瞳の歴史はライトの歴史~アセチレンからレーザーまで~

顔の歴史はライトの歴史

正式名称では『前照灯』とよばれるヘッドランプまたはヘッドライトの歴史についてザックリ書いていこうと思います。

・シールドやハロゲンを知らない
・愛車がH4じゃない事に憤りを感じている
・バイクでHIDが普及しなかった理由
・LEDなのに意外と暗い
・LEDの次に来るランプ

など心当たりのある方は長文ですが少しお付き合いを。

乗り物のためのランプの歴史というか概念が一番最初に始まったのは、ちょうど20世紀の始めからになります。

【1902年アセチレンランプ誕生】

アセチレンランプ

これはカーバイド(炭化カルシウム)とよばれる炭化物に水を加えるとアセチレンガスと呼ばれる可燃性のガスが発生するのを利用してランプにする方式。

文字通り水を加えてガスを発生させ、開閉式になっているレンズを開けてバナーに火を付け閉じるガスバーナーと同じやり方で光を得ます。

アセチレンランプのモデル

このヘッドランプが生まれるまではロウソクや灯油ランプを括り付け、他の人に自分の存在を示す程度の明かりでした。

ではなぜアセチレンランプというそれ以上の明るさを持つライトが生まれたのかというと

・夜道でも走れるようにするため

・性能向上で速度が上がり先を照らす必要性が出た

というのが理由と言われています。

アセチレンランプの仕組み

アセチレンランプはこう見えてロウソクや灯油ランプよりもかなり明るかったのですが、一方でバナーやレンズの定期的な掃除やカーバイドと水の補給が必要というデメリットがありました。

それでも明るさや雨風に強いという事もありこれに頼らざるを得なかったのが20世紀初頭、前を照らす前照灯の始まりでした・・・が

「20世紀にはもうエジソンが白熱電球を発明していたのでは」

という疑問が出てくる。

エジソンが発明した白熱電球

発明王でおなじみエジソンさんは1879年に白熱電球を発明し、1881年には京都の竹を用いることで1200時間以上の寿命を持たせる改良に成功し発売もしていました。

では何故バイクやクルマは白熱球を使わずアセチレンランプなんて面倒くさい物を使っていたのかというと

・白熱電球が走行(振動)に耐えられる構造ではなかった
・ライトを点けられるような発電機を搭載していなかった

というのが主な理由。

白熱電球が乗り物へ使われ始めたのはエジソンの発明から四半世紀経った1910年頃からになります。

【1908年タングステン白熱電球ランプ誕生】

白熱電球のヘッドライト

白熱電球のタングステン化(タングステン電球化)による耐久性向上によって自動車先進国だった欧米で使われ始めます。

量販車として最初に搭載されたのは1909年のロールスロイスですが、ではバイクはどれかというと断定は出来ませんが恐らく1914年にアメリカの大型バイクメーカーインディアンが造ったこれ。

初めて白熱電球ヘッドライトを搭載したバイク

『ヘンディースペシャル』

大型ジェネレーターとバッテリーと電動スターターを搭載したモデルで、合わせて白熱電球ランプが備え付けられていたハイテクフラッグシップモデル。

しかし残念なことに当時の技術では流石に無理があったのか50回ほど電動スターターを使うとバッテリーが力尽きて回らなくなる仕様。しかも何を考えたのかキックも付けなかったので、あっという間に自走不能になるという仕様でした。

そのためわずか200台しか生産されず。インディアンの中でもかなりレアな車両になります。

バイクへ白熱電球が本格的に使われ始めたのは1930年代後半頃から。BSAなどが率先して採用しましたが、それでもアセチレンとハロゲンどちらかユーザーに選ばせる形式でした。

しかし電力などの問題がクリアされてからはアセチレンランプのように手間が掛からない事に加えて何より明るいという理由から白熱電球が重宝されるように。

ただし白熱電球の登場でライト問題が全て解決したのかと言えばそうでもなく課題もありました。

白熱電球の黒色化

『黒化』

といって黒ずんで光量がドンドン落ちていくという問題が白熱電球にはあった。これは光る仕組みに原因があります。

白熱電球は白熱と言われる事からも分かる通り、電気を流すことでフィラメント(タングステン)が3000度近くまで熱くなると同時に出る光を利用する仕組み。

『電気→熱→光』

というフローになるため、高温になったフィラメントが徐々に蒸発してしまいガラスに付着して冷やされ黒く残り光を遮るフィルターとなってしまう。

黒色化のメカニズム

これが黒くなる原因であり、更に言うとフィラメントも蒸発で痩せていくからドンドン暗くなるという悪循環。

そんな白熱電球の問題を解消するため、1939年にアメリカで開発されたのが次に紹介するランプ。

【1939年シールドビームランプ誕生】

シールドビームライト

シールドビームが白熱電球と何が違うのかというと、光る部分であるフィラメントを覆うガラス(いわゆる電球部分)が無く、ライトレンズ全体で覆うようになっている形。

これの狙いはズバリ単純にいうと

「フィラメントのカバーを大きくすれば明るくて黒色化も問題にならなくなる」

という実にアメリカらしいマッチョ思想ヘッドランプ。

シールドビームライトの構造

このシールドビームは一体型な事から防水性や耐久性にも優れていたので車でもバイクでも1980年代頃まで長く使われましたが、これはこれで問題点もありました。

レンズもフィラメントも一体型なためどちらかが壊れたら纏めて交換する必要があるという非効率さがあった。

そこでアメリカはひらめきました。

「ヘッドランプは7インチ(Φ180)の丸目しか認めません」

という実質的にライトの規格を単一化する取り決めを行ったんです。こうしてライトを実質一つにすることでホームセンターでもガソリンスタンドでも何処でも替えのライトが簡単に調達出来るようになりました・・・が、これが新たな問題を生みます。

7インチシールドビーム

「みんな同じ顔になる」

という問題です。今も名車と語り継がれているCB750FOURや900Super4を始めとしたリッターオーバーの輸出モデルが同じ丸目だったのはこれのせい。極端な話でもなんでもなくこの頃のアメリカを視野に入れた乗り物はクルマもバイクも基本的に全部同じ丸目のヘッドランプ。

ちなみに欧州はシールドビームを拒絶しましたが、日本はどちらかというとアメリカの後を追うようにシールドビーム推し。

これは

・進駐軍(シールドビーム車)が居たから
・メイン市場がアメリカだったから

などが理由。いまも色んなメーカーのヘッドランプを造っている小糸製作所やスタンレーなどもシールドビームの国内製造成功が躍進の一因だったりします。

しかし

「幾らなんでも全車同じヘッドランプというのは厳しすぎる」

とフォードがアメリカ政府に働きかけたことで

・小径の丸目四眼(Φ145)
・角眼の二眼(199*142mm)
・角眼の四眼(167*106.6mm)

と年を追うごとに規制緩和されていきましたが、しかしそれでも4パターンしかなくライバルと大きく差別化するのは難しい・・・そこで編み出されたのがこれ。

リトラクタブルヘッドライト

リトラクタブルヘッドランプ。

「同じなら 隠してしまえ そのライト」

という発想がこの構造を生みました。※最低地上高対策によるリトラはこれを応用した形

バイクにもありましたね。最初に採用されたのは1983年のスペイシー125ストライカーというモデル。

スペイシー125ストライカー

ハンドルのスイッチ一つでガチャコンとライトが起きるように飛び出す超カッコいいバブリーなスクーター。

他にもGSX750S3などバイクもこうやってシールドビームながら差別化を図った・・・と言いたいところですが、これらはリトラクタブルヘッドランプブームにあやかった形でシールドビームではありません。

じゃあ何かというとシールドビームに代わるように登場した新しいヘッドランプ。

【1962年ハロゲンランプ誕生】

ハロゲンバルブ

つい最近まで多くのモデルに採用されていたお馴染みのヘッドランプ。

これは白熱電球の一種で、大きな違いはガラスの中にハロゲンガスと呼ばれるガスを封入していること。

こうすることで白熱電球の問題だったタングステンの蒸発とその蒸発物による黒化を抑制させることに成功。

ハロゲンサイクル

正確に言うと蒸発した化合物を再び分離させてタングステンに戻す形でこれをハロゲンサイクルと言います。

これだけ見ると永久に使えるように思えますが、実際はあまりフィラメントに戻らないのでご存知のようにいつかやせ細って切れるものの、このハロゲンサイクルによって更にタングステンを高温化する事が可能となりシールドビームの二倍以上もの明るさと寿命を持つことに成功。

ちなみに発明したのはアメリカのGE(エドワード・E・サブレィら)で

・1964年にH1
・1969年にHi/Lo切替式のH4

が誕生し、シールドビームを断固拒否していた欧州がハロゲンシールドビーム(電球だけ交換できるセミシールドビーム)として1971年に正式規格として採用。

アメリカも徐々に採用する州が増え、1984年に全米で認可されると一気に普及しシールドビームに取って代わる存在となりました。

【1980年代~配光技術が向上】

ハロゲンランプという画期的な光源の登場から20年ほど経った1980年代、ヘッドランプは再び大革新を遂げます。

その進化というのはこれまでの光源ではなく、配光技術によってもたらされた大革新。

ライトの歴史

『異形型ヘッドランプ』

です。

これは光を前方に反射させる反射鏡やそれを通すライトレンズなど配光技術および生産技術の向上によるもの。

一例として上げると1984年に登場したヤマハのFJ1100/36Y。

H4とH7のサイズ

明らかにライトレンズがボディに沿うようにスラントされているのが分かるかと思いますが、これが可能になったのもレンズに加工が難しいガラスではなく加工性抜群のプラスチックを製造できるようになったから。

