国産ハーレー『陸王』とは

陸王号

名前くらいは聞いたことがある人も多いと思われる和製ハーレーとして有名な『陸王』

一体なにがどうなってハーレーなのか、そしてどうして終わったのかという歴史を簡単に振り返ってみたいと思います。

日本では1910年代(大正)の頃からハーレーダビッドソンが既に僅かながら高性能車として輸入販売される状況にありました。

しかし当時は家が買えるほどの値段だったので一般人とは無縁な代物で、軍や大きな企業向けに改造された三輪車だけ。

ハーレーダビッドソン三輪車

そこから時代が少し進み1930年代に入るとインディアンやBSAなどハーレー以外の輸入車や三輪車も珍しくなくなり競合が始まっていたんですが、そんな時代の中で

『日本自動車株式会社』

というハーレーの輸入販売権を所有していた会社が大日本帝国陸軍への売り込みに成功。

更に陸軍から印象も良かった事でハーレー本社は日本の製薬会社だった三共(現:第一三共)と手を組んで

三共ハーレー

『三共株式会社・日本ハーレーダビッドソン販売所』

を1931年に設立。

陸軍に対し積極的なアプローチと課せられた基準をクリアすることで正式採用を勝ち取ると共に、その実績を武器に全国展開し

『購入後も面倒を見るアフターサービス』

という当時としては画期的だった付加価値サービスで富裕層への販売も開拓していきました。

九七式側車付自動二輪車

しかしそんな中が陸軍が三共に対して

「ハーレーの国産化」

を打診します。

これは

・国内産業保護政策

・世界大恐慌によるドル円格差の拡大

・米国との関係悪化

などの理由から

「ハーレーの供給が途絶えてしまうのでは」

という危機感を陸軍が持ったから。

幸いなことに当時ハーレーは(サイドバルブからナックルヘッドへの)世代交代を計画していた事に加え、自身も世界恐慌で業績が悪化していたこともあり

『輸出しない事』

を条件としたライセンス契約と共に前(サイドバルブ)世代の製造設備を三共に丸ごと売り払う事に。

こうして1935年にライセンスのみならず設備まで買い取る事で国産化の目処が立ち、その際に設立されたのが

『三共内燃機株式会社』

というバイク製造メーカーであり、その会社が造った国産型ハーレーが

陸王

『陸王』

というわけ。翌1936年には社名も三共内燃機から陸王内燃機に変更されました。

ちなみに陸王という名前の由来は一説では1927年に作曲された慶應義塾大学の応援歌『若き血』からといわれています。

慶応と陸王

肝心のラインナップはサイドバルブVツインの排気量違い

『VF系:1200cc』

『R系:750cc』

の2種類だったんですが、戦争の関係で97式側車付など陸軍向けがメインでした。

陸王カタログ写真

ではなぜ陸王は無くなってしまったのかという話ですが、これは戦争が終わると同時に逆風が吹いたからです。

日本は敗戦により

・軍事需要の消滅

・富裕層の激減

・ハーレーダビッドソンの輸入再開

という状況になった上に

『メグロやキャブトン(みずほ)など高性能バイクメーカーの躍進』

がありました。

ハッキリ言ってしまうと陸王の性能はお世辞にも優れているとは言い難いものだった。

本家ハーレーですらトライアンフやBSAといった欧州車に性能面で負けている事に危機感を持ち、ナックルヘッドやモデルK(スポーツスターの前身)を計画していた時代。

陸王エンジン

そんな驚異を持った欧州車のコピーを造るメーカーがゴロゴロ居た日本で、改良を重ね続けたとはいえハーレーから買い取って戦前から酷使しているボロボロになった設備による信頼性も性能も低い旧世代のサイドバルブエンジンだけだった陸王が勝てるわけがない。

まして高級路線には再び輸入されるようになった本家ハーレーがいる。

・安くて速い後発メーカー

・高くて速い本家ハーレー

この板挟みにより陸王はその存在がボヤケてしまったわけです。

ただ陸王を少し擁護しておくとサイドバルブエンジンに拘ったのは国産化の際に陸軍から

「海外資源を使わずに造れ」

という無理難題を命じられたことが大きく影響してるのでちょっと不幸だった面もあります。

この事で陸王内燃機は1949年に業務を停止しますが、翌1950年に昭和飛行機が権利を買い取り陸王モーターサイクルとして復活。

陸王モーターサイクル

BSAやトライアンフの流れを組んで人気だった中排気量の後発メーカーに対抗し、BMW/R25を模範したとされるOHV単気筒350ccのヨーロピアン溢れるスポーツバイク

