戦争とバイク ~第一次世界大戦編~

第一次世界大戦のバイク

皆なにかしらで勉強していると思われる代表的な戦争である第一次世界大戦と第二次世界大戦。

戦争における乗り物というと戦艦や戦車それに戦闘機がよく話題になりますが、バイクも多かれ少なかれ関係しているというか現存するバイクメーカーの歴史を遡るとほとんどが何かしらの形で関わっています。

という事で

「誰もが知るバイクメーカーが戦争にどう関わり、どういう結果になったのか」

という事を痴がましい話でもあるんですがザックリ書いていきたいと思います。

今回は1914年から約4年間に渡って欧州を中心に起こった第一次世界大戦について。

これに最も深く関わった皆が知るメーカーはこれ。

トライアンフ

イギリスのトライアンフです。

トライアンフはユダヤ系ドイツ人のジークフリード・ベットマンという人物がイギリスに渡りドイツ製ミシンそしてイギリス(ウィリアムアンドリュー社)製自転車を販売する貿易会社を立ち上げたのが始まり。

その際に自転車を”ベットマンサイクル”という名前で売っていたのですが

「何処製の自転車か分からない」

という問題からイギリス製である事をわかりやすく表現した

『トライアンフ(勝利)サイクル』

という商品名に変えたのが名前の始まり。

トライアンフサイクルス

しかしすぐに世界初の量販車であるヒルデブラント&ウォルフミュラー社のモーターサイクルが発売されたのを見て

「次の時代に来る乗り物はこれだ」

と考え同じくドイツ人のモーリス・ヨハン・シュルツというエンジニアと二人三脚で1902年に”ナンバー1”というオートバイを開発・・・というのが簡単な流れ。

モデルH

そうしてバイクを製作するようになり、またマン島TTに挑戦する事でメキメキと頭角を現した所で第一次世界大戦が勃発。

その時トライアンフは偶然にも

『Model H』

というペダルのない正真正銘の自社製モーターサイクルの開発に成功した頃でした。

モデルH

これに目をつけたのがイギリス軍。

「Model Hが性能試験に合格したので100台供給しろ」

という要請が入りトライアンフが承諾。Model Hベースの軍用バイクを製造しフランスの対ドイツ戦線へ送り込むことに。

そこで有用性が証明されると自国だけではなく連合国にも供給するようになり結果的に分かるだけでも

『イギリス軍2万台、連合軍1万台』

を第一次世界大戦の間だけで供給しました。

トライアンフのモデルH

ドイツ人が開発したバイクをドイツを倒すために大量投入という何とも言えない展開なんですが

・機動戦
・偵察や伝令
・伝書鳩などの運搬
・負傷兵の搬送

などで物凄い活躍したようで戦地の兵士たちの間で

「トラスティ(頼もしい)トライアンフ」

という愛称で呼ばれるほど絶大な人気を獲得するまでに至りました。

軍用モデルH

ただそれだけではなくこの活躍により

「トライアンフという所がバイクという凄い乗り物を造ってる」

という認識がイギリスだけでなく欧州中に広まった事でトライアンフは一躍欧州を代表するバイクメーカーに。多くの人がトライアンフのバイクという乗り物を求めるようになり、また多くの企業がトライアンフに続けとバイク事業に参入する時代へとなりました。

高性能&高価格だった事もあり戦後の世界恐慌で一度は経営危機に陥ってしまうものの比較的安価なモデルを出し

「あのトライアンフが自分でも買える」

と憧れを持っていた大衆に大ヒットし復活。

トライアンフFOR THE RIDE

「トライアンフは名門バイクメーカー」

と謳われているのをご存知の方も多いかと思いますが、その根拠は単に歴史が長いだけではなくこの第一次世界大戦での活躍という裏打ちされた歴史があるからなんですね。

第一次世界大戦でもう一つ紹介したいのがアメリカのバイクメーカー。

インディアンモーターサイクル

インディアンモーターサイクルです。

インディアンは1901年に自転車レーサーだったジョージ・ヘンディと技術者のオスカー・ヘッドストロムというレース好きの二人が立ち上げたバリバリのレースバイクメーカー。

今では想像が付かないかもしれませんが当時はアメリカ国内のレースを総ナメする世界最高性能のオートバイメーカーとして、また年間3万台超という驚異的な販売台数でアメリカを代表するバイクメーカーとして君臨していました。

ただそんなインディアンも第一次世界大戦が勃発すると性能が優れていたのでアメリカ軍から声が掛かり

『Power Plus(フラットヘッドエンジン)』

という新設計したばかりのフラッグシップモデルをベースにした軍用のオートバイ製造を開始。

インディアンモーターサイクル

公式によると1917~1919年までの間に約5万台以上も供給したとの事。ここまではトライアンフの流れとそう変わらないですよね。

「それでトライアンフみたいに名声を獲得するのか」

と思うんですが・・・インディアンはそうならなかった。

第一次世界大戦中の工場

インディアンはPowerPlusという新開発したプラットフォームの製造ラインをまるごと国に買い取ってもらう形を取るなど軍用バイクへ大きく舵を切りました。

この結果アメリカで何が起こったか・・・インディアンという高性能バイクが市場から消えてしまったんです。

米軍バイク

当時アメリカは一人勝ち状態となる経済成長が始まった頃で

『サイドカーに奥さん乗せてツーリング』

というのが富裕層の間でトレンドになっていた。

しかしどれだけバイクを欲しても軍が独占(インディアンが偏重)していたので買えない。だから富裕層はおあずけを食らうという悶々とした悩みを抱えていた・・・しかしそんな不満を解消するメーカーが現れます。

ハーレーダビッドソン

ご存知ハーレーダビッドソンです。

ハーレーは1901年に機械工学者の

『ウィリアム・シルヴェスター・ハーレー』

『アーサー・ダビットソン』

の二人が単気筒エンジンを造ってみたのが始まり。

そこから1907年に株式会社ハーレーダビッドソンを設立し、1909年には今ではおなじみのVツインエンジンの開発に成功。インディアンに対抗しうるメーカーとして既に頭角を現していました。

18F

もちろんハーレーも性能が良かったのでアメリカ軍から声が掛かり、18F/MODEL-Jなどの軍用バイクを供給していました。フランスへの派遣軍において約1.5万台が供給され大いに活躍したという記録があります。

モデルJ

しかしハーレーはインディアンほど軍にベッタリではなかった(本格的に供給し始めたのは晩年だった)ため市販車も出していた。アメリカ国内で売るモデルもちゃんと用意していたんです。

これが富裕層というインディアンの上客をゴッソリ持っていく結果に繋がった。

1917ハーレーダビッドソン

「インディアンは売ってないからハーレーにするか」

みたいな感じでハーレーがどんどん奪っていきインディアンと肩を並べるメーカーにまで成長。

インディアンというとハーレーとの競争に負けたメーカーというイメージを持っている人が多いかと思いますが、その契機となったのはこの第一次世界大戦なんです。

ちなみに

「何故トライアンフは成功し、インディアンは失敗したのか」

という疑問点ですが、これは恐らく民生品を禁止したかどうかにある。

少しマニアックな所になりますがイギリスはマン島パワーのおかげかJAP/AJSやマチレス、Nortonやロイヤルエンフィールドなども軍用バイクを大量に供給していたのですが同時に軍事目的以外でのバイク製造を禁止していた。

しかし一方でアメリカはハーレーが売っていた事からも分かるように禁止していなかった。両者の命運が別れた要因はここにあると思われます。

ハーレー軍用試験

最後になりますが量販オートバイ誕生からわずか19年後に起こった第一次世界大戦。

それまで限られた富裕層向けのオモチャでしかなかったバイクという乗り物の有用性を広く認知させるキッカケになったのはこの第一次世界大戦による活躍が少なからずあるかと。

参考資料
THE VINTAGENT(アメリカ国立公文書資料)
WORLD MC GUIDE DX|ネコ・パブリッシング

アメリカにおけるオートバイメーカーの評価

アメリカCSレポ

「日本車ってアメリカではどう評価されてるんだろう」

と気になる方も居ると思います。(あんまり居ないかもしれませんが)

