如何にしてホンダは半値以下の模倣車に勝ったのか ~日本メーカーが強い理由~

ホンダの模倣車対策

「バイク事業は日本メーカーが強すぎる」

「バイク事業への新規参入は中国メーカーでも無理」

というような論調のニュースや声が定期的に言われているのは皆さんご存知かと。

世界最大の市場と言われるアジアなんかを見てもホンダを筆頭に日本メーカーの人気が凄い。

アジアのマーケットシェア

これについて日本のバイク乗りからすると

「やっぱ日本車が高性能で故障知らずだからでしょ」

と思いがちなんですが、実際はそう単純な話ではない。

では日本メーカーの人気要因が何なのかという話になるんですが、これはホンダが実際に行なった例が分かりやすいのでそれをザックリ書いていきます。

ちなみにこの話は

「なぜ日本メーカーを脅かす存在が現れないのか」

にも繋がる事だったりします。

アジア市場ではホンダが人気と話したんですが、じゃあホンダは最初から順風満帆だったかというとそうでもないどころか2000年頃に生産停止や撤退危機に陥った過去があります。

その舞台となった国は意外にも今やバイクの事をホンダと呼称するほどホンダ天国と言われているベトナム。

ベトナムの二輪販売シェア2019

ホンダは元々ベトナムへ1960年代からカブを輸出しており大人気だったのですが、1965年にベトナム戦争が開始されるとアメリカの意向により輸入が禁止され、売りたくても売れない状況に。

しかしそれでも日本に買い付けに来る人や、家族のためにお金ではなくカブを仕送りする在日ベトナム人なんかが当たり前にいたほどカブ人気は健在でした。

そこから時代は進んで1996年になるとベトナムも落ち着いた事でASEAN自由貿易協定に加入し市場が開放されると、ホンダとしては逃す手はなく同年に現地法人と工場を設立というスピーディな対応を取りました。

ベトナムホンダ

既に進出し成功を収めていたマレーシアやインドネシアなど周辺諸国での経験を元に、タイで生産していた100EX(通称タイカブ)をベースとしたベトナム仕様

『SuperDream』

を主力に据えて現地生産を開始。

ベトナムホンダ

「超低燃費で五人乗れて壊れない」

という現地の人たちの用途を考慮した完璧なカブで、これでベトナムでも成功を収める事に成功・・・しなかった。

原因はソックリだけど半値以下で買えるバイクが登場したから。

コピーバイク

『コピーバイク(カブの模倣車)』

です。

HANDAやHUNDAなどと書かれたホンダっぽいコピーバイクの写真を見て笑った事がある人も居ると思いますが、これホンダにとっては本当に笑い事ではなかった。

何故ならコピーなので当然ながら開発費が要らないし、現地法人もヘッタクレも無く売りっぱなしなことから正規品であるホンダより圧倒的に安かったから。

どれくらい安かったのかというとホンダが2000ドルだったのに対して500ドルと約1/4の値段。一番問題となったベトナムの平均月収(当時)は150ドルだったので日本円で例えるとこういう感じになる。

ベトナムホンダ

いくらベトナムでホンダが現地法人を構えて販売してようと、いくらホンダが間違いない超一流ブランドとして認知されていようと、これでは厳しいのは分かるかと。

ここで少し簡単な補足。

「このコピーバイクは何故から生まれたの」

という話をするとほとんどが中国。発端は1980年代にホンダを含む日本メーカーが中国市場参入の見返りに現地政府資本企業と合併及び技術提携を行なった事にあります。

でも技術提携自体は別に中国に限った話ではなくマレーシアやベトナムなど他国でもそう。

「開放する代わりに国内の産業や雇用を助けてね」

っていう蜜を吸いに来ても良いけど花粉を運べよ的な話。

しかし1990年代に入って中国政府が

『新自動車工業産業政策』

『汽車工業産業政策』

などの政策を打ち出した事で歯車が狂い出した。

この政策は分かりやすく言うと

中国の自動車政策

「自動車産業の国産化に注力して世界で戦える中国車メーカーを育成するぞ」

という政策で、日系企業と技術提携していた中国企業の息がかかった中国系サプライヤー(部品屋)が中国全土にドンドン出来てドンドン生産を開始した。

しかし国土や人口を見れば分かる通りあまりにも巨大過ぎる市場だったため完全な統率を取ることが出来ず、何処からか部品や図面が流出し、それを元にコピーやそのまたコピーが造られ、やがてその集合体である

デッドコピーカブ

『デッドコピー(模倣車)』

を組み立てて売る日系企業とも中国政府資本企業とも全く繋がっていない完成車コピーメーカーが2000年頃に入ると現れ始めた。これがコピーバイクが生まれた要因。

「でも偽物って造るのはもちろん販売や輸入出ってダメじゃないの」

と思うところですが意匠権などの知的財産権で争うにも法廷の場は中国で、中国においてバイクはモジュール的な扱いだったからスーパーカブという車種そのものの権利を主張するのは難しかった。

パソコンに例えると分かりやすいんですが

「オリジナルPCっていうけど既製品を組み合わせただけじゃん」

という考えの延長線上にバイクもあったという話。

加えて当時は中国もベトナムもWTO(著作権問題なども取り扱う世界貿易機関)に加盟していなかった。

WTO

つまり国際的なルールが通用しない状態だったからコピーバイクが当たり前に入ってきて当たり前に販売されていたわけ。

もちろん性能や品質や耐久性には雲泥の差があったものの、懐事情を考えると背に腹は代えられないと安価なコピーバイクを求める人が後を絶たなかったため、それを取り扱うバイク屋が増えるだけでなく酷い所になるとホンダの看板を掲げて騙すように売る店まで出てきた。

さらに最悪なことにコピーバイクがシェアを握った事で農機具を生業としていた地元企業が

「農機具よりコピーバイクの補修部品を製造したほうが儲かるわ」

とコピーバイクのサプライヤーみたいな補完事業を自ら始める所まで続出し、コピーバイク最大の欠点だった売りっぱなしの問題が解消される始末。

こうしてコピーバイクの好循環(ホンダからすると悪循環)の流れが生まれてしまった事でホンダはシェアを全く伸ばせずにいました。

ベトナムホンダ

2002年に若干盛り返しているのは既存モデルの値下げを行なった事と、装備を簡素化する事で1000ドルを切る価格にまで抑えたWAVEαというモデルを投入したから。

しかしそれでも中国のコピーバイクには劣勢で、単純な値下げにより業績は悪化の一途だった。

そんなコピーバイクの爆発的な普及はやがてホンダという一企業だけでなく社会全体にまで悪影響を及ぼし始めます。

信頼性のないバイクが道路を埋め尽くす形になったので、故障や整備不良による事故や渋滞などが多発するようになったんです。

ベトナムで模倣車によるトラブルが続出

特にベトナムでは原付免許が不要で誰でもすぐに乗れた事もあり社会問題化。

これを重く見たベトナム政府は2002年末に

・品質規制

・関税アップ

・輸入枠(総量規制)

など輸入車を抑制する規制を実施。

ベトナムの輸入車規制

これを機にホンダは形勢逆転・・・とはならない。

それどころかホンダは遂にベトナムの工場を停止させる事態にまでなった。何故ならホンダも多くの部品を輸入していたから。

確かにホンダは完成車を現地ベトナムで生産していたんですが、品質確保のために部品は日本や周辺諸国で既に稼働していたサプライヤー(部品製造会社)から輸入しているものが多かったんです。

ベトナムホンダの製造ライン

そのため輸入枠(総量規制)をオーバー。部品が届かない状況になり工場が止まってしまったというわけ。

ホンダCA100

絶対的なブランドはあるのに売れない歯ぎしりしたくなるような状態・・・そこでホンダは大きく方針転換。それまでのサプライチェーン(製造網)を大きく見直す事にした。

まず既存サプライヤーに現地生産化や値下げを要請。それにサプライヤーが応じられない場合は現地でコピー部品を製造していた企業、少し上で話した

「農機具よりコピーバイク補修部品の方が儲かるわ」

と言って製造していた現地企業を技術支援し正規サプライヤーとして取り込んだ。

つまり

『海賊品を正規採用する』

という逆転の発想というかもはや奇策に出た。

しかしこの効果は絶大で、これによりホンダは一気に形勢逆転する事になります。

何故これが効果絶大だったのか。

現地生産率を上げれば規制や関税を回避出来るうえ、コピーバイクに匹敵するほど車体価格が大幅に抑えられるという点がまず第一にあるんですが、その現地サプライヤーは元々はコピーバイクの補修部品を製造していた所。

