スーパーカブ-since 1958-

SUPERCUB C100

「ホンダが送る豪華版 スーパーカブ号」

今や世界160ヶ国以上で販売され総生産台数一億台を超えた名車スーパーカブの初代であるC100型。

スーパーカブC100

先に紹介したカブF号で成功を収めていたホンダだったんだけど、バイク戦国時代ということで他メーカーに追従されジリ貧状態でした。

そんな中で本田宗一郎はスバルのラビットや三菱のシルバーピジョンといった当時としては高級な乗り物だったスクーターを売ろうとジュノオK型を発売。

ジュノオK

しかしこれがオーバーヒートを起こすなどお世辞にも完成度が高いバイクとは言えず、わずか1年半で生産終了に。

リベンジを誓っていた本田宗一郎だったんですが、そんなある中で通産省後援による海外視察に行こうと専務(後の副社長)である藤沢さんが本田宗一郎を連れてヨーロッパへ。

ジュノオK

そこで見たものは日本でいうところの原付が生活の足、コミューターとして根付いていた事。

本田宗一郎と藤沢武夫はそれを見てもっと庶民に親しまれるバイクを作らないといけないという結論に。

ちなみに参考にしようとバラして持ち帰ろうとした所、重量オーバーだと空港で止められた際に

「俺が重量オーバーならあの太った人はいいのか」

と言って事なきを得たのは有名ですね。

あとマン島TT参戦を決めたのもこの遠征がキッカケです。

会社が傾いていた上に何のノウハウも無かった中で、世界GPに打って出るというのはあまりにも無謀だと言われていました。

マン島レーサー

しかし終わってみたら前人未到の全クラス制覇。ホンダの名を世界に轟かせる事になったわけですが。

話をカブに戻します。

ヨーロッパから帰ってきて本田宗一郎はすぐに次世代のモペット開発計画

「マルMプロジェクト」

を立ち上げました。

本田宗一郎

欧州のように庶民の足として根付く日本のコミューターとして導き出した答えが

「そば屋が片手で運転できるバイク」

でした。

スーパーカブといえば代表的なのは遠心クラッチ開発によるクラッチレス化が有名ですが、開発において他にも大変だったのがエンジン。

本田宗一郎は元々2st嫌いなのでカブは4stで行くと決まったわけですが、2stのA型ですら1馬力だった中で”4馬力”というあり得ないほどの高い馬力目標を掲げました。

これはまだまだ未舗装路の多い日本ではパワーが無いと荷物を載せて走れないという考えから。

このエンジンを任されたのはF号に続き星野さんだったんですが、来る日も来る日も燃焼室の設計を見直す毎日。

C100エンジン

そんな中でも面白いのが

「バルブを大きくするしか道はない」

という事でNGKに当時14mmが当たり前だったネジ径に対し、10mm径の特注プラグを特別に用立ててもらった事。

1958年のチラシ

これによってバルブ径を大きく取ることができ、4.5馬力を発揮するエンジンがなんとか完成。

このように一番初めのスーパーカブであるC100というのは特注部品のオンパレードでした。

スーパーカブC100

馬力だけでなく走破性を上げるために採用した17インチという大径のリムとタイヤもそうですし、泥除けのプラスチックカバーもそう。

コミューターにあるまじきスペックと専用装備を誇っていた。

そのためC100は当時5万5000円と他所よりも3割近く高い車体価格・・・と言ってもこれだけスペシャルパーツを奢っているので普通に売っても採算が取れない。

しかし影の本田宗一郎こと藤沢さんには考えがありました。

C100カタログ

全メーカーの総生産台数が3万台強の時代に

「月3万台売れば量販効果で元が取れる」

として強気な投資/生産を決定。お互いのやることに口出ししないという約束通り本田宗一郎も全幅の信頼を置いていたので何も言わず。

スーパーカブC100

実際どうだったのかというと、初年度こそ目標には届かなかったものの

「速くて燃費が良くて壊れない」

という口コミ、そして鉄の塊のようなバイクしか無かった時代だったので

「スタイリッシュでカッコいい」

という評判もあり二年目には月産3万台という目標を見事に達成。

とにかく造れば造るだけ売れる状況で、完成待ちの卸売業者が工場の外で待機するほど。

そして遂にはスーパーカブ専用の工場まで設立。

鈴鹿製作所

いまホンダのNシリーズ等の軽やFITなどを作っているこの鈴鹿製作所はもともとスーパーカブを造るため、スーパーカブによって建てられた工場だったんですよ。

その鈴鹿製作所が出来てからは月産5万台を超えるほどのペースに。

C100はあまりの売れっぷりから時期によって形や色が少し違うモデルがいくつもあります。

C100のバージョン違い

これが何故かいうと部品メーカーの供給が追いつかなくなったから。

一社のみの供給では間に合わなくなり、色んなメーカーから掻き集める様な形になったんです。

C100のチラシ

当時のチラシでも追いついていないのが分かりますね。

このC100の登場と、強気な戦略のおかげでホンダはバイク業界の盟主として圧倒的な地位を築きました。

そしてスーパーカブは日本だけでなくアメリカでも成功を収めています。

CA100

これはC100の三年後にあたる1962年にアメリカ向けに作った赤いボディとダブルシートが特徴的なCA100。

それまでバイクと言えばハーレーなどの娯楽的なものという文化だったアメリカにおいて、実用バイクという新しい風を吹き込むことに成功。

C105H

1963年に出たスクランブラースタイルのハンターカブC105Hと共にホンダのアメリカ市場の足がかりとなりました。

ちなみにこのスクランブラースタイルのハンターカブは後に日本でも短期間ながら発売される事となります。

このようにスーパーカブというと色んな派生モデルがあり、アジアのウェイブやアストラなどまで挙げだすとキリがないので基本的に国内向けのモデルに絞って紹介していきたいと思います。

ではC100にはどんな派生モデルがあったのかというと・・・

C102型

二年後1960年には要望の多かったセルモーター付きのC102(写真上)と、若者向けに5馬力までチューニングしたエンジンとスポーティなボディのスポーツカブC110(写真下)を発売。

