HRC/トリコロールに起きた変化

トリコロールの変化

このページは

『HRC/トリコロールの由来と一人の日本人レーサー』

で長くなりすぎた為に省いた部分のページなので、上のページを先に読んで貰えると助かります。

由来で話した通り、トリコロールはRCB1000という耐久レーサーによって広く認知される様になりました。

では市販車に下りてきたのがいつかというとRCB1000登場から約3年後となる1979年になります。

CB900F

『CB900F/SC01型』

耐久レースの舞台であった欧州向けに開発されたRCBのレプリカモデル。トリコロールを纏うのは必然だったと言えますね。

盛岡デザイナーもHERT/RCBのイメージを強く活かしたカラーリング表現をしたと明言しています。

CB750F

ただ残念ながら日本向けのCB750Fには検討こそされたものの採用には至りませんでした。

後に親しい色は纏うんですが、これは正確に言うとRCBではなくその後継CB1100Rをイメージしたもの。

CB750F

少し混乱している人が居ると思うので説明すると

CB750FOUR(ベースマシン)

RCB(FOURのファクトリーチューン)

CB900F(RCBレプリカ)

RS1000(900Fのファクトリーチューン)

CB1100R(RS1000レプリカ)←CB750Fはこのカラーリング

CB1100Rのトリコロール

という事で実はCBX400F(1981)カラーより遅かったりします。

では日本で最初に発売されたトリコロールはなんだろうと思って調べてみたら最初はMB5と思っていました違いました。

正解はこっちでしたスイマセン。

ホークIII

1978年のホンダ ホークIII

ホンダのミドルCBですね。国内ではこれが始まり。

それで本題というかちょっと補足的な話。

トリコロールの話を長々としてきたものの、こう思ってる人も多いのではないでしょうか。

RCBトリコロール

「トリコロールっぽくない」

と。早い話がほぼ赤じゃんって事ですね。

80年代が好きな人にとってトリコといえば

80年代のトリコロール

直線が美しいこれ系でしょう。

90年代が好きな人にとってトリコといえば

90年代のトリコロール

疾走感があるこれ系。

00年代が好きな人のトリコといえば

00年代のトリコロール

鋭いウィングマークが入ったこれ系。

10年代が好きな人のトリコといえば

10年代のトリコロール

赤基調になったこれ系。

ザックリな紹介ですが、要するに初期のトリコロールに違和感を持ってしまうのは

新旧トリコロール

「白要素が全然無いから」

でしょう。

でもですね、トリコロールに準じているHRCのロゴをよく見て欲しいんですが白ってそんなに無いんですよ。

HRCの白の部分

白い部分は真ん中の区切り線と枠線だけ。

つまり白の部分は本当に縁取り程度という話。

それを頭に入れてもう一度トリコロールの初期であるRCBを見てみると・・・

RCBトリコロール

これがトリコロール、HRCカラーと言われても納得できるかと思います。

NR500はもっとわかりやすいですね。

NRトリコ

ロゴの配色と全く同じ。

ただ実はこの配色バランスはそんなに長く使われておらず1982年頃から一変しました。

これはNRに代わって登場した1982年のNS500。

NS500トリコロール

NRよりも現代的なトリコロールになっているのがわかるかと。

これ以降ホンダ/HRCのトリコロールは白の面積が大きくなりました。初めてトリコロールを纏って世界GPに登場したNRも1987年の耐久レーサー仕様はご覧の状態。

1987年製NR750

これが何故かというと実はこれもよく分かってない。

1982年頃からという事で

「HRCの設立がキッカケ」

と思いそうなんですがHRCが設立されたのは1982年の9月でNS500より後なので時期が合わない。

それにNS500は1980年からプロジェクトが始まっており、1981年のプロトタイプ/NS2A-1Xの時点でカラーリングが既に決まっていた模様。

NS500プロトタイプ/NS2A-1X

「では白が増えた要因は何なのか」

って話ですが考えられるのは

・塗装やデカールの削減(重量減)

・軽快感を出すため

などがありますが、その中でも一つ有力な俗説を紹介します。

1980年頃になると最初に紹介したCB900F/CB750Fなどからも分かる通り4気筒が当たり前の世界となりバイクの性能が大きく向上しました。

するとどういう問題が起こったか・・・分かりますよね。悲惨な事故が増えたんです。

特に市販車ベースの耐久レースが人気だった欧州(ドイツやフランスなど)は顕著で、アウトバーンをカッ飛ばして耐久レーサーの真似をする人達が急増。

アウトバーン

これは町外れからカッ飛ばして出勤するのがトレンドとなっていた面もあります。

その事からドイツを例に上げると1978年に100馬力規制を設け、1980年にはヘルメット着用を義務化を施行。

ドイツの事故推移

フランスやイギリスも同様(仏106馬力/英125馬力)の規制などを敷きました。

※現在は撤廃

これらの規制の背景には国民感情もあったと言われています。

バイクに乗らない人間からすれば暴走バイクなんて当たり前ですが非常に迷惑な存在。バイクに対する印象は悪くなる一方だった。

「あんなの(レースやその市販車)をやってるからいけないんだ」

という事態にまで及んでしまうのは非常にマズい。

VF1000Rトリコロール

しかしレースやレーサーの様なスポーツ車を求める人も居るからそれらを止めるわけにはいかない・・・そこで考えられたのが白面積の増加。

CBR1000RRがちょうどいい題材なのでオーナーさんには申し訳ないんですがちょっと利用。

同じ形でホワイトが大きく入っているカラー(写真左)と、ほとんど入っていないカラー(写真右)があります。

トリコロールの白面積

この二台どちらが『クリーンなバイク』に見えるでしょう。

恐らく多くの人が白が大きく入っている左の方がクリーンだと思うのではないでしょうか・・・これが狙い。

厳しくなっていくバイクに対する目を少しでも和らげるために白を広く取り入れる様になったというわけ。だから実はこれトリコロールだけの話ではなくどのメーカーもそうなんです。

GSX-R、RZ、GPzなどなど1980年代のスポーツバイクを思い出してみて見て下さい。この頃からスポーツバイクは必ずと言っていいほど白が目立つカラーリングになっている。

これは日本の『三ない運動』も少なからず影響していると思います。

要するにトリコロールの白が広くなったのは言ってしまえば正義感を出すため。

トリコロール史

「トリコロールは大正義カラー」

とよく言われますが、それは狙ってそうしているという話というか俗説でした。

【余談/小ネタ】

不確実な話ばかりで申し訳ないのでHRCに関する確かなネタを一つ。

マン島TTで初代ワークス監督を勤めた二代目ホンダ社長の河島さん曰く、ホンダで一番大変だったのはワークスの監督だったとの事。

河島監督

本田宗一郎の本で

「ワークス(HRC)の監督に比べたら社長は楽だよ」

という話をされていました。

どうしてワークスの監督が大変なのかというと

「負けたらオヤジ(本田宗一郎)が大激怒するから」

という話・・・でも実はこの流れ、本田宗一郎だけで終わってない。

六代目のホンダ社長でNR500/NS500を開発しHRC監督も務められた福井さんがRACER22でこんな話をされています。

福井社長

「鈴鹿のレースは重役やOBがサーキットを一望できるVIPルームに来るから大変。」

これがどういう事かというと

『ホンダの社長(出世コース)は技術畑』

という決まりは有名かと思いますが、それはつまりVIPルームへやってくる重役やOBというのはWGP/MotoGP/F1などで活躍しキッチリ結果を残してきたレース大好きな凄腕エンジニアでもあるという事。

