ZXR400/R(ZX400L/M最終) -since1993-

ZXR400final

「本当に作りたかったレーサーレプリカ」

ZXR400/Rの最終型になる93年以降(L3~/M3~)は自主馬力規制で53馬力に落とされ、中低速寄りにデチューンされました。厳密に言うと再びリファインされた翌年94年のL4~/M4~が最終ですが。

1993ZXR400カタログ

結局レーサーレプリカブームが去ったことと、馬力規制から市場が縮小し全日本ロードレース選手権TT-F3(4st400cc)が無くなってしまったためZXR400/Rもあえなく生産終了。

ただ筑波など辛うじて存続している地方400レース(4st400cc/2st250cc)では生産終了して15年以上経った今でもZXR400Rが当たり前のように走っています。

ZXR400Rでレースしてる人が居るというのが正しいけどね。他にもNSR250RとかCBR400RRとかも走ってるので、まるでレーサーレプリカ時代にタイムスリップしたかのような・・・話がソレました。

ZX400L4

そんなZXR400だけど本当ならばコレは世に出るはずではなかったバイクなんです。

このバイクの指揮を取ったのはレーサーZXRシリーズも担当していたデザイナー兼エンジニアの西村さんという方だったのですが、この方は91年のL1/M1型を最後にカワサキを退社されています。

エンジニアがキャリア最後の花としてフラッグシップモデルやスポーツモデルを担当するのは珍しい事ではないのでこれだけ聞くと大した事ではないように思えますが、裏には壮絶な実際は壮絶なドラマがあったんです。

ZXR400R/L3

何度も言ってきましたがカワサキは大成功したGPZ900Rの経験からアンチレーサーレプリカ路線、つまり

「レーサーレプリカは作らない」

という方針でした。先に出た2st250のレーサーレプリカであるKR-1の商業的失敗でその考えは更に強くなっていたと思います。

しかし西村さんを筆頭にカワサキのエンジニア達はレース技術を市販車に生かせない状況に我慢の限界が来ていた。

でも上は絶対にレーサーレプリカを承認しない。そこで上への報告用にアンチレーサーレプリカのダミー車を用意し、ZXR400/Rは秘密裏に開発するという荒業・・・というかお世辞にも褒められない手段を取りました。

もしかしたらそれがZX-4だったのかも知れないですね。わざわざ同じ四気筒400ccエンジンを新規でもう一つ作ったのもこれなら納得がいきますし。

ZX400L4

「一切妥協のない最速400を作ろう」

と西村さんはメンバーを説得し、皆もそれに呼応したわけです・・・わけですが、そう事は上手く行かず虚偽の報告が上にバレて西村さんは会社と喧嘩し辞めることに。

ここでZXRプロジェクトは頓挫するハズだったのですが、残されたメンバーたちが署名活動を行い、会社や西村さんに直訴することで西村さんはプロジェクトに復職。完成させる事が出来たわけです。

ZXR400/Rがとてつもない性能で登場し、フルモデルチェンジに近い年次改良を行い、その翌年には更に上を行くフルモデルチェンジという青天井な改良を重ね、卑怯と言われるまでの速さを誇った事。おまけで整備性や耐久性を軽視している事。

これらは会社はもちろんマーケティングやバイク屋そして購入して乗るライダーすらも無視し、エンジニアたちが作りたいように作ったからなんですね。

その好き勝手っぷりの締めとなるのは西村さんが最後に手掛けたとされるZX400L1型(初年度)にあたる1991年式ZXR400のボディーカラー。

初年度カラー

レーサーレプリカといえばスポンサーカラーやメーカー・チームカラーを連想させる多彩な色使いが当たり前の時代に、青や赤の単色カラーというレーサーレプリカにもカワサキにも全く関連性のない色。しかも黒フレーム。

ZXR400ラフデザイン

これは空力を考え抜いて作り上げた造形が”一番栄える色”という理由から。もう本当に、完全に自己満足ですね。

引責なのか自主的なのかは分かりませんが、指揮を取った西村さんはこのZXR400(L/M型)の完成を最後に退社することとなりました。今にして思えばアンチレーサーレプリカのゼファーとバッティング、矛盾するようなラインナップとなったものこの為でしょう。