そんな中”信頼できる自動車番付”でお馴染み米国の最有力消費者情報誌

コンシューマー・レポート

が2014年からオートバイの番付も開始し、その結果が発表されました。

※そもそもコンシューマーレポートとは

中立のために実験や調査の費用は全て月刊誌の購読費で賄い、一切のスポンサーを設けず、また結果を広告に使うことも固く禁じている非営利団体の事です。

そんな信頼された情報誌の調査によると栄えある

第一回「2015年一番信頼できるオートバイメーカー」 は・・・

ヤマハ発動機

ヤマハだと発表されました。

四年以内の故障率が十人に一人。またその故障も軽微(200ドル以下の安価な故障)なものが多いことから1位になったようです。

しかしその後の順位を見ると

2位スズキ
3位ホンダ
4位カワサキ

と日本メーカーが独占でその差は極々小さいもの。ココらへんはさすが日本車といった所でしょうか。

逆に信頼性が低いと指摘されたのは

・ハーレダビッドソン

・ドゥカティ

・トライアンフ

・BMW

・ヴィクトリー

など日本以外の海外勢。

コチラは4人に1人が4年以内に故障を経験したとされています。

ちなみにヴィクトリーというのはアメリカのメーカーでモダンアメリカンを作っているメーカー。ATVやスノーモービルを作っているポラリスの子会社です。

ヴィクトリー

日本メーカー強しな結果となった・・・わけですが実はもうひとつ興味深い調査もありました。

「次も同じバイクに乗りたいですか?」

というアンケートを採った所、なんと信頼性と立場が逆転。

ハーレーダビットソン

ハーレダビッドソン乗りやヴィクトリー乗りの

『70%以上がYESと答えた』

のに対して日本メーカーやBMW、ドゥカティのバイクに乗っているライダーで70%以上の人間がYESと答えたのは辛うじてホンダ乗りのみ。

ヤマハもスズキもカワサキもBMWもドゥカティもトライアンフも70%を切る結果となってしまいました。

この事からCSレポートは

「信頼性と満足度は必ずしも一致しない。一番幸福なのはヴィクトリー乗りとハーレダビッドソン乗りだ」

と決定づけていました。

手がかかる子ほど可愛いというやつですね。

HDやヴィクトリーは趣向性の高いクルーザーのみなのに対して日本メーカーは色んなタイプのバイクあるのも関係してるとは思いますが。

参照:コンシューマーリポート

毎年なにかしらあるカワサキの珍グッズ

カワサキオリジナルグッズ

バイクメーカーのオリジナルグッズといえばスズキの湯呑みが有名ですが、実は一番オリジナルグッズが一番豊富で攻めた物を売っているのはカワサキだったりします。

もちろんまともなやつも売ってます。例えばTシャツ。

カワサキTシャツ

カワサキ壱番Tシャツに飛燕Tシャツ。更には老若男女Tシャツなど。

Tシャツはこれ以外にもNinja版、Z版、最速版など本当になんでそんなにあるのか分からないほどの充実っぷり。キーホルダーやステッカーなども同様です。

品揃えは国内メーカーでは一番です・・・が、豊富さ故からか

「なぜそれを出そうと思った」

というものも結構ある。今回はそんなグッズを紹介。

前掛け

川崎重工業前掛け

安全第一という文字と川崎重工業製品のイラストが入った前掛け・・・前掛けって今どき酒屋くらいしか付けてないですよね。

NINJAベーゴマ

NINJAベーゴマ

天明鋳物で作られたベーゴマ。二個入りで紐付き・・・ベイブレードならまだしもベーゴマって。

※天明鋳物とは栃木県佐野市の伝統工芸で1000年の歴史を持つ日本最古の鋳物製造

八角箸

八角箸

天然木で天然アワビ貝のアクセントが効いている若狭塗。

なんと食洗機対応でケース付き。

招き猫とダルマ

招き猫とダルマ

緑色の招き猫というのは交通安全・平穏無事という意味が、緑色のダルマには身体健全・才能開花の意味がある。

ライムグリーンでも良いのかは分かりません。

竹とんぼとヨーヨー

竹とんぼとヨーヨー

カワサキ直系のトップチームで8耐も走った「Team Green」と同じ色の竹とんぼとヨーヨー。

竹とんぼ恐らくヘリコプター繋がり。

ヨーヨーは21という数字とチャンピオンという言葉から察するにKZ1000JでAMAスーパーバイクを優勝したエディ・ローソンから・・・でもなんでヨーヨー。

カワサキオンラインショップ

これらは2017時点で買える物でカワサキオンラインショップまたは最寄りのカワサキPLAZAで買うことが出来ます。場合によってはAmazonやwebikeでも物によっては売っている様です。

最初にも言いましたが、普通の商品も豊富にあるので純粋に全部の商品を見たい方は「カワサキウェア&グッズカタログ」からどうぞ。

本当にここでは紹介しきれないほど色々あります。カワサキブランドとして売るわりには良心的な値段ばかりなのでオススメです。

・・・そしてここから先は平均1~2年でカタログ落ちとなった珍グッズの紹介。

コンビネーションハンド

孫の手

「痒い所に手が届く」

コンビネーションハンドなんてカッコいい事を言っていますが要するに孫の手です。

ルービックキューブ

ルービックキューブ

全面カワサキの文字入り。

ちなみにこれは自分で計算し最短で揃える双腕型知能ロボットのキューブ君。

キューブ君

カワサキワールドにありました・・・まだあるのかな。

石鹸

カワサキ石鹸

カワサキのロゴが入っている石鹸。

ただし工業用の強力な物ではなく普通の物です。

砂時計

砂時計

台座ではなく砂が緑という怪しさ満点の砂時計。

K・Tシャツ

スーパーマンK

Sならまだしも何故Kで・・・。

投げ輪

輪投げ

人気のベアーシリーズ・・・

カワサキのマスコット

マスコットが安定しない。

ちなみにカワサキUSAのマスコットとはこれ。

カワサキUSAのマスコット

これって・・・。

トイレットロールホルダー

トイレットロールホルダー

何故これを作って売ろうと思ったのか。

チェスセット

チェス

全て職人による手塗りの駒。

カワサキ乗りでチェスが出来る人が果たしてどれほど居るだろう。

ケンダマ

けん玉

日本けん玉協会認定品。

【注意事項】

本製品は「team green」で使用されているバイクと同じペイントを施してありますが、絶対にサーキット走行には使用しないで下さい。

※本当に書かれています

カワサキも四輪を造った事がある ~軽自動車からフォーミュラーまで~

川崎重工業

二輪と四輪というのは開発者がどちらも”クルマ”と言うことからも分かる通り非常に親しい乗り物。

だからホンダやスズキは四輪(以下:自動車)も手掛けてますし、ヤマハもトヨタのV6/2.5Lエンジンやランクルなどに使われているX-REASというサスペンション機能やパフォーマンスダンパーなどを手掛けています。

LFAのV10エンジンもヤマハですね。

LFAエンジン

正確に言うと設計が共同で生産はトヨタ(F1の設備)、そして組み立てがヤマハなようですが。

それ以前もOX99という・・・って今回はカワサキの話でした。

我々が知らないカワサキの別の顔

でも話した通りカワサキはバイクメーカーの中でも自動車と一番と縁のないメーカーと思われがちですが、自動車に関しては溶接&塗装ロボットという別の角度から深く関わっています。

カワサキの自動車用ロボット

実はホンダのバイク製造ラインにも噛んでたりしているので

「ホンダ製=カワサキ製』

という半分冗談だけど半分本当なネタもあったり。

カワサキは他にも

・ATV(バギー)

・スノーモービル

・船舶

・飛行機

・列車

など色んな乗り物に携わっているんですが、その中で自動車にだけ手を伸ばしていないのは不思議ですよね・・・でも実は参入を画策した事はあるんです。

それは二輪事業が安定し始めた1961年の頃。

KZ360

『KZ360』

自動車業界へ切り込むというトップダウンによって生まれたSOHC二気筒エンジンの軽自動車。

ちなみにエンジン開発をしていたのは後にZ1エンジンを造ることになる稲村さんです。

ほぼ完成していたんですがマツダR360などライバル車に設備や販路で先を越された事で事業撤退が決断され日の目を見ずに終わってしまいました。

しかしこれで終わりじゃありません。

それから数年後の1960年代半ば、まだZ1すら出ていない北米で新たなカワサキカーが生まれます。

当時カワサキは既に北米進出を果たしていたのですが今ひとつ波に乗れない状況でした。そこで現地のエンジン事業部に所属していたDarrel Krauseという方が

「KAWASAKIの名を全米に知らしめる方法を」

と考えた結果やっぱりレースだという結論に。

クラス3

「レースで活躍すればカワサキの名前と技術の高さが全米に轟く」

という事でアメリカで行われていた450ccのレースに焦点を当ててUSカワサキ主体で極秘裏に開発がスタート。

カワサキのレーシングマシンの中身

右も左も分からない状況だったんですがガレージ文化があるアメリカらしく、その道のプロを雇ったりチューニング屋から町工場まで色んな所に助力を求めたりしてなんとか形にすることに成功。

そうして形になったのがこのマシン。

カワサキのレーシングマシン

アルミモノコックフレームにスノーモービル用2st440cc二気筒エンジン。

ライムグリーンのボディは何処からどう見てもカワサキですね。タイムも狙えるほどの性能であとは調整だけという所にまで来た・・・んですが、ここから不運が重なります。

予定されていたモーターショーでのお披露目がテスト中のトラブルで間に合わなくなってしまったんです。

テスト風景

そこで仕切り直しとしてわざわざラグナセカサーキットを貸し切って発表&デモランという計画に改められたんですが、その肝心のデモランでもエンジントラブルを起こしてしまい走らせる事が出来ないという痛恨のミスを犯すんです。

もともと本社である日本のカワサキがこのプロジェクトに重きをおいていなかったということもあり、この一件で責任者だったDarrel Krauseさんは別のプロジェクトへの異動を命じられ、開発は奇しくもZ1が出た1972年に棚上げとなり自然消滅しました。

カワサキレーシング

なお現在このマシンのカバーボディは個人が所有しており、エンジンやシャーシは行方不明との事。

英語の全文はこちら(http://thekneeslider.com/kawasaki-factory-auto-racing)

しかし実はカワサキはその後もう一度1991年に自動車を造っています・・・しかも今度は日本の本社で。

それがこれ。

KAZE-X11

『KAZE-X11』

鈴鹿に拠点を置くウエストレーシングカーズというレーシングカーコンストラクターとカワサキが共同開発したフォーミュラーマシン。

アルミモノコックフレームに160馬力までチューニングしたZZR1100(北米名ZX11)のエンジンと専用5速ミッションを搭載。車体重量もわずか409kgで岡山国際(旧TI)サーキットを36秒台で走るF3並のスペックを備えていました。

パワーユニット

1993年までの約三年間で10台ほど造られたようですが、そもそもこれ何で造ったのかのかというと車名にKAZE(カワサキファンクラブ)という名前が入っていることからも分かる通り

「KAZE会員に乗って楽しんでもらおう」

と考えての事。

ちなみに設計者である大西さんいわく、このマシンを作るためにフェラーリの工場見学やジムラッセルレーシングスクール(名門スクール)に入学しノウハウを学ぶなどかなり本気だったというか造り手も楽しむためにやってた面もあったよう。

まさにバブル恐るべし・・・なんですが不幸にも完成と同時にバブルが崩壊。プレス発表までこぎ着けたものの企画は打ち切り。

カワサキのフォーミュラーカー

※写真はチームグリーンブログより

大分県のSPA直入というミニサーキットでデモランが打ち切りになる寸前に行われており辛うじて数名だけ乗れたそうですが、それを最後に表舞台から姿を消すこととなりました。しかもそのデモランで大西さんがクラッシュして一台潰してるっていう・・・

