VFR750F(RC24) -since 1986-

RC24

「パフォーマンス アート」

VFRの系譜において大きなターニングポイントとなったVFR750F/RC24。

RC24デザインスケッチ

鳴り物入りで登場したV4スポーツのVF750Fだったんですが先にも述べた通り

「V4は音がちょっと・・・」

としてスーパースポーツ層に思ったほどの評価はもらえなかった事からエンジンのクランク角を360度から180度へ変更。

※しつこいですがV4のクランク角についてはVFR400R(NC30)と重複してしまうのでそちらを読んで下さい。

VFR750F

点火タイミングが等間隔に近い180度にしたことで、どこまで回しても

『ブロロー』

というドスの利いた排気サウンドから

「デロデロ・・・ブオーン」

と高回転になると直四に近いサウンドになるエンジンに変わったわけですね。

それ以外の部分は1985年の世界耐久レース&TT-F1の二冠を達成したRVFレプリカというポジションな事もあり、アルミツインチューブフレームにカムギアトレインと相変わらず贅沢な作り。

VFR750Fトリコロールカラー

更に車重も乾燥重量で200kgを切るライトウェイトさ。

ただしそんなスペックを持っている一方でV4がツアラー層に意外とウケた事でポジションはそこまで厳しくなくオールマイティに熟せる形に。つまり万能V4という現代まで続くVFRのコンセプトの始まりとも言えるモデルですね。

ただ残念なことにこれまた先のVF750Fで述べた通り、日本では余り受け入れられなかったので僅か二年間のみの販売で終わっています。

その分と言ったらアレですが、このモデルは白バイとして多く採用されましたね。

VFR白バイ

厳密にいうとこれはVFR750P/RC35といって、市販後に設計されてる別のバイク。取締用や警備用といったバリエーションがあり、98年まで年次改良が繰り返されました。

『VFR=白バイ』

という歴史もこのモデルから。もうこの型はほとんど見ないけどね。

RC24カタログ写真

ちなみに開発責任者は初代からずっとVFに携わっているかの有名な山中さんなんですが、そんな山中さんが惚れ込んで愛車にしていたモデルでもあったりします。

主要諸元
全長/幅/高 2120/730/1170mm
シート高 785mm
車軸距離 1480mm
車体重量 199kg(乾)
燃料消費率 38.1km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 748cc
最高出力 77ps/9500rpm
[105ps/10500rpm]
最高トルク 6.5kg-m/7500rpm
[7.8kg-m/10500rpm]
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/90-16(59H)
後130/80-18(66H)
バッテリー YB12A-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
推奨オイル ホンダ純正ウルトラG1
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.0L
交換時2.9L
フィルター交換時3.1L
スプロケ 前16|後45
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格 849,000円(税別)
※[]内は海外仕様
系譜図
VF750S/M 1982年
VF750
セイバー/マグナ
(RC07/RC09)
VF750F 1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R 1984年
VF1000F/R
(SC16)
VFR750F 1986年
VFR750F
(RC24)
VFR750R 1987年
VFR750R
(RC30)
RC36 1990年
VFR750F
(RC36)
RVF 1994年
RVF
(RC45)
VFR前期 1998年
VFR
(RC46前期)
VFR800 2002年
VFR
(RC46後期)
VFR1200F 2010年
VFR1200F
(SC63)
VFR1200X 2012年
VFR1200X
(SC70)
VFR800F 2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)

VF1000R(SC16)-since 1984-

V4スーパースポーツ

「究極のレーサーレプリカ」

ホンダが新たに開発したV4リッタースーパースポーツのVF1000R/SC16型。

少し前に出たホモロゲーションCBことCB1100Rの後釜を担うプロダクションモデル(市販車レースのためのモデル)として開発された経緯があり、同年に登場したV4レーサーRS850Rのレプリカ的な立ち位置になります。

RS850R

だからエンジンも伝家の宝刀カムギアトレーンを採用した360度クランクで、100馬力が大台と言われていた時代に122馬力を叩き出すハイスペックっぷり。

VF1000Rエンジン

他にもレースを考慮し

・五速クロスミッション

・ラジアルリアタイヤ

・アンチノーズダイブフォーク

・フローティングディスクブレーキ

などなど当時の最先端技術を余すこと無く詰め込んだ豪華仕様。

VF1000Rのディメンション

そのためお値段も先に紹介したVF750Fの三倍以上となる250万円という超高級車。つまり有名なVFR750R/RC30と同じような意図のモデルなんです・・・が、恐らくこのモデルを知ってる人はかなり少ないかと思います。これにはもちろん理由がある。

ホンダはこれで市販車レースを総ナメにする計画だった・・・だったんですが、VF1000Rは不運としか言いようがない事態に見舞われるんです。

当時ビッグバイクの主要市場はアメリカだったんですが、レーガン大統領が日本車ばかり売れる事に危機感を覚え

「700cc以上の輸入バイクに45%の関税をかける」

という保護関税を1983年つまりVF1000R発売前年に発表。ただでさえ相場の三倍近い高級車に45%も関税が上乗せされて売れるわけないっていう。

VF1000Rカタログ

しかしVF1000Rの不運はこれだけで終わらなかった。

肝心要の市販車レースのレギュレーションがこれまたよりにもよって発売前年の1983年に

「排気量の上限を750ccにする」

という変更が下されたんです。

このせいでVF1000Rはプロダクションレースへの出場が不可能になり、レースは冒頭で紹介したVF750FベースのプロダクションレーサーRS850RをスケールダウンしたRS750Rで戦う事に。

VF1000Rデザイン

つまりVF1000Rはメインターゲットだったアメリカにおいては関税によって市販車としての立場を潰され、レギュレーションの変更でレーサーとしての立場も潰されるというデビュー前にして両翼をもぎ取られる形になってしまった。

V4のリッタースーパースポーツ(プロダクションモデル)なのにCB1100Rや後続のVFR750R/RVF(RC45)などに比べて知名度や人気が今ひとつなのはこれが理由。出場が確認できた大きな大会はオーストラリアのカストロール6耐くらい。

その物寂しさをよく現しているのが実質的に唯一のマーケットになった欧州向けに販売された限定モデル。

VF1000Rロスマンズカラー

「ロスマンズカラーとか最高だな」

と歓びたい所ですが、よく見ると分かるようにVF1000Rの方にはロスマンズのロの字も入ってない・・・そりゃそうですよね、だって世界耐久王者に輝いた初代RVFは満を持して登場したVF1000Rではなくそれより前に発売したVF750Fがベースなんですから。

もしも運命の悪戯に合わず参戦できていたらこれがRVFになるはずだった。そんな不運としか言いようがない時代背景を持つのがVF1000Rというモデルなんです。

VF1000F
(SC16)
-since 1984-

SC16

「EXPLORING THE OUTER KIMITS」

VF1000Rと並行して開発されていたハーフカウルモデルのVF1000F/SC16型。

こちらのモデルはRとは違い最初から欧州をターゲットのモデル。VF1000Rがあんな事になってしまったせいで実質的にセールスを一手に背負う形になったわけですが、VF1000Fはフロントが16インチな事からも分かる通りハーフカウルながら場合によってはRよりスポーツな志向でした。

