VF1000R(SC16)-since 1984-

V4スーパースポーツ

「究極のレーサーレプリカ」

ホンダが新たに開発したV4リッタースーパースポーツのVF1000R/SC16型。

少し前に出たホモロゲーションCBことCB1100Rの後釜を担うプロダクションモデル(市販車レースのためのモデル)として開発された経緯があり、同年に登場したV4レーサーRS850Rのレプリカ的な立ち位置になります。

RS850R

だからエンジンも伝家の宝刀カムギアトレーンを採用した360度クランクで、100馬力が大台と言われていた時代に122馬力を叩き出すハイスペックっぷり。

VF1000Rエンジン

他にもレースを考慮し

・五速クロスミッション

・ラジアルリアタイヤ

・アンチノーズダイブフォーク

・フローティングディスクブレーキ

などなど当時の最先端技術を余すこと無く詰め込んだ豪華仕様。

VF1000Rのディメンション

そのためお値段も先に紹介したVF750Fの三倍以上となる250万円という超高級車。つまり有名なVFR750R/RC30と同じような意図のモデルなんです・・・が、恐らくこのモデルを知ってる人はかなり少ないかと思います。これにはもちろん理由がある。

ホンダはこれで市販車レースを総ナメにする計画だった・・・だったんですが、VF1000Rは不運としか言いようがない事態に見舞われるんです。

当時ビッグバイクの主要市場はアメリカだったんですが、レーガン大統領が日本車ばかり売れる事に危機感を覚え

「700cc以上の輸入バイクに45%の関税をかける」

という保護関税を1983年つまりVF1000R発売前年に発表。ただでさえ相場の三倍近い高級車に45%も関税が上乗せされて売れるわけないっていう。

VF1000Rカタログ

しかしVF1000Rの不運はこれだけで終わらなかった。

肝心要の市販車レースのレギュレーションがこれまたよりにもよって発売前年の1983年に

「排気量の上限を750ccにする」

という変更が下されたんです。

このせいでVF1000Rはプロダクションレースへの出場が不可能になり、レースは冒頭で紹介したVF750FベースのプロダクションレーサーRS850RをスケールダウンしたRS750Rで戦う事に。

VF1000Rデザイン

つまりVF1000Rはメインターゲットだったアメリカにおいては関税によって市販車としての立場を潰され、レギュレーションの変更でレーサーとしての立場も潰されるというデビュー前にして両翼をもぎ取られる形になってしまった。

V4のリッタースーパースポーツ(プロダクションモデル)なのにCB1100Rや後続のVFR750R/RVF(RC45)などに比べて知名度や人気が今ひとつなのはこれが理由。出場が確認できた大きな大会はオーストラリアのカストロール6耐くらい。

その物寂しさをよく現しているのが実質的に唯一のマーケットになった欧州向けに販売された限定モデル。

VF1000Rロスマンズカラー

「ロスマンズカラーとか最高だな」

と歓びたい所ですが、よく見ると分かるようにVF1000Rの方にはロスマンズのロの字も入ってない・・・そりゃそうですよね、だって世界耐久王者に輝いた初代RVFは満を持して登場したVF1000Rではなくそれより前に発売したVF750Fがベースなんですから。

もしも運命の悪戯に合わず参戦できていたらこれがRVFになるはずだった。そんな不運としか言いようがない時代背景を持つのがVF1000Rというモデルなんです。

VF1000F
(SC16)
-since 1984-

SC16

「EXPLORING THE OUTER KIMITS」

VF1000Rと並行して開発されていたハーフカウルモデルのVF1000F/SC16型。

こちらのモデルはRとは違い最初から欧州をターゲットのモデル。VF1000Rがあんな事になってしまったせいで実質的にセールスを一手に背負う形になったわけですが、VF1000Fはフロントが16インチな事からも分かる通りハーフカウルながら場合によってはRよりスポーツな志向でした。