スポーツカブC110

ちなみにこのスポーツカブをベースにしたレースマシンがCR110で、少し前にDream50として復活しました。>>Dream50の系譜|系譜の外側

まだあります。

翌1961年には免許改定に合わせ二人乗り出来るように54cc化して原付二種となったC105とセル付きのCD105、更に1963年にはもっとパワーが欲しいという声に答えて90ccの上位モデルCM90を発売。

CM90

ちなみにこれが皆さんよく知るカブ90の初代モデルなんですが、実はスーパーカブ90は系譜的に言うとスーパーカブC100とは縁もゆかりもないモデル。

というのもこのCM90はC100系とは違いベンリィCD90のエンジンをC100よりも大型なボディに積んだ物。つまり中も外もスーパーカブとは違うモデルなんです。

CM90については後述するとしてC100に話を戻すと、1962年にはギアを一つ減らしウィンカーやブレーキランプを取っ払った廉価版ポートカブC240を発売。

ポートカブ

ポートは文字通り港という意味で、世界中の港で見るように(世界中で売れるように)という意味が込められています。

一応C100の派生カブと呼ばれるのはこれだけ。

最後に初代スーパーカブC100のデザインをされた木村さんが当時を振り返ってこう言われていました。

木村讓三郎さん

「簡単に決まったのは車名だけだった」

デザイン、遠心クラッチ、耐久性、高馬力、低燃費。

スーパーカブC100が空前の大ヒットとなったのは、ホンダ技術者たちの苦労の連続があったからこそという事ですね。

主要諸元
全長/幅/高 1780/575/945mm
シート高
車軸距離 1180mm
車体重量 55kg(乾)
[53kg(乾)]
燃料消費率 90.0km/L
[100km/L]
燃料容量 3L
エンジン 空冷4ストロークOHV単気筒
総排気量 49cc
最高出力 4.5ps/9500rpm
最高トルク 0.34kgf-m/8000rpm
変速機 常時噛合式三速
[常時噛合式二速]
タイヤサイズ 前2.25-17-4PR
後2.25-17-4PR
バッテリー 6N2-2A-7
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
C7H
推奨オイル ホンダウルトラ
夏季#30
冬季#20W,#10W
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量0.6L
スプロケ
チェーン
車体価格 55,000円
[43,000円]
※スペックはC100
※[]内はポートカブ(C240)
系譜図
カブ号F型1952年
Cub F号
初代C1001958年~
SuperCub
C100
1964年式1966年~
SuperCub
C50/65/70/90
1971年式~1971年~
SuperCub
C50/70/90
1980年式~1980年~
SuperCub
50/70/90
2000年式1997年~
SuperCub
50/90
2008年式2008年~
SuperCub
(AA01/JA07)
2012年式50/1102012年~
SuperCub
(AA04/JA10)
2017年式50/1102017年~
SuperCub
(AA09/JA44)

カブ号F号-since 1952-

カブF型

「白いタンクに赤いエンジン」

一番初めにCUBという名が付けられたカブF号。

当時は自転車に後からエンジンを組み込むのがメジャー、敗戦で麻痺した状況においてバイクといえばこれ。

ちなみにカブという名前の由来というか意味は

「クマやライオンなど猛獣の子ども」

という英語から来ています。小さいけどパワフルという事をアピールするためこの名前に。

創業間もない1940年頃のホンダはまだ何社もいた弱小アセンブリーメーカー(組立屋)の内の一つで、エンジンは旧日本軍の払い下げ品である無線機用発電エンジンを三國商店(現ミクニ)から買って改造し売る程度の規模。

バタバタ

これがその横流し品でホンダが一番最初に作った通称バタバタ。

しかし高まる需要に対しミクニからの供給は他社との争奪戦。

「こうなったらエンジンを一から自分達で作ろう」

となったのがホンダの始まり。

エンジンを作ったり売ったりしている同業者は既に大量に居たんだけど、そんな中でホンダのカブ号F号が大ヒットとなったのはエンジンレイアウトにあります。

HONDA A型 このティアドロップタンクがカッコいいバイクはホンダ初の自社製エンジンを積んだA型なんですが、写真のように股下にエンジンがあるのが当たり前だった。ちなみにタンクを作ったのは遠州軽合金、ホイールで有名なエンケイの前身です。

しかし股下にあるとまだまだ精度が高くない2stエンジンだったのでオイルや煤が飛んで来て汚れるし、熱によって火傷を起こすのが当たり前だった。

F型

その問題を解決するために本田宗一郎はエンジンをリアタイヤの側に、そしてその上に燃料タンクを持ってくるという、アイデアでこれを打開。

汚れない&火傷しないという事から大好評で月産1万台という空前の大ヒット。

200社以上いたバイクメーカーの一つでしかなかったホンダが全国に名を広めたのはこのF号の功績。

カブモーター

同業他社からも

「ホンダに続くのはウチだと」

言われるようになりました。

主要諸元
全長/幅/高
シート高
車軸距離 1180mm
車体重量 6kg(エンジン単体)
燃料消費率
燃料容量 3.2L
エンジン 空冷2ストローク単気筒
総排気量 49.9cc
最高出力 1ps/3600rpm
最高トルク 0.33kgf-m/8000rpm
変速機 バリアブル一速
タイヤサイズ
バッテリー
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
スプロケ
チェーン
車体価格 25,000円
※スペックはカブF号
系譜図
カブ号F型1952年
Cub F号
初代C1001958年~
SuperCub
C100
1964年式1966年~
SuperCub
C50/65/70/90
1971年式~1971年~
SuperCub
C50/70/90
1980年式~1980年~
SuperCub
50/70/90
2000年式1997年~
SuperCub
50/90
2008年式2008年~
SuperCub
(AA01/JA07)
2012年式50/1102012年~
SuperCub
(AA04/JA10)
2017年式50/1102017年~
SuperCub
(AA09/JA44)