それを自陣に引き込むという事は・・・そう、コピーバイクを支えていた

『コピー部品潰し』

になるという事。

さらに現地企業を抱えるということは、その国の産業を支える事と同義なので政府も厚遇こそせれど冷遇は出来ない。ホンダを冷遇するということは自国の産業まで冷遇する事になるからです。

実際ベトナム政府は2000年代後半にWTOへ加盟すると、ホンダと協力してコピーバイクの排除に積極的に乗り出しました。

ベトナムホンダ

これはWTOへの知的財産保護アピールもあるんですが、自国の産業が絡んでないコピーバイクが売れてもベトナム的には美味しくないという事実も大きく影響している。

これがホンダが半値以下のコピーバイクに対して行なった必勝法ともいえる戦略。毒薬変じて薬となるというやつですね。

さらにこれには嬉しい誤算もありました。安価なコピーバイクがバラ撒かれた事でそれまでバイクを買えなかった人たちも買うようになりバイク人口や市場が爆発的に増加していた。

そこからの

『コピーバイク潰し&コピーバイク並に安い正規カブ販売』

となったのでホンダはその丸々と太ったバイク市場を丸ごと頂く美味しい形になったんです。その結果がホンダ天国(シェア76.8%)というわけ。

ベトナムの二輪販売シェア2019

そして同時に

「新興メーカーがバイク事業へ参入するのはもう厳しい」

と言われるのは、説明してきたようにホンダを始めとした日系バイクメーカーが、既存サプライチェーンで乗り込む焼畑戦略ではなく現地サプライチェーン構築という共存戦略を取るようになったから。

ベトナムのバイク乗り

「現地政府も、現地製造業も、そして現地消費者もみんな日系メーカー側についている」

という背景があるから厳しいという話。

ホンダはこの取り組みを

『真のグローバル企業』

と称し、また経済学の方でも高い評価を得ています。

【余談】

長くなったので割愛しましたが同時期に中国でも近いことが行われています。

2012年にスーパーカブ(AA04/JA10)として日本にも入ってきたのでご存知の方も多いかと思いますが、あっちはサプライヤーを買収育成するのではなくその胴元といえるコピーバイクメーカーとの合併。

中国政府のWTO加盟に危機感を持ったコピーバイクメーカーがホンダに掛け合い、苦戦していたホンダもコピーメーカーのサプライチェーンが利用できると判断したことで実現した形になります。

【参考資料】
Hondaの海外事業展開におけるコピー対応の事例|本田技研工業株式会社 二輪事業本部二輪営業部長 井沼俊之

下請けの現地化|一橋大学大学院経営管理研究科 PHAM THI XUAN THO

中国におけるホンダの二輪生産とコピー車対策|大阪産業大学経営論集第八巻二号

オートバイが広く普及している国は?

世界地図

参照:社会情勢図鑑

ホンダ・ヤマハ・スズキ・カワサキ

バイク大手メーカーが四社も誕生している我らが日本。

しかし駐禁問題や免許制度や規制や三ない運動といった多くの足枷により

「日本はバイクに優しくない。バイク業界を潰そうとしている。」

等と思っている人は多いと思います。

そんな日本は世界で見た場合どれほどバイクが普及しているのか見てみると意外な結果が出る。

人口100人あたりのバイク普及台数

日本は100人あたり9.5台バイクがある。

そしてバイクに理解があり、生活に根付いていると言われるEUではスクーターの母国であるイタリアが日本を抜く14.2台。

そしてもう一カ国は意外にもスイス。

何でスイスか調べてみるとスイスは自転車やバイクの文化が根付いているとのこと。

スイス

こんな大絶景を拝みながら走れるとか最高ですよね。そりゃバイク乗るわって話。

しかしイタリアとスイスを除くと日本以上にオートバイが普及している国は先進国ではもう居ないんですね。
ハーレーの母国であるアメリカは意外にも2.6台、レース大好きなイギリスに至っては2.3台と驚くほど少ない。

逆にそんな先進国とは比べ物にならないほど普及しているのが台湾、マレーシア、ベトナム、タイ、インドネシアといった東南アジア。

台湾に至っては100人あたり65.3台と驚異的な台数。

ニューモデルや生産国が東南アジアばかりなのはこういった背景があるからなんです。

日本車が故障知らずになった理由

これは四輪でも言えることなんですが日本車(日本メーカー)が世界中で売れる様になった理由は高性能やリーズナブルさも勿論ありますが一番は

『故障しない』

という事だと思いますが、では

「どうして日本メーカーはそこまで信頼性を重視したのか」

というと、これは一重に世界的に見てお金持ちが多いアメリカで売るためと言えます。

アメリカの影響

「アメリカと故障に何の関係が」

と思われるかも知れませんが、これに関するエピソードが幾つかあるので紹介します。

アメリカで一番早く成功したバイクメーカーといえば世界一であり故障知らずな事もあって優等生と言われるホンダですが、そんなホンダは1959年にアメリカに進出。

アメリカで定着したカブ

カブを足がかりに快進撃を始めたのですが・・・実は最初はカブを売っていないんです。

最初はCB92やベンリィなど小排気量(当時のホンダとしては最高クラスの)スポーツバイクのみの販売でした。

当時の広告写真

カブを扱わなかった理由はアメリカ人には排気量が小さすぎる事などから

「ブランドイメージを損なう」

と本田宗一郎が考えたから。

この頃の宗一郎というのは大型バイクを重視していた頃。アメリカではスーパースポーツメーカーとして売り出したかったんでしょうね。

しかしここで問題が起きます・・・なんと自慢の商品だった上記車種の故障が続出するというホンダらしからぬ大失態を招いたんです。

この原因はアメリカの環境が日本と違っていたことにあります。

アメリカの道路

アメリカはどこまでも真っ直ぐな長い道が多い。

つまり長距離をブンブン回しながら走る、常に最高速アタックをする様な環境だったからバイクが持たなかったんです。

この一件でホンダは参入と同時に

「アメリカで売れるバイクがない」

という窮地に。

そんな中でアメリカホンダのバイアーだったシアーズという企業が従業員用に配られていたスーパーカブC100を見て

「アレ(スーパーカブ)を売れよ」

と持ちかけて来た。

最初に言ったようにホンダは売るつもりはなかったものの、相次ぐ故障で売れるバイクがなくなってしまい背に腹は変えられないという事でスーパーカブの販売を進出から8ヶ月後に販売開始。

アメリカでのカブ

皆さんご存知のようにその耐久性の高さからアメリカの中流層にそれまで存在しなかった下駄車という文化を根付かせるほどの大ヒットに。

そこから更にリピーターが生まれホンダは一気にシェアを拡大していく事となりました。

※リチャード・パスカル「ジャパニーズ・マネジメント-日本的経営に学ぶ」より

そしてもう一つ紹介したいのが同じく日本を代表するバイクメーカーであるスズキ、正しくは鈴木修会長の自伝「俺は中小企業のおやじ」のエピソード。

スズキもホンダに少し遅れる形でアメリカに進出し1967年に『X-6 HUSTLER』というバイクの輸出を始めたところ、これが非常に人気で一年で2万台近く売れる日本では考えられないアメリカだからこそ実現した大ヒットとなりました。

スズキX-6

ところが・・・これまたホンダと同じ様に二年目になると

「ミッションが簡単に壊れる」

というクレームが相次ぎ修理や返品の嵐になった。

当時USスズキに所存していた鈴木修会長は急いで日本の本社へ電話し故障の旨を伝えたところ

「そんな故障は(日本では)無い。何かの間違いだろう。」

と突っぱねられて話が進まず。

横内さん

そこで鈴木会長は横内さん(刀やRG250ΓやGSX-Rの生みの親)をアメリカに呼び寄せ調査させたところ問題が判明。

『クラッチを切らずに蹴るように入れる横暴なシフトチェンジ』

が原因だったんです。

そりゃ壊れるわって話。自動遠心クラッチのカブが壊れず好評だったのも納得ですね。

ちなみにこの一件でUSスズキは大赤字となり鈴木会長は責任を取るために辞表を提出。引き止められたものの浜松本社へ戻る事は許されず支局へ異動、事実上の降格&左遷となりました。

