのものが終わってしまう。

これは晩年のレーサーレプリカ、終わりかけの600SS、なんとかこらえてる1000SS全てに当てはまる。

250もスーパースポーツと言えるのは、これが当てはまる様になったから。

新旧Ninja250

一番最初に出たNinja250Rは50万円を切る車体価格でしたが今では60万円ほど。

新旧CBR250

ホンダも最初に出したCBR250Rは50万円を切る車体価格だったのが、本気を出して80万円弱もするCBR250RRを出した。

ヤマハのYZF-R25も価格を抑えたとはいえ倒立サスやLEDなどで8万円近く高くなった。

2019年式YZF-R25

こうしてどんどんインフレしていく。

でもこれは決してメーカーが悪いわけではなく本当にどうしようもない事。

「クラスで一番速い、一番スポーツなバイクが欲しい」

とユーザーが望むからです。

だからメーカーも高くなろうと一番凄いバイクを提供する事を止めることは出来ない。

そう言い切れる根拠なのがGSX250Rというバイク。

GSX250R

サーキットではなく公道での使い勝手と速さを重視したモデルなんですが、販売台数は先に出ていたライバル車にすら負けている。

これが何故かと言えば

「ライバル車より凄くない」

とサーキットを走るわけでもタイムを縮めたいわけでもないのにカタログスペック(最高馬力)で優劣を判断する人が多かったから。

GSX250Rのカタログ

市場がもう

『フルカウル250=スーパースポーツ』

としてしか見ていない事を如実に表している。これほどまでにカタログスペック(特に馬力)を判断材料にされるジャンルはスーパースポーツだけ。

もうこうなった以上はレーサーレプリカや大型SSと同じ様に

『250スーパースポーツ』

としてユーザーがついて行けなくなるまで性能も価格もインフレしていくしかない。

アジアロードレース

もちろんこのインフレのおかげで凄い250が買えるようになるわけなので悪いことでは無いですけどね。

以上が250がスーパースポーツと言える根拠。

これは歴史的に見た場合の話なので

「250はスーパースポーツじゃない」

と別の定義で否定されるのも分かりますが

「スーパースポーツの道を歩んでいる」

というのは紛れもない事実かと。

バイクの世界への巧みな誘い方

バイクの誘い方

バイク乗りにとってバイクというのはコレ以上の物は無いと言えるほど楽しい乗り物。

その溢れんばかりの熱中っぷりに、バイクに乗らない(興味がない)人へ魅力を力説して煙たがられるのをよく目にします。

「翼が生えた気になれる」

「四季を感じ取れる」

「魂が揺さぶられる」

等など、表現力が乏しいのに無理に例えようして何かの宗教勧誘の様に・・・経験がある人も多いでしょう。

乗ってみたら一発なんですが、車と違い簡単には試乗できないのが現実。

モンキー

このサイトを始めたキッカケもそうなんですが

「バイクの魅力を多くの人に分かってもらうにはどうすれば」

と常日頃考えていて様々な本や資料を読み漁り至った考えというか、巧みなバイクの誘い方を書いていきたいと思います。

まずバイク乗りの多くの方に理解してもらいたい事があります。

それはバイクに乗っていない人の多くにとってバイクというのは

バイクは危ない

「危ない乗り物」

という認識が圧倒的に占めているという事。

ヤマハの調査でも82.4%の人間が

「転倒が怖い」

と答えています。

マーケティングでロイヤリティ分布図というものがあります。簡単に言うと印象分布図。

自動車のロイヤリティ

多くの人に生活必需品として普及している車の場合はこう。ポジティブでもネガティブでもない人が大多数。

しかし市民権を得ていないバイクは全く違います。

バイクのロイヤリティ

車とは正反対でポジ/ネガ両極端で歪な形。

そして問題は私達バイクに乗るポジティブ側の人間がバイクに乗らない人を大きく勘違いしている事。

バイクのロイヤリティ分布図

アンケート結果からも分かるように、バイクに乗らない人の多くは±0ではなくマイナス側に居る。

この状況でどんなにバイクの魅力を伝えようとも

「でもバイクって転倒するし」

というネガが解決されるわけではないので通らない。

最近ホンダが倒れないバイクを出したのを覚えているでしょうか。東モ2017ではヤマハも出してきました。

自立型バイク

このバイクが世間を賑わすビッグニュースとなったのは我々ポジティブ層(バイク乗り)ではなく、圧倒的多数派のネガティブ層(非バイク乗り)が考える

「バイクは転倒するから危険」

というネガティブ要素を解消したバイクだったからです。

ネガティブトレール

ちなみに倒れない仕組みはトレール量をネガティブ側(マイナス側)にすることで起こる復元力で。

ネガティブにすることでネガティブ層にアピールという何とも面白い話。マイナス同士をかけるとプラスになるとは正にこの事ですね・・・はい、すいません。

ただまあ何年先の話になるか分からないので現代に話を戻します。

重ねて言いますが自発的にバイクに乗らない人というのは

“ポジティブ面を知らないわけでなくネガティブ面が勝っている”