Interceptor

VF1000Fは開発者の齋藤さんが出来に惚れ込んで愛車にするほどの力作だったんですが環境の違いからか

「もうちょっとツーリングにも使えるモデルにして」

と欧州側から要望が入った事で翌1985年にフルカウルとフロント18インチを装備したVF1000F2を投入。

SC15

アメリカで売れない以上こっち(欧州)で何とかするしかなかった事もあってか迅速な対応なんですが、ハイスピードツアラーという事でCB900Fに続き

『BOL’DOR(ボルドール)』

という今もお馴染みある世界耐久レースの花形ボルドール24時間耐久レースの名前が付いています・・・が、これが一筋縄ではいかない問題でもあった。

何故ならホンダはボルドール24時間耐久においてV4レーサーでの勝利をまだ上げていなかったからです。

「不沈艦RCB直系のCBがボルドールと冠するのは分かるけど、勝ってもないV4がボルドールを冠するのは違うでしょ」

って話になりますよね。

しかしFにインターセプターと名付けたようにFIIにも名前を、それも欧州でのセールスを取るために絶大な人気を誇るボルドールという名前が欲しい。

今年のボルドール24時間耐久レースはFII発表より前・・・そこで開発チームは

1985RVF

「RVF速いし今年は勝つでしょ」

という事で見切り発車のようにボルドールと名付ける方向で計画。※ホンダフラッグシップモバイク開発話|山中勲より

これ何が恐ろしいってなんの運命の悪戯かボルドール24時間耐久レースがVF1000FIIの発表の前と言っても同日の話。ボルドールのレース結果が出るのが朝でFIIの発表は昼から。

そんなもんだからやきもきしながらボルドール24時間耐久レースの結果を待つ事になったものの幸運なことに見事に予想が的中しRVFが勝利。

1985年のボルドール24

その一報を聞いた瞬間に発表を控えていたVF1000FIIのサイドカウルに万が一の事態を考えて貼っていなかったBOL’DORのステッカーをペタっと貼り付けてボルドールと冠する事に成功。

VF1000F2

つまりもしもRVFが1985年のボルドール24時間耐久レースで負けていたら名乗れなかった。

V4として初めてボルドールの名を与えられたVF1000FIIは、Rとは対照的に幸運に恵まれたモデルだったわけですね。

主要諸元
全長/幅/高 2210/765/1240mm
[2180/730/1200mm]
<2270/765/1275mm>
シート高 820mm
[810mm]
<815mm>
車軸距離 1505mm
[1550mm]
<1550mm>
車体重量 233kg(乾)
[244kg(乾)]
<245kg(乾)>
燃料消費率
燃料容量 23.0L
[25.0L]
<23.0L>
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 998cc
最高出力 116ps/10000rpm
[122ps/10000rpm]
<122ps/10000rpm>
最高トルク 9.0kg-m/7500rpm
[9.4kg-m/8000rpm]
<9.4kg-m/8000rpm>
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/90-16(59H)
後130/80-18(66H)
[前120/80-V16-V250
後140/80-VR17-V250]
<前100/90-V18-V250
後140/80-VR17-V250]
バッテリー YB12A-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR7EA-9/DPR8EA-9/DPR9EA-9
または
X22EPR-U9/X24EPR-U9/X27EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.9L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前16|後45
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格
※スペックはVF1000F
※[]内はVF1000R(Type-G)
※<>内はVF1000FII(SC16)

仕様変更

ライト形状は国によって二眼と一眼があり
フランス仕様はSC19

系譜図
VF750S/M1982年
VF750
SABRE/MAGNA
(RC07/RC09)
VF750F1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R1984年
VF1000F/R
(SC16)
750F1986年
VFR750F
(RC24)
750R1987年
VFR750R
(RC30)
RC361990年
VFR750F
(RC36)
RVF1994年
RVF
(RC45)
前期1998年
VFR
(RC46前期)
8002002年
VFR
(RC46後期)
1200F2010年
VFR1200F
(SC63)
1200X2012年
VFR1200X
(SC70)
800F2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)

VF750F(RC15) -since 1982-

RC15

「The Top Technology Machine」

先代(というか先に出ていた)VF750SABRE/MAGNAがシャフトドライブやパイプフレームなどでどちらかと言うと豪華装備のツアラー的な作りだった事から

「何故スーパースポーツではなくスポーツツアラーなんだ」

という声が上がっていた。ホンダも見越していたのか半年後に登場したこのVF750Fは業界初の角型断面パイプフレームにチェーンドライブ、更にスポーティなビキニカウルなど正にそういった声に答えるバイクとして登場。

VF750F

他にもバックトルクリミッターやクラス初軽量ブーメラン型オールアルミコムスターホイルなどNRで培ったレース技術のフィードバックが入っています。そしてキャブレーターが再度見直されコンパクトになったことで、フレームから頭が飛び出すほど傾けていたエンジンが少し戻りました。

V4スーパースポーツ

ちなみに海外向けでお馴染みのペットネーム”INTERCEPTOR”が付いたのもこのモデルが始まり。

まさに待ちに待ったスーパースポーツで巷で一躍話題になった・・・けど長続きはしなかった。

ホンダV4の苦難はもうこの頃から始まっていたんですね。

先代で書いた通りホンダは唯一無二のV4をホンダのフラッグシップモデルとして作り差別化を図る意図があったから、CB750Fでお馴染みのスペンサーさんを乗せ替えさせてまでレースに出場してたんだけど市場(特に日本)の反応は悪かった。

VF750R

ホンダの分析を端的に纏めると

「エキサイティングさや感性が直四に比べ弱かった」

との事。これがどういう事かというと、V4に乗ったことがある人は分かると思うけど直四が回せば回すだけエンジンノイズや排気音とスピードが比例していくのに対し、V4は燃焼間隔が等間隔じゃないから。

※V4のクランク角についてはVFR400R(NC30)の後半で書いたので割愛します。

VF750Fエンジン

速いのは圧倒的にV4なんだけど音とスピードが今ひとつ比例していない。ホンダは社運を賭けた勝負において思わぬ形で負けてしまったわけです。

もし当時のライダー達が直四フィールよりV4(倍回るVツイン)のフィーリングを取ってたら今頃ホンダSSはCBR1000RRではなくRVF1000とかになってた可能性は凄く高いでしょうね。

主要諸元
全長/幅/高 2016/770/1215mm
シート高 795mm
車軸距離 1495mm
車体重量 218kg(乾)
燃料消費率 38.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 22.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 748cc
最高出力 72ps/9500rpm
最高トルク 6.1kg-m/7500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前120/80-16(60H)
後130/80-18(66H)
バッテリー FB14-A2
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DP8EA-9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.0L
交換時2.3L
スプロケ 前17|後44
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格 748,000円(税別)
系譜図
VF750S/M1982年
VF750
SABRE/MAGNA
(RC07/RC09)
VF750F1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R1984年
VF1000F/R
(SC16)
750F1986年
VFR750F
(RC24)
750R1987年
VFR750R
(RC30)
RC361990年
VFR750F
(RC36)
RVF1994年
RVF
(RC45)
前期1998年
VFR
(RC46前期)
8002002年
VFR
(RC46後期)
1200F2010年
VFR1200F
(SC63)
1200X2012年
VFR1200X
(SC70)
800F2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)