最近どこかのを引っ張ってきてカワサキワールドに展示したようですね。

それにしてもまさかカワサキがF3並のフォーミュラーマシン試乗走行を企てていたとは。

トンネル巡りをしたくなるかもしれない豆知識

トンネルトリビア

山をショートカットするためにあるトンネル。日本は山だらけなこともあり世界一のトンネル技術国家とか言われていたり自負したりしていますが

「そもそもトンネルとは何か」

という説明から入るとこれにはちゃんと定義があります。

『計画された位置に所定の断面寸法をもって設けられた仕上がり断面積が2平方メートル以上の地下構造物』

となっている。※OECD(経済協力開発機構)より

その一方で曖昧なのが意外にも名前の由来。

・古代フランスの大酒樽(tonne)から
・同じく古代フランスのうずら取りの籠(tonel)から
・16世紀頃の英語で管やチューブをtonelと言うように

などが語源ではないかと言われておりハッキリしてない。ちなみに日本でトンネルという言葉が使われ始めたのは文明開化以降でそれまでは

『隧道(ずいどう)』

と言っていました。

トンネル

まあ昔話はこれくらいにして本題に入りたいと思います。

1.照明は凄く考えられている

トンネルには照明機器が備え付けられているのはご存知かと思いますが、常に等間隔で全部が点いているかというとそうではなく消えていたり抜けがあったりしますよね。

トンネル

これは手抜きや故障ではなく

『緩和照明』

といって本来ならば真っ暗なトンネルと外の明るさの差を緩和させるためで、中が抜けているのではなく出入り口が強烈に照らされている形。

照度測定器

ちなみに高速道路のトンネル出入り口などでこういう物が備えられてるのを見たことがある人も多いと思うのですが、これでトンネル入り口の明るさ(照度)を測定しています。

何故そんなことをする必要があるのかと言うと、照明が無かったり弱かったりしてトンネルの内と外で明るさに大きな差があると非常に危険だから。

もしもトンネル内が暗いと中が全く見えないブラックホール現象に見舞われるし、出る時も明るさに差があるとホワイトホール現象といって眩しくて同じように先が全く見えない状況に陥ってしまい事故を誘発してしまう。

ブラックホール現象とホワイトホール現象

だからトンネルの出入り口は強烈に照らしている。

また別のパターンとして高速道路のトンネルに多いんですが、歯抜けだけではなく片側の照明が全く点いていない状況になっているのを見たことがある人も多いと思います。

ブラックホール現象とホワイトホール現象

これも節電かと思いきやちょっと違っていて二重化するのが狙い。

こうすることで片方のラインを点検する際にもう片方で明るく保てるのはもちろん、万が一どちらかのラインが点かない等のアクシデントがあっても反対側でリカバリー出来るようにするため。

それだけトンネル内を照らすのは大事ということですが、加えて言うと単純に明るく照らしているだけではなく出入り口は配光も真下ではなく非対称照明となっている場合が多いです。

カウンタービーム照明とプロビーム照明

こうする事で障害物や先行車の視認性を高め事故を未然に防いでいるんですね。

あとわざわざ整備しにくい高い位置に照明を設置しているのもフリッカ対策(チラツキ防止)などなど・・・トンネルの照明っていうのはとんでもなく考えて備え付けられているという話。

2.コンクリート路面の理由は一つじゃない

道路といえば通常はアスファルトですが、トンネル内はコンクリートになっている場合が多いです。

トンネル内がコンクリートの理由

「その理由は知ってるよ」

って人も多いと思いますが全部言える人はそうそう居ないのではなかろうか・・・そう、実はトンネルがコンクリートになっている理由はいっぱいあるんです。

『理由1:耐久年数がアスファルトの倍以上』

アスファルトの耐久性が約10年と言われているのに対しコンクリートはその倍となる20年。ただしこれは国土交通省による指標みたいなもので実際はコンクリート舗装は30年も40年も使える例もある。これは簡単に言うとコンクリートはアスファルトよりも剛性が高く変形(わだち)を生じにくいから。

そしてなぜ耐久性が重要かというとトンネルは見通しが悪いうえに迂回路などを用意するスペースがないため補修が一般道より大変だから。だからすこしでも耐久年数が高いコンクリートが好まれている。

『理由2:明るくしてくれる』

最初にも上げたようにトンネル内というのは本来ならば真っ暗で明るくしないと危険。それなのに真っ黒いアスファルトを敷いてしまうと道路が更に暗くなってしまう。

コンクリートとアスファルト

一方でコンクリートなら明白性が高い(真っ白)なので光を反射しやすく特に夜間においてトンネル内を明るくしてくれ事故を防げる。

『理由3:有毒ガスを発生させない』

コンクリートの原料が骨材(砂や砂利)なのに対し、広く使われているアスファルトは原料が石油なので加熱されると目眩や嘔吐の症状を引き起こす硫化水素を発生させる恐れがある。

空が広がる一般道路ならそれでも問題ないものの、狭い空間であるトンネルというのは換気が弱いことに加え消火活動も難しい。そんな環境で有毒ガスを発生させるような事があっては一大事になる。だから砂で出来たコンクリートが使われているという話。

「じゃあ道路はアスファルトやめて全部コンクリートにしたほうが良いのでは」

という疑問が発生するのですが、コンクリートにも弱点がある。

・舗装後すぐに走れない(硬化するのに数日かかる)

・原材料が国産で工法も難しいので(二割ほど)コスト高

・平坦性が悪くまたロードノイズがうるさい

などのデメリットがあり、特に舗装率を上げる事を重視していた日本では安いアスファルトが好まれている。

あとコンクリートは路面温度が上がりにくく、またすべり抵抗値(滑りやすさ)もアスファルトより悪いのであんまり嬉しくなかったりします。だからトンネルをかっ飛ばしたりするのは実は結構危ないのでご注意を。

3.傾斜しているのは都合が良いから

トンネルを走っていると気づかぬうちにスピードが出たり落ちたりしてる経験があると思いますが、これ何故かっていうとトンネルは基本的に傾斜しているから。

トンネルの傾斜

なんで傾斜しているのかというと排水の都合が良いからです。

この排水っていうのは大雨などの冠水対策も確かにあるんですが、どちらかというと掘るときの排水。というのもトンネルを掘る際に問題となるのが湧水だから。

湧き水問題

トンネル工事は事前に徹底的な調査が行われるものの、それでも掘ってると水が出てきてしまう。その量は大きいトンネルになると一日だけで何千トン規模。

そこで考えられたのが登るように斜めに掘る方法。

トンネルの角度

こうすれば湧水が出てきても重力で勝手に外へ流れていってくれるので問題になりにくい。トンネルが傾斜しているのはこれが大きな理由。

長いトンネルが最初は上がっていたのに後半は下がる山形になっているのもこれで、工期短縮のため両側から掘るから。

山なりのトンネル

だから繋げた時に山形になる。

しかしこれが当てはまらないトンネルもある・・・潜る必要がある地下トンネルや海底トンネルですね。

山なりのトンネル

そのまま掘り進めていったら当然ながら湧水や漏水で水没してしまう。

じゃあこれらがどうやって作られているかと言うと

・掘った穴に予め作っておいたトンネルユニットを繋げて埋める開削工法

・それを川底や海底でやる沈埋工法

・専用の掘削機を深い地底に設置し掘らせるシールド工法

といった方法を取る。

山なりのトンネル

最近は必ずしもそうとは言えないものの一般的に開削や沈埋(ちんまい)で作られたトンネルは四角で、大規模なトンネルや軟弱地盤などにはシールド工法による丸いトンネルという特徴があります。

ちなみにシールド工法というのは本体を頑丈なシールドで覆っている事から名付けられたシールドマシンという巨大な掘削機を使う工法で下水道なんかはほぼこれ。

そしてこのシールドマシンは日本が世界に誇る技術なんですが、その製造メーカーの一つがなんとあの川崎重工業。

カワサキのシールドマシン

・ドーバー海峡トンネル

・東京湾アクアライン

という誰もが知る海底トンネルは川崎重工製のシールドマシンが大活躍しました。このページで一番覚えておいて欲しいのはここだったりします。

ただしこれらのトンネルは山形には出来ないので完成後も(特に海底トンネルは)水がどんどん溜まってしまいポンプでずっと汲み上げ続ける必要がある。

実際に東京湾アクアラインや関門トンネルなどでは毎日何万トンもの海水を休みなく汲み上げて排出しており、これが止まると水没するって話。そう考えると海底トンネルってやっぱり結構無理があるというか大変なんですね。

4.古いトンネルほど上にある

トンネルには

「古いやつほど山の上、新しいやつほど山の下」

という定説というか傾向がある・・・これは掘削技術が関係しています。

日本のトンネル技術は欧州などに比べると昔(昭和時代)は少し遅れており、崩落などの事故により亡くなる人が当たり前に何十人も出る非常に危険な工事でした。

そのため

「(崩落を連想させるから)お茶漬けや卵かけご飯は食べない」

という願掛けまで誕生したんですが、技術が未熟だった事による問題は人命だけではなく工期や費用なども莫大に掛かることから

「長いトンネルを掘れない」

というのが昔は常識だった。

しかし山越えしなくていい便利なトンネルを作りたい・・・じゃあどうすればいいか。

掘削距離を短くする方法

登れるところまで登ってからトンネルを掘ればいいんですね。

昔の人達はこうやってトンネルを作っていた。山道を登った先に古いトンネルがあったりするのは大きな理由なんですが平成に入ると掘った箇所にすぐボルトを打ち込みコンクリートを吹き付けて固める

『NATM(新オーストリアトンネル工法)』

という今もなお広く使われている安定かつ掘削スピードを早く出来る優れた山岳工法が伝来。

新オーストリアトンネル工法

これにより距離の問題が解消されると、トンネルとしての利便性を最大限発揮できるよう山の麓を突き通す長いトンネルを新たに掘るようになった。

平成のトンネルと昭和のトンネル

だから新しいトンネルは下の方にあるという話。分かりやすいのが各地にある”新道”と”旧道”ですね。

参考文献:トンネル工法の”なぜ”を科学する|アーク出版ほか

ECUは暗中飛躍

ECU

ECU(またはECM)という部品の名前を聞いたことがあると思います。ちなみに上の写真のECUはHAYABUSAの物。

正式名称はエンジン・コントロール・ユニット(またはモジュール)。人間で言う脳みたいな部品で、防水ケースの中は基盤が入っておりCPUやRAMやROMが載っています。

