TRACER9GT(BAP)-since 2021-

TRACER9GT/BAP

「Multirole fighter of the Motorcycle」

MT-09のフルモデルチェンジから半年ほどとなる2021年6月に発表されたTRACER900改めTRACER9GT/BAP型。

最初に変更点をあげるとMT-09の紹介とかぶる部分もありますが

・ストロークを上げて888ccとなった新設計エンジン
・スピンフォージドホイール
・MT-09と同じく新設計アルミダイキャストフレーム
・積載およびタンデムを考え新設計された専用リアフレーム
・MT-09と同様の6軸IMUによる電子制御
(車体姿勢計測型のABS/トラコン/ウィリー制御/スライドコントロール/ブレーキコントロール)
・フルLED&コーナリングランプ
・2モードKADS(KYB製電子制御サスペンション)
・アップ/ダウン対応クイックシフター
・ラジアルマスターシリンダー
・コーナリングランプ搭載の新スタイリング(アローシルエット)
・ダンパー内蔵のサイドケースステー
・3.5インチフルカラーデュアルTFTメーター
・10段階のハンドルウォーマー
・10段階(5mm間隔)可変のウィンドスクリーン
・シート高を先代比-40mmし足つき性を向上
・先代GTと同じくMT-09より60mm長いスイングアーム
・ハンドルガードの小型化

などとなっています。

カタログ写真

特筆すべき変更点としては、アップ/ダウン対応クイックシフターや電子制御6軸IMUによるフル電子制御もですが、目玉はやっぱりKYBが開発した二輪初となる

『KADS(KYB Actimatic Damper System)』

という電子制御サスペンション。

KYB KADS

遂にKYBも電サスの投入となったわけですが、後発なだけあり最初から即応性に優れるソレノイドバルブ駆動による1/1000秒単位で制御可能なレーシングスペックモノ。

加えて面白いのがプリロードアジャスターへのアクセス。

TRACER9GT KADS

なんと電子制御サスペンションなのにそのまま弄れるようになっている。

ブーツを外してカプラー外してやっとアクセスという電子制御ゆえの煩わしさが無いレイアウトになっているんですね。色んなシチュエーションが想定されるTRACER9GTにとっては尚のこと嬉しい配慮。

そしてもう一つ特筆すべきなのが大きく変わった見た目からも分かる通り、コーナリング中にイン側を照らしてくれるコーナリングランプが付いたこと。

顔に見えるシグネチャーランプ部分がその部分で、前照灯のロービームはその下の小さいライト。ちなみにその反対側がハイビームになっています。

ライトの構造

MT-09とYZF-R1のハイブリッドみたいな感じですね。

補足しておくと、近年ツアラーやマルチパーパスに採用が進んでいる有ると無いでは大違いのコーナリングライトですが、これが出始めたのは自動車基準調和世界フォーラム通称WP29、要するに国連が2013年にバイクに装備する事を許可したから。

そしてドンドン採用されて、トレーサーにも八年越しで採用となったわけですが、ちょっと遅かったですね。ここまで遅れてしまったのはコーナリングライトの許可条件が関係しています。

サイドビュー

コーナリングライトを装備するにあってクルマがハンドルの切れ角に応じて照射する用になっているのに対し、バイクはそうではなく

『バンク角に応じて照射する方式のみ許可』

という条件が設けられた。つまりIMU(慣性計測装置)を付けないとコーナリングライトを付けられないわけで、そのせいで採用がなかなか簡単にはいかなかったという話。

コーナリングライト

逆に言うとTRACER9GTを始めとしたマルチパーパスがIMUを率先して搭載している狙いは電子制御による車体コントロールだけでなく、このコーナリングライトを付けるためでもあるんですね。

話を戻すと、トレーサーはもともとMT-09TRACERとして登場し、TRACER900/GTになり、そして今回TRACER9GTとなったわけですが

「何故こうまで名前を何度も変えるのか」

という疑問をお持ちの人も多いかと。調べたところ、ちゃんと狙いというか開発された方々の思いがありました。

失礼ながら要約すると

「MT-09の派生モデルとして見てほしくない」

という話。

実際TRACERは二代目でベースのMT-09とは少し距離を置くような立ち位置になって、違う層へ人気が出ました。その事を名前でも明確にする狙い。

サイドビュー

しかし個人的にはトレーサーでもう一度名前を変えるというのは、かなりの勇気というか攻めの姿勢だなと思います。

というのも、このモデルを優先して書いている理由でもあるんですが、どうもバイク屋で聞いているとトレーサーからの買い替え・・・要するに先代から新型に乗り換える人が他のモデルより多いんだそうです。

傑作と名高いCP3エンジンで元気なパワーを持ちつつも、マルチパーパスとしては車体も絞られていて乗りやすいモタードツアラーという唯一無二の存在というの大きいとは思うんですが、もっとシンプルなところでいうと、リピーターを生む最も大事な要素は言うまでもなく

「高い満足度を与える」

という事に尽きる。つまりトレーサー買ってよかったと思ってる人が多いわけですね。なんかもうこれだけで疑いようのない名車と言えるのでないかと。

フェイスデザイン

でもだからこそ攻めの姿勢だなと思うわけです。既に高い評価を得ているということは逆に言うと、モデルチェンジでは既にかなり高いハードルがあるとも言える。

にも関わらずいくらフルモデルチェンジとはいえ名前を改めるという自ら更にハードルを上げるような事をしたのは、そんなリピーターすら満足させるほどの進化をさせたという自信の現われとしか。

車体価格を上げてでもトップエンドに近い最新装備を積んでいる事からもその意気込みが分かる・・・と言いたい所ですが、テクニカルレビューでプロジェクトリーダーの北村さんが実にカッコよく、実にヤマハらしい事を仰っていました。