VF750SABRE(RC07) -since 1982-

VF750SABRE

「瞬間、近未来。」

世界初の水冷V4エンジンを積んだバイクでありホンダの市販V4の始まりでもあるVF750SABREとMAGNA。

V4エンジンの源流になっているのは楕円ピストンでお馴染みNRの元となっているファクトリーレーサーNR500(1978年)。NRについては「無冠のレーシングスピリット NR(RC40)」をどうぞ。

V4エンジン

あと地味だけど油圧クラッチも世界初採用。更にキャストホイールもホンダとしては初と初尽くめ。他にもプロリンクやシャフトドライブ、ウインカーキャンセラーなどここでは書ききれないほどハイテク装備が既にこの頃から満載です。

しかしそんな初尽くしVF750において市販化において一番重要なのが同じく世界初だったスラント型VDキャブレター。何故かと言うとV4はスロットルボディを置くスペースが狭いから。

V45

今では当たり前のようにVバンク(前後シリンダー)の間にスロットルボディが置かれていますが、フロート室とよばれるガソリンを一時的に溜めておくプールを傾いている角度で付け、かつ横でも下でも同じ負圧で同じようにガソリンを高効率で吸わせるコンパクトなキャブというのは簡単な事じゃなかったわけですね。

それを何とか限られたスペースの中で可能にするために生まれたのが両方(前後)のキャブが折り重なるようになっているユニークなキャブ。このこれが無かったらV4は無理だったとホンダも言っています。

VF750SABREキャブ

というかこのV750SABRE以降ホンダV型はほぼこのキャブレーター方式を採用してるから、これが作れなかったら後のV型もどうなっていたか分かりません。

その努力が垣間見えるのがラジエーターの下から突き出てるシリンダーですね。これは間違いなくキャブレーターの都合でしょう。

VF750SABRE

ちなみにVF750SABREはアメリカではV45とも呼ばれていました。何故V45なのかというと、このV型エンジンの総排気量がおよそ45立方”インチ”だから。

ただアメリカ向けはこのVF750の系譜とは別の形で進行します。というのも好評だったアメリカでレーガンが83年に700cc以上の輸入車の関税を4.4%から45%にまで引き上げたから。つまりVF750SABREは売れなくなってしまったんです。

VF700SABRE

そこでVF750をベースに排気量を698ccにまで落としたVF700Sというバイクを新たに用意し売り出すことになり、このシリーズでアメリカはしばらく行くことになったわけです。

VF750MAGNA
(RC09)
-since 1982-

VF750MAGNA

合わせて紹介するのが同時デビューのVF750MAGNA。

マグナというと250や50が大ヒットした事からソッチのほうが有名だけど初代マグナはこのV4です。スポーツのSに対し、ラグジュアリーなカスタムモデルとして出たのが始まり。

そもそも何故V4を発売したかというと各社から直四が出揃いマンネリ化していた事からの差別化。最初に言ったNR500というレースフィードバックという意味合いも強いけどね。

VF750

だからホンダはこのV4に本当に社運を掛けていました。

その事が伺えるのが開発者でCBR1100XXまで第一線で活躍された山中勲氏のコメント

透視図

「世界ではじめてのV4開発はあらゆることが難しかった。一開発者の我々までが『本田宗一郎が築いた世界一の座を守りとおしてみせる』との思いで開発に取り組んでいたのだから、当時の危機感は相当なものだったといえよう」

主要諸元
全長/幅/高 2245/830/1165mm
[2235/815/1195mm]
シート高 770mm
[725mm]
車軸距離 1560mm
[1540mm]
車体重量 224kg(乾)
[219kg(乾) ]
燃料消費率 38.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 748cc
最高出力 72ps/9500rpm
最高トルク 6.1kg-m/7500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/90-18(61H)
後130/90-17(68H)
[後130/90-16(67H)]
バッテリー FB14-A2
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DP8EA-9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.2L
交換時2.5L
スプロケ 前17|後44
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格 695,000円(税別)
[670,000円(税別)]
※[]内はマグナ
系譜図
VF750S/M1982年
VF750
SABRE/MAGNA
(RC07/RC09)
VF750F1982年
VF750F
(RC15)
VF1000R1984年
VF1000F/R
(SC16)
750F1986年
VFR750F
(RC24)
750R1987年
VFR750R
(RC30)
RC361990年
VFR750F
(RC36)
RVF1994年
RVF
(RC45)
前期1998年
VFR
(RC46前期)
8002002年
VFR
(RC46後期)
1200F2010年
VFR1200F
(SC63)
1200X2012年
VFR1200X
(SC70)
800F2014年
VFR800F/X
(RC79/RC80)

X-ADV(RH10) -since 2021-

RH10

「ADVENTURE URBAN TRANSPORTER」

X-ADVとしては二代目となる2021年3月発売のRH10型。

・1kg軽量化された新設計フレーム
・電子制御スロットルの採用
・新型FIを採用
・給排気やバランサーの見直しで4馬力向上と1.4kg軽量化されたエンジン
・メットインスペースが+1Lで23Lに
・ウインカーオートキャンセラー
・エマージェンシーストップシグナル
・新型スクリーン

など2021年モデルのNC750X/RH09と共通の変更が多くなっているのですが、X-ADV/RH10はそれに加えて

・DRLの採用
・HSVCSを搭載
・シート前方を絞って足つき性向上(日本仕様はダウンサスも継続採用)
・4速から6速までをロングレシオ化
・DCTのシフトスケジュール設定を2段階から5段階に
・グラベルが加わった5つのライディングモード
(スポーツ/”グラベル”/スタンダード/レイン/ユーザー)
・メットインスペース内にUSB Type-C(15W/5V,3.0A)
・スマートキーのメインスイッチをノブ式からプッシュ式へ変更
・パーキングブレーキをハンドル右側へ移設
・空いたスペースにフェアリングポケットを新設
・4つの表示パターンを選べる多機能5インチカラーTFTメーター
・純正パニアケースをOPで用意(トップはスマートキー連動型)

など更に様々な改良と追加が入っています。

X-ADVデイタイムランニングライト

DRLというのはデイタイム・ランニング・ランプといって簡単に言うと

「シグネーチャーランプを昼間点灯の代わりにしてもOK」

という2020年末から解禁された制度で、ホンダとしてはこのX-ADVが第一号。

光るロゴ

ちなみにDRL点灯中は目尻にあるロゴも光る遊び心つき。

あともう一つ説明が必要だと思われる新機能が

『HSVCS(Honda Smartphone Voice Control system)』

というやつで、簡単に言うとスマホとヘッドセットのBluetooth接続を補佐するシステム。

HSVCS

スマートフォンとヘッドセットを直接ペアリングするのではなく、間に本体に内蔵されたBluetoothユニットを挟む形で

・ナビ(GoogleMapで矢印をメーター表示)
・電話
・メッセージ送受信(SMS)
・音楽

をスマホを操作せずバイクに乗りながら行えるようになる。※2021/11/28時点ではBluetooth4.2以上のAndroidのみ

これだけだとバイクが介入する必要性があまり無いように感じられるもののそうでなく、これの肝となる部分は左ハンドルに備え付けられたセレクトスイッチ。

HSVCSスイッチ

例えば電話やSMSなどが来るとヘッドセットから

「電話に出るor電話に出ない」

「SMSを読み上げるor読み上げない→音声入力で返信するor返信しない」

という風に二択方式の案内が入り、ハンドルについている物理スイッチの左右でそれぞれYES/NOを選択出来るようになる。説明するまでもないですが、こうすることでグローブをつけたままで確実な操作が出来るようになる。