エレクトリックコントロールユニット

サイズも容量も肥大化の一途を辿っており、昔は8bit/256KB程度だったのが今や32bitで容量も大きいものだと50MB以上に膨れ上がっているとか。

何故肥大化しているのかといえば偏にECUの仕事が増えているからです。

ECU

ECUの仕事といえばエンジンを動かす事で、行程の始まりから終わりまで各部に目を光らせながら制御している・・・・といってもECUには目も耳もない。

じゃあ何処でどうやって監視しているのかというと、目の代わりにセンサーを各部に張り巡らせているわけです。

まず一番最初に置かれているのはエアクリーナーボックスにある気温を測る吸気温度センサー。

吸気温度センサー

こういう物がボックス内から顔出しているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか。

エアーセンサー

これで温度を測っています。

一部の高性能バイクにはエアクリーナーボックス内に気圧の変化を監視する大気圧センサーも付いています。

そして次にあるのはどのくらい空気を吸い込む口を開くのか決めるスロットルボディ。

ECU

スロットルバルブの開度を測るセンサーが付いておりECUがどれくらい開いているのか監視しています。昨今の俗に言う電子スロットルの場合は開度もECUがモーターで制御していますね。

そして次にあるセンサーが吸気圧センサー。

吸気圧センサー

エンジンが一体どれほど空気を吸っているのかを測っているセンサーです。

インテーク内スロットルバルブの奥にあります。

エアープレッシャー

こんな付けなくても大して問題なさそうですがとっても大事な部品。

そして次にあるセンサーが

「エンジンがいま何番が何度でどの位の速さなのか」

を測っているクランクセンサーとカムセンサー。

クランクシャフトセンサー

エンジンの回転数がメーターに表示され、皆が知る事が出来るのもこのセンサーのおかげ。

さて・・・どうしてそんなあちこち測る必要があるのかというと、FI(電子制御式燃料噴射装置)で燃料をどれくらい吹くのが最適か計算するため。

フューエルインジェクター

FIは加圧でガソリンを吹くタイプなので、負圧で燃料を持って行かせていたキャブと違い自分で調整して吹かないといけない難しさがあります。

フューエルインジェクションの仕組み

ちなみに加圧するためにガソリンを押し込む燃料ポンプが必須。

キーをオンにした瞬間

「ウィーン・・・ボコボコ」

と鳴っているのはECUが燃料ポンプの動作チェックと、急いでガソリンをFIまで押し流している音。

まとめると

・吸気圧センサー
・気温センサー
・スロットルセンサー
・クランク/カムセンサー

主にこれらを元に基本燃料噴射量を決めています。

この方式をスピード・デンシティ(Dジェトロ)式と言います。バイクは基本的にこれ。

クルマは違います。クルマはエアフローセンサーという物がスロットルボディの手前辺りに設置されており、そのセンサーを通った空気の量から導き出すマスフロー(Lジェトロ)式が一般的。

エアフローセンサー

空洞内部に熱くしたワイヤーを張っており、吸気の風に奪われた熱量から風量を導き出しています。

簡単に言うとバイクは予測型、クルマは実測型という感じで正確なのはもちろんクルマのマスフロー(実測型)の方。

「何故バイクはスピード・デンシティ(予測型)なのか」

というと障害物(エアフローセンサー)が無い事による空気抵抗の少さと、構造がシンプルな事で応対速度が速くレスポンスが良いから。最近はスロットルスピードといってスロットル開度から燃料噴射量を決める方式もあります。

そのかわりどちらも予測型なので環境変化への応用力が乏しい。だから再チェックするためにO2センサー(オキシジェンセンサー)が付いている。

ECUフローチャートO2

ザックリ言うと

「本当にその燃料と点火タイミングで正解か」

を測って見直す為に排ガス中の酸素濃度を測っています。

ECUフローチャート1

これも見たことある人は多いでしょう。

外すとECUが怒ります。

エンジンを動かす上で大事になるセンサーは主にこれら。

既に結構長くなってしまったのでエンジンに付いてる残りのセンサーはまとめて紹介します。

エンジンセンサー

例えばエンジンを掛けると勝手に暖気(ファーストアイドル)を始めてくれるのは水温や油温センサーがあるから。

温度を測り、暖気が必要(ガソリンの蒸発性が悪い)と判断して燃料を多めに吹いているんです。ちなみにオーバーヒートもだいたい同じで燃料を大量に吹いて冷まそうとします。

ノッキングセンサー

もう一つのノックセンサーは文字通りノッキングを起こさせない(抑える)為のセンサーで、ノッキングの振動を検知するとリタード(点火を遅らせて圧縮比を下げる)制御を行います。点火が遅くなるので体感できるほどトルクが落ちます。

PGM-FIシステム

これらはFI化された大型バイクならほぼ当てはまる内容。

ただ最近は小排気量は中心に

・クランク角センサー
・吸気温度センサー
・吸気圧センサー
・エンジン温度センサー

のみなどコストの問題からか簡略化されています。

ただしECUの仕事量が年を追う毎に増えていると言うのはFIだけが理由ではありません。

例えばスピードメーター。

デジタルメーター

昔はアナログ式でしたが、これも今やデジタル式。

何処で測っているのかというとドライブスプロケット近辺にセンサーを配置し測るのがメジャーでしたが最近変わりました。

ホイールセンサー

ABSの義務化に伴い、ホイール速度を測るABSセンサーにスピードセンサーの役割も持たせるようになったんですね・・・何故ならABSの制御もECUの仕事だから。

BOSCH製HU

ライダーがブレーキを握る事で高まる圧力をECUが常に管理しコントロールする。

場合によってはブレーキ圧を電気信号に変え、モーター駆動によってキャリパー圧をコントロールする場合もあります。

BOSCH製ABS

ディスクローターについたスピードセンサーによって速度とディスクのスピードに狂いが生じると、ECUが介入し転倒を回避させるというわけ。

ところが昨今のABSは更に進化していて、このスピードセンサーだけで判断しているわけではなく

「何速なのか、何回転なのか」

等の情報をシフト(ドラム)センサーやクランクセンサーから仕入れ多角的に判断しています。

一部の高級バイクに付いている横滑り防止のトラクションコントロール(TCS)も基本的にABSと同じで制御するのがブレーキかアクセル(スロットルバルブ)かの違いだけ。

村田製作所製IMU

最近ではABSやTCSの制度を更に増すためにIMU(慣性計測装置)からの情報も演算の材料として取り入れられます。ウィリーコントロールなどが良い例ですね。

ECU大忙しですが、車種によってはまだあります。

例えばツアラーモデルへの採用が広がっているバンク角に応じてインを照らすアダプティブヘッドライト。

アダプティブヘッドライト

これもIMUから送られている車体姿勢信号からECUが判断し制御している。

まだまだあります。

スーパースポーツに採用されているクイックシフター。

クイックシフター

クラッチを切ることなくギアチェンジが出来る代物ですが、これもシフトロッドの動きをECUがセンサーで感知し一瞬だけ燃焼を止める制御。

まだまだまだあります。

電子制御サスペンション

電子制御サスもSCUというコントローラーとECUによるもの。

他にも排気デバイスの開閉もECUの仕事、可変バルブの切り替えもECUの仕事、電圧・空気圧表示やキーレスといった快適装備も、出力モード切り替えも・・・。

もはやエンジンコントロールユニットというよりマシンコントロールユニットと言ったほうが正しい気がしますね。

ちなみに2017年10月以降発売のモデルはこれらのセンサー類どれか一つでも異常があるとエラーを知らせる自己診断機能(OBD)が義務化されました。もちろんその役割を担うのもECUです。

ありとあらゆる部分を監視&制御している凄いECUですが、言われないと分からない本当に凄い事は別にあります。

それは・・・

R25

「これらを一切の遅れなく完遂させる」

という事です。

これが本当に凄いこと。本当はこれが書きたかっただけ。

人間は待てない生き物です。

例えばPCやスマホでアプリやネットサーフィンをしていてクリックやタップをしたにも関わらず

スマホ弄り

“反応がないor動作が遅い”

となったらイライラして連打したり別の事をしたりしてしまいますよね。

こういった

「使用者の我慢限界」

をソフトウェア業界で”デッドライン”と言い、これを超えてしまう事を”デッドラインミス”と言います。

どんなに優れた商品であろうと、これが守れなかった場合は価値が無くなるという絶対に犯してはいけないミス。

そしてバイクという乗り物に許されるデッドラインはコンマ何秒という本当に短い世界。TVのチャンネル切り替えなんかより短い。

GSX-R1000R

これだけの電子制御があるにも関わらず、誰もがそれを意識する事も違和感を感じる事もなく走れているのはECUが

「自然且つ素早く且つ確実に実行しているから」

ただの黒い箱なのに取り寄せたら10万円以上するのも少しは納得ですね。

瞳の歴史はライトの歴史~アセチレンからレーザーまで~

顔の歴史はライトの歴史

正式名称では『前照灯』とよばれるヘッドランプまたはヘッドライトの歴史についてザックリ書いていこうと思います。

・シールドやハロゲンを知らない
・愛車がH4じゃない事に憤りを感じている
・バイクでHIDが普及しなかった理由
・LEDなのに意外と暗い
・LEDの次に来るランプ

