「THE REAL-WORLD SUPERBIKE」
VTR1000SP/SC45の後期モデルとなる通称SP-2。
・ツインインジェクション化
・スクリーンの高さを30mm延長
・ステム/キャスター&トレール角の変更
・スイングアームピボット変更
・スロットルボディ径の拡大
・6kgの軽量化
・フレームの全般的な見直し
などなど書ききれない程の数々の変更が加えられていますが、SP-2における最大の狙いはフレーム剛性を少し柔らかく(捻じれやすく)見直してハンドリングを向上させたこと。
これによって乗りやすくなったんですが、乗りやすくなったといってもそれは街乗りとかそういうレベルではなく・・・なんでって結局はこれらの変更もHRCがレースしながら改良してきたワークスマシンのフィードバックだから。
市場を考慮してモデルチェンジしたわけではなくHRCが
「こうしたほうが勝てるマシンになるよね」
っていう改良を市販車の段階から実装させたモデル。
どんだけHRC(レース)しか見てないんだって話。
このSP-2が出るまでの2002年時点でVTR1000SPは
・WSB
・鈴鹿8耐(4連覇)
・ルマン24時間
・マン島TT
・デイトナ200マイル
などなど名だたるレースで勝利をあげタイトル総ナメに近い状態。にも関わらず更なる改良SP-2で鬼に金棒と化した・・・わけですが不運が訪れます。
レース協会がWSBで使うタイヤをピレリのワンメイクにすると発表したんです。
レースでミシュランを好んで使っていたホンダはこれに猛反対。
どうもVTR1000SPWはタイヤとのマッチングにシビアな面があったようなので飲むわけにはいかなかったんでしょう。
そしてもう一つの要素がこれまで
『四気筒750cc、二気筒1000cc』
という二気筒優遇だったレギュレーションが
『四気筒1000cc、二気筒1200cc』
へと改定され二気筒1000ccの優位性が無くなるどころか使い物にならなくなった事。
まるでVTR1000SPをレースから追い出すような環境に急変したわけです。
これらによりホンダは怒ってワークス撤退を表明。CBR1000RRがこの後を担うようになるわけですが、よっぽど腹が立ったのかワークス参戦はずっとしませんでした。
つまり話を戻すとSP2は登場と同時に余命一年の宣告を受けたという話。
なんとも悲しい運命・・・かと思いきや実はそうとも言い切れなかったりする。
というのもこのSP2なんと北米では2006年までRVT1000/RC51(SP3~SP6)として非常に人気だったんです。
なぜ北米で人気だったのかというと一つは『デイトナ200マイル』というアメリカで一番人気のある伝統レースで2002年にポールトゥウィンという完璧な勝利をあげ、全米シーズンチャンピオンにも輝いたから。
ちなみにその時のライダーは後にMotoGP王者となるニッキー・ヘイデンです。
そしてもう一つはVTR1000Fプロトタイプのくだりを読まれているならおわかりかと思います。
「自分たちが欲したVツインスポーツだったから」
ですね。
アメリカン人ライダーがデイトナ200を完勝し性能を証明した自分たち好みのバイク
『名実ともに完璧なVツインスポーツ』
となればそりゃ人気も出ますよね。
ただ一方で日本は直4が好まれる上に空前のSSブームが起こっていたので消えたことすら話題になりませんでした・・・まあ広告もほとんど打たずカタログもペライチだった事から見ても、ホンダも数を売るつもりは無かったみたいですから仕方のない話なんですけどね。
そんな登場からわずか4年足らずで消える事となったVTR1000SPですが、このバイクが登場しレースで猛威を奮えば奮うほど界隈からは
「ホンダ大人げないぞ」
という声が聞かれました。
理由は最初に話した通り、二気筒の優遇が顕著になった事でそれまで培ってきたV4を捨ててV2にしたから。要するにプライドは無いのかって話なんですがVTR1000SPWのエンジン設計PLだった野村さんいわく
「抵抗はあったがそれよりも勝ちたかった」
との事・・・SP-1でも言いましたがVTR1000SPって結局これなんですよね。
VTR1000SPはワークス技術を多くの人に提供する意味合いが強かったRVF/V4と違い、自分たちが勝つためのマシンとして造られた意味合いが非常に強い。レースでも今のホンダからは想像がつかないほど貪欲に勝利を取りに行くワークス体勢だった。
当時のホンダは本当に勝利に飢えてたんだと思います。
だからこのVTR1000SPというバイクは多くの人に夢を与え続けてきたホンダが
「自分達も夢を見たい」
とマーケットもブランドもフィロソフィーも、優等生キャラもかなぐり捨て自身の飢えを満たす為だけに造り上げた
『わがままボディのスーパーバイク』
と言えるんじゃないかと。
だってVTR1000SP関係の資料をどれだけ調べても勝つ為のこだわりや苦労だけでセールストークが一切見当たらないんですよ。
「いやあ大変でした」
ってニコニコしながら言ってる話しかない。
参考文献:RACERS41
主要諸元
全長/幅/高 | 2060/725/1145mm |
シート高 | 825mm |
車軸距離 | 1420mm |
車体重量 | 194kg(乾) |
燃料消費率 | – |
燃料容量 | 18L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC2気筒 |
総排気量 | 999cc |
最高出力 | 136ps/9500rpm |
最高トルク | 10.7kg-m/8000rpm |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前120/70-17(58W) 後190/50-17(73W) |
バッテリー | YTZ12S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
IFR9H11(標準)/IFR8H11 または VK27PRZ11(標準)/VK24PRZ11 |
推奨オイル | ウルトラGP(10W-40) |
オイル容量 | 全容量4.3L 交換時3.5L フィルター交換時3.9L |
スプロケ | 前16|後40 |
チェーン | サイズ530|リンク106 |
車体価格 | – ※国内正規販売なしのため |
系譜図
1986年 VTR1000F Prototype | |
1997年 VTR1000F (SC36前期) | |
2001年 VTR1000F (SC36後期) |
2000年 VTR1000SP-1 (SC45前期) | |
2003年 VTR1000SP-2 (SC45後期) |
【関連車種】
VFRの系譜|YZF-R1の系譜|GSX-R750の系譜|ZX-10Rの系譜