です。

そんな人に使える有効な手段として考えられるのが

「ネガティブ要素も言う」

という手段。

【片面提示】と【二面提示】という交渉術があります。

片面提示というのはポジティブな事しか言わないこと。

両面提示はネガティブな事も言うこと。

交渉術

片面提示はポジティブ側に居る人(バイクでいえば乗る気満々の人)に使える交渉術。

しかしバイクに乗らない多くの人は”転倒”というネガティブ要素を知るネガティブ側の人間。

そういう人にネガティブな要素を一切言わずにポジティブな事だけ言っても信用されません。

しかし反対にネガティブな要素も言う二面提示をすると信頼性と説得力が増します。

アドバイス

注意点は

「ネガ要素を先に言う」

という点。

「バイクは楽しいけど危ないよ」

「バイクは危ないけど楽しいよ」

どちらが好印象かと言えば後者でしょう。

以上の事を踏まえた上でツイッターを例に挙げてみます。

ツイート例

例えばこういうツイートをしたら”いいね”は貰えるかもしれないけど、バイクへ興味を示してくれる人が居るかというと微妙な所。

ネガティブに触れていないからです。だから例えばこうする。

ツイート例2

いいねを貰える確率は下がるかもしれませんが、その代わり間違いなくバイクに乗らない人からの反応は上がる。

説得力が違うのが分かると思います。

更に極端な言い方をするとこう。

ツイート例3

バイクは危ないから乗らないという考えを逆手に取って

「お前らは止めとけ」

と我慢を強いるような印象を与えるわけです。

これは禁止されると興味を持ってしまう

【カリギュラ効果】

という心理現象を狙っての事。

ダチョウ倶楽部さんのネタである

「絶対に押すなよ!」

や、鶴の恩返しで覗くなと言われたのに覗いてしまった話と一緒。

鶴の恩返し

まあこれは少し極端で意地悪なのでオススメしません。

要するに多くのバイク乗りがバイクを勧めて煙たがられるのは、ポジティブ要素しか言わないから。

「ネガ要素を最初に言う」

これだけ守って下さい。ネガ要素を隠したり否定したりしない。

バンバン

「夏は暑くて冬は寒いけど、楽しい乗り物なんだよ」

というようにポジティブ面だけでなくネガティブ面も

“バイクを謳歌している自分から言う事”

これが大事。

駒ではなく仲間を増やしたスズキ ~マニュファクチャラー7連覇の栄光~

スズキレーシングチーム

スズキのロードレースにおける偉業というと鈴鹿8耐ヨシムラとのタッグによる番狂わせの優勝が有名ですが、一方で純レーサーで行われるWGPとなると今ひとつ語られないイメージ。

2015年にWGP(MotoGP)へ復帰し、2016年には初勝利を上げ2019年に至っては上位に食い込むなど大健闘をしているんですけどね。

スズキのWGP

当たり前ですがスズキもWGPでチャンピオンに輝いた事もマニュファクチャラータイトルを取ったこともあります。

若い方は

「スズキがWGPでブイブイ言わせてた時代がある」

なんて言っても信じられないでしょうから輝かしい功績と合わせてスズキのWGPにおける実績を交えつつ長々と。

まず何と言っても紹介しなければいけないのが50ccクラスで出場した伊藤光夫さん。

マン島TT王者伊藤さん

1963年にWGPの中でも特別な位置づけにあったマン島TTで日本人として初であり唯一の優勝された方。

この時のメーカーがご覧の通りスズキでした。※2019年7月3日逝去

そこからズズッと進んでバイクブーム時代だった80~90年代。

この頃を知る方ならスズキのWGPといえば

WGP歴代チャンピオン

「ケビン・シュワンツ」

と即答される方も多いかと思います。

当時を知らない人でも名前くらいは聞いたことがあるかと思いますがザックリ説明するとアメリカの方で、苦節八年デッドヒートの末にRGV-Γ500で並み居る強豪を抑え1993年にチャンピオンとなった苦労人です。

ケビン・シュワンツ

暴れるマシンを器用に乗りこなす姿から

「ロデオライディングのフライング・テキサン(テキサス人)」

と称され非常に人気がありました。

しかしながら実はこれらの時、伊藤さんの時もケビンの時もスズキはマニュファクチャラータイトルの獲得には至っていません。

バリー・シーン

これは2000年に同じくWGPチャンピオンとなったロバーツjrの時もそう。

理由としてスズキは二輪部門が小さいくせに赤字事業で金欠だから。お金がないからライダーやセカンドチームなど環境規模を大きくする事が出来ずポイントを稼ぐことが難しいんです。

では

「スズキはWGPでマニュファクチャラータイトルと取った事がないのか」

というとそんな事はなくこれまで7回も獲得しています・・・しかもその7回というのは7年連続で。

これがいつかというとケビン・シュワンツよりもう少し前の1976年の事。

バリー・シーン

『バリー・シーン』

というエースの活躍によって1976~1977年チャンピオンと同時にスズキもマニュファクチャラータイトルを獲得しました・・・が、それもここまで。

3年目となる1978年に思わぬ天才ライダーが黒船のごとく現れます。

ケニーロバーツ

『ケニー・ロバーツ』

こちらも名前くらいは聞いたことがある人は多いでしょう。

ハングオンまたはハングオフという膝を出して曲がっているスタイルとイエローストロボ(インターカラー)を世界に広めた伝説のライダー。それまでの常識を覆すような神がかり的な速さで1978年から三連覇を達成しました。