など心当たりのある方は長文ですが少しお付き合いを。

乗り物のためのランプの歴史というか概念が一番最初に始まったのは、ちょうど20世紀の始めからになります。

【1902年アセチレンランプ誕生】

アセチレンランプ

これはカーバイド(炭化カルシウム)とよばれる炭化物に水を加えるとアセチレンガスと呼ばれる可燃性のガスが発生するのを利用してランプにする方式。

文字通り水を加えてガスを発生させ、開閉式になっているレンズを開けてバナーに火を付け閉じるガスバーナーと同じやり方で光を得ます。

アセチレンランプのモデル

このヘッドランプが生まれるまではロウソクや灯油ランプを括り付け、他の人に自分の存在を示す程度の明かりでした。

ではなぜアセチレンランプというそれ以上の明るさを持つライトが生まれたのかというと

・夜道でも走れるようにするため

・性能向上で速度が上がり先を照らす必要性が出た

というのが理由と言われています。

アセチレンランプの仕組み

アセチレンランプはこう見えてロウソクや灯油ランプよりもかなり明るかったのですが、一方でバナーやレンズの定期的な掃除やカーバイドと水の補給が必要というデメリットがありました。

それでも明るさや雨風に強いという事もありこれに頼らざるを得なかったのが20世紀初頭、前を照らす前照灯の始まりでした・・・が

「20世紀にはもうエジソンが白熱電球を発明していたのでは」

という疑問が出てくる。

エジソンが発明した白熱電球

発明王でおなじみエジソンさんは1879年に白熱電球を発明し、1881年には京都の竹を用いることで1200時間以上の寿命を持たせる改良に成功し発売もしていました。

では何故バイクやクルマは白熱球を使わずアセチレンランプなんて面倒くさい物を使っていたのかというと

・白熱電球が走行(振動)に耐えられる構造ではなかった
・ライトを点けられるような発電機を搭載していなかった

というのが主な理由。

白熱電球が乗り物へ使われ始めたのはエジソンの発明から四半世紀経った1910年頃からになります。

【1908年タングステン白熱電球ランプ誕生】

白熱電球のヘッドライト

白熱電球のタングステン化(タングステン電球化)による耐久性向上によって自動車先進国だった欧米で使われ始めます。

量販車として最初に搭載されたのは1909年のロールスロイスですが、ではバイクはどれかというと断定は出来ませんが恐らく1914年にアメリカの大型バイクメーカーインディアンが造ったこれ。

初めて白熱電球ヘッドライトを搭載したバイク

『ヘンディースペシャル』

大型ジェネレーターとバッテリーと電動スターターを搭載したモデルで、合わせて白熱電球ランプが備え付けられていたハイテクフラッグシップモデル。

しかし残念なことに当時の技術では流石に無理があったのか50回ほど電動スターターを使うとバッテリーが力尽きて回らなくなる仕様。しかも何を考えたのかキックも付けなかったので、あっという間に自走不能になるという仕様でした。

そのためわずか200台しか生産されず。インディアンの中でもかなりレアな車両になります。

バイクへ白熱電球が本格的に使われ始めたのは1930年代後半頃から。BSAなどが率先して採用しましたが、それでもアセチレンとハロゲンどちらかユーザーに選ばせる形式でした。

しかし電力などの問題がクリアされてからはアセチレンランプのように手間が掛からない事に加えて何より明るいという理由から白熱電球が重宝されるように。

ただし白熱電球の登場でライト問題が全て解決したのかと言えばそうでもなく課題もありました。

白熱電球の黒色化

『黒化』

といって黒ずんで光量がドンドン落ちていくという問題が白熱電球にはあった。これは光る仕組みに原因があります。

白熱電球は白熱と言われる事からも分かる通り、電気を流すことでフィラメント(タングステン)が3000度近くまで熱くなると同時に出る光を利用する仕組み。

『電気→熱→光』

というフローになるため、高温になったフィラメントが徐々に蒸発してしまいガラスに付着して冷やされ黒く残り光を遮るフィルターとなってしまう。

黒色化のメカニズム

これが黒くなる原因であり、更に言うとフィラメントも蒸発で痩せていくからドンドン暗くなるという悪循環。

そんな白熱電球の問題を解消するため、1939年にアメリカで開発されたのが次に紹介するランプ。

【1939年シールドビームランプ誕生】

シールドビームライト

シールドビームが白熱電球と何が違うのかというと、光る部分であるフィラメントを覆うガラス(いわゆる電球部分)が無く、ライトレンズ全体で覆うようになっている形。

これの狙いはズバリ単純にいうと

「フィラメントのカバーを大きくすれば明るくて黒色化も問題にならなくなる」

という実にアメリカらしいマッチョ思想ヘッドランプ。

シールドビームライトの構造

このシールドビームは一体型な事から防水性や耐久性にも優れていたので車でもバイクでも1980年代頃まで長く使われましたが、これはこれで問題点もありました。

レンズもフィラメントも一体型なためどちらかが壊れたら纏めて交換する必要があるという非効率さがあった。

そこでアメリカはひらめきました。

「ヘッドランプは7インチ(Φ180)の丸目しか認めません」

という実質的にライトの規格を単一化する取り決めを行ったんです。こうしてライトを実質一つにすることでホームセンターでもガソリンスタンドでも何処でも替えのライトが簡単に調達出来るようになりました・・・が、これが新たな問題を生みます。

7インチシールドビーム

「みんな同じ顔になる」

という問題です。今も名車と語り継がれているCB750FOURや900Super4を始めとしたリッターオーバーの輸出モデルが同じ丸目だったのはこれのせい。極端な話でもなんでもなくこの頃のアメリカを視野に入れた乗り物はクルマもバイクも基本的に全部同じ丸目のヘッドランプ。

ちなみに欧州はシールドビームを拒絶しましたが、日本はどちらかというとアメリカの後を追うようにシールドビーム推し。

これは

・進駐軍(シールドビーム車)が居たから
・メイン市場がアメリカだったから

などが理由。いまも色んなメーカーのヘッドランプを造っている小糸製作所やスタンレーなどもシールドビームの国内製造成功が躍進の一因だったりします。

しかし

「幾らなんでも全車同じヘッドランプというのは厳しすぎる」

とフォードがアメリカ政府に働きかけたことで

・小径の丸目四眼(Φ145)
・角眼の二眼(199*142mm)
・角眼の四眼(167*106.6mm)

と年を追うごとに規制緩和されていきましたが、しかしそれでも4パターンしかなくライバルと大きく差別化するのは難しい・・・そこで編み出されたのがこれ。

リトラクタブルヘッドライト

リトラクタブルヘッドランプ。

「同じなら 隠してしまえ そのライト」

という発想がこの構造を生みました。※最低地上高対策によるリトラはこれを応用した形

バイクにもありましたね。最初に採用されたのは1983年のスペイシー125ストライカーというモデル。

スペイシー125ストライカー

ハンドルのスイッチ一つでガチャコンとライトが起きるように飛び出す超カッコいいバブリーなスクーター。

他にもGSX750S3などバイクもこうやってシールドビームながら差別化を図った・・・と言いたいところですが、これらはリトラクタブルヘッドランプブームにあやかった形でシールドビームではありません。

じゃあ何かというとシールドビームに代わるように登場した新しいヘッドランプ。

【1962年ハロゲンランプ誕生】

ハロゲンバルブ

つい最近まで多くのモデルに採用されていたお馴染みのヘッドランプ。

これは白熱電球の一種で、大きな違いはガラスの中にハロゲンガスと呼ばれるガスを封入していること。

こうすることで白熱電球の問題だったタングステンの蒸発とその蒸発物による黒化を抑制させることに成功。

ハロゲンサイクル

正確に言うと蒸発した化合物を再び分離させてタングステンに戻す形でこれをハロゲンサイクルと言います。

これだけ見ると永久に使えるように思えますが、実際はあまりフィラメントに戻らないのでご存知のようにいつかやせ細って切れるものの、このハロゲンサイクルによって更にタングステンを高温化する事が可能となりシールドビームの二倍以上もの明るさと寿命を持つことに成功。

ちなみに発明したのはアメリカのGE(エドワード・E・サブレィら)で

・1964年にH1
・1969年にHi/Lo切替式のH4

が誕生し、シールドビームを断固拒否していた欧州がハロゲンシールドビーム(電球だけ交換できるセミシールドビーム)として1971年に正式規格として採用。

アメリカも徐々に採用する州が増え、1984年に全米で認可されると一気に普及しシールドビームに取って代わる存在となりました。

【1980年代~配光技術が向上】

ハロゲンランプという画期的な光源の登場から20年ほど経った1980年代、ヘッドランプは再び大革新を遂げます。

その進化というのはこれまでの光源ではなく、配光技術によってもたらされた大革新。

ライトの歴史

『異形型ヘッドランプ』

です。

これは光を前方に反射させる反射鏡やそれを通すライトレンズなど配光技術および生産技術の向上によるもの。

一例として上げると1984年に登場したヤマハのFJ1100/36Y。

H4とH7のサイズ

明らかにライトレンズがボディに沿うようにスラントされているのが分かるかと思いますが、これが可能になったのもレンズに加工が難しいガラスではなく加工性抜群のプラスチックを製造できるようになったから。

さらに1990年代頃になると反射鏡もプラスチック化が可能になった事で俗に言うマルチリフレクタータイプが登場。

マルチリフレクター

配光の役割をレンズから反射鏡に移すことでライトレンズの自由度を上げる技術が確立しました。

これはCBR900RRを例に見るとわかりやすいです。

ライトレンズの経緯

ちなみにこのライトレンズの大革新は

・オイルショックにより空気抵抗(低燃費)が重視される世の中になった
・マルチリフレクターによる異型化で顔を差別化出来る

などが大きな要因。

さらにマルチリフレクターと双璧をなすプロジェクター式ヘッドランプが誕生したのもこの頃。

プロジェクター

1990年のFZR400RRに採用されたのを覚えている方も多いのではないかと思いますが、プロジェクター式のメリットとしては

・マルチリフレクターより軽量小型に出来る
・投影拡大する形なので配光をキッチリ出しやすい

などがあります。色々と省いていますがだいたいこんな感じです。

マルチリフレクター

しかしその一方でマルチリフレクターと比べた場合

・レンズなど複雑化によるコスト増
・小型ゆえに表情が乏しくなる

というデメリットもあります。

小型ゆえの表情というのはプロジェクター式になるとレンズが丸く小さいのでつぶらな瞳になってしまいインパクトを出す事や差別化が難しくなる。

もちろんメーカーもそこら辺は考えていて色々やっています。これは一時代を築いたHAYABUSAとZZR1400を例に見ると分かりやすいです。

ハヤブサとZZR1400のヘッドランプ

HAYABUSAはマルチリフレクターとの合わせ技で、ZZR1400はプロジェクターを4つ並べることでそれぞれ小さくなってしまう瞳問題を解消しているのが分かるかと。