更にはアプリがフリーズなど応答を停止した場合も自動で再起動を掛けてくれる機能付きだから、スマートフォンはメットインスペースに新たに設けられたUSB Type-Cソケット(15W/5V,3.0A)に繋いで放り込んでおけばOK。

HSVCSスイッチ

より洗礼されたスマートキーも合わさって

「煩わしさを徹底して排除した形」

になったのが今回の一番の変更点じゃないかと。フレームもステア周りの剛性が上げられて走りにも磨きが掛かっているんですけどね。

ところでX-ADVがこれほど贅沢というか高待遇な改良が加えられたのは、弟分などが登場している事からもお分かりの通り大成功を収めたからというのがあります。

X-ADVのフロントとリア

X-ADVは約120万円とNC兄弟の中でも最高値なのですが、それにも関わらず初代モデルはMCN(イギリスのバイク誌)によると、2019年までに世界で約32,000台(ヨーロッパだけで7,500台)のセールスを記録。近年のホンダ車を代表するスマッシュヒットモデルとなりました。

ちなみに免許制度の関係で需要が小さいであろう日本でも年間500台前後の販売となっています。

このヒットの要因が何処にあるのかといえばズバリ

「ビッグスクーターの概念を覆したモデルだったから」

という点に尽きるかと思います。

X-ADVサイドビュー

先代でも少し話しましたがビッグスクーターは

・パワーユニットが埃を被る下側にある
・車重やバネ下が重くなりがち
・メットイン機能でシート高が上がるので大径ホイールが難しい
・同理由でロングストロークのサスペンションなども難しい

といった問題があることから

「オフロードとスクータースタイルを両立させるのは難しい」

というのが現実問題としてあった。だからオンロードとしてコンフォートやスポーツに振るしか無かった。X-ADVはそんな定石を覆した形。

クロスオーバースタイル

とはいえ実際のところNC派生の新型スクーター(X-ADV)を造るプロジェクトが始まった際も、最初からこのSUVスタイルだったわけではなく、インテグラのような従来スタイルの案もあった。

では何故SUVスタイルに方針決定されたのかというと、レジャーでも使えるビッグスクーターがほしいという要望がフランスやイタリアからあったというのも要因なのですが、決定打となったのはプロジェクトリーダーの見崎さんいわく

「こういうバイクがあったら楽しいよね」

というEZ-9に通ずる実にホンダらしい至極単純な理由から。

SUVデザイン

そしてそれに呼応するようにそういうのが大好きなイタリアホンダ(アフツイと同じMaurizio Carbonaraさん)がノリノリでSUVコンセプトデザインを作成。これがX-ADVの始まりになります。

参照:How the Honda X-Adv went from concept to reality|MCN

実際に形にすることが出来たのはX-ADVのパワーユニットがスクーターではなく一般的なオートバイだからというのが大きいというのは先代でも話した通り。

ディメンション

でもX-ADVが絶妙だったのはここから。

というのも見てわかるようにメットイン機構を設け、そのためにリアホイールを15インチにインチダウンするなど、決してスクーターが持つ利便性という武器を捨ててまでオフロード偏重にしているわけではないから。

ラゲッジスペース

「じゃあオフロードっぽいのはただの飾りか」

っていうと決してそうではなく、開発にはホンダのフラッグシップアドベンチャーでありガチンコアドベンチャーでもあるアフリカツインのメンバーも招集されノウハウが注入されました。

しかしそこで目指したものはアフリカツインに迫れるような性能を持つ優れたアドベンチャーというわけではなく

「オフロードを走ってもワクワク出来るエモーショナルを持たせる」

ということでした。

大ヒットとなった要因は間違いなくここで、X-ADVはコンセプトとパフォーマンスそのどちらも大事にしたのは心を躍らせる『ワクワク感』だったわけです。

2021X-ADV

今までにないタフなルックスを見て心が躍る・・・だけじゃない。

乗ってみるとメットインがあってゆったり座れるポジションだから街乗りも楽だけど、あくまでスクーターに擬態した形だから足回りのバタつきや鈍重さが無いからスポーティな走りを楽しめる。

豊富な低速トルク&超低燃費なエンジンとクラッチ不要のATだからストップアンドゴーの多い街乗りに最適だけど、ベルトによる無段階変速ではなくDCTだからエンジン回転数の変化を楽しみながらの走ることも出来る。

そして何よりエンストの心配無用でアクセルワークに集中できるから、躊躇なく道を外れて悪路を楽しく走ることだって可能。

X-ADVフランス仕様

X-ADVはコミューターの要件を満たすプレジャー要素の塊みたいなモデルになっているから、それが結果として

「平日はコミューターとして、休日はアドベンチャーとして使えるバイク」

という評価を獲得し、多くの人をワクワクさせているという話。

コミューターとして使うも、アドベンチャーとして使うもオーナー次第。スポーツ多目的車(Sport Utility Vehicle)というコンセプトに偽りなしですね。

余談・・・

ご存知の方も多いとは思いますが、ホンダは昔からAT(クラッチレス)の可能性を広げるために色んなタイプのAT車を出しては受け入れられず消えていった歴史がある。

そんな歴史を持つだけにX-ADVのヒットは本当に感慨深いものがあるし、同時にそんな歴史があるからこそX-ADVを造れたんだろうなと。

主要諸元
全長/幅/高 2200/940/1340mm
シート高 790mm
車軸距離 1580mm
車体重量 236kg(装)
燃料消費率 27.7km/L
※WMTCモード値
燃料容量 13L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 745cc
最高出力 58ps/6750rpm
最高トルク 7.0kg-m/4750rpm
変速機 電子式6段変速(DCT)
タイヤサイズ 前120/70R17(58H)
後160/60R15(67H)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
FR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量4.0L
交換時3.1L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
スプロケ 前17|後38
チェーン サイズ520|リンク118
車体価格 1,200,000円(税別)
系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)

NC750X(RH09) -since 2021-

2021年式NC750X

「CROSSOVER URBAN TRANSPORTER」

NC750Xとしては三代目となるRH09型。このモデルからSが無くなりXのみとなりました。

まず変更点を上げると

・スタイリングの大幅な刷新
・灯火系のフルLED化
・サスペンションをリセッティング
・吸/排気系を新設計し4馬力アップ
・スロットルボアを拡大
・新型フューエルインジェクション
・スロットルバイワイヤ(電スロ)
・軽量ピストンの採用
・エンジンのバランサー軸径を見直し
・エンジン全体で1.4kgの軽量化
・1.6kg軽量化された新設計フレーム
・全体で計7kgの軽量化
・4つのライディングモード
(スポーツ/スタンダード/レイン/ユーザー)
・新型LCDメーター
・ウインカーオートキャンセラー
・エマージェンシーストップシグナル
・メットインを1L拡大し23Lに
・新開発ハイブリッド表皮シート
・アシスト&スリッパークラッチ※MTモデル
・MT/DCTともにローレシオ化