壁紙

「電子制御や新技術などが注目されやすいが、開発で大切にした事は乗るたび使うたびに悦びを感じてもらえる官能評価。」

装備や技術はすべて官能のため。人機官能マルチロールファイターここにありですね。

主要諸元
全長/幅/高 2175/885/1430mm
シート高 810~825mm
車軸距離 1500mm
車体重量 220kg(装)
燃料消費率 20.4m/L
※WMTCモード値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 888cc
最高出力 120ps/10,000rpm
最高トルク 9.5kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 1,320,000円(税別)
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-09/SP(B7N/BAM)-since 2021-

2021MT-09

「The Roadeo Master」

公式では初のフルモデルチェンジとなったMT-09のB7N型とSPのBAM型。

まず最初に変更点を上げると

・デザインの大幅な刷新
・ストロークを伸ばし890cc(+43cc/+4ps)になった新設計エンジン
・サウンドデザインされた給排気系
・2.3kg軽量化された新設計アルミフレーム
・フロントラジアルマスターシリンダー
・スピンフォージドホイール
・軽量フロントサスペンション
・YCC-T(電子制御スロットル)
・6軸IMUとそれに伴う電子制御(トラクション、リフト、スライド、ブレーキ制御)
・フルカラーTFTメーター
・LEDウインカー
・可変式フットレスト
・アップダウン対応クイックシフター

2021MT-09SP

※以下SPの変更点
・塗り分けされた専用カラー
・スモーク処理されたブレーキリザーブタンク
・黒塗装ドリブンスプロケット
・KTB左右独立減衰力調整構造フォークにDLCを追加
・バフ&クリア塗装のスイングアーム
・クルーズコントロール(4速50km/h以上)

などなどフルモデルチェンジと謳うだけあり、ほぼすべてに手が加えれた形となりました。変わっていないのはブレーキキャリパーくらいですね。

MT-09フューチャーマップ

その中でも何が一番大きく変わったかといえば6軸IMU(慣性計測装置)とAPSG(電子制御スロットル)による制御の完全電脳化なんですが、見た目もマスの集中化とそれを視覚化させる事が狙いというだけありギュッと詰まったデザインになりました。

具体的にはメインフレームのヘッド(ステム)パイプを30mm下げると同時にヘッドライトユニットを極限までコンパクトにしつつステムに近づけるなどの改良が加えられています。

サイドビュー

小型に出来るLEDのメリットを存分に活かした形ですね。ちなみにホイールベースも10mm短縮。

ただ中身の方も結構変わっていて、要であるエンジンの方はFIからピストンやコンロッドさらにはクランクシャフトまで新設計すると同時に排気量を43cc上げて888ccに。

もう少し厳密に言うとストローク量を6.1mm上げ、低中速トルクを底上げした形でエンジンブロックには新色のガンメタに近い明るい塗装が採用されています。

しかしそれよりもこの代で最も紹介すべき新アイテムは間違いなく量販車初となるコレ。

ヤマハスピンフォージドホイール

『SPINFORGED WHEEL』

直訳すると回転鍛造ホイールなんですが、これの凄さを100%共感してもらうために鋳造ホイールと鍛造ホイールの違いについてからおさらいを兼ねて説明。

鋳造ホイールはデロデロに溶かしたアルミを型に流し込んで成形する製法。極端な話ですが型に流し込めば良いのでコストは安く複雑な構造も得意。

鋳造ホイール

ただし溶かして冷やすという製法の問題から鋳巣という強度を損なう空洞が出来やすく、また溶かしたアルミを隅々までキレイに流れるような型にしないと行けないので薄く(軽く)出来ない。

純正ホイールは一部を除きほぼ鋳造ホイールです。

対して鍛造ホイールというのはアルミをプレス機でバチーンと打って造られている製法。圧力で成形するので組織が密になるので強度が出る。

鍛造と鋳造

しかし肝心のプレス機が非常に高価なため大量生産には向かず、また複雑な形状を造るのも難しい問題もある。削り出しという工程を加えることでデザイン性を上げることが出来ますが、ただでさえ高いコストがなおのこと高くなる。

鍛造ホイール

鍛造ホイールといえばマルケジーニなどが有名ですね。

ホイールというのはいわゆるバネ下で一番重いものなので軽量化において最も効果的な箇所といえるものの、コストや量産の問題があるから鍛造ホイールは一部の超高級車にしか採用されない。

そこでヤマハが取り組んだのがこのスピンフォージドホイール。

スピンフォージドホイール

これはまず基本となるホイール(ディスク)部分を鋳造で精製した後に、回転する台に載せて金属のローラーで陶芸の”ろくろ”のようにリム端の部分に圧力をかけて成形する。

正式には

『フローフォーミング加工』

と言って、要するに鋳造で造ってからリムの部分を鍛造化する技術。これによりリムの厚みが従来の半分になり重量も前後で700gの軽量化に成功。

フローフォーミング加工

これ四輪の方でも一部のスポーツモデルなどに採用が進んでるんですが二輪の場合

・触れてはいけないリム中央部と端の幅が非常に狭く加工がシビア

・左右どちらのリムも外装を担っていることから跡などが見えてはいけない

・前後でホイールの形状が違う(量産効果が得られない)

など四輪とは比べ物にならないほどハードルが高かったために今まで実現されなかった。

では何故ヤマハがこれを実現出来たのかといえばそれはCFダイキャストなどからも分かる通りヤマハがアルミのプロフェッショナルであると同時に

「ホイールまで内製しているメーカーだから」

という話。

だからこそ実現出来たことですが、そんなヤマハですら企画の始まりを含めると実に5年がかりで、原材料の添加物配合率をコンマ%単位でオリジナルブレンドしてやっと実現出来たもの。

そして完成した第一弾となるのがこのMT-09に採用されたホイール。

鍛造と鋳造の良いところ取り

費用対効果を考えると量販ホイールはこれがもう完成形じゃないかと思います。

最後にまとめというか何というか。

2021年からのMT-09/SP(B7N/BAM)は、6軸IMUとそれに伴う電子制御の高度化、さらにアップ/ダウン対応クイックシフターに今お話した新時代ホイールことスピンフォージドホイール。

