VFRの系譜

VF1000R
(SC15)
-since 1984-

V4スーパースポーツ

「究極のレーサーレプリカ」

ホンダが新たに開発したV4リッタースーパースポーツのVF1000R/SC15型。

少し前に出たホモロゲーションCBことCB1100Rの後釜を担うプロダクションモデル(市販車レースのためのモデル)として開発された経緯があり、同年に登場したV4レーサーRS850Rのレプリカ的な立ち位置になります。

RS850R

だからエンジンも伝家の宝刀カムギアトレーンを採用した360度クランクで、100馬力が大台と言われていた時代に122馬力を叩き出すハイスペックっぷり。

VF1000Rエンジン

他にもレースを考慮し

・五速クロスミッション

・ラジアルリアタイヤ

・アンチノーズダイブフォーク

・フローティングディスクブレーキ

などなど当時の最先端技術を余すこと無く詰め込んだ豪華仕様。

VF1000Rのディメンション

そのためお値段も先に紹介したVF750Fの三倍以上となる250万円という超高級車。つまり有名なVFR750R/RC30と同じような意図のモデルなんです・・・が、恐らくこのモデルを知ってる人はかなり少ないかと思います。これにはもちろん理由がある。

ホンダはこれで市販車レースを総ナメにする計画だった・・・だったんですが、VF1000Rは不運としか言いようがない事態に見舞われるんです。

当時ビッグバイクの主要市場はアメリカだったんですが、レーガン大統領が日本車ばかり売れる事に危機感を覚え

「700cc以上の輸入バイクに45%の関税をかける」

という保護関税を1983年つまりVF1000R発売前年に発表。ただでさえ相場の三倍近い高級車に45%も関税が上乗せされて売れるわけないっていう。

VF1000Rカタログ

しかしVF1000Rの不運はこれだけで終わらなかった。

肝心要の市販車レースのレギュレーションがこれまたよりにもよって発売前年の1983年に

「排気量の上限を750ccにする」

という変更が下されたんです。

このせいでVF1000Rはプロダクションレースへの出場が不可能になり、レースは冒頭で紹介したVF750FベースのプロダクションレーサーRS850RをスケールダウンしたRS750Rで戦う事に。

VF1000Rデザイン

つまりVF1000Rはメインターゲットだったアメリカにおいては関税によって市販車としての立場を潰され、レギュレーションの変更でレーサーとしての立場も潰されるというデビュー前にして両翼をもぎ取られる形になってしまった。

V4のリッタースーパースポーツ(プロダクションモデル)なのにCB1100Rや後続のVFR750R/RVF(RC45)などに比べて知名度や人気が今ひとつなのはこれが理由。出場が確認できた大きな大会はオーストラリアのカストロール6耐くらい。

 

その物寂しさをよく現しているのが実質的に唯一のマーケットになった欧州向けに販売された限定モデル。

VF1000Rロスマンズカラー

「ロスマンズカラーとか最高だな」

と歓びたい所ですが、よく見ると分かるようにVF1000Rの方にはロスマンズのロの字も入ってない・・・そりゃそうですよね、だって世界耐久王者に輝いた初代RVFは満を持して登場したVF1000Rではなくそれより前に発売したVF750Fがベースなんですから。

 

もしも運命の悪戯に合わず参戦できていたらこれがRVFになるはずだった。そんな不運としか言いようがない時代背景を持つのがVF1000Rというモデルなんです。

 

 

VF1000F
(SC15)
-since 1984-

SC16

「EXPLORING THE OUTER KIMITS」

VF1000Rと並行して開発されていたハーフカウルモデルのVF1000F/SC15型。

こちらのモデルはRとは違い最初から欧州をターゲットのモデル。VF1000Rがあんな事になってしまったせいで実質的にセールスを一手に背負う形になったわけですが、VF1000Fはフロントが16インチな事からも分かる通りハーフカウルながら場合によってはRよりスポーツな志向でした。