などなど排気ガスの第4次(EURO5)規制へ対応するとともに、電子制御スロットルを筆頭に結構大掛かりな変更となっています。

フルオプション

今回モデルチェンジの狙いはズバリ走行性能になります。

吸気系の大幅な刷新に加えスロットルボアの2mm拡大、それに電子制御スロットルと軽量ピストンの採用により4馬力アップでご覧の通り。

RH09パワーカーブ

上が大きく伸びているのがわかるかと思います。

しかしこれだけでなく最初にもあげた通り7kgもの大幅なダイエットまでやっており、スポーツ性能を高めたモデルチェンジとなりました。

その意図がよく現れているのがフロントを17インチのままだったこと。これ結構驚き。

400Xと750Xのホイール

というのも弟分というか同系である400Xが一足先にフロントを19インチにしてクロスオーバー要素を強めるモデルチェンジをしていたから。そんなもんだからてっきりNC750Xも19インチになるのかと思ったら17インチをキープ。

ロードタイプとして併売していた750Sと統合する意味合いがあったのか、明らかにオンロードユーズを誇示した形で共有プラットホーム展開の分布図においてセンターに置かれるようなモデルになりました。

LEDヘッドライト

シリーズの看板車種であることを明確にするためか、レイヤード感を増したカウルや分割されたLEDヘッドライト(上がローで下がハイ)などデザインもさらに気合が入ったものに。

RH09カタログ写真

ここで改めてNC750シリーズのコンセプトをおさらいしたいんですが

「フィットのエンジンを半分に割った(参考に開発した)」

という逸話が有名でそのことから”バイク版フィット”とか言われましたが、エンジンだけではなくコンセプトもフィットに通ずるものがあります。

当たり前のように30km/Lを超える燃費だったり、見かけによらず23Lものメットイン容量を備えていたり、毎日乗っても苦じゃない落ち着いた性格(挙動)だったり。まさにフィットがそのままバイクになったような感じ。

750X/RH09壁紙

ただし今回はそのコンセプトは崩さない範囲でアクティブさを加えた形。例えるなら・・・バイク版フィットモデューロXといったところでしょうか。

主要諸元
全長/幅/高 2210/845/1330mm
シート高 800mm
車軸距離 1525mm
[1535mm]
車体重量 214kg(装)
[224kg(装)]
燃料消費率 28.6km/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 745cc
最高出力 58ps/6750rpm
最高トルク 7.0kg-m/4750rpm
変速機 常時噛合式6段リターン
[電子式6段変速(DCT)]
タイヤサイズ 前120/70R17(58W)
後160/60R17(69W)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
IFR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量4.0L
交換時3.4L
フィルター交換時3.6L
[全容量4.0L
交換時3.1L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
]
スプロケ 前16|後43
[前17|後41]
チェーン サイズ520|リンク114
車体価格

840,000円(税別)
[900,000円(税別)]
※[]内はDCTモデル

系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)

X-ADV(RC95) -since 2017-

RC95

「GO EVERYWHERE with EXCITMENT」

スクーター版アドベンチャーと言えばいいのか、スクーターの皮を被ったアドベンチャーと言えばいいのか・・・公式的にはSUV感があふれるビッグスクーターなX-ADV。

X-ADVコンセプトスケッチ

日本ではあまり見ないもののイタリアなどでは一定の成功を収めているインテグラにオフロード要素を取り入れたモデルです。

未舗装路の走行を想定したスクーターといえば・・・

イージー9カタログ

EZ-9を思い出しますね。これは公道走行不可でしたが。

ちなみに雪道用のEZスノーというモデルもありました。

イージースノー

更にいうならばこのEZ-9はアメリカではCUBいう名前で販売されていた歴史があります。

X-ADVサスペンション

それよりX-ADVの話ですよね。

何故ベースのINTEGRAから20万円アップの120万円もするのかという話ですが、一番大きいところは何と言っても足回り。

新設計の倒立フォーク、ラジアルマウントキャリパー、ダブルディスクブレーキ、17インチスポークホイール。

X-ADVサスペンション

そしてリアも専用設計でホイールベースを伸ばすアルミスイングアームと15インチスポークホイール。

フラットダート等コンディションが良くない路面でもしっかり追従し軽快に走れるように足回りが本当に豪華に。インテグラにアフリカツインの足回りを突っ込んだみたいな形。

ちなみに本当はサスのストローク量をアップしているのでINTEGRAから更に足つきが悪くなっているんですが、日本仕様はサスペンション長を変更して30mmダウン。INTEGRAと同じ最低地上高になっています。

X-ADV灯火系

他にも灯火系はフルLED、キーレス、多機能デジタルメーター、五段階可変式スクリーン、ETC、グリップヒーター、ハンドガード、ローレシオ化されたDCTなどなど。

DCTの基本的な仕組みについては「>>VFR1200X(SC70)の系譜」をどうぞ

2018年モデルからはNCシリーズと同じようにレッドが500rpm上がりトラクションコントロールも装備。

ただX-ADVは更にアフリカツインと同じ様に

「G(グラベル)モード」

も装備しました。

これはDCT(クラッチ)制御で、半クラの時間を短くしてアクセルに対するツキの良さを増す制御スイッチ。

X-ADVファイナルスケッチ

さて・・・ベースとなっているINTEGRAでよく言われていたのが

「INTEGRAはビッグスクーターか否か」

という事。

「どう見てもビッグスクーター」

という意見が圧倒的だとは思いますが、少なくともX-ADVが誕生できたのはINTEGRAがビッグスクーターではなかったからという面が大きいんです。

RC95

起伏の少ない林道やフラットダートなどのあまり荒れていない未舗装路というのは走破性よりも安定性が大事なので、低重心でロングスイングアームでエンストの心配がないビッグスクーターというのは(小径ホイールを除けば)意外と悪くなかったりする。

もちろんスタックの恐れがあるゲロデロな道や、腹を打つようなガレ場はまず無理ですが、スクーターで突撃している猛者も昔からチラホラ居ます。

X-ADVダート

「そもそもそんな軽度な未舗装路なら何でも大丈夫」

と突っ込まれそうですがでは何故いままでX-ADVの様にファッションだけでなく本当に大径ホイールとロングストロークサスを履いて走破性を上げたビッグスクーターアドベンチャーが存在しなかったのかというと

