近年日本でも人気のジャンル。
マルチパーパス、デュアルパーパス、アルプスローダー、アドベンチャーなどと色んな呼び方をされて違いが分からず混乱してる人も多いかと。
【特徴】
街乗り、ツーリング、林道など公道なら比較的なんでも熟せる万能車。
オフロードバイクとオンロードツアラーを足して二で割った二輪版SUV(スポーツユーティリティビーグル)的なモデル。
【歴史】
このマルチパーパス系というかクロスカントリー文化が何処から始まったのかといえば1978年に年越しレースとして始まった有名な
『ダカールラリー(旧名オアシスラリー)』
が大きな起点かと思います。
パリダカの愛称でおなじみクロスカントリーの極致であり、世界一過酷なレースとして今も有名ですね。
ここが始まりと言える根拠は、このダカールラリー人気が爆発した事で
「メーカーがクロスカントリー用バイクを本気で造るようになったから」
です。
大会が始まった頃はエンデューロ(オフ版耐久レース)をベースに大容量燃料タンクを積むのがクロスカントリーの定説でした。
しかし第三回となる1981年のオアシスラリーで革命を起こしたモデルが登場したんです。
『1980 R80G/S』
ご存知BMWの大人気シリーズGSの始祖モデル。このバイクはエンデューロ系ファクトリーレーサーが元なんですが、これの何が革命だったかというとズバリ二気筒エンジン。
「軽くて厚い低速トルクで故障に強いビッグシングル」
というクロスカントリーの常識に囚われない
「少し重くなってもツイン化して最高速重視」
という新しい考えを持ち込んだわけです。
これが見事に成功し1981年優勝という快挙を成し遂げた事でモトクロスともエンデューロとも違う二気筒マシン”ラリー”という新しい形として発展する契機になりました。
そして更にそれがフィードバックされた市販車R80G/Sが
「道を選ばず長距離走行出来るバイク」
として爆発的なヒットを飛ばした事で各メーカーともラリーへ本格参戦し、同じようにその流れを受け継いだ市販車ラリーレプリカを
『アドベンチャーモデル』
として市販化するようになりジャンルが確立したという話。
余談ですがBMWはこのバイクを生み出せていなかったら無くなっていた可能性大だったりします。
【最後に(というか本題)】
最初に触れましたが
・マルチパーパス
・アドベンチャー
・アルプスローダー
・ビッグオフ
などなど、このクラスには色んな呼び方があって混乱している人も多いと思いますが、これらの言葉の意味は深く考えなくていいです。
何故ならそれらの謳い文句や宣伝イメージなどで選ぶと失敗するからです。
というのもオンロード性能とオフロード性能というのは基本的に両立が難しく反比例するという話をオフロードバイクでもしたんですが、このマルチパーパス系ではその振れ幅が大きいんです。
分かりやすい例を一つ上げると1980年代後半に発売されたホンダAX-1とヤマハTDR250というバイク。
この二台はどちらも同じマルチパーパス250といえるモデルですが、同時に正反対とも言えるバイク。
オフロード重視(AX-1)とオンロード重視(TDR250)という違いがあるからです。
この二台は極端なので何となく分かる人も多いかと思いますが、一般的なモデルでこの差を見抜くのはなかなか難しい。
ベテランはカタログシートを見るまでもなくおおよそのバランスを見抜くんですが初心者には無理ですよね・・・でも大丈夫。初心者でも簡単に見分ける方法があります。
『フロントホイールのサイズ』
です。
フロントホイールのサイズを見ればメーカーがオンとオフの割合をどれくらいにしているのかおおよそ分かります。
例えば250アドベンチャーを並び替えるとこんな感じ。
何となく分かるかと思います。
この理由はフロントホイールが大きいほどオフロードにとって最も大事な走破性/安定性が向上するから。
「じゃあ何故みんな21インチにしないのか」
というとそれが両立出来ないところで、オンロードスポーツバイクが全部17インチなのを見れば分かるようにフロントホイールを大きくしてしまうと、なかなか倒れてくれないゆっくりなハンドリングになる。
フラフラせず安定性することがオフロードではメリットになる一方で、フラフラ(パタンパタン)させないと曲がれないオンロードではデメリットになってしまうんですね。
キャストホイールとスポークホイールの違いも同じ様な理由です。
オンとオフは反比例する関係だから両方を100にすることは出来ず100をどう分配しているかが大事。そしてそれが一番分かりやすく現れているのがフロントホイールという話。
だからマルチパーパスに乗ってみたいとか、気になるマルチパーパスがあったらフロントホイールを見比べてみると失敗しないし、メーカーやそのモデルの意図が見えてきて面白いのでオススメです。
これに加えてちょっとした小話を一つ。
歴史のところで発端はダカールラリーにあるという話をしたんですが、実はダカールラリーではこういうマルチパーパスはもう走ってません。
『4st/450cc※2011年から』
というモトクロスに準ずるレギュレーションに変わったからです。
そのため現在のラリーマシンはシングルエンジンが基本でマルチパーパス系というよりエンデューロ系に近い形。
つまりいま売ってるマルチパーパスっていうのは全く規格に沿ってないモデルなんです。
でもだからといって
「(特に大型の)マルチパーパスはラリーと無関係なのか」
というとそれも違う。
火付け役となったBMWのGSはもちろん、ホンダのアフリカツインやヤマハのテネレ、それにスズキの怪鳥DRもそうなんですが、メーカーにとってマルチパーパスは
「自分たち(メーカー)が輝いてた頃のラリーレプリカ」
という復刻に近いレプリカなんです。KTMはラリーに全力なので現在進行系といえますけどね。
もちろん中にはカワサキのヴェルシスやドゥカティのムルティストラーダ、トライアンフのタイガーなど違うアプローチのモデルもあります。※ちなみにカワサキはKLE/アネーロがラリー系
マルチパーパスだのアルプスローダーだの色んな呼び方があって、色んな振れ幅がある百花繚乱状態なのは
「レースありきではなくブランドありき」
という背景もあるから。ある意味ではメーカー色を最も表現してるとも言えるジャンルなんです。
該当車種
などなど
マルチパーパス。
“万能”と見るか“中途半端”と見るか。
でも、なんだかんだ言ってもまあ便利ですよね。
でも、どんなバイクでも一緒ですが装着しているタイヤに左右される事は変わらないですよね。
林道を走るのにオンロードメインのツーリングタイヤでは、いくらマルチパーパスといっても精神的にキツいし。
あと、排気量の大小もコレまた一長一短があるかも。
長距離ツーリングでは大排気量車は一般道でもホントに楽に感じるし、林道を含めたトコトコツーリングでは小排気量車の機動力や軽快感がとっても魅力的。
結局は一台で何でもこなすのはある程度の勢いと心意気が無いと。
だからといって二台、三台とバイクを持つのは憧れるけど様々な制約があるし悩ましいですね。
(努力して複数台所持している方々には敬意を表します)