その時のレース結果がこう。

1976年から1980年

優勝はケニー・ロバーツ・・・だけどもマニュファクチャラーはスズキ。

「どうしてスズキがマニュファクチャラーを死守できたのか」

という話ですが、この頃のWGPはホンダがNRとかいう斜め上な挑戦をしていた事もあり実質的にヤマハとスズキの一騎打ち状態で、例として1979年の年間リザルトをあげるとこういう結果でした。

1位ケニー 113pt
2位バージニオ  89pt
3位バリー 87pt
4位ウィル 66pt
5位フランコ 51pt
6位ボート 50pt
7位ジャック 36pt
8位ランディ 29pt
9位フィリップ 29pt
10位トム 28pt

ここで注目してほしいのはケニーではなく2位以下・・・実はこれ全てスズキなんです。

1979年のWGPリザルト

怒涛のスズキラッシュ。

だからマニュファクチャラーのリザルトはこう。

1位スズキ165pt
2位ヤマハ138pt
3位モルビデリ2pt

優勝はヤマハのケニー・ロバーツだけどマニュファクチャラーは逆転してスズキ。

こうしてスズキはマニュファクチャラーの連覇を達成する事が出来た。

1979年のWGP500シルバーストン

金欠のスズキが何故これほどのエントリーを設けられたのかというと、これはスズキが設けたわけではないんです。

「メーカー直系ではないプライベーターの多くがスズキを選んだから」

なんです。

というのもスズキはYZR500という怪物マシンを投入してきたヤマハに対抗するため

XR14

『RG500/XR14(eXperimental Racer)』

というファクトリーマシンを製作し1974年から挑んでいました。

しかしその一方でWGPで初のチャンピオンとなった1976年に

『RG500-1』

という瓜二つながら別の名のレーサーも製作。

RG500-I

これはファクトリーマシンRG500/XR14と一部の部品を除いてほぼ全て同じといえるレーサーレプリカならぬファクトリーレプリカ。

スズキはなんとこれを300万円という破格の値段で売ったんです。

何千万円と開発費が掛かっているレーサーと寸法までほぼ同じマシンを300万円で販売なんてスズキとしてはもちろん大赤字だし、こんなものを売ったらワークスを脅かす存在にもなる。

一体全体どうしてこんな事をしたのかというと

「ワークス(自分達)だけでなく共に戦ってくれる仲間を作ろう」

という方針転換をしたから。

それまで市販車ベースの改造車がメインだったプライベーターにとって巨大メーカーが手掛けた最速マシンが破格で手に入るなんて夢のような話。

RG500-II

しかも毎年ちゃんと改良される上にスズキのメカニックサポート付きなもんだから何処のチームもこの市販レーサーRG500を買い求めた。

その結果パーツの融通やセッティングのノウハウなどを共有するチームの垣根を超えた巨大なRG500ファミリーが完成しWGPがスズキ一色に。

そしてスズキの思惑通りワークスがダメな時もプライベーターが代わりに勝利を上げてくれた事でマニュファクチャラータイトルを死守する事が出来たというわけ。

実質RG500一択だった状況の結果こういう珍事も起こりました。

RG500-II

マシンはスズキのRG500なのにツナギはイエローストロボのインターカラー・・・。

これはUSヤマハに所属しWGP250で戦っていた

『ランディ・マモラ』

という選手が途中で契約解消となった際、市販ファクトリーのRG500で参戦していたプライベーターの席が急遽空いて飛び乗ったから。

そうしたら19歳ながらケニーの前に出るわ表彰台で2位を獲得するわの大活躍で

「アイツは何者だ」

と話題になり翌年からはスズキワークスと契約。

スズキワークス ランディ

その後もWGPで活躍という正にシンデレラストーリーとなったわけなんですが、これもスズキがRG500というとんでもないファクトリーレーサーを売ってプライベーターを活気づけたから出来たこと。

もちろんスズキもライダースタイトルを諦めたわけではなく晩年の1981年と82年には再びワークスで挑み見事にリベンジ。

1976年から1982年

この要因の一つとしては再び勝つために大きく生まれ変わった新型ファクトリーマシンの投入があったから。

その名も・・・

XR35

『1981 RGΓ/XR35』

そう、皆さんご存知ガンマの始まりはここになります。

XR45

『1982 RGΓ/XR45』

スズキはこのRGΓによってリベンジ&二連覇に成功しワークス撤退となりました。

つまりスズキのマニュファクチャラータイトル連覇は本当なら2連覇で止まるハズだった。

それを7連覇まで伸ばすことが出来たのはワークスだけでなくプライベーターも一緒になって戦ったから。

1980WGP

「駒ではなく仲間を増やす」

という異例の戦略を取ったから成し得た偉業なんです。

スズキとカワサキが共同開発したバイクがある

スズキとカワサキ

国内オートバイメーカーの三位と四位、とはいうもののアジア市場での出遅れもありホンダとヤマハにだいぶ差を付けられているスズキとカワサキ。

そんな二社が手を取り合って作ったバイクがあります。イプシロンとかGSX250FXとかOEMの話じゃありませんよ。

経緯から話しましょう。

スズキとカワサキは目の上の瘤であるホンダとヤマハの物量に対抗すべく2001年に業務提携をしました。

スズキからはスカイウェイブ250(イプシロン250)、アヴェニス150(イプシロン150)、DR-Z125(KLX125)が供給。

スズキOEMバイク

それに対してカワサキからはバリオス2(GSX250FX)、D-TRACKER250(250SB)、KX65(RM65)などが供給。

カワサキOEMバイク

GSXとFXが夢のコラボと話題に・・・なりませんでしたね。

これはまあ要するに新しく作るより横流しした方が作る方も分母が増えるからコスト削減になるし、売る方もリスクを負わずに利益が簡単に出るからwin-winなわけです。最近の軽自動車なんてコレですよね。