「そういう道をビッグスクーターでガンガン走るのは構造的にマズいから」

というのがあります。

その典型なのがエアクリーナーボックスの位置。

ビッグスクーターのエアクリーナーボックス

スクーターに広く採用されているユニットスイング式のエアクリーナーボックス(吸気口)というのはリアタイヤの脇にあります。

この様に低い位置に吸気口があると前輪が巻き上げた砂や埃を大量に吸ってしまう。まして未舗装路ならなおのこと。

砂煙

エアクリーナーボックスを開けたことがある人ならわかると思いますがオンロードのみでも結構ゴミを吸っていたりします。

砂や埃を大量に吸ってしまうとフィルターを詰まらせるだけでなく、フィルターを通り抜けてエンジンまで届くと当然ながらマズい。ボックスの浸水も当然アウト。

だから上で紹介したEZ-9もエアクリーナーはわざわざシート裏に設置されています。

ところがX-ADV(INTEGRA)は中身がNC系。

言ってみればビッグスクーターに擬態したロードバイク、つまりエアクリーナーボックスも一般的なオートバイと同じ位置にある。

インテグラのエアクリーナーボックス

コレがミソ。※上の写真はベースのインテグラ

上の方にあるから防塵性が高いんです。

もちろんインジェクション等も高い位置に事や、異物で千切れたり滑ってたりしてしまうベルトではなくDCTなのも大きな要因。

要するにビッグスクーターアドベンチャーなんていうニッチなバイクに仕上げる事が出来たのは、ベースにあたるインテグラがビッグスクーターではなく

「ビッグスクーターに擬態したロードバイクだったから」

というわけ。

X-ADVトラベルエディション

だからビッグスクーターの低重心な姿を保ったままアドベンチャー要素を取り入れる事が出来た。

有りそうで無かったのは何処も作らなかったわけではなく、何処も作れなかったから。

X-ADVはビッグスクーターに擬態している事を最大限活かしたビッグスクーターアドベンチャー・・・と言うより

X-ADV壁紙

「ビッグスクーター”モドキ” アドベンチャー」

と言ったほうが正しいかもしれないですね。

主要諸元
全長/幅/高 2230/910/1345mm
シート高 790mm
車軸距離 1580mm
車体重量 238kg(装)
燃料消費率 27.0km/L
※WMTCモード値
燃料容量 13L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 745cc
最高出力 54ps/6250rpm
最高トルク 6.9kg-m/4750rpm
変速機 電子式6段変速(DCT)
タイヤサイズ 前120/70R17(58H)
後160/60R15(67H)
バッテリー YTZ14S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
FR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量4.1L
交換時3.2L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
スプロケ 前17|後38
チェーン サイズ520|リンク118
車体価格 1,209,600円(税別)

主な変更

2018年:ホンダセレクタブルトルコン(二段階+OFF)を装備

2019年:ETC2.0を標準装備

系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)

NC750S/X/INTEGRA(RC88/90/89) -since 2016-

2016年式NC750

売れてるからか二年でまたモデルチェンジしたNCシリーズのNC750S(RC88)とNC750X(RC90)。

基本的な構造は先代のままだけど見た目が大きく変わったからインパクトはありますね。

グローバルのコストパフォーマンスモデルなのにLEDを装着とは。もしかして時代は進んで今やハロゲンとあんまりコスト変わらないんだろうか。

LEDヘッドライト

リアのテールランプこれグロムと同じやつかと。LEDなら流用は歓迎ですね。

LEDテールライト

当然ですがLEDパーツ流用して見た目を新しくしただけじゃありませんよ。

このモデルで大きく進化した点は2つ。

1つ目の進化はデュアルベンディングバルブフロントフォーク。

フロントフォーク

これはSHOWAが開発した新しい構造のサス・・・というより減衰方式で、それまでのオリフィスの穴による抵抗から、多重構造バルブにすることでプログレッシブな減衰を可能にした新しいサスペンション。

フロントフォーク

ザックリ簡単に説明するとインナーチューブにあるフォークオイルの出入り口を変えるだけなので、従来形状のまま付けるだけというお手軽さが売り。そんなお手軽変更でもピッチングモーションが抑えられジェントルなワンクラス上のサスに。

既存のサスにも後付け出来るようなキットを売れば爆発的な人気が出る様な・・・売って欲しいですがSHOWAだし無理か。

そして2つ目はマフラー。

2016NC750Xアクセサリー

見て分かる通り形状がよりスタイリッシュになりましたが、進化したのはソコじゃありません中身です。

注目して欲しいのはエンド付近のパンチング孔とレゾネーター室。

muffler

パンチング孔はまだしも”レゾネーター室とはなんぞや”とお思いの人も多いでしょう。

レゾネーターというのは別名ヘルムホルツと言い、笛などにも使われている共鳴器の事。つまりこの構造にしたことで低周波域が強調されてる。つまり270度クランク(Vツイン)特有のパルス感が強調されるようになったという話。

先代の750が二軸バランサーも相まって非常にジェントルな特性になってたんだけど、今回は逆に強調させるようにキャラ立てしてきたわけです。

RC90

消音には人一倍うるさく、チェーンの音しか聞こえない事を正義の様に思ってるホンダがこんなことをしてくるとは少し意外ですね。騒音規制が国際基準化で少し緩和されたのも影響してるのかな。

ちなみにエンジンとフレームは変わってないので先代と互換性があり、ジェントルな先代にもパルス感溢れるこの代にもなれる模様。まあそれだけで現行ってわけには行きませんが。

他にはDCTも進化して3段階調節が付くように。

DCT

クラッチにも改良が加わっており更にスムーズにシフトチェンジフィールが改善。

あとはスクリーンの大型化(750X)とかかな。まあとにかく結構色んな改良が加わってて、まあその分お値段も五万円ほど上がってるのが痛い所ですがそれでも大型バイクとしてはかなり安い部類かと。

ウェイブキー

あとウェーブキーも採用。調べてみると最近ホンダ車はウェーブキーの採用を進めているみたいですね。耐久性、防犯性に優れる既存の鍵とは違うちょっと変わった鍵。

これに伴ってハンドルロックとキーシリンダーも強化タイプに変わったそうです。

キーシリンダー強化はありがたい話。ハンドルロックが壊れて解除出来なくなった経験をした事ある人は多いと思います(最近のバイクはそうでもないのかもしれないけど)

ところで本当はインテグラもフルモデルチェンジしててRC89となったんだけど、何故か日本では同時発売はされず。

2016インテグラ

TMAXもそうだったんですよね。やっぱり売れる市場を優先してるからだろうか。まあ日本ではこのクラスは無いに等しいしね・・・

最後に

ホンダがどうしてこんな異質なバイクを作ったかといえば当然ながら根拠があります。

ホンダが日米欧で調査をしたところ、普段使いのライダーの9割が日常では6000rpm以下で走行、最高速は140km以下という調査結果が出ました。

この調査結果を見て

「1割を捨て、9割を取った新しいバイクを作ろう。」

となったわけです。

加速性能

ご存知のようにホンダに限らずほとんどの大型バイクは9割の人間が使わない6000rpm以上の部分に多くのコストを割いています。何故なら馬力や速さというのは数字で表せる分かりやすいセールスポイントですし、作り手としても技術力を表す燃える部分だからです。

もちろんだからといって「そんな馬力あって何処で使うの」「無駄の極み」「盆栽バイク」と否定するのも違います。その1割の魅力はとても強く、魅了されている人が多いのが事実ですから。大型バイクの特権ですしね。

ただ、そんな1割の為に9割を捨てているバイクがあるなら、9割を取って1割を捨てたビッグバイクがあっても不思議ではないでしょう。 NCはそんな”1割を捨てた勇気あるバイク”です。

NC開発陣

ちなみに左から二番目がNCの生みの親である青木主査なんですが、実はこの人あのNSR250(88以降全て)を開発された方だったりします。

そんなホンダの開発陣いわくNCシリーズの魅力を一言で言い表すなら

NC750S壁紙

「普段使いの最高性能バイク」

との事です。

開発された方なだけあって本当なわかりやすい例えですね。

主要諸元
全長/幅/高 2230/845/1350mm
[2215/775/1130mm]
{2215/845/1320mm}
シート高 830mm<LD:800mm>
[790mm]
{800mm}
車軸距離 1535mm
[1525mm]
{1520mm}
車体重量 218kg(装)
[216kg(装)]
{X:231kg/S:221kg(装)}
燃料消費率 28.3km/L
※WMTCモード値
燃料容量 14L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 745cc
最高出力 54ps/6250rpm
最高トルク 6.9kg-m/4750rpm
変速機 常時噛合式6段リターン
または
電子式6段変速(DCT)
タイヤサイズ 前120/70R17(58W)
後160/60R17(69W)
バッテリー YTZ14S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
IFR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量3.7L
交換時3.1L
フィルター交換時3.4L
または
【全容量4.1L
交換時3.2L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
※DCTモデル】
スプロケ 前17|後43
チェーン サイズ520|リンク114
車体価格

