Z H2/SE(ZR1000K/L)-since 2020-

ZH2

「THE NEW Z」

新たなフラッグシップZとして登場したスーパーチャージャー付きのZ H2/ZR1000K型。

ベースとなっているのはスーパースポーツ系のH2ではなくバランス型のH2SXですが、SXを剥いただけかというと全く違います。
・アップライトのファットハンドル
・フレームマウントのヘッドライト
・剛性を下げしなやかにした専用フレーム
・バルブタイミングと燃調を中低速寄りに変更
・FI口径の小径化
・二次減速比をショート化
・両持ちスイングアーム
・触媒内蔵サイレンサー
・クイックシフター
・SHOWA製SSF-BF
・ホイールを星型から6本スポークに
・ブレンボM4.32モノブロックキャリパー
・フルカラーTFTメーター
・インテグレーテッドライディングモード
(トラコンや出力モードの包括的な切替機能)
・RIDEOLOGYアプリに対応
・Kawasaki Care+

などなどSXよりちょっと豪華になっているんですが、決定的に違う部分としてZ H2はストリートファイターというかネイキッドでポジションが起き気味なことと装備重量もSX比マイナス20kgの240kgと軽量化がされていること。

ZH2のデザイン

デザインの方も

『SUGOMI&Minimalist』

というコンセプトに沿って外装も最小限にはなっているんですが、スーパーチャージャーのエアインテークダクトを前に出さないといけない事もありネイキッドとしてはフロントが大きめで低めのハーフカウルが付いているような形。

更に翌2021年4月には豪華版となるZ H2 SE/ZR1000L型も登場。

ZH2SE

・KECS(電子制御サス)
・スカイフックEERA(電子制御アジャスト)
・ブレンボStylema(上位ブレンボキャリパー)
・ブレンボマスターシリンダー
・スーパーチャージャーエアインテークの銀鏡塗装
・スーパーチャージャーの赤刻印

などとなっているんですが、Z H2が発売されて何が一番衝撃だったかというとH2シリーズにしては凄くお買い得な価格設定だったこと。

H2 Carbon3,300,000円
H2SX SE+2,570,000円
H2SX SE2,220,000円
Z H2 SE1,980,000円
Z H21,720,000円

なんとH2CARBON一台でこれを二台買えちゃうほど安い。スカイフックテクノロジーを搭載した電子制御サスEERA(イーラ)を装備したSEモデルですら税別で200万円を切る安さ。

ちなみにスカイフックテクノロジーというのは簡単に説明するとサスペンションが沈み込んで戻る時の戻りすぎ、反動に近い制御をダンパーの電子制御で最小限に抑え込む技術。

「通常の電子制御サスペンションEERA(イーラ)と何が違うの」

という話をザックリすると、もともとサスペンションには”スカイフック”という究極の乗り心地理論みたいなものがある。

スカイフックの仕組み

こうして車体を宙吊りにすればどれだけサスペンションが動いてもバネ上のピッチング(前後の姿勢変化)が無くなるから最高の乗り心地になるという話なんですが、文字通り空から吊るすというのは現実問題として不可能。

なので車体に備えられたIMU(慣性計測装置)とサスペンションに内蔵されたストロークセンサーで車体姿勢を完全に把握し、減衰力を1/1000秒単位で素早く変え抑えることにより

『バネ上に挙動を可能な限り伝えないようにする制御』

というのが先に四輪の方で生まれ、今回それが二輪でも加わったという話。

スカイフックテクノロジー

これの効果はいま話したように乗り心地の大幅な向上なんですが、しかし一方でレインモードでしか採用されていない事からも分かる通りバネ上に乗っている形であるライダーも車体姿勢を把握しにくくなってしまうので少し違和感が生まれるのもまた事実。

だからこれはスポーツ系装備というよりも乗り心地を向上させる巡航向けのまったりシステムと言った方が良い感じ。

ZH2フロント

「じゃあなんでネイキッドのZに付けられたのか」

って話ですが二者択一の装備ではなくボタン一つでどうとでも変えることが出来る電子制御サスペンションで、先にも言ったようにZ H2はフロントマスクが結構たくましく楽なポジションも相まって普通に巡航もロングスクリーンを付ければイケるという要素を狙ったんじゃないかと。