CRF1100L Africa Twin(SD10) -since 2019-

CRF1100L

「FORGED THROUGH ADVENTURE」

2019年に登場したCRF1100LのSD10型。

最初に変更点を上げると

・防風性能を上げた新型フェアリング
・エンジンを見直し1082ccにしつつ-2.5kg(DCT:-2.2kg)軽量化
・出力特性およびDCTの見直し
・排気デバイスを搭載した新開発マフラー
・クロスパイプを廃止した新設計フレーム
・リアサスペンションレイアウトを変更
・ハンドルポジションを22.5mmアップ
・6軸IMUによる電子制御
・Apple CarPlay対応6.5インチTFTメーター

以下はASモデル
・手動5段階可変スクリーン
・コーナリングライト
・電子制御サスERRA※OP

などなど排気量を上げただけかと思いきや実はほぼ全面的に変わってるフルモデルチェンジになっています。

いくつかピックアップするとまずエンジン。

CRF1100Lのエンジン

ストロークを6.4mm伸ばす事で1083ccとしているんですが、単純に伸ばしただけではなくピストンを20%軽量化することで往復部の耐久性も先代と変わらず確保。

さらにバランサギアのノイズ(遊び)対策として一歯少ないギアをスプリングで重ね、相手を挟み付けるように噛み合わせることで解消していたサブギア機構も交差(精度)を上げることで廃止。

CRF1100Lサブギア

これにより排気量を上げたにも関わらずエンジン単体で-2.5kg(DCT:-2.2kg)の軽量化に成功。

合わせてマフラーもEURO6に対応しつつ小型化し、音の変化を楽しめるCBR1000RR譲りの排気デバイスも装備。

CRF1100Lマフラー

お次はフレームなんですがコッチもすごい。

メインパイプの幅を20mm狭めると同時にクロスパイプを廃止というこれまた大胆な変更を敢行しました。

CRF1100Lフレーム

これは軽量化と同時にフレームに靭やかさをもたせ、マシンの挙動を穏やかにすると同時に安定した旋回特性にするため。

「アドベンチャーでこれって強度とか大丈夫なの」

と不安に思ってしまうところですが、代わりにヘッドパイプ周りとピボット周りそれにエンジンハンガーを見直すことで同等の強度を確保。

CRF1100Lリアフレーム

合わせてリアアームとスイングアームも鋳造と鍛造を連結させたものにしボディ全体で2.3kgの軽量化を実現しています。

ただ恐らく一番分かりやすく感じるであろう変更点は足付きじゃないかと思います。

というのもこの代の日本仕様はサスのストローク量を40mmほど減らす事で足付きを改善した先代でいうLD(Low Down)モデルが標準になりました。

CRF1100L

これは日本国内では環境の関係も相まってASのLD(Low Down)モデルが人気というかほぼそっちばかり売れた事が理由。

だからモデル数を絞ることによるコスト削減でLDのみになったんですが、砂漠の女王レプリカ(詳しくはNXR750参照)というバックボーンも相まって足長モデルを欲する要望がユーザーから出た事で欧州と同じ標準サス仕様のSモデルも限定受注ながら販売。

CRF1100LタイプS

まあSモデルは相当な物好きかスキルを持った玄人向けモデルなので除いたとしてもCRF1100Lは

【ノーマルモデル】
・CRF1100L
・CRF1100L DCT(DUAL Clutch Transmission)

【AdventureSportsモデル】
・CRF1100L AS(Adventure Sports)
・CRF1100L AS DCT
・CRF1100L AS ES(Electric Suspension)
・CRF1100L AS ES DCT

と6パターンもあって

「色々あってよく分からん」

と感じている方も多いかと思います。しかし今回の開発の狙いを知ればそれが明確になると思うので少しご紹介。

CRF1100Lへのモデルチェンジンの狙いがなんだったのかというと大きく分けて三つあり、一つはパワーを上げること。

CRF1100Lパワーカーブ

これは既存のCRF1000Lに対するアンケートを取った所

「もう少しパワーが欲しい」

という声が多く聞かれたから。だから排気量を上げる事になったんですが重くなることを何としても避けたいという事で最初に話したようストロークを上げるだけではなくほぼ全面的に作り直されることになった。

そしてもう一つがよく分からんっていう人へのヒントになる開発の狙い。

CRF1100LとAS

「ノーマルモデルとアドベンチャースポーツの区別化」

です。

先代でASが追加されたもののビッグタンクか否か程度の違いでコンセプトが立っていないという事からCRF1100Lではそれをより鮮明に出そうとなった。

AdventureSportsにのみ

・コーナリングヘッドライト
・可変式スクリーン
・チューブレスタイヤ
・SHOWAの電子制御サスペンションEERA

などが用意されているのは

アドベンチャースポーツのコンセプト

「どこまでも行けるアフリカツイン」

というツアラーというかトラベルエンデューロ色を明確化に分かりやすく打ち出す狙いがあり、反対に無印の方はリアキャリアなどの装備を極力省くことで装備重量の軽さを優先することで

ノーマルモデルのコンセプト

「どこでも行けるアフリカツイン」

というビッグオフ色を明確に打ち出す形にした。

CRF1100Lポジションマップ

つまりどっちが上位でどっちが下位とかではなく方向性が違う別のモデルであり、あとは好みに合わせてMT/AT(DCT)を選んでねっていう話。

先代の開発の狙いも含めたうえでチャートを作ればもう少し分かりやすいかなと思ったんです・・・が、思ったほど分かりやすくなかった。

CRF1100Lのグレード選び

まあ参考程度に。ちなみに上下対応のクイックシフターやDCT用シフトペダルがOPで用意されています。

ところでアフリカツインは2016年に登場し2018年にASモデルが追加・・・と思ったら2019年にフルモデルチェンジ。

「モデルチェンジ早くないか」

と感じている方も多いかと思います。

CRF1100Lの年表

こうやって並べてみるとなんと毎年何かしらのモデルチェンジをしている。

これ何故かというと森田プロジェクトリーダー曰く

「アフリカツインを今度こそ本気で育てる」

という思いがあるから。

CRF1100Lの壁紙

系譜を見てもらえるとわかる通りアフリカツイン(XRV)は知名度のわりに一度生産を終了しています。累計7.3万台以上を売るほどの人気だったんですが、もともと限定販売が前提だったためか2001年に生産終了。

