CBR1000RRの系譜

CBR1000RR-R/SP
(SC82)
-since 2020-

SC82

「“Total Control” for the Track」

大きく生まれ変わり名前もRがもう一つ付いてCBR1000RR-RとなったSC82型。

・RC213V-Sと同じ81mmボア
・新設計のフィンガーフォロワー
・チタンコンロッド
・セミカムギアトレイン
・218馬力
・フレーム新設計
・5軸IMUから6軸IMUへ
・キーレス
・タービュレーター(ウィングレット)
・アクラポビッチマフラー
・bremboリアキャリパー
・ユニットプロリンクの廃止
・電子ステアリングダンパー
・SHOWA製ビッグピストンフォーク&バランスフリーリアサス

【以下はCBR1000RR-R SP】
・上下対応クイックシフター※素モデルはOP
・リチウムイオンバッテリー
・バランス取りピストン&コンロッド
・OHLINS製第2世代電子制御式前後サス
・bremboフロントキャリパー

などなど、まあ早い話が全部変わりました。

 

まずエンジンについて話すと一言で言うならばビッグボア化と慣性重量の削減によるパワーアップ。

ピストン

MotoGPでも上限に定められているRC213Vと同径の81mmボアになったピストンと合わせて拡大されたバルブ。

そしてもはや説明不要のチタンコンロッドにギアを一枚挟むセミカムギアトレインとフィンガーフォロワー駆動などなど。

セミカムギアトレイン

セミカムギアトレインは上の写真のままでチェーンの長さを抑えることで軽く、また遠心力を抑えて余計なフリクションロスを減らすのが狙い。

フィンガーフォロワーはZX-10Rでも話したと思うのですが、ザックリ言うと開閉するバルブに付ける部品を減らし軽量化することでより高回転化を可能にするもの。

ただCBR1000RR-R/SC82型の面白いのは他所と違ってそのフィンガーフォロワーのセットが内側に付いている事。

フィンガーフォロワー

逆につけた理由はコンパクト化とのことですがセミカムギアトレインによるカムの逆回転化もあったのかなと。

他にもスターターをクランクではなくクラッチ経由で回す(始動する)ようにした事から、ボアが大きくなったにも関わらずサイズは小さくなっています。

それにしてもこれで日本メーカーのリッターSS全部がフィンガーフォロワーになりましたね。

 

ただこのSC82のエンジンはもう一つ面白い事があります。それはウォータージャケットが2階建てになったこと。

ビルドインボトムバイパス

ラジエーターで冷やされた冷却水はまず2階側の通路を通って一番熱くなるシリンダー上部の熱を奪うと、今度はホースで戻るのではなく下部を通って戻る。

CBR1000RR-R冷却方式

要するに昔の風呂釜にあった追い焚きの逆バージョンみたいなものですね。

これの狙いは戻りのホースを無くすことやコールドスタート時のブローバイや排ガス対策もだけど

CBR1000RR-Rの温度変化

『エンジン全体の温度を一定に保ち、熱による歪みを減らす』

というのが公式としての狙い。2階建てというよりホースのビルドイン化と言ったほうがいいかな。

これらの変更により217.6馬力という国産トップのスペックを叩き出したわけですね。LPLの石川さんも簡単にこのスペックは抜けないだろうと自信を持って仰っていました。

 

ただパワーだけではなく車体の方も大きく変わっていて、まずダウンフォースを稼ぐ羽根が付いたのが特徴。これはダウンフォースを稼ぐためにあるもので、恐ろしいのがこれ付けてもなおクラス最小な空気抵抗値となる0.270を叩き出していること。

CBR1000RR-Rのウィングレット

それで思い出したんですが羽根もそうですけど最近この空力に悪そうな逆スラントノーズ顔が流行っているじゃないですか。

これライトの存在感を消すトレンドデザインだと思っていたんですが、従来のすくい上げるように尖ったスラントノーズだと250km/hオーバーなどハイスピード域になると揚力といって持ち上げてしまう流れが発生する事が近年になって分かったんだとか。

