「Master of Scooter」
先代でTMAXモデルチェンジが早すぎるなんて言ってたら熱も冷めぬ内にまたモデルチェンジとなった六代目のTMAX530SX/BX3型とDX/BC3型。
最初に変更点を上げると
・デザインを一新
・ABSを標準化
・YCC-T(電子制御スロットル化)
・D-MODE(2モード出力切り替え)
・トラクションコントロール
・新設計アルミフレーム
・新設計アルミロングリアアーム
・新設計二連アナログ&TFTメーター
・可変スクリーン(二段階55mm差)
・プーリーとベルトの再設計
・マフラーの再設計
・リアホイールのリムを0.50縮めバネ下軽量化
という感じで電子制御だけでなく車体の方も大きく見直されました。
DXは上記に加え更に
・グリップヒーター(SXも別売で用意)
・シートヒーター(SXも別売で用意)
・クルーズコントロールシステム
・プリロード&伸側減衰力アジャスター付きリアサス
・電動スクリーン(無段階135mm差)
・+3kg
が装備された上位版になります。
特筆すべき変更点としてはまずフレームが新しく作り直された事。
青いほうが2017年式の方なのですが肉を削ぎ落として9kgの軽量化。
更にベルトやホイールのリム幅をワンサイズ細く(タイヤサイズは変わらず)し合計で10kgの軽量化。
フレームを短くしてホイールベースが短くなった分、スイングアームを一気に40mm伸ばし脚長モデルへと変貌。コレにともなってリアサスペンションもリセッティングされています。
更に電子スロットル化も恩恵が大きく、電子制御はもちろんのこと挙動もかなり調教されたものに。
ところで日本は関係ないんですが欧州ではこのモデルから
『My TMAX Connect』
『D-Air』
への対応も追加されました。
My TMAX Connectというのは日本にとっては懐かしいボーダフォンとヤマハの提携サービスで、データロガーはもちろん追跡はもちろん遠隔でホーンを鳴らしたりウインカーを付けたり出来る早い話が監視サービス。
そしてもう一つのD-Airはダイネーゼというイタリアのバイク用ウェアを中心に作っているスポーツウェアメーカーが10年掛けて開発したエアバッグシステムの事で凄いのはワイヤレスだという点。
エアバッグシステム自体は前からあるしレースなんかではもう常識なんですが、一般用途においてはランニングマシンのように作動用コードでバイクと繋ぐ必要性があったりする煩わしさがあった。
それをダイネーゼはセンサーをジャケット(背中プロテクター)に内蔵する事でワイヤレス化に成功したというわけ。
1秒につき約800回ライダーの動きを収集し、転倒と判断したら僅か0.045秒という速さで展開するエアバッグシステム。これは自動車のエアバッグと同等の速さ。
そしてTMAX530はそんなD-Airシステムの正確性を更に増すため、TMAXからも作動信号を送れるコントローラーを内蔵出来るようした(コントローラーはオプション)というわけ。
当然ながらタンデムの事も考えて2名までコントロール出来るようになってます。
イタリアで絶大な人気を誇る車種らしい装備って感じですね。日本のウェアメーカーも早く追い付いて欲しい物です。
ちなみにMy TMAX Connectも向こうの人にとっては保険のクラスが下がるから非常にありがたい装備。
向こうは車種によって保険料が違うのでバイク選びに保険が直結するんですが、今回のモデル分けでそのアプリ機能が付かない無印は今までのTMAX同様にA2ライセンス(日本でいう普通二輪扱い)。
それに対しMy TMAX Connectによる速度警告機能やGPSによる追跡といった機能と、Aライセンス(日本でいう大型)扱いのおかげで保険が更に下げられる事になっています・・・まあつまり日本で乗る分にはあまり重要ではないです。
ちなみに向こうでは先代も名前をTMAX LUX MAXと変えて併売しました。
これはEURO4(規制)の猶予が現行車の場合1年あるから。写真に載ってる通りイタリアなどでは低金利キャンペーンをやってるみたいです。
先代もそうだけどTMAXが凄いのは新型が出てもこういったキャンペーンで型落ちだろうが同じくらい売れる事。日用品としての広く認知されている事の証ですね。
ちなみにこのモデル大きく変更したためかヤマハも主戦場であるイタリアのEICMAモーターショー2016で特別に別の会場を用意する力の入れっぷりでした。
会場の駐輪場は案の定TMAXだらけに・・・。
最後にちょっと余談ですがTMAXで外せない要素なのに書き損ねた事があるので書かせてもらいます。
