近年ネイキッドの座を奪いつつあるストリートファイター系。
端的に言うならばスーパースポーツのカウルを剥いでストリート最速志向にしたスタントやエクストリームが似合うバイク。
【特徴】
高回転型エンジンを搭載しているタイプが多くスピードレンジがネイキッドより高めで、足付きもそんなに良くない傾向。
本場(従来)の定番でいうと
・カウルレス
・小型ヘッドライト
・ダート用ワイドハンドル
・ショートテール
を備えたバイクがストリートファイターデザインと言われています。
【歴史】
ストリートファイターの始まりは1980年代後半のイギリス。なんと日本でネイキッドという言葉が生まれた時とほぼ同時期なんですね。しかも経緯も似ています。
この頃イギリスで何が起こっていたのかというと日本と同じようにフルカウルのスポーツバイクが高性能の象徴として全盛を迎えていたんですが、カウル付きゆえの問題も起きていた。
「転倒でカウルが割れてしまう」
という問題です。
カウルが割れたり欠けたりしているバイクはお世辞にも綺麗とは言えない、しかし新しいカウルを買おうと思っても躊躇してしまう値段だったりして(お金がない若者は特に)買えなかった。
カウル付きに乗ってる人はいま凄く頷いていると思うのですが
「ならもういっそ全部取ってしまえ」
というのがストリートファイターの始まり。
この経緯を聞くと
「ネイキッドとストリートファイターって同じでは」
と思いますよね。実際そういう見解もある。
確かにそれも一理あるんですが日本で売られていたネイキッドはほぼ国内向けモデルであった事に加え、少し厳しい基準でいうと向こうはただ剥いただけでなくイギリス伝統のストリートレーサー
『60年代カフェレーサーのインスピレーションを受けたカスタム』
である事が重要だった。
そういった背景から
・フェアリングレス=買うお金がないから
・小型ライト=フリーライドで邪魔にならないように
・オフ車のワイドハンドル=大きく振り回せるように
・ショートテール=ウィリーでこすらないように
などカフェレーサーをルーツに持ちつつハイスペックを公道で活かせる、後にストリートファイターと呼ばれるカスタムが誕生。
この流れが大きくなったのは性能が良いもののニューモデルラッシュで安くなっていた70年代の型落ち中古日本車(多気筒初期モデル)が安値で売られていた事も要因の一つ。
カウル付きバイクすら買えない若者もそういう中古を買って同じ様にカスタムという背景もあった。
『カウルを割ってしまった若者』
『安い中古の日本車を活用しようとした若者』
この両輪でストリートファイターカスタムが人気になったというわけ。
ちなみにこのストリートファイターのデザインにはルーツがあります・・・それがこれ。
1983年に英バイク誌にて掲載されたデザイナーのアンディスパロー氏が描いたバイクキャラ。
『HOOVER』
このキャラデザインが若者に多大な影響を与え、同じ様なバイクにしようとカスタムし始めたのがストリートファイターデザインの始まりと言われています。
なんと漫画が起点という嘘のような本当の話。
言われてみれば確かに・・・日本でいうアキラの金田バイクみたいな存在だったんでしょうね。
そしてこの数年後、同じくイギリスのバックストリートヒーローズというバイク雑誌がこの流れを受けたカスタム車を
『StreetFighter』
と銘打って紹介したことでジャンルが確立。フランスやドイツなどにも波及し広がっていきました。
これがストリートファイターの由来とされています・・・されていますと保険を打つのは
向こうのWikipediaやバイクメディアでも
「~だろう」
的な感じで書かれているから。
この原因はストリートファイターというジャンルがレース企画やメーカーの新しい提案というトップダウンで生み出されたものではなく、お金が無い若者達の間で生まれボトムアップする形で定着したものだから。ストリートファイターを生み出したのは同じライダーたちなんです。
しかし一方でストリートファイターを日本を含め世界的に広く認知させたのはやはりバイクメーカー。このストリートファイター文化をいち早く取り入れた量販車とされるのが1994年に発売されたこれ。
『SPEED TRIPLE/T309』
復活したトライアンフが打ち出した三気筒エンジンプラットフォームのネイキッドバージョン。
これが上げられる理由はストリートファイターの主流となっていた
『ハイスペック×カウルレス×カフェ』
という要素を強く取り入れていたモデルだったから。