どう考えてもフラッグシップといえるフル装備なんですが、さらに驚きなのがこれで税別1,150,000円と破格な事。

2021MT-09カタログ

これは相当戦略的な価格というか・・・以下ちょっと主観なんですが、MT-09はこの代で少し立ち位置が変わった印象があります。

というのも元々MT-09は

「ネイキッドとモタードを掛け合わせた形」

というのは皆さんご存知かと思いますが、先代まで(特に初代)は明らかにモタード要素が強いモデルでした。まさにコンセプトにもあるロデオそのもので車体が水平をキープする事が殆どないようなハッチャ系。

それを今回は少し抑えた・・・というのもちょっと語弊がある。ここが絶妙なところで例えるなら今まで1から10までロデオ(モタード)だったのに対し、フル電脳化に伴って1から5まではライトウェイトなネイキッドで6から10まではモタードという感じ。

ロングストローク化でトルクを底上げしたエンジンからも分かる通り、トルクを楽しむ『マスターオブトルク』というコンセプトにさらに忠実に習った形にしたとも言えるわけですが、さらにその狙いを現しているのが純正オプションの拡充。

オプション

このモデルからスクリーンはもちろんトップケースまでボルトオンで簡単に脱着出来るよう考慮されて開発されています。

車体設計の段階から考えられている事の何が強みかといえば

「容易に脱着出来る」

という事。これがこの代のMT-09をよく現している要素と言えるかと。

ロデオマスターMT-09

「その日の気分でモタードにもネイキッドにもなれるヤマハ流ビッグスタンダード」

という感じですね。

主要諸元
全長/幅/高 2090/795/1190mm
シート高 825mm
車軸距離 1430mm
車体重量 189kg(装)
[190kg(装)]
燃料消費率 20.4m/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 888cc
最高出力 120ps/10000rpm
最高トルク 9.5kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR9A-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 1,100,000円(税別)
[1,150,000円(税別)]
※[]内はMT-09SP/BAM
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

TRACER900/GT(B5C/B1J) -since 2018-

TRACER900/B5C

「Two Sides of the Same Coin: Sports and Travel」

2018年からのMT-09TRACER改めTRACER900となったB5C型。

最初に変更をあげると

・大型フロントスクリーン

・新設計ハンドル&シート

・6馬力アップ

・60mm延長されたスイングアーム

・新デザインのフロントカウル/マウントステー/フットレスト

などなどとなっており、このモデルからは新たにTRACER900GT/B1J型というグレードも登場。

TRACER900GT/B1J

・フルアジャスタブルフロントフォーク

・リモートアジャスター付きリアサス

・多機能フルカラー液晶メーター

・クイックシフター(アップのみ)

・クルーズコントロール

・グリップヒーター

などを装備しています。

TRACER900の変更点

ホイールベースの60mm延長などからもわかるよう従来のMT-09路線から更に少し離れて快適性と巡航性能を向上させたツーリング寄りなモデルになりました。

基本的にデザインは先代を継承している形なんですが

・ハイスクリーンとアッパーカウル

・ウィンカーの位置

・ブッシュガード形状

・パニアマウントステー形状

などの見た目が変わっています。

MT-09TRACERとTRACER900

こうやって見るとTRACERはデザインが纏まっててキメラバイクがベースには見えないですね。

ちなみにTRACERは安くない派生モデルながら人気があって本家のMT-09と変わらないほど売れていたりするんですが、人気といえばコンフォートシートと同時に

『パフォーマンスダンパー(旧名パワービーム)』

を付けるのが流行っているみたいですね。

パフォーマンスダンパーのメカニズム

これはヤマハが開発したフレーム用の制振ダンパーで

『世界初の粘性技術』

として注目されTOYOTAのクラウンアスリートVXを皮切りにクルマの方ではスポーツモデルでの採用が進んでいます。

パフォーマンスダンパーのメカニズム

一体このダンパーが何なのかという話ですが、フレームというのは路面から伝わる力を吸収変形し減衰するという事を繰り返しながら走行している。

この変形には剛性という聞いた事があるであろう要素が関係しており剛性を高くするほど変形に強くなるんですが、高くしすぎると吸収しないのでゴツゴツした乗り心地になる。スポーツ性が高いモデルなんかが正にそれですよね。

しかし吸収できるよう剛性を低くしすぎるとフレームの変形が収まらず(減衰しきれず)真っ直ぐ走るのも大変になるという二律背反のような問題がある。

だからこそ画期的だと言われたのがこのパフォーマンスダンパーで。

TRACERのパフォーマンスダンパー

「直進安定性が増した」

「振動が減った」

という肯定的な意見が多いですが、分かりやすい例がハンドルが振られてまっすぐ走れなくなってしまうウォブルという現象。

これが起こる1番の原因はフレームの剛性不足により減衰しきれず共振を起こしてしまうから。ヤマハのパフォーマンスダンパーを付けると安定するのは、こういったフレームの減衰を補助してくれる(和らげてくれる)から安定する。

「フレーム剛性ではなくフレームの減衰力を上げるのがパフォーマンスダンパー」

という話で、フレームに粘着性を持たせたという意味も何となく分かるかと。

TRACERのカタログ写真

ただし直進安定性が増すという事はそれを崩す事がキッカケであるコーナリングが若干硬くなる面もある。

それでもTRACERで人気なのはパッタンパッタンと右へ左へ寝かし込んで駆け抜ける走りよりも、色々と積載しつつ程よいスポーツ巡航というフレームに少し辛い用途をする人が多いからじゃないかと。

TRACER900GT壁紙

ちなみにこのパフォーマンスダンパーは簡単に脱着出来る上に作用ストローク量が1mm以下なので、サスペンションのように熱やダストによるシール劣化からのオイル漏れやガス抜けという心配がほとんど無い。