さらに1990年代頃になると反射鏡もプラスチック化が可能になった事で俗に言うマルチリフレクタータイプが登場。

マルチリフレクター

配光の役割をレンズから反射鏡に移すことでライトレンズの自由度を上げる技術が確立しました。

これはCBR900RRを例に見るとわかりやすいです。

ライトレンズの経緯

ちなみにこのライトレンズの大革新は

・オイルショックにより空気抵抗(低燃費)が重視される世の中になった
・マルチリフレクターによる異型化で顔を差別化出来る

などが大きな要因。

さらにマルチリフレクターと双璧をなすプロジェクター式ヘッドランプが誕生したのもこの頃。

プロジェクター

1990年のFZR400RRに採用されたのを覚えている方も多いのではないかと思いますが、プロジェクター式のメリットとしては

・マルチリフレクターより軽量小型に出来る
・投影拡大する形なので配光をキッチリ出しやすい

などがあります。色々と省いていますがだいたいこんな感じです。

マルチリフレクター

しかしその一方でマルチリフレクターと比べた場合

・レンズなど複雑化によるコスト増
・小型ゆえに表情が乏しくなる

というデメリットもあります。

小型ゆえの表情というのはプロジェクター式になるとレンズが丸く小さいのでつぶらな瞳になってしまいインパクトを出す事や差別化が難しくなる。

もちろんメーカーもそこら辺は考えていて色々やっています。これは一時代を築いたHAYABUSAとZZR1400を例に見ると分かりやすいです。

ハヤブサとZZR1400のヘッドランプ

HAYABUSAはマルチリフレクターとの合わせ技で、ZZR1400はプロジェクターを4つ並べることでそれぞれ小さくなってしまう瞳問題を解消しているのが分かるかと。

もう一つ関連する事がハロゲン電球ではあるもののH7やH8~11といったオーナーなら誰しもが一度は調達性の悪さで

「主流のH4なら良かったのに」

と感じた経験があるちょっと変わった規格について。

なんでメーカーは素直にH4を採用しないのかと憤っている方も多いと思いますが、これもデザインの要素が理由の一つにある。

H7はH4と違いシングルフィラメントなのでHI/LOWの切り替えができない代わりにH4よりも全長が短いという特徴がある。

H4とH7のサイズ

全長が短いという事はそれだけライトユニットの幅を縮める事が出来るのでスペース的に有利。

カウルが寝ていてライトスペースを圧迫しているようなスポーツモデルに比較的よく採用される理由の一つはこれ。

H7が使われる理由

だからH7~11をよく思ってない人はそのハンサムな顔を実現させるためと思って許してあげてください。

そんな爆発的に増えたハロゲンですが、その存在を脅かす新たなランプが20世紀末に登場しました。

【1996年HIDランプ誕生】

HIDバルブ

HID(High Intensity Discharge)、ディスチャージ、キセノンなどなど様々な呼び方があるヘッドランプで

『高輝度放電灯』

というカッコいい和名も持っています。

仕組み自体はそれこそ1901年(水銀ランプ)からあったのですが、水銀を使わないメタルハライドタイプが開発されて一気に普及しました。

これは名前からも分かる通りそれまでのヘッドランプと違い、放電灯といって簡単にいうと蛍光灯と同じシステム。12Vを20,000V以上まで高電圧化し電極間で放電(ディスチャージ)することでガス(キセノン)を発光。

HIDの仕組み

そのためHIDはバルブだけでなくバラスト(安定器)やイグナイター(昇圧器)が必要になるというデメリットがあるものの

『寿命と明るさがハロゲンの二倍以上で消費電力は半分』

というランプに求められるスペックが非常に優れていたので物凄いスピードで採用されていきました・・・が、これはあくまでもクルマの話。

よくよく思い返してもらうと分かるのですが、バイクではGL1800/SC46やK1600GTなどの一部を除きHIDはほぼ採用されませんでした。

量産二輪車初のHID

「なんでバイクはHIDを採用しないのか」

と悶々とした疑問を持たれていた方も多いと思うのですが、その理由は

・高電圧部分と運転手が近くなるので危ない
・自動光軸調整機能かライトウォッシャーが義務化

などの問題があったから。特に自動光軸調整機能(オートレベライザー)かウォッシャーの義務化がスペースのないバイクには厳しかった。

なぜHIDでそれが義務化されたのかというと

「HIDはあまりにも明るすぎるから」

です。

グレア(直接光)を食らった人はたちまち眼が眩むほど強烈で危ないと判断され法律で定められました。

そんな問題もありずっとハロゲンで凌いできたバイク界ですが、そんな状況を救ってくれるランプ史上最大の革新ともいえる新しいランプが21世紀に誕生。

【2007年LEDランプ誕生】

LEDヘッドライト

2007年にレクサスのLSから採用が始まったLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)ランプ。

バイクは上の写真にある1199パニガーレSトリコローレという300万円の高級車を皮切りに、今ではスーパーカブも採用するまでに拡大。

LEDが発光する仕組みは

・プラスの性質を持つp型半導体

・マイナスの性質を持つn型半導体

この2つを接合し電気を流すことでp型とn型のつなぎ目で電子がぶつかり、光が生まれる仕組み。

LEDが発光する仕組み

そんなLEDですが製品を見た方なら素子の表面が黄色くなっているのはご存知かと。

これは青色LEDに赤と緑の中間にある黄色のフィルターを掛ける事で白(RGB)を実現しているから。

LED素子

だからLEDヘッドランプの白っていうのは実は疑似白色だったりします。

ちゃんとRGBで白色化する方法もあるものの、コストや効率の兼ね合いで疑似白色が採用されているのが実情。

そんなLEDがどれほど優れているかというと

・電球の1/1000の応答速度
・電球の1/5、HIDの1/2の消費電力
・電球の10倍、HIDの5倍の寿命
・HIDよりもローコスト
・光に紫外線をほぼ含まない
・ハロゲンやHIDより小型

などなどエジソンも生きていたら腰を抜かすほど使わない理由がないメリットだらけ。

LEDデザイン

ただそんな中でもこのページで書きたいことは

『圧倒的な自由度』

にあります。

シールドビームがその典型ですが、これまで長々と話してきたライトバルブには全てサイズが規格化されていました。

ランプの系譜

それがLEDにはほぼ無いに等しい状態に。法規さえ満たせば発光体は何処に置いてもいいという反則級のメリット。極端な話、何処に何個でも付けられる。

それは見た目にもよく現れていて、わかりやすいのがマルチリフレクターがちょっと変わっていたりする事。

LEDのマルチリフレクターに対して

「光源が何処にあるのかわからない」

という印象を受けた事がないでしょうか。

バイクのDRL

それもそのハズで近年のLEDヘッドランプは”RXI”というマルチリフレクターとはちょっと違う光学技術が使われています。

RXI光学

こうすることで圧倒的にライトユニットの幅を小さく出来る。

これはLEDによってスペースの問題が解消された事や従来と違い光が180度までな事。

そしてもう一つ大事なのが

「熱しないから更にプラスチックが使えるようになった」

というのが大きな要因。プロジェクター式LEDのレンズが小さかったりするのもこれが理由。

LEDは半導体ゆえに”本体は”熱に弱いものの熱線も出さないので周りの物を熱したりはしない。また本体もエンジニアの方々の努力により80℃前後でプラスチックを溶かすほどの高温(150℃)にはならないようになった。

だから光源の近くに圧倒的に低コストかつ加工性抜群のプラスチック(ポリカーボネート)が遠慮なく使えるようになったという話。

シグネチャーランプ

『シグネチャーランプ』

と言われる線形のライトが可能になったのもこれによるものが大きく、これは光が拡散するように加工した導光板(または導光棒)に小さなLEDの光を当てることで表面を光らせている。上のPCXをよく見ると目尻の上から当てているのが分かるかと思います。

ところでシグネチャーランプに関して少し補足すると、これが流行ったのは

『2011年DRL(デイタイム・ランニング・ランプ)の義務化@欧州』

が大きな要因。これは名前の通り昼間用のヘッドランプを設けて点灯させろという話。

北米でも既にDRLは導入されていたのですが、それはヘッドランプの減光やウィンカーの常時点灯など併用でOKでした。

しかし欧州(世界基準)が導入したDRLは

「他のライトとの併用ダメ絶対」

という非常に厳しいもので新たにもう一つライトを付ける必要性が生まれた。その結果誕生したのがこのシグネチャーランプというわけ。

これはクルマの話でしかも日本ではDRLは禁止されていたため減光してポジションランプ代わりとして使用していましたが、2017年にクルマそして2020年末にバイクも解禁されました。