CBR1000RR-Rの正面

でもトンネルなど圧縮された空気による衝撃音(空気鉄砲)を防ぐのも大事なのでそう単純にはいかない・・・っていう新幹線の方で小耳に挟んだ話。

ロールなどもあるバイクには当てはまらないかもしれないですね。テキトーな事を言ってすいません。

 

話を戻すと他にもユニットプロリンクが廃止されました。

ユニットプロリンクというのはスイングアームまでで動作を完結させる技術で詳しくは前のモデルを読んで欲しいんですが、これはメインフレームに自由度を与える(スイングアームからの伝わる負担を軽減する)事が狙い。ただ一方でスイングアームで完結してしまう事からバネ下が重くなってしまう一長一短な部分もあった。

ユニットプロリンクの廃止

そこで今回はサスペンションのアッパー側を一般的なフレーム・・・ではなくエンジン後部に付ける形に変更。

これでメインフレームの自由度を確保しつつバネ下の重量を抑えたんだろうと思います。ちなみにこの手法もRCVと全く同じなんだとか。

 

最後にオマケといってはなんですがマフラー。

アクラポビッチ

アクラポビッチ社との共同開発品がグレード問わず標準搭載という大盤振る舞い。

エキパイの端には排気バルブが付いており中低速では一般的な複室式マフラーとして、高回転になるとバルブが開いてストレートタイプになる形。

CBR1000RRの排気フロー

公式資料が少し間違っているようなので勝手ながら継ぎ接ぎしてわかりやすくした図がこれ。右の赤い蓋が排気バルブです。

低回転域では大排気量特有の少し籠り気味な低音が効いた音で、一定回転数になると社外のストレートチタンみたいな乾いた音になるという事ですね。

アクラポビッチ

それでなんでこんな立派なマフラーを付けたのかという話なんですがオートバイ2020/1月号インタビューによると

「変なマフラーを付けてほしくなかったから」

という考えからだそう。

恐らくエンジンが超々高回転型で初めてピークパワーを発揮するものになり中低速のトルクが無くなっているため、シンプルなストレートタイプが主流である社外マフラーだと抜けが良すぎて背圧を稼げず乗れたものじゃなくなるからかと。もちろん倫理的な意味合いもあるんでしょうけどね。

 

変更点が多すぎるのでもう最後にしますがラムエアをどストレートで持ってくるためにキーシリンダーを廃止しキーレス化しスイッチ周りも一新。

CBR1000RR-Rのハンドルスイッチ

これで制御を選択するわけですが

MODE:3ライディングモード

P:パワーコントロール1~5

T:トルクコントロール0~9

W:ウィリーコントロール0~3

EB:エンブレコントロール1~3

S:電サスコントロールA1~3|M1~3(SPのみ)

CBR1000RR-Rのメーター

・レーススタートモード(6000~9000rpm制御)

・電子ステダンコントロール1~3

・クイックシフター上下共に1~3(SPのみでノーマルはOP)

・ABSコントロール1~2

などなど選択肢が多すぎ。まあモード選ぶだけで後は勝手にやってくれるから細かいことを気にしないなら良いんですが。

 

【余計な余談】

ここまでの変更点や名前にRがもう一つ追加された事や

『“Total Control” for the Track』

と従来のコンセプトにTrackの文字が付いた事からも分かる通りCBR1000RR-Rは完璧なトラック志向になりました。なんでこうなったかというと

「レースが強く関係している」

と思われます。

というのも日本国内のスーパースポーツレースである全日本ロードレース選手権というのは

・JSB1000(改造範囲が大きい市販車リッタークラス)

・J-GP2(改造範囲が大きい市販車600クラス)

・ST600(範囲が狭い市販車600クラス)

・J-GP3(4st250ccレーサーで行われるクラス)