もう一つの敵である紫外線もカバーが付いてるので圧倒的にメンテナンスフリーという要素も持っていたりします。だから車の方でも純正採用されたりしているんでしょうね。

値段は約3万円と安くは無いけど高くもなく長寿命なので試してみるのもあり・・・というTRACERというよりもパフォーマンスダンパーのセールページでした。

主要諸元
全長/幅/高 2160/850/1375mm
シート高 850~865mm
車軸距離 1440mm
車体重量 214kg(装)
[215kg(装)]
燃料消費率 19.7m/L
※WMTCモード値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 846cc
最高出力 116ps/10,000rpm
最高トルク 8.9kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.4L
フィルター交換時2.7L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 1,030,000円(税別)
[1,110,000円(税別)]
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-09/SP(BS2/B6C)-since 2017-

2017MT-09

「Multi performance Neo roadster」

大成功を収めたMT-09の二代目となるBS2型。

MT-09

大きく変わったのは見て分かるようにデザインですが最初に纏めると

・フルLEDヘッドライト

・ショートテール

・片持ちアルミリアフェンダー

・シート形状の変更

・マフラーエンドの変更

・クイックシフター(シフトアップのみ)

・アシスト&スリッパークラッチ

・圧側減衰調整機能付き倒立フロントフォーク

・新規制に合わせ6馬力アップ

となっています。

MT-09

それにしたってデザイン攻め過ぎじゃないかと思うわけですが、これ本当はもう少し違うデザインでした。

しかしクレイモデル(粘土で造った等身大モデル)を目の前にした時に

「なんか違うよな」

となりデザインをやり直す事になったのですが、その際に

・エンジニア用のクレイモデル

・デザイナー用のクレイモデル

の2つを用意し各々が思う次期MT-09を削ったら、それを互いに交換してまた削っていくという作業を行った。

こうして両者の意見を擦り合わせていった結果この形になったんですが、自分の好きに削れるという事で守谷デザイナーいわく

「こうすればもっと過激になるねという感じで少し悪ノリになった。批判は甘んじて受け入れます。」

との事。※ミーティングにて

2017MT09

一気にワルっぽくなった理由にはこういう背景があったんですね。

テールも前にも増してとんでもない形になった事で前にも増してデザインコンセプトである異種混合(モタードとネイキッドのハイブリッド)感が凄い事になってる。

2018MT-09

ただ実はMT-09が異種なのは中身もそうなんです。

初代で話した通りMT-09はCP3(クロスプレーン三気筒)というエンジンを積んでいるクロスプレーンコンセプトのモデルなんですが・・・これ正確に言うと少し違うんですよね。

クロスプレーンコンセプトというのは簡単に説明するとピストンの往復運動中の速度差による慣性トルクを別のピストンで相殺する事で

「求められたトルクを求められただけ出す」

というのが狙い。

だからMT-07のCP2エンジンやMT-10のCP4エンジンはタイミングが直角になってる。

クロスプレーンクランク

ところがCP3エンジンは120°毎だから実は完全に相殺出来ているわけじゃない。だから完璧なクロスプレーンではない・・・んですが同時にこれにはメリットもある。

「スクリーム感(マルチ感)が生まれる」

という事です。

CP2やCP4ほどまではいかないものの一般的な四気筒などと比べると慣性トルクは遥かに小さく同じようなメリットがある一方で、点火タイミングが等間隔だから回すとモーターの様に駆け上がる四気筒っぽさも持ってる。

つまりMT09は見た目はトレールとネイキッドのハイブリッドであり、中身はフラットプレーンとクロスプレーンのハイブリッド。

2017MT-09カタログ写真

異種混合というコンセプトの通り、中も外も相反するものが混じっている

『正真正銘のキメラバイク』

と言えるかと。

頭のネジが外れている人が予想以上に多くて人気モデルとなったためか2018年からは豪華装備でスポーツ性を高めたMT-09SP/B6C型を追加販売。

MT-09SP/B6C

・OHLINS製リモートアジャスター付きリアサス

・KYB製SP専用3ウェイアジャスター倒立フォーク

・黒背景の反転液晶メーター

・専用塗装&グラフィック

・専用表皮シート

となっているモデルで差額は僅か10万円。

MT-09SPの変更点

コストが許されるならここまでやっていたんだろうなという雰囲気が伝わってくるモデルで、購入層もそれを感じ取っているのかSPに注文が殺到しているんだとか。

主要諸元
全長/幅/高 2075/815/1120mm
シート高 820mm
車軸距離 1440mm
車体重量 193kg(装)
燃料消費率 19.7m/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 845cc
最高出力 116ps/10000rpm
最高トルク 8.9kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.4L
フィルター交換時2.7L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 930,000円(税別)
[1,030,000円(税別)]
※[]内はMT-09SP/B6C
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