話を戻します。

要するにこれらのエピソードからも分かる通り、日本車がどうしてこれほどまでに故障知らずになったのかというとアメリカで売っても大丈夫な様にするため。

もっと突っ込んで言うと

ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ

「アメリカ人が運転しても壊れないように作るようになったから」

国が広大なせいか向こうの人は本当に故障を嫌うらしく、四輪の方ですがドイツ車(ポルシェは除く)がアメリカで人気が無いのも壊れるからなんだそう。

「じゃあお前のところのハーレーは何なんだ」

と言いたくもなりますが・・・層が違うか。

兎にも角にもアメリカ人が運転して壊れないということは世界中どこの国の人が運転しても壊れない。

こうして世界中どこで売っても

「日本車は壊れない」

という評価になったという話。

良く言えばアメリカ人に鍛えられたと言えなくもないんですが、免許取得が先進国にあるまじき簡易さな事やカーチェイスが人気な事からも察せる通りアメリカは本当に運転が荒い人が多い。

ここで思い出したのが10年ほど前にスズキがGSX-R1000で行ったリコール。

アメリカでリコール

「海外(米国)でウィリーし過ぎるとフレームにクラックが入ることが判明したのでリコールします」

日本車を信頼してるのはありがたいけどもう少し大切に扱えっていう。

MUGENはバイクも色々やっている

無限パワー

四輪を知っているなら一度は聞いたことがあるであろうチューニングメーカーのMUGEN。

正確に言うと現在は2003年頃に法人税に関するゴタゴタで『(株)M-TEC』という会社がMUGENブランドを担っている形なんですが、MUGENは三度の飯よりレースエンジン設計が好きで後に四代目ホンダ社長にもなる川本さん(右から二番目)が宗一郎の長男である本田博敏さんらと共同でレース開発部門がわりに創設したのが始まり。

無限の創設者メンバー

動機はレースから一歩引くホンダの経営方針に納得出来なかったから。つまり端的に言うとホンダ社内のレース狂エンジニア達の放課後クラブ的な立ち位置でスタートした会社というわけ。

そうして1973年創設と同時にFJ1300という日本フォーミュラレース用にシビックの1.3LをベースにしたMF318というエンジンを開発。

MF318

これを皮切りにGTやフォーミュラなどで活躍していきます。

そのためどうしても四輪系チューニングメーカーというイメージが強いかと思いますが、バイクも色々やってますのでそれを少し紹介。

バイクにとっての始まりは創設から3年後となる1976年。

ヤマハファクトリーで全日本モトクロス選手権のタイトルを獲得した鈴木秀明さんがヤマハを退職し、新しいチームを模索する中でMUGEN(正確には本田博俊)に働きかけたのが始まり。

鈴木秀明さんからのラブコールに無限が応えたのが始まりなんですが、実際に無限が用意できたのはファクトリーマシンではなく市販モトクロッサーであるCRM125M。

ME125R

プロトタイプのファクトリーマシンが当たり前な世界では無謀とも言えるマシンだったんですが、しかし鈴木秀明とタッグを組み二人三脚でマシンを仕上げただけではなく見事1976年(一年目)の全日本モトクロスGPで総合優勝という快挙を達成。

1976

「もう一つのワークス」

と言われ、また翌年からは他のライダーへのマシン供給やパワーアップキットの販売も開始。

1979年頃になるとホンダがモトクロスレース活動を本格的に再開した事もありワークス代わりという役割を終えるわけですが、そのワークスマシンにはMUGENの開発技術が大きく取り入れられておりMUGENキットを組み込んだ自身のマシンも大健闘。

その勢いは留まるところを知らず1980年にはあの世界モトクロスGP125で無限のME125Wが見事に優勝しています。

ME125W

その後も約16年間に渡りモトクロスレースを戦うだけではなく、レーサー育成に重点を起いた活動やパワーアップキットやコンプリートマシンなどレースの敷居を下げる事に尽力していました。

MUGENとバイクの関係性があまり認知されていないのは国内ではマイナーなモトクロスが基本だったからというわけなんですが、一応オンロードの方でも活動しています。

代表的なのが1984年に鈴鹿8耐に向けてムーンクラフトとチーム生沢と協力しCBX750Fレーサーを製作したマシン。

ME125W

『White Bull(ホワイトブル)』

二年連続で参戦し一時は6位を走行したりするほどの大健闘。ちなみに第一ライダーはマン島TTで通算26勝を上げ銅像まで建てられた欧州で最も有名なライダーであるジョイ・ダンロップというライダーもエンジニアも凄い人達が集結したチームでした。

そこから少し飛んで2001年になるとこんなモデルも販売。

MFT250

「FTRじゃん」

と思われるかも知れませんが、FTRではなくXR250のエンジンをオリジナルフレームに搭載したMFT250という無限オリジナルモデル。

これは既に生産終了されていたもののダートレースのエントリー車両として需要があったFTRが、いわゆるストリートバイクブームによる高騰のせいで購入できない事態に発展した事が由来。

MFT250カタログ写真

育成に力を入れていた無限としては看過できない問題だとして用意したんですね。

ただこの後すぐに量産効果により比べ物にならないほど安かったFTRが復活した為、100万円近い値段で公道も走れないMFT250はお役御免となりました。

そこから先はご存知の方も多いと思いますがRRの無限仕様などチューニングというより無限カスタムパーツやそのコンプリートマシンを展開。

MFT250カタログ写真

今もホンダ車全般で扱っていたりしますので気になる方は無限のホームページかホンダドリームをどうぞ。

ちなみに正規販売されていなかったVFR-Xを無限仕様として販売など逆輸入車取り扱い的な事もやっていましたね。

少し話を巻き戻しますが、次に紹介したいのが1998年に製作したエンジン。

無限MRV1000

『MRV1000(エンジンのみ)』

・空冷OHVバンク角70°ドライサンプ式
・955cc(89mm×80mm)
・51ps/5000rpm

今では平気で1億円する幻のイギリスバイクであるヴィンセントブラックシャドウに近い、MUGENが開発したとは思えないノスタルジック臭プンプンのエンジン。

ブラックシャドウ

何故MUGENはこんなエンジンを造ったのかと言うと、本田博敏さんや永松邦臣さん(ホンダ出身の二輪も四輪もこなしたプロレーサー)らが

「スチームパンクな味のあるバイクを造りたいね」

と意気投合したから。

そうして1996年からF3やGT選手権の合間をぬって開発し出来上がったのがこの

『MRV(Mugen Racing V-twin)』

というエンジン。

MRVエンジン

ただしこれを製作したエンジニアの勝間田さんいわくレースエンジンと同じ要領で開発してしまったためコストがとんでもないことになり試作エンジンが完成した時点で開発中止が決定しお蔵入り。

MRV1000

「じゃあこの超カッコイイ完成車はなんだ」

という話なんですが、これは企画者の一人である永松さんが2000年のマン島TTクラシックに出場するために製作されたもの。

恐らくこの世に数台というか恐らく一台しか無い。

しかしそれから約20年後となる2018年の東京モーターショーに1400cc化とミッション別体式にリファインされまさかの復活。

MRV1400エンジン

さらに驚くべきことに今回はスタディモデル(試作機)としながらも2020年の販売を目指しているとの事。

ただし前回同様エンジン単体のみの予定で、全体像をどう纏めるかはフレームビルダー達にお任せというスタンス。

MRV1400のイメージデザイン

奇しくも2018年にエグリという過去にヴィンセントエンジンのレーサー

『エグリ・ヴィンセント』

を造って有名になったフレーム屋(スイス版ビモータのような存在)が復活してるんですよね。

エグリヴィンセント

そう考えるとエグリヴィンセントならぬエグリ無限が世に出る可能性も無きにしもあらず・・・ただ庶民が買える値段じゃなくなる可能性も高いですが。

ちなみにMRV1000による2000年マン島クラシックTTへの挑戦に触発されて始めたのがこれ。

MUGEN神電

『神電(shinden)』

マン島TTレースのZEROクラス(CO2ゼロクラス)向けのEVスーパースポーツ。

無類の速さで6連覇を達成しました・・・が、残念ながら2019年をもって活動を中止するとの事。

ただし代わりと言ってはなんですが2017年から『E.REX』というEVモトクロッサーの製作を進めています。

MUGEN神電

MUGENがモトクロッサーを造る理由、そしてEVにする理由は長々と書いてきた歴史を見ればもはや説明する必要は無いですよね。

『モトクロッサーと神電というMUGENが持つ技術の融合』

それがこのE.REXというわけ。もしかしたら昔みたいにモトクロス競技でワークス顔負けの時代が再び訪れるかも知れない。

参照:無限 MUGENホームページ

バイクに乗る女性は乗らない女性よりも充実している

女性ライダー

アメリカのLIZ JANSEN氏が2013年にオートバイに「乗る女性・乗らない女性」それぞれ1000人にアンケートを取った結果、面白い結果が出ていました。

参照:Why More Women are Riding(英文)

そのアンケート結果がコチラです。(元データを翻訳しています)

