「ランチは300km先の高原ホテルで」
型式がRCからSCに変わった通り、排気量がリッター超えの1237ccと大幅にアップし、完膚なきまでにツアラーとなったVFR1200F(SC63)。
これは先代(RC46)を振り返った開発者がインタビューで漏らしてたんだけど
「先代はツアラーでありつつスポーツ性も取ってしまったので不鮮明な特性になってしまった」
という事があったから。
ホンダとしてはなんでもこなせるスーパーオールラウンダーとして作ったけど、消費者には器用貧乏に見えてしまったんだね。
VFR1200Fが完全なツアラーになったのはそういった背景があったからなんだけど
「新型VFRはSOHC」
という事が凄く批判されたのを覚えています。
バルブを動かすカムシャフトが一本なのがSOHC、二本なのがDOHC。
二本のほうがバルブを正確に動かせるから高回転まで回せる=馬力を上げられる・・・つまり
「DOHC=高性能|SOHC=低性能」
という事。だから騒がれたんですね。読んでる人も
「SOHCとかショッパイなあ」
とか思った人も多いでしょう・・・が、これが実に甘い考え。これは異性を髪型だけで判断する様なものです。
このSOHCはユニカムバルブトレインといってバルブを狭角に出来る上にDOHC並みのバルブ駆動を可能としたホンダの新しいSOHC・・・ってそんな最先端SOHCかどうかは重要じゃない。
重要なのは”何故SOHCにしたのか”という事。
これは先代エンジンベースではなくVFR1200Fの為に作られた専用エンジンなんですが、これまでのVFR史を覆すハイテクで意欲的なエンジンなんですよ。恐らくオーナーですらよく理解してないでしょう。
エンジンをよく見てください・・・Vバンク角(シリンダーの開き角)が理想とされる90度じゃない。これまでずっと守ってきた(というか当たり前だった)90°ではなく76°という狭角になっている。
何故バランスが取れている90°から狭角にしたのかといえばV型のデメリットである前後長を抑えるため。
ただ狭角にするというのはV字を立てるわけなので今度は全高が伸びてくる。そこで伸びた全高を抑えるため吸気側一本で駆動するSOHCにすることで排気側(エンジンの外側)のヘッドを削りコンパクトにしたというわけ。
ちなみにこのエンジンを作られたのは石井勉さんという方なんですが、MotoGP車両RCV(V5やV4)のエンジニアやHRCの総監督をされた結構偉い方でMotoGP車両同様に”エンジンを球形に収める”という事を徹底されたようです。
SOHC化によるエキゾースト側のコンパクト化が如何に生きているかが、そしてそれによってエンジンがかなり前方へ寄せられているのがわかりますね。
が、しかし狭角にすることの問題は全高だけではありません。
90°以外では相殺し合っていた振動のバランスが崩れて大きな振動が生まれてしまうんです。そこで崩れたバランスを補う為に考えられたのがホンダが昔からやってた位相クランクとよばれる一風変わったクランク。
本来ならば一つのクランクピンに二つの前後用ピストン(コンロッド)を付けるVツイン+VツインでV4とする所を、2つ目のピンを付ける部分を28°ズラして付けている。
「76°と28°だと90°にならないじゃない」
と思われるかもしれませんが、位相角の求め方は”180-(シリンダー挟み角×2)”で、VFR1200Fの狭角76°に当てはめると
180-(76×2)=28
だから28°位相というわけ。
これで振動の問題はクリア出来てるわけですが、新たなデメリットとして2つ目のコンロッドを付ける際にクランクウェブと呼ばれる仕切りが必要になってしまう分エンジンの幅が大きくなってしまう。
そこでVFR1200Fのエンジンではさらなる工夫として左右対称シリンダーを採用。
従来のV4は左からピストンが後(1番)→前(2番)→後(3番)→前(4番)という”後→前”を二つ並べたようなレイアウト。対してVFR1200Fは前(1番)→後(2番)→後(3番)→前(4番)と並べた形ではなく逆に付けている。
こうすることで後(2番)→後(3番)をリアバンクつまりライダー側に持ってくる事で大幅なシェイプアップをしている。
だから見た目ではデカくて難しそうなイメージを抱きがちだけど、跨ってみると意外と細身で、乗ってみると意外と気を使わない優しいバイクだったりします。