ただZ H2で何よりも書くべきはスーパーチャージャー。

スカイフックテクノロジー

「いやいやスーパーチャージャーなのはもう知ってるよ」

って人も多いかと思います。でもこれが出たのは本当に凄いことであり、これがH2シリーズの真打ちじゃないかと。

というのも重ねて言いますがバイクで過給が根付かなかったのは急激なトルク変動がマンマシンの一体感というバイクにとって非常に大事な要素を阻害する、もっというと危なかったから。

そんな常識がある中でその危うさを極致下においてエキサイトメントという武器にしたのが第一弾のH2/R。そしてワンクラス上のパワーで余裕を持って走れるダウンサイジングに近い考えを武器にした第二弾のH2SX/SE。

そしてそして低中速寄りにチューニングしポジションも取っつきやすいアップライトで比較的軽く振れるフレンドリーさを武器に出た第三段がZ H2/SE・・・そう、Z H2は過給を積極的に楽しむことを武器にしている。

「ストリートでスーパーチャージャーを気軽に堪能出来る」

という本当に世が世なら間違いなく許されなかったであろう企業の社会的責任ギリギリを責めたコンセプトになっている。

エンジン性能

信号ダッシュや交差点からの立ち上がり、前が開けた時などあらゆる日常シーンで目と鼻の先にブーストゾーンがある。

ポジションもアップライトだから簡単にフロントが離陸すると同時に、身構えないと首を痛めてしまうほどのワープを

「キュルルル、ヒュルルル」

というタービンが生む音と一緒に”比較的誰でも簡単にそこら辺の道で”堪能出来るようになっている。Z H2がH2シリーズの真打ちじゃないかと思う理由はここ。

カワサキH2シリーズ

これこそがスーパーチャージャーが最も活きる使い方だから。

重ねて言いますが、この手軽にブーストはエンジン(クランク)から動力を貰うスーパーチャージャーだからこそ可能なこと。

スーパーチャージャーの構造

ターボだとこうはいかない。何故なら排気を動力源にするターボはある程度の排圧がないと首を痛めるほどのブーストが効かないから。

もちろんデメリットもあって高回転になるとターボのほうが効率が良い。でもそれはあくまでも高回転域での話でストリートでは難しいうえに、吹け上がりや排気音もタービンに邪魔されて濁ったものになる。

つまり何が言いたいのかというと

「このZ H2はスーパーチャージャーを本当に上手く活用してる」

という事。でもだからこそ本当にギリギリアウ・・・じゃなくてセーフ。

ZR1000K

過給機が載っていることが武器ではなく、過給による変化をそれもストリートで楽しむことを武器にしている。

間違いなく乗り手をブースト依存症にし、右手との戦いを一番強いるネイキッドというか別の意味でストリートファイター。

H2シリーズの展開においてカワサキ広報さんが話されていた

「より多くの方にスーパーチャージャーを」

という文言の”多くの方”というのは単純に台数を出す云々の話ではなく、まさかスーパーチャージャーというアドレナリン放出機能の真髄を広く知ってもらう事だったとは。

主要諸元
全長/幅/高 2085/810/1130mm
[2085/815/1130mm]
シート高 830mm
車軸距離 1455mm
車体重量 240kg(装)
[241kg(装)]
燃料消費率 16.9km/L
※WMTCモード値
燃料容量 19.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 200ps/11000rpm
最高トルク 14.0kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/55ZR17(75W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR9E9
推奨オイル カワサキ純正オイルR4/S4
または
MA適合SAE10W-40
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.7L
交換時3.5L
フィルター交換時4.3L
スプロケ 前18|後46
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 1,720,000円(税別)
[1,980,000円(税別)]
※[]内はSE/ZR1000L
系譜図
マッハ31969年
500SS MACH3
(H1)
マッハ41972年
750SS MACH4
(H2)
H22015年
Ninja H2
(ZX1000N/X/ZX1002J)
H2R2015年
Ninja H2R
(ZX1000P/Y)
H2SX2018年
Ninja H2SX/SE
(ZX1002A/B/D)
zh22022年
Z H2/SE
(ZR1000K/L)