XSR900(B09/BAE)-since 2016-

XSR900

「The Performance Retroster」

MT-09プラットフォーム展開の最後にして最大の鬼門だったと思われるネオレオロ、ヤマハ的にいうとヘリテイジ版となるXSR900/B09型。

当初MT-09はTRACERとの二本立てでXSR900の予定は無かった。しかし欧州でネオレトロブームが起きていた事から造る事になった。

最初MT-09でネオレトロを造ると発表された時は開発陣にどよめきが走ったそう。

それもそのはずMT-09は

・アルミダイキャストの有機的なフレーム

・前傾した水冷三気筒エンジン

・コンパクトな車体

・リンク式モノサス

などなど、その道のカスタムビルダーならまず選択肢から外すであろう要素しかない造りだったから。

加えてビュンビュン回るスポーツ性能も持ち合わせていたので

「これはもう全力でカフェレーサーにするしかない」

として開発。

そうして出来上がったXSR900は1,042,200円とフルオプションMT-09ことTRACERとほぼ変わらない値段でした。

しかしTRACERと違ってなにか利便性を上げる装備が付いてるわけではない・・・じゃあ何にそんなコストを掛けたのかといえば見て分かるように外装。

XSR900細部

これでもかというほどアルミパーツを各部に散りばめている。

例えばXSR900のトレードマークになっていフレームのブランケットステー部分。

サイドカバーステー

ここは元々サイドカバーをつける部分で中にはヒューズボックスも入っているんですが

「ネオレトロにおいてそんなものは絶対に見せてはいけない」

という事で蓋を用意した・・・・だけじゃない。その蓋単純に隠すのではなくヘアライン&ブラックアルマイト加工でアクセントに変更。

更にはシートやらボルトの一本に至るまで魅せることを意識して造られている。ただXSR900で何よりも取り上げないといけないのがバイクの顔と言われているタンク。

XSR900とXS-1

前後に長くすることでハンドルやステップを変えることなく後ろ寄りに乗れる様にしたアイディア品なんですが、なんとこれ一つ一つ職人による手作業によるバフとヘアライン加工がされている。

つまり厳密に言うと一つとして同じタンクがないハンドメイド品なんです。

XSR900壁紙

結構いい値段がする犯人というか理由が分かってもらえたと思いますがこれが実にヤマハらしい。

「ヤマハらしいとは何か」

という話を少しさせてもらうと感動創造企業やRevs your Heartという言葉が有名ですが、もう少し細かく言うと

『発・悦・信・魅・結』

という五文字でヤマハは表しています。

発・悦・信・魅・結

そしてXSR900はこれが色濃く出ているからヤマハらしいという事。

『発:独創性に挑む』

非常識とすらいえるアルミフレームのカフェレーサー

『悦:感動を与える』

MT-09譲りのハイレスポンスな性能

『信:信頼性を信条とする』

少数精鋭のメイドインジャパン

『魅:魅了する』

カバーからボルト一本に至るまでデザイン

『結:お客様基点の価値観』

量販車でありながら手仕上げというハンドメイド要素

B90

大所帯の量販車メーカーでありながら設計から生産に至るまで職人気質を持っているヤマハらしいバイク。

ファミリーの中でも年間計画800台前後と数が出ない派生モデルだから得た技でしょうね。

主要諸元
全長/幅/高 2075/815/1140mm
シート高 830mm
車軸距離 1440mm
車体重量 195kg(装)
燃料消費率 19.4km/L
[19.7km/L]
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 845cc
最高出力 110ps/9000rpm
[116ps/1000rpm]
最高トルク 9.0kg-m/8500rpm
[8.9kg-m/8500rpm]
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.4L
フィルター交換時2.7L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 965,000円(税別)
※[]内は2018年~BAEモデル

年次改良

2018年:出力見直し

2020年:ポジションランプ装着

系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-09TRACER(2SC) -since 2015-

MT-09TRACER

「Sport Multi Tool Bike」

一年遅れで登場した派生モデルのMT-09TRACER/2SC型。

MT-09と比較して

・燃料タンクの容量アップ(14L→18L)

・アドベンチャー向けに調整された出力特性

・専用セッティングされた前後サスペンション

・調節機能付きワイドハンドル

・レイヤードカウル

・LEDヘッドライト

・高さ調整機能付きのスクリーン&シート

・シガーソケット電源

・専用デジタルメーター

・ABS標準装備

・二段階トラクションコントロール(ON/OFF)

などなど装備から見て分かるよう利便性を上げアドベンチャーにしたモデル。

MT-09トレーサーの変更点

実はこのTRACERはMT-09の後ではなく同時開発されていたモデルだったりします。

そうやって共有することでコストを抑える自動車ではお馴染みのオートモーティブプラットフォームというやつで、MT-09が80万円を切る破格の値段で販売できたのはこのおかげ・・・なんですが、同時にTRACERが出るまでは

「MT-09に付いてる謎のステーやボルト穴は何だ」

という鋭い質問が多く寄せられて誤魔化すのが大変だったとか何とか。

トレーサーコンセプト

そんなTRACERは当初の予定ではFJR1300の様に電子制御サスやスクリーンそして防風性の高いカウルを付けてハイクラスなアドベンチャーモデルにするという計画でした。

しかしどうやってもMT-09の色が消えないことから

「ならばMT-09のパンチ力を活かそう」

となりカウルもスクリーンも最小限、パニアケースのステーも剥き出しで軽快さを優先したライトウェイトスポーツアドベンチャーになった。

ハンドルガード

もちろん最初にあげた変更点をハンドルやサスペンションや出力特性といった変更、それにパッと見では変わっているように見えないホイールなどもわざわざ再設計することで落ち着きを持たせるなどアドベンチャーらしくする変更も加えられている。

少し面白いのがハンドルカバーでアッパーカウルからの繋がりを利用することで整流効果を大きくしているものなんだとか。

フェイス

顔に至ってはLEDヘッドライトでさらにパンチが効いたものに強烈になりました。

こっちも別の意味でパンチが効いてる。

MT-09TRACER白バイ仕様

MT-09TRPというモデルで欧州向け白バイ仕様。残念ながら日本には入れていないみたいですが、日本の白バイ隊員たちも日本の道路事情を考えたらFJRよりコッチが嬉しいんじゃないかと思ったり。

話が逸れたので戻します・・・。

MT-09TRACER

要するにMT-09TRACERはMT-09のアドベンチャー版というよりも

『MT-09のフルオプションモデル』

と言った方がしっくり来るようなモデルじゃないかと。オンロードメインなアドベンチャーなのに装備重量210kgしかないですしね。

トレーサー

ただMT-09と決定的に違うのはCモードが活きる事。

本来Cはビギナーのために用意されたモードなんですがMT-09TRACERの場合、トコトコと景色を楽しみながらのんびり巡航モードになる。これはクルージングが出来るTRACERの特権かと。

