TZR250(1KT)-since 1985-

TZR250/1KT

「SPIRIT OF COMPETITION」

ヤマハのレーサーレプリカを代表するTZR250/1KT型。

11月の東京モーターショーでお披露目されたのですが

「YZR500(GPワークスマシン)を開発したメンバーによる市販レーサーTZ250との共同開発」

という事で大きく話題となりました。

TZR250とTZ250

これは要するに

「レーサー部門に人たちに公道向けの市販車も一緒に造らせました」

という前代未聞なやり方。

レーサーレプリカの流れ

・YZR500で採用された樹脂製リードバルブ付きクランク室圧縮
・YZR500で採用されたアルミ製のデルタボックスフレーム
・YZR500で採用された320mmの大径ディスクブレーキ
・ミッションを始めとした各部のドライサンプ化
・ナナハンクラスの前後極太サスペンション
・なにかの間違いじゃないかと思う乾燥重量126kg
・これもなにかの間違いじゃないかと思うクラス最高値55万円

などなど、明らかにそれまでの250とは一線を画す装備と価格、そして次元の違う速さを持っていました。

2XT

速さの要因として大きいのはやはりクランクから吸気するクランクケースリードバルブ式を採用した事かと思われます。それまでピストンの上下運動が担っていた吸気タイミングを、クランクケースに担わせる構造にすることで劇的な性能向上に成功。

ピストンリードバルブとクランクケースリードバルブ

クランクケースから吸気するという昔あった形式が、レース技術により最高性能を叩き出す形式に返り咲くというロマン。TZR250がこれを採用して以降、スポーツモデルはクランクケースリードバルブが主流となります。

しかしTZR250が魅せた”次元の違う速さ”というのは、エンジンだけじゃないのが凄いところ。

「乗りやすさ故の速さ」

にあります。だからこそメディアやアマチュアレーサーだけでなく、多くの一般ライダーも飛びついた。

TZR250最初のポスター

これも最初に言ったようにYZR500を始めGPレーサーに携わっていた阿部さん(プロジェクトリーダー)を始めとしたレーシングエンジニアが手がけたから。

「レーサーって実はすごく乗りやすいんですよ。」

って言われたり聞いたりした事がある人も多いんじゃないかと思います。これは乗りやすさこそが安定したタイム向上につながるから。

YPVS

「人間の感性と調和」

これはTZR250の礎とも言えるYZR500の開発コンセプトというか思想。これがあったからその流れを受けるTZR250もあれほど凄いのに乗りやすいという話で、プロジェクトリーダーの阿部さんがRIDERS CLUB No.101のインタビューでこう答えられていました。

「YZR500をやってきたからこそ、オンロードスポーツへの確信を明確に持っている。」

ヤマハTZR250/1KT

こうすればいい”らしい”とか、こうするのが基本”らしい”といった開発への迷いを持たず、GPというレースの頂で星の数ほどのトライ・アンド・エラーをやってきた経験に裏打ちされた確信があったから、初代にしてここまで完成度の高いレーサーレプリカを生み出すことが出来たという話。

1KT カタログ写真

それが如実に現れているのが、アンチノーズダイブやフロント16インチなど当時では画期的だと言われた装備を一切付けていない事。

逆に、TZR250で採用されたアルミデルタボックスフレームや前後17インチ、アルミブラケットにフローティングマウントのディスクローターなどは、40年経った今も当たり前のように採用され続けている・・・凄いとしか言いようがない。

もう一つおまけの話をすると、初代にしてほぼ完璧だったTZR250ですが、唯一言われていた批判が

「デザインがちょっと地味(寂しい)」

という事でした。こう言われた要因はレーサーでありながら車体にデカール等があまり貼られていないから。このTZR250はRZでも紹介したレース直系技術であるヤマハ自慢のYPSV(排気デバイス)が装着されているのに、その文字すら入っていない。