H2SX(ZX1002A/B/D) -since 2018-

H2SX SE

「SUPERCHARGE YOUR JOURNEY」

H2のツアラーモデルになるH2SXとSE。

2017年型H2RがZX1000Yで、ZX-10RRがZX1000Z。アルファベット使い切ったから次から何になるのかなと思ったらZX1002A(無印)とZX1002B(SE)でした。まあそんな事はどうでもいいか。

H2とNINJA1000を掛け合わせた様な見た目で、価格とポジションとがH2よりも優しくなっています。

ポジション

ハンドルがH2よりも上げられてZX-14Rより優しいくらい。NINJA1000ほど優しくないしシート高は変わりません。

車体価格の方もH2が$28,000なのに対しH2SXは$19,000なので日本ではSXが210万円、SEが240万円・・・H2よりは現実的な価格ですね。

フルアジャスタブルサス、トラコン、クルーズドコントロールといったフル電子制御+スーパーチャージャーと考えれば、お買い得か。

シートレール一体のトレリスフレームはもちろん、エンジンもタービンもSX用に新たに設計されたもので、吸排気を絞ることで中低速の厚みと燃費を改善。といっても200馬力ですが。

車重が増えている事から見ても、各部のアルミを鉄へ置き換えて価格を抑えている様ですね。

コンフォートシート

装備としては乗り心地の良さそうなコンフォートシートやハンドルグリップ、ハイプロテクションスクリーンなどツアラーとしてのツボは抑えてある。

オプションはフルフェイスがスッポリ入る28Lパニアケース、そしてなんとセンタースタンド。

H2SX/SE

豪華版であるSEにはそれに加えて

・フルカラーTFTメーター

・コーナリングLEDライト

・ハイスクリーン

・クイックシフター

などを装備しています。

H2SXとSEの違い

サイドカウルに付いているのはウィンカーではなくLEDライトです。

そして2019年からはSEの豪華版としてH2SX SE+(ZX1002D)も登場。

H2SX SEプラス

SEに加えSHOWAと共同開発した電子制御サスペンションKECSと最新のブレンボキャリパーを装備したモデル。

他にもスマホ連動アプリRIDEOLOGYへの対応なども加わっています。

それにしてもツアラーまでもがクイックシフターの時代なんですね。

クイックシフターっていうのはクラッチ操作無しでギアチェンジ出来る装備。しかもH2SX SEに付いてるのはアップダウン両対応の良いやつ。

スーパーコンピューター京

ところで唐突ですがバイク乗りの間でKといえばKAWASAKIですよね。

しかしIT業界でKといえば筐体数864台、CPU9万個を並列に連結しているスーパーコンピューター京です。

スーパーコンピューター京

1秒間に1京回の計算をする事から

「京(K computer)」

と名付けられました。

家庭用のハイスペックパソコンで200年以上かかる計算を1日でやってのけるんだとか。

それがなんだって話ですが、スーパーコンピューターは計算速度が段違いなら消費電力も段違い。

比較的エコとされる京ですらフルロードさせると最大で約1万3000kw(約4,500世帯分の電力)が必要。

そんな膨大な電力をどうしているのかというと、半分は関西電力から、そしてもう半分は実は川崎重工業のガスタービンが担っているんです。

PUC60内部

6000kW級の発電機二機が京を支えています。

節電と片方が切れても大丈夫なように交互運転してるわけですが、凄いのはそれだけじゃないんです。

このガスタービン、UPS(無停電電源装置)の役割も備えている。

PUC60

万が一、何らかの理由で電力が届かなくなってもカワサキのガスタービンがフル稼働して保護。

最悪の場合このガスタービンだけで運用できる様になっているというわけ。設計ももちろん川崎重工業。

「H2関係ないじゃん」

と言われそうですが実はそうでもないんです。

スーパーコンピューター京は2012年から共用運用、つまり

「京の力が必要なら審査の上で使用許可を出す」

という感じで公募が始めました。

そんな中で京の発電部分を担ったコネを活かしたのか川崎重工業は見事に選定。

そして京を使って何をしたかというと

カワサキガスタービン

「タービンの気流解析」

を行なったんです。

究極の空気圧縮機を目指し、通常の何倍もの速さでシミュレーションを熟すスーパーコンピューター京でそんな事をやっていた。

H2SXカタログ写真

そう、2015年に登場したH2のペラは京を使ってシミュレーションした世界最高の発電効率技術を持つガスタービン部門の技術。