鈴鹿サーキットのVIPルーム

だからレースを見る目も観戦というより督戦でレース中はずっと質疑応答を求められる。

もちろん第一線で活躍してきた人達だから言い訳や誤魔化しなんて通用しない。ある意味では本田宗一郎より難敵かも知れない。

当然ながらワークス(HRC)で挑んでおきながら失態を晒そうもんならそりゃもう・・・だからHRCの監督は大変という話。

HRC

技術畑出身という決まりは傍から見ると素晴らしい事ですが現役組にとっては・・・という事ですね。

まあでもだからこそ常に常勝軍団HRCであり続ける事が出来ているとも言えるわけですが。

世界のバイク免許事情

日本の二輪免許事情

日本の交通免許

皆さんご存じでしょうが、日本の二輪免許は現在

原動付(~50ccまで)

小型自動二輪MT/AT(~125ccまで)

普通自動二輪MT/AT(~400ccまで)

大型自動二輪MT/AT(排気量制限なし/~650ccまで)

となっています。

写真の様に全てを取得している免許をフルビット免許と言い、その人をフルビッターと言ったりします。
こち亀の両さんがフルビッターでしたね。

有名な話ですが、
大型二輪免許が一発試験の厳しい限定解除から教習所などで免除されるよう改定緩和されたのは貿易摩擦を生じていたアメリカとハーレーの圧力があったからなんですが、ホンダを始め日本の二輪メーカーは否定的だったんですよ。

まあ日本の免許事情はみなさんご存知でしょうからこのくらいにします。

ちなみに私の免許はずっと青いままです。

アメリカの二輪免許事情

アメリカの免許

アメリカでは免許を取り扱っている団体をDMV(Department of Motor Vehicles)と言うのですが、アメリカは州によって免許制度が違うので一概には言えない難しさがあります。

まあただ総じて言えるのは安くて早くて緩いという事。それは「運転は家族が教えるもの」というのがアメリカの考えだからです。

申し込み→講習&実技(仮免交付)→試験→交付

流れは大体日本と同じですが費用も100ドル前後で3日程で取得が可能。

肝心の区分ですが基本的にA、B、CとM1とM2の五種類しかありません。

その中でもバイクは

M2=150cc以下の二輪車

M1=150cc以上の二輪車

たったこれだけです。

免許を取れるのは16歳以上からですが、21歳未満の場合は別途講習&試験を受けなければいけません。

カリフォルニア試験場

ただ試験を行う際の車両を自分で用意する必要があるため、貸出の業者があったりします。
もちろん日本でいう車両コミコミで試験まで面倒を見る教習所のようなシステムもあり、それでも300ドル程。日本の1/5程ですね。

EUの二輪免許事情

EU免許

最近になってEUで統一される事になった免許。

二輪関係は以下の通りとなりました。

AM免許(16歳以上):~50ccまで、及び最高速が45Km/h以下の二輪

A1免許(16歳以上): ~125ccまで、ただし最高出力が11KW(15馬力)以下のもの

A2免許(18歳以上): 排気量制限なし。ただし最高出力が35kW(47.6馬力)を越えないもの

A免許(20歳以上): 無制限。A2の免許取得2年後より取得可能

となってます。日本よりややこしいですね。

ちなみに取得方法は日本と同じくスクールに通って取得する方式。ただし実技はなんといきなり路上です。習うより慣れろ精神ですね。

費用は国によって違いがあるみたいですがA免許まで取得すると大体1000ユーロ前後ほど。

ホンダライセンス別車種

特にA2免許は排気量ではなく馬力制限なのでメーカーも区分に四苦八苦しています。

向こうの人はNC700には乗れてもCB400SFには乗れないという日本では考えられない逆転現象のような事が起こってるんですね。

逆にカタログ値が比較的低いハーレーなどはスポーツスター883がA2免許で乗れるという正に水を得た魚状態で市場で猛威を振るっています。

更に言うと向こうでは1000ccを越えるような大排気量だったり100馬力を越えるような趣向の強い車種は任意保険の掛け金が跳ね上がる(年間30万円前後かかる)為にライダー達がスペック離れを起こしちゃってる。

パリの駐輪場

だからEUではSSやメガスポといったハイスペックモデルは富裕層の乗り物と位置づけれているみたいです。

向こうの人からしたらそんなバイクがゴロゴロ居る日本は異常に見えるのかもしれませんね。

ASEANの二輪免許事情

タイの免許

バイクが無ければ生活できないと言われるほど売れる台数が桁違いなASEANを代表してタイの免許を紹介します。

タイの二輪免許は一つだけ。

筆記を受けて合格したら実技をやって合格したら交付される。
(余談だけど踏切を渡る前は日本のように一時停止するとダメで徐行でいいらしい。文化の違いか。)

実技に合格すると即日交付で免許を貰えます。費用は1000バーツ、日本円にして3000円ほど。安いですね。

近年タイは急成長を遂げている影響か、小型のみだったバイク市場で大型バイクが沸々と人気が出ている。

タイのバイク

しかし即日交付の免許で大型バイクって大丈夫なんだろうか・・・ただでさえ死亡事故数(10万人当たり)も世界第三位(38人)なのに。

ちなみに一位はニウエ(人口1500人ほどで68人)、2位はドミニカ共和国で41人。

日本は5人とかなり優秀です。あとアメリカは11人、EUは平均すると4~5人ほど。

こうやって見るとやっぱり免許取得に対する敷居の高さと事故率は比例してると言えなくもないですね。

オマケ 国際運転免許証の事情

国際免許証

皆さん国際免許って聞いたことありますよね。これを持っていれば世界中の色んな国で運転できる凄い免許なんですが、実はこれ申請すれば誰でも取れるって知ってました?

それこそ一年経ってない初心者でも申請すれば貰えます。さらに言うと国際免許というのは原則一年限りの有効期限付きで 「長く海外にいるならソコでまた免許取ってね」 というスタンス。

てっきり国際運転免許といえば世界の言語や交通法を知り尽くして、厳しい試験に合格した限られたインターナショナルな人だけが持てる免許なものだと・・・

トヨタも昔バイクを売っていた ~豊田家と鈴木家~

トヨタ自動車

神様、仏様、豊田様のトヨタが昔バイクを売っていたって知ってましたか?

「あのトヨタが!?」

とか

「そんな馬鹿な!!」

って反応を期待してるんですが・・・まあまず最初に売上高日本一のトヨタがどれくらい凄いか日本が誇る四大バイクメーカーと比べてみましょう。

売上高

ダントツの1位ですね。

そりゃヤマハ発動機をアゴで使えるわけですよ。

ちなみにこれは連結なので四輪も売ってるホンダやスズキが有利です。これを二輪部門に絞ると二輪特化とも言えるヤマハとホンダの差は半分ほどまで縮まり、スズキとカワサキの順位は逆転します。

さて本題。

トヨタがバイクを売っていたのは1949年の頃から。トヨタはこのとき既に自動車販売を始めており今でいうディーラーも各地に構えていました。

しかし時代はまだ戦後で庶民は車なんて買えない時代です。そんな中でトヨタ研究所に務めていた川真田和汪という男が庶民でも手の届くバイクの事業を始めようと脱サラ。自身でバイクのメーカーを立ち上げます。