バイクは常時点灯なので今ひとつピンと来ない人も多いかと思いますが、これが何をもたらすかと言うとYZF-R1で見るとこう。

バイクのDRL

「昼間は結構明るいポジションランプだけに出来る」

という感じですね。

話を戻すと

・熱の問題
・消費電力の問題
・スペースの問題
・コストの問題

これらの問題を大きく改善したLEDヘッドランプ。そのおかげでこんな形まで生まれました。

多眼式LEDヘッドライト

『多眼式LEDヘッドランプ』

二輪で初めて取り入れたのは2018年からのGOLDWING/SC79。

よく見ると分かる通り小さいライトが無数に並んで居るのが分かるかと。

10個のLEDヘッドライト

ロービームだけで10個もの超小型プロジェクター式LEDを搭載しているだけでなく、レンズも非常に凝った形をしている。

LEDによる複眼化は昆虫チックと言いますか無機質な印象を与えますね。

10個のLEDヘッドライト

これが可能になったのは何度も言いますが、小型かつ省エネかつ熱線を出さない事からプラスチック化が捗るようになったから。

・中身が見えないカットレンズ
・キラキラのリフレクターと中央に鎮座するバルブ
・同じような丸い凸レンズが見えるだけのプロジェクター

というのが当たり前だった時代をこのLEDが終わらせました。

LEDならではの顔

ところでHIDのくだりを読まれているなら

「LEDも明るいけどオートレベライザーとか要らないのか」

という素朴な疑問が湧くと思いますが、この法規は正確にいうとHIDだからではなく

『2000ルーメンを超える場合』

もしくは車載レーダーカメラと連携して対向車へのハイビームを遮光する機能である

『配光可変型前照灯(ADB:Adaptive Driving Beam)を搭載した場合』

という基準だから2000ルーメン以下に抑えてADBを装備しなければ必要ない。

バイクのADB

逆に言うとR1250GSなどはこれに該当するのでオートレベライザーを装備していると言えますし、オートレベライザーを装備しているからルーメン数に縛られないとも言える。

これで終わりかと思いきや最後にもう一つ。

【2014年レーザーランプ誕生】

レーザーランプ

LEDチップの代わりに半導体レーザーを使う構造で、2014年に出たアウディのR8LMX(2905万円)が世界限定99台ながら量販車としては世界初。バイクの方ではまだ採用しているメーカーはありません。

半導体レーザーは早い話が反射を繰り返して真っ直ぐな光をどんどん増幅させて最後に突き破った光を光源にする形。

レーザーの仕組み

「もうLEDで十分じゃないか」

と思うかもしれませんがメリットを上げると

・LEDの1/10の発光サイズ
・LEDの三倍の輝度
・LEDの二倍近い照射距離

という感じで光が溢れ出るLEDと違い、光を積極的に生み出す形なので効率が良く、また省スペースでデザインの自由度が更に向上する。

レーザーヘッドランプ

効率が良いということは同じ半導体であるLEDよりウェハー(原材料)も小さくて済むので取れる数も増えコスト面での将来性も高いなどの強みがある。

また、遠くを照らすというのは自動運転技術(センシング技術)が苦手とする夜間走行において非常に重要なので採用が進んでいるという話。

ヘッドランプの照射距離

しかしこれはあくまでも通過点。将来的には10μm程度の大きさしかないマイクロミラー(いわば超小型のリフレクター)100万枚以上の集合体であるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)を使って反射させる

『DMD:Digital Micromiror Device(空間光変調器)』

を活用したADBの完璧な制御を目標としている。

DMDによるADBの制御

ADBというのは早い話が最近の車に付いている対向車に眩しくないようなハイビームコントロールで、現状はLED素子を横一列に並べて該当する箇所を点けたり消したりすること制御するアレイ式というのが一般的。

この方法でより精密な制御をするために解像度を上げようとしても

『LEDの数=解像度』

となってしまい何百個と並べる必要があるためコストが嵩む。

そこでキッチリな点光源が出るレーザーヘッドランプとDMD制御により解像度が大きく向上し、より精密な配光コントロールが可能になるという話。

ADBの仕組み

2018年に登場したベンツのマイバッハSクラス(約2300万円)が先陣を切ったものの今はまだコストの問題があることや、ここまではいかないもののLEDのままある程度の細かい制御をすることでコストを抑えた技術なども生まれているのでまだ普及は先の話。

h-digiモジュール

しかし上記に書いたとおりメリットが大きいので、いずれは広く採用される日が来るかと。

ただ如何せんバイクはスペースや法規の問題からハイビームコントロールといった配光可変型すら無いのが当たり前なので、この話題にはあまり関心が無いかもしれません・・・が、意外とそうでもない。

何故ならレーザーヘッドランプとDMDによる高解像度化が普及し発展していくとこういう事も可能になるから。

レーザーの仕組み

ヘッドランプの光を細かく制御することで文字などを投影する事ができるようになる。いつになるかは分かりませんが、これは期待せずには居られないですね。

バイク乗りの平均年齢が50歳を突破  -深刻な若者のバイク離れ-

バイク乗りの高齢化

バイクに乗らない人は「バイク乗り=若者」というイメージを持つことが多いようですが、実際はご覧のとおり50代~が圧倒的に多いという現実。

正に少子高齢化のグラフを見ている様ですが、バイクの場合さらに40~50代はちょうどバイク黎明期~バイクブーム世代なんですね。

その事もあってグラフがより偏ってしまうわけです。

まあ10代が少ないのは分かります。今の時代バイク買うお金は愚か免許代すら難しいでしょう。
問題は20~30代という本来ならバイク業界においてメイン層であろう年代の落ち込みです。

しかもただでさえ少ないのに離率も非常に高い。
さらに面白いことに性別で見ると女性ライダーは比較的人口は横ばいで、バイク離れを起こしているのは主に男性だそうです。

バイクを手放した理由~排気量別~(日本自動車業界調べ)

原付一種(~50cc)
1位「故障したから」 
2位「軽自動車の購入」 
3位「利用用途がなくなった」

原付二種(51~125cc)
1位「店が良くなかった」 
2位「駐車場の問題」 
3位「事故にあった」

軽二輪(126~250cc) 
1位「駐車場の問題」 
2位「体力に自信がなくなった」 
3位「バイク仲間が少なくなった」

小型二輪(~400cc) 
1位「仕事が忙しくなった」 
2位「私生活が忙しくなった」 
3位「別の趣味が見つかった」

小型二輪(401cc~) 
1位「子どもが出来た」 
2位「駐車場の問題」 
3位「維持費の問題」

メーカーや協会が訴えているのですが、一番大きな痛手となったのは「駐車禁止違反の強化&民間委託」です。

二輪用の駐輪場が完備されていないにも関わらず駐禁の対象にされ鬼のような検挙で問題となりましたね。

駐禁件数

今でも原付ですらおいそれとそこら辺に停められない時代です。

この件により、バイクを趣味や娯楽ではなく通勤や通学、ビジネスで使ってる人はどんどん電動自転車やロードバイクに移っているそうです。

更に20代を中心とした若者がバイク離れを起こすという事は、若者に人気のあるCB400を筆頭とした400ccクラスが売れないということです。

CB400SF客層
400ccクラス市場動向

もはや乾いた笑いしか出ないほどの急落ですね。

よく

「400は日本だけのガラパゴスバイクだから軽視される。」

と言われますが、こういう所にも理由があるんですね。

ガラパゴスなのにガラパゴスで売れないんじゃ話にならないワケですよ。

~400cc位までなら燃費良いし維持費も税金も車ほど掛からないんですけどね・・・

上記の通り世間では「若者の車離れ」ばかりが騒がれますが、「若者のバイク離れ」の方がよっぽど深刻なんですよ。

ショートストロークとロングストロークの違い

ロングストロークとショートストローク

バイクは燃費が良くてエコな乗り物なのは誰でも知ってると思います。

趣味の大型バイクでも実測で20km/Lなんて当たり前・・・なんて言うと

「リッター20なんていかないよ!嘘つかないで!」

と高馬力バイクの典型であるスーパースポーツに乗ってるオーナー等から怒られそうですね。SSは燃費悪いですから。

なぜSSというか馬力が高いバイクほど燃費が悪くなるのかというと、エンジンのスペックを決める最も重要な部分であるボアストロークの比率がショートストローク寄りだからです。

ロングストロークとショートストローク

ショートストロークエンジンというのはボア(シリンダーの内径)がストローク(上下する行程)の長さより大きいエンジンの事。

逆にストロークの方がボアの大きい(長い)エンジンの事をロングストロークエンジン、同じ長さの場合はスクエアと言います。

ロングストロークになるほど燃費と低速トルクが良くなるけど馬力が低くなる。

ショートストロークになるほど燃費も低速トルクも悪くなるけど馬力が高くなる。

ここまでは何となく知ってる人も多いかと。

どうしてショートストロークとロングストロークでこんなに違いが生まれるのかというと、馬力とトルクの違いにも繋がる話なんですが・・・

クランク

馬力とトルクって何ぞやって人も居るかと思います。馬力というのは簡単に表すと

「馬力=トルク×(クランクの)回転数」

で求められる・・・って言っても分からないですよね。まあ別に分からなくても何も困らないので大丈夫です。ただこの式をアタマに入れてください。

つまり馬力というのはトルクと回転数という要素を倍々で掛け合わせて出していくのですが、ロングストロークエンジンはショートストロークエンジンほど回転数を上げることが得意ではないので必然的に馬力を上げ辛くなる。