Interceptor

VF1000Fは開発者の齋藤さんが出来に惚れ込んで愛車にするほどの力作だったんですが環境の違いからか

「もうちょっとツーリングにも使えるモデルにして」

と欧州側から要望が入った事で翌1985年にフルカウルとフロント18インチを装備したVF1000F2を投入。

SC15

アメリカで売れない以上こっち(欧州)で何とかするしかなかった事もあってか迅速な対応なんですが、ハイスピードツアラーという事でCB900Fに続き

『BOL’DOR(ボルドール)』

という今もお馴染みある世界耐久レースの花形ボルドール24時間耐久レースの名前が付いています・・・が、これが一筋縄ではいかない問題でもあった。

何故ならホンダはボルドール24時間耐久においてV4レーサーでの勝利をまだ上げていなかったからです。

「不沈艦RCB直系のCBがボルドールと冠するのは分かるけど、勝ってもないV4がボルドールを冠するのは違うでしょ」

って話になりますよね。

しかしFにインターセプターと名付けたようにFIIにも名前を、それも欧州でのセールスを取るために絶大な人気を誇るボルドールという名前が欲しい。

今年のボルドール24時間耐久レースはFII発表より前・・・そこで開発チームは

1985RVF

「RVF速いし今年は勝つでしょ」

という事で見切り発車のようにボルドールと名付ける方向で計画。※ホンダフラッグシップモバイク開発話|山中勲より

これ何が恐ろしいってなんの運命の悪戯かボルドール24時間耐久レースがVF1000FIIの発表の前と言っても同日の話。ボルドールのレース結果が出るのが朝でFIIの発表は昼から。

そんなもんだからやきもきしながらボルドール24時間耐久レースの結果を待つ事になったものの幸運なことに見事に予想が的中しRVFが勝利。

1985年のボルドール24

その一報を聞いた瞬間に発表を控えていたVF1000FIIのサイドカウルに万が一の事態を考えて貼っていなかったBOL’DORのステッカーをペタっと貼り付けてボルドールと冠する事に成功。

VF1000F2

つまりもしもRVFが1985年のボルドール24時間耐久レースで負けていたら名乗れなかった。

V4として初めてボルドールの名を与えられたVF1000FIIは、Rとは対照的に幸運に恵まれたモデルだったわけですね。

主要諸元
全長/幅/高 2210/765/1240mm
[2180/730/1200mm]
<2270/765/1275mm>
シート高 820mm
[810mm]
<815mm>
車軸距離 1505mm
[1550mm]
<1550mm>
車体重量 233kg(乾)
[244kg(乾)]
<245kg(乾)>
燃料消費率
燃料容量 23.0L
[25.0L]
<23.0L>
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 998cc
最高出力 116ps/10000rpm
[122ps/10000rpm]
<122ps/10000rpm>
最高トルク 9.0kg-m/7500rpm
[9.4kg-m/8000rpm]
<9.4kg-m/8000rpm>
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/90-16(59H)
後130/80-18(66H)
[前120/80-V16-V250
後140/80-VR17-V250]
<前100/90-V18-V250
後140/80-VR17-V250]
バッテリー YB12A-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR7EA-9/DPR8EA-9/DPR9EA-9
または
X22EPR-U9/X24EPR-U9/X27EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.9L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前16|後45
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格
※スペックはVF1000F
※[]内はVF1000R(Type-G)
※<>内はVF1000FII(SC16)

仕様変更

ライト形状は国によって二眼と一眼があり
フランス仕様はSC19

系譜図
VF750S/M1982年
VF750
SABRE/MAGNA
(RC07/RC09)
VF750F1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R1984年
VF1000F/R
(SC16)
750F1986年
VFR750F
(RC24)
750R1987年
VFR750R
(RC30)
RC361990年
VFR750F
(RC36)
RVF1994年
RVF
(RC45)
前期1998年
VFR
(RC46前期)
8002002年
VFR
(RC46後期)
1200F2010年
VFR1200F
(SC63)
1200X2012年
VFR1200X
(SC70)
800F2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)