その名も

トヨモータース

『トヨモータース(トヨモーター)』

トヨタという名を拝借・・・じゃなくて名前にあやかって付けたそうです。

「トヨタは関係ないじゃん」

って思うかもしれませんが話は続きます。

T6

これがトヨモーターが最初の頃に作って売っていたバイクなんですが、これを取り扱っていた商社がトヨタグループである

『日新通商(後の豊田通商)』

となる会社だったんです。

豊田通商とはいわゆるトヨタの総合商社でトヨタグループ13の一つ。

豊通

※トヨタグループ13とはトヨタグループを代表する13の企業のことでポピュラーな所ではアイシンやデンソーなど

元トヨタ社員のコネというか伝手で豊田通商の力を借りることによりトヨモータースのバイクは全国どころか海外のトヨタディーラーでも販売され成功を収めました。

こうなるともうトヨタグループみたいなもんですね。

これが好評だったため、それを見たライバルの日産もニッサンモーターバイクを立ち上げています。

ニッサンバイクモーター

ただニッサンはダットサンとオースチンといった自動車が好調になった為に僅か一年ちょっとしか売っていません。

では何故トヨモータースは無くなったのかという話。

トヨモータースTB

トヨモータースなんてもう存在しないし、トヨタがバイク関係の事業をしているなんて聞きませんよね。

販売面でも好調だったトヨモータースでしたが転機が訪れます。それは日新通商(豊田商事)のスズキバイク取り扱い開始・・・つまりトヨモータースとスズキ(バイク)がトヨタ自動車ディーラーで併売される事になったんです。

これは一体どういうことかと思うでしょうが、これにはトヨタとスズキの生い立ちがあります。

バイク事業を始めようとしていたスズキはこの時は織機メーカーでした。それに対してトヨタも始まりは織機メーカー。

三代目トヨタ社長

更に当時のトヨタ自動車社長だった石田退三は愛知出身、対して当時スズキの二代目社長だった鈴木俊三(修会長の義父)も愛知出身・・・つまり同郷のよしみでトヨタがスズキのバイク事業進出を援助しようということで日新通商で売らせるようにしたんです。

これがトヨタディーラーでスズキのバイクを売るようになった経緯。

そこからトヨモータースとスズキの戦いが始まったのですが、トヨモータースは自社で生産する方式を嫌い基本的にアセンブリ(部品を他所から買って組み立てる)に拘った。

一方でスズキは自社による一貫生産・・・もう結果は見えていました。

スズキ第一号

第一号バイクであるパワーフリー号の時点で

『ダブルスプロケットで圧倒的な速さ』

『とっても頑丈』

『そして安い』

という今も続くコスパの前にトヨモータースは為す術も無く・・・更に一家に車一台というマイカーブームの到来したことで

「もはやバイクを売る必要なし」

とトヨタに判断され日新通商でのバイク取り扱いを終了。昭和35年を最後にトヨモータースは無くなりました。

余談

つまりトヨタのバイクはスズキが潰したようなものですが、スズキも同郷のよしみで第一歩を手助けしてくれた事には大変な恩義を感じており二代目スズキ社長の鈴木俊三は三代目スズキ社長の鈴木修(現会長)に

「なにかあったら豊田さんに頼りなさい」

と言い残したそうです。※自伝より

そして言葉通りスズキは2stに頼っていた事が裏目となり1970年のマスキー法(アメリカの厳しい排ガス規制)に端を発した国内で排ガス規制をクリアする4stエンジンの開発が間に合わず倒産の危機を迎えました。

鈴木修

そうすると鈴木修会長は義父の言葉通り豊田家を訪ね事情を話し事情を説明。一時的にダイハツ製の4stエンジンを供給してもらい九死に一生を得ました。

鈴木修会長が自伝本で

「トヨタさんには大変世話になった」

と言っているのはこういった事があったからなんですね。そのため豊田家と鈴木家は今でも良好な関係が続いていると言われています。

鈴木俊宏社長

例えば会長の息子でありスズキの四代目社長となった鈴木俊宏社長も最初からスズキへ入社したわけではなく、トヨタグループであるデンソーで10年ほどの勤務をした後にスズキへ入社した経歴があります。

レースがあったから今がある 〜レースの重要性について〜

レースの重要性

バイクに乗って競争するレースというものにバイクメーカーは多額のお金を突っ込んでいます。

オンロードでいえばMotoGPやSBK、オフロードでいえばMXGPやスーパークロスなどなど。バイクレースの最高峰と言われるMotoGPなんかでは年間うん十億円もかかるんだとか。

どうしてメーカーがそれほどまでしてレースにお金をかけるのかというと一つは宣伝のため。レースでの活躍は自社の優位性をアピールする最高の場なんですね。

MotoGPによる競争

ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキなどの日本メーカーはもちろん、イタリアのドゥカティやアグスタにイギリスのトライアンフなどなど現存する名だたるバイクメーカーは

「レースで活躍したから生き残った」

といっても過言ではありません。

一見レースとは無縁なイメージがあるBMWですら一時期はパリダカというレースでブイブイ言わせていました。

ダカールによる競争

KTMに至っては現在進行形でラリー王者に輝き続けています。

「巨大企業である日本メーカーに競り勝つなんて凄い」

ともっぱらの評判です。

ただレースに興味がない人からすると宣伝はおろか縁のない遠い世界の話ですよね。

しかし実はそういう人たちにとってもレースというのは無関係ではないんです。というのもメーカーが湯水の如くレースにお金をかけるのは宣伝の為だけはなくもう一つあるから・・・それは

WGPによる競争

「技術力の向上」

です。

レースが何を競っているのかといえば順位ですよね。そして順位がどうやって決まるのかというとラップタイムになる。

MXGPによる競争

つまりレースでは皆が

『ラップタイムを0.01秒でも縮める』

という事を目標に新しい技術を開発して挑む・・・これが技術力の向上に繋がってるわけ。

「別にレースじゃなくてもいいのでは」

と思うかもしれませんが新しい技術を試すにはレースが最も適しているんです。

SBKによる競争

レースが走る実験室と言われる理由もここにあります。

何故ならレースは『ラップタイム』という数値化が出来るから。

・ライダー

・コース

・マシン

全て同じ状況下の中で新しい技術を加えた結果どういう影響を及ぼすのかがラップタイムとしてハッキリと表れる。

MotoGPによる競争3

単純な話ラップタイムが遅くなったらそれはダメな技術。ラップタイムが速くなったらそれは優れた技術となる。

このように

「0.01秒でもタイムを縮める為に莫大なお金を使い、とてつもない開発速度でトライ&エラーを繰り返す」

という事をやるから技術力が向上するという話。

そしてもう一つ大事なのは優れた技術でラップタイムを縮め、ライバルに差をつけたとしても

「その差はすぐに埋まってしまう」

ということ。

MXGPによる競争2

何故なら優れた技術であればあるほどライバルたちにすぐ真似されるからです。

それどころか真似されたものを更に昇華させる様な改良までされ、出し抜くために編み出した技術で逆に出し抜かれたりもする。

でもそうやって競い合うからこそ技術力の向上に繋がる。

三人寄れば文殊の知恵ならぬ

『ライバル寄れば文殊の知恵』

といったところですね。

そうして改良合戦という磨き合いによりピカピカになった技術はレースにおいてデファクトスタンダード(必須装備)になる。

SBKによる競争2

レースに興味がない人も無関係じゃないと言えるのは、この

『レースで当たり前となったピカピカの技術』

はやがてレースで戦った人材と共に市販車に下りてくるから。

こういう例はたくさんあります。

例えば倒立フォークやモノサスはオフロードレースで問題となったストローク長や量を解決するために編み出されたものだし、トラクション性が優れる不等間隔燃焼が生まれたのもその方が何故か速いという事に気付いたから。

もっと単純な所でいえば色んな形があるエンジンやフレームはレースで馬力や剛性問題を解決するために生まれたのが始まりだし、今では当たり前に付いているカウルだって整流によるトップスピードの底上げを狙って編み出されたもの。

カウル

排気量あたりのパフォーマンスやタイヤの性能向上も・・・などなど挙げだしたらキリがないほど今では当たり前の様にある技術はどれもこれもレースから来ている。

つまり我々がいま優れたバイクに乗れているのは

レースがあるから今がある

「メーカーが血眼になってレースという名の技術競争をしてきたら」

といっても過言ではなく、興味の有無に関わらず全てのライダーがレースがもたらす恩恵を受けているんです。

だから最後にレースに興味がない人へ少しだけ偉そうな事を言わせてもらうと、詳しくなれとか観戦しろとまでは言いませんが

MotoGPによる競争2

「レースは技術への投資であり、決して無関係なものでも不要なものでもない」

という事だけは理解してほしいと思います。

知ってそうで知らないガソリンの色

ガソリンの色

唐突ですが貴方はガソリンが何色か答えられますか?

