GSX-R1000/R(L7~)-since 2017-

2017年式GSX-R1000R

「The KING is Back」

実に八年ぶりとなるフルモデルチェンジとなった七代目のGSX-R1000/L7~型。

このモデルからはR1000とR1000Rの二本立て。本当はABSが付くのはGSX-R1000AなんですがABSが義務化された日本では無印がA扱い。

GSX-R1000とGSX-R1000Rの違い

LEDポジションライトの有無が分かりやすいですが両車の違いを並べると

【GSX-R1000】箇所【GSX-R1000R】
SHOWA製BPF
(ビッグピストンフォーク)
フロントフォークSHOWA製BFF
(バランスフリーフロントフォーク)
SHOWA製リアショックリアサスペンション SHOWA製BFRC-lite
(バランスフリーライト)
ピッチで判断モーショントラックブレーキシステム
(サーキット走行用ABS)
ピッチ/リーンで判断

※UP/DOWN対応クイックシフター

その他

※2019年モデルから

UP/DOWN対応クイックシフター
ローンチコントロール(回転数制御)
LEDポジションライト
黒背景LCDメーター
小型バッテリー

※ステンメッシュブレーキホース
※可変ピボットフレーム
※マフラーヒートガード形状変更

となっておりエンジンやフレームはもちろん
・ロール/ピッチ/ヨーの6軸センサーによる10段階トラコン制御
・3種類出力を選べるモードセレクターS-DMS
・Brembo製モノブロックキャリパー

などはグレード関係なく共通。

GSX-R1000R国内仕様

2019年モデルで無印もクイックシフターが付いたんですが、2017年末からETC2.0を付けた国内仕様が登場したため実質GSX-R1000Rのみの扱いとなりました。

※180km/hリミッターは2018年モデル(L8)より撤廃

この代でGSX-R1000/Rは202馬力&202kg(装)と大幅なパワーアップを果たしたんですが、それに大きく貢献したのがカムをフィンガーフォロワー式に変更したこと。

ロッカーアーム式

簡単に言うとバルブを押すカム(おにぎり上の回転物)の負担をエンジンブロック側に支点を持つアームを設ける事で緩和(軽量化)し、高回転化とリフト量の増加を可能にしている形。

SSとしては今でこそ珍しくない機構だけどスズキはこれまた他社に先駆ける形で採用しました。

フィンガーフォロワー

どうして可能だったかというとこれはMotoGPで培った技術だから。形状までMotoGPマシンGSX-RRとほぼ同じとの事。

そんなGSX-R1000/L7~型なんですが注目して欲しいのはこの装備重量でパワーウェイトレシオ1になった事よりもMotoGP技術が投入されても相変わらず全くブレなかった所にあります。

スズキはGSX-R1000/Rに関する説明でこう謳っています。

『SR-VVT』&『SET-A』&『S-TFI』

“Broad Power System”