VF750F(RC15) -since 1982-

RC15

「The Top Technology Machine」

先代(というか先に出ていた)VF750SABRE/MAGNAがシャフトドライブやパイプフレームなどでどちらかと言うと豪華装備のツアラー的な作りだった事から

「何故スーパースポーツではなくスポーツツアラーなんだ」

という声が上がっていた。ホンダも見越していたのか半年後に登場したこのVF750Fは業界初の角型断面パイプフレームにチェーンドライブ、更にスポーティなビキニカウルなど正にそういった声に答えるバイクとして登場。

VF750F

他にもバックトルクリミッターやクラス初軽量ブーメラン型オールアルミコムスターホイルなどNRで培ったレース技術のフィードバックが入っています。そしてキャブレーターが再度見直されコンパクトになったことで、フレームから頭が飛び出すほど傾けていたエンジンが少し戻りました。

V4スーパースポーツ

ちなみに海外向けでお馴染みのペットネーム”INTERCEPTOR”が付いたのもこのモデルが始まり。

まさに待ちに待ったスーパースポーツで巷で一躍話題になった・・・けど長続きはしなかった。

ホンダV4の苦難はもうこの頃から始まっていたんですね。

先代で書いた通りホンダは唯一無二のV4をホンダのフラッグシップモデルとして作り差別化を図る意図があったから、CB750Fでお馴染みのスペンサーさんを乗せ替えさせてまでレースに出場してたんだけど市場(特に日本)の反応は悪かった。

VF750R

ホンダの分析を端的に纏めると

「エキサイティングさや感性が直四に比べ弱かった」

との事。これがどういう事かというと、V4に乗ったことがある人は分かると思うけど直四が回せば回すだけエンジンノイズや排気音とスピードが比例していくのに対し、V4は燃焼間隔が等間隔じゃないから。

※V4のクランク角についてはVFR400R(NC30)の後半で書いたので割愛します。

VF750Fエンジン

速いのは圧倒的にV4なんだけど音とスピードが今ひとつ比例していない。ホンダは社運を賭けた勝負において思わぬ形で負けてしまったわけです。

もし当時のライダー達が直四フィールよりV4(倍回るVツイン)のフィーリングを取ってたら今頃ホンダSSはCBR1000RRではなくRVF1000とかになってた可能性は凄く高いでしょうね。

主要諸元
全長/幅/高 2016/770/1215mm
シート高 795mm
車軸距離 1495mm
車体重量 218kg(乾)
燃料消費率 38.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 22.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 748cc
最高出力 72ps/9500rpm
最高トルク 6.1kg-m/7500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前120/80-16(60H)
後130/80-18(66H)
バッテリー FB14-A2
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DP8EA-9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.0L
交換時2.3L
スプロケ 前17|後44
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格 748,000円(税別)
系譜図
VF750S/M1982年
VF750
SABRE/MAGNA
(RC07/RC09)
VF750F1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R1984年
VF1000F/R
(SC16)
750F1986年
VFR750F
(RC24)
750R1987年
VFR750R
(RC30)
RC361990年
VFR750F
(RC36)
RVF1994年
RVF
(RC45)
前期1998年
VFR
(RC46前期)
8002002年
VFR
(RC46後期)
1200F2010年
VFR1200F
(SC63)
1200X2012年
VFR1200X
(SC70)
800F2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)

VF750SABRE(RC07) -since 1982-

VF750SABRE

「瞬間、近未来。」

世界初の水冷V4エンジンを積んだバイクでありホンダの市販V4の始まりでもあるVF750SABREとMAGNA。

V4エンジンの源流になっているのは楕円ピストンでお馴染みNRの元となっているファクトリーレーサーNR500(1978年)。NRについては「無冠のレーシングスピリット NR(RC40)」をどうぞ。

V4エンジン

あと地味だけど油圧クラッチも世界初採用。更にキャストホイールもホンダとしては初と初尽くめ。他にもプロリンクやシャフトドライブ、ウインカーキャンセラーなどここでは書ききれないほどハイテク装備が既にこの頃から満載です。