なんでロングストロークは回転数を上げられないかというとバルブという燃焼室の入り口が狭い事が原因。緑の丸がそうです。

ロングストロークとショートストローク

回転数が上がるということはバルブの開閉時間(吸排気時間)も短くなっていくので、バルブの口が狭いロングストロークでは吸排気が間に合わなくなる。

人間で例えるなら、ショートストロークが浅い呼吸なのに対しロングストロークは深呼吸。深呼吸を早く出来る人間なんていませんよね。

そしてもう一つ理由があります。それはその名の通りストロークが長いから。

コンロッド

ストロークが長いという事は上下するピストンスピードが速いという事で、その負荷にコンロッドが耐えきれず壊れてしまうんです。

逆にショートストロークエンジンはバルブ口も広く、ストローク量も浅く、ピストンスピードが遅いので

「回転数を上げられる=馬力を上げられる」

というわけ。

FI

これだけ聞くとショートストロークエンジンの方が勝っているように感じるけどもちろん違います。これらはあくまでも馬力を上げるとなった時の話。

最初に言った通りショートストロークなら馬力は稼げるけどロングストロークほど低速トルクを稼げません。

これは呼吸が浅い(低回転時の充填効率が悪い)事もありますが、いま言ったピストンの速さそれに燃焼室の広さが関係しています。

燃焼速度

エンジンはガソリンを燃やして発生した膨張圧力でピストンを押し下げる事(これがトルク)によりクランクを回して走るわけですが、燃焼によって生まれたエネルギーが100%ピストンを押し下げる圧力になるかというとそうではなく30%ほどしか使えていません。

残りの70%は何処に行ってるのかというと

・燃焼時に熱となって逃げてしまう冷却損失が30%

・排気ガスとして出てしまう圧力や熱の排気損失が30%

・機械同士の摩擦による機械損失が10%

大まかに分けてこうなっていて約70%も無駄にしてるわけです。

排気損失

“燃焼効率”というのはこれらの割合の事で、この70%のロスを1%でも減らし可能な限りピストンを押し下げる圧力にする事に何処のメーカーも血眼なのが現状です。それが燃焼効率を改善することが燃費にもトルクアップにも繋がるからですね。

そしてこのページでフォーカスを当てるのは熱として逃げてしまう冷却損失の部分。

冷却損失というのはガソリンを燃やした時にエンジン(ヘッド・シリンダーピストン)やオイルやウォータージャケット(冷却水)へ熱として逃げてしまう損失の事。

エンジン触ると熱いですよね。アレが冷却損失です。もったいない話ですがどうしようもない。

熱損失

「熱を逃さないようにすればいいのでは?」

と思うかもしれないけどそうするとエンジンが高温になりすぎてノッキング(自然発火による異常燃焼)、吸気温度上昇による体積効率(密度)の低下によるパワーダウン、内部への熱ダメージなどなど・・・いわゆる熱ダレ、オーバーヒートを起こしてしまう。

そんな冷却損失ですが、これもショートストロークとロングストロークで大きく変わってくるんです。

ショートストロークエンジンというのはビッグボア、径が大きいのでシリンダーの表面積(外径)も大きい。

ボア径による違い

つまりそれだけ熱として壁を伝って逃げる割合も大きい。更にショートストロークは文字通り

「ストロークが短い=ピストンが上下するピストンスピードが遅い」

ので更に損失が大きくなる。

そしてもう一つあります。それは燃焼伝播の問題。燃焼伝播というのは要するに混合気の燃え広がる速さです。

ロングストロークとショートストローク

表面積が大きいと端の方まで燃えるのに時間がかかる。ただでさえストローク量が短いのにチンタラ燃え広がるからピストンを押し下げる圧力(トルク)を稼げない。これが下スカスカと言われる原因。

じゃあなんでショートストロークエンジンが高回転になるとトルクを稼げてるかというと、ザックリ言って高回転になると流速が増し乱流(火炎を掻き回す気流)が発生するからです。

・・・低速トルクの大事さを書こうと思ったのですがショートストロークとロングストロークの説明になって少しボヤけてしまいました。

まあとにかくロングストロークとショートストロークそれぞれ得意不得意があるという事です。天は二物を与えずとはよく言ったものです。

余談ですがバイクのエンジンは燃費特化のスクーターや一部の車種を除くと基本的にショートストロークエンジンがほぼすべてを占めています。

CB1300エンジン

一見ロングストロークっぽく見えるCB1300でもボア78.0 × ストローク67.2とショートストロークエンジン。SR400ですらショートストロークです。

これはバイクの車重が軽く低速トルク(蹴る力)がそれほど要らないから。逆に車は重い上に燃費最優先なので低速トルクを稼げて熱を垂れ流しにくいロングストロークが大半。バイクとクルマの回転数がかけ離れてるのはこういったことから。

つまり最初に言った”バイクは低燃費でエコ”と言うのはエンジンが低燃費だからというよりも車重が軽いからで、内燃機関としてだけで見るとバイクはそれほどエコではなかったりする。

純正の排気音は巧妙に調律されている

良い排気音

「バイク乗りは排気音を聴くとバイクの楽しさを連想するから良い音だと感じる」

という話を『バイクの排気音がうるさいと言われる原因』というページで書いたんですが、しかしながらバイク乗りならどんな排気音でも良い音だと感じるのかといえば違いますよね。

典型的なのがシングルやツインのドコドコ音が好きな人も居ればマルチのモーターみたいな音が好きな人も居ること。

これはバイクに乗らない人が騒音と捉える事から排気音を音圧(音量)で判断する一方、バイク乗りは良い音と捉える事から音色(音の形)を含めて判断しているから。踊れるダンスミュージックが好きと言ってもテクノが好きな人もいればレゲエが好きな人もいたりするのと一緒。

排気サウンド

「そもそも音色(音の形)とはなんぞや」

という所から入る必要があると思うんですが、これが非常に難しい話で音響学いわく音には三大要素として

・音圧(音の大きさ)
・音域(音の高さ)
・音色(音の形)

があり音圧や音域はグラフで表せるものの、音色は複合的な要素から決まる心理要素なためグラフ化が難しい。

連想させる

複合的な要素というのは例えば音の立ち上がり方や減衰、基音だけでなく倍音やその他周波数とのバランス、位相(反射音)などなど様々な要素で決まるのが音色。

だから音色は主観が基準で

「温かいor冷たい」

「鋭いor柔らかい」

「澄んでるor濁ってる」

など数字ではなく形容詞で表現される。

でもこの複合的な要素があるからこそ人は同じドレミファソラシドでも何の楽器の音か、バイク的に言うと単気筒や四気筒などの排気音を聴き分ける事が出来て好みが生まれるという話。

気筒数による音色

とはいえ難しすぎるのでここらへんはすっ飛ばして、メーカーが良い排気音を出すためにやっていることについて物凄く簡単に話をしたいと思います。

メーカーが行っている排気音つまり音色を良くするための創意工夫として一番分かりやすいのが周波数(音の高さ)の調律です。

例えばバイク乗りは力強さを感じる事から100Hz以下の低音を好む傾向があると言われており、メーカーの開発者たちは100Hz以下の周波数を強めたりしているんですが、ここでミソとなるのが

「単純にその周波数の音圧(音圧)を上げているわけではない」

という事。

何故なら単純に強める、つまり音圧を上げてしまうと騒音規制をオーバーしてしまうから・・・じゃあどうしているのか。

『狙った音域(周波数)以外を弱める』

という事をやってるんです。

音域と音量

こうしてバイク乗りが好む音色、ひいてはバイク乗りが好む排気音を作っている。

具体的にどういう手段を用いているのかというと象徴的なのが

『レゾネータ(共鳴器)』

というやつで、NC750を例に出すとサイレンサーでエンジンから来る排気(音源)を多段膨張室という広い部屋に導き全体の音圧を抑えつつ(薄めつつ)、レゾネータ室でそれでも下がらない特定の周波数だけを抑えるノイズ除去のような事をしている。

レゾネーターによる調律

ただこのレゾネータはピンポイント消音というだけあり、径や体積がほんの少し変わるだけでノイズ除去どころかノイズ増幅装置となってしまい聴けたもんじゃない排気音になったりもする。

そんな紙一重の調整をメーカーの人たちは取り入れて排気音を作ってるんです。まさに調律といえますね。

ちなみにパンチング孔はピューという気流音を発生させないためにあります。

それ以外に良い音色のためにやっている事としては例えば膨張室式の部屋を減らすことで共鳴や籠もりを減らし歯切れを良くしたり、排気口の口径を大きくする事で低周波を強調させたりする手法。