女性ライダーアンケート

アンケート結果を見れば分かる通りバイクに乗る女性のほうが乗らない女性よりも生活が充実し、自分に自信を持てていることが分かると思います。

さらに続けてこういう調査結果も。

バイクが女性に与える影響

日本ではまだまだ女性ライダーというのは非常に少ないですが、アメリカではどんどん増えており、4人に1人は女性となる日も近いそうです。

この様にバイクが女性に与える影響の大きさは非常に大きいというのが分かります。これは「バイク豆知識:バイクはアンチエンジング(脳に与える影響)」とも関係があるんではなかろうかと思います。

男性の方も無関係ではなく、もし恋人や奥さんとの関係が上手くいってない、もっと関係を深くしたいと思った場合、バイクという手段がある事を覚えておいてください。

また「日々の生活にメリハリが無い」とか「自分に自信が持てない」とか「異性と上手くいかない」とか悩んでる女性がいたら、こういう調査結果があるみたいだよと教えてあげてバイクの世界へ誘ってあげましょう。

タンデム

恋人なんて居ないと嘆いてる方はコチラを参考にされてください。>バイク豆知識:タンデムはバイク乗りの武器~何故バイク乗りはモテないのか~

バイクメーカーの自転車がある

バイクメーカーの自転車を紹介しようと思います。

「スズキとかヤマハのだろ」

って思ってる人も多いでしょうが、それだけじゃなくオチもあるので少しお付き合いを。

YAMAHA

PASとYPJ

利便性のPASシリーズだけでなくスポーツのYPJシリーズなど多種多様な自転車を売っているのはご存知の方も多いかと。

フレームはブリヂストンでパワーユニットをヤマハという共同開発体制です。もっと辿るとモーターはサンヨー製なんだとか。

ヤマハのバイク

ちなみにそんなヤマハが最初に自転車を造ったのは1974年ごろ。

モトバイクという名称でMB1/MB2というBMXの様なキッズバイクを出し、その後フルラインナップへ。

この頃はPEUGEOTの自転車も取り扱ってたので、恐らくプジョーに造らせたんでしょうね。

SUZUKI

スズキラブ

スズキはラブシリーズ、いわゆる電動ママチャリを取り扱っています。

1952年にパワーフリー号で鮮烈デビューを飾ってから半世紀以上、それが今ではこれってのが時代を感じさせますね。

スズキの自転車

まあこれ実はパナソニックからのOEMなんですけどね。

ちなみに最初に紹介したヤマハのモトバイクに対抗してスズキも1975年に自転車を出しています。

ヤンクル・バンクル

ヤンクルとバンクル。

ヤンクル

イメージが無いからギャグみたいに聞こえますね・・・・スズキだけに。はいスイマセン。

KAWASAKI

カワサキの自転車

ライムグリーンボディのMTB。

厳密に言うとライムグリーンではなく『チームグリーン(国内ワークスチーム)』というバイク好きの中でもレース好きにしか伝わらないであろう細かいアピールポイント。

車名も『KDX526』と、バイク乗りならその名を聞くだけで腰が引けてしまうナンバリング。

まあ真面目に説明すると、これはジャスコなどの量販店で発売されたモデルでカワサキは名前を貸しただけ・・・でも明らかに狙った色と名前ですよね。

DUCATI

ドゥカティの自転車

ドゥカティも実は自転車を数年前からずっと売っています。

ただこれもドゥカティが造っているわけではなく、ビアンキという本格メーカーが造ってるもの。同郷のよしみという事なんでしょうね。

ラインナップ

これまたラインナップも充実していて、ロードやMTB、電動やママチャリなどほぼフルで展開しており値段もピンきり(60万円~5万円前後)。ただ残念なことに日本では正規取扱はしていない模様。

ちなみにこの補助輪が付いた子供用の自転車の名前はMonster。

モンスター16

フレームもちゃんとトラスになっています。

BMW

BMWの自転車

お次はBMWの自転車ですが、実はBMWは名前を貸しているだけではなく自分のところ(BMWデザインワークス)で設計までしています。

しかし立ち位置はファングッズまたはアクセサリー的なもので、BMWオーナー向けの期間限定(受注生産)だったり車の購入特典だったり。

一部の国では普通に買えたりするみたいですがソコはBMW。結構いい値段がする。

BMWのクルーズバイク

これ以外にも電動式のMTB(約30万円)もあるようです。

ちなみにこれは車のMテクノロジーを用いて造られたというカーボンモデル。

Mカーボンレーサー

カッコいいけど目立つからおいそれと乗れませんね。

と思ったら情報提供により別のタイプの自転車が・・・

Mカーボンレーサー

なんとテレレバー仕様。

バイク乗りなら思わず反応してしまう如何にもBMWらしい自転車ですね。しかも折りたたみ式。

Harley Davidson

ハーレーの自転車

VELOという自転車メーカーがハーレーから名前の使用許可を得て1999年に造ったバイク。

だからハーレーは関わっていないんですが、ティアドロップタンクやメッキフェンダーステー、サドルバッグなどスポーツスターらしさがとても良く現れている非常にユニークな自転車。

次が最後でこの豆知識のオチ。

HONDA

RN01

ツインチューブセミダブルクレードルにテレスコピックとモノサス・・・自転車というよりエンジンが付いてないモトクロッサーと言ったほうが正しい気がするホンダの『RN01』というMTB。

リスボン ダウンタウンレース

これはダウンヒルやUCIといった世界MTBレース用にホンダのレース部門であるHRCが手掛けたレースモデル。

2004年から参戦し、2年連続でチームタイトルを獲得しました・・・が、世界的な不況により2007年をもって活動を終了。

ホンダRN01

朝霞研究所とHRCで進めていた市販車『RN01G』計画もお蔵入りとなってしまいました。

社外マフラーにすると低速トルクが無くなる理由 ~排気慣性効果とは~

社外マフラー

「マフラー変えたら低速トルクが無くなった」

というのを身をもって経験した人、または耳にしたことがある人も多いと思います。

それが何故かというと

「マフラーの抜けが良くなりすぎるから」

と言われますし、なんとなく分かるかと。

ではどうしてマフラーの抜けが良くなると低速トルクが無くなるのか、それについてスリップオンに焦点を絞ってザックリ説明していきます。

そもそもマフラーが何のためにあるのかというと一つは消音するため。そしてもう一つは排気ガスをスムーズに大気に放出するためで低速トルクが無くなるのはこれが関係しています。

純正マフラー

排気ガスはエンジンが吐き出すわけですが

「エキパイを外すとまともに走らない」

と言われる通り排気というのはピストンの力だけで排出しているわけではなく排気系の助力が必要不可欠なわけです。

これは吸気にも言える事でエンジンがパワーを出すにはエンジンだけでなく吸気と排気が大事になる。

「良い吸気・良い燃焼・良い排気」

と言われているようにこの三要素がスムーズに流れ作業をすること、三位一体となる事でパワーが出る。

流れ作業

つまり『良い排気』にあたる部分であるマフラーを変えるとそのバランスが崩れて流れ作業に支障が出るから低速トルクが無くなるんです。

じゃあなにが崩れるのかと言うと

『排気慣性効果』

というやつ。

これは凄くザックリ言うとシリンダー内の排気ガスを導く流れを作ってスムーズな排気を手助けする事で、この流れはそのまま吸気にも影響します。

排気の流れ

ではどうしてマフラーを変えるとこれが崩れるのかというと言うと、その流れの速さを示す

『排気流速』

が抜けの良いマフラーにした事による排気ラインの背圧(排圧)低下で稼げなくなってしまうからです。

排気の流れその2

圧力が高いほうが流速が稼げるとか言われても意味不明ですよね。

でもこれは誰もが知らず知らずのうちに応用している事だったりします・・・それは洗車などで使う水道ホースです。

ホース

蛇口を少し捻って水を出しても水はゆっくりチョロチョロとしか出てこないですよね。

じゃあチョロチョロの水を勢いよく出すにはどうするかって言ったらホースを潰す。こうするとホースの中の圧力が高まり同じ水量でも勢いのある水が出てくる。

水道ホース

背圧や排気流速というのはこれと同じ。

つまり抜けが良いマフラーにするとエキゾースト内の背圧が下がってしまいユックリ(低回転)時の排気の流れを上手く作れなくなる。

結果として上でいったように排気の後に来る混合気の流れの足をも引っ張る形となり燃焼効率が悪化、更に排気が掃けないという事はシリンダー内の圧力も落ちにくいのでピストン運動による排気に余計なエネルギーが必要(損失)となり低速トルクが落ちるというわけ。