「透明だ!」「黄金色だ!」

と期待通りの答えを示してくれる人がどれだけいるか分かりませんが違います。

まあガソリンタンクは光が当たらない(当たらないように出来てる)ので、暗くて見えませんから知らないのが普通なんですが。

さてもう既に引っ張るのが苦しいので諦めて答えを言ってしまうとガソリン(ハイオク含む)はこんな色をしています。

レギュラーガソリンの色

パッと見はグレープフルーツジュースの様な色。

どのメーカーも濃さに多少の違い(もっと赤かったり淡かったり)はあるものの、大体こういう色をしてます。

実物を撮って

「こんな色だよ」

とやりたいのは山々なんですが、法律で禁じられているので申し訳ないですが似た色の液体写真を加工して表してます。

コレは自然に出来た色ではなく着色による人工的な色。というのも”ガソリンはオレンジ色”というのがJIS規格(K2202-2012)で定められてます。

なんでそうなってるのかといえば、ガソリンは引火&気化しやすいという非常に危険な液体だからひと目でガソリンと分かるようにするため。ガソリンはマイナス40℃でも気化&爆発するほど危険なんです。

危ない

こんなマーク付けてるの見たことあると思います。危ないの文字は伊達じゃない。

もう一つ挙げるとするなら混油防止の意味もある。軽油と間違えない様に色分けされてるんですね。ただ量と光の問題なのかどのメーカーもオレンジ色というよりは最初に載せた様な色に見えます。

じゃあその軽油はどんな色をしてるかといえば

軽油

こんな色(薄黄色)、つまり多くの人がガソリンだと思ってる色はどちらかと言えば軽油の色の方が近いわけです。

ちなみに無色透明なのは危険性の比較的低い灯油だけ。重油は着色する必要もないくらい真っ黒。

さらに言うと、ガソリンと軽油の違いは色だけでなく気化が早いかどうかで判断できるけど、灯油と軽油の区別は色で判断というか色しか判断材料がありません。

不正軽油

しかしこの色が重要で、いわゆる不正軽油(軽油に灯油や重油を混ぜて走る脱税行為)検査は専用の分析器にかけるわけですが、色で(ある程度)判別できたりもするわけです。重油を混ぜると真っ黒、灯油を混ぜると透明になる。まあ悪質な所は色をカモフラージュしてたりするんでしょうが。

最後にオマケとしてAVGASとよばれる同じピストンエンジンでも航空機用のガソリン。

それはこんな色をしてます。

100LL

綺麗な青色(100LL規格)です。

※タービンエンジンを積んだ航空機用のガソリン(JET A-1/JP-4)は無色透明

ここまで来ても「ヘー」とも「ふーん」とも思わない強者の為にとっておきの豆知識を。

エネゴリ君

エネゴリくんは実は異星人です。

モデルチェンジをする理由

モデルチェンジ

これは豆知識というよりコラムに近いんですが、面白い(自動車に関する)論文を「CiNii収録論文」で見かけバイクにも当てはまると考えたので、個人解釈も交えて噛み砕きながら話したいと思います。

※技術面を排他し、マーケティングに限って見た場合の話です

車やバイクというのは数年でモデルチェンジをします。せっかく買ったバイクが型落ちになるとガッカリですよね。

ただそう思わせるためなのがモデルチェンジをする理由の一つなんです。

【計画的陳腐化】

有名なマーケティング戦略なので聞いたことがある人も多いと思います。

人間不思議なもので、少し見た目と機能が変わっただけの新しいモデルを見ると

「新しい=優れている」

という印象を持ち、ついこの前まで現行だった型落ちモデルには

「古い=劣っている」

という印象を強く持ってしまう。

その結果、買い替えへの購買意欲が掻き立てられセールスに繋がるというわけ。

ゼネラル・モーターズ

自動車業界でのモデルチェンジがそれに該当するのですが、この手法を確立したのはアメリカの自動車メーカーBIG3の1つであるゼネラル・モーターズです。

ただしこの計画的陳腐化は既存の旧型オーナーだけに向けたものではありません。

物というのは年月が経つと価値が下がっていきます。10年前からある物を10年前の価格のまま買う人なんていないでしょう。

だから価値を再び押し上げる為に(価格を下げないでいいように)モデルチェンジするんです。

モデルサイクル

しかしこれは長い目で見た場合の話。

この計画的陳腐化の一番の目的、最も効果的に働くのはライバル社の消費者です。

モデルチェンジというのは言い方を変えれば抜け駆けの様な行為。

「うちの商品のほうが新しいですよ、価値がありますよ」

と言ってるわけですから。

自動車やバイク業界においてモデルチェンジの最も大きなウェイトを占める部分はデザイン・・・ただし簡単には行きません。

何故なら開発費や広告費、生産設備の再編などで莫大なお金が掛かるから。

コンセプトデザイン

莫大なお金をかけたにも関わらず変わり映えしないと判断されると陳腐化(抜け駆け)にならず費用対効果が得られない。

かといって変わり映えし過ぎて受け入れられないと大赤字で存続すら危うくなる。

モデルチェンジというのは正にDEAD OR ALIVEなんです。

そんなリスキーさ故にこんな現象が生まれる様になりました。

【強制流行現象】

計画的陳腐化というのは”最新”正しくは”最新感”が大事。

しかしここで問題となるのが消費者が好む”最新感”が必ずしもデザイナーが思い描く画の通りでは無いということ。センスは十人十色なんだから当たり前な話ですが。

でも売るためにはより多くの人が

「これは最新だ。」

と感じるデザイン、先代を陳腐で時代遅れだと感じさせるデザインにする必要がある。

最近それを止めたマツダの人が上手いこと言っていたんですが

「変えるためにデザインを変える」

という難しく嫌らしい事をしないといけないわけです。

そうした時にメーカーは限りなくALIVE率を高め、DEADを回避するために、新しいと好評な既存デザインに”追随”という手段を取ります。

こうすればユーザーが求める新しさを外してしまう事もない。起死回生の一打にはならないけど致命傷の一撃にもならない。

車

こうして同系のデザインが各社からまるで口裏を合わせているかのように出る事で、消費者に対しデザインが”流行している”という印象を与える事が出来る。

そうすると消費者は

「流行っているから良い物だ」

と思う。

これが強制流行現象ですが、恐ろしいのはその先。

流行というのは日々変わり長続きしない・・・つまり次の計画的陳腐化が容易になるんです。

他社と競争するためのモデルチェンジなのに、時と場合によっては協調するなんて面白い話ですが、それだけモデルチェンジというのはメーカーにとって大きな負担なんです。

「じゃあ止めればいい、年次改良をコツコツ続ければいい」

と思うかもしれませんが、それは無理です。

モデルチェンジによる計画的陳腐化を確立したのはゼネラル・モーターズと言いましたが、当時アメリカの大手自動車メーカーといえばフォードとクライスラーでGMはいつ潰れてもおかしくない会社でした。