結局ATVなども含めるとスズキからは9機種23000台、カワサキからは7機種7000台が供給されました。ちなみにエプシロンやGSX250FXや250SBは日本のみ。

外国では売ってないので、外人からするとビックリかもしれませんがみなさんはご存知かと思います。が、これらはOEMという横流しで共同開発とは呼べません。

しかし並行してこのOEM提携とは別にスズキとカワサキは更に一歩進んで共同開発に乗り出し合作バイクを2004年に出した事は意外と知られていないです。

スズキとカワサキが共同で作ったバイクはこれ。

RM-Z250|KX250F -Since 2004-

RM-Z250とKX250F

モトクロッサーRM-Z250とKX250F。日本ではニッチなカテゴリなので知らない人が多いのも無理はないです。

スズキとカワサキ初の合作で製造はカワサキ。しかもこのモデルはただ一緒に作っただけではなく、国内レースに投入し更なる共同開発&改良を推進していくモデル・・・のハズだったんですが、スズキは三年後の2006年、カワサキに至ってはもっと短い2005年でこのモデルは打ち切りとなり、同年には2007年をもって両社の提携解消が決まりました。

2004年モデル

スズキ曰く

「十分な提携効果が得られず、競争環境も厳しくなった」

という事なんですが、それにしたって提携解消を待たずに打ち切ってるあたり、RM-Z250&KX250Fの共同開発でも一波乱あったのかもしれません。

製造がカワサキな事からカワサキ版KX250Fの方が1000円安い価格設定になっていた事にケチなスズキが腹を立てたのか、それとも唯我独尊なカワサキには二人三脚は難しかったのか。

2016年モデル

まあ真意は分かりませんがクセ者とクセ者が手を取り合うというのは難しいという事ですね。結局両社は自分たちだけで作った新しいモトクロッサーを展開させていく事となりました。

スズキとカワサキ

まあでもスズキとカワサキは仲睦まじい関係というよりも良きライバル関係の方がシックリ来るからこれで良かったのかもしれませんね。

「馬力」はいつか死語になる

ケンタウロス

カタログスペックで一番注目される所と言えば馬力だと思います。

ちなみに何故トップの写真がケンタウロスなのかというと、ロッシ曰くイタリアではバイク乗りのことをケンタウロスと評する事があるんだとか。面白い例えですね。

まあそんな話はさておき、このサイトでも車種の最後に

エンジン:水冷4サイクルDOHC4気筒
排気量:748cc
最高出力:106ps/10500rpm
最大トルク:8.0kg-m/8300rpm
車両重量:224kg(装)

と簡単な諸元を書いています。

「最大出力:***PS」

というのが馬力を表す数値で、これはドイツ(ドイツ工業規格)が起源。

仏馬力

PS(Pferde Stärke)というドイツ語で馬力という文字通りの意味なんですが日本語では仏馬力とも言います。

「ドイツなのに何故にフランス・・・」

と思いますが、それはフランスで生み出されたメートル法から算出した方法だから。

そしてこのPS(仏馬力)は広く認知されています。日本はもちろんドイツやイギリスもほぼ全ての先進国がこの仏馬力。

しかし皆がPSかというとそうでもなく、例えばそのフランスでは

「Cheval(馬)Vapeur(蒸気)」

でCHまたはCVと言っています。スペルは違えど表している数値はPSと同じ馬力です。

少し話が反れますがフランスは昔から馬力で税金が違ったから、この様にCVと書かれた車が多かったです。

france

ちなみに2や4という数字は実馬力ではなく該当する馬力クラスの事。日本でいう排気量みたいなものですね。

要するに元がドイツ語だったのが色々と問題だったのか国によって言い方が違うんです。

オランダで馬力はPaarden Krachtだから”pk”

ノルウェー語が使われる北ヨーロッパではHeste Kraftだから”hk”

フィンランドではHevos Voimaだから”hv”

という感じでみんなバラバラ。

どれもみな表しているのは仏馬力だけどPS(Pferde Stärke)と言っている国は意外と少ない。

日本だって馬の力だから”馬力”と言いますよね。

「俺のバイクは200プフェアルデシュテァケ(200Pferde Stärke)もあるぜ」

なんてドイツ語で言ってる人はまだ見たことはありません。

世界地図

こういった国による単位違いを無くし、世界共通の単位を使いましょうと1954年に制定されたのが

「国際単位系(International System of Units)」

略称”SI”です。そして見て分かる通りPSという単位はありません。

SI単位

略称がISではなくSIなのはフランス語では(Système international d’unités)と書くから。

何故フランス語なのかというと、これまた元となっているメートル法がフランス発祥なのと、フランスがロビー活動を頑張ったから。

そして日本のJIS(日本工業規格)も1991年からSIに準拠するように。つまりPSが非推奨単位になった。

ではバイクや車における馬力が国際単位でどういう単位になっているのかというと

「W(ワット)」

です。

PSとkw

出力が大きいからkW(キロワット)と書かれていますね。目にした事もある人が多いかと。

プフェアルデシュテァケに直すと1kW=約1.36プフェアル・・・1.36馬力です。

そしてこの国際基準単位は当然ながらトルク(kgf-m)も例外なく適用。

kg-mとN・m

「N・m(ニュートンメートル)」

1N・m=約0.102kg-mです。

仏馬力に慣れ親しんだ身としてはややこしいですね。

だからメーカーもスペックシートには国際単位とは別に慣れ親しんだローカル単位の両方を載せている場合が多いです。

他に慣れ親しんだ単位としては

・Calorie(カロリー)→J(ジュール)