つまりH2の中にはスーパーコンピューター京の力も含まれているというわけ。

これが本当のKKコンビ・・・なんちゃって。

主要諸元
全長/幅/高 2135/775/1205mm
[2135/775/1260mm]
シート高 820mm
車軸距離 1480mm
車体重量 256kg(装)
[258kg(装)]
{262kg(装)}
燃料消費率 17.9km/L
※WMTCモード値
燃料容量 19.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 200ps/11000rpm
最高トルク 14.0kg-m/9500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/55ZR17(75W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR9E9
推奨オイル カワサキ純正オイルR4/S4
または
MA適合SAE10W-40
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.7L
交換時3.5L
フィルター交換時4.3L
スプロケ 前18|後44
チェーン サイズ525|リンク120
車体価格 1,850,000円(税別)
[2,220,000円(税別)]
{2,570,000円(税別)}
※[]内はSE(ZX1002B)
※{}内はSE+(ZX1002D)
系譜図
マッハ31969年
500SS MACH3
(H1)
マッハ41972年
750SS MACH4
(H2)
H22015年
Ninja H2
(ZX1000N/X/ZX1002J)
H2R2015年
Ninja H2R
(ZX1000P/Y)
H2SX2018年
Ninja H2SX/SE
(ZX1002A/B/D)
zh22022年
Z H2/SE
(ZR1000K/L)

H2R(ZX1000P/Y) -since 2015-

H2R

クローズド専用タイプになるH2R。

H2の200馬力に対して310馬力と一気に100馬力以上のアップ。いやアップというかH2Rの上をカットしたのがH2と言ったほうが正しいです。

なんでカットしてるのかって言うと騒音は勿論なんだけどそれより耐久性の問題で、H2に対しこのH2Rはクローズド専用って事でその耐久性を無視してる。

H2Rディメンション

だからH2Rはマニュアルによると

「8000rpm以上での走行時間が15時間に達する毎にオーバーホール」

だそうです。

さぞスペシャルなエンジンをしているんだろうなと思ったんですが、意外なことにH2とH2Rの主要部品はカムとクランクが違うくらいでほとんど同じ。

H2Rタービン

H2から+100馬力の過給というのは、それだけ負担があるということですね。

そんなH2Rの最大の特徴はやっぱりウィング。

始まりはZZR1100のテールカウルだったでしょうか。それから12Rのサイドカウルに採用され、H2Rで遂にアッパーカウルまで付いた。

H2Rフェイス

クローズド専用なだけあって遠慮なく伸びてます・・・

「ここまで来ると飛べそうだな」

なんて思ったら後のカワサキモーターサイクルフェア2017でこんなCGが。

H2-AIR

「H2-AIR Type-1」

航空宇宙部門が手がければ本当に飛べるみたい・・・冗談に聞こえない悪ノリですね。

H2Rサイドフェイス

話を戻すと、H2Rはアッパーカウルは勿論のことインナーパネルまでもカーボンを使い、触媒も保安部品も取っ払ったおかげでH2より20kg以上軽い216kgとなってます。

ちなみに斜めにカットされたフルチタンサイレンサーは直管だから120dbと物凄く音がデカい。

H2Rサイレンサー

飛行機のエンジンを間近で聞くのと変わらず会話も出来ないレベルです。

だから公道はおろかサーキットでも場所によっては走れない。鈴鹿や茂木も無理じゃないかな。

それじゃ駄目だろと思うのですが

「引っ掛かる時は社外に変えてね」

との事・・・いや逆ですよね普通。

そんな川重の結晶の様なH2Rですが実は唯一、川崎重工グループ外で開発に多大な貢献をしたメーカーがあります。

ブリジストン

皆さんご存知ブリヂストンです。

カワサキからH2/H2R製作にあたって

「最高時速350kmに耐えるタイヤが無いから作って」

とお願いされたんです。

BS開発部の青木さんいわく、タイヤへの負担というのは速度に対して二次曲線的に挙がってしまう特性。だから300km/hと310km/hでもタイヤへの負担は全く違う。