と別れていました。下の図はそれを怒られそうなくらい簡易に表したものです。

CBR1000RR-Rの温度変化

それで国内トップレースにあたるJSB1000はワークスが犇めき合う何でもあり状態で鈴鹿八耐を見据えたものになっていたんですが、一方でその600版にあたるJ-GP2というクラスは

『ロードレース世界選手権Moto2(中排気量版MotoGP)』

に繋っていた。いまMotoGPで活躍中の中上さんもこのサクセスロードを歩んでいます。

中上さん

しかしホンダが2018年をもってMoto2へのエンジン(CBR600RRの直列四気筒)供給の契約が終わり、代わりにトライアンフの三気筒765ccという日本には存在しない規格になりました。

これによりJ-GP2とMoto2の関係性が切れていまい

「J-GP2で勝ってMoto2へ」

というサクセスロードが無くなってしまったんですね。ワイルドカード(推薦枠)の資格も失ってしまいました。

CBR1000RR-Rの温度変化

つまりJ-GP2が世界と繋がっていないレースになってしまったというわけ。

これはいかんという事で日本のレースを取り仕切るMFJが2019年をもってJ-GP2を廃止し、2020年から新たに

『ST1000』

というレースを開催する事に。文字からも読み取れるように市販の1000SSをベースに改造範囲を狭くして窓口を広げたクラス。

ST1000

そしてレギュレーションをアジア版のASB1000や鈴鹿八耐のSST(スーパーストッククラス)と合わせ、ECUなど簡易な変更だけで相互に参戦できる体制にしたんです。

ここで重要となるのが

「ストックレースはノーマルの地力が勝敗を大きく左右する」

という事・・・そう、つまりCBR1000RR-R/SC82はこの新しくなった局面を狙って出された面があるという事。

 

ただもう一つあるというか、どちらかというとこっちのほうが大きい理由。

ホンダは2019年までJSB1000にワークス参戦したのですが、2020年から舞台をその世界版であるSBKに移すことになったんです。

SBKにワークス参戦

ホンダが世界最速市販車を決めるSBKにワークス参戦するのは実に18年ぶり。VTR1000SPでキレて撤退したとき以来の事です。

そして世界レースのSBKは実は国内レースのJSB1000よりレギュレーション(改造範囲)が厳しい。

だからこそ世界最速を死守する事に全力でまさかのデザインそのままというセールス度外視な緑色のやつとか、それ市販車じゃなくてMotoGPマシンだろと言いたくなる赤色のやつとか値段が飛び抜けたマシンが誕生しているわけですが、それと同じ様にこのCBR1000RR-R/SC82というモデルも

CBR1000RR-R SP

『自分達が世界最速を勝ち取るために造ったマシン』

というわけ。まさにマシンだけでなく状況もVTR1000SPの再来なんです。

 

このレースの話を読んで

「RR-Rは凄いから興味あるけどレース話には興味ないっす」

って思った人も多いと思います・・・でも敢えてしました。なんでってこれ恐らく一般人には乗れたもんじゃないから。

CBR1000RR-R俯瞰

このモデルは公道メインで稀にサーキット程度のエンジョイ層が楽しめるように造ってない。ラップタイムの短縮やレースで勝つことなど上を目指して走っている

『スリックタイヤしか履かない様なガチ勢』

が楽しめるように造ってる。

実際にそういう人たちは長々と話してきたこれらの事にも詳しいから発売を待たずに予約という形で既に取り合いを起こしてるようですし、開発総責任者の石川さんも初心者向きではないと各紙のインタビューで正直に答えています。

壁紙

RRではなくRR-Rとなった理由もここにあると個人的に考えます。

CBR1000RR-RはCBR1000RRの進化版というよりも

「RRのRaceモデル」

と言ったほうが合ってるかと。

なんかSC82の紹介で先代SC77や先々代SC59を担ぎ出して悪く言ってる記事をチラホラ見かけて悲しくなったのですが、一般人なら間違いなくあっちの方が乗りやすいし楽しいし速い。