ただ正確に言うとこのスピードトリプルが爆発的な人気となったのはデビューから3年後の1997年に出されたモデルです。
『SPEED TRIPLE/T509』
今ではおなじみのスタイルですが、同時に先ほど紹介したバイクキャラのHOOVERにもソックリですよね。
トライアンフが何処まで意識したのかは分かりませんが、スピードトリプルはストリートファイターデザインのツボを完璧なまでに抑えたモデルとして人気を呼び、今ではトライアンフを代表するバイクの一台にまでなりました。
ちなみにスピードトリプルがT309からT509へ早々にモデルチェンジし、ガラッとイメージを変えた理由は強力なライバルが居たから・・・それがもう一台の量販型ストリートファイターの先駆けと言われているモデル。
『MONSTER 900』
日本でも有名なドゥカティモンスターの初代にあたる1993年発売M900です。ちなみにここに量販車ストリートファイターが広まった背景があります。
モンスターの系譜にも書いたんですが、当時欧州ではハイスペックになったフルカウルのスーパースポーツなどで事故を起こす輩が絶えなかった。その結果そういうバイクのVAT(付加価値税)や保険料がドカンと上がったんですね。
それを回避するためにドゥカティが出したのがスーパーバイクのエンジンを積んだネイキッドのモンスター。
「いやロードスポーツです全然スーパースポーツじゃない」
っていう。
そんな屁理屈が通るのかって話なんですが、これが通った事で2007年までに15万台を売る大ヒットでドゥカティ史上最も売れたシリーズに。
2009年登場のストリートファイター1099へバトンタッチするまで続きました。
メーカー謹製のストリートファイターが成功し定着したのはこの維持費の問題、そしてそれまでお金がない若者の無いなりの遊びを
「新車購入層に広めたから」
という背景がある。
実はストリートファイターを”生み出した層”と、ストリートファイターを”買う層”というのは被ってないんですね。だからこそ世界でヒットし今ではネイキッドに代わるストリートに特化したスポーツバイクとして定着するようになったという話。
この棲み分けのようなものは90年代以降も変わらず、生み出した層(自分で造る派)はメインフレームも変えるなど更にディープになっていきました。
ただここで一つ補足すると日本でいうストリートファイター像というのは実はイギリスよりも、イギリスに感化されて流行ったドイツ系だったりします。
『ゲルマンストリートファイター』
と言われている系統で、外装はカチ上げたシートカウルとカウル付き小型ヘッドライトのみで原型を留めていないのが特徴。
どちらも同じGSX-R1100がベースなんですが、ドイツ系の方がストリートファイターっぽいと思う人が多いのではないかと。
ちなみにこの由来の話を読んで
「イギリスの若者はお金が無いなりに生み出してて凄いな」
と関心する人が多いと思うのですが、カウルをバキバキに割ってしまう様な公道バトルをする蘇ったカフェレーサーみたいな人たちですからね。
アメリカのジャーナリストがロンドンの公道で初めて見た時は、映画の撮影か何かかと勘違いしたとか何とか・・・もうそれだけで説明は十分かと思います。
しかしじゃあ
「カフェレーサーとストファイの違いは何」
と聞かれるとこれが泣き所というか突いてほしくない部分。
・攻撃的な見た目がストファイでクラシカルなのがカフェ
・一本サスがストファイで二本サスがカフェ
・三気筒以上がストファイでそれ以下はカフェ
・ハンドルが高いのがストファイで低いのがカフェ
などなど色んな基準が言われてたりしますよね。
でもこれ実は明確な定義は無いに等しく、向こうのコミュニティでも意見がバラバラで荒れてたりする。
つまりストリートファイターというのは明確な定義が無いんです。これはどのジャンルに言えることでもあるんですけど、特にストファイはこの幅が大きい。
ストリートファイターって言ってしまえば現代解釈版カフェレーサーみたいなものなんです。
【最後に】
ボトムアップみたいな誕生の仕方だったために定義が曖昧なストリートファイターですが一つだけ確実に言えるのは
「欧州発祥である一方そこには日本車の存在が大きく関わっていた」
という点。
日本車にイギリスのカフェレーサーという要素を加えた創作和洋折衷がストリートファイターの始まり。
和の伝統で生まれたのがネイキッドなら、洋の伝統で生まれたのがストリートファイターという感じ。
和洋お好みでどうぞ。
該当車種
などなど