668,000円(税別)
[619,000円(税別)]
※スペックはNC750X(RC90)
※[]内はNC750S(RC88)
※INTEGRA(RC89)は日本未発売
※ABSモデルは+2kg
※DCTモデルは+12kg
※{}内はABSとETC2.0を標準装備した18年モデル

系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)

NC750S/X/INTEGRA(RC70/72/71) -since 2014-

NC750シリーズ

750ccとなった二代目のNCことNC750シリーズ。

ボアを4mm拡大してバランサーを一軸から二軸に変更し振動をさらに低減させました。二軸バランサーって普通高級バイクにしか付けないんだけどね。ホンダで言えばCBR1100XXとか。

一番大きいのはハイギアードでしょうか。700はレッドが6500rpmでトルクフルなのにも関わらずローギアードだったので簡単にレッドに当たる部分を持ってました。それが今回の結構なハイギアード化で解消されたというわけ。まあハイorローは一長一短ではありますが。

NC700の時はエンジンの話ばっかりしてしまって肝心のX、S、INTEGRAの三車種に全く触れてませんでしたスイマセン。

日本で一番最初に発売され、一番人気なのがクロスオーバーコンセプトのNC700X(RC63)そしてNC750X(RC72)です。

NC700X/750X

少しアップ気味なシートポジションでアドベンチャーの空気を醸し出してるモデル。ちなみに似たような車種としてVFR800XとVFR1200Xがありますね。

クロスオーバーコンセプト

ホンダはクロスオーバー出しすぎな気もしますがホンダとしてはこういう住み分けの模様です。

でも正直日本でV4クロスオーバーって車格的にもスペック的にもオーバーで必要性が・・・いやなんでもないです。

次はネイキッドスタイルのNC700S(RC61)そしてNC750S(RC70)です。

NC750S

非常にオーソドックスで外装も必要最低限のモデル。これとクロスオーバーのXは何が違うのかと言えばシート高が違います。Xが830mmなのに対しSは790mmと低め。

安心の足付きで街乗り特化モデル。

NC750教習車

実は教習車としてCB750の後釜になってたりします。こんな新しいバイクで教習できるなんて最近の教習生は羨ましいですね。昔はポンコツの・・・いや、コレもやめておきましょう。

そして最後はINTEGRA(RC63)と750ccになっても変わらずINTEGRA(RC72)です。

INTEGRA

日本でNC700Xが先行発売されたのとは対照的に欧州で先行発売されたスクータータイプ。

欧州市場において打倒TMAX、そしてC650を始めとした相次ぐライバルに対抗するために生み出されました。向こうではこのクラスはMAXIスクーターとか言われています。

RC72

ただ当たり前の様に原付すら抑えて年間販売台数1位を取るTMAXの牙城は厚すぎたのか、2014年モデルではインテグラだけ特別にアルミスイングアームが奢られる厚遇っぷり。欧州ではこのクラスは日常の足で中々な台数が出るから出来るんでしょうね。日本でいう250ビッグスクーターみたいなもんです。

ちなみに国によってはNC700DとかNC750Dという名前だったりします。

さて、NCシリーズといえばメットイン機能を備えているという武器があります。

NC700Xメットイン

通常なら燃料タンクがある部分がパコンと開いてフルフェイスヘルメットを収納できるほどのスペースが設けられているわけです。ちなみに燃料タンクはシート下で給油口はタンデムシートの下。

タンデムシートの下に燃料タンクを設置するというのは、荷物をシートに積んだ状態で給油が出来ず一旦降ろさないといけない手間が掛かるという諸刃の剣なんだけど、NCの場合は驚異的な燃費だからその手間もほとんど要らないから理が大きいね。

ちなみに同じシート下給油が仇となってる車種として有名なのがVmax。

Vmax1200

燃費悪い(10km/L)、ガソリン入らない(15L)、給油口はタンデムシート下、でもう大変。ツーリングに最も向かないバイクと言われてたりするのはコレが理由。まあそもそもアレはドラッガーでツーリングするバイクじゃないしね。

また話がそれました。

インテグラメットイン

ちなみにインテグラも勿論スペースが設けられています。流石にレイアウトの都合でSやXほどのスペースはありませんが、そのぶんだけ足付きが良くなってる。

バイクに乗る人間ならこのスペースのありがたさは痛いほど分かるので力説する事もないでしょう。こういう部分もTake Mid Easyと呼ばれる根拠だったりするわけですね。

主要諸元
全長/幅/高 2210/840/1285mm
<LD:2195/840/1285mm>
[2195/780/1130mm]
{2195/810/1440mm}
シート高 830mm
<LD:800mm>
{[790mm]}
車軸距離 1540mm
<LD:1525mm>
{[1525mm]}
車体重量 217kg(装)
[214kg(装)]
{237kg(装)}
燃料消費率 28.3km/L
※WMTCモード値
燃料容量 14L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 745cc
最高出力 54ps/6250rpm
最高トルク 6.9kg-m/4750rpm
変速機 常時噛合式6段リターン
または
電子式6段変速(DCT)
タイヤサイズ 前120/70R17(58W)
後160/60R17(69W)
バッテリー YTZ14S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
IFR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量3.7L
交換時3.1L
フィルター交換時3.4L
または
【全容量4.1L
交換時3.2L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
※DCTモデル/INTEGRA】
スプロケ 前17|後43
チェーン サイズ520|リンク114
車体価格 668,000円(税別)
[619,000円(税別)]
{830,000円(税別)}
※スペックはNC750X(RC72)
※[]内はNC750S(RC70)
※{}内はINTEGRA(RC71)
※ABSモデルは+2kg
※DCTモデルは+12kg
系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)

NC700S/X/INTEGRA(RC61/63/62) -since 2012-

NC700X

「New Mid Concept」

ホンダが考えた新しい感動を具現化したバイク。

ニューミッドコンセプト

270度パラツインエンジンを前傾に62°と大きく傾けてスチールパイプフレームに搭載。

非常に低重心なのが写真を見ても分かりますね。

NC700プラットフォーム

このプラットフォームをベースにクロスオーバーのNC700X、ネイキッドのNC700S、スクータータイプのINTEGRAの3バリエーションで展開。

NC700シリーズ

これが出た時

「インテグラと言えば車だ。カッコインテグラ!」

なんて言われたけど、元々インテグラはバイク(1982年CBX400Fインテグラ)が始まりなので返してもらったと言ったほうが正しいです。

カッコインテグラ

・・・というかカッコインテグラとか言っても今時の人は分からないか。ホンダのスポーツカーで昔インテグラっていうのがあったんです。

カッコインテグラ

その車のキャッチコピーが「カッコインテグラ」で車も言葉も大ヒットしました。・・・って車の話はどうでもいい。

このNC700の特徴としてまず挙げられるのが低価格だということ。

日本はNC700X(欧州はインテグラ)が先行発売されたんですが、発売当時649,950円と700ccの大型なのにCB400より安いと大きく話題になりました。

どうしてこんなに安いのかと言えば約四割の部品を海外調達しているからですが、それだけでこれだけ価格が抑えられるなら苦労しない。最初に紹介した通り3モデルというバリエーション展開もコストを下げるため。工業製品の製造コストと言うのは出る数で決まりますから。

もちろん単純なコストカットだけでなくコスト節約のための工夫が随所に見受けられます。

例えばブレーキローターの部分。

NC700プラットフォーム

NC700シリーズのフロントディスクローターって大径で中がスカスカだと思いませんか?