みなさん
「TMAXは実は三気筒」
というのをご存知でしょうか。これは初代から一貫してです。
諸元をみてもらうと分かる通りスペック上はパラツイン(並列二気筒)と書かれている。
一体どういうことかというとTMAXは面白い事にパラツインでも稀な360度クランクを採用しています。
※補足:二気筒エンジンが七変化した理由-クランク角について-
つまり本来ならシングル顔負けの振動を起こすわけですがTMAXは振動は起こりません。それは当然ながらバランサーがあるから。
バランサーというのはその名の通り振動を相殺してくれる重りの付いた棒でバランサーシャフトとも言われています。下の写真は同じ360度ツインエンジンを搭載しているW800のエンジン。
これが振動を消してくれる事で振動を抑えているわけです・・・が、ではここでTMAXのエンジンを改めて見てみるとバランサーが見当たらない。
それもそのハズTMAXにバランサーシャフトは付いておらず代わりにもう一つシリンダー(赤い矢印の部分)が付いている。
『往復式ピストンバランサー』
と呼ばれる方法で、プラグやバルブといった内燃機関は持っておらずバランサーとして前の二気筒と反対のストローク運動をして振動を消しているというわけ。
360度で等間隔だから等間隔に二気筒分のカウンターを当ててやれば綺麗に消せるという事。
これは自動車の水平対向四気筒エンジン等と同じ思想。
だからTMAXのエンジンは
「水平対向と同じ特性を持つ水平対向三気筒・・・のような横型並列二気筒」
という実に面白い形なんですね。非常にややこしい言い回しですが。
「そもそも何故そうまでして360度に拘ったのか、180度じゃ駄目なのか」
って話になりますよね。
スポーツバイクは基本的に180度クランク。それに対し360度クランクは振動面(重量やスペース)で不利なのでノスタルジックなモデルに採用されるエンジン。
それなのにスポーツスクーターのTMAXは何故360度なのかって・・・これは360度という等間隔燃焼による穏やかなトルク変動がコミューターには必須だと判断されたから。
しかしエンジンの高さは抑えないとシート高が更に高くなったり、メットインスペースを犠牲にする問題が出てくる。しかし振動を嫌ってラバーマウントにしてしまうと剛性が落ちてしまう。
そこで考えられたのがピストンを水平に寝かせつつ反対側にバランサーピストンを仕込むことで高さを抑えた世にも奇妙なエンジンというわけ。
これ本当に面白い話でTMAXは
「電動と思わせるほどエンジンの存在感を消す事」
というのがコンセプトにあるんですが、何度も言うように360度クランクっていうのはどちらかというとエンジンの存在感を出す際に採用される主張の強いタイプ。
それを隠れピストンで完全に取り除き、360度本来の武器であるトルク変動の少ない等間隔燃焼という特性だけを残した。
つまりTMAXというのはスポーツコミューターであると同時にノスタルジックの対極に居る
「フューチャリスティック360度ツインスポーツ」
なんですね。
主要諸元
全長/幅/高 | 2200/765/1420~1475mm [2200/765/1420~1555mm] |
シート高 | 800mm |
車軸距離 | 1575mm |
車体重量 | 215kg(装) [218kg(装)] |
燃料消費率 | 20.6km/L ※WMTCモード値 |
燃料容量 | 15.0L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC2気筒 |
総排気量 | 530cc |
最高出力 | 46ps/6750rpm |
最高トルク | 5.4kg-m/5250rpm |
変速機 | Vベルト |
タイヤサイズ | 前120/70-15(56H) 後160/60-15(67H) |
バッテリー | YTZ12S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
CR7E |
推奨オイル | ヤマルーブ プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量3.6L 交換時2.6L フィルター交換時2.9L |
スプロケ | – |
チェーン | – |
車体価格 | 1,150,000円(税別) [1,250,000円(税別)] ※スペックはSX(BX3) ※[]内はDX(BC3) |
今更なんですが、値段が1ケタ足りないです。
超リーズナブルなお買い得車になってます。