・μ(ミクロン)→μm(マイクロメートル)

等が国際的に決められたとか。

話を馬力・・・ではなくkWに戻すと、皮肉な事にこの混乱が起こっているのはモータリゼーションが早くから起こった日欧だけ。

比較的近年にモータリゼーションが起こった東南アジアなどでは最初からkWやN・mで統一されています。

SI準拠

これはインドネシア版YZF-R25のスペックシート。

つまり向こうの人は最初から馬力という単位自体を使わない・・・面白いですね。

また少し話を脱線させると、モータリゼーションが早くから起こった国として忘れてはいけないのがアメリカ。

アメリカ

・・・なんですが、ミリメートル法すら頑なに拒み、イギリス伝来のヤード・ポンド法を使い続ける事から分かるように、アメリカは英馬力とも呼ばれるHP(Horse Power)をイギリスがPS(仏馬力)に切り替えた後も使い続けています。

そして厄介なことにHPは今まで挙げてきたスペルが違うだけだったものとは違い、表している数値も違うという問題があります。

【HP:英馬力】

1秒間に550ポンド(249.48kg)の物を1フィート30.48cm持ち上げる力が1馬力(0.7457kW)

【PS:仏馬力】

1秒間に75kgの物を1m持ち上げる力を1馬力(0.7355kw)

ミリメートルとフィートの違いが原因で、我々が使う1馬力(仏馬力)というのは、アメリカ(英馬力)では0.98632馬力なんです。

だから

「新型は200馬力なんて凄い」

なんて日本で言われても、アメリカでは

「197馬力か大台突破しなかったな」

なんて事が起こっている。

ちなみにこれはメートル法準拠の世界史図。

メートル法準拠

当然ながらアメリカは今も準拠しないので今も真っ黒。ただお硬い(国際的な)業種の人たちはメートル法を使っているようです。

カナダとイギリスが縞々なのはメートルとインチがゴチャ混ぜ状態だから。よく混乱しないですね。

そしてこれが本題である国際単位系:SI準拠マップ。

SI単位

ミリメートル法すら準拠しないアメリカは当然このSIにも準拠しません。

カタログもHPとlb-ft(フィード-ポンド)のみでkWのキの字すら無い。おのれアメリカと言いたくなりますね。

「日本も仏馬力でいいよ、kg-mでいいよ。」

と思う人が多いと思いますが、これは単位の勘違い等により起こる事故や混乱を招かない為の国際協調なんです。

まだ慣れてないのはドイツもイタリアもイギリスも発案者のフランスも同じ。

それに考えてみて下さい。

日本はほんの60年ほど前まで一尺、一貫、一俵などの尺貫法を使っていました。それが今では当たり前のようにメートル法を使っているんですから。

W800カタログ

もしも今どき

「全長が6尺(1800mm)もあるのかこのバイク」

なんて言ってる人が居たら笑っちゃいますよね。

・・・でもそれと同じ事が近い将来それが起こり得るわけです。

「○○○馬力もあるのか」

と我々が何気なしに放った言葉が

「馬力?馬の力ってなんすかそれ・・・」

と若者に笑われカルチャーショックを受ける日が、何年先か何十年先になるかは分からないけど、いつか必ずやって来る。

誤解された5バルブのメリットとデメリット

5バルブ

今ではすっかり見なくなった5バルブ。

あれこれ語る前に5バルブが分からない人に簡単に説明すると、エンジン(燃焼室)の扉が

【吸気2:排気2】

ではなく

【吸気3:排気2】

になっているのを5バルブといいます。

4バルブと5バルブ

こうすることでカーテン面積(吸気面積)を多く稼げる事による混合気の充填効率の向上。さらにバルブの一本あたりの重さ軽く出来る事からの高回転化。

要するに

『4バルブよりパワーを稼げる』

というのが5バルブのメリット・・・というより大名目でした。

そしてこの大名目のせいで様々な誤解が生まれた。

バイクではヤマハの専売特許の様なメカニズムだったのでヤマハの歴史と見解を元に書いていきます。

ヤマハと5バルブの歴史をこれまたサラッとおさらいすると、WGPマシン用にマルチバルブ化が検討されたのが始まりで最初は7バルブなどの選択肢もありました。

7バルブ

それで紆余曲折あってFZ750という市販車(レース兼用)で5バルブとして花咲いたわけです。

詳しくは>>FZ750の系譜をどうぞ

そこから歴史を積み重ね、遂にはMotoGPマシンのYZR-M1/0WM1等にも採用される様になり

0WM1

「ヤマハといえば5バルブ」

という認識が広まりました。

しかし2年後の2004年YZR-M1/0WP3から4バルブに変更。そしてそれに合わせるように2007年にはYZF-R1/4C8も4バルブ化。

このフラッグシップモデルの相次ぐ5バルブ取りやめ、そして他のメーカーも5バルブを採用しない事から

「5バルブは駄目だった」

という認識というか誤解が生まれました。

断っておきますが5バルブは駄目な技術ではありません。

ちまたではフリクションロスが増えるからとか色々と言われていますが、少なくともヤマハが5バルブをヤメた理由は違う。

M1のエンジンを担当されていた北川さん曰く

2002YZR-M1

「セッティングが追いつかなかった」

というのが一番の理由だったそう。

MotoGPというのはコース毎にエンジンマップを幾つも用意して現地テストで擦り合わせていく作業が必要になる。その際に5バルブだとその作業量が4バルブの比ではなくなるんです。