ZXR400L1ブルー

現代のZXRであるZX-Rなどでも稀に出てくる青や赤の単色カラーは、もしかしたらこれの名残なのかも知れないですね。

お世辞にも商業的に成功したとは言えないZXR400/Rは

「カワサキの400レーサーレプリカ」

と言われるのが一般的ですが、その言葉の中には

ZXR400ファイナル

「カワサキの(エンジニア達がクビを覚悟で作った)400レーサーレプリカ」

という見えないドラマが隠されているわけです。

主要諸元
全長/幅/高 1995/710/1080mm
シート高 780mm
車軸距離 1385mm
車体重量 160kg(乾)
[159kg(乾)]
燃料消費率 45.5km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 398cc
最高出力 53ps/12000rpm
最高トルク 3.6kg-m/10000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/60R17(55H)
後160/60R17(69H)
バッテリー FTX9-BS
プラグ CR9EK
または
U27ETR
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量3.0L
交換時2.8L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前15|後45
[前16|後45]
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 739,000円(税別)
[839,000円(税別)]
※[]内はRモデル(M型)
系譜図
ZX400G1988年
ZX-4
(ZX400G)
ZX400H1989年
ZXR400
(ZX400H/J)
ZX400L

1991年
ZXR400
(ZX400L/M)

ZXR400最終

1993年
ZXR400
(ZX400L/M最終)

ZXR400/R(ZX400L/M) -since1991-

ZX400L

「未確認走破物体」

今まで我慢して溜まりに溜まった熱を一気に爆発させたかのようなZXR400だったけど、まだまだ熱が冷めやらぬようで3年目で再び大きくフルモデルチェンジ。

エンジン・キャブ・サスペンション・ブレーキ・フレーム、もうとにかくほぼ全て見直し。先代の時点でも驚異的な速さだったんだけど、このモデルでその速さは卑怯と言われるほどに。

ZX400L1

最後に登場して最後まで渾身のモデルチェンジを繰り返し頭一つ抜きん出た速さを持っていたため、もうこの頃になるとレースに出たいならZXR400R一択とまで言われる状況になりワンメイク状態。

しかもプロダクションモデルのRは緑しかなかったらレースも一面がグリーン一色になったりして、バッタしか居ないバッタレースとか言われる始末。

4st400ccレーサーレプリカ市場において締めを取ったのは間違いなくこのZXR400/Rでしょうね。

ZX400Lカタログ

熱い宇宙推しなカタログも話題になりました。

※ZXR400のネイキッドモデルになるザンザスは系譜の外側で書いてしまったので申し訳ないですが飛ばさせてもらいます。読まれたい方は「ザンザスの系譜|系譜の外側」をどうぞ。

主要諸元
全長/幅/高 1995/710/1080mm
シート高 780mm
車軸距離 1385mm
車体重量 160kg(乾)
[159kg(乾)]
燃料消費率 45.5km/L
[46.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 398cc
最高出力 59ps/12000rpm
最高トルク 4.0kg-m/10000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/60R17(55H)
後160/60R17(69H)
バッテリー FTX9-BS
プラグ CR9EK
または
U27ETR
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量3.0L
交換時2.6L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前15|後45
[前16|後45]
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 739,000円(税別)
[839,000円(税別)]
※[]内はRモデル(M型)
系譜図
ZX400G1988年
ZX-4
(ZX400G)
ZX400H1989年
ZXR400
(ZX400H/J)
ZX400L

1991年
ZXR400
(ZX400L/M)

ZXR400最終

1993年
ZXR400
(ZX400L/M最終)

ZXR400/R(ZX400H/J) -since1989-

ZX400H

「Racing Super Weapon」

何処からどう見てもZXRレプリカにしか見えない姿に変貌し車名も同じZXRとなったZXR400。奇しくもレーサーレプリカブームを止めたゼファーと同年(一ヶ月先)デビューです。

ZXR400に限った話ではないんだけどアンチレーサーレプリカを貫いていた事もあってカワサキはレーサーレプリカに乗り出すのが一番遅かった。

90ZXR400

もうこの頃になると各社ともモデルチェンジや年次改良を何代も重ねてきて最終型に近い形になっていた状況。当たり前だけど分が悪いにきまっている話。

ZX400Hカタログ

ところが要らぬ心配と言いますが後出しというハードルをクリアするどころか楽々と飛び越える性能と装備で登場したわけです。

ZXRのトレードマークでもあるフレッシュエアをエンジンヘッドに吹き付ける為アッパーからチューブが伸びているK-CASはもちろんの事、250と並んでクラス初となる倒立フロントフォークを標準で採用。レースで拝む事しかできなかったフロントフォークを最初から付けてきたわけです。 ZXR400カタログ

先代ZX-4には付いていたハザードや燃料計といった速く走ることに必要のないものも全て撤去。今までのアンチレーサーレプリカ路線は何だったのかと言えるモデル。

翌年の年次改良でもカム・バルブ・ピストン、スイングアームやサスペンション、バックトルクリミッター(K-BATL)と留まることを知らない改良。

少し遅れて出たプロダクション(レース)モデルのZXR400R(ZX400J)もこれまた凄くて、ハイカム、クロスミッション、シングルシートリアカウルを標準装備。

ZXR400R/ZX400J

翌90年には加速ポンプ付きFCRキャブレーターにフルアジャスタブル倒立フロントフォーク&別体リザーバー付きリアサスペンションなどなど本当に限度を知らない年次改良。