それを踏まえた上でもう一度。

H2Rアタック

「最高時速350kmに耐えるタイヤを作って」

なんて言われたら目ン玉が飛び出るほど驚いても無理がない話。

「Kawasakiは一体何を・・・」

となる。MotoGPとほぼ変わらない速度レンジなわけですから。

でもソコは流石ブリヂストンと言うべきでしょうか、MotoGP用のタイヤ設備でMotoGPで培った技術を元にH2開発チームに飛び入り参加し開発。

H2Rタイヤ

そして出来上がったのがレーシングバトラックスV01というクローズド専用タイヤ。

しかも市販品よりも先に作られた先行品でH2R専用のオーダーメイドタイヤです。

ローレット加工ホイール

時速350kmが如何に厳しい域なのかをローレット加工(リムの滑り止め)が表していますね。

ちなみにH2Rも2017年にマイナーチェンジが入りZX1000Y型となりました。

2017年型H2R

内容はH2と同様なので割愛します。

ところでH2/H2RといえばTeam38という言葉を目にした事があると思います。

チーム38(サンパチ)

このTeam38(サンパチ)は1975年にカワサキ社員が自主的に集まって結成された歴史あるチーム。

名前の由来は拠点が川崎重工の第38工場だから。

カワサキが84年にワークス撤退を決めた際も

GPZ750Rチーム38

「バイクメーカーがレースを止めてはいけない」

と自社のバックアップやお金が無い中でもプライベーターとして参戦し続け、ワークス復活までライムグリーンを途絶えさせなかった熱いチーム。

チーム38メンバー

H2/H2Rはそんな熱い人達が中心となって作ったバイク・・・ですが、何故にここまで突き抜けたバイクを作ったかというと

「最近のバイクは高性能だけど面白くない」

という声が多く聞かれるようになったから。

だからこそのスーパーチャージャー。どの速度域からでも、蹴られるような、乗り手を振り落とすような加速を持たせたかった。

未亡人製造バイクと言われ今も愛されるマッハ3の様なバイクを作ろうとなった。

H2/H2Rはラップタイムを縮める事が目的のSSではありません。フレームもヘナヘナだし従順でもない。

川崎重工製H2

でもそれでこその”H”なんです。

いつの間にか消えてしまったジャジャ馬バイクの再来というわけ。

主要諸元
全長/幅/高 2070/770/1160mm
[2070/850/1160mm]
シート高 830mm
車軸距離 1450mm
車体重量 216kg(装)
燃料消費率
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 310ps/14000rpm
最高トルク 16.8kg-m/12500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/600R17
後190/650R17
バッテリー
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR9B9
推奨オイル カワサキ純正オイルR4/S4
または
MA適合SAE10W-40
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量5.0L
交換時3.9L
フィルター交換時4.4L
スプロケ 前18|後42
チェーン サイズ525|リンク116
車体価格 5,400,000円(税込)
[5,940,000円(税込)]
※[]内は17以降(ZX1000Y)
系譜図
マッハ31969年
500SS MACH3
(H1)
マッハ41972年
750SS MACH4
(H2)
H22015年
Ninja H2
(ZX1000N/X/ZX1002J)
H2R2015年
Ninja H2R
(ZX1000P/Y)
H2SX2018年
Ninja H2SX/SE
(ZX1002A/B/D)
zh22022年
Z H2/SE
(ZR1000K/L)

H2(ZX1000N/X) -since 2015-

H2

「何の制約も無しに自由に二輪車を作れるなら何を作るか」

Ninjaシリーズ30周年を記念して発売されたH2とH2R。

カワサキが出した答えはスーパーチャージャー付きのバイクでした。

H2サイド

「直四でトレリスフレームにプロアームに星形ホイール」

これだけ聞くとアグスタF4かと思いますね。

「カワサキなのに何故バックボーンでもツインスパーでもなく、トレリスフレームなんだ」

という所なんですが、これだけのパワーを真正面から受け止める事は不可能、だから”耐えるアルミ”ではなく”撓って吸収する鉄”のトレリスフレームで行くと決めたようです。