これは簡単な話、4バルブなら左右対称つまり真っ二つになるよう擦り合わせればいいところを、5バルブは綺麗に2で割れず三等分する必要があるから。

バルブでお手玉

「お手玉を2つでやるか3つでやるかほど違う」

と例えられていました。

何がそんなに三等分するのが難しいのかと言えばもちろん吸気(混合気)の流れ。

タンブル

効率よく吸気して効率よく燃焼をする為には、混合気の渦の流れがとっても大事になります。

スワール渦とかタンブル渦とか聞いたことがある人も多いと思いますが、パワーを出す(充填効率を上げる)にはその渦が綺麗に出来るようにしないといけない。

そうなった時に吸気バルブが一本多い5バルブというのはその渦を綺麗に描かせる難易度が跳ね上がるんです。

その最もたる原因は真ん中の吸入。

5バルブの渦

真ん中の吸気が左右対称で返ってくる渦とぶつかって乱してしまう問題が発生する。

渦を乱してしまうと当然ながら充填効率が悪くなりパワーも落ちてしまう。

5バルブR1

この乱流ロスというのは回転数が高くなるほどそれだけロスも増える。

そうすると5バルブの大名目であった

『吸気通路面積増加による出力向上』

よりも

『乱流による出力損失』

が上回ってしまうわけです。

ヤマハがM1で5バルブをヤメたのはこのロスを解消する”時間”が足りなかったからというわけ。

TDM900の5バルブ

「5バルブ駄目じゃん」

とここまでだとダメダメな技術と思ってしまいますが実はそうでもない。

これらは下から20000rpm近くまで完璧に吹け上がるエンジンを限られた時間で作る必要があったレースでの話。

5バルブにもちゃんとメリットはあります。しかもそれはレースといった無縁のものではく一般ライダーにとって非常にありがたいもの。

5バルブは本来なら二等分するバルブ面積を三等分している。という事は二等分する4バルブより一本あたりの径が小さい。

5バルブ部品

すると何が起こるかと言うと・・・強く吸えない中低速域での吸気効率が上がるんです。

簡単な話、細いストロー効果で弱い負圧でもグングン吸ってグングン渦を造ってくれる。

それはつまり普段遣いに何より必要な低速トルクが稼げるということ。

5バルブという童心をくすぐるメカニズムであることからブンブン回して

5バルブR1

「5バルブでパワーが凄いぜ」

と言われたり思われたりする5バルブですが、実は5バルブの一番のメリットはそこじゃない。

5バルブFZ1

『5バルブなんて全く意識しない当たり前な日常の中』

にこそ5バルブのメリットはあったんです。

逆に言うと

「だから市販車でも採用されなくなった」

とも言えるわけですけどね。

4バルブなら誰もが気にする最高出力を5バルブより安く容易に上げる事が出来るわけですから。

色々とアレなスズキの海外広告

ウェイオブライフ

豆知識と言っていいのか微妙な所ですが、スズキの海外広告(特にフランス)はぶっ飛んでる物が多く、国内で出したら絶対に怒られるような物が結構あります。

そんな中でも選りすぐりをご紹介したいと思います。

※Adblock系が誤作動を起こし画像が表示されない問題が起こるようです。申し訳ありませんがこのページでは切るか別のブラウザでの閲覧をよろしくお願いします。

FOR THOSE WHO CAN’T FLY
(飛べない者たちへ)

飛べない者たちへ2
飛べない者たちへ

RMX450Zの広告です。

見ての通り飛べない鳥が飛んでます。

INVADE THEIR AIRSPACE
(奴らは空から来る)

奴らは空から来る
奴らは空から来る2
奴らは空から来る1

RMZ450の広告です。

タイヤ痕が空で一体何があったのかを物語っていますね。

Avec ou sans carénage?
(カウルの有無に関わらず)

With or Without Fairing
With or Without Fairing2

banditの広告です。

性能の凄さをシワだらけの犬で表現しています。

Vue de profil &Vue de dessus
(幅と高さ)

With or Without Fairing

VanVan125の広告です。

下駄車なので下駄と同じ寸法だと言っているのだと思います。

Nous,les.malades, on les soigne.
(我々は治す方法を知っている。)

バンディット1200

bandit1200の広告。

心臓にタコメーター。

DR-Z400

DR-Z400の広告。

頭にブロックタイヤ。

GSX-R750

GSX-R750の広告。

頭にストップウォッチ。

治療薬シリーズ

XF650

profiter de son agilité pour surprendre le quatre cylindres
(四気筒には無い俊敏さを楽しめ)

GSX-R1000の広告

GLADIUSの広告です。

Vツイン特有の軽快さで四気筒を突けと言ってるんでしょうけどアングルが・・・

GSX-R1000: “Fast”
(速い)