実はこれ、一枚からフロントローターもリアローターも取るっていう一枚で二度美味しい的な事をやってるから。

ディスクローター

思わずナルホドと唸りますね。NC700のフロントローターがコスパと言う割に大きい物を付けてるのはこれが理由。

部品の海外調達もただ海外で作ってるというわけではなく、例えばフレームはインドで材料を調達して、フィリピンで加工して、日本(熊本製作所)で作ってる多国籍フレーム。

熊本工場

ちなみにこのバイクをタイなどのアジアで作っているという勘違いを見たりしますが作ってるのは熊本製作所ですし、エンジンに至っては完全国内生産です。

2016年4月の熊本大地震でこの製作所も被害を受けたようです。ここはホンダの国内二輪を一手に担う工場であり、世界各地にあるホンダ工場の中心マザーファクトリーでもある。だから熊本製作所は勿論のこと、被害に遭われた皆様の一日でも早い復興を祈っています。

さてまた話をNCにもどして・・・このNC700のエンジンはフィットのエンジンを半分にした物っていう逸話が有名ですね。

最近になって少し変わってきましたがそれでもバイクはずっと高馬力でナンボ、高回転でナンボ的な考えが当たり前で燃費の方はメーカーもライダーも関心がない。

2012NC700S

しかしこのNC700のコンセプトは「Take Mid Easy」です。

つまりいつでも気軽に乗れるミドルクラス。気軽に何処へでも乗って行くなら燃費も大事という事で低燃費エンジンを作ろうと決まりました。会社からは「低価格の大型バイク」という要望だけで燃費については何も言われなかったそうですが、ただ低価格なだけのバイクなんてツマラナイとして燃費も追求するようにしたそうです。

が、先に言ったように今まで二輪で燃費なんて大して考えてこなかっただけあり、どうすれば燃費が良くなるのかサッパリで頓挫。

そんなこんなで行き詰った中での飲み会で

「フィットのエンジンを半分にして載せちゃえば、直列2気筒の670ccになりますね」

と、酔った勢いの冗談で言った一言が引き金に。すぐにフィットの開発陣に頭を下げて低燃費技術を乞い行ったそうです。

フィットL13A型

だから出来たエンジンのボアストロークはフィット(L13A型)とほぼ一緒。ストロークが数mm違うだけ。

実は二輪部門の人間と四輪部門の人間が接触して技術提供するのはホンダにとっては異例な事だそうです。同じホンダなのに大きい会社というのは違いますね。

そんなFITを参考に作ったエンジンですが、一風変わった作りをしていることをご存知でしょうか?

NC700のエンジン

一見するとなんてこと無い270度クランク(Vのツインの様な特性)のパラツインに見えますが、面白いことに吸排気系がほぼ一本化されている作りをしています。要するにツインエンジンなのにシングルエンジンみたいな吸排気レイアウトをしている。

それがよく見て取れるのが吸気ポート。吸気の分岐がシリンダーヘッド内で行われてるんです。

インテーク

皆さんご存知のように普通はもっと前の段階で気筒ごとにマニホールド(筒)で分けられています。何故ならそうしないと圧による吸気干渉を起こしてしまうから。要するに他のシリンダーの吸気動作を邪魔してしまって思い切り吸えなくなっちゃう。

しかしNCではそれを逆手に取って”敢えて”吸気干渉を起こし不規則な燃焼、つまり計算された干渉を起こし鼓動感を出してるわけです。CB1100なんかでもやってる技術ですが、コッチの場合は一本化した上でやってるから更に凄い。

カムシャフト

コレはバルブを動かすカムシャフトで、(写真だと分かりにくいのですが)吸気干渉を計算して右と左でカムプロフィール(山の形)を変えてるんです。

他にも色々とあるんですがまとめると・・・

二輪初の軽量アルミロッカーアームを始めとした技術でフリクションロスを極限まで減らしつつ、意図的な吸気干渉で左右の燃焼に変化を起こし鼓動感を演出しつつ、吸気干渉による発熱差から来る歪みをアルミでも起こさせない設計をしつつ、アイドリングからストイキ(理想空燃比)に張り付く燃焼効率と排気脈動の最適化で41.0km/Lを実現しているわけです。

エンジンスケッチ

そのせいか特許の数も他の車種とは比べ物にならないほどあります。少しは凄さが伝わったでしょうか。

どうしても”低燃費”と聞くと四輪の影響もあって、薄く退屈な特性というイメージが湧いてしまう人が多いと思いますが、そういうわけじゃないという事だけでも伝わってれば幸いです。

NC700Xフルオプション

実際このバイクが出た時に凄く不評というか批判を受けていたのを思い出しますが、実は開発段階でも社内から懐疑的な声がかなり聞こえていたそうです。

しかし絶対的な自信を持っていた開発主査の青木さんはそれらを黙らせる為に、当時のホンダ社長であり、バイク大好きであり、同時にバイクにとてもうるさい伊東前社長が自ら行う市販予定車試乗テストにNC700を紛れ込ませた。

伊東前社長

そしたら「今までにない挑戦的で面白い大型バイクだ」と数ある試作車の中でも大絶賛。

この一件以降はそれまであった反対の声がウソのように鎮まるどころか、「あの社長がベタ褒めしたバイクを俺にも乗せてくれ」と社内一の人気試作車になったそうです。

一般ライダーにはどうだったのかといえば、販売台数を見れば好評なのは一目瞭然ですね。

DCT

最後になりましたが、少し遅れてDCTモデルも追加されました。

主要諸元
全長/幅/高 2210/830/1285mm
[2195/760/1130mm]
{2195/790/1440mm}
シート高 830mm<LD:800mm>
[790mm]
{775mm}
車軸距離 1540mm
{[1525mm]}
車体重量 214kg(装)
[211kg(装)]
{238kg(装)}
燃料消費率 41.0km/L
[41.5km/L]
[38.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 669cc
最高出力 50ps/6250rpm
最高トルク 6.2kg-m/4750rpm
変速機 常時噛合式6段リターン
または
電子式6段変速(DCT)
タイヤサイズ 前120/70R17(58W)
後160/60R17(69W)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
IFR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量3.7L
交換時3.1L
フィルター交換時3.4L
または
【全容量4.1L
交換時3.2L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
※DCTモデル/INTEGRA】
スプロケ 前16|後43
チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 619,000円(税別)
[598,500円(税別)]
{770,000円(税別)}
※スペックはNC700X(RC63)
※[]内はNC750S(RC61)
※{}内はINTEGRA(RC62)
※ABSモデルは+4kg
※DCTモデルは+12kg
系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)