もう一つ関連する事がハロゲン電球ではあるもののH7やH8~11といったオーナーなら誰しもが一度は調達性の悪さで

「主流のH4なら良かったのに」

と感じた経験があるちょっと変わった規格について。

なんでメーカーは素直にH4を採用しないのかと憤っている方も多いと思いますが、これもデザインの要素が理由の一つにある。

H7はH4と違いシングルフィラメントなのでHI/LOWの切り替えができない代わりにH4よりも全長が短いという特徴がある。

H4とH7のサイズ

全長が短いという事はそれだけライトユニットの幅を縮める事が出来るのでスペース的に有利。

カウルが寝ていてライトスペースを圧迫しているようなスポーツモデルに比較的よく採用される理由の一つはこれ。

H7が使われる理由

だからH7~11をよく思ってない人はそのハンサムな顔を実現させるためと思って許してあげてください。

そんな爆発的に増えたハロゲンですが、その存在を脅かす新たなランプが20世紀末に登場しました。

【1996年HIDランプ誕生】

HIDバルブ

HID(High Intensity Discharge)、ディスチャージ、キセノンなどなど様々な呼び方があるヘッドランプで

『高輝度放電灯』

というカッコいい和名も持っています。

仕組み自体はそれこそ1901年(水銀ランプ)からあったのですが、水銀を使わないメタルハライドタイプが開発されて一気に普及しました。

これは名前からも分かる通りそれまでのヘッドランプと違い、放電灯といって簡単にいうと蛍光灯と同じシステム。12Vを20,000V以上まで高電圧化し電極間で放電(ディスチャージ)することでガス(キセノン)を発光。

HIDの仕組み

そのためHIDはバルブだけでなくバラスト(安定器)やイグナイター(昇圧器)が必要になるというデメリットがあるものの

『寿命と明るさがハロゲンの二倍以上で消費電力は半分』

というランプに求められるスペックが非常に優れていたので物凄いスピードで採用されていきました・・・が、これはあくまでもクルマの話。

よくよく思い返してもらうと分かるのですが、バイクではGL1800/SC46やK1600GTなどの一部を除きHIDはほぼ採用されませんでした。

量産二輪車初のHID

「なんでバイクはHIDを採用しないのか」

と悶々とした疑問を持たれていた方も多いと思うのですが、その理由は

・高電圧部分と運転手が近くなるので危ない
・自動光軸調整機能かライトウォッシャーが義務化

などの問題があったから。特に自動光軸調整機能(オートレベライザー)かウォッシャーの義務化がスペースのないバイクには厳しかった。

なぜHIDでそれが義務化されたのかというと

「HIDはあまりにも明るすぎるから」

です。

グレア(直接光)を食らった人はたちまち眼が眩むほど強烈で危ないと判断され法律で定められました。

そんな問題もありずっとハロゲンで凌いできたバイク界ですが、そんな状況を救ってくれるランプ史上最大の革新ともいえる新しいランプが21世紀に誕生。

【2007年LEDランプ誕生】

LEDヘッドライト

2007年にレクサスのLSから採用が始まったLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)ランプ。

バイクは上の写真にある1199パニガーレSトリコローレという300万円の高級車を皮切りに、今ではスーパーカブも採用するまでに拡大。

LEDが発光する仕組みは

・プラスの性質を持つp型半導体

・マイナスの性質を持つn型半導体

この2つを接合し電気を流すことでp型とn型のつなぎ目で電子がぶつかり、光が生まれる仕組み。

LEDが発光する仕組み

そんなLEDですが製品を見た方なら素子の表面が黄色くなっているのはご存知かと。

これは青色LEDに赤と緑の中間にある黄色のフィルターを掛ける事で白(RGB)を実現しているから。

LED素子

だからLEDヘッドランプの白っていうのは実は疑似白色だったりします。

ちゃんとRGBで白色化する方法もあるものの、コストや効率の兼ね合いで疑似白色が採用されているのが実情。

そんなLEDがどれほど優れているかというと

・電球の1/1000の応答速度
・電球の1/5、HIDの1/2の消費電力
・電球の10倍、HIDの5倍の寿命
・HIDよりもローコスト
・光に紫外線をほぼ含まない
・ハロゲンやHIDより小型

などなどエジソンも生きていたら腰を抜かすほど使わない理由がないメリットだらけ。

LEDデザイン

ただそんな中でもこのページで書きたいことは

『圧倒的な自由度』

にあります。

シールドビームがその典型ですが、これまで長々と話してきたライトバルブには全てサイズが規格化されていました。

ランプの系譜

それがLEDにはほぼ無いに等しい状態に。法規さえ満たせば発光体は何処に置いてもいいという反則級のメリット。極端な話、何処に何個でも付けられる。

それは見た目にもよく現れていて、わかりやすいのがマルチリフレクターがちょっと変わっていたりする事。

LEDのマルチリフレクターに対して

「光源が何処にあるのかわからない」

という印象を受けた事がないでしょうか。

バイクのDRL

それもそのハズで近年のLEDヘッドランプは”RXI”というマルチリフレクターとはちょっと違う光学技術が使われています。

RXI光学

こうすることで圧倒的にライトユニットの幅を小さく出来る。

これはLEDによってスペースの問題が解消された事や従来と違い光が180度までな事。

そしてもう一つ大事なのが

「熱しないから更にプラスチックが使えるようになった」

というのが大きな要因。プロジェクター式LEDのレンズが小さかったりするのもこれが理由。

LEDは半導体ゆえに”本体は”熱に弱いものの熱線も出さないので周りの物を熱したりはしない。また本体もエンジニアの方々の努力により80℃前後でプラスチックを溶かすほどの高温(150℃)にはならないようになった。

だから光源の近くに圧倒的に低コストかつ加工性抜群のプラスチック(ポリカーボネート)が遠慮なく使えるようになったという話。

シグネチャーランプ

『シグネチャーランプ』

と言われる線形のライトが可能になったのもこれによるものが大きく、これは光が拡散するように加工した導光板(または導光棒)に小さなLEDの光を当てることで表面を光らせている。上のPCXをよく見ると目尻の上から当てているのが分かるかと思います。

ところでシグネチャーランプに関して少し補足すると、これが流行ったのは

『2011年DRL(デイタイム・ランニング・ランプ)の義務化@欧州』

が大きな要因。これは名前の通り昼間用のヘッドランプを設けて点灯させろという話。

北米でも既にDRLは導入されていたのですが、それはヘッドランプの減光やウィンカーの常時点灯など併用でOKでした。

しかし欧州(世界基準)が導入したDRLは

「他のライトとの併用ダメ絶対」

という非常に厳しいもので新たにもう一つライトを付ける必要性が生まれた。その結果誕生したのがこのシグネチャーランプというわけ。

これはクルマの話でしかも日本ではDRLは禁止されていたため減光してポジションランプ代わりとして使用していましたが、2017年にクルマそして2020年末にバイクも解禁されました。

バイクは常時点灯なので今ひとつピンと来ない人も多いかと思いますが、これが何をもたらすかと言うとYZF-R1で見るとこう。

バイクのDRL

「昼間は結構明るいポジションランプだけに出来る」

という感じですね。

話を戻すと

・熱の問題
・消費電力の問題
・スペースの問題
・コストの問題

これらの問題を大きく改善したLEDヘッドランプ。そのおかげでこんな形まで生まれました。

多眼式LEDヘッドライト

『多眼式LEDヘッドランプ』

二輪で初めて取り入れたのは2018年からのGOLDWING/SC79。

よく見ると分かる通り小さいライトが無数に並んで居るのが分かるかと。

10個のLEDヘッドライト

ロービームだけで10個もの超小型プロジェクター式LEDを搭載しているだけでなく、レンズも非常に凝った形をしている。

LEDによる複眼化は昆虫チックと言いますか無機質な印象を与えますね。

10個のLEDヘッドライト

これが可能になったのは何度も言いますが、小型かつ省エネかつ熱線を出さない事からプラスチック化が捗るようになったから。

・中身が見えないカットレンズ
・キラキラのリフレクターと中央に鎮座するバルブ
・同じような丸い凸レンズが見えるだけのプロジェクター

というのが当たり前だった時代をこのLEDが終わらせました。

LEDならではの顔

ところでHIDのくだりを読まれているなら

「LEDも明るいけどオートレベライザーとか要らないのか」

という素朴な疑問が湧くと思いますが、この法規は正確にいうとHIDだからではなく

『2000ルーメンを超える場合』

もしくは車載レーダーカメラと連携して対向車へのハイビームを遮光する機能である

『配光可変型前照灯(ADB:Adaptive Driving Beam)を搭載した場合』

という基準だから2000ルーメン以下に抑えてADBを装備しなければ必要ない。

バイクのADB

逆に言うとR1250GSなどはこれに該当するのでオートレベライザーを装備していると言えますし、オートレベライザーを装備しているからルーメン数に縛られないとも言える。

これで終わりかと思いきや最後にもう一つ。

【2014年レーザーランプ誕生】

レーザーランプ

LEDチップの代わりに半導体レーザーを使う構造で、2014年に出たアウディのR8LMX(2905万円)が世界限定99台ながら量販車としては世界初。バイクの方ではまだ採用しているメーカーはありません。