「じゃあなんで馬力は上がるの」

という話ですが、これは高回転まで回すと排気がドンドン勢いよく出てくるので

『排気流速』

よりも

『排気流量』

といってどれだけ”速く”排気を導けるかではなく、どれだけ”多く”排気を導けるかが大事になってくるから。

つまり高回転になると良い排気のバロメーターが『抜けの速さ』から『抜けの良さ』に変わるから社外マフラーにすると回転数とトルクの掛け算である最大馬力が上がるんです。

まとめると低速トルクを取るなら流速重視の絞ったマフラーが良くて、最大馬力を取るなら流量重視の開いたマフラーが良いという事。

排気流速と排気流量

だから必ずしも抜けが良い方が正義ではないという事で、加えて言うならば昨今の主流であるダウンショートマフラーがわざわざタコ足の様にエキゾーストマニホールドを這わせて距離を稼いでいるのも限られたスペースで背圧を稼ぐ為なんです。

エキゾーストレイアウト

しかしそうなると疑問が出ますよね。

「何故トルク重視(流速重視)の絞った社外マフラーが無いのか」

という事。

これは抜けの良いマフラーにしたほうが音も大きくなるし、最大馬力が上がるからというセールス面が第一にあると思いますがそれだけじゃない。

というのも低回転時の流速不足がトルク低下を招くわけですが、反対に高回転時に必要な流量が不足してしまった場合どうなるかというと・・・エンジンが壊れるんです。

水道で蛇口を最大まで開けて水をガンガン流している状態でホースの出口を指で絞ったらどうなるか。

どんどんホース内の圧が高くなって最後には蛇口の方から漏れてきますよね。

臨界背圧

『臨界背圧』

と呼ばれる逆流現象なんですがこれがエンジンでも起こる。排気ガスがシリンダーから排出されるどころか圧力に負けて逆流してしまうんです。

熱々の排気ガスがシリンダーに充填されそのまま圧縮されると当然ながらノッキングとなりエンジンブローとなる。マフラーに雪を詰めたらエンジンが壊れるというのもこれが理由。

だから純正より抜けの良いマフラーを造ることは出来ても、純正より絞ったマフラーを造るのは非常にリスキーで難しいという話。

スズキの排気試験

これは逆に言うとメーカーの純正マフラーというのはそんな低速トルク(排気流速)と最大馬力(排気流量)という相反する要素の最大公約数を取った非常によく考えられたマフラーなんです。

ちなみに排気デバイスという物が誕生したのもこの流速と流量が関係しています。

排気デバイス

要するに流速と流量の最大公約数を更に高くするためで、人間がホースを指で抑えて水圧をコントロールするのと同じ様に出口を絞ることで背圧を可変式にしたもの。

なんだか純正マフラー推しな内容になってしまいましたが、もちろん社外マフラーが駄目というわけではなく軽量化などの恩恵もあります。

純正サイレンサー

ただ断っておきたいのは純正マフラーは

「消音特化マフラー」

ではなく、ベストなバランスになるようにパーシャルからフルスロットルまで、アイドリングからレブリミットまであらゆる領域でベストな流速と流量になるように計算された凄いマフラーという事です。

※余談

今回はスリップオン(サイレンサー)に限定した話なので背圧が影響する『排気慣性効果』に焦点を当てた話でしたが排気には『排気脈動効果』というものもあります。

これは排気の流れ(反射)によるエキゾースト内の負圧を利用した掃気効果の事なんですが、何故省いたのかというと面倒臭かったから・・・というわけではなく排気脈動はエキゾーストパイプ(の長さや太さ)が大きな要因でスリップオンではほとんど影響がないから。

「スリップオンでは大して変化はないけどフルエキゾーストだと大きく変わる」

と言われるのはこのためです。

20年で半減したガソリンスタンドの原因と課題

ガソリンスタンドの問題点

皆さんガソリンスタンド(正式名称サービスステーション)がものすごい勢いで減ってるのをご存知でしょうか。

資源エネルギー庁の調査によると2010年前後が一番酷く

『一日あたり4店が閉店または廃業』

という恐ろしいペースで、現在も歯止めがかからず2019年には遂にピークだった1994年の半分以下にまで減りました。

ガソリンスタンド数の推移

いち消費者の立場からすると

「テレビCMもやってるインフラ事業なのに何故」

と思うところですが、それについて時系列でザックリ簡単に調べ上げた事を元に解説していきたいと思います・・・結構長いです。

『1.キッカケは規制緩和』

規制緩和

ガソリンスタンドの減少が始まったのは1990年代半ば。精製から小売まで支配下においていた日本政府が

・1990年 SS建設指導と転籍ルールの廃止

・1996年 特石法廃止(輸入ガソリン解禁など)

・1997年 供給元証明制度の廃止

・1998年 セルフスタンドの解禁

・2001年 石油業法(政府による需要調整)の廃止

などなど国の手から離す規制緩和、簡単に言うと民営化みたいな事を約10年かけて行いました。

これは鎖国的な姿勢を国際エネルギー機関IEAに怒られた事もあるんですが

「消費者のために競争市場にしよう」

という狙いが主な理由。

その狙い通りガソリン市場は外資系の輸入ガソリンとセルフ解禁を主体として競争が起こったんです・・・が、その競争が政府の目論見を超えるほど小売間で激化。

それまでガソリンスタンドは1L辺り20円前後の利益(粗利)を得ていたんですが、競争により僅か数年で半分に下がり終いには

『1L辺り3円以下の利益』

という通常の小売業ではありえないほど異常な薄利になってしまった。

小売マージンの平均

この原因は商品がガソリンという横並びな物である事にあります。

「一番良いガソリンを入れたい」

なんて思う人はあまり居ないですよね。

「一円でも安いガソリンを入れたい」

と思う人が大半でしょう・・・だって違いなんてほとんど無いんだから。

ガソリンスタンドアンケート

よく言われるコモディティ化(横並びによる価値の低下)の典型なんですが、その結果がこの異常な価格競争とそれに伴う収益の悪化を招いた。

この煽りを最も受けたのが全ガソリンスタンドの半数以上を占めていた1~2箇所での小規模経営をしていた元売系列ガソリンスタンド。

『三者店』

と業界用語で言われている系列末端の小規模販売店になります。

※元売というのはガソリンスタンドに大きく掲げられていたり、テレビCMでよく見かける誰もが知る企業のこと。バイクで例えるとメーカー。

小さいガソリンスタンドは販売量も少ないので仕入れは元売からではなく各地方に全体の20%ほどいる

『二者店』

と呼ばれる特約店、バイクで例えるところの正規ディーラーみたいな所からガソリンを仕入れるようになっている。これは元売が小さい所の面倒を特約店に委託しているような形だからなんですが、当然ながら三者店は特約店(二者店)のマージンも課せられてしまう。

小売マージンの平均

しかも特約店は何店舗も自社スタンドを経営しているのが当たり前なので、価格勝負が過熱するほど小さい販売店は当然ながら勝てない。

これが結果として

消費者「小さいガソスタは高いなあ」

販売店「特約店と同値にしたら大赤字」

という形を生み出してしまい小規模のガソリンスタンドはどんどん廃業に追い込まれていく事になったという話。

『2.命綱が切れる』

それでもなんとか踏み留まっている小規模のガソリンスタンドもありました。そういう所がどうやって食いつないでいたかというとガソリン以外の商品。

タイヤやバッテリーや洗車などカー用品を始めとしたガソリン以外の商品を売ることでなんとか持ちこたえていた。

洗車機

持ちこたえていたというかガソリンスタンドにおける売上高の20~40%ほどを占めており

「これが小規模ガソリンスタンドの命綱」

と言っていいくらいの状態でした。何故なら何度も言いますがガソリンを売っても儲からない時代になったから。

洗車やコーティングの大きな看板を掲げてわざわざ人目に付く場所で作業をやってるガソリンスタンドが多かったり、ATフルードや水抜き剤などの押し売りをされた事がある人も多いかと。