それ以降ずっと再販の声があったにも関わらず応えられずにいたことをホンダも相当心苦しく思っていたようで、今度こそアフリカツインというブランドを途切れさせずまた育て上げるという意思の現れがこのモデルチェンジラッシュなわけですね。

ホンダCRF1100L

もちろん意気込みだけでなんとかなるほど甘い世界ではないんですが、幸いにもアフリカツイン日本はもちろんビッグアドベンチャーの本場欧州でも向こうでも

「本当に道を選ばずオフロードもしっかり走れる」

としてかなり評判が良く、難攻不落の絶対王者GSが君臨するドイツですら地元誌MOTORRAD(Beliebteste Honda-Modelle im vergangen Jahrzehnt)によると登場から4年ほどで既に1万台も売れ

「ここ10年で最も成功したホンダ車」

と称されたりしています。これはもしかすると・・・もしかするかも知れない。

参照:CRF1100L AfricaTwin|HONDA

主要諸元
  CRF1100L CRF1100L
Adventure Sports
全長/幅/高 2310/960/1350
S:2330/960/1395
2310/960/1520~1580
S:2330/960/1560~1620
シート高 810~830mm
S:850~870mm
車軸距離 1505mm
S:1575mm
車体重量 226kg(装)
S:226kg(装)
DCT+10kg
ES+2kg
238kg(装)
S:240kg(装)
DCT+10kg
ES+2kg
燃料消費率※WMTCモード値 21.3km/L
燃料容量 18.0L 24.0L
エンジン 水冷4サイクルOHC二気筒
総排気量 1082cc
最高出力 102ps/7500rpm
最高トルク 10.7kg-m/6250rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前90/90R21(54H)
後150/70R18(70H)
前90/90R21-54H
後150/70R18-70H
(チューブ)
バッテリー HY110
プラグ SILMAR8A9S
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.8L
交換時3.9L
フィルター交換時4.0L
DCT:全容量5.2L
交換時4.2L(フィルター交換時)
交換時4.2L(クラッチ交換時)]
スプロケ 前16|後42
チェーン サイズ525|リンク124
車体価格 1,470,000円(税別)
DCT+100,000円(税別)
1,640,000円(税別)
DCT+100,000円(税別)
ES+300,000円(税別)
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

【関連車種】
SUPER TÉNÉRÉの系譜V-STROM1000の系譜VERSYS1000の系譜R1200GSの系譜

CRF1000L Africa Twin(SD04) -since 2016-

SD04

「True Adventure」

実に15年ぶりの復活となったアフリカツインのCRF1000L/SD04型。

CRF1000Lのエンジン

最大の特徴は52°Vツイン742ccから270°クランク並列二気筒998ccのエンジンになっていること。

これは車体のコンパクト化とマスの集中化を図る狙いがあり、これのおかげでリッターとは思えないほどコンパクトになっています。

CRF1000LとXRV750

もちろん最低地上高を考慮したドライサンプな上に、二軸一次バランサーが付いているので疲労に直結する振動はほぼありません。

そんなCRF1000Lで面白い試みなのがDCTを採用したグレードがあること。

DCT

「アドベンチャーでDCTって・・・」

と思った方も多いかと思います。

悪路になるとどうやっても滑るから意図的に引っ張って地面を掻いたり、半クラやギアチェンを使うシーンも多々あるわけですからね。

これについてはホンダも最初はお試し程度の半信半疑でテストしたんですが、やってみると意外と良い事がわかったから採用する事になりました。

2016アフリカツイン

クラッチレスは良く捉えるとエンジンストールの恐れが無いわけです。

つまりどんなに神経を使う道でもアクセルワークに集中出来る。このメリットが想像よりも大きかった。

ベースとなっているのはVFR-Xの物ですが、もちろんそのままではなくオン/オフどちらも熟せるアフリカツインに合わせてチューニングされた物です。

ABSスイッチ

それに加えアフリカツインは”G(グラベル)モード”というシステムがあります。

DCTは実質ATなので、ギアチェンやアクセルのON/OFF時にはギクシャクしないように半クラ制御が入ります。

この半クラ制御がアクセルで物言わせて走る場合が多い未舗装路では違和感として現れる場合がある。

といってもコンマ何秒の世界なんですが、このGモードはそのコンマ何秒の半クラ状態を更に縮める為の制御。よりアクセルワークをダイレクトに地面に伝える為のモードというわけ。

アフリカツインのカタログ写真

もちろんギアチェンを自動にしないMTモード、引っ張るSモードLv1~3、自動のDモードなど自分でチョイス出来るようにもなっています。

それに走行モードとABSのON/OFFとTCSのモードを組み合わせると・・・

Dモード

全部で80通りの走行モードが・・・ホンダのDCTアドベンチャーへの本気度が見て取れますね。

もちろん従来どおりのMTモデルもあります。

開発責任者の飯塚さんのニュアンスから察するにDCTモデルは本気アタックするような人に向けた機能ではなく、気軽に楽しめるようにした初~中級者向けの機能。

「そんなの要らない」

って上級者の方はMTモデルをどうぞという話。

シルバーアフリカツイン

さて、そもそも何故いまになってアフリカツインが復活したのかというと

・アフリカツインの再販を望む声が多かった

・欧州を中心にアドベンチャーブームが再燃した

・ホンダがダカールラリーに再参戦した

などなど様々な理由がありますが、恐らく一番大きいのはマーケットからの要望と思います。

ちなみに現在はパリダカではなくダカールラリー。

これは治安や政治的な問題で舞台が南米になったから。ちなみにレギュレーションは二気筒450ccまでとなってます。

話を戻すと、アフリカツインはアドベンチャーの中でもかなりオフロード寄りな造り。

フレーム

分かりやすい所で言えばクラストップの21インチFホイールや、クラストップの45mmフロントフォークなど。

明らかにオマケではなく”本気で”オフを走れる様に造ってある。

CRF1000Lスケッチ

メディア向けの試乗会でもわざわざモトクロスコースを用意して走らせてる事を見ても明らか。

その意気込みというか思い切りの良さが伝わったのか、このCRF1000Lは発売一週間で年間販売目標の1000台を超えてしまうほどの人気となりました。

MTとDCTの割合は半々で購入層は40~50代がメインとのこと。

新型タイヤ

やっぱりNXRや旧アフリカツインの世代に人気なんでしょうね。

翌2017年に排ガス規制に対応させ約3馬力アップし、2018年にはマイナーチェンジ。

2018年CRF1000L

・電子制御スロットル
・オートウィンカーキャンセラー
・急ブレーキを後続に知らせるエマージェンシーブレーキランプ
・HSTC(電子制御)の設定幅向上
・リチウムイオンイオンバッテリー
・グリップヒーターとACC電源の標準装備
・上下対応クイックシフター※OP