フォード

「一生乗れる車を作る」

これは20世紀初頭まで米国において半分近いシェアを持っていたフォードの考え。

フォードは少ない車種にリソースを割き、長期的に生産することで安く確実な車を作ることを心がけていました。

しかしそんな考えを持っていたフォードですらモデルチェンジ商法をするGMの破竹の勢いの前には無力で、最終的には同じ手に打って出るしかなかった。

リスクが大きすぎると否定的だったクライスラーも同様です。

クライスラー

「GMやフォードが毎年新型を出しているのにウチだけ毎年同じものを売っていたらすぐに破産してしまう。」

と当時のクライスラー役員に言わせるほどモデルチェンジによる計画的陳腐化という手法は効果的だったんです。GMがフォード・クライスラーと並んでBIG3と言われる様になったのもこのおかげ。

モデルチェンジというのは抜け駆けなんです。

抜け駆けを許すと負けてしまう。じゃあどうするかと言えば抜け駆け仕返すしか手段はない。

モデルチェンジされたからモデルチェンジして、モデルチェンジしたからモデルチェンジされる。

止めるに止められない囚人のジレンマ。

ここで初めてバイクを例に挙げますが、スズキにハヤブサというバイクがあります。

このバイクはモデルライフが非常に長く1999年から2017年時点でフルモデルチェンジと呼べる変更は2008年の一回のみ。

ハヤブサの歴史

ただし何もしていないかというとそんな事はなく、年次改良や小変更を重ねています。ただ今では爆発的に売れた最初の頃が嘘のような販売台数。

それは何故かといえば

「新しくないから」

です。

モデルチェンジが行われる理由は企業が利益を得るため。

でも企業をそうさせているのは

“目新しい物に飛び付き、型落ちになってガッカリする我々消費者”

が望んでいるからです。

メーカーの二つ名はマーケティング戦略の片鱗

メーカーのイメージ

メーカーの二つ名を見たり言ったりした人は多いかと思います。

優等生なホンダ、ハンドリングのヤマハ、漢カワサキ、安っぽい・・・じゃなくて安いスズキなどですが、実はこれマーケティング戦略が大きく関わっている。

フィリップ・コトラーという現代マーケティングの父と呼ばれる方がいます。

この方が1980年頃に提唱した

「競争地位戦略」

という理論に見事に合致するんです。

競争地位戦略というのは簡単に言うと

「業界企業は四種のポジションに分類することが可能」

という話。

【リーダー】

圧倒的な力を有しているトップシェア企業の事。

【チャレンジャー】

リーダーの座を狙う業界二番手の企業の事。

【ニッチャー】

シェアは低いものの独自の地位を築いている企業の事。

【フォロワー】

市場動向に追従する低価格路線の企業の事。

の四種類。

競争地位戦略

こう聞いただけでも恐らく多くの人が

リーダー=ホンダ

チャレンジャー=ヤマハ

ニッチャー=カワサキ

フォロワー=スズキ

と思われたのではないでしょうか。

ただ当て嵌まるのはポジションだけではなく、競争地位で提言されている

「そのポジションにいる企業が生き残る為にとるべき戦略定石」

です。

【リーダーが取るべき戦略定石】

リーダー

リーダーが取るべき戦略は市場の拡大とシェアをフルラインナップで維持する事と言われています。

これは市場が拡大する事で最も恩恵を受けるのがリーダーだから。

例えば新製品を出した時に、目新しさがあるうちに買う人のことを

「前期大衆」

と言います。

このタイプはブランドや周囲の評判をあまり気にせず購入する。

反対に目新しさが無くなってきた頃に購入する人のことを

「後期大衆」

と言います。

このタイプは自分だけで判断せず、周囲の評判やブランドなど多角的に判断し購入する。

ここで重要となるのが市場拡大によって生まれた顧客というのは「後期大衆タイプ」が多いということ。

そして後期大衆にとってトップシェアメーカーというのは非常にプラスな判断材料。

つまり底上げされた新規顧客だけに絞って見るとリーダーは既に持っているシェア以上の顧客を獲得出来る。

だから市場拡大が戦略であり、後期大衆を逃さない為の圧倒的なラインナップというわけ。

ホンダがリーダーでありリーダー戦略を取っているのはラインナップを見ても疑いようが無いと思います。

ホンダのラインナップ

そしてホンダが優等生と言われるのは正に

「トップシェア=安牌」

という消費者心理と、底上げを狙った業界貢献のマーケティングが与える印象の現れかと。

ちなみにリーダーが豊富なフルラインナップを有する理由はもう一つあります・・・それは他社に対する参入障壁、牽制です。

包囲網

多くのジャンルで多くのタイプを出すことにより死角をなくし、他のメーカーに付け入る隙を与えないようにしている。

しかしそれでも完全に隙を無くすのはバイク史を見ても分かる通り不可能。

どれにも当てはまらないバイクがホンダ以外のメーカーから出てはヒットしていますよね。

新しい方向性

そうなってしまった場合は同質化戦略を取るのがベターだと言われています。

同質化戦略とは、圧倒的な資源・技術・販売力を屈指した同クラスの物をぶつけて目新しさを無くし持久戦に持ち込む事です。

同質化戦略

最初に話した通り、どれも変わらないなら安牌、優等生であるホンダを選ぶ人が一番多いですからね。

分かりやすいのがスポーツドリンクのポカリに対するアクエリとか。

アクポカ

どうして下を叩き潰すような事をしないといけないのかというと、シェアやブランド力を失ってしまうと豊富な資産がドンデン返しのように負債へと変わってしまうから。

ホンダ

とにかく市場拡大とシェア&ブランドの維持に努める事、間違えのない安心感を持った優等生のホンダと言われ続ける事がホンダに当て嵌まる戦略定石。

【チャレンジャーが取るべき戦略】

チャレンジャー

チャレンジャーが取るべき戦略は差別化によるシェア拡大で、真っ向勝負によるリーダーの奪取と言われています。

チャレンジャーはシェアが拡大するほどリーダーほど得られていないスケールメリットを得る事で利益が上振れする事が分かっているから。

そしてリーダーになるにはリーダーからシェアをもぎ取るのが最も効果的。もしもリーダーから奪うことが出来れば自分が+1になるだけでなくリーダーを-1に出来るので差が実質+2になるからです。

シェアの奪い合い

ではリーダーから取るにはどうしたらいいかというと

「リーダーとは違う」

ということを鮮明に打ち出して差別化すること。

じゃあバイクメーカーのチャレンジャーポジションにいるヤマハはどうでしょう。

4XVカタログ写真

「”ハンドリングのヤマハ”or”デザインのヤマハ”」

というイメージを皆が持っていますね。

これこそがチャレンジャー(ヤマハ)に大事な

「リーダー(ホンダ)とは違う」

という差別化の現れ。

人機官能

そしてもう一つ大事なのは

「リーダーの弱点を突く」

という事。

ヤマハはSTARシリーズやBOLTなどのクルーザー、XSRなどのヘリテイジなど”味や風情を求められる製品”が得意な傾向にありますよね。

ヤマハのラインナップ

SR400なんか正にその典型なわけですが、これはリーダーであるホンダが”簡単には同質化出来ない”苦手分野だからというのが大きい。

参考事例としてよく挙げられるのが一眼カメラのキャノンとミノルタ。

α-7000

チャレンジャーだったミノルタがオートフォーカス技術を採用したカメラα-7000を真っ先に出して人気を博したのに対し、リーダーだったキャノンはなかなか採用しませんでした。

