「The king of MT.」
そのコンセプト通りMT-01以降不在となっていたMTシリーズの長男坊として登場したMT-10(B67)とMT-10SP(BW8)。
元がR1なだけあってトラクションコントロールシステムやクイックシフター、スリッパークラッチや出力モード切り替えといった電子制御の成せる装備はそのまま標準装備し、更にはR1になかったクルーズコントロールシステムまで採用。ポジションや足付きも改善されています。
2017年に追加されたSPモデルはR1Mと同様に電子制御サスペンションやフルカラー液晶などを搭載してるんだけど面白いのがYZF-R1Mと同様に積まれたYRC(ヤマハ・ライド・コントロール)という装備。
「PWR(出力モード)」「TCS(トラコン)」「QSS(クイックシフター)」「ERS(前後サスのセッティング)」を自分なりにセッティング出来る。しかもハンドルスイッチだけでなくスマホ(専用アプリ)でも。
スマホ世代を狙い撃ちとは・・・まあSPは200万円しますけどね。YZF-R1Mより100万円も安い事を考えると結構お買い得な気がしないでもないですが。
なんて冗談はさておき
「MT-10はYZF-R1をネイキッドスタイルにしたバイク」
と簡単に片付けてはつまらないので少し掘り下げてみます。
MT-10のエンジンのベースとなっているYZF-R1のCP4エンジンというのはご存知の通りクロスプレーンの不等間隔燃焼エンジンです。
クロスプレーン直四のメリットは一般的な直四が起こす慣性トルク(トルクの波)と二次振動(微振動)を起こさないこと。
※クロスプレーンについては「クロスプレーン(不等間隔燃焼)だと何が良いのか」をどうぞ
当然ながら微振動やトルクの波は無い方が扱いやすいし疲れないから、性能的に言えばクロスプレーンの方が優れていると言えるんだけど・・・官能的かといえば意見が別れるのが現実。
一般的な直四好きが思う直四(フラットプレーン)の魅力は
「アクセルを捻れば何処までも突き抜ける疾走感」
でしょう。
これは回転数に応じて等間隔な点火タイミングから来るモーターのような排気サウンドと微振動が起こるから。よく漫画で跨ってエンジン捻った途端に鳥肌が立ったように描画されたりするアレです。
それがMT-10(クロスプレーン直四)は無い。だからエンジンサウンドに違和感があるとか、気付いたら凄いスピードが出ていたとか言われますね。
何よりも速さが大事なYZF-R1という半レーサーにおいてそんなタイムを縮める事に一切関係のない要素は必要ないのは当然だけど、これがストリートユースまして猛々しさが必要なストリートファイターとなると話が変わってくる。
そこでヤマハは吸排気系を絞ってギア比を落とすという低速寄りチューニングのメジャーな方法だけでなく、MTシリーズ共通のコンセプトである”トルク&アジャイル”を実現するためクランク周りの動力部分の重量(慣性モーメント)も上げました。
「トルク&アジャイル」とか「慣性モーメント」とか言われてもナンノコッチャですよね。ヤマハの開発者の人には申し訳ないけどザックリ言って、一つ一つの動きが重くなるので体感トルク(トルクフィーリング)が増します。実トルクも増しますが。
ちなみにフレームもスピードレンジが変わることから剛性を最適化するため60%も作り変えられたとのこと。何だかんだで結構大掛かりな変更が加わってますね。
何となく分かると思いますが低回転寄りにするということは即ち高回転を捨てるということになるわけですが、クロスプレーンでソレをした事で面白い変化を生んでいます。
YZF-R1は低回転域では”デロデロ”または”ドコドコ”という二気筒のようなフィーリングな一方で、美味しい回転数である10000rpm以上になると一般的な直四と大差ないフィーリングになる。
ところがMT-10の場合はレッドも11500rpmとR1よりも低速寄りにしているので、結果として美味しい部分がデロデロのまま。怖い顔でデロデロいわせながらグイグイ引っ張って行くわけです。
つまりMT-10というのは悪く言うと
「四気筒らしさがほとんど無いバイク」
と言えるんだけど、反対に良く言うと
「物凄く回る二気筒っぽいバイク」
と言えるわけです。四気筒は四気筒なんだけど四気筒×1じゃなくて二気筒×2みたいなバイク。
一般的な四気筒が好きな人はこれに乗っても今ひとつピンと来ないかもしれないけど、反対に直四が好きじゃない人はコレに乗ったらビンビン来るかもね。
主要諸元
全長/幅/高 | 2095/800/1110mm |
シート高 | 825mm |
車軸距離 | 1400mm |
車体重量 | 210kg(装) [212kg(装)] |
燃料消費率 | 14.0km/L ※WMTCモード値 |
燃料容量 | 17.0L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC四気筒 |
総排気量 | 997cc |
最高出力 | 160ps/11500rpm |
最高トルク | 11.3kg-m/9000rpm |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前120/70-17(58W) 後190/55-17(75W) |
バッテリー | YTZ10S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
LMAR9E-J |
推奨オイル | ヤマルーブ プレミアムシンセティック |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量4.9L 交換時3.9L フィルター交換時4.1L |
スプロケ | 前16|リア43 |
チェーン | サイズ525|リンク114 |
車体価格 | 1,550,000円(税別) [1,850,000円(税別)] ※[]内はSPモデル |