そのおかげかレースの方も全日本選手権F3(4st400部門)でカワサキとしては初となる優勝を90年に果たしました。ちなみにこの時のライダー鶴田さん(TEAM GREEN)は後のトリックスターレーシング創設メンバーで代表でもあります。

主要諸元
全長/幅/高 2035/705/1125mm
シート高 765mm
車軸距離 1395mm
車体重量 162kg(乾)
[159kg(乾)]
燃料消費率 45.5km/L
[46.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 398cc
最高出力 59ps/12000rpm
最高トルク 4.0kg-m/10000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/60R17(55H)
後160/60R17(69H)
バッテリー YB12A-AK
プラグ CR9EK
または
U27ETR
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量3.0L
交換時2.6L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前15|後45
チェーン サイズ520|リンク110
[サイズ520|リンク108※89及びR]
車体価格 686,000円(税別)
[723,000円(税別)]
※[]内はRモデル
系譜図
ZX400G1988年
ZX-4
(ZX400G)
ZX400H1989年
ZXR400
(ZX400H/J)
ZX400L

1991年
ZXR400
(ZX400L/M)

ZXR400最終

1993年
ZXR400
(ZX400L/M最終)

ZX-4(ZX400G) -since1988-

ZX400G

「時代に流されない魅力」

性能ではなくコンセプトの関係からカワサキ初の400レーサーレプリカと言っていいのか微妙な立ち位置だったZX-4。

これは既にあったGPZ400R(ZZR400/ZRX400の系譜)の派生ではなく全く別の400プラットフォームで作られたバイク。つまり当時カワサキは別々の四気筒400ccフルカウルバイクを2つもラインナップしていたということ。

ZX-4の最大の特徴はクラストップの車重。乾燥重量152kgは84年に出たGSX-R(400)と並んで今もなお破られていない軽さ。

ZX400G

これはE-BOXフレームというアルミツインスパーフレームなのと、GPZ400系のセンターカムチェーンと違いサイドカムチェーン方式を取り入れた新設計エンジンによるもの。

たしかGSX-R750の方でも言ったけどサイドカムチェーンだと何が良いのかというとまず吸気の流れがストレートになることで吸気効率が上がる事。そしてもう一つはコンパクト、つまり軽く出来るという事。

センターカムチェーンとサイドカムチェーン

センターカムチェーンの場合シリンダーとシリンダーの間に敷居を設けトンネルを開けてやらないといけないんですが、サイドカムチェーンだとその壁が一枚で済む。結果として幅と軸受を減らせてコンパクト軽量化に繋がるというわけです。

チームグリーンZX-4

これらによって59ps/152kgという驚異的な軽さと速さを持っていたことからZX-4ベースのワークス車両ZXR-4は鈴鹿四時間耐久レース(当時は600ではなく400)で見事優勝。

名実ともに誇れるレーサーレプリカ・・・になるはずだったのですが、不人気さから僅か1年ほどでZXR400へとモデルチェンジし生産終了となりました。

チームグリーンZX-4レプリカ

最新の造り、クラストップの軽さ、レースで優勝、これだけの要素を持っていながらも売れなかったのは正直デザインかな。

4st400ccのレーサーレプリカといえば今で言えば600ccのスーパースポーツ的な立ち位置。そんなカリカリのスーパースポーツ市場でこの良く言えば落ち着いたデザイン、悪く言えば野暮ったいデザインはとても軽そうにも速そうには見えなかった。

ZX-4とGPX400

同時期にラインナップしていたスポーツツアラーのGPX400Rと同系なデザインだった事もあると思います。

最初のキャッチコピーもあるようにアンチレーサーレプリカという信念とレーサーレプリカを作りたい開発のズレが生んだバイクなのかもね。

主要諸元
全長/幅/高 2035/715/1130mm
シート高 765mm
車軸距離 1395mm
車体重量 152kg(乾)
燃料消費率 45.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 398cc
最高出力 59ps/12000rpm
最高トルク 3.9kg-m/10500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(53H)
後140/60R18(64H)
バッテリー YB12A-AK
プラグ CR9EK
または
U27ETR
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量3.0L
交換時2.6L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前15|後44
チェーン サイズ520|リンク106
車体価格 698,000円(税別)
系譜図
ZX400G1988年
ZX-4
(ZX400G)
ZX400H1989年
ZXR400
(ZX400H/J)
ZX400L

1991年
ZXR400
(ZX400L/M)

ZXR400最終

1993年
ZXR400
(ZX400L/M最終)