半導体レーザーは早い話が反射を繰り返して真っ直ぐな光をどんどん増幅させて最後に突き破った光を光源にする形。

レーザーの仕組み

「もうLEDで十分じゃないか」

と思うかもしれませんがメリットを上げると

・LEDの1/10の発光サイズ
・LEDの三倍の輝度
・LEDの二倍近い照射距離

という感じで光が溢れ出るLEDと違い、光を積極的に生み出す形なので効率が良く、また省スペースでデザインの自由度が更に向上する。

レーザーヘッドランプ

効率が良いということは同じ半導体であるLEDよりウェハー(原材料)も小さくて済むので取れる数も増えコスト面での将来性も高いなどの強みがある。

また、遠くを照らすというのは自動運転技術(センシング技術)が苦手とする夜間走行において非常に重要なので採用が進んでいるという話。

ヘッドランプの照射距離

しかしこれはあくまでも通過点。将来的には10μm程度の大きさしかないマイクロミラー(いわば超小型のリフレクター)100万枚以上の集合体であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を使って反射させる

『DMD:Digital Micromiror Device(空間光変調器)』

を活用したADBの完璧な制御を目標としている。

DMDによるADBの制御

ADBというのは早い話が最近の車に付いている対向車に眩しくないようなハイビームコントロールで、現状はLED素子を横一列に並べて該当する箇所を点けたり消したりすること制御するアレイ式というのが一般的。

この方法でより精密な制御をするために解像度を上げようとしても

『LEDの数=解像度』

となってしまい何百個と並べる必要があるためコストが嵩む。

そこでキッチリな点光源が出るレーザーヘッドランプとDMD制御により解像度が大きく向上し、より精密な配光コントロールが可能になるという話。

ADBの仕組み

2018年に登場したベンツのマイバッハSクラス(約2300万円)が先陣を切ったものの今はまだコストの問題があることや、ここまではいかないもののLEDのままある程度の細かい制御をすることでコストを抑えた技術なども生まれているのでまだ普及は先の話。

h-digiモジュール

しかし上記に書いたとおりメリットが大きいので、いずれは広く採用される日が来るかと。

ただ如何せんバイクはスペースや法規の問題からハイビームコントロールといった配光可変型すら無いのが当たり前なので、この話題にはあまり関心が無いかもしれません・・・が、意外とそうでもない。

何故ならレーザーヘッドランプとDMDによる高解像度化が普及し発展していくとこういう事も可能になるから。

レーザーの仕組み

ヘッドランプの光を細かく制御することで文字などを投影する事ができるようになる。いつになるかは分かりませんが、これは期待せずには居られないですね。

バイク乗りの平均年齢が50歳を突破  -深刻な若者のバイク離れ-

バイク乗りの高齢化

バイクに乗らない人は「バイク乗り=若者」というイメージを持つことが多いようですが、実際はご覧のとおり50代~が圧倒的に多いという現実。

正に少子高齢化のグラフを見ている様ですが、バイクの場合さらに40~50代はちょうどバイク黎明期~バイクブーム世代なんですね。

その事もあってグラフがより偏ってしまうわけです。

まあ10代が少ないのは分かります。今の時代バイク買うお金は愚か免許代すら難しいでしょう。
問題は20~30代という本来ならバイク業界においてメイン層であろう年代の落ち込みです。

しかもただでさえ少ないのに離率も非常に高い。
さらに面白いことに性別で見ると女性ライダーは比較的人口は横ばいで、バイク離れを起こしているのは主に男性だそうです。

バイクを手放した理由~排気量別~(日本自動車業界調べ)

原付一種(~50cc)
1位「故障したから」 
2位「軽自動車の購入」 
3位「利用用途がなくなった」

原付二種(51~125cc)
1位「店が良くなかった」 
2位「駐車場の問題」 
3位「事故にあった」

軽二輪(126~250cc) 
1位「駐車場の問題」 
2位「体力に自信がなくなった」 
3位「バイク仲間が少なくなった」

小型二輪(~400cc) 
1位「仕事が忙しくなった」 
2位「私生活が忙しくなった」 
3位「別の趣味が見つかった」

小型二輪(401cc~) 
1位「子どもが出来た」 
2位「駐車場の問題」 
3位「維持費の問題」

メーカーや協会が訴えているのですが、一番大きな痛手となったのは「駐車禁止違反の強化&民間委託」です。

二輪用の駐輪場が完備されていないにも関わらず駐禁の対象にされ鬼のような検挙で問題となりましたね。

駐禁件数

今でも原付ですらおいそれとそこら辺に停められない時代です。

この件により、バイクを趣味や娯楽ではなく通勤や通学、ビジネスで使ってる人はどんどん電動自転車やロードバイクに移っているそうです。

更に20代を中心とした若者がバイク離れを起こすという事は、若者に人気のあるCB400を筆頭とした400ccクラスが売れないということです。

CB400SF客層
400ccクラス市場動向

もはや乾いた笑いしか出ないほどの急落ですね。

よく

「400は日本だけのガラパゴスバイクだから軽視される。」

と言われますが、こういう所にも理由があるんですね。

ガラパゴスなのにガラパゴスで売れないんじゃ話にならないワケですよ。

~400cc位までなら燃費良いし維持費も税金も車ほど掛からないんですけどね・・・

上記の通り世間では「若者の車離れ」ばかりが騒がれますが、「若者のバイク離れ」の方がよっぽど深刻なんですよ。

ショートストロークとロングストロークの違い

ロングストロークとショートストローク

バイクは燃費が良くてエコな乗り物なのは誰でも知ってると思います。

趣味の大型バイクでも実測で20km/Lなんて当たり前・・・なんて言うと

「リッター20なんていかないよ!嘘つかないで!」

と高馬力バイクの典型であるスーパースポーツに乗ってるオーナー等から怒られそうですね。SSは燃費悪いですから。

なぜSSというか馬力が高いバイクほど燃費が悪くなるのかというと、エンジンのスペックを決める最も重要な部分であるボアストロークの比率がショートストローク寄りだからです。

ロングストロークとショートストローク

ショートストロークエンジンというのはボア(シリンダーの内径)がストローク(上下する行程)の長さより大きいエンジンの事。

逆にストロークの方がボアの大きい(長い)エンジンの事をロングストロークエンジン、同じ長さの場合はスクエアと言います。

ロングストロークになるほど燃費と低速トルクが良くなるけど馬力が低くなる。

ショートストロークになるほど燃費も低速トルクも悪くなるけど馬力が高くなる。

ここまでは何となく知ってる人も多いかと。

どうしてショートストロークとロングストロークでこんなに違いが生まれるのかというと、馬力とトルクの違いにも繋がる話なんですが・・・

クランク

馬力とトルクって何ぞやって人も居るかと思います。馬力というのは簡単に表すと

「馬力=トルク×(クランクの)回転数」

で求められる・・・って言っても分からないですよね。まあ別に分からなくても何も困らないので大丈夫です。ただこの式をアタマに入れてください。

つまり馬力というのはトルクと回転数という要素を倍々で掛け合わせて出していくのですが、ロングストロークエンジンはショートストロークエンジンほど回転数を上げることが得意ではないので必然的に馬力を上げ辛くなる。

なんでロングストロークは回転数を上げられないかというとバルブという燃焼室の入り口が狭い事が原因。緑の丸がそうです。

ロングストロークとショートストローク

回転数が上がるということはバルブの開閉時間(吸排気時間)も短くなっていくので、バルブの口が狭いロングストロークでは吸排気が間に合わなくなる。

人間で例えるなら、ショートストロークが浅い呼吸なのに対しロングストロークは深呼吸。深呼吸を早く出来る人間なんていませんよね。

そしてもう一つ理由があります。それはその名の通りストロークが長いから。

コンロッド

ストロークが長いという事は上下するピストンスピードが速いという事で、その負荷にコンロッドが耐えきれず壊れてしまうんです。

逆にショートストロークエンジンはバルブ口も広く、ストローク量も浅く、ピストンスピードが遅いので

「回転数を上げられる=馬力を上げられる」

というわけ。

FI

これだけ聞くとショートストロークエンジンの方が勝っているように感じるけどもちろん違います。これらはあくまでも馬力を上げるとなった時の話。

最初に言った通りショートストロークなら馬力は稼げるけどロングストロークほど低速トルクを稼げません。

これは呼吸が浅い(低回転時の充填効率が悪い)事もありますが、いま言ったピストンの速さそれに燃焼室の広さが関係しています。

燃焼速度

エンジンはガソリンを燃やして発生した膨張圧力でピストンを押し下げる事(これがトルク)によりクランクを回して走るわけですが、燃焼によって生まれたエネルギーが100%ピストンを押し下げる圧力になるかというとそうではなく30%ほどしか使えていません。

残りの70%は何処に行ってるのかというと

・燃焼時に熱となって逃げてしまう冷却損失が30%

・排気ガスとして出てしまう圧力や熱の排気損失が30%

・機械同士の摩擦による機械損失が10%

大まかに分けてこうなっていて約70%も無駄にしてるわけです。

排気損失

“燃焼効率”というのはこれらの割合の事で、この70%のロスを1%でも減らし可能な限りピストンを押し下げる圧力にする事に何処のメーカーも血眼なのが現状です。それが燃焼効率を改善することが燃費にもトルクアップにも繋がるからですね。

そしてこのページでフォーカスを当てるのは熱として逃げてしまう冷却損失の部分。

冷却損失というのはガソリンを燃やした時にエンジン(ヘッド・シリンダーピストン)やオイルやウォータージャケット(冷却水)へ熱として逃げてしまう損失の事。

エンジン触ると熱いですよね。アレが冷却損失です。もったいない話ですがどうしようもない。

熱損失

「熱を逃さないようにすればいいのでは?」

と思うかもしれないけどそうするとエンジンが高温になりすぎてノッキング(自然発火による異常燃焼)、吸気温度上昇による体積効率(密度)の低下によるパワーダウン、内部への熱ダメージなどなど・・・いわゆる熱ダレ、オーバーヒートを起こしてしまう。