ガソリン以外の商品

それにはこういうガソリンスタンドなりの背景があったからなんですね。

「うちはガソリンスタンドだけどガソリン以外の商品買って」

という何とも言えない環境なんですが、無情にも2000年代に入るとそれすら崩壊する。

競合の登場

『大手カー用品店やネットショップの台頭』

です。

これらの登場により多くのガソリンスタンドが命綱だった油外商品の売上を失ってしまった。

『日本のガソリンスタンド数減少の要因分析|桐野裕之さん(京都大学)』

の論文によると、このガソリンスタンドの油外商品売上低迷はガソリン利益の低下よりも多くのガソリンスタンドを閉店や廃業に追い込む事になったという話。

更に近年はリース会社や自動車ディーラーがメンテンスパックを用意しているのが当たり前なのでますます厳しい。

「うちが整備してるから勝手に触るな」

というシールが給油口やボンネット内に貼られてたりするパターンもあるんだとか。

『3.看板に潰される』

看板に潰される

儲からないガソリンを売って何とかするしかない状況になったガソリンスタンドなんですが、その話をする上で欠かせないのが

『業転物』

という業界用語と存在。

これは簡単にいうと元売各社の精製によって出た”余剰ガソリン”と海外から入ってくる”輸入ガソリン”の事。

品質に問題はないもののノーブランドの余り物みたいなガソリンなので卸値が相場より10円前後安いという一見するとガソリンスタンドにとってはありがたいと思える存在なんですが

「これが系列ガソリンスタンドを苦しめる諸悪の根源」

になります。

何故なら系列のガソリンスタンドはガソリンの価格競争が激しいにも関わらず業転玉より高い

『系列玉』

という元売が系列向けに精製したガソリンでの競争を余儀なくされていたから。

系列玉と業転玉

どうして系列店は業転玉を仕入れないのかといえば

「系列店は元売から看板を借りてる立場だから」

です。

つまり余り物である業転玉の方を仕入れると元売からの印象が悪くなってしまうので

・系列玉の卸値を上げられる

・認定店(検査免除)の優遇措置から外される

・最悪お店の看板を取り上げられる

などの恐れがあった。

もちろん全く仕入れていないのかというとそうでもなく少し業転玉を入れて系列玉を薄める”浮気買い”という行為をしているところもありましたが

「所属する系列の業転玉を仕入れる事はご法度」

でした。

じゃあ業転玉は主に何処に流通しているのかというと、元売の看板を借りていないプライベートブランドや無印のガソリンスタンド。

ガソリンの流通経路

JAやコストコが有名ですね。こういう所が自ら業転玉を買い付けたり燃料商社から買い付けたりして販売している。

これらのガソリンスタンドが安いのはこういうカラクリがあるからで、その安さと規制緩和を武器にPBや無印といった非系列ビジネスが活発化し2010年代ごろには一大勢力に急成長。

対して元売系列店は割高な系列玉という割高なガソリンでの価格対抗を余儀なくされ利益が更に低下。特約店マージンまで加えられてしまう系列末端の販売店に至っては

「うちの卸値より安値で売ってるよ・・・」

という始末で完全に白旗状態。

PBブランドの台頭

その結果がこの元売系列の一人負けグラフ。

正規店なのに卸値が相場より高くまた特約店によって卸値が違う(他所の卸値が分からない)不公平感と、業転玉は元売や元売系特約店が睨んでるので仕入れられないという状況から

「看板(所属する元売)に潰される」

なんて皮肉になってない皮肉が言われ、元売看板を下ろす(業転玉メインの無名になる)販売店も続出しました。

もちろん系列しか得られないメリットもあります。

代表的なのが

『バーター取引』

というやつで、異なる元売同士で共同油槽所を用意しておりガソリンを融通し合う仕組み。

バーター取引

これにより確かな品質のお墨付きガソリンが安定して供給される。

売るものが無くなったりするのはもちろん間違えて紛い物を売って消費者の車を壊す信用問題に発展する絶対にあってはならないですからね。

そして万が一そうなった時に

「怪しい業転玉入れて薄めてたでしょ」

と消費者だけではなく元売からも過失を問われたりするから。だから系列店側も渋々ながら系列玉を入れている面がある。

さて・・・ここまで読まれて恐らく多くの人が

「元売が諸悪の根源なんだな」

という考えを持たれていると思います。

何故ならこの問題の原因は系列玉と業転玉の価格差であり、それらを流してるのが何処かといえば元売(精製)だから。

業転玉の横流し

つまり元売が業転玉を出さないようにすればこの問題は収まる・・・けど、そう簡単にいかないからこんな事態になってる。

日本における元売は精製も兼ねているのが一般的なんですが、原料である石油はガソリンだけではなくアスファルトからLPガスまで同時に様々な石油系製品が生成される連産品という特性がある。

石油精製フロー

そのため

「ガソリンだけ精製する、精製しないという制御が出来ない」

という問題があるんです。

どうしてもガソリンを筆頭に余ってしまう石油製品が出てきてしまう。

精製割合

そしてこれを保管しようにも廃棄しようにも莫大なコストが掛かってしまうので安値で商社に引き取ってもらうしかなく、それが業転玉になってしまうという話。

さらに元売各社は高度経済成長の波に乗って官民一体で大規模な設備増強をしており、それを維持するため生産を絞り辛いという問題を抱えています。(稼働率低下は業績悪化に直結するため)

石油コンビナート

系列玉で業転玉に価格対抗しないといけない系列小売側の言い分である

「過剰供給を止めない元売が悪い」

という意見もごもっともなんですが、元売側もこういう止むに止まれぬ事情がある。

その証拠に儲かってないのは小売だけではなく元売もそうで、元売も売上高はとてつもなく高いんだけど利益率は悪い。だから赤字を叩くのが珍しくなく、同じインフラであるコンビニや携帯大手三社なんかとは比べ物にならないほど厳しい世界なんです。

しかし流石にこれでは共倒れになってしまうという事で政府が元売に設備のスリム化を働きかけました。

元売の合併

その流れで起こったのがこの大規模な合併。

かつて15社以上あった元売が合併や提携を繰り返し、今では3社ほどにまで減ったのはこの過剰供給是正による市場保護が大きな狙い。

中でも生産力はあっても販売力が無かったことから燃料商社に輸入ガソリン(つまり業転玉)をガンガン流していた某外資系元売が国内元売に吸収される形で手を引いた事が大きいという話があります。

こうして2010年代になると業転玉の流通量が減った事で不当廉売に近かった状態も

『1L辺り10円前後』

にまで利益が回復し安定化。

ただこれにより業転玉をメインに売っていた非系列スタンドは仕入れることが難しくなった事で頭打ちになり閉店や廃業という別の理由で減っていきました。

さらに加えて公正取引委員会が2014年に

「自系列の小売が業転玉を仕入れても文句言うな」

と元売に釘を指したことで”一応”系列も業転玉を仕入れる事が可能になったため、系列と非系列の卸値差も縮まった。

これでめでたしめでたし・・・とはならず、これが新たな火種になってしまった。

【4.元売と小売の亀裂】

2020年時点でどうなっているのかというと・・・相変わらずガソリンスタンドは苦境にあります。

その要因の一つは業転玉をメインに売っていたPBや無印に代わる強力なライバルが現れたから。

元売直系店

『元売直営店』

です。

精製と卸をメインにしていた元売が自分たちでガソリンスタンド運営を手広くやるようになってきた。

直営店の台頭

少し古いデータですが価格競争が激しい都市部では既に約半数が元売直営ガソリンスタンドとの事。

自分で精製して自分で売るという系列店や販売店からするとたまったもんじゃない話なんですが、何故こういう事をやるようになったのかというと上で話した

『系列店も業転玉を仕入れる事が可能になった』

という事が要因の一つにあります。

何度も言いますが業転玉というのはあくまでも余り物なので系列玉と業転玉の供給バランスがコロコロ変わって不安定になる。

そうすると元売としては

「自社ブランドの安定供給先として信用ならない」

となるわけですが、しかし系列店に業転玉を入れるなと強く言えない。

じゃあどうするか・・・直営すればいい。直営なら100%系列玉に出来て需要も供給も安定するからです。

しかし普通にやっても採算は取れないから大量に需要がある大都市部に大規模な形で建つようになり、それが特約店や販売店を脅かすようになったという話。

ちなみに元売が安定供給先を強く求める理由にはガソリン需要の減少も大きく関係しています。

ガソリンの主な需要である車がHVを始め低燃費車が当たり前になったことでガソリン消費量は2005年をピークに減少の一途を辿っています。

ガソリン需要の見通し

昨今ではそれに加え全くガソリンを使わないEVまでもが存在感を高めつつありガソリンの需要が増える事は先ずない。

つまり元売としては減っていくパイの中において確実かつ安定的な供給先が欲しいわけで、そうした場合に間違いないのが自分自身がそうなるということ。

これに関連する形で現在業界で大問題になっているのが

『発券店値付けカード』

というやつ。

これは主に法人向けなどにカード会社やリース会社が発行するもので、このカードを出すと系列が同じなら何処で入れても同じ値段で入れる事が出来るカード。

発券店値付けカード

このカードで給油するとガソリンを売ったのはガソリンスタンドではなくカード発行会社となり、給油したガソリンスタンドには給油代行手数料が入る仕組み。

問題となっているのはその給油代行手数料でこのカードを出されたガソリンスタンドは有無を言わさず

「5~7円/Lの利益」

という1990年代に起こった過剰競争によるマージン急落時と変わらない薄利になってしまう事。

これの一番最悪なパターンはいつも利用してくれていた太客が

「リース会社からこれで入れるようにしろと言われた」

とこのカードを使うようになるパターン。

それをされると今まで頻繁に来てお金を落としてくれていた優良客が一転してお金は落とさないのに頻繁に来る劣悪客になってしまうんですね。販売店は絶望するしか無い。

なんで元売はカード会社と結託してそんな事をするのかといえば、これも先にも言ったとおりガソリンの需要が減少の一途を辿っており顧客の囲い込みが最重要目標になっているから。

