「何の制約も無しに自由に二輪車を作れるなら何を作るか」
Ninjaシリーズ30周年を記念して発売されたH2とH2R。
カワサキが出した答えはスーパーチャージャー付きのバイクでした。
「直四でトレリスフレームにプロアームに星形ホイール」
これだけ聞くとアグスタF4かと思いますね。
「カワサキなのに何故バックボーンでもツインスパーでもなく、トレリスフレームなんだ」
という所なんですが、これだけのパワーを真正面から受け止める事は不可能、だから”耐えるアルミ”ではなく”撓って吸収する鉄”のトレリスフレームで行くと決めたようです。
専用設計で剛性をフルオーダーメイドのように細かく設定出来る事や、排熱やダクトを考えると塞いでしまうツインスパーよりもトレリスの方が相性が良いという事もあったかと思います。
まあそれより何より量販車初となるスーパーチャージャー。
車では聞き慣れた技術だけど、バイク一辺倒な人はスーパーチャージャーって聞いてもピンと来ない人も居ると思うので簡単に説明すると。
エンジンの最大の課題の一つは吸気なわけですが、如何に効率よく空気をエンジンに送り込めるかが大事なわけで。
最近のハイパワー車では当たり前となった大きく口の空いたラムエアダクトも空気を吸って走行風を利用して空気を無理やり送り込む為にある。でも当然ながら走行風も相当な強さのものが必要なので効果があるのは200km/h以上出てる時だけ。
「強制的に押し込めるようにタービン(コンプレッサー)を付ければいい」
っていうのがターボチャージャーとスーパーチャージャー。
ターボはエンジンから勢いよく出て行く排気ガスの力を使ってタービン(プロペラ)を回して空気を送り込む方法。
排気ガス(排気圧)って燃焼運動において一番無駄にしてるエネルギーだったりします。
ただ排気ガスを利用しているだけあってどうやってもターボは
吸気
↓
燃焼
↓
排気
↓
タービン
↓
ターボ吸気
となるのでタイムラグが出来てしまう。
対してこのH2でも採用されてるスーパーチャージャーっていうのはピストンが付いているクランクの回転を使って回す方法。
ターボの様に排気ではなくエンジンから直接動力を取ってるので
吸気
↓
燃焼(クランク)
↓
タービン
↓
ターボ吸気
となるのでラグが少ない。
その変わり捨てていた排気エネルギーを使っているターボと違い、クランクから取っているので効率はターボと程は良くない。
ただバイクに限って言うと間違いなくスーパーチャージャーの方が相性が良いでしょう。アクセルワークでタイムラグがあるというのはバイクにとっては致命的。
タービンを回すためにエキゾースト(排気)をすぐに収束する必要があって糞詰まりしてしまうターボと違って排気系が自然吸気と同じ様に出来る事も大きいです。
ただし、恐らく車に詳しい方ならH2のスーパーチャージャーを見て疑問に感じると思います。
一般的にスーパーチャージャーというのは、ローターを回転させて圧縮する容量形(リショルム式やルーツブロア式)が基本。
ところがH2のコンプレッサーはペラを回し遠心式で圧縮する遠心形なんです。これ本来ながらターボで使われる方法。
なんでこんな事をしてるのかというと、自動車の多く採用されている容量式は嵩張って重い上に、クランクの高回転についていけずレスポンスが落ちるから。
だからペラで圧縮する回転式にした。
簡単に言っていますがクルマと違いバイクはクランク自体が超高回転。H2Rでは16000rpmまで回ります。
そしてこのペラはその更に8倍速、最大13万回転/分で回る。これを達成させるにはミクロン単位の精度を出さないといけない。
これはカワサキが高いガスタービン技術を持っていたから可能だったこと。
「カワサキではなく川崎重工(全体)の製品」
と言っているのはこういう所からなんですね。
そんなターボみたいなスーパーチャージャーなんですが、更に凄い事があります。
空気は圧縮すると物凄く熱くなる性質があります。それをエンジン内で更に圧縮すると更に高温になり、意図しない異常燃焼(ノッキング)の問題が起こる。
熱くなるほど膨張するので吸気充填効率も悪くなります。
だからターボもスーパーチャージャーも圧縮した空気をエンジンに送る前にインタークーラーという一旦冷やす冷却器を通すのが一般的。