レゾネーターによる調律

あと面白いのがエキゾーストパイプの径や長さをシリンダー毎に意図的にバラバラにするクルーザー系に多い手法で、そうすると何が起こるのかというと

「トッ、トッ、トッ、トッ、」

と本来なら奏でるところを

「ト、ドッ、ト、ドッ」

と奏でたり

「ドト、ドト」

と点火タイミングとはまた違う起伏がある排気音を奏でるようになる。狙いはもちろん鼓動感のある音色にするため。

もしかすると今ひとつピンと来ない人も居るかも知れません。でもそんな人ですら絶対に分かる音色を魅力的にする手法というか機構が一つある・・・それは可変バルブです。

音域の変化

バイクで有名なHYPER VTECを例に上げると、低中回転時は2バルブ駆動する一方で高回転になると4バルブ駆動になる。これは管楽器において吹き方を変えることと同義なので周波数ひいては音色がガラッと変わります。

この音色変化が乗り手を非常に高揚させる事が分かっている。

VTECサウンド

「VTECがたまらないぜ」

と酔いしれているオーナーが二輪四輪問わず多い要因は実はバルブ切り替えによる性能アップよりもこの

『音色変化という心理的な要素(加速感)』

が大きいんです。

ちなみに開閉制御がある排気デバイスや圧によって切り替わる復路化された排気吐出口なども同じような効果がある。

直近のモデルでいえばCBR1000RR-Rが非常に分かりやすいんですが、あれの排気音が凄く良いと言われているのもアクラポビッチだからではなく大きな音色変化があるから。

低回転域では従来の複室式で幅広く消音しつつ、高回転になると排気バルブが開いてストレート吸音型からの排気音が加わる。

VTECサウンド

一昔前の社外マフラーに多かったこの吸音型は500Hz以上などの高周波を大きく消音出来るものの低周波は消せない。これが結果として低周波を更に強調する形となり大きな音色変化を生む。だから良い音だと感じる人が多いわけ。

もちろん排気音の評価では音圧(音量)も大事な要素と言われているんですが騒音規制がある以上それには限界がある。

だからこそこういった創意工夫で

『心理に強く働きかける高音質な音色』

を奏でるようメーカーの開発者たちは調律している。

2018年頃から排気音が良いモデルが増えてるのを実感している人も多いかと思いますが、それもクリアする事で手一杯だった騒音規制が世界基準化という実質的な緩和され余裕が生まれた事と、世界基準化によって音色開発に対するリソースの集中が可能になったから。

つまり良い排気音を奏でるモデルが近年増えたのは音を大きくする事が出来るようになったというより

「調律の幅が広がったから」

と表現したほうが正しい。

自動車業界全体が俗に言うモノからコト重視への転換で、商品価値を高める要素として排気音の重要度を上げて

『消音から美音の時代』

になった事も関係していると思われます。

排気サウンド

しかしじゃあ排気系が担ってる1番の役割が良い音を奏でる事かといえば違いますよね。

ここが凄い所というか一番書きたかった所で、今こうやってザックリながら紹介した内容は

『排気に伴って出る音』

だけに絞った話。でも排気系が担ってる最も重要な役割は良い音を出す事じゃない。

『エンジンが出す排気ガスを上手く捌いて助ける』

というのが最も大事な役割。馬力や燃費といった走行性能に直結するからです。

そこで問題となるのが

「良い音を引き出す事と良い性能を引き出す事は必ずしも比例しない」

という事。

排気サウンド

例えばエキゾーストパイプをとてつもなく長くすると凄く低音が効いた音になるもののスペースや重量やマスの集中化といった問題、それに背圧や脈動(管内の圧力)などでエンジンの足を引っ張ってしまう。

途中で話した可変バルブだって音色を変えるためにわざわざ採用しているわけじゃないのは分かりますよね。

・消音の問題
・圧の問題
・重さの問題
・スペースの問題
・耐久性の問題
・コストの問題

排気系には音色を作る前にクリアしないといけない問題がこれだけあり、我々が当たり前に聴いている排気音という音色というのはそれをクリアしたうえで奏でている音なんです。

だからそれほど良い音だと思えない排気音を奏でるモデルも正直あるし、満足してないオーナーも少なからず居ると思います。

でもじゃあ

「疲れたり耳障りだったりする音か、バイクにマッチしていない音か」

と聞かれればそうではないでしょう。

何故ならそれもメーカーがそう思わせないように調律した音色だからなんです。

排気音の確認テスト

つまり何が言いたいのかっていうと純正の排気音というのはメーカーの人達がとんでもない手間と時間をかけて開発した

「実用的かつ官能的なハイスペック管楽器の音」

という事。だから開発でも一番モメる部分だったりするんだとか。

HRC/トリコロールに起きた変化

トリコロールの変化

このページは

『HRC/トリコロールの由来と一人の日本人レーサー』

で長くなりすぎた為に省いた部分のページなので、上のページを先に読んで貰えると助かります。

由来で話した通り、トリコロールはRCB1000という耐久レーサーによって広く認知される様になりました。

では市販車に下りてきたのがいつかというとRCB1000登場から約3年後となる1979年になります。

CB900F

『CB900F/SC01型』

耐久レースの舞台であった欧州向けに開発されたRCBのレプリカモデル。トリコロールを纏うのは必然だったと言えますね。

盛岡デザイナーもHERT/RCBのイメージを強く活かしたカラーリング表現をしたと明言しています。

CB750F

ただ残念ながら日本向けのCB750Fには検討こそされたものの採用には至りませんでした。

後に親しい色は纏うんですが、これは正確に言うとRCBではなくその後継CB1100Rをイメージしたもの。

CB750F

少し混乱している人が居ると思うので説明すると

CB750FOUR(ベースマシン)

RCB(FOURのファクトリーチューン)

CB900F(RCBレプリカ)

RS1000(900Fのファクトリーチューン)

CB1100R(RS1000レプリカ)←CB750Fはこのカラーリング

CB1100Rのトリコロール

という事で実はCBX400F(1981)カラーより遅かったりします。

では日本で最初に発売されたトリコロールはなんだろうと思って調べてみたら最初はMB5と思っていました違いました。

正解はこっちでしたスイマセン。

ホークIII

1978年のホンダ ホークIII

ホンダのミドルCBですね。国内ではこれが始まり。

それで本題というかちょっと補足的な話。

トリコロールの話を長々としてきたものの、こう思ってる人も多いのではないでしょうか。

RCBトリコロール

「トリコロールっぽくない」

と。早い話がほぼ赤じゃんって事ですね。

80年代が好きな人にとってトリコといえば

80年代のトリコロール

直線が美しいこれ系でしょう。

90年代が好きな人にとってトリコといえば

90年代のトリコロール

疾走感があるこれ系。

00年代が好きな人のトリコといえば

00年代のトリコロール

鋭いウィングマークが入ったこれ系。

10年代が好きな人のトリコといえば

10年代のトリコロール

赤基調になったこれ系。

ザックリな紹介ですが、要するに初期のトリコロールに違和感を持ってしまうのは

新旧トリコロール

「白要素が全然無いから」

でしょう。

でもですね、トリコロールに準じているHRCのロゴをよく見て欲しいんですが白ってそんなに無いんですよ。

HRCの白の部分

白い部分は真ん中の区切り線と枠線だけ。

つまり白の部分は本当に縁取り程度という話。

それを頭に入れてもう一度トリコロールの初期であるRCBを見てみると・・・

RCBトリコロール

これがトリコロール、HRCカラーと言われても納得できるかと思います。

NR500はもっとわかりやすいですね。

NRトリコ

ロゴの配色と全く同じ。

ただ実はこの配色バランスはそんなに長く使われておらず1982年頃から一変しました。

これはNRに代わって登場した1982年のNS500。

NS500トリコロール

NRよりも現代的なトリコロールになっているのがわかるかと。

これ以降ホンダ/HRCのトリコロールは白の面積が大きくなりました。初めてトリコロールを纏って世界GPに登場したNRも1987年の耐久レーサー仕様はご覧の状態。

1987年製NR750

これが何故かというと実はこれもよく分かってない。

1982年頃からという事で

「HRCの設立がキッカケ」

と思いそうなんですがHRCが設立されたのは1982年の9月でNS500より後なので時期が合わない。

それにNS500は1980年からプロジェクトが始まっており、1981年のプロトタイプ/NS2A-1Xの時点でカラーリングが既に決まっていた模様。

NS500プロトタイプ/NS2A-1X

「では白が増えた要因は何なのか」

って話ですが考えられるのは

・塗装やデカールの削減(重量減)