Interceptor

VF1000Fは開発者の齋藤さんが出来に惚れ込んで愛車にするほどの力作だったんですが環境の違いからか

「もうちょっとツーリングにも使えるモデルにして」

と欧州側から要望が入った事で翌1985年にフルカウルとフロント18インチを装備したVF1000F2を投入。

SC15

アメリカで売れない以上こっち(欧州)で何とかするしかなかった事もあってか迅速な対応なんですが、ハイスピードツアラーという事でCB900Fに続き

『BOL'DOR(ボルドール)』

という今もお馴染みある世界耐久レースの花形ボルドール24時間耐久レースの名前が付いています・・・が、これが一筋縄ではいかない問題でもあった。

何故ならホンダはボルドール24時間耐久においてV4レーサーでの勝利をまだ上げていなかったからです。

「不沈艦RCB直系のCBがボルドールと冠するのは分かるけど、勝ってもないV4がボルドールを冠するのは違うでしょ」

って話になりますよね。

しかしFにインターセプターと名付けたようにFIIにも名前を、それも欧州でのセールスを取るために絶大な人気を誇るボルドールという名前が欲しい。

今年のボルドール24時間耐久レースはFII発表より前・・・そこで開発チームは

1985RVF

「RVF速いし今年は勝つでしょ」

という事で見切り発車のようにボルドールと名付ける方向で計画。※ホンダフラッグシップモバイク開発話|山中勲より

これ何が恐ろしいってなんの運命の悪戯かボルドール24時間耐久レースがVF1000FIIの発表の前と言っても同日の話。ボルドールのレース結果が出るのが朝でFIIの発表は昼から。

そんなもんだからやきもきしながらボルドール24時間耐久レースの結果を待つ事になったものの幸運なことに見事に予想が的中しRVFが勝利。

1985年のボルドール24

その一報を聞いた瞬間に発表を控えていたVF1000FIIのサイドカウルに万が一の事態を考えて貼っていなかったBOL'DORのステッカーをペタっと貼り付けてボルドールと冠する事に成功。

VF1000F2

つまりもしもRVFが1985年のボルドール24時間耐久レースで負けていたら名乗れなかった。

V4として初めてボルドールの名を与えられたVF1000FIIは、Rとは対照的に幸運に恵まれたモデルだったわけですね。

 

主要諸元

全長/幅/高 2210/765/1240mm
[2180/730/1200mm]
<2270/765/1275mm>
シート高 820mm
[810mm]
<815mm>
車軸距離 1505mm
[1550mm]
<1550mm>
車体重量 233kg(乾)
[244kg(乾)]
<245kg(乾)>
燃料消費率 -
燃料容量 23.0L
[25.0L]
<23.0L>
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 998cc
最高出力 116ps/10000rpm
[122ps/10000rpm]
<122ps/10000rpm>
最高トルク 9.0kg-m/7500rpm
[9.4kg-m/8000rpm]
<9.4kg-m/8000rpm>
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/90-16(59H)
後130/80-18(66H)
[前120/80-V16-V250
後140/80-VR17-V250]
<前100/90-V18-V250
後140/80-VR17-V250]
バッテリー YB12A-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR7EA-9/DPR8EA-9/DPR9EA-9
または
X22EPR-U9/X24EPR-U9/X27EPR-U9
推奨オイル -
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.9L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前16|後45
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格 -
※スペックはVF1000F
※[]内はVF1000R(Type-G)
※<>内はVF1000FII(SC15)

主な変更

ライト形状は国によって二眼と一眼があり
フランス仕様はSC19

系譜図

VF750S/M 1982年
VF750
セイバー/マグナ
(RC07/RC09)
VF750F 1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R 1984年
VF1000F/R
(SC16)
VFR750F 1986年
VFR750F
(RC24)
VFR750R 1987年
VFR750R
(RC30)
RC36 1990年
VFR750F
(RC36)
RVF 1994年
RVF
(RC45)
VFR前期 1998年
VFR
(RC46前期)
VFR800 2002年
VFR
(RC46後期)
VFR1200F 2010年
VFR1200F
(SC63)
VFR1200X 2012年
VFR1200X
(SC70)
VFR800F 2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)