主要諸元
全長/幅/高 2160/950/1345mm
シート高 845mm
車軸距離 1440mm
車体重量 210kg(装)
燃料消費率 19.3m/L
※WMTCモード値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 846cc
最高出力 110ps/9000rpm
最高トルク 9.0kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.4L
フィルター交換時2.7L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 970,000円(税別)

年次改良

2017年
アシスト&スリッパークラッチ
トラコンに強弱機能が追加(切/弱/強)

系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-09/A(1RC/2DR) -since 2014-

ヤマハMT-09

「Synchronized Performance Bike」

2014年にヤマハの新時代ロードスポーツとして登場したMT-09/1RCとMT-09ABS/2DR~B87型。

特徴は何と言ってもCP3(CrossPlane3cylinder)の名を持つ完全新設計の並列三気筒エンジン。1976年に出したGX750以来ですね。

実際にGX750の開発者からもアドバイスを頂いたりして開発されたとの話なんですが、当時モーターショーでエンジンだけ先に発表されるなどヤマハの肝煎り感がありました。

MT-09エンジン

実際このエンジンはお世辞でも何でもなく非常に良く出来た(面白い)エンジンだという声が四方八方から現在進行形で聞かれているんですが理由は最後に話すとして、これに合わせられる車体も特徴的。

MT-09サイド

・アルミダイキャストフレーム

・テーパーハンドル

・立ってて近いステム

・装備重量で181kg

というモタードのような形をしているのが特徴。

実際これはモタードというかヤマハ的にいうとトレール要素を強く意識して取り入れており、その狙いについて開発責任者の山本さん曰く

「ライダーとバイクの動きが一対一になるようにするため」

という話。

MT-09コンセプト

具体的に話すと時速300km近く出る大型バイクが分かりやすいステータスとして当たり前な世の中になった一方で、じゃあそのパワーを発揮出来る環境があるかというと無い。

それでも最初は町中をダラダラ走るだけでも楽しい。自分にとって最高だと思うバイクに乗るという所有感補正があるから。しかし見慣れてきて所有感が薄れると、今度はそのバイク本来の扱い方で楽しさを得ようとする。

しかし時速300km出るバイクの本領を発揮させるなんて一般人には到底出来ない・・・そしてどんどん乗らなくなり車庫の肥やしになる。

という大型バイクあるあるなんですが、こうならない大型バイクを造ろうとして開発されたのがこれ。

「毎日乗って楽しめる大型バイク」

というコンセプトのMT-09なんです。

MT-09の狙い

そしてそのコンセプトを実現させる際にヒントになったのがヤマハ社内の駐輪場。駐輪場を覗くとトレール車で通勤している人が多いことに気づいたわけです。

どうしてトレールが人気なのかといえば

・軽くて細い

・低速からパンチがある

・キビキビなハンドリング

・振り回しやすい

などの要素を兼ね備えているから。

ならばこれを兼ね備えた大型バイクを造れば町中を走るだけでも楽しい毎日乗れるんじゃないか、という発想の元に開発されこの形になった。

ヤマハMT-09

スリムさを優先した為に14Lしか入らない燃料タンクにお世辞にも優しいとはいえないシート。キャスター角が立ってる上にライダーに近い事から節操のないハンドリング。

一見するとネガティブにしか思えないトレール譲りのこれら要素は全てそれを実現するためにあり、またそれに最も合致したエンジンが三気筒という結論に至ったから既存の二気筒や四気筒を流用するのではなくわざわざ造った。

そうして完成したのがMT-09というネイキッドとトレールの異種混合バイクという話。

MT-09

ただ正直こう言ってもMT-09の魅力はまだ伝えられていないかと思います。

「あーはいはい乗りやすい大型バイクね」

くらいにしか思ってない人も居るかと・・・でもMT-09はそれだけじゃないから大ヒットした。

MT-09がヒットした理由にはもちろん80万円を切る車体価格の安さもあった。リーマンショックで不況に陥った事で高額バイクの時代じゃないといめておこうとなった背景があります。

でもそれ以上に評価さたのが説明してきたコンセプトで、MT-09が発売された時にヤマハの開発陣たちが

「いつもの道でご堪能下さい」

と自信満々に言った理由もここ。

わかりやすく言うと

「最高速を捨てた846ccの三気筒を積んでいる」

という事。

MT-09壁紙

気軽に振り回せますよという雰囲気を車体の方で醸し出しつつも、大排気量らしいブンブン回るパンチが効きすぎてるエンジンが載ってる。

つまり語弊を恐れずに言うならば

「大型バイクのスリルが日常で味わえる」

という感じで、これは走行モード切替機能が大いに貢献してる。

・STDモード(標準モード)

・Aモード(元気モード)

・Bモード(穏やかモード)

の3つのモードが付いているんですが、恐らくモード切替が無かったから実現していなかったんじゃないかと思います。なぜならAモードをナメてかかると間違いなく吹っ飛ぶから。

MT-09はエキスパート層までを満足させる狙いがありAモードはそのためにあるものなんですが、本当に凄いというか凄いを通り越して

「よくこれで出したな」

と思うレベルで、モード切替が無かったら間違いなく実現していない。

2016 MT-09

このバイクはそんなAモードを怖いと思うか、それとも”楽しいと思ってしまうか”が全て。

両者を分けるのは・・・頭のネジの本数ですかね。

主要諸元
全長/幅/高 2075/815/1135mm
シート高 815mm
車軸距離 1440mm
車体重量 188kg(装)
[191kg(装)]
燃料消費率 19.4m/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 846cc
最高出力 110ps/9000rpm
最高トルク 8.9kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.4L
フィルター交換時2.7L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 787,000円(税別)
[833,000円(税別)]

年次改良

2016年:ABSと3段階のトラクションコントロールを標準装備

系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-10/SP(B67/BW8) -since 2016-