そしてVFR1200Fで語るべき事がもう一つ。それは唯一無二のV4ビート。
これは
「V型360°クランク76°狭角28°位相クランクピン四気筒」
という呪文のようなエンジンだから成せた技。
256°→360°→616°→720°という180°クランクとも360°クランクとも、Vツインとも直四とも違う、このVFR1200Fだけの点火タイミング。そしてエンジンフィーリング。
こだわり抜いたエンジンが奏でるV4ビートと銘打たれている理由はここにあります。
半年後にDCTモデルを追加し、更に2012年にはトラクションコントロールシステム、LEDテールランプ。燃料タンクの1L増量などのマイナーチェンジが入っています。
他にも電子制御スロットルやタンクとサイドカウルが一体化したようなデザイン面とか色々あるんだけど長くなってしまったので申し訳ないですが割愛させてもらいます。DCTについても次の車種で。
ただ最後に・・・
VFR1200Fの短所はSOHCや111馬力(海外172馬力)という事。長所はそうすることで成し得たコンパクト化や唯一無二のV4フィーリング。
つまりVFR1200Fというバイクは
“買われる為の要素を捨て、使われる為の要素を取ったバイク”
ということ。ただ残念ながらソコまでの狙いを汲み取って買った人が多かったかというと・・・商売って難しいですね。
主要諸元
全長/幅/高 | 2250/755/1220mm |
シート高 | 790mm |
車軸距離 | 1545mm |
車体重量 | 268kg(装) [278kg(装)] |
燃料消費率 | 20.5km/L [22.0km/L] ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 18.0L |
エンジン | 水冷4サイクルOHC4気筒 |
総排気量 | 1236cc |
最高出力 | 111ps/8500rpm {172ps/10000rpm} |
最高トルク | 11.3kg-m/6000rpm {13.1kg-m/8750rpm} |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前120/70ZR17(58W) 後190/55R17(75W) |
バッテリー | YTZ14S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
IMR8E-9HES または VUH24ES |
推奨オイル | ホンダ純正ウルトラG1 |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量4.0L 交換時3.0L フィルター交換時3.2L [全容量4.9L 交換時3.6L フィルター交換時3.9L フィルター&クラッチ交換時4.0L] |
スプロケ | – |
チェーン | – |
車体価格 | 1,500,000円(税別) [1,600,000円(税別)] ※[]内はDCTモデル ※{}内は海外仕様 |
VFR800F (RC46-2) 251kg
もっと軽くという要望は聞けども、もっと重くという要望は聞いたことがない。
そしてもっと強大な馬力を というのも聞かない。(もう少し は聞く。)
次のモデルである1200F
エンジンを云々、シャフトドライブ機構を云々で【コンパクト化しました、軽量化しました。】と強調した先行広告。
出てきたモデルは 267kg…
馬力は 172ps…
排気量を500㏄ほど追加して、完全ツアラー化したのにタンク容量は4リットル減少。
『ランチは300km先の高原ホテルで』と言いつつ、1タンクではタンデムで300㎞走るに心許ない航続距離…
今まで片手で足りないほどVFRを買い、累計で50万km以上走ってきた私の所感を一言でいうと『コレジャナイ』。
良いバイクなんだけど、広告展開のちぐはぐな感じが印象に強い。
メインの海外市場がVFRに求めていた方向性とも違う方向へいってしまったバイクなんじゃないだろうか…マーケティングって難しい。
まあ、言ってみればV4エンジンのホンダ風BM・・
おっと誰か来たようだ
興味を持ったポイントが全て書かれた理想的な記事でした。
ありがとうございました。