Broad Power System

「全域パワフルシステム」

これが一体どういうことか説明していきます。

1つ目。

『SET-A(Suzuki Exhaust Tuning-Alpha)』

SET-A

これは簡単に言うとエンジン回転数に応じて目まぐるしく変わる排気の流れをエキゾーストパイプ内にバルブを設け整える事でトルクを増す機構。

どっかの豆知識で書いたと思うのでザックリ言うと、排気というのは弱い時は抜けにくい方が良くて、強い時は抜ける方が効率が良いんですね。

加えて排気脈動といってパイプ内を行き来する圧力の経路を回転数に応じて変えることで排気によって生まれる圧のタイミングによる得意不得意がある。

L7エンジン

四気筒ことさらスーパースポーツにおいては超高回転でパワーが出るように最適化しているんですが、そうするとただでさえ苦手な低回転域が吹き返しや漏れで更に苦手になる。

デュアルバタフライ

それを解消するためにエキパイを1-4/2-3とダブルで連結させたうえに可変バルブを設ける事で容量や経路を擬似的に可変式にすることで解消しているのがSET-A。

ちなみに集合後にあるのが初代から採用されてる従来型のSETで、これも同じように通路を塞ぐ事で背圧を変えたりして騒音規制をクリアする排気デバイス。

L7エキゾーストシステム

これらの機構により高回転だけでなく低回転域でも最適な排気を可能にしているという話。

次は

『S-TFI(Suzuki Top Feed Injector)』

S-TFI

いわゆるデュアルインジェクションで今まではセカンダリースロットルバルブの下に設置していたんですが、それをエアクリーナーボックスの上に付ける形に変更。

デュアルインジェクションシステム

これはワイドバイワイヤ(電子スロットル)化でメインスロットルバルブを完全な制御化に置くことでサブを廃止し、メイン一枚化によるインテーク長の短縮と、繊細なアクセルワークでも空気(混合気)の流入量を最適化しギクシャクせず豊富なトルクを生むため。

そして最後・・・これが一番の目玉。

『SR-VVT(Suzuki Racing Variable Valve Timing)』

SR-VVT

スズキマニアやバンディット250/400Vを知ってる人なら”V”という字が入ってるだけでピンと来るかもしれませんね。そう可変バルブタイミング機構。

しかしバルブリフト量を変えるVC等と違ってコチラはバルブの開閉タイミングを変えるタイプ。

仕組みは吸気カムの部分にボールの入ったガイドプレートが備え付けられていて、回転数(遠心力)に応じて中の玉が内外に動くことで吸気バルブのタイミングを早めたり遅めたりしているわけです。

VVT_ボールガイド

高回転型の四気筒は基本的にオーバーラップを多めに取っています。オーバーラップというのは吸気バルブと排気バルブがどちらも開いてる状態の事。

一つ一つを区切ってやっていたら吸気も排気も間に合わず効率が悪いからなんですが、ことさら超高回転でパワーを求められるSSはどっちも開いてる時間が大きめに設けられてる。

2017エンジンバルブピストン

しかしこれは問題があってオーバーラップを大きく取るほど低回転域が犠牲になる。せっかく流れ込んだ空気が漏れたり、せっかく吐き出した排気ガス戻ったきたりしてしまう。

そこで回転数に応じてバルブタイミングを変更することで、高回転時でも低回転時でも理想のバルブタイミングに出来るのが可変バルブタイミングでありGSX-R1000のSR-VVTというわけ。

ちなみにこれもMotoGPが800ccになった際に落ちてしまった低速トルクを何とかするために生み出された技術。

これらがBroad Power System、全域パワフルの仕組み・・・なんですが

2017GSX-R1000顔

「全域パワフルなのに低回転域の話ばっかりだな」

と思ってる人も多いんじゃないでしょうか。ここがGSX-R1000/Rのとっても大事な部分であり、一番の目玉でもある部分。

系譜を遡ってもらうと分かるのですがGSX-R1000はレース規格になろうと、馬力競争が激しくなろうと、初代K1からずっと過去一度も低回転域を犠牲にした事が無いんです。過去一度もです。

それがこの2017年型でも変わらなかった。ピストンのボアを2mmほど拡大したものの、それでもSSとしてはロングストロークエンジン。

パーツ群

MotoGPで培った技術を用いてもっとビッグボアにすれば馬力は簡単に上げる事が出来る、下を切り捨てればピークパワーをもっと稼ぐことが出来るのにそれをしなかった。それどころか低域を犠牲にしない為にMotoGP技術を投入した。

これが何故かといえばそれは散々話してきたように

「低域トルクが乗りやすさ、ひいては速さに繋がる」

というコンセプトの元に開発されているのがGSX-R1000だからです。

GSX-R1000とGSX-R1000R

ちなみにMotoGP技術を多く投入できたのはMotoGPに携わってる人が開発しているからという単純明快な理由だったりします。

普通MotoGPなどの世界最高峰レースで経験を積んだエンジニアは技術指導も兼ねて少し経ってから市販車部門に携わるんですが、スズキの場合は二足のわらじのようにMotoGPで活躍されているエンジニアが市販車を開発されている。