MT-10

「The king of MT.」

そのコンセプト通りMT-01以降不在となっていたMTシリーズの長男坊として登場したMT-10(B67)とMT-10SP(BW8)。

元がR1なだけあってトラクションコントロールシステムやクイックシフター、スリッパークラッチや出力モード切り替えといった電子制御の成せる装備はそのまま標準装備し、更にはR1になかったクルーズコントロールシステムまで採用。ポジションや足付きも改善されています。

MT-10SP

2017年に追加されたSPモデルはR1Mと同様に電子制御サスペンションやフルカラー液晶などを搭載してるんだけど面白いのがYZF-R1Mと同様に積まれたYRC(ヤマハ・ライド・コントロール)という装備。

「PWR(出力モード)」「TCS(トラコン)」「QSS(クイックシフター)」「ERS(前後サスのセッティング)」を自分なりにセッティング出来る。しかもハンドルスイッチだけでなくスマホ(専用アプリ)でも。

MT-10

スマホ世代を狙い撃ちとは・・・まあSPは200万円しますけどね。YZF-R1Mより100万円も安い事を考えると結構お買い得な気がしないでもないですが。

なんて冗談はさておき

「MT-10はYZF-R1をネイキッドスタイルにしたバイク」

と簡単に片付けてはつまらないので少し掘り下げてみます。

MT-10UK仕様

MT-10のエンジンのベースとなっているYZF-R1のCP4エンジンというのはご存知の通りクロスプレーンの不等間隔燃焼エンジンです。

クロスプレーン直四のメリットは一般的な直四が起こす慣性トルク(トルクの波)と二次振動(微振動)を起こさないこと。

※クロスプレーンについては「クロスプレーン(不等間隔燃焼)だと何が良いのか」をどうぞ

クロスプレーン

当然ながら微振動やトルクの波は無い方が扱いやすいし疲れないから、性能的に言えばクロスプレーンの方が優れていると言えるんだけど・・・官能的かといえば意見が別れるのが現実。

一般的な直四好きが思う直四(フラットプレーン)の魅力は

「アクセルを捻れば何処までも突き抜ける疾走感」

でしょう。

これは回転数に応じて等間隔な点火タイミングから来るモーターのような排気サウンドと微振動が起こるから。よく漫画で跨ってエンジン捻った途端に鳥肌が立ったように描画されたりするアレです。

MT-10ヘッドライト

それがMT-10(クロスプレーン直四)は無い。だからエンジンサウンドに違和感があるとか、気付いたら凄いスピードが出ていたとか言われますね。

何よりも速さが大事なYZF-R1という半レーサーにおいてそんなタイムを縮める事に一切関係のない要素は必要ないのは当然だけど、これがストリートユースまして猛々しさが必要なストリートファイターとなると話が変わってくる。

MT-10欧州壁紙

そこでヤマハは吸排気系を絞ってギア比を落とすという低速寄りチューニングのメジャーな方法だけでなく、MTシリーズ共通のコンセプトである”トルク&アジャイル”を実現するためクランク周りの動力部分の重量(慣性モーメント)も上げました。

「トルク&アジャイル」とか「慣性モーメント」とか言われてもナンノコッチャですよね。ヤマハの開発者の人には申し訳ないけどザックリ言って、一つ一つの動きが重くなるので体感トルク(トルクフィーリング)が増します。実トルクも増しますが。

ちなみにフレームもスピードレンジが変わることから剛性を最適化するため60%も作り変えられたとのこと。何だかんだで結構大掛かりな変更が加わってますね。

MT-10カウルレス

何となく分かると思いますが低回転寄りにするということは即ち高回転を捨てるということになるわけですが、クロスプレーンでソレをした事で面白い変化を生んでいます。

YZF-R1は低回転域では”デロデロ”または”ドコドコ”という二気筒のようなフィーリングな一方で、美味しい回転数である10000rpm以上になると一般的な直四と大差ないフィーリングになる。

ところがMT-10の場合はレッドも11500rpmとR1よりも低速寄りにしているので、結果として美味しい部分がデロデロのまま。怖い顔でデロデロいわせながらグイグイ引っ張って行くわけです。

つまりMT-10というのは悪く言うと

「四気筒らしさがほとんど無いバイク」

MT-10カタログ

と言えるんだけど、反対に良く言うと

「物凄く回る二気筒っぽいバイク」

欧州仕様

と言えるわけです。四気筒は四気筒なんだけど四気筒×1じゃなくて二気筒×2みたいなバイク。

一般的な四気筒が好きな人はこれに乗っても今ひとつピンと来ないかもしれないけど、反対に直四が好きじゃない人はコレに乗ったらビンビン来るかもね。

主要諸元
全長/幅/高 2095/800/1110mm
シート高 825mm
車軸距離 1400mm
車体重量 210kg(装)
[212kg(装)]
燃料消費率 14.0km/L
※WMTCモード値
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 997cc
最高出力 160ps/11500rpm
最高トルク 11.3kg-m/9000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70-17(58W)
後190/55-17(75W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR9E-J
推奨オイル ヤマルーブ プレミアムシンセティック
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.9L
交換時3.9L
フィルター交換時4.1L
スプロケ 前16|リア43
チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 1,550,000円(税別)
[1,850,000円(税別)]
※[]内はSPモデル
系譜図
MT-01 2005年
MT-01/S
(5YU)
MT-03 2006年
MT-03
(5YK/29D)
MT-10 2017年
MT-10/SP
(B67/BW8)