あっちのほうがRRらしいとさえ思います。それくらいこのCBR1000RR-R/SC82は従来のコンセプトから大きく外れている。

CBR1000RR-Rのポジション

このもはや潔いと言える先代から大きくコンパクトになったポジションを見ればそれが伝わるかと思います。シート高も+10mmと高くなりました。

そしてこれも見て欲しい。

CBR1000RR-Rパワーカーブ

戦闘力が増したのは公道はおろかサーキットでも相当な手慣れじゃないと活かせない域だけでそれ以下の領域では先代よりも低いんです。

 

誤解しないで欲しいんですが別にRR-Rはダメだとか初心者が買うなとか言いたいわけじゃないですよ。これらの思惑、バックグラウンドを知ってほしいという事。

CBR1000RR-R SP

「これは凄いRRという単純なモノじゃないんだよ、18年ぶりのホンダのワガママなんだよ」

という話。

 

しつこいですがこれ本当に最後のワークスマシンだったVTR1000SP

『自分達が勝つためだけに造ったマシン』

の再来ですね。

ファイヤーブレード

もともとCBR1000RRはそんなVTR1000SPの後釜として2004年に据えられたんですが、ホンダはCBR1000RRでの世界レースへのワークス参戦は過去一度もしませんでした。

これはVTR1000SPの役割が終わった際にV4のRVFに戻らなかった事にも繋っていて、HRCでVTR1000SPWのLPLだった鈴木さんいわく

「V4は構造が難解でプライベーターが付いてこれない」

という背景があったから。※RACERS41

つまりV4のRVFではなくL4のCBR1000RRを後釜に据えて自分達は沈黙を守り続けていたのは

「プライベーターなどレースの裾を広げる役割を担わせたマシンだったから」

というわけ・・・だったんですが、今回それが18年目にして遂に破られた。

ホンダCBR1000RR-R

自分達が勝つために造った従来のコンセプトも裾の広さもヘッタクレもない

『初めての大人げないRR』

になったんです。

EVの流れが迫っている昨今、1959年のCB92から続いてきたガソリンエンジンによるスーパーバイクレースにホンダが本気で挑むのはこれが最後になる可能性も十二分にある。もしかすると最後の花を飾るつもりなのかもしれない。

そう考えると乗らず飾ってレースを応援という選択肢も大いに”アリ”かと。

【関連車種】

VTR1000F/SPの系譜
YZF-R1の系譜
GSX-R1000の系譜
ZX-10Rの系譜
SuperBikeの系譜

主要諸元

全長/幅/高 2099/762.5/1136mm
シート高 830mm
車軸距離 1455mm
車体重量 201kg(装)
燃料消費率 16.0km/L
※WMTCモード値
燃料容量 16.1L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 999cc
最高出力 218ps/14500rpm
最高トルク 11.5kg-m/12500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17
後200/55ZR17
バッテリー -
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
-
推奨オイル -
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.8L
スプロケ -
チェーン -
車体価格 -

系譜図

cbr750rr 1990年
CBR750RR
(Prototype)
SC28 1992年
CBR900RR
(SC28前期)
sc28-2 1994年
CBR900RR
(SC28後期)
sc33 1996年
CBR900RR
(SC33前期)
sc33-2 1998年
CBR900RR
(SC33後期)
sc44 2000年
CBR929RR
(SC44)
sc50 2002年
CBR954RR
(SC50)
sc57 2004年
CBR1000RR
(SC57前期)
SC57後期 2006年
CBR1000RR
(SC57後期)
sc59 2008年
CBR1000RR
(SC59前期)
sc59後期 2012年
CBR1000RR/SP
(SC59後期)
SC77 2017年
CBR1000RR/SP1/SP2
(SC77)
SC82 2020年
CBR1000RR/SP
(SC82)