しかしそんな初尽くしVF750において市販化において一番重要なのが同じく世界初だったスラント型VDキャブレター。何故かと言うとV4はスロットルボディを置くスペースが狭いから。

V45

今では当たり前のようにVバンク(前後シリンダー)の間にスロットルボディが置かれていますが、フロート室とよばれるガソリンを一時的に溜めておくプールを傾いている角度で付け、かつ横でも下でも同じ負圧で同じようにガソリンを高効率で吸わせるコンパクトなキャブというのは簡単な事じゃなかったわけですね。

それを何とか限られたスペースの中で可能にするために生まれたのが両方(前後)のキャブが折り重なるようになっているユニークなキャブ。このこれが無かったらV4は無理だったとホンダも言っています。

VF750SABREキャブ

というかこのV750SABRE以降ホンダV型はほぼこのキャブレーター方式を採用してるから、これが作れなかったら後のV型もどうなっていたか分かりません。

その努力が垣間見えるのがラジエーターの下から突き出てるシリンダーですね。これは間違いなくキャブレーターの都合でしょう。

VF750SABRE

ちなみにVF750SABREはアメリカではV45とも呼ばれていました。何故V45なのかというと、このV型エンジンの総排気量がおよそ45立方”インチ”だから。

ただアメリカ向けはこのVF750の系譜とは別の形で進行します。というのも好評だったアメリカでレーガンが83年に700cc以上の輸入車の関税を4.4%から45%にまで引き上げたから。つまりVF750SABREは売れなくなってしまったんです。

VF700SABRE

そこでVF750をベースに排気量を698ccにまで落としたVF700Sというバイクを新たに用意し売り出すことになり、このシリーズでアメリカはしばらく行くことになったわけです。

VF750MAGNA
(RC09)
-since 1982-

VF750MAGNA

合わせて紹介するのが同時デビューのVF750MAGNA。

マグナというと250や50が大ヒットした事からソッチのほうが有名だけど初代マグナはこのV4です。スポーツのSに対し、ラグジュアリーなカスタムモデルとして出たのが始まり。

そもそも何故V4を発売したかというと各社から直四が出揃いマンネリ化していた事からの差別化。最初に言ったNR500というレースフィードバックという意味合いも強いけどね。

VF750

だからホンダはこのV4に本当に社運を掛けていました。

その事が伺えるのが開発者でCBR1100XXまで第一線で活躍された山中勲氏のコメント

透視図

「世界ではじめてのV4開発はあらゆることが難しかった。一開発者の我々までが『本田宗一郎が築いた世界一の座を守りとおしてみせる』との思いで開発に取り組んでいたのだから、当時の危機感は相当なものだったといえよう」

主要諸元
全長/幅/高 2245/830/1165mm
[2235/815/1195mm]
シート高 770mm
[725mm]
車軸距離 1560mm
[1540mm]
車体重量 224kg(乾)
[219kg(乾) ]
燃料消費率 38.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 748cc
最高出力 72ps/9500rpm
最高トルク 6.1kg-m/7500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/90-18(61H)
後130/90-17(68H)
[後130/90-16(67H)]
バッテリー FB14-A2
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DP8EA-9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.2L
交換時2.5L
スプロケ 前17|後44
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格 695,000円(税別)
[670,000円(税別)]
※[]内はマグナ
系譜図
VF750S/M1982年
VF750
SABRE/MAGNA
(RC07/RC09)
VF750F1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R1984年
VF1000F/R
(SC16)
750F1986年
VFR750F
(RC24)
750R1987年
VFR750R
(RC30)
RC361990年
VFR750F
(RC36)
RVF1994年
RVF
(RC45)
前期1998年
VFR
(RC46前期)
8002002年
VFR
(RC46後期)
1200F2010年
VFR1200F
(SC63)
1200X2012年
VFR1200X
(SC70)
800F2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)