などのマイナーチェンジが実施され、それと同時に

・大型ワイドスクリーン
・24Lのシームレスビッグタンク
・ステンレス専用キャリア
・フロントガード
・フロントユーティリティポケット
・ストローク量を増やした専用サス

が備えられたCRF1000L AS(Adventure Sports)というグレードが追加。

CRF1000Lアドベンチャースポーツ

専用サスペンションの関係でただでさえ常人には厳しい足つきだったのに、更にシート高が60mm上がるというガチンコ仕様なんですが流石にそこら辺はホンダも考慮しており、ASモデルにはサスストロークを縮めてシート高を60mmつまりノーマルと同じシート高にしたLD(Low Down)モデルが用意されました。

こちらが非常に人気だったみたいですね。

最後に・・・

アフリカツインは非常に高い評価と人気を獲得しています。

2016アフリカツイン

その理由は

『NXR~アフリカツインというブランド』

『ダカールラリーからのフィードバック』

といった事もあるでしょうが、一番の理由は車体設計を担当された山倉(写真中央)さんにあると思います。

開発メンバー

山倉さんは子供の頃にパリダカを見てラリーに目覚め、そして砂漠の女王NXRの快進撃に感動し、旧アフリカツインを購入し、ホンダに入社することを決意された方。

そして希望通りホンダに入社してからも

「アフリカツインの設計がしたい。現代技術のアフリカツイン造りたい。」

と、ずーっと言い続けていた。

もうアフリカツインを造るためだけにホンダに入社した様な方で、念願のアフリカツイン復活プロジェクトがスタートした瞬間からヤル気が炎に。

コンセプトスケッチ

自身が担当する事となった車体設計はもちろん、エンジンも妥協したくないとHRCでMotoGPにも携わっていたスペシャリストの飯田さんを呼び寄せ、デザイナーの小松さんにはアフリカツインらしさを力説。

そしてオフに明るくないメンバーと意思疎通するために、自己所有の旧アフリカツインを持ち出し社内のエンデューロ大会に出場。

エンデューロ大会

その活動を始めたおかげでメンバー全員がアフリカツインがどういうバイクなのか、アフリカツインの魅力が何なのか、エンデューロが如何に楽しいかを共有することが出来た。

それどころか山倉さんの熱にやられてアフリカツインを自費で購入するメンバーが6人も出る始末。

誰よりもアフリカツインに思い入れがある山倉さん、そしてその思いを共有したメンバーによって開発されたCRF1000L Africa Twin。

2016アフリカツイン広告

アフリカツイン愛溢れる人達が造ったら、そりゃ良いアフリカツインが出来るわって話。

※2019年:ETC2.0を標準装備化

主要諸元
全長/幅/高 2335/930/1475mm
{2330/930/1475mm}
シート高 870~850mm
車軸距離 1505mm
車体重量 232kg(装)
[242kg]
{230/240kg(装)}
燃料消費率 21.6km/L
{21.1km/L}
※WMTCモード値
燃料容量 18L
エンジン 水冷4サイクルOHC二気筒
総排気量 998cc
最高出力 92ps/7500rpm
{95ps/7500rpm}
最高トルク 9.7kg-m/6000rpm
{10.1kg-m/6000rpm}
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前90/90R21(54H)
後150/70R18(70H)
バッテリー YTZ14S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR8A9S
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.9L
交換時3.9L
フィルター交換時4.1L
[全容量5.2L
交換時4.2L(フィルター交換時)
交換時4.2L(クラッチ交換時)]
スプロケ 前16|後42
チェーン サイズ525|リンク124
車体価格 1,250,000円(税別)
[1,350,000円(税別)]
※[]内はDCTモデル
※{}内は2019年モデル
※ASは+10kg
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

XL1000V VARADERO(SD01/02)-since 1999-

バラデロ

「Change your VIEW」

実質的にトランザルプのリッター版として登場したXL1000Vバラデロ。

エンジンは日本でもお馴染みVTR1000Fの90°Vツインを使っているので、厳密に言うと系譜は繋がっていません・・・が、同じアドベンチャークラスという事で少しご紹介。

ちなみにバラデロっていうのはキューバ最大のリゾート地であるバラデロ半島から取ってます。
XL1000V

トランザルプの方を読んでもらってると分かる通り、このクラスのマルチパーパスというのは欧州で人気があります。

それはこのバラデロも例外ではなく、エンジン元であるVTR1000が2007年の排ガス規制を機に生産終了したのに対し、このバラデロはVTR1000Fを差し置いて2003年にFi化(SD02型)され継続販売。
VARADERO

スペインで2013年まで生産発売され根強い人気がありました。

元気なエンジンを積んだ楽ポジバイク・・・例えるなら”ストリートラリー”ですね。

主要諸元
全長/幅/高 2300/930/1465mm
シート高 838mm
車軸距離 1560mm
車体重量 265kg(装)
燃料消費率
燃料容量 25L
エンジン 水冷4サイクルDOHC二気筒
総排気量 996cc
最高出力 94ps/7500rpm
最高トルク 10.1kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/80R19(59H)

後150/70R17(69H)

バッテリー 6N4-2A-4
プラグ

※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価

DPR8EVX-9

[IJR8B9]