MT-03(5YK/29D) -since 2006-

MT-03

日本ではほとんど馴染みのないMT-03(型式は海外のもの)
出た時は紹介されたから「あーこんなのあったネ」と思い出す人も居るかな。

といってもこのバイクはイタリアヤマハの発案で生産もイタリア。車名もMT-“03″なんだけど排気量は660ccと大型クラス。

エンジンのベースとなっているのはXT660の物。
近年では珍しいデュアル排気ポートでシングルエンジンながら二本出しマフラーでMT-01の流れを汲んでる。

MT-03コンセプト

でもこれまた残念ながら01に続き思うように販売台数が伸びず、2009年をもって欧州での生産は終了となりました。日本はハナから相手にせず未発売という見切りっぷり。

ブラジル向け(29D)は2013年まで売られていたとの事です。

MT-03カタログ写真

そんなこんなで01、03と二代続けてセールス失敗に終わったMTシリーズだったけどヤマハは何故か諦めなかった。

主要諸元
全長/幅/高 2070/860/1115mm
シート高 805mm
車軸距離 1420mm
車体重量 192kg(装)
燃料消費率
燃料容量 15.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC単気筒
総排気量 660cc
最高出力 45ps/6000rpm
最高トルク 5.73kg-m/5250rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70-17(58W/58H)
後160/50-17(69W/69H)
バッテリー GT9B-4
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR7E
推奨オイル 10W30から20W50まで
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時3.0L
フィルター交換時3.1L
スプロケ 前15|リア47
チェーン サイズ520|リンク112
車体価格
※国内取扱いなしのため
系譜図
MT-01 2005年
MT-01/S
(5YU)
MT-03 2006年
MT-03
(5YK/29D)
MT-10 2017年
MT-10/SP
(B67/BW8)

MT-01(5YU)-since 2005-

MT-01

「ソウルビートVツインスポーツ」

MTシリーズは車名以外繋がりはほぼ無いんだけど、基本コンセプトは一緒だし紹介したかったので載せました。

新型発表で動画などのCMをバンバン打ってるからご存じの方も居るかと思いますが、車名のMTは元々これが始まりでMax Torque(マックストルク)という意味・・・と言われており信じていたんですが、いざ調べてみると実はそんな情報が見当たらない。

そこで調べてみたら少し前の特設サイトMTワールドに答えがあった

MT-01

『MEGA TORQUE』

こっちが正しい由来みたいですね。

さてそんな初代MTであり初代ダークサイドでもあるMT-01に積まれたVツイン1670ccエンジンはXV1700のエンジンをベースにしたもの。

XV1600

つまりアメリカンのエンジンを積んだスポーツネイキッド。

恐らくMT-01に興味のない人はヤマハの一代限りのマイナー車種という認識かもしれないけど、MT-01に対するヤマハの思いや作り込みは眼を見張るものがあります。

MT-01エンジン

エンジンはXV1600ベースとは言ったけど、メッキシリンダーや鍛造ピストン、FIやクランクなど90%近い部品が変更されていて、もはや別物エンジンとも言えるほどの改良。

さらにボルト締占式バックボーンフレーム、ハブが絞られている逆トラス式スイングアーム共にR1やR6と言ったフラグシップスポーツで採用されている溶接痕が無い綺麗なアルミダイキャスト製。

MT-01カットモデル

そしてブレーキもR1と同じ物(2007年R1と同時に6POT化)を装備しスポーツ性能を高め、更にリアショックの位置やエキゾーストパイプやチタンマフラー等の見た目までにもこだわっています。

鼓

ちなみにイメージテーマは鼓(つづみ)だそうです。

言われてみれば確かに。

でもやっぱり何と言っても一番は01のコンセプトである「鼓動(KODO)」

MT-01壁紙

Vツインエンジンのコレでもかというソウルビートというかパルス感を味わえる様にチューニングされている。

ピークが4750rpmなのを見ると分かる通り、走りだした瞬間からそりゃもう嫌ってほど。

鼓動

「SSでスポーツ走行するのはとても楽しい。でも現実は家を出た瞬間、前を走る車にブロックされストレスが溜まる。それは面白くない。だからそんな状況でも楽しめるスポーツバイクを作りたかった。」

その答えがこのMT-01・・・ただ実はこのMT-01を立案したのはヤマハの人ではありません。

このバイクの立案はヤマハ車のデザインを創業時からほぼ一手に担っているGKデザインによるもの。それをヤマハが承諾し形にしたというプロセスが逆のようなバイク。個性的なのも納得ですね。

ヤマハMT-01

社外デザイナーが企画を立てて実際に形にするなんて普通あり得ない話ですが、ヤマハとGKという腐れ縁のような関係だからできたんでしょう。

ただそんなGKにヤマハが乗る形で作り上げたMT-01ですが、ご存知の通り受注生産ながらあまり売れず2009年をもって受注終了となってしまいました。

こだわる余り車体価格が150万円と高くなってしまった事とあまり認知されていないニッチなカテゴリだった事が理由かと・・・意欲的&威圧的過ぎて腰が引ける人が多かったのもあると思いますが。

ちなみにオーナーさん達の話によるとVMAXと間違われるそうです。それほど認知されてない。そりゃビューエルも捨てられるよって話ですよ。

ビーキングとMT-01

ちなみにネットでよく変態バイクとしてスズキのB-KINGがネタ扱いされていますが、海外ではそんなB-KINGと双璧を成すもうひとつの変態バイクとしてはMT-01は扱われています。

喜ばしいんだか何だか・・・

主要諸元
全長/幅/高 2185/790/1160mm
シート高 825mm
車軸距離 1525mm
車体重量 240kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 15.0L
エンジン 空冷4サイクルOHV2気筒
総排気量 1670cc
最高出力 90ps/4750rpm
最高トルク 15.3kg-m/3750rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17
後190/50ZR17
バッテリー GT14B-4B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR7EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.1L
交換時3.7L
フィルター交換時4.1L
スプロケ 前16|リア43
チェーン サイズ530|リンク114
車体価格 1,399,000円(税別)
※プレスト価格
系譜図
MT-01 2005年
MT-01/S
(5YU)
MT-03 2006年
MT-03
(5YK/29D)
MT-10 2017年
MT-10/SP
(B67/BW8)