初代TZR250

でもこれワザとなんです。これについても阿部さんはこう答えています。

「機能というのはアピールする物ではない。気付かれない様に機能するのが本当に優れた機能。」

そう考えていたからクランクケースリードバルブやYPVSなどの技術をデカールでアピールする事を良しとしなかった。

ヤマハTZR250

ただしこればっかりは営業からも呆れられたそうで、妥協案としてアクセサリーとして用意したシングルシートカウルに、そして2年目からボディにシレッと排気デバイスYPVSの文字が貼られる様になりました。

書き忘れましたがもちろんTZR250/1KTも市販車レース(F-3/SP250)に参戦できるようレースKITが販売され全国のレースで大いに活躍というか猛威を振るいました。

GPレーサーの技術者に開発させレースKITまで用意するという技術の大盤振る舞いだったTZR250/1KTすが、ここまでやったのはもちろんYDS-1から続いている

『2stのヤマハ』

の習わしだったからでしょうね。

TZR250(2XT) -Since1988-

2XT

二年後に出された二型のTZR250/2XT型。

・デジタル式CDI
・ラジアルタイヤへ変更
・アルミメッキシリンダー
・給排気系統の大幅な見直し

などなど別物エンジンになるほど結構大掛かりなモデルチェンジにより1KTから更に本当は45馬力以上あるだろ感が増したんですが

「見た目は1XTのまま」

というブレないストイックさが災いし、知ってる人は凄さが分かるんだけど知らない人も多い歴代TZR250では最も通好みなモデル。

TZR250マルボロカラー

ちなみにこれは当時ヤマハを応援していた者にとってはたまらないYZR500/GP500と同じヤマハマルボロカラーモデル。

一転してド派手になった事もあり、涎を垂らす人が続出しました。

主要諸元
全長/幅/高 1KT・2XT:2005/660/1135mm
2XT:2005/660/1
シート高 1KT・2XT:760mm
車軸距離 1KT・2XT:1375mm
車体重量 1KT・2XT:126kg(乾)
燃料消費率 1KT・2XT:43.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 1KT・2XT:16.0L
エンジン 水冷2サイクル二気筒
総排気量 249cc
最高出力 1KT・2XT:45ps/9500rpm
最高トルク 1KT:3.5kg-m/9000rpm
2XT:3.6kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 1KT:前100/80-17(52H)|後120/80-17(61H)
2XT:前110/80-17(52H)|後130/70-17(67H)
バッテリー 1KT・2XT:GM4A-3B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
1KT:BR8ES/BR9ES
2XT:BR8ES/BR9ES/BR10EV
推奨オイル  
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
1KT:1.4L
スプロケ 1KT:前14|後41
チェーン 1KT:サイズ520|リンク110
車体価格 1KT:549,000円(税別)
2XT:559,000円(税別)
系譜図
YD1 1957年
YDシリーズ
YDS-1 1959年
250S/YDSシリーズ
dx250 1970年
DX250/PRO
(280/352)
RD250 1973年
RD250
(361~3N4)
4L3 1980年
RZ250/R/RR
(4L3/29L/1AR/1XG/3HM/51L)
1KT 1985年
TZR250
(1KT/2XT)
3MA 1989年
TZR250/SP
(3MA)
R1-Z 1990年
R1-Z
(3XC)
3XV 1991年
TZR250R/SP/RS/SPR
(3XV)

「TZR250(1KT)-since 1985-」への1件のフィードバック

  1.  懐かしく拝見いたしました。
     当時、知り合いの愛車で何度か乗ったことがありました。ライバル車と比べて格段に乗りやすい(ハンドリングが素直で中低速域のピックアップも問題なし。)ので、誰が乗っても皆んな速かったですねぇ〜。
     それが、捻くれ者で生意気な自分には退屈な車に映りましたので敬遠してしまいました。
     今じゃあ、後悔しきりです。あんな素晴らしい車、もっともっと乗っておけば良かったです。

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