そんな冷却損失ですが、これもショートストロークとロングストロークで大きく変わってくるんです。

ショートストロークエンジンというのはビッグボア、径が大きいのでシリンダーの表面積(外径)も大きい。

ボア径による違い

つまりそれだけ熱として壁を伝って逃げる割合も大きい。更にショートストロークは文字通り

「ストロークが短い=ピストンが上下するピストンスピードが遅い」

ので更に損失が大きくなる。

そしてもう一つあります。それは燃焼伝播の問題。燃焼伝播というのは要するに混合気の燃え広がる速さです。

ロングストロークとショートストローク

表面積が大きいと端の方まで燃えるのに時間がかかる。ただでさえストローク量が短いのにチンタラ燃え広がるからピストンを押し下げる圧力(トルク)を稼げない。これが下スカスカと言われる原因。

じゃあなんでショートストロークエンジンが高回転になるとトルクを稼げてるかというと、ザックリ言って高回転になると流速が増し乱流(火炎を掻き回す気流)が発生するからです。

・・・低速トルクの大事さを書こうと思ったのですがショートストロークとロングストロークの説明になって少しボヤけてしまいました。

まあとにかくロングストロークとショートストロークそれぞれ得意不得意があるという事です。天は二物を与えずとはよく言ったものです。

余談ですがバイクのエンジンは燃費特化のスクーターや一部の車種を除くと基本的にショートストロークエンジンがほぼすべてを占めています。

CB1300エンジン

一見ロングストロークっぽく見えるCB1300でもボア78.0 × ストローク67.2とショートストロークエンジン。SR400ですらショートストロークです。

これはバイクの車重が軽く低速トルク(蹴る力)がそれほど要らないから。逆に車は重い上に燃費最優先なので低速トルクを稼げて熱を垂れ流しにくいロングストロークが大半。バイクとクルマの回転数がかけ離れてるのはこういったことから。

つまり最初に言った”バイクは低燃費でエコ”と言うのはエンジンが低燃費だからというよりも車重が軽いからで、内燃機関としてだけで見るとバイクはそれほどエコではなかったりする。

純正の排気音は巧妙に調律されている

良い排気音

「バイク乗りは排気音を聴くとバイクの楽しさを連想するから良い音だと感じる」

という話を『バイクの排気音がうるさいと言われる原因』というページで書いたんですが、しかしながらバイク乗りならどんな排気音でも良い音だと感じるのかといえば違いますよね。

典型的なのがシングルやツインのドコドコ音が好きな人も居ればマルチのモーターみたいな音が好きな人も居ること。

これはバイクに乗らない人が騒音と捉える事から排気音を音圧(音量)で判断する一方、バイク乗りは良い音と捉える事から音色(音の形)を含めて判断しているから。踊れるダンスミュージックが好きと言ってもテクノが好きな人もいればレゲエが好きな人もいたりするのと一緒。

排気サウンド

「そもそも音色(音の形)とはなんぞや」

という所から入る必要があると思うんですが、これが非常に難しい話で音響学いわく音には三大要素として

・音圧(音の大きさ)
・音域(音の高さ)
・音色(音の形)

があり音圧や音域はグラフで表せるものの、音色は複合的な要素から決まる心理要素なためグラフ化が難しい。

連想させる

複合的な要素というのは例えば音の立ち上がり方や減衰、基音だけでなく倍音やその他周波数とのバランス、位相(反射音)などなど様々な要素で決まるのが音色。

だから音色は主観が基準で

「温かいor冷たい」

「鋭いor柔らかい」

「澄んでるor濁ってる」

など数字ではなく形容詞で表現される。

でもこの複合的な要素があるからこそ人は同じドレミファソラシドでも何の楽器の音か、バイク的に言うと単気筒や四気筒などの排気音を聴き分ける事が出来て好みが生まれるという話。

気筒数による音色

とはいえ難しすぎるのでここらへんはすっ飛ばして、メーカーが良い排気音を出すためにやっていることについて物凄く簡単に話をしたいと思います。

メーカーが行っている排気音つまり音色を良くするための創意工夫として一番分かりやすいのが周波数(音の高さ)の調律です。

例えばバイク乗りは力強さを感じる事から100Hz以下の低音を好む傾向があると言われており、メーカーの開発者たちは100Hz以下の周波数を強めたりしているんですが、ここでミソとなるのが

「単純にその周波数の音圧(音圧)を上げているわけではない」

という事。

何故なら単純に強める、つまり音圧を上げてしまうと騒音規制をオーバーしてしまうから・・・じゃあどうしているのか。

『狙った音域(周波数)以外を弱める』

という事をやってるんです。

音域と音量

こうしてバイク乗りが好む音色、ひいてはバイク乗りが好む排気音を作っている。

具体的にどういう手段を用いているのかというと象徴的なのが

『レゾネータ(共鳴器)』

というやつで、NC750を例に出すとサイレンサーでエンジンから来る排気(音源)を多段膨張室という広い部屋に導き全体の音圧を抑えつつ(薄めつつ)、レゾネータ室でそれでも下がらない特定の周波数だけを抑えるノイズ除去のような事をしている。

レゾネーターによる調律

ただこのレゾネータはピンポイント消音というだけあり、径や体積がほんの少し変わるだけでノイズ除去どころかノイズ増幅装置となってしまい聴けたもんじゃない排気音になったりもする。

そんな紙一重の調整をメーカーの人たちは取り入れて排気音を作ってるんです。まさに調律といえますね。

ちなみにパンチング孔はピューという気流音を発生させないためにあります。

それ以外に良い音色のためにやっている事としては例えば膨張室式の部屋を減らすことで共鳴や籠もりを減らし歯切れを良くしたり、排気口の口径を大きくする事で低周波を強調させたりする手法。

レゾネーターによる調律

あと面白いのがエキゾーストパイプの径や長さをシリンダー毎に意図的にバラバラにするクルーザー系に多い手法で、そうすると何が起こるのかというと

「トッ、トッ、トッ、トッ、」

と本来なら奏でるところを

「ト、ドッ、ト、ドッ」

と奏でたり

「ドト、ドト」

と点火タイミングとはまた違う起伏がある排気音を奏でるようになる。狙いはもちろん鼓動感のある音色にするため。

もしかすると今ひとつピンと来ない人も居るかも知れません。でもそんな人ですら絶対に分かる音色を魅力的にする手法というか機構が一つある・・・それは可変バルブです。

音域の変化

バイクで有名なHYPER VTECを例に上げると、低中回転時は2バルブ駆動する一方で高回転になると4バルブ駆動になる。これは管楽器において吹き方を変えることと同義なので周波数ひいては音色がガラッと変わります。

この音色変化が乗り手を非常に高揚させる事が分かっている。

VTECサウンド

「VTECがたまらないぜ」

と酔いしれているオーナーが二輪四輪問わず多い要因は実はバルブ切り替えによる性能アップよりもこの

『音色変化という心理的な要素(加速感)』

が大きいんです。

ちなみに開閉制御がある排気デバイスや圧によって切り替わる復路化された排気吐出口なども同じような効果がある。

直近のモデルでいえばCBR1000RR-Rが非常に分かりやすいんですが、あれの排気音が凄く良いと言われているのもアクラポビッチだからではなく大きな音色変化があるから。

低回転域では従来の複室式で幅広く消音しつつ、高回転になると排気バルブが開いてストレート吸音型からの排気音が加わる。

VTECサウンド

一昔前の社外マフラーに多かったこの吸音型は500Hz以上などの高周波を大きく消音出来るものの低周波は消せない。これが結果として低周波を更に強調する形となり大きな音色変化を生む。だから良い音だと感じる人が多いわけ。

もちろん排気音の評価では音圧(音量)も大事な要素と言われているんですが騒音規制がある以上それには限界がある。

だからこそこういった創意工夫で

『心理に強く働きかける高音質な音色』

を奏でるようメーカーの開発者たちは調律している。

2018年頃から排気音が良いモデルが増えてるのを実感している人も多いかと思いますが、それもクリアする事で手一杯だった騒音規制が世界基準化という実質的な緩和され余裕が生まれた事と、世界基準化によって音色開発に対するリソースの集中が可能になったから。

つまり良い排気音を奏でるモデルが近年増えたのは音を大きくする事が出来るようになったというより

「調律の幅が広がったから」

と表現したほうが正しい。

自動車業界全体が俗に言うモノからコト重視への転換で、商品価値を高める要素として排気音の重要度を上げて

『消音から美音の時代』

になった事も関係していると思われます。

排気サウンド

しかしじゃあ排気系が担ってる1番の役割が良い音を奏でる事かといえば違いますよね。

ここが凄い所というか一番書きたかった所で、今こうやってザックリながら紹介した内容は

『排気に伴って出る音』

だけに絞った話。でも排気系が担ってる最も重要な役割は良い音を出す事じゃない。

『エンジンが出す排気ガスを上手く捌いて助ける』

というのが最も大事な役割。馬力や燃費といった走行性能に直結するからです。

そこで問題となるのが

「良い音を引き出す事と良い性能を引き出す事は必ずしも比例しない」

という事。

排気サウンド

例えばエキゾーストパイプをとてつもなく長くすると凄く低音が効いた音になるもののスペースや重量やマスの集中化といった問題、それに背圧や脈動(管内の圧力)などでエンジンの足を引っ張ってしまう。

途中で話した可変バルブだって音色を変えるためにわざわざ採用しているわけじゃないのは分かりますよね。

・消音の問題
・圧の問題
・重さの問題
・スペースの問題
・耐久性の問題
・コストの問題

排気系には音色を作る前にクリアしないといけない問題がこれだけあり、我々が当たり前に聴いている排気音という音色というのはそれをクリアしたうえで奏でている音なんです。

だからそれほど良い音だと思えない排気音を奏でるモデルも正直あるし、満足してないオーナーも少なからず居ると思います。

でもじゃあ

「疲れたり耳障りだったりする音か、バイクにマッチしていない音か」

と聞かれればそうではないでしょう。

何故ならそれもメーカーがそう思わせないように調律した音色だからなんです。

排気音の確認テスト

つまり何が言いたいのかっていうと純正の排気音というのはメーカーの人達がとんでもない手間と時間をかけて開発した

「実用的かつ官能的なハイスペック管楽器の音」

という事。だから開発でも一番モメる部分だったりするんだとか。