推奨オイル
オイル容量

※ゲージ確認を忘れずに

交換時3.4L

フィルター交換時3.6L

スプロケ 前16|後47
チェーン サイズ525|リンク112
車体価格

※国内正規販売なしのため

※[]内はSD02

系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

Africa Twin(RD03/04/07) -since 1988-

アフリカツイン/RD03

「ON THE TRAIL OF HEROS.」

先に紹介した通りホンダはNXR750の公道モデルとしてトランザルプを出しました。

しかし

「もっとNXR750なバイク」

という声が多かった。

要するにもっとラリーレイド感溢れるNXR750レプリカって事ですね。

初代アフリカツイン

その期待に応える様にホンダが出したのだラリーレイド感が溢れ出ているアフリカツイン。

名前の由来はもちろんパリダカ。広大なアフリカの大地を連想させるという理由から命名されました。

RD03

24Lと大きめカウルマウントタンクに大きな丸目二眼がNXR750を彷彿させますね。

アフリカツインとNXR

日本では馴染みがありませんが、海外ではXRVという車名でした。

アフリカツインは簡単に説明するとトランザルプを更にオフロード寄りにした形。

アフリカツイン構造

こう言うとトランザルプと同じ様に見た目だけと思いがちですが、アフリカツインの場合は違います。

専用のサスペンションとフレームで潤沢なホイールトラベル、大径ホイール&ディスクローター&フェンダー兼カバー。

キャブやら何やら(以下省略)でちゃんと煮詰められたオフロード寄りのデュアルパーパス。

1988アフリカツイン

その証拠に実はアフリカツインもパリダカに出場してるんです。

参戦したのはプロダクションクラス(無改造)というクラスで・・・しかも見事に優勝。それも一回ではなく1989-1990と二連覇。

アフリカツインパリダカ

これだけでアフリカツインが見掛け倒しのラリーレプリカじゃない事が分かるかと思います。

「本当にパリダカを走れるマシンが買える」

としてトランザルプ同様に世界中で人気となり、限定ながらモデルチェンジを繰り返す事になりました。

Africa Twin
(RD04)
-since 1990-

RD04

二代目のRD04型。

・キャブの大径化及び742cc化で57馬力

・ホイールベースを10mm延長

・ヘッドライトの光量アップ

・ダブルディスクブレーキ化

・バッテリー容量アップ

・ハイスクリーン化

・多機能デジタルメーター(92年モデル)

Africa Twin
(RD07)
-since 1993-

RD07

三代目となるRD07型。

・フレーム新設計で

・シート見直し

・キャブ変更

・ホイールベース10mm短縮

・リアをラジアルタイヤ化

・EGマッピング&カウル&スクリーン見直し(95年モデル)

そして2000年(一部の国では2003年)に生産終了となりました。

アフリカツインカタログ

言うまでもありませんが、約10年という息の長さがあったのはNXR750レプリカという要素を除いてみてもよく出来ていたから。

山道も林道も高速道も全てを何不自由なく熟せるスーパーアドベンチャーでした。

主要諸元
全長/幅/高 2310/900/1320mm
[2330/895/1420mm]
{2320/905/1430mm}
シート高 880mm
{865mm}
車軸距離 1550mm
[1560mm]
{1550mm}
車体重量 221kg(装)
[236kg(装)]
{234kg(装)}
燃料消費率 32.0km/L
[30.0km/L]
{24.1km/L}
※定地走行テスト値
燃料容量 24L
{23L}
エンジン 水冷4サイクルV型OHC二気筒
総排気量 647cc
[{742cc}]
最高出力 52ps/7500rpm
[{57ps/7500rpm}]
最高トルク 5.7kg-m/6000rpm
[{6.1kg-m/5500rpm}]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/90-21(54S)
後130/90-17(68S)
{前90/90-21(54H)
後140/80-17(69H)}
バッテリー YB12A-B
[YB14-B2]
{FTX14-BS}
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
交換時2.2L
フィルター交換時2.6L
[{全容量3.2L
交換時2.4L
フィルター交換時2.6L}]
スプロケ 前16|後48
[{前16|後43}]
チェーン サイズ525|リンク124
{サイズ525|リンク122}
車体価格 749,000円(税別)
[789,000円(税別)]
{890,000円(税別)}
※[]内はRD04
※{}内はRD07
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

XL600V TRANSALP(PD06) -since 1987-

トランザルプ600V

「RALLY TOURING」

ここで登場するのがアフリカツ・・・ではなくトランザルプ。

先に紹介したパリダカのワークスマシンNXRを彷彿させるスタイリングのオンロードマシンとして登場しました。

XL600V

別名XL600Vともいい、こう見えてXLシリーズの一車種だったりします。

開発もXLを担当したチームでコンセプトは

「NXR750の持つ快適性のオーバーラップ」

ちなみにTRANS(超える)ALPS(アルプス)でつなげてTRANSALP。

ただこう見えてベースとなっているのは偉大な二つのレーサーを生んだXLV750Rではなく、VT500というクルーザー。

V52

Vバンクも45度ではなく52度と僅かながら開いた別物を600ccにまで拡大したエンジン。

こう書くと

「見た目だけのパリダカマシン」

と思いがちですが・・・まあ違うと否定できない部分もあります。

ただしトランザルプは道を選ばないデュアルパーパスと非常によく出来ていたのは事実です。

なんでも、開発チームいわくベース(VT500)が完全なオンロードだったのが逆に良かったそう。

XL600Vカタログ写真

オフロードモデルに使われるエンジンというのは、オン/オフ両対応できる汎用性を考慮して設計されているのが基本。

しかしトランザルプの場合、オフを全く鑑みていないVT500だった。

だから開発チームはXLで培ったオフロード要素を全力で注ぎ込まないとオフ要素をもたせる事が出来ないと考えたんです。

トランザルプカタログ

そうして全力でXLのノウハウを詰め込んで出来上がったのを見たら

”オンもオフも高いレベルで熟せる万能マシン”