車のボンネットにある郵便ポストとかもですね、昔はそれがターボの証でした。
話を戻すと、H2にはその大事なインタークーラーが付いてないんです。
正確に言うと
“付けなくても冷やせるようにしている”
です。
普通ならばプラスチックを使う部分であるエアクリーナーボックスやファンネルをH2ではアルミ製にしている。
熱伝導率が高いアルミを使うことで
吸気口
↓
チャージャー
↓
アルミインテーク(ここで熱を奪う)
↓
アルミファンネルネット(ここでも奪う)
↓
エンジン
となってるわけ。
これにシリンダーヘッド周りの冷却経路を使った冷却も加わっています。
本当にそれで大丈夫なのかと一部で話題となりました。当たり前ですが、本当に大丈夫でした。
徹底的な吸気効率を上げることで熱を篭もらせない様にしているそうです。アンダーカウルを付けなかったにも、熱を篭もらせないためなんだとか。
当たり前ですが、凄いのはエンジンだけじゃありません。
他にもまだまだ色々あるんですが、もう一つ挙げるとするならカウル造形。
これは航空宇宙部門の技術に基いて設計したもの。
チャージャーのガスタービン技術もそうですがH2が凄いのは
「部門に作らせた」
ではなく
「二輪に技術移管させて作った」
つまり、川崎重工の技術を全て二輪部門に集約して作ったというのが凄いんです。
川崎重工の技術力とブランド力を知らしめる為のバイクであり、川崎重工の技術自慢バイクでもあるわけです。
生産ももちろん少数または一人一人が一台を担う手作業での組み立て、部品の選別も手作業です。
これで3,024,000円(2017年時点)。安くは無いけど、決して暴利ではないかと。
2017年にはマイナーチェンジが入りZX1000X型に。
ちなみに下のの写真はアッパーカウルがカーボン仕様となっている限定モデル。
目立つ変更点としては
・5馬力アップ
・KCMF(コーナリングマネジメント制御)
・OHLINSリアサスペンション
・アップダウン両対応クイックシフター
・メーターやエンブレムの変更
といったところです。
更に2019年モデルでは再びモデルチェンジされZX1002J型に。
・231馬力にUP
・ブレンボキャリパーをM50からStylemaに
・自己修復塗装
フルカラーTFTメーター
・フルLED化
・RIDEOLOGYアプリ対応
などなどの変更が入っています。
なんだかモデルチェンジの流れが完全にスーパーカーと同じですね。
主要諸元
全長/幅/高 | 2085/770/1125mm |
シート高 | 825mm |
車軸距離 | 1445mm |
車体重量 | 238kg(装) |
燃料消費率 | {15.3km/L ※WMTCモード値} |
燃料容量 | 17.0L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC四気筒 |
総排気量 | 998cc |
最高出力 | 200ps/10000rpm [205ps/11000rpm] {231ps/11500rpm} |
最高トルク | 14.3kg-m/10000rpm [13.6kg-m/10000rpm] {14.4kg-m/11000rpm} |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前120/70ZR17(58W) 後200/55ZR17(78W) |
バッテリー | YTZ10S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
SILMAR9B9 |
推奨オイル | カワサキ純正オイルR4/S4 または MA適合SAE10W-40 |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量5.0L 交換時3.9L フィルター交換時4.4L |
スプロケ | 前18|後44 |
チェーン | サイズ525|リンク118 |
車体価格 | 2,500,000円(税別) [3,100,000円(税別)] {3,300,000円(税別)} ※[]内は17以降(ZX1000N) ※{}内は19以降カーボン(ZX1002J) |