石油プラント

日本の元売は精製も兼ねているので販売力が落ちると自社が抱える大規模な設備に潰されてしまうから

『販売力の維持(供給量の維持)』

に血眼にならざる得ない面があり、こうなっているという話。

ただしこれ以上は直営店も増えないだろうとは言われています。理由は何度も言いますがガソリン需要は減る一方で、これ以上増やすと大きな負債となってしまうから。

最後に簡単に纏めると

1990年代
規制緩和による競争激化でガソリンの利益が低迷

2000年代
大手カー用品店や通販の台頭で油外商品の利益が低迷

2010年代
業転玉スタンドとの価格競争でガソリン利益が低迷

2020年代
低燃費車の普及でガソリン消費量が低迷

法律で義務化されている地下タンクの修繕費を払えない、赤字続きなどの理由で閉店や廃業するガソリンスタンドが続出

という感じ。

端的に表すと

「薄利多売と需要減少が原因で、元売も小売の面倒を見る余裕が無くなったから」

といえるかと。

※上記の話は分かりやすくするため省略している部分がありこれが全容ではない点は断っておきます

【余談 これは他人事じゃない】

「消費者としては安くガソリン買えるなら良いじゃん」

と思ってしまうところなんですが、ガソリンスタンドの場合ちょっと話が変わってる。

『給油難民』

という問題が出てきているからです。

ガソリンスタンドがどんどん減った事でいま自治体にガソリンスタンドが無い、もしくは1~2件しかないガソリンスタンド過疎地が全国各地に現れ始めてる。

「遠くまでガソリンや灯油を入れに行くのが大変な田舎のお年寄りの話ね」

とか思ってるなら大間違いですよ。

自分の地域で地震や台風などの災害が起こった時、近所のガソリンスタンドで長蛇の列が出来ていなかったですか。

ガソリン難民

国が危機感を持っているのはどちらかというとこっちの方。これも立派な給油難民の図なんです。

そしてガソリンスタンドが減っていく未来しかない以上、この問題は年を追うごとに酷くなるのが避けられない。

ガソリンを始めとした石油は国民のライフラインなので政府や自治体と元売や石油協会が一体となって改善を図っているものの、ガソリンスタンドはあくまでも民間企業なので限界がある。

『石油精製・流通研究会議事録|経済産業省』

を始めとした資料の意見を読むに、ガソリンスタンドの収益向上はこれから先も見込めない事が確定しておりコストコやコンビニに代表されるような経営モデルが存続の道として期待されています。

コンビニ複合型ガソリンスタンド

「商品一つとしてガソリンを売る小売業」

というアメリカやイギリスなどが既に取り入れてるスタイルです。給油に来たついでに店のレジに座ってる店員と一言二言やり取りする洋画あるあるを見たことがある人も多いかと。

そのために消防法の規制緩和も行なったのですが、政府が期待するほど普及していないのが実情。

・需要が増えることは絶対に無い

・初期投資と維持費に莫大な費用がかかる

・ガソリンという危険物

などの問題点から担い手として大きく手を上げる巨大民間企業はまだ居ないからです。

「過疎を起こしている全市町村にジャスコ作れ」

って話ですからそりゃ無理ですよね。

何故いまこれを取り上げたのかと言えば2020年初頭に起こったコロナによる連休需要の空振りで辛うじて生き残っていた多くのガソリンスタンドが大打撃を受けたから。この影響でガソリンスタンド過疎問題が10年加速したと言われています。

ガソリンスタンドが無くなる

いつでも何処でも待ち時間ゼロで給油できる環境が当たり前と思っているけど、このままいくとそうじゃなくなる日が遠くない未来に必ず来る。

そう考えると内燃車を終わらせるのはEVやFCVの台頭ではなく、このガソリンスタンド減少かもしれない。

※おまけ

既に起こっている給油難民問題について今できる対策として満タン運動とかやってたりするんですが、バイクの系譜としては当たり前のように燃費が50km/L越えて細い道でも走れる原付二種、二輪免許を持っていないならそれ以上の燃費を叩き出す原付一種(50cc)を

「下駄車ではなく防災グッズとして買っておく」

という方法をオススメします。

【参照】
経済産業省|資源エネルギー庁|石油連盟
踏み留まっている販売店経営者様のお話

どんなバイクもタイヤ次第

ビバンダム君

みなさんは今なんのタイヤを履かれてますか?

よもや銘柄は愚か愛車のタイヤサイズすらよく分からないという方はいないと思いますが、心当たりのある方は今すぐ愛車の空気圧と溝とヒビ割れがないかをチェックしましょう。

ダンロップの安全点検調査2013によるとおおよそ10台に1台が整備不良との調査結果が出てました。ちなみに一番多かったのはヒビ割れだそうです。

タイヤが駄目だと簡単に転んでタイヤ代より高くつきますのでタイヤとチェーンはマメなチェックを。ネンオシャチエブクトウバシメです(最近聞かないな)

説教はこのくらいにして本題。

S1000RR

「次は何のタイヤにしようかな~?扁平率変えようかな~?ワンサイズ幅の違うタイヤにしようかな~?」

なんて悩む人は多いと思います。

メトリック表記

ご存知のようにサイドウォールに刻まれているのがタイヤサイズ表記、専門用語でメトリック表記といいます。

例えば標準が190/55R17なら200/55R17も履けるし180/55R17も履けますね。

「そんなの知ってるよ」

って人は多いでしょう。じゃあ何でそうなのか知ってますか?

それはメーカーが干渉しないようにクリアランスに少し余裕を持たせてるからです。

なんでそんなクリアランスを持たせてるのかといえば、それは(安全性の問題もありますが)タイヤサイズがメーカーによってバラバラだから。

銘柄も対象車種も多いメジャーなサイズとしては600SSやビッグネイキッドが履いている120/70R17&180/55R17でしょうか?

このサイズ表記ですがコレを実寸だと思ってる人は多いと思います。

でも実は違うんです。これ極端に言ってしまえばただの”目安”みたいなもの。

実際のサイズはメーカーによってバラバラです。

じゃあどのくらいバラバラなのか各社のタイヤ幅を少し比べてみましょう。

※全て180/55R17&指定空気圧のカタログ値参照

銘柄|タイヤ幅

ブリヂストン

RS10|183mm

BT023|183mm

ダンロップ

α-13|187mm

roadsmart|182mm

ミシュラン

POWER SS|178mm

PILOTROAD3|178mm

ピレリ

ROSSO2|180mm

ANGEL ST|178mm

とまあ見事にバラバラ。ダンロップのα-13(187mm)なんてそれもう190だろって話です。

こんなバラバラでいいの?と思うかもしれませんが、JIS規格で10mmまでの誤差は認められてる。

更に「タイヤ(ゴム)は生き物」と言われるように空気圧や気温など環境によっても幅が変わってしまうのです。

タイヤ工場

これは幅だけでなく高さも同様。

ついでに言うなら個体差もあるので、銘柄が同じタイヤですら全て同寸法のタイヤはありません。

つまりメーカーはこれらの事を考慮し左右5mm以上のクリアランスを取っているというわけなんですね。

「少し幅の太い(細い)タイヤにしたい!」

と思う方は安易にタイヤ幅をワンサイズ変える前に実寸のタイヤ幅を調べて同サイズ表記ながら大きめのタイヤをチョイスしたほうが、安上がりで干渉の心配も無く余計な出費を抑えられて良いかもしれません。

dunlop

それにワンサイズ違うタイヤを履いたにも関わらず

「思ったほど変わってなってない・・・」

なんて失敗をせずに済みますよ。

特にサイズ違いのタイヤを履くとリム幅の違いにより形状が少し変わってしまうので注意です。

さて、そのタイヤの幅がバラバラな問題ですが、これは品質や性質の問題だけではありません。

どちらかというとメーカーそれぞれが考えるプロファイル形状のため。

バイクにとってはこれがとっても大事なんです。

エンジェル

タイヤは大きく分けてツーリングタイヤ、スポーツタイヤ、ハイグリップタイヤがあります。

タイヤ銘柄一覧

タイヤを選ぶとき、どうしても基準となるのはトレードオフの関係にあるライフとグリップのバランス。

まあ高い消耗品なので当然な話です。

pirelli

しかしハッキリ言って四輪はそれだけ考えてればいいですが、バイクのタイヤになるとちょっと違います。

バイクのタイヤは四輪と違いトレッド面(設置する面)が大きくRを描いてるのが特徴的。
これはバイクはキャンバースラストとコーナリングフォースで曲がってるから・・・が、まあこんな難しい話は割愛。要するに寝かせて曲がってるってことです。