・軽快感を出すため

などがありますが、その中でも一つ有力な俗説を紹介します。

1980年頃になると最初に紹介したCB900F/CB750Fなどからも分かる通り4気筒が当たり前の世界となりバイクの性能が大きく向上しました。

するとどういう問題が起こったか・・・分かりますよね。悲惨な事故が増えたんです。

特に市販車ベースの耐久レースが人気だった欧州(ドイツやフランスなど)は顕著で、アウトバーンをカッ飛ばして耐久レーサーの真似をする人達が急増。

アウトバーン

これは町外れからカッ飛ばして出勤するのがトレンドとなっていた面もあります。

その事からドイツを例に上げると1978年に100馬力規制を設け、1980年にはヘルメット着用を義務化を施行。

ドイツの事故推移

フランスやイギリスも同様(仏106馬力/英125馬力)の規制などを敷きました。

※現在は撤廃

これらの規制の背景には国民感情もあったと言われています。

バイクに乗らない人間からすれば暴走バイクなんて当たり前ですが非常に迷惑な存在。バイクに対する印象は悪くなる一方だった。

「あんなの(レースやその市販車)をやってるからいけないんだ」

という事態にまで及んでしまうのは非常にマズい。

VF1000Rトリコロール

しかしレースやレーサーの様なスポーツ車を求める人も居るからそれらを止めるわけにはいかない・・・そこで考えられたのが白面積の増加。

CBR1000RRがちょうどいい題材なのでオーナーさんには申し訳ないんですがちょっと利用。

同じ形でホワイトが大きく入っているカラー(写真左)と、ほとんど入っていないカラー(写真右)があります。

トリコロールの白面積

この二台どちらが『クリーンなバイク』に見えるでしょう。

恐らく多くの人が白が大きく入っている左の方がクリーンだと思うのではないでしょうか・・・これが狙い。

厳しくなっていくバイクに対する目を少しでも和らげるために白を広く取り入れる様になったというわけ。だから実はこれトリコロールだけの話ではなくどのメーカーもそうなんです。

GSX-R、RZ、GPzなどなど1980年代のスポーツバイクを思い出してみて見て下さい。この頃からスポーツバイクは必ずと言っていいほど白が目立つカラーリングになっている。

これは日本の『三ない運動』も少なからず影響していると思います。

要するにトリコロールの白が広くなったのは言ってしまえば正義感を出すため。

トリコロール史

「トリコロールは大正義カラー」

とよく言われますが、それは狙ってそうしているという話というか俗説でした。

【余談/小ネタ】

不確実な話ばかりで申し訳ないのでHRCに関する確かなネタを一つ。

マン島TTで初代ワークス監督を勤めた二代目ホンダ社長の河島さん曰く、ホンダで一番大変だったのはワークスの監督だったとの事。

河島監督

本田宗一郎の本で

「ワークス(HRC)の監督に比べたら社長は楽だよ」

という話をされていました。

どうしてワークスの監督が大変なのかというと

「負けたらオヤジ(本田宗一郎)が大激怒するから」

という話・・・でも実はこの流れ、本田宗一郎だけで終わってない。

六代目のホンダ社長でNR500/NS500を開発しHRC監督も務められた福井さんがRACER22でこんな話をされています。

福井社長

「鈴鹿のレースは重役やOBがサーキットを一望できるVIPルームに来るから大変。」

これがどういう事かというと

『ホンダの社長(出世コース)は技術畑』

という決まりは有名かと思いますが、それはつまりVIPルームへやってくる重役やOBというのはWGP/MotoGP/F1などで活躍しキッチリ結果を残してきたレース大好きな凄腕エンジニアでもあるという事。

鈴鹿サーキットのVIPルーム

だからレースを見る目も観戦というより督戦でレース中はずっと質疑応答を求められる。

もちろん第一線で活躍してきた人達だから言い訳や誤魔化しなんて通用しない。ある意味では本田宗一郎より難敵かも知れない。

当然ながらワークス(HRC)で挑んでおきながら失態を晒そうもんならそりゃもう・・・だからHRCの監督は大変という話。

HRC

技術畑出身という決まりは傍から見ると素晴らしい事ですが現役組にとっては・・・という事ですね。

まあでもだからこそ常に常勝軍団HRCであり続ける事が出来ているとも言えるわけですが。

世界のバイク免許事情

日本の二輪免許事情

日本の交通免許

皆さんご存じでしょうが、日本の二輪免許は現在

原動付(~50ccまで)

小型自動二輪MT/AT(~125ccまで)

普通自動二輪MT/AT(~400ccまで)

大型自動二輪MT/AT(排気量制限なし/~650ccまで)

となっています。

写真の様に全てを取得している免許をフルビット免許と言い、その人をフルビッターと言ったりします。
こち亀の両さんがフルビッターでしたね。

有名な話ですが、
大型二輪免許が一発試験の厳しい限定解除から教習所などで免除されるよう改定緩和されたのは貿易摩擦を生じていたアメリカとハーレーの圧力があったからなんですが、ホンダを始め日本の二輪メーカーは否定的だったんですよ。

まあ日本の免許事情はみなさんご存知でしょうからこのくらいにします。

ちなみに私の免許はずっと青いままです。

アメリカの二輪免許事情

アメリカの免許

アメリカでは免許を取り扱っている団体をDMV(Department of Motor Vehicles)と言うのですが、アメリカは州によって免許制度が違うので一概には言えない難しさがあります。

まあただ総じて言えるのは安くて早くて緩いという事。それは「運転は家族が教えるもの」というのがアメリカの考えだからです。

申し込み→講習&実技(仮免交付)→試験→交付

流れは大体日本と同じですが費用も100ドル前後で3日程で取得が可能。

肝心の区分ですが基本的にA、B、CとM1とM2の五種類しかありません。

その中でもバイクは

M2=150cc以下の二輪車

M1=150cc以上の二輪車

たったこれだけです。

免許を取れるのは16歳以上からですが、21歳未満の場合は別途講習&試験を受けなければいけません。

カリフォルニア試験場

ただ試験を行う際の車両を自分で用意する必要があるため、貸出の業者があったりします。
もちろん日本でいう車両コミコミで試験まで面倒を見る教習所のようなシステムもあり、それでも300ドル程。日本の1/5程ですね。

EUの二輪免許事情

EU免許

最近になってEUで統一される事になった免許。

二輪関係は以下の通りとなりました。

AM免許(16歳以上):~50ccまで、及び最高速が45Km/h以下の二輪

A1免許(16歳以上): ~125ccまで、ただし最高出力が11KW(15馬力)以下のもの

A2免許(18歳以上): 排気量制限なし。ただし最高出力が35kW(47.6馬力)を越えないもの

A免許(20歳以上): 無制限。A2の免許取得2年後より取得可能

となってます。日本よりややこしいですね。

ちなみに取得方法は日本と同じくスクールに通って取得する方式。ただし実技はなんといきなり路上です。習うより慣れろ精神ですね。

費用は国によって違いがあるみたいですがA免許まで取得すると大体1000ユーロ前後ほど。

ホンダライセンス別車種

特にA2免許は排気量ではなく馬力制限なのでメーカーも区分に四苦八苦しています。

向こうの人はNC700には乗れてもCB400SFには乗れないという日本では考えられない逆転現象のような事が起こってるんですね。

逆にカタログ値が比較的低いハーレーなどはスポーツスター883がA2免許で乗れるという正に水を得た魚状態で市場で猛威を振るっています。

更に言うと向こうでは1000ccを越えるような大排気量だったり100馬力を越えるような趣向の強い車種は任意保険の掛け金が跳ね上がる(年間30万円前後かかる)為にライダー達がスペック離れを起こしちゃってる。

パリの駐輪場

だからEUではSSやメガスポといったハイスペックモデルは富裕層の乗り物と位置づけれているみたいです。

向こうの人からしたらそんなバイクがゴロゴロ居る日本は異常に見えるのかもしれませんね。

ASEANの二輪免許事情

タイの免許

バイクが無ければ生活できないと言われるほど売れる台数が桁違いなASEANを代表してタイの免許を紹介します。

タイの二輪免許は一つだけ。

筆記を受けて合格したら実技をやって合格したら交付される。
(余談だけど踏切を渡る前は日本のように一時停止するとダメで徐行でいいらしい。文化の違いか。)

実技に合格すると即日交付で免許を貰えます。費用は1000バーツ、日本円にして3000円ほど。安いですね。

近年タイは急成長を遂げている影響か、小型のみだったバイク市場で大型バイクが沸々と人気が出ている。

タイのバイク

しかし即日交付の免許で大型バイクって大丈夫なんだろうか・・・ただでさえ死亡事故数(10万人当たり)も世界第三位(38人)なのに。

ちなみに一位はニウエ(人口1500人ほどで68人)、2位はドミニカ共和国で41人。

日本は5人とかなり優秀です。あとアメリカは11人、EUは平均すると4~5人ほど。

こうやって見るとやっぱり免許取得に対する敷居の高さと事故率は比例してると言えなくもないですね。

オマケ 国際運転免許証の事情

国際免許証

皆さん国際免許って聞いたことありますよね。これを持っていれば世界中の色んな国で運転できる凄い免許なんですが、実はこれ申請すれば誰でも取れるって知ってました?

それこそ一年経ってない初心者でも申請すれば貰えます。さらに言うと国際免許というのは原則一年限りの有効期限付きで 「長く海外にいるならソコでまた免許取ってね」 というスタンス。

てっきり国際運転免許といえば世界の言語や交通法を知り尽くして、厳しい試験に合格した限られたインターナショナルな人だけが持てる免許なものだと・・・

トヨタも昔バイクを売っていた ~豊田家と鈴木家~

トヨタ自動車

神様、仏様、豊田様のトヨタが昔バイクを売っていたって知ってましたか?

