
「美しいオートバイの創出」
W3の生産終了から四半世紀経った頃に突如として登場したW1のようで・・・何処かW1とは違うW650。
これは
「直四とは違う新しいスポーツバイクを」
と企画の谷さんの考え始めたのが始まり。
かといってカワサキにV型やシングルスポーツのイメージはない、カワサキらしさを出すなら二気筒という声が多く
「二気筒ならバーチカルツインだろう」
という結論に。

ちなみにバーチカルツインというのはシリンダーが前傾しておらずそびえ立つように直立したエンジンのこと。
そして見た目がクラシックになったのは先に出ていたエストレヤの影響。
思わぬヒットとなったエストレヤのステップアップ先となるバイクにしようとなったんです。

このバーチカルツインクラシックというのは実はマーケティングの要望ではなく、造り手たちが勝手に決めた事だったりします。
そして口うるさい人達が寄って集って造ったエストレヤのステップアップ先というだけあり、このW650も非常に拘って造られたというか拘りしかないと言ったほうがいいか・・・

W650の設計にあたり再優先事項だったのは
『機能美』
です。
W650のデザイン担当はW1を所有した事もある猪野さんという方なんですが
「機能美とは何か」
を追求するため欧州の博物館で車や戦闘機などを見て回り、昔のエンジン造形に感銘を受けた。
それを参考にまずバーチカルツインのスケッチからスタート。

正式採用される事となるベベルギアを始め、コグドベルト、カムチェーン、カムギアなどなど様々なタイプのカム駆動をスケッチ。
案を見てもらうと分かる通り最初はDOHCで行く予定でした。
しかし
「DOHCは頭でっかちで美しくない」
と擦った揉んだあったものの”一番美しい”という理由でSOHCのベベルギアで行くことに。

これは紙で作ったモック。
ベベルギアというのは要するに傘歯車のことで、厳密に言うと
「ベベル・ドリブン・カム・シャフト方式」
と言います。

エンジンの横から垂直に伸びているシャフトがそう。
シャフトドライブとしては今でも使われてますが、カム駆動ではまず採用されることのない方式。
それが何故かといえば凄くコストが掛かるからです。昔はドゥカティもやっていたんですが、そんなドゥカティですらコストを理由に止めています。
しかもカワサキの場合は更に問題がありました・・・ベベルギアを造る設備を持っていなかったんです。
だからベベルギアにするには製造する設備を導入する必要があった。

たった一車種の為だけに新しい設備を導入するなんてまずありえない話。
しかし猪野さんを始めとした開発チームが
「ベベルギアじゃないと意味がない。ベベルギアなら絶対ヒットする。」
と頑なに折れず、説き伏せる事で設備の導入が決定。
W650がW1と違うバイクである事はここに現れています。
もしもW1の復刻なら簡易で安価なOHVを採用すればいいだけ。

でもそうしなかったのはW650がW1の復刻ではなく
「先代より美しいW」
という考えで開発されたバイクだったから。
Wシリーズが採用していたOHVは最初から考えていなかったそうです。
ベベルギアをピックアップして書きましたが、他の部分もたくさんこだわりがあります。

例えばその下部になるクランクケースやオイルパン形状に至るまで何度もやり直し。
フレームに至ってはスケッチから入るのではなく原寸大のフレームモックを用意させ、そこからデザインを煮詰めていくという異例なワークフロー。

当然あーだこーだと討論される度に作り直し。
車体担当だった真野さんは泣きながら作業をしたそうです。
そんな労を惜しまず造られたW650ですが、実は発売前に一悶着ありました。
一般公開に先駆け一部のカワサキファンクラブ(KAZE)会員に先行公開したところ大不評だったんです。
「こんな古臭いバイク出す暇があったら新しいNINJAを出せ」
という怒号のような声が多く返ってきた。※当時RRやR1が世間を賑わせていた

更に会社が実施していた
「バーチカルツインのクラシックが出たら欲しいか」
というWという名を敢えて伏せた形で取ったアンケートで欲しいと答えた人は・・・僅か3%。
この事実に開発チームは頭を抱えたらしいのですが、この拘りの詰まったW650には絶対の自信があった。
そしてそれを上司もよく理解しており、腹をくくってくれたから発売することが出来たんです。

発売時にはテコ入れとしてここに書かれている事が載っているスペシャル本まで発行しました。
そしていざ発売されると・・・そんな下馬評が嘘のような歓迎ムード。それまでカワサキに興味がなかった人が振り向いてくれたんです。

そしてデビュー時だけの人気ではなく、生産終了を迎える2008年までコンスタントに売れ続けるという理想的な人気。
終わってみれば累計生産台数は一万台弱も生産される事となりました。
主要諸元
全長/幅/高 | 2175/905/1140mm [2180/905/1140mm] |
シート高 | 800mm |
車軸距離 | 1455mm [1465mm] |
車体重量 | 194kg(乾) [195kg(乾)] |
燃料消費率 | 37.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 15.0L [14.0L] |
エンジン | 空冷4サイクルOHC2気筒 |
総排気量 | 675cc |
最高出力 | 50ps/7500rpm [48ps/6500rpm] |
最高トルク | 5.7kg-m/5500rpm [5.5kg-m/5000rpm] |
変速機 | 常時噛合式5速リターン |
タイヤサイズ | 前100/90-19(57H) 後130/80-18(66H) |
バッテリー | YTX12-BS |
プラグ | CR8E または U24ESR-N |
推奨オイル | カワサキ純正オイルR4/S4/T4 または MA適合品SAE10W-40 |
オイル容量 | 全容量3.0L 交換時2.5L フィルター交換時2.8L |
スプロケ | 前15|後38 [前15|後37] |
チェーン | サイズ525|リンク104 |
車体価格 | 686,000円(税込) [720,300円(税込)] ※[]内は排ガス対応の04~モデル ※A型:アップライトハンドル ※C型:ローハンドル ※D型:A型+クロムメッキ ※E型:C型+クロムメッキ |