H2吸気口

専用設計で剛性をフルオーダーメイドのように細かく設定出来る事や、排熱やダクトを考えると塞いでしまうツインスパーよりもトレリスの方が相性が良いという事もあったかと思います。

まあそれより何より量販車初となるスーパーチャージャー。

車では聞き慣れた技術だけど、バイク一辺倒な人はスーパーチャージャーって聞いてもピンと来ない人も居ると思うので簡単に説明すると。

H2Rスーパーチャージャー

エンジンの最大の課題の一つは吸気なわけですが、如何に効率よく空気をエンジンに送り込めるかが大事なわけで。

最近のハイパワー車では当たり前となった大きく口の空いたラムエアダクトも空気を吸って走行風を利用して空気を無理やり送り込む為にある。でも当然ながら走行風も相当な強さのものが必要なので効果があるのは200km/h以上出てる時だけ。

「強制的に押し込めるようにタービン(コンプレッサー)を付ければいい」

っていうのがターボチャージャーとスーパーチャージャー。

H2タービン

ターボはエンジンから勢いよく出て行く排気ガスの力を使ってタービン(プロペラ)を回して空気を送り込む方法。

排気ガス(排気圧)って燃焼運動において一番無駄にしてるエネルギーだったりします。

ただ排気ガスを利用しているだけあってどうやってもターボは

吸気

燃焼

排気

タービン

ターボ吸気

となるのでタイムラグが出来てしまう。

対してこのH2でも採用されてるスーパーチャージャーっていうのはピストンが付いているクランクの回転を使って回す方法。

H2スーパーチャージャー

ターボの様に排気ではなくエンジンから直接動力を取ってるので

吸気

燃焼(クランク)

タービン

ターボ吸気

となるのでラグが少ない。

その変わり捨てていた排気エネルギーを使っているターボと違い、クランクから取っているので効率はターボと程は良くない。

ただバイクに限って言うと間違いなくスーパーチャージャーの方が相性が良いでしょう。アクセルワークでタイムラグがあるというのはバイクにとっては致命的。

タービンを回すためにエキゾースト(排気)をすぐに収束する必要があって糞詰まりしてしまうターボと違って排気系が自然吸気と同じ様に出来る事も大きいです。

GPZ750ターボ

ターボについては>>750TURBOをどうぞ

ただし、恐らく車に詳しい方ならH2のスーパーチャージャーを見て疑問に感じると思います。

一般的にスーパーチャージャーというのは、ローターを回転させて圧縮する容量形(リショルム式やルーツブロア式)が基本。

コンプレッサー

ところがH2のコンプレッサーはペラを回し遠心式で圧縮する遠心形なんです。これ本来ながらターボで使われる方法。

H2スーパーチャージャー

なんでこんな事をしてるのかというと、自動車の多く採用されている容量式は嵩張って重い上に、クランクの高回転についていけずレスポンスが落ちるから。

だからペラで圧縮する回転式にした。

簡単に言っていますがクルマと違いバイクはクランク自体が超高回転。H2Rでは16000rpmまで回ります。

そしてこのペラはその更に8倍速、最大13万回転/分で回る。これを達成させるにはミクロン単位の精度を出さないといけない。

ガスタービンエンジン

これはカワサキが高いガスタービン技術を持っていたから可能だったこと。

「カワサキではなく川崎重工(全体)の製品」

と言っているのはこういう所からなんですね。

H2インペラ

そんなターボみたいなスーパーチャージャーなんですが、更に凄い事があります。

空気は圧縮すると物凄く熱くなる性質があります。それをエンジン内で更に圧縮すると更に高温になり、意図しない異常燃焼(ノッキング)の問題が起こる。

熱くなるほど膨張するので吸気充填効率も悪くなります。

インタークーラー

だからターボもスーパーチャージャーも圧縮した空気をエンジンに送る前にインタークーラーという一旦冷やす冷却器を通すのが一般的。

車のボンネットにある郵便ポストとかもですね、昔はそれがターボの証でした。

WRX

話を戻すと、H2にはその大事なインタークーラーが付いてないんです。

正確に言うと

“付けなくても冷やせるようにしている”