「あのトヨタが!?」

とか

「そんな馬鹿な!!」

って反応を期待してるんですが・・・まあまず最初に売上高日本一のトヨタがどれくらい凄いか日本が誇る四大バイクメーカーと比べてみましょう。

売上高

ダントツの1位ですね。

そりゃヤマハ発動機をアゴで使えるわけですよ。

ちなみにこれは連結なので四輪も売ってるホンダやスズキが有利です。これを二輪部門に絞ると二輪特化とも言えるヤマハとホンダの差は半分ほどまで縮まり、スズキとカワサキの順位は逆転します。

さて本題。

トヨタがバイクを売っていたのは1949年の頃から。トヨタはこのとき既に自動車販売を始めており今でいうディーラーも各地に構えていました。

しかし時代はまだ戦後で庶民は車なんて買えない時代です。そんな中でトヨタ研究所に務めていた川真田和汪という男が庶民でも手の届くバイクの事業を始めようと脱サラ。自身でバイクのメーカーを立ち上げます。

その名も

トヨモータース

『トヨモータース(トヨモーター)』

トヨタという名を拝借・・・じゃなくて名前にあやかって付けたそうです。

「トヨタは関係ないじゃん」

って思うかもしれませんが話は続きます。

T6

これがトヨモーターが最初の頃に作って売っていたバイクなんですが、これを取り扱っていた商社がトヨタグループである

『日新通商(後の豊田通商)』

となる会社だったんです。

豊田通商とはいわゆるトヨタの総合商社でトヨタグループ13の一つ。

豊通

※トヨタグループ13とはトヨタグループを代表する13の企業のことでポピュラーな所ではアイシンやデンソーなど

元トヨタ社員のコネというか伝手で豊田通商の力を借りることによりトヨモータースのバイクは全国どころか海外のトヨタディーラーでも販売され成功を収めました。

こうなるともうトヨタグループみたいなもんですね。

これが好評だったため、それを見たライバルの日産もニッサンモーターバイクを立ち上げています。

ニッサンバイクモーター

ただニッサンはダットサンとオースチンといった自動車が好調になった為に僅か一年ちょっとしか売っていません。

では何故トヨモータースは無くなったのかという話。

トヨモータースTB

トヨモータースなんてもう存在しないし、トヨタがバイク関係の事業をしているなんて聞きませんよね。

販売面でも好調だったトヨモータースでしたが転機が訪れます。それは日新通商(豊田商事)のスズキバイク取り扱い開始・・・つまりトヨモータースとスズキ(バイク)がトヨタ自動車ディーラーで併売される事になったんです。

これは一体どういうことかと思うでしょうが、これにはトヨタとスズキの生い立ちがあります。

バイク事業を始めようとしていたスズキはこの時は織機メーカーでした。それに対してトヨタも始まりは織機メーカー。

三代目トヨタ社長

更に当時のトヨタ自動車社長だった石田退三は愛知出身、対して当時スズキの二代目社長だった鈴木俊三(修会長の義父)も愛知出身・・・つまり同郷のよしみでトヨタがスズキのバイク事業進出を援助しようということで日新通商で売らせるようにしたんです。

これがトヨタディーラーでスズキのバイクを売るようになった経緯。

そこからトヨモータースとスズキの戦いが始まったのですが、トヨモータースは自社で生産する方式を嫌い基本的にアセンブリ(部品を他所から買って組み立てる)に拘った。

一方でスズキは自社による一貫生産・・・もう結果は見えていました。

スズキ第一号

第一号バイクであるパワーフリー号の時点で

『ダブルスプロケットで圧倒的な速さ』

『とっても頑丈』

『そして安い』

という今も続くコスパの前にトヨモータースは為す術も無く・・・更に一家に車一台というマイカーブームの到来したことで

「もはやバイクを売る必要なし」

とトヨタに判断され日新通商でのバイク取り扱いを終了。昭和35年を最後にトヨモータースは無くなりました。

余談

つまりトヨタのバイクはスズキが潰したようなものですが、スズキも同郷のよしみで第一歩を手助けしてくれた事には大変な恩義を感じており二代目スズキ社長の鈴木俊三は三代目スズキ社長の鈴木修(現会長)に

「なにかあったら豊田さんに頼りなさい」

と言い残したそうです。※自伝より

そして言葉通りスズキは2stに頼っていた事が裏目となり1970年のマスキー法(アメリカの厳しい排ガス規制)に端を発した国内で排ガス規制をクリアする4stエンジンの開発が間に合わず倒産の危機を迎えました。

鈴木修

そうすると鈴木修会長は義父の言葉通り豊田家を訪ね事情を話し事情を説明。一時的にダイハツ製の4stエンジンを供給してもらい九死に一生を得ました。

鈴木修会長が自伝本で

「トヨタさんには大変世話になった」

と言っているのはこういった事があったからなんですね。そのため豊田家と鈴木家は今でも良好な関係が続いていると言われています。

鈴木俊宏社長

例えば会長の息子でありスズキの四代目社長となった鈴木俊宏社長も最初からスズキへ入社したわけではなく、トヨタグループであるデンソーで10年ほどの勤務をした後にスズキへ入社した経歴があります。

レースがあったから今がある 〜レースの重要性について〜

レースの重要性

バイクに乗って競争するレースというものにバイクメーカーは多額のお金を突っ込んでいます。

オンロードでいえばMotoGPやSBK、オフロードでいえばMXGPやスーパークロスなどなど。バイクレースの最高峰と言われるMotoGPなんかでは年間うん十億円もかかるんだとか。

どうしてメーカーがそれほどまでしてレースにお金をかけるのかというと一つは宣伝のため。レースでの活躍は自社の優位性をアピールする最高の場なんですね。

MotoGPによる競争

ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキなどの日本メーカーはもちろん、イタリアのドゥカティやアグスタにイギリスのトライアンフなどなど現存する名だたるバイクメーカーは

「レースで活躍したから生き残った」

といっても過言ではありません。

一見レースとは無縁なイメージがあるBMWですら一時期はパリダカというレースでブイブイ言わせていました。

ダカールによる競争

KTMに至っては現在進行形でラリー王者に輝き続けています。

「巨大企業である日本メーカーに競り勝つなんて凄い」

ともっぱらの評判です。

ただレースに興味がない人からすると宣伝はおろか縁のない遠い世界の話ですよね。

しかし実はそういう人たちにとってもレースというのは無関係ではないんです。というのもメーカーが湯水の如くレースにお金をかけるのは宣伝の為だけはなくもう一つあるから・・・それは

WGPによる競争

「技術力の向上」

です。

レースが何を競っているのかといえば順位ですよね。そして順位がどうやって決まるのかというとラップタイムになる。

MXGPによる競争

つまりレースでは皆が

『ラップタイムを0.01秒でも縮める』

という事を目標に新しい技術を開発して挑む・・・これが技術力の向上に繋がってるわけ。

「別にレースじゃなくてもいいのでは」

と思うかもしれませんが新しい技術を試すにはレースが最も適しているんです。

SBKによる競争

レースが走る実験室と言われる理由もここにあります。

何故ならレースは『ラップタイム』という数値化が出来るから。

・ライダー

・コース

・マシン

全て同じ状況下の中で新しい技術を加えた結果どういう影響を及ぼすのかがラップタイムとしてハッキリと表れる。

MotoGPによる競争3

単純な話ラップタイムが遅くなったらそれはダメな技術。ラップタイムが速くなったらそれは優れた技術となる。

このように

「0.01秒でもタイムを縮める為に莫大なお金を使い、とてつもない開発速度でトライ&エラーを繰り返す」

という事をやるから技術力が向上するという話。

そしてもう一つ大事なのは優れた技術でラップタイムを縮め、ライバルに差をつけたとしても

「その差はすぐに埋まってしまう」

ということ。

MXGPによる競争2

何故なら優れた技術であればあるほどライバルたちにすぐ真似されるからです。

それどころか真似されたものを更に昇華させる様な改良までされ、出し抜くために編み出した技術で逆に出し抜かれたりもする。

でもそうやって競い合うからこそ技術力の向上に繋がる。

三人寄れば文殊の知恵ならぬ

『ライバル寄れば文殊の知恵』

といったところですね。

そうして改良合戦という磨き合いによりピカピカになった技術はレースにおいてデファクトスタンダード(必須装備)になる。

SBKによる競争2

レースに興味がない人も無関係じゃないと言えるのは、この

『レースで当たり前となったピカピカの技術』

はやがてレースで戦った人材と共に市販車に下りてくるから。

こういう例はたくさんあります。

例えば倒立フォークやモノサスはオフロードレースで問題となったストローク長や量を解決するために編み出されたものだし、トラクション性が優れる不等間隔燃焼が生まれたのもその方が何故か速いという事に気付いたから。

もっと単純な所でいえば色んな形があるエンジンやフレームはレースで馬力や剛性問題を解決するために生まれたのが始まりだし、今では当たり前に付いているカウルだって整流によるトップスピードの底上げを狙って編み出されたもの。

カウル

排気量あたりのパフォーマンスやタイヤの性能向上も・・・などなど挙げだしたらキリがないほど今では当たり前の様にある技術はどれもこれもレースから来ている。

つまり我々がいま優れたバイクに乗れているのは

レースがあるから今がある

「メーカーが血眼になってレースという名の技術競争をしてきたら」

といっても過言ではなく、興味の有無に関わらず全てのライダーがレースがもたらす恩恵を受けているんです。

だから最後にレースに興味がない人へ少しだけ偉そうな事を言わせてもらうと、詳しくなれとか観戦しろとまでは言いませんが

MotoGPによる競争2

「レースは技術への投資であり、決して無関係なものでも不要なものでもない」

という事だけは理解してほしいと思います。

知ってそうで知らないガソリンの色

ガソリンの色

唐突ですが貴方はガソリンが何色か答えられますか?