GSX-R1000の広告

GSX-R1000の広告。

街中でどれだけ速いかを表しています・・・こらこら。

道路脇に木が植えられる20の理由

街路樹

歩道と道路の間や対向車線との間に植物がよく植えられていると思うんですが、その理由を御存知でしょうか。街路樹ってやつですね。

え?バイク豆知識じゃない?まあ細かいことは木にしない・・・ナンチャッテ・・・はい。

みなさん景観やCO2対策だけだと思って気にも留めてないと思いますが、街路樹にはもっと様々な理由や狙いがあり全部で20個ほどあります。

そこで今回はその20の理由を環境省の資料を元に挙げてみます。

景観のメリット

1.景観の形成(この理由が一番わかり易いですね)

2.並木道などの装飾機能(大学の正門前なんかがよくやってますね)

3.ランドマーク(奇跡の一本松とか、このーきなんのき♪の日立の樹とか・・・あれはハワイか)

4.目隠し効果(喧しい建物や看板を遮って運転手の目線を道路に集中させる)

目隠し

環境保全のメリット

5.騒音低減(硬い構造物だらけで止まない反射音を街路樹が吸音してくれます)

6.大気浄化(植物といえば光合成ですね)

7.ヒートアイランド緩和(蒸散して周囲の気温上昇や乾燥を抑えてくれる全自動大自然エアコン)

緑陰

緑陰形成のメリット

8.直射日光の遮断(西日とかいやらしいですよね)

9.日陰効果で暑さを防ぐ(熱中症には気をつけましょう)

10.降雪予防(ある程度までなら樹が受け止めてくれますが頭上注意)

11.強風の緩和(折れるまで身を挺して防ぐ健気さ)

12.砂塵予防(これもそうで風向きを変えるためだったり)

13.雨を防ぐ(これまたそう)

防災

交通のメリット

14.対向車ライトなどの眩しさを遮る(高速なんかに多いですね)

15.前照灯の影響を防ぐ(屋内まで照らされちゃたまったもんじゃないですよね)

16.ガードレール効果(ただのガードレールと違って自然治癒能力持ち)

高速道路

自然環境と防災のメリット

17.土壌の侵食を防ぐ(樹が根を張り雨を自身に集めてくれるおかげ)

18.飛砂を防ぐ(これも根を張ってくれてるおかげ)

19.吹雪を防ぐ(ほんと身体張ってますよね)

20.火事の延焼を防ぐ(イチョウなどは燃えにくいんですね)

植樹

以上が道路に植物を植える理由です。知らなかった効果も多いのではないでしょうか。

ちなみに一番植えられている樹種は

街路樹樹種

火に強いイチョウ(写真左)、景観として秀でているサクラ(中)、タフさピカイチなケヤキ(右)

となってます。

自分の地方の街路樹を見てコレは何を狙って植えているのか考えてみると面白いかもしれませんね。

メーカーを影から支える功労社(日系サプライヤー)

カットモデル

当たり前ですが、ホンダもヤマハもスズキもカワサキも自社だけでバイクを作っているワケではありません。

完成され市販されるバイクはもちろん販売するメーカーのバイク。
でもその完成に至るまでの部品(500~1500点)や技術はスポットライトを浴びることがなく、メーカーの無理難題を押し付けられるサプライヤーと呼ばれる部品メーカーの努力の成果であり結晶だったりするわけです。

そんな影の功労社であるサプライヤーを有名所から馴染みのない会社まで抜粋してご紹介しようと思います。

アイシン精機

アイシン精機

サプライヤー最大手で、ブレーキからハンドルやフレームまでほぼ全てとも言える自動車部品を担っている。

バイクでもクラッチ板やミッション、シャフトドライブなど様々な部品を全メーカーに供給しているトヨタグループの企業。

アドヴィックス(旧住友電工)

アドヴィックス

そんなアイシングループの一つでブレーキ関係を担っているのがアドヴィックス社。

バイクでも車と同じくブレーキキャリパーやマスターシリンダーなどブレーキ全般を担っている。
ヤマハのMOSキャリパーやOEMブレンボ(通称ヤマンボ)もこの会社。

自動車に至っては国内シェアを50%以上も持ってます。

株式会社デンソー(DENSO)

デンソー

これまた自動車部品メーカーの大御所で規模で言えばアイシンより大きいご存知デンソー。更にこれまたトヨタグループの会社。

アイシンがトランスミッションやブレーキ等を担当するのに対し、デンソーはABSやセンサー等の電装系などを担っている。
巷で流行っているハイブリッドカーが世に出せたのはこのデンソーの助力があったから。

バイクでもイリジウムプラグやフューエルインジェクション、電装系やトラクションコントロールシステム等を担っている。

ちなみに歴代社長は全員従業員からの生え抜きという実力主義企業。さらに社内に大規模なオートバイクラブがある。

株式会社ブリヂストン(BRIDGESTONE)
住友ゴム工業株式会社(DUNLOP)
井上ゴム工業株式会社(IRC)

タイヤメーカー

無いと話にならないタイヤを作っているタイヤメーカー。
時速300kmバイクが普通に世に出せたのは、ブリヂストンやダンロップのラジアルタイヤ技術(対バースト性能)向上の賜物です。

今や当たり前なマルチコンパウンド(センターは硬くサイドが柔らかい)タイヤを最初に生み出したのは脱シェア宣言しておきながらずっと世界シェアNo1のブリヂストンです。(現在特許切れ)