が誕生したというわけ。

怪我の功名みたいなバイクですね。

トランザルプはその高い快適性と汎用性から欧州で爆発的な人気を誇りました。

TRANSALP600V

危ない部類(100ps/250kmオーバー)ではない事から保険料が安いこと、そしてパリダカマシンNXR750を彷彿とさせるスタイルも追い風となりました。

対して日本は最初の数年のみの販売・・・まあ日本は文化がね。最近になって盛り返して来てますが。

だから生産も途中から欧州に切り替わり、ダブルディスクブレーキ化や外装変更などが加わりしました。

XL650V TRANSALP
(RD10/11)
-since 2000-

XL650Vトランザルプ

これは二代目RD10型とスペイン生産に切り替えられたRD11型。

ボアを拡大し647ccとし、リアタイヤも120/90R17に変更。

XL700V TRANSALP
(RD13/15)
-since 2008-

トランザルプ700

三代目となるRD13型(スペイン産)とRD15型(イタリア産)。

ボア拡大と圧縮比の向上、更にFI化に加え大型ヘッドライト、前後ラジアルタイヤ化など。

日本からすると考えられないけど、向こうではトランザルプはアフリカツインと共に一時代を築いたTWO BROTHERという立ち位置なんですよ。

主要諸元
全長/幅/高 2265/875/1275mm
シート高 850mm
車軸距離 1505mm
車体重量 197kg(装)
燃料消費率
燃料容量 18L
エンジン 水冷4サイクルOHC52度V型二気筒
総排気量 583cc
最高出力 52ps/8000rpm
最高トルク 5.4kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/90R21(54S)
後130/80R17(65S)
バッテリー YB12A-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.8L
交換時2.2L
フィルター交換時2.2L
スプロケ 前15|後47
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 598,000円(税別)
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

NXR750-since 1986-

ホンダNXR750

『砂漠の女王』

NewXRということからNXR750と名付けられたアフリカツインのご先祖様というか起源であるホンダのパリダカワークスマシン。

水冷化やクランク新造なので見た目は大きく違うわけですが、前ページのRS750Dを造った松田さんが直後に手掛けたモデルな事もあり同じ45°Vツイン90°位相エンジンを積んでいます。

NXR750エンジン

ちなみに説明していませんでしたが、位相というのはクランクピンを前後で共有せずに(並列二気筒のように)それぞれ設けて少しずらす事。

こうすることで狭角ながら一次振動(大きな振動)が無いVツインとなります。

そんなNXR750の武器はトラクション感が強い90°位相Vツイン(495-225)もそうですが、安定性を向上させる事も重視された。

例えばいま説明した水冷化ですが、当時はまだ空冷がメジャーだった時代。何故なら水がない砂漠でラジエーターが壊れたり、漏れや詰まりが起こったら修復が不可能だからです。