「透明だ!」「黄金色だ!」

と期待通りの答えを示してくれる人がどれだけいるか分かりませんが違います。

まあガソリンタンクは光が当たらない(当たらないように出来てる)ので、暗くて見えませんから知らないのが普通なんですが。

さてもう既に引っ張るのが苦しいので諦めて答えを言ってしまうとガソリン(ハイオク含む)はこんな色をしています。

レギュラーガソリンの色

パッと見はグレープフルーツジュースの様な色。

どのメーカーも濃さに多少の違い(もっと赤かったり淡かったり)はあるものの、大体こういう色をしてます。

実物を撮って

「こんな色だよ」

とやりたいのは山々なんですが、法律で禁じられているので申し訳ないですが似た色の液体写真を加工して表してます。

コレは自然に出来た色ではなく着色による人工的な色。というのも”ガソリンはオレンジ色”というのがJIS規格(K2202-2012)で定められてます。

なんでそうなってるのかといえば、ガソリンは引火&気化しやすいという非常に危険な液体だからひと目でガソリンと分かるようにするため。ガソリンはマイナス40℃でも気化&爆発するほど危険なんです。

危ない

こんなマーク付けてるの見たことあると思います。危ないの文字は伊達じゃない。

もう一つ挙げるとするなら混油防止の意味もある。軽油と間違えない様に色分けされてるんですね。ただ量と光の問題なのかどのメーカーもオレンジ色というよりは最初に載せた様な色に見えます。

じゃあその軽油はどんな色をしてるかといえば

軽油

こんな色(薄黄色)、つまり多くの人がガソリンだと思ってる色はどちらかと言えば軽油の色の方が近いわけです。

ちなみに無色透明なのは危険性の比較的低い灯油だけ。重油は着色する必要もないくらい真っ黒。

さらに言うと、ガソリンと軽油の違いは色だけでなく気化が早いかどうかで判断できるけど、灯油と軽油の区別は色で判断というか色しか判断材料がありません。

不正軽油

しかしこの色が重要で、いわゆる不正軽油(軽油に灯油や重油を混ぜて走る脱税行為)検査は専用の分析器にかけるわけですが、色で(ある程度)判別できたりもするわけです。重油を混ぜると真っ黒、灯油を混ぜると透明になる。まあ悪質な所は色をカモフラージュしてたりするんでしょうが。

最後にオマケとしてAVGASとよばれる同じピストンエンジンでも航空機用のガソリン。

それはこんな色をしてます。

100LL

綺麗な青色(100LL規格)です。

※タービンエンジンを積んだ航空機用のガソリン(JET A-1/JP-4)は無色透明

ここまで来ても「ヘー」とも「ふーん」とも思わない強者の為にとっておきの豆知識を。

エネゴリ君

エネゴリくんは実は異星人です。

モデルチェンジをする理由

モデルチェンジ

これは豆知識というよりコラムに近いんですが、面白い(自動車に関する)論文を「CiNii収録論文」で見かけバイクにも当てはまると考えたので、個人解釈も交えて噛み砕きながら話したいと思います。

※技術面を排他し、マーケティングに限って見た場合の話です

車やバイクというのは数年でモデルチェンジをします。せっかく買ったバイクが型落ちになるとガッカリですよね。

ただそう思わせるためなのがモデルチェンジをする理由の一つなんです。

【計画的陳腐化】

有名なマーケティング戦略なので聞いたことがある人も多いと思います。

人間不思議なもので、少し見た目と機能が変わっただけの新しいモデルを見ると

「新しい=優れている」

という印象を持ち、ついこの前まで現行だった型落ちモデルには

「古い=劣っている」

という印象を強く持ってしまう。

その結果、買い替えへの購買意欲が掻き立てられセールスに繋がるというわけ。

ゼネラル・モーターズ

自動車業界でのモデルチェンジがそれに該当するのですが、この手法を確立したのはアメリカの自動車メーカーBIG3の1つであるゼネラル・モーターズです。

ただしこの計画的陳腐化は既存の旧型オーナーだけに向けたものではありません。

物というのは年月が経つと価値が下がっていきます。10年前からある物を10年前の価格のまま買う人なんていないでしょう。

だから価値を再び押し上げる為に(価格を下げないでいいように)モデルチェンジするんです。

モデルサイクル

しかしこれは長い目で見た場合の話。

この計画的陳腐化の一番の目的、最も効果的に働くのはライバル社の消費者です。

モデルチェンジというのは言い方を変えれば抜け駆けの様な行為。

「うちの商品のほうが新しいですよ、価値がありますよ」

と言ってるわけですから。

自動車やバイク業界においてモデルチェンジの最も大きなウェイトを占める部分はデザイン・・・ただし簡単には行きません。

何故なら開発費や広告費、生産設備の再編などで莫大なお金が掛かるから。

コンセプトデザイン

莫大なお金をかけたにも関わらず変わり映えしないと判断されると陳腐化(抜け駆け)にならず費用対効果が得られない。

かといって変わり映えし過ぎて受け入れられないと大赤字で存続すら危うくなる。

モデルチェンジというのは正にDEAD OR ALIVEなんです。

そんなリスキーさ故にこんな現象が生まれる様になりました。

【強制流行現象】

計画的陳腐化というのは”最新”正しくは”最新感”が大事。

しかしここで問題となるのが消費者が好む”最新感”が必ずしもデザイナーが思い描く画の通りでは無いということ。センスは十人十色なんだから当たり前な話ですが。

でも売るためにはより多くの人が

「これは最新だ。」

と感じるデザイン、先代を陳腐で時代遅れだと感じさせるデザインにする必要がある。

最近それを止めたマツダの人が上手いこと言っていたんですが

「変えるためにデザインを変える」

という難しく嫌らしい事をしないといけないわけです。

そうした時にメーカーは限りなくALIVE率を高め、DEADを回避するために、新しいと好評な既存デザインに”追随”という手段を取ります。

こうすればユーザーが求める新しさを外してしまう事もない。起死回生の一打にはならないけど致命傷の一撃にもならない。

車

こうして同系のデザインが各社からまるで口裏を合わせているかのように出る事で、消費者に対しデザインが”流行している”という印象を与える事が出来る。

そうすると消費者は

「流行っているから良い物だ」

と思う。

これが強制流行現象ですが、恐ろしいのはその先。

流行というのは日々変わり長続きしない・・・つまり次の計画的陳腐化が容易になるんです。

他社と競争するためのモデルチェンジなのに、時と場合によっては協調するなんて面白い話ですが、それだけモデルチェンジというのはメーカーにとって大きな負担なんです。

「じゃあ止めればいい、年次改良をコツコツ続ければいい」

と思うかもしれませんが、それは無理です。

モデルチェンジによる計画的陳腐化を確立したのはゼネラル・モーターズと言いましたが、当時アメリカの大手自動車メーカーといえばフォードとクライスラーでGMはいつ潰れてもおかしくない会社でした。

フォード

「一生乗れる車を作る」

これは20世紀初頭まで米国において半分近いシェアを持っていたフォードの考え。

フォードは少ない車種にリソースを割き、長期的に生産することで安く確実な車を作ることを心がけていました。

しかしそんな考えを持っていたフォードですらモデルチェンジ商法をするGMの破竹の勢いの前には無力で、最終的には同じ手に打って出るしかなかった。

リスクが大きすぎると否定的だったクライスラーも同様です。

クライスラー

「GMやフォードが毎年新型を出しているのにウチだけ毎年同じものを売っていたらすぐに破産してしまう。」

と当時のクライスラー役員に言わせるほどモデルチェンジによる計画的陳腐化という手法は効果的だったんです。GMがフォード・クライスラーと並んでBIG3と言われる様になったのもこのおかげ。

モデルチェンジというのは抜け駆けなんです。

抜け駆けを許すと負けてしまう。じゃあどうするかと言えば抜け駆け仕返すしか手段はない。

モデルチェンジされたからモデルチェンジして、モデルチェンジしたからモデルチェンジされる。

止めるに止められない囚人のジレンマ。

ここで初めてバイクを例に挙げますが、スズキにハヤブサというバイクがあります。

このバイクはモデルライフが非常に長く1999年から2017年時点でフルモデルチェンジと呼べる変更は2008年の一回のみ。

ハヤブサの歴史

ただし何もしていないかというとそんな事はなく、年次改良や小変更を重ねています。ただ今では爆発的に売れた最初の頃が嘘のような販売台数。

それは何故かといえば

「新しくないから」

です。

モデルチェンジが行われる理由は企業が利益を得るため。

でも企業をそうさせているのは

“目新しい物に飛び付き、型落ちになってガッカリする我々消費者”

が望んでいるからです。