寺田プロジェクトリーダー

例えばこのGSX-R1000/Rのプロジェクトリーダーかつエンジン設計の寺田さんは前年までMotoGPプロジェクトリーダー&エンジン開発を担っていた凄いお方。

可変バルブを始めとしたMotoGPの技術がフィードバック出来たのは、MotoGPでその技術を開発した人がGSX-1000/Rのエンジンを開発したから。

寺田プロジェクトリーダー

GSX-RRとGSX-R1000のフレーム形状が似ているのは現MotoGPプロジェクトリーダーの佐原さんがGSX-R1000/Rの車体開発に携わったから。

もはやレプリカの域すら超える出し惜しみの無さで逆に不安にもなるんですが、スズキがMotoGPをやってる理由は市販車へ還元する事と言っていたので有言実行という話。

GSX-R1000R/GSX-RR

そんな人達が手掛けたにも関わらずコンセプトはブレなかった。

「GSX-Rの開発というだけでみんな何をすべきか分かってる」

「乗り手を不安にさせるような事を絶対にしない」

「乗り辛くするのは裏切り行為」

「ピーキーにするなんて論外」

「VVTがないと下がスカスカそんなのはお客様に失礼」

「お客様全員に”GSX-Rが一番速く走れる”と言ってもらう事が目標であり美点」

これは歴代GSX-R1000に携わった方たちのコメントなんですが、20年近くどの代でもこの考えを全員が怖いくらい共有し進化し続けてる。

スズキワールドGSX-R1000

それが見て取れるのが低域トルクを切り捨てない事だったり、車体をコンパクトにする事もだったり、シート高が低く前傾が比較的緩い事だったりする。

「初心者が最も安心して速く走れるSSはGSX-R1000」

等と雑誌で書かれる理由もここにある。

そしてそれはこの代でも変わらなかった。

これまでもこれからもカタログスペックを見比べると見劣りするかもしれない。でもGSX-R1000/Rの本当の魅力はそこには載っていないという事を知ってほしいと思います。

2019GSX-R1000

GSX-R1000/Rは限られた人しか使えない高域だけでなく、誰もが使える低域を重視し、誰でも安心して乗れるようにする事を第一に開発しているんです。

何故ならそれこそがGSX-Rであり、スズキが考える真のスーパースポーツであり、速く走れる事に繋がると考えているから。

どれだけ凄いスーパースポーツを造るかではなく

2019GSX-R1000

「どれだけ安心してもらえるスーパースポーツになれるか」

というに徹し、一切ブレず、スズキのフラッグシップとして市場動向に関係なく開発し続ける事を特例で許されているモデル。

それがGSX-R1000というライダー思いの優しいスーパースポーツなんです。

主要諸元
全長/幅/高 2075/705/1145mm
シート高 825mm
車軸距離 1420mm
車体重量 202kg(装)
[203kg(装)]
<203kg(装)>
燃料消費率 16.6km/L
※WMTCモード値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 998cc
最高出力 202ps/13200rpm
<197ps/13200rpm>
最高トルク 11.2kg-m/10800rpm
<11.9kg-m/10800rpm>
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/55ZR17(75W)
バッテリー YT12A-BS
[YTZ10S]
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9EIA-9
または
IU27D
推奨オイル スズキ純正
エクスターR9000
MA2 10W-40
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.1L
交換時3.1L
フィルター交換時3.3L
スプロケ 前17|後45
チェーン サイズ525|リンク120
車体価格 1,730,000円(税別)
[2,030,000円(税別)]
<1,960,000円(税別)>
※[]内はR1000R
※モトマップ価格
※<>内は国内仕様
※国内仕様の馬力差は測定方式の違い
系譜図
K1/K2 2001年
GSX-R1000
(K1/K2)
K3/K4 2003年
GSX-R1000
(K3/K4)
K5/K6 2005年
GSX-R1000
(K5/K6)
K7/K8 2007年
GSX-R1000
(K7/K8)
K9/L0/L1 2009年
GSX-R1000
(K9/L0/L1)
L2 2012年
GSX-R1000
(L2~L6)
L7 2017年
GSX-R1000/A/R
(L7~)

【関連車種】
CBR1000RRの系譜YZF-R1の系譜ZX-10Rの系譜SuperBikeの系譜

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