NXR750サイド

でも安定した性能(冷却性)を確保するなら絶対に水冷がいい。

そこで取った方法が

「冷却を二分割する」

という方法。

NXR750フロント

万が一、転倒やアクシデントで片方のラジエーターを壊しても、ラジエーターを除くように繋げれば片肺とはいえオーバーヒートは防げる。

これのおかげでNXR750はオーバーヒートによるトラブルが一度もありませんでした。

そしてもう一つは燃料タンク。

パリダカNXR

パリダカは450kmを走り切る燃料を積むことがレギュレーションで決められていました。

そしてNXR750の燃費は10km/L。悪いように思えますが、これは現地の燃料が粗悪で圧縮比を高く出来ないから。

つまり約50Lもの燃料を積めないといけない。しかしそんな大容量を通常通りの方法で積むと重心や重量バランスが崩れてしまう。

NXR750リア

そこで編み出されたアイディアが

「燃料ラインを三分割する」

というラジエーターに通ずる考え。

NXR750の燃料タンクは前にメイン二つ(左右分割&脱着式)、そしてリアに一つという独立した三つのタンク構造になっています。

NXR750のガソリンタンク

下の方に行くほど膨れ上がるメインタンクはNXR750のトレードマークですね。

そしてフューエルコックの位置を三つ揃える事で燃料の移動をスムーズにし重量バランスの問題を解決。

更には万が一、転倒などでどれか駄目になってもコックを閉めて移せば走れるという革新的かつ手堅い構造。

なんでも妊娠中の奥さんの(下のほうが膨らんでいる)お腹を見て閃いた構造なんだとか。

NXR750ダカールラリー

NXR750が四連覇を成し遂げられたのはこの”堅実さ”があったからです。

一つ面白い話をすると、初参戦の1986年パリダカの雰囲気が一変したのは有名な話。

何故ならホンダの参戦マシンがWGPと同じスポンサーカラー・・・ロスマンズカラーだったからです。

NXR750壁紙

「ロスマンズカラー×ホンダ×謎のバイク」

これだけでホンダが本気でパリダカを取りに来たのが誰もが分かった。

そしてその下馬評通り・・・どころか下馬評を大きく上回るパリダカ四連覇という伝説を残しました。

主要諸元

※ファクトリーマシンのため不明

系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

XL600R PHARAOH(PD03) -since 1985-

pd03

「アドベンチャー・ロマン」

XL500の後継となるXL600R PHARAOH。

大きな変更点は真っ赤に塗られたRFVCエンジン。RFVCエンジンについてはCRF250の方で紹介したと思うので割愛させてもらいます。

ファラオ

「なんでファラオ」

というとファラオラリーに参戦した事と、そのイメージから取っています。

ただ先代同様に日本ではこの重武装したPHARAOHだけでしたが、海外ではノーマルにあたるXL600R/XR600Rも販売されていました。

XR600R

これがそのXR600Rです。

そしてこっちが公道モデルのXL600R。

ホンダ PD03

パッと見は一緒に見えるんですが、公道向けと否公道向けなので中身(特に足回り)が違います。

初パリダカだったXLの後継なので当然ながら同じ様に挑んでいます。

これがXR600RベースのパリダカマシンXL600L。

XL600Rヌブー

XRなのにXLなのはセールスのため・・・だったんですが、時代は単気筒でなく二気筒が圧倒的に優位だった。

だからこのXL600Lでは結果は残せず。

パリダカに社運をかけていたと言ってもいいフランスホンダから

「もっとラリー向けのバイクを作ってくれ、これじゃ勝てない」

とケツを叩かれる事になるわけです。

というのも当時パリダカ発祥の地であるフランスを筆頭に欧州ではパリダカ熱が凄まじく、パリダカの成績がセールスに直結してたから。

そのためダカールラリーの成績と連動するようにXLの売上が落ちていたんです。

主要諸元
全長/幅/高 2205/865/1195mm
シート高 880mm
車軸距離 1445mm
車体重量 182kg(装)
燃料消費率 35.0km/L
※定地走行燃費
燃料容量 28L
エンジン 空冷4サイクルOHC単気筒
総排気量 591cc
最高出力 42ps/6500rpm
最高トルク 4.8kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.00-21-4PR
後5.10-17-4PR
バッテリー YB14-A2(セル)
YB3L-A(キック)
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DP8EA9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
交換時1.9L
スプロケ 前15|後40
チェーン サイズ520|リンク106
車体価格 548,000円(税別)
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

RS750D/NS750-since 1983-

RS750D

ここで紹介しておきたいのがXLV750Rのエンジンをベースに作られたRS750Dというダートレーサー。

一件アフリカツインとは何の関係も無い畑違いなマシンに思えますが大いに関係しているのでお付き合いを・・・。

このバイクは

『グランドナショナルチャンピオンシップ(以下GNC)』

というアメリカで非常に人気があるオーバル状ダートトラックのレースに向けてHRCが造ったワークスマシン。

グランドナショナルチャンピオンシップ

「肝が据わっているやつが勝つ」

と言われるバイク界のインディ、もっと簡単に言うとバイク版の競馬みたいなもの。

ホンダはこのレースに1979年からアメリカホンダ(以下AHM)主導でCX500のエンジンを750まで拡大しつつ縦に積み直してチェーンドライブ化したCX500改で挑んでいました。

しかしそれでも最も力を入れていたハーレー勢(XR750)に全くもって歯が立たなかった。そこでAHMは本社に力を貸すように直談判したのが始まり。

何故AHMはそうまでしてGNCに力を入れていたのかと言うと、1つはいま話した通りこれがアメリカで最も根付いているレースだったから。

そんなレースに勝てばアメリカ中にホンダの技術を証明出来て認めてもらえると考えたらからなんですが、実にアメリカらしいのが単に勝つだけではなく重要だったのがVツインという事。

「アメリカではVツインじゃないと勝った事にはならないから絶対にVツイン」

という前提条件があったから本社が用意したエンジンが無いと始まらないAHMだけでは限界があった。

そしてもう1つは天才フレディ・スペンサーの存在です。

アメリカで最も根付いているレースという事もあり当時フレディ・スペンサーもホンダから参戦していた。

AHMはこのスペンサーを

『GNC王者からのWGP(ロードレース世界選手権)王者』

という道を取らせたいと考えていた。何故ならライバルがその道を歩んでアメリカのヒーローとなったから・・・そう、ケニー・ロバーツです。

インターカラー(USヤマハカラー)のままWGPの優勝を掻っ攫ったGNC出身のアメリカ人ライダー。

「彼と同じスターの道を歩ませたい、彼を上回りたい」

という考えていたんですね。

この狙いにホンダも答え、NRブロック(後のHRCとなるNRを開発した部署)が開発したエンジンを積んだのがNS750というモデル。

NS750

これでホンダは見事GNCでスペンサーを優勝に導く事が・・・出来なかった。

このNS750は1982年までに僅か1勝というホンダらしからぬ戦績の悪さでした。

原因は携わった車体設計の三神さん曰く

「正直ハーレーを過小評価していた」

との事ですが、何よりもトラクション性能を煮詰めきれてなかった事にあった。

もともとCX500/GL500というミドルロードスポーツのエンジンがベースだったので100馬力近いハイパワーな一方でクランクマスが軽い事から一発一発が弱くトラクションが弱かった。

このダートレーサーは

『サイドワインダー』

という一見するとカッコいいアダ名がある事をご存知の方も多いかと思いますが、これ元々はそんなNS750の醜態を揶揄する形で生まれた言葉。

スペンサーとNS750

有り余るパワーを軽い吹け上がりで瞬時に発揮する出力特性と弱いトラクションという組み合わせからスペンサーをもってしてもスライドばかりでずっとカウンターを当て続けて走るレベルだった。

つまりずっと斜めを向いたまま走っており、シリンダーヘッドも捻れたりしていた事から

ガラガラヘビ

『The sidewinder(ヨコバイガラガラヘビ)みたいなマシン』

と揶揄されるようになったという話。

※ヨコバイガラガラヘビとはアメリカ南西部に生息する横巻きで砂漠を移動するヘビ

この問題がトラクションにある事と気付いたエンジン設計の松田さんが自身が新たに手掛けていたXLV750Rのエンジンをベースに変更。

さらに車体側もロードレーサーNS500の足回りの流用するなどしてこのページの主役であるRS750Dというモデルを開発。

ホンダ RS750D

ガラガラヘビだったのが嘘のように圧倒的な速さを誇り1984年に念願だったチャンピオンをリッキーグラハムの活躍により獲得。

加えてこのエンジンはプライベーターへの販売が義務付けれていたので皆がこぞって購入。あまりの速さからリストラクター(吸気制限)が設けられたもののそれでも速く、結果として4年連続でホンダ勢がチャンピオンを獲得したという話。

FTRへ採用されたのでカラーリングに見覚えがある人も多いかと思いますが、それもこのRS750Dの偉業を元にしたものです。

HRC RS750D

そして何故アフリカツインの系譜にこのバイクを載せたのかというのもおわかりかと。

このNS750の失敗から生まれたRS750Dというマシンとトラクションに関するそのノウハウ。これが直後のパリダカでも大いに活きる事になるんですね。

参照:別冊モーターサイクリスト410|RACERS Vol.37

主要諸元

※ファクトリーマシンのため不明

系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)