です。

H2エンジン

普通ならばプラスチックを使う部分であるエアクリーナーボックスやファンネルをH2ではアルミ製にしている。

熱伝導率が高いアルミを使うことで

吸気口

チャージャー

アルミインテーク(ここで熱を奪う)

アルミファンネルネット(ここでも奪う)

エンジン

となってるわけ。

H2エンジンサイド

これにシリンダーヘッド周りの冷却経路を使った冷却も加わっています。

本当にそれで大丈夫なのかと一部で話題となりました。当たり前ですが、本当に大丈夫でした。

H2サイドビュー

徹底的な吸気効率を上げることで熱を篭もらせない様にしているそうです。アンダーカウルを付けなかったにも、熱を篭もらせないためなんだとか。

当たり前ですが、凄いのはエンジンだけじゃありません。

H2フェイス

他にもまだまだ色々あるんですが、もう一つ挙げるとするならカウル造形。

これは航空宇宙部門の技術に基いて設計したもの。

リバーマーク

チャージャーのガスタービン技術もそうですがH2が凄いのは

「部門に作らせた」

ではなく

「二輪に技術移管させて作った」

つまり、川崎重工の技術を全て二輪部門に集約して作ったというのが凄いんです。

H2広告

川崎重工の技術力とブランド力を知らしめる為のバイクであり、川崎重工の技術自慢バイクでもあるわけです。

生産ももちろん少数または一人一人が一台を担う手作業での組み立て、部品の選別も手作業です。

これで3,024,000円(2017年時点)。安くは無いけど、決して暴利ではないかと。

2017年にはマイナーチェンジが入りZX1000X型に。

ちなみに下のの写真はアッパーカウルがカーボン仕様となっている限定モデル。

H2カーボン

目立つ変更点としては

・5馬力アップ
・KCMF(コーナリングマネジメント制御)
・OHLINSリアサスペンション
・アップダウン両対応クイックシフター
・メーターやエンブレムの変更

といったところです。

更に2019年モデルでは再びモデルチェンジされZX1002J型に。

ZX1002J

・231馬力にUP
・ブレンボキャリパーをM50からStylemaに
・自己修復塗装
フルカラーTFTメーター
・フルLED化
・RIDEOLOGYアプリ対応
などなどの変更が入っています。

なんだかモデルチェンジの流れが完全にスーパーカーと同じですね。

主要諸元
全長/幅/高 2085/770/1125mm
シート高 825mm
車軸距離 1445mm
車体重量 238kg(装)
燃料消費率 {15.3km/L
※WMTCモード値}
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 200ps/10000rpm
[205ps/11000rpm]
{231ps/11500rpm}
最高トルク 14.3kg-m/10000rpm
[13.6kg-m/10000rpm]
{14.4kg-m/11000rpm}
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後200/55ZR17(78W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR9B9
推奨オイル カワサキ純正オイルR4/S4
または
MA適合SAE10W-40
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量5.0L
交換時3.9L
フィルター交換時4.4L
スプロケ 前18|後44
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 2,500,000円(税別)
[3,100,000円(税別)]
{3,300,000円(税別)}
※[]内は17以降(ZX1000N)
※{}内は19以降カーボン(ZX1002J)
系譜図
マッハ31969年
500SS MACH3
(H1)
マッハ41972年
750SS MACH4
(H2)
H22015年
Ninja H2
(ZX1000N/X/ZX1002J)
H2R2015年
Ninja H2R
(ZX1000P/Y)
H2SX2018年
Ninja H2SX/SE
(ZX1002A/B/D)
zh22022年
Z H2/SE
(ZR1000K/L)

750SS-MACH4(H2) -since 1972-

750SSマッハ4

先代のマッハ3の兄貴分として登場したマッハ4。

排気量を更に上げてナナハンになりましたが、先の500SSマッハ3で述べた通りクレイジーさは抑えられています。

750SSマッハ4

あくまでも”当時としては”ですが。

ただ残念ながらマッハ4は日本では二年だけの販売。メイン市場だった北米でも海外でも2stが問題視され始めた事から、大成功を収めた4stのZ1系で行くことになり短命に終わりました。