それはオートフォーカス技術を採用する場合、それまでのレンズの互換性を切り捨てないといけなかったから。つまり既に多くのレンズを抱えていた顧客やラインナップという圧倒的な資産を切り捨てる事になる同質化が簡単には出来なかった。

ミノルタはそんなリーダーの強みを弱みに変える大どんでん返し戦略でリーダーのシェアを大きく奪い飛躍したわけ。

トリシティ

ヤマハで言えばトリシティなどの三輪車がそれに該当するかと思います。

ただこれは反対に言うとチャレンジャーはリーダーと変わらない事をしていてはリーダーに全てを持っていかれてしまう事でもある。

ヤマハ

だからハンドリングが違うハンドリングのヤマハ、デザインが違うデザインのヤマハ、と言われ続ける事がチャレンジャーであるヤマハに当て嵌まる戦略定石。

【ニッチャーが取るべき戦略】

ニッチャー

ニッチャーが取るべき戦略はリーダーやチャレンジャーには追随せず、他所が手を出さないものを出し、特定の部分に特化させる事と言われています。

これは限られているリソースをリーダーやチャレンジャーが注力していない部分に集中的に割くことで、その分野のミニリーダーとなり独自の地位を築けるから。

古くはGPZからZEPHYR、最近ではNinja250と新ジャンルでヒットしてきた製品を見ればカワサキは紛れもないニッチャーである事が分かります。

もう一つ分かりやすいのがスポーツバイク偏重でスクーターを作らない事。

カワサキのラインナップ

せいぜいOEMで売るくらいでメインはスポーツというかNinjaとZ。

その集中特化の結果

「スクーターを作らない=硬派=漢カワサキ」

という独自地位を確立し特定層からの支持を獲得した。最近出しているスーパーチャージャーなどもその地位を強固なものにする狙いがあるかと。

ちなみにニッチャーは同質化戦略をされる事があっても、する事は出来ません。

ニッチャーが同質化戦略をしてしまうと、せっかく築いてきた独自色の地位が揺らいでしまうから。

カワサキ

常に他所に無い、有りそうでなかったものを作り、決して追従しない硬派な漢カワサキと言われ続ける事がカワサキに当て嵌まる戦略定石。

【フォロワーが取るべき戦略】

フォロワー

フォロワーが取るべき戦略はリーダーやチャレンジャーに低価格路線で追随し、ラインナップの選択と集中を行いつつニッチャーな面も出す事と言われています。

これは一番弱い立場なので基本的にはリーダーやチャレンジャーの売れ筋への追随で開発コストのリスクを避け、価格優位性で対抗するのがベターだから。

ただそれは価格優位性を取り続けるわけではなく、現状を打破するニッチャー製品を出すための力の温存。

スズキのラインナップ

スズキがハヤブサの様な独自色の塊の様なバイクを造って一部の人に

「鈴菌or変態」

と言われたりするニッチャー的な独自地位を築きつつある一方で

「安っぽい(実際安い)スズキ」

と言われるのは競合車が居るクラスでは基本的に価格優位性を取っているモデルが多いフォロワー戦略を採用しているから。

数年前に行われた

”売れ筋だけを残す事で採算性を確保する”

というラインナップの整理も、フォロワーの戦略定石そのまま。

スズキ

独自地位も体力も不十分なうちは追随で凌ぎつつ、ポジションを上げる一手となるものを打ち出し、鈴菌や変態と言う人を一人でも多く増やす事がスズキに当て嵌まる戦略定石。

以上が豆知識というか独自分析のような話です。

競争地位を掻い摘んだだけでマーケティングはこんな単純な話ではないでしょうが、少なくともマーケティングを意識していない皆が漠然と抱いているメーカーに対するイメージというのは、結構大事なマーケティングの片鱗であると言えるかと。

最後に

メーカーのイメージ

これはメーカーも百も承知な事だと思います。

それはホンダもヤマハもスズキもカワサキも、マーケティングのマの字も無く200社以上のバイクメーカーが存在し一寸先は闇だった1950年代を生き抜いた歴史が証明しています。

生き抜いてこられたのは、自分のポジション、そしてライバルのポジションを見誤らなかったから。

「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」

というやつですね。

1億台の中に潜むレアカブ

レアカブ

累計生産台数1億台以上で今現在も更新中のスーパーカブ。1958年に出たC100を皮切りに世界中で販売されている最も有名でポピュラーな乗り物ですが

「じゃあ逆にレアなカブは何か」

という話。

まずポピュラーな限定車を上げるとコレらがあります。

「生誕30周年特別仕様スーパーカブ50」

30thカブ

生誕30周年を記念して1988年に発売されたスーパーカブ50の特別仕様車。

・パープルブルー
・ゴールドエンブレム&スペシャルキー
・リアキャリアにマット装備

などが特徴で生産台数は5000台(販売計画)。

「生誕50周年特別仕様スーパーカブ50」

50thカブ

こちらは更に20年後となる2008年に発売された生誕50年特別仕様。

・グラファイトブラック
・ロイヤルブラウンシート
・50thゴールドエンブレム

などが特徴で生産台数は3000台(販売計画)。ちなみにリトルカブバージョン(青ボティに赤シート)もありました。

「生誕60周年特別仕様スーパーカブ50/110」

60thカブ

更に10年後となる2018年に発売された生誕60年特別仕様。

・マグナレッド
・ブラックシート&キャリア
・60thエンブレム

などアメリカで最初に販売されたCA100を意識したカラーリングが特徴。生産台数は2300台(販売計画)。

ここでちょっと補足すると

「ホンダの特別仕様なんて毎年恒例みたいなもんじゃん」

と思っている方も多いかと・・・でも実は意外なことにスーパーカブはコラボモデルを除くと実質的に特別仕様はこれらと2019年に発売された特別カラーのストリートだけ。1964年から30年以上続いたC70やCM90/C90に至っては特別仕様は一つもなかったりします。

まあそれでも激レアかといえばそうとも言い切れない部分があるのも事実。じゃあカブマニアの間で有名なレアカブといえば何かというとこれ。

「1958年製 スーパーカブ C100」

初期型C100

いわゆる初期ロッドの初代スーパーカブ。

スーパーカブはご存知のように大ヒットを飛ばしたんですが生産が追いつかず工場を拡大。しかしそれに生産技術やサプライヤーが付いてこれず生産年や製造ロットで細部がコロコロ変わったりしているチャンポン仕様なんですね。

C100のロッド違い

だからこそ本当に本当の初期型はマニア垂涎モノ。

・80kmスピードメーター
・荷台左側にメッキグラブバー
・ビス止めタンクエンブレム

などになっているのが初期型C100の特徴で生産台数は24,195台だけ。

※スーパーカブ|三樹書房より

お次は更にマニアックなモデル。

「1964~65年製 C65/CM91」

初期型C65

1964年の末から発売されたモデルなんですが、何故これがレアなのかといえば1年ほどしか発売されなかったうえに異質なモデルだから。

簡単に説明するとスーパーカブというのは誕生から8年で一度だけ大きく生まれ変わっており

・大柄な第一世代(OHV世代)
・小柄な第二世代(OHC世代)

という大きな区切りになっています。

スーパーカブの世代

一般的にスーパーカブとして広く周知されているのは第2世代(OHC世代)で、第一世代はビンテージカブという感じ。最近C125として復刻されましたね。

それでC65やCM91が何故レアなのかというと、この二車種はその世代交代ゆえに狭間に生まれたモデルだから。

スーパーカブは爆発的な人気だったので生産ラインを止める事が出来ないうえに、絶対に失敗出来ないモデルでもあった。

そこでホンダは

「まず新しいエンジンを積んだモデルを出そう」

という考えを思いつき実行。

そうして生まれたのが第一世代ボディに第二世代エンジンが積まれた1964年からのC65と、1965年からのCM91というわけ。

初期型C65のカタログ

エンジンを新調したこのモデルが問題ないことが確認されると同時にボディの新調に取り掛かったので、このC65/CM91は僅か1年足らずの販売期間。C65はすぐにボディも第二世代となり、CM91に至っては広告すらほぼ打たれずすぐにフェードアウト。