かたやIRCは大手が煙たがっているバイアスタイヤ主軸で今だに新製品を出し続けている。
さらに旧車やマイナー車種に多い需要の少ないタイヤサイズもちゃんと用意してくれるありがたいメーカー。

ダンロップは一番最初に空気入りタイヤ、つまり現在のタイヤを発明した最初のメーカー。
ただそれはアイルランドの話で、ダンロップの経営はちょっと特殊。
日本を含むアジア系では住友ゴム工業株式会社が担っており、欧米ではグッドイヤーが運営している。

大同工業株式会社(DID)
株式会社江沼チヱン製作所(EKチェーン)チェーンメーカー

バイクのアキレス腱とも言えるチェーンを手がける最大手チェーンメーカーの二社。

ノーメンテでもなかなか切れないチェーンが当たり前になったのはこの二社の努力の賜物です。

DIDは明治時代から続く老舗で今では軍事系の部品にも多く使われています。
対するEKは世界で初めてシールチェーンを開発した大功労社。

サンスター技研

SUNSTAR

国内四社のスプロケットほぼ全てを担っているスプロケット&ローターのメーカー。

OEM品の耐久&精度の良さが災いしてか、同じOEM品を市販することをバイクメーカーから禁じられてます。

ちなみに歯のSUNSTARの子会社です。

日本特殊陶業株式会社(NGK)

NGK

ご存知プラグメーカーのNGK。
バイクではノーマルプラグ、イリジウムプラグ、プラグケーブル、O2センサー等、点火周りを多数担ってたりします。

新電元工業株式会社

SHINDENGEN

エンジン発電機用インバータなど様々な半導体を手がけるメーカー。

バイクではCDIなどを担っている。

三菱電機

MITSUBISHI

エアコンの霧ヶ峰でお馴染み、三菱系で唯一ロゴが赤くない三菱電機。

バイクではECUやCDI、燃料ポンプ等を作っています。

ちなみに霧ヶ峰は三菱電機で、ビーバーエアコンは三菱重工です。なんてこったい。

興和精機株式会社(KOWA)

KOWA

工具メーカーのKOWA。目立たないけど欠かなせない車載工具を生産している。

日本の工具メーカーといえばKTCやTONEばかり上げられるけど、こういう陰ながら支えてる工具メーカーも居るんです。

株式会社ショーワ(SHOWA)

SHOWA

ショックアブソーバーを製作するメーカー。
ホンダ系列の会社だが、他のメーカー(ヤマハ以外)にも部品を供給している。

近年ビッグピストンフォークやバランスフリーリアクッション等、目覚ましい成果を上げている。

もはやオーリンズを超えたと言っても過言ではないが、自社での販売は一切せずサプライヤーに徹するという堅気っぷり。

株式会社ケーヒン

ケーヒン

ホンダ系列ながら他社とも多様な取引をしている。

キャブレターのイメージが強いけど、ホンダのECU等を製作している。

株式会社エフ・シー・シー(F.C.C.)

FCC

ホンダ系列のクラッチメーカー。

オートバイ用クラッチの分野で世界シェアなんとNo.1。

日信工業(NISSIN)

チョイノリ

「NISSIN」でお馴染みのブレーキメーカー。

ホンダ系列でキャリパーやマスターシリンダー、コンビブレーキ、ABS等を作っています。

ホンダバイクのキャリパーによくNISSINって入ってるから知ってる人も多いかな。

ホンダへの出荷が7割強なだけあり二輪ブレーキ部門では世界一のシェアを持っています。

エンケイ株式会社(ENKEI)

チョイノリ

アルミホイールメーカー。
ほぼ全ての日本車のアルミホイールを担っているだけあってアルミホイールシェアは世界一の企業です。
車のほうではアフターパーツとしても市販されてるから車好きなら知ってるかな。

二輪車も例外ではなく、国産バイクのアルミホイールの大部分を担っています。

トキコテクノ株式会社(TOKICO)

トキコテクノ

ブレーキやショックアブソーバーなどを作っています。
スズキ車やカワサキ車がよく付けてますね。

実は日立系列の会社なんですよ。

株式会社キタコ(KITACO)

キタコ

小排気量バイクのアフターパーツ問屋として有名なキタコ。

メーカー向けにも小排気量バイク部品を納品してます。

株式会社萱場製作所(KYB)

KYB

重機から原付までダンパーやショックアブソーバーと言えば先ずこの会社ともいえるショックアブソーバーメーカー。

バイクではヤマハやスズキやカワサキなどに広く採用されています。

近年ヤマハとの共同出資会社を設立。打倒SHOWAを目指す・・・のかな。

最後に・・・

ひとえにホンダのバイク、ヤマハのバイクと言ってもこれだけの会社が関わっているんです。あとホンダの内製へのコダワリが見て取れますね。

ただここで紹介したサプライヤー企業は大中小で言えば超大企業な有名サプライヤーばかり。これらの会社の下には更に子会社、孫会社、ひ孫会社・・・果てはステンやアルミの企業、ネジやボルトの企業など材料メーカーなど、無数の中小・零細企業が存在しています。

全体像に目が行きがちなニューモデルも、見慣れた愛車も、ちょっと視点を変えて見てみると数々の企業の努力の結晶に見えるハズ・・・