マッハ4

まさかそんなHの名前が43年の時を経て復活するとは・・・です。

主要諸元
全長/幅/高 2085/850/1145mm
シート高
車軸距離 1410mm
車体重量 192kg(乾)
燃料消費率 30.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 17.0L
エンジン 空冷2サイクル3気筒
総排気量 748cc
最高出力 74ps/6800rpm
最高トルク 7.9kg-m/6500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.25-19
後4.00-18
バッテリー 12N5.5-4A
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
B9HS
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.0L
スプロケ 前15|後47
チェーン サイズ530|リンク120
車体価格 385,000円(税別)
系譜図
マッハ31969年
500SS MACH3
(H1)
マッハ41972年
750SS MACH4
(H2)
H22015年
Ninja H2
(ZX1000N/X/ZX1002J)
H2R2015年
Ninja H2R
(ZX1000P/Y)
H2SX2018年
Ninja H2SX/SE
(ZX1002A/B/D)
zh22022年
Z H2/SE
(ZR1000K/L)

500SS-MACH3(H1) -since 1969-

500SSマッハ3

カワサキの対北米戦略ビッグバイク一号の500-SS(通称マッハ3)、海外では「MACH3 H1」の名で知られているバイクです。

色々と凄かった事からネタとして扱われてるので知ってる人も多いかもしれませんね。

MACH3

大体そういうネタというのは結構大げさに言われてたり、脚色されたりしてるんだけど、このマッハ3は本当に色んな意味で凄かった。

何が凄かったというと2st三気筒500ccってだけでも凄いんだけど、まず

「直線における最速のみ」

を目指して作られた潔さです。

A7アドベンチャー

元となっているのは1967年に登場したA7アベンチャー。

「これにもう一気筒追加したら凄いバイクが出来るんじゃないか?」

という発想から生まれたのがマッハ3なんです。

それで見事にゼロヨン12秒というとてつもない速さを持ったバイクが生まれたんだけど、時代が時代なだけあって各部の品質がエンジンに完全に負けていた。

H1

それでも構わず出したから、タイヤが負けてバーストするわ、チェーンは切れるわ、ブレーキは全く効かないわ、フレームもヨレヨレでまっすぐ走らないわ・・・と散々だった。

でも一番問題だったのはシートがツルツルで簡単に滑り落ちる事っていう。

だから巷でも「とても乗れたバイクじゃない」とか「未亡人製造バイク」とかそりゃもう酷い言われようでした。

マッハ3

ところがですよ。

国民性の違いですかね。普通なら止めとこうとなる筈なのにそれを耳にしたアメリカ人達は

「こんなクレージーなバイクは他にない」

とかいって一部の頭のネジが外れた人達に大ウケしたんですね。

マッハ3カタログ

アメリカなどでは「カワサキ=ワイルド」というイメージが定着してるみたいなんですが、間違いなくこのマッハ3がその始まりでしょう。

ただカワサキもあまりのクレージーさに危機感を覚えたのか、年次改良のたびにマイルドに仕上げていき、マスキー法(アメリカの厳しい排ガス規制)の件もあってか初期型と最終型の74年モデルでは全く別のバイクになってたりします。

主要諸元
全長/幅/高 2025/835/1140mm
シート高
車軸距離 1410mm
車体重量 174kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 16.0L
エンジン 空冷2サイクル3気筒
総排気量 498cc
最高出力 60ps/7500rpm
最高トルク 5.85kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.25-19
後4.00-18
バッテリー YB9L-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
B9HCS
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.3L
スプロケ 前15|後45
チェーン サイズ530|リンク106
車体価格 298,000円(税別)
系譜図
マッハ31969年
500SS MACH3
(H1)
マッハ41972年
750SS MACH4
(H2)
H22015年
Ninja H2
(ZX1000N/X/ZX1002J)
H2R2015年
Ninja H2R
(ZX1000P/Y)
H2SX2018年
Ninja H2SX/SE
(ZX1002A/B/D)
zh2