先行開発されたプロトタイプモデルみたいな存在だから凄くレアという話。生産台数は区分けが曖昧なモデルなため不明。

次に紹介するのは分かっている範囲で生産台数が最も少ないだろうレアカブ。

「CR110スーパーカブレーシング」

CR110

世界レースに50ccクラスが追加された事と国内でクラブマンレース(アマチュアによる市販車レース)人気がに向けて1962年に発売されたスーパーカブ。

現代でいうスーパースポーツ50で当時の原付として最高となる7馬力を叩き出すDOHCエンジンを搭載したもはやカブなのは名前だけなカブ。

CR110レース仕様

こちらはレース仕様(後期モデル)で8速ミッション仕様。

大卒の初任給が17,000円の時代に170,000円(C100は53,000円)と高価だった事、さらにホンダ系ショップにレースを勝たせるために造られた事などから販売台数は僅か246台。

ちなみに1996年に発売されたドリーム50の元ネタでもあります。

しかし更にこの上をいくレアカブが存在します。恐らくカブシリーズで最も希少、まず絶対にお目にかかることは無いであろうレアカブ。

「C105T シルバーメッキ仕様」

C105Tメッキ仕様

ハンターカブのルーツであるCA100T(アメリカ向けトレールカブ)の発展型として1962年に発売されたC105T(和名C105H)の銀メッキ仕様。

見るからにレアそうな雰囲気プンプンですが何故このモデルがレアなのか説明すると、このモデルは1962年に優秀な販売成績をあげたアメリカのホンダ販売店に贈呈された非売品だから。

ホンダですら持っていないというか何台造られて何台残っているのかも不明。現在確認できるのは浜松にある本田宗一郎ものづくり伝承館に展示されている車両(上の写真)だけなんですが、それも再現版でオリジナルではないというレアっぷりだったりします。

非常に多いヤマハ車に対する誤記や誤読

マンホール

非常に誤記や誤読される事が多いヤマハのバイク。

ヤマハが捻った名前を付けるのもあるのでしょうが、酷い時にはヤマハ関係者まで間違えてたり。

オーナーに対し失礼にあたるので今回はそんなの言い間違い、読み間違いを正すためにもよく間違われる車種を少し紹介したいと思います。

誤記レベル1(稀に見る)

YZF・・・・R-1 R-6 R-25など

ヤマハのフラグシップYZFシリーズにおけるハイフンの位置を間違えてるパターン。

正しくはYZF-R○です。

ちなみにMotoGPの車両だけはYZFではなくYZR-M1なので注意しましょう。MはMissionのMです。

誤記レベル2(ちょくちょく見る)

V-MAX

ブイマ

正しく言うとVMAXです。ハイフンは要りません。

ただこれはV-MAXと書いても致し方ない部分が有ります。それはヤマハ自身も最初はV-MAXと書いていたから。

Vマックス1200

思いっきりハイフンが入ってますね。恐らくこれの名残りなんでしょう。カワサキのZZ-Rなんかもそうでした。

しかし今はVMAXです。細かいことを言うと旧ブイマックスはVmaxまたはVMX1200で、現行はVMAXと全て大文字表記となっています。

誤記レベル3(非常に見る)

T-MAX

TMAX530

VMAXと同じでハイフンは要りません。

TMAXが正しい表記で細かいことを言うと現行はTMAX530と言います。海外ではXP530 Tmaxとか言われてたりもします・・・が何故か海外でもT-MAXと言われてたり。

これは恐らくVMAXからのMAX繋がりでしょうね。いやしかしVMAXの誤記がTMAXにも派生なんてTMAXからしたらいい迷惑ですね。

っていうかネット中古車サイトすらT-MAXになってるし。

Nマックス

ちなみにブルーコアエンジンを積まれた新世代スクーターであるNMAX(日本未発売)もハイフンは付きませんのでご注意を。

あと欧州ではミドルクラスのスポーツスクーターとしてXMAXというスポーツコミューターを売っているんですが・・・

XMAXシリーズ

うん!?

Xシリーズにはハイフンが付いてますね!?

車体のロゴにはハイフンなんて付いてませんし国内向け資料ではXMAXと書かれてるのに。

スポーツコミューター

いやでもプレスリリースでもX-MAXと書かれてたりXMAXと書かれてたり・・・。

欧州ヤマハが間違ってるのか?どっちでもいいのか?

まあXMAXの真意は分からないにで置いとくとして、TMAXは”間違いなく”ハイフンが入りませんので気をつけましょう。

誤記レベル4(これしか見ない)

フェザー(FAZER)

これは恐らく殆どの人がそう思ってるであろう誤読。

正確に言うとフェーザー、またはフェイザーです。

関係者の方ですら間違えてたりしますがヤマハ自身はフェーザーで統一しているようです。

小型ヘリコプターFAZER

ちなみに産業用小型ヘリコプターにもFAZERという製品があります。

更に言うならば

小型ヘリコプターFAZER

FAZERは元々はボートに使われていた名前でした。

話が反れました。

何でフェザーと誤読されるのかといえば1985年に登場した16000rpmまで回る直四250の火付け役であるFZ250PHAZERがフェザーだったから・・・とか思ってませんか?