ちなみにこのRの角度の事をブリヂストンはクラウン、他のメーカーはラジアスと呼んでいます・・・ってまあこれも割愛。

タイヤ

ザックリ簡単に言ってしまうとバイクのタイヤはスポーツ志向が強くなるほど尖り、ツーリング志向になるほどタイヤは丸くなる傾向にあります。

これは

タイヤを尖らせると寝かし込みが軽くなり、寝かせた時のグリップ面が稼げる。

タイヤを丸くすると安定性が増し、疲労を軽減できる。

ということから。

もちろん形状だけではなく、コンパウンドや構造も関わってきますが、まあなんとなく想像つくと思います。

CB1300とCBR600RR

例えば同じ120/70R17と180/55R17でもヒラヒラ系なCBR600RRと、ドッシリ系のCB1300SF。

普通はその通りなんですが、もしCB600RRがツーリングタイヤを履き、CB1300SFがハイグリップタイヤを履いた場合、どっらがヒラヒラ感じるかといえばCB1300SFで、どちらがドッシリ感じるかといえばCBR600RRだったりします。

少し極端な例えですが、要するにヒラヒラ系でもツーリングタイヤを履けばツアラーの様になれるし、ドッシリ系でもハイグリップやスポーツを履けばヒラヒラになれるということです。

それくらいバイクにとってタイヤというのはとても、とーっても重要なファクターなんです。

どんなバイクもタイヤ次第です。愛車に変化を望むならどんなパーツよりもまずタイヤ。

確かにタイヤは高いですが、費用対効果で見たらこれほどコストパフォーマンスに優れるパーツはありません。

更にタイヤメーカーによっても味付けが異なるも非常に面白いです。
メーカーの特徴(信念)を簡単に説明すると

ブリヂストン|コンパウンド命の考えでガチガチ剛性

ダンロップ|自然なフィーリングを大事にする考えで出しゃばらない

ミシュラン|タイヤもサスの一部と考えで軽く柔らかい

ピレリ|剛性を低くしタイヤを潰してグリップを稼ぐ考え

とまあこんな感じになってます。まあ銘柄によって違いますし参考までに。

バイクタイヤ

最後に重ねて言いますがどんなバイクもタイヤ次第です。

愛車の方向性は貴方のタイヤ管理とタイヤチョイスに全てかかっているんです。大げさでもなんでもなく。

だから是非とも次にタイヤを選ぶ際は”冒険”してみることをオススメします。

CBR1000RRとブリヂストン

愛車がまるで別のバイクになったように感じること間違いなしです。

一本サスの原付二種が増えている理由

スクーターのサスペンション

近年14インチオーバーの大径ホイールを履きつつもリアサスペンションが片側にしか付いていない原付二種スクーターが結構出ていますよね。

一見するとただケチってるだけの様に見えますが、決してコストカットだけが狙いではありません。

シングルサスペンション

先に答えを言ってしまうとこれはアジア市場への配慮の形です。

ただ日本も全く関係ないという話でもないので書いていこうと思いますが、これにはまずスクーターの構造を交えつつ長々と。

一般的にスクーターと呼ばれる乗り物はバイクとは違い『スイングユニット式』とよばれる形を採用しています。

スイングユニット式

凄く乱暴に言うとスイングアームにエンジンと駆動が直接付いている様な形。

ここで重要なのがスイングユニット式というのはいわゆる片持式と同じ様な構造をしている事。

スイングユニット式イラスト2

ということで本来ならばサスペンションを付ける箇所は左側にしかしかないからサスが一本になるのは実は合理的な話。だから50ccの一種などは基本的に左にしか付いていない。

じゃあなんで二本サスの原付二種が幅を利かせているのかというと、一番は乗り心地を良くするため。

SH125

スイングユニット式というのはバネ下重量が激重なのでサスペンションは非常に大変。

だから二本サスにしてあげて一本あたりの負担を減らす事で柔らかくして乗り心地を改善しているというわけですね。

ただし重ねて言いますがスイングユニット式というのはタイヤを挟むようにスイングアームが伸びている一般的な両持ちと違って右側にはなにもない。

スイングユニット式イラスト

つまりサスペンションを設ける事がそのままでは不可能なわけです。

じゃあ右側にサスペンションを付けるためにどうしているのかというと、新たにアームを足しています。

スイングユニット式イラスト3

こうやって両持ちの様にすることでサスペンションを二つ付けられる様にしている。

ちなみにこのアームはリアの剛性を上げる補剛材という狙いやディスクブレーキ化のステー代わり等の狙いもあるんです・・・が、これはこれで問題がある。

シグナスのスイングユニット

それはタイヤを外すのが非常に手間になるという事。

一般的な片持式スクーターのリアタイヤを外す場合の手順は大体こんな感じです。

片持式のアクセス方法

(1)エキパイのジョイントナットを外す
(2)サイレンサーのボルトを外す
(3)アクスルナットを外す

この3ステップで基本的にリアホイールは外せます。

場合によってはマフラーを触らずともタイヤを外せる様になっている車種もあります。

それに対してカバーを付けて両持ちにしているスクーターだと・・・

両持ち式のアクセス方法

(1)エキパイのジョイントナットを外す
(2)サイレンサーのナットを外す
(3)アームに付いたリアサスを外す
(4)アクスルナットを外す
(5)アーム本体を外す

となる。

想像しただけでも伝わると思いますが、非常に手間が掛かって面倒臭い。もしもブレーキキャリパーが付いていたらそれを外す手間まで増える。

自分で外してみた事がある人はいま凄い勢いで頷いてくれていると思います。

つまりサスを一本にしているのは単純なコストカットだけではなくリアタイヤを簡単に外せるようにするためなんですが・・・

ブルーコアエンジン

「そんな頻繁に触る部分じゃないのに」

と思われるかと。

でもそれは舗装が行き届いている日本に居るからそう思う話で、メインターゲットのアジアでは事情が変わってくる。

アジアというのは都市部の幹線道路こそ舗装はそれなりにしっかりしているものの、少し外れたり農村部まで行くと鋭利な石や釘などが当たり前のように落ちているのでパンクやバーストが日常茶飯事なんです。

インドのパンク修理屋

特にその傾向が強いのが最大市場であるインドで、パンク修理で生計を立てている人達も大勢居ます。

また実は日本など先進国で回収された廃タイヤの大量輸入もしており再利用なども活発に行われてる。

こういう状況があるからそれを鑑みて一本サスにしている狙いがあるんですね。

ちなみに・・・

ホンダCD110

「アジアといえばコレ系だろ」

と考えてる人も多いかと思います。

実際今まではその通りで、大きいシートで大人数や大荷物を載せられる事が求められた為にそういうビジネスバイク需要が大きかった。

しかし近年の目覚ましい経済発展によってバイクを買えなかった人、そして何より女性の進出が大きく進展。要するに一人一台の時代になってきたんです。

そしてそんな人達の足として好まれているのが一般的なビジネスバイクではなく、メットインスペースがあってATで運転も楽ちんなスクーター。

パッソルカタログ

1970年代後半に女性の社会進出によってパッソルやラッタッタなどのファミリーバイクが人気になった日本とほぼ同じ状況にあるという事ですね。

ただ何度も言いますがパンクやバーストが日常茶飯事なので、運転だけでなくタイヤ交換も楽な一本サスのスクーターが都合がいい。

インドのストリート

というのが増えている理由というか背景です。

「じゃあ国内で乗る分には二本サスでいいな」

と思うのもごもっともな話ではあるんですが・・・脱着の面倒臭さが違うのでキッチリしたショップなら工賃が違う場合もある。まあ変わっても数百円程度の差でしょうけど。

整備性の一本サス、乗り心地の二本サスという感じですね。