それも違いますよ。

FZ250PHAZER

これも読み方はフェーザー・・・つまりFAZERもPHAZERも読み方はフェーザー。

フェザーなんてヤマハのバイクは存在してないんです。発音の違いと言われるとそれまでかも知れませんが。

日本語で書く時はフェーザーと書くようにしましょう。

空冷エンジンが規制に対応できない理由 ~水冷と空冷の違い~

空冷エンジン

騒音規制や排ガス規制の強化によってもはや絶滅危惧種となった空冷エンジンのモデル。

「空冷は水冷と違って規制を通すのが難しいんだよ」

って聞いたこともあると思いますが、じゃあなんで空冷は難しいのかという話と長々と。

まず空冷と水冷の違いについて簡単に説明。

空冷エンジンというのは走行風でエンジンを冷やす昔ながらの方式。エンジンが風を浴びることで冷やしているわけですね。

空冷の仕組み

至ってシンプル。

一方で水冷エンジンは水(冷却水)をエンジンの周囲に巡らせる事でエンジンを冷やし、熱くなった冷却水をラジエーターに通し走行風で冷やす方式。

水冷の仕組み

そう結局のところ水冷も最終的には風で冷やす。

「だったら最初から余計な物がいらない空冷でいいじゃん」

と言って空冷水冷問題を巻き起こした宗一郎の意見もごもっともな気がしますよね。でもそうじゃないから空冷が数を減らし水冷が当たり前になった。

どうして水冷が主流になったのかというと

「水のほうが冷えるから」

でも間違いではないんですがエンジン的に言うと

「温度管理能力が優れているから」

です。

ラジエーター

水というのは空気よりも熱伝導率が24倍も高く、また比熱といって1度上げるために必要な熱量も4倍と非常に温まりにくい。

つまり誤解を恐れずに例えるなら水冷というのは空冷には不可能なほど超巨大なヒートシンクを付けている様なものなんです。

ただしそれだけじゃない。もう一つ重要なのが水冷は熱くなった水を冷やすためのラジエータや水を送るウォーターポンプなどと一緒にこれが付いている事。

サーモスタット

『サーモスタット』

これは温度によって開閉する調整弁・・・これの存在が大きいんです。

水冷エンジンの仕組み

何故ならこれがある事でただ単に熱くなるのを防ぐだけではなく、冷やしすぎるのも防ぎ温度を一定に保てるから。

高温時と低温時

水冷エンジンのバイクに乗っている人ならどんな状態でも水温は80~105度前後で安定するのを知っているかと。

それはこのサーモスタットのおかげで、この2つによって水冷は

「エンジン温を一定にする事が出来る」

というわけ。

水冷と空冷の温度領域

しかし熱を肩代わりしてくれる存在を持たない空冷はエンジンの温度が目まぐるしく変化する。

例えるなら水冷は自分で汗をかいて温度を調節できる恒温動物で、空冷は環境温度に依存する変温動物のようなもの。

うさぎとかめ

どうしてエンジンの温度を一定に保つ事がそれほど大事なのかというと、これが排ガス規制に直結してくる。

空冷問題その1
『燃焼が安定しない』

不安定な燃焼

エンジンの温度が目まぐるしく変化すると当然ながら燃焼時の温度も変わってくるので綺麗な燃焼が出来なくなる。

もしも温度が低かった場合ガソリンが上手く気化されずそのまま排出されるので排ガス規制の対象であるHC(炭化水素)を大量に排出してしまう。

じゃあ温度が高かった場合どうなるのかというと、今度は同じく排ガス規制の対象であるNOx(窒素酸化物)を大量に排出してしまうんです。

空冷問題その2
『オイルを燃やしてしまう』

オイル燃焼

潤滑のために入っているエンジンオイルをガソリンと一緒に燃やしてしまう原因は主に

・バルブなどヘッドから垂れてくるオイル下がり
・クランクから吸い上げてしまうオイル上がり
・ブローバイガス(未燃焼ガス)と一緒に吸気へ循環

があるんですが、その中で大半を占めるのがオイル上がり。そして空冷エンジンはこの量が非常に多い。

何故なら何度も言いますが空冷は水冷よりも温度の幅が大きいから・・・それすなわち熱膨張の範囲も大きくなるのでクリアランスを詰めることが出来ないから。

具体的に言うとオイルを食ってしまう主な原因はシリンダー壁面の温度上昇。

オイル上がり

これによりピストン(ピストンリング)とのクリアランスが歪んでしまうので、吸気時に吸気バルブからだけではなくクランク下で煮詰められて蒸発気味なシャバシャバのオイルも吸い上げて一緒に燃やしてしまうというわけ。(厳密に言うとピストンが首を振って隙間を作ってしまう)

ちなみに具体的なシリンダー温度を言うと水冷が140度前後で収まるのに対し、空冷は170度前後まで熱くなる。

オイルを大量に燃やしてしまう時点でアウトな話なんですが、問題はそれだけではなく排ガス浄化装置である触媒に悪影響を与えてしまうこと。

エンジンオイルの中には硫黄やリンという成分が入っているんですが、これが触媒の活動を失活または低下させる劣化被毒というものを招きNOxなどを浄化できなくなってしまうんです。だから硫黄やリンにも厳しい規制があったりします。

空冷四気筒

不安定な燃焼で有害物質は出すわ、オイル燃やして触媒痛めるわ、ついでに熱劣化で強度面でも厳しいわ・・・温度を一定に保てないだけでこれだけの問題が起こる。

最新設計空冷のエンジンヘッド回りが強制油冷だったり水冷とのハイブリッドだったりするのも、一番の熱源であるヘッド周りや風が当たりにくい部分の熱ムラを冷やす事で何とかエンジンの温度をコントロールしようとした結果。

強制油冷ヘッド

ちなみにこれはノッキングを抑える狙いもあるんですが、性能の話まで始めるともっと膨大で難しい話になるので割愛。

ただし規制はもう一つありますよね・・・そう、騒音規制。空冷エンジンで問題となるのは実は排ガス規制よりこっちだったりします。

空冷問題その3
『音を増幅してしまう』

空冷エンジンといえば走行風を効率良く浴びるために備え付けられている美しい冷却フィンがトレードマークというかアイデンティティですが実はこれが騒音を生んだり増幅したりしてしまう。

空冷のノイズ

・燃焼によって生じる燃焼音
・シリンダーヘッドからの放射音
・フィン自体が振動して起こす共鳴音

冷却フィンを付けるだけでこれらを増幅発生してしまうんです。空冷はエンジン音がよく聞こえる、人によってはうるさいと感じる理由はこれ。

防音材や防音壁でエンジンを囲えれば良いんだけど、それをやってしまうと走行風を遮る事と同義なのでただでさえ苦手な排熱が更に酷くなる。

空冷フィン用アブソーバー

だからせいぜいこうやって冷却フィンの間にアブソーバーを挟み込んで共鳴を抑えるくらいしか出来ない。

じゃあ一方で水冷はどうなのかというとフィンが無い事から共鳴しないのはもちろん

『エンジンを防音壁で囲うという空冷には絶対に出来ない事』

をやってのけてる。だから水冷が主流となったと言っても過言じゃない。

皆さん水冷エンジンは周囲を防音壁で囲ってるって知ってましたか・・・グラスウールとかじゃないですよ。

水という防音壁

水という名の防音壁です。

冷却のために張り巡らされているウォータージャケットは、同時に防音効果があるウォーターパネルにもなってる。だから圧倒的に静かなんです。

もうハッキリ言って空冷に勝ち目ないですよね。

もちろん空冷にも

・メンテナンスがしやすい
・水が要らないので軽い
・暖気が得意

などのメリットはあります。

水冷は常に水が張り巡らされているのでエンジンの温まりが悪く、吹いたガソリンをクランクに漏らしてオイルを希釈しがちというデメリットがあったりします。

空冷Vツイン

短距離走行が良くない理由の一つはこれなんですが、ただまあ空冷の方がオイルを熱してしまうので結局オイルに厳しいのは空冷だし規制と関係ない話。

最後にオマケというか結論というか一番の理由。

空冷問題その4
『出せないのではなく出さない』

暖気が得意

メーカーの人のこぼれ話みたいなものですが、現在の厳しい規制に適応した空冷エンジンも造ろうと思えば造れる。世界を牛耳るほどの技術力を持ってるんだから当たり前。

じゃあどうして造らないのか、せいぜい既存エンジンの延命だけで減る一方なのかというと

「商品にならないから」

です。

空冷エンジンは一昔前までは水回りが不要な事から低コストで比較的容易に造れるエンジンと言われていたんですが、規制が厳しくなったことで立場が大きく変わってしまった。

空冷エンジンの温度分布

話してきたように規制に対応するためには温度を安定させるしかない。そのためには空気という目には見えない不確実な要素を読みながら精密かつ細かい設計や制御をする必要がある。

結果として

『水冷よりも膨大な工数(負担)』

が避けられない冷却方式になってしまったんです。まして今はサイドカムチェーンを始めとした水冷前提のエンジンが基本だから部品の共有化も難しい。

そしてこれらは全てコストひいては車体価格に転嫁するしかない。

しかも仮にコスト面をクリアした上で規制に適応した圧倒的にクリーンな空冷エンジンを造れたとしても間違いなく酷評されると断言できます。

何故なら

「空冷で規制を通すという行為は空冷が持つ魅力である味(曖昧さやノイズ)を削ぐ行為に直結しているから」

です。

だから新しく造ったとしても

『水冷より低スペックで、水冷より冷徹無比で、水冷より割高な空冷』

が出来上がってしまう。

そんなバイクを誰が欲しがるのよって話。空冷エンジンが消えていく背景にはこういう理由があるんです。