『陸王グローリー号』

を発売しました。

陸王350グローリー

恐らく陸王のイメージと大きくかけ離れているとは思いますが、ロータリーチェンジ式や国産初のスイングアーム式など最新の性能を兼ね備えたモデルで当時は人気を呼びました。

これを足がかりに9年後の1959年には更に下のクラスとなる250cc版を開発し発売したのですが・・・もうその頃には皆が知るあのメーカーが頭角を現していた。

「ホンダ、ヤマハ、スズキ」

ですね。

ホンダヤマハスズキ

スーパーカブで王者に上り詰めていたホンダ、スポーツとデザインに秀でていたヤマハ、最初からコスパが異常だったスズキ。

自分達を追いやったメグロやキャブトンすらも追いやるほどの技術と勢いを持ったメーカーの前にはさすがの陸王も対抗することが出来ず。

結果1959年に生産がストップし1960年に倒産。こうして陸王の系譜は終わりを迎える事になりました。

※文献:国産オートバイの光芒

【余談】

九三式側車付自動二輪車

恐らく陸王を実際に見たことがある人はほぼ居ないと思います。

これは部品が既に無いことから置物化しているという事が第一にありますがそれ以外にも幾つか理由があります。

まず一つとして陸王は晩年モデルを除きほぼ

右手:アクセル

左手:ハンドシフトと進角調整&オイルポンプ(手動式)

右足:フットブレーキ

左足:フットクラッチ

という忙しない運転方式で本当に休む暇がなく危険な事と、そこまでしても現代の車やバイクの流れに付いていくことが難しい走行性能だから。

そしてもう一つは1941年に制定された『金属類回収例』

金属類回収例

戦時中、物資の不足を補うために行われた金属類の強制回収。

陸王も例外ではなく全国にあった車両が片っ端から国に回収されてしまった歴史があります。

そして最後はコレクターの存在。

九七式側車付自動二輪車

陸王は歴史からも分かる通り大日本帝国陸軍のバイクというイメージが強いため極一部の少し怖い人達に絶大な人気があり、元々の所有者が亡くなると同時に何処からか嗅ぎつけて因縁を付けられ半ば強引に持っていかれて闇に消えるという事が結構あったんだとか。

まあレア車あるあるですね。

「4stが正解なハズはない」という思いが2stを生んだ

クロスプレーンクランクシャフト

1.吸気
2.圧縮
3.燃焼
4.排気

の4行程で回るのが現代の主流となっている4サイクルまたは4ストロークエンジン。

それに対して

2ストロークの行程

1.吸気&排気
2.燃焼&排気

の2行程で回るのが2サイクルまたは2ストロークエンジン。ただ2stの方は排気ガス規制の関係でもうほぼ存在していませんね。

その事から

「2stは旧時代のエンジン」

というイメージを持たれている人も多いかと思いますが、歴史的に見るとそんなに離れていないどころか解釈次第では4stよりも後に確立した技術だったりします。

ということで今回は19世紀末から20世紀初頭に起こった内燃機関誕生の話であり、2stが如何に紆余曲折あったかという歴史とお話と推察を非常にザックリながら書いていきます。

内燃機関

現代における4stエンジン始まりはフランスのボー・ド・ロシャという人が1862年に発表した論文にあります。

内容を簡単に説明するとこう

・ピストンを使って可能な限り混合気を吸う

・その混合気を可能な限り圧縮する

・上死点で点火して膨張させる

・最後に可能な限り排気する

まさに4stエンジンそのものですね。

ただ残念ながら19世紀半ばの当時これを実現するのは難しく、書いた本人すら実現させようとはしなかった机上の空論に近いものでした。

しかしその14年後となる1876年にある男が本当にそれを実現させます。

ニコラウス・オットー

ドイツのニコラウス・アウグスト・オットーが『静かなエンジン』という名前の4stエンジンを世界で初めて発明。

オットーサイクルとして今も名前が残っているので聞いたことがある方も多いと思います。

では一方で

「2stエンジンの発明家は誰か」

と聞かれると思い浮かばない人が多いかと。メジャーではありませんよね。

2stの始まりが何処にあるのかというとオットーが4stエンジンを完成させる16年前であり、4stの論文が発表される2年前にあたる1860年。

ルノワール機関

フランスのジョゼフ・ルノワールという人が発明したのが始まり。つまり実現が早かったのは4stではなく2stなんですね。

ただ上の絵だけでは一体何がどうなって2stなのか分からないと思うので雑ながらイラストで表すとこうなっています。

ルノワール機関の中身

この状態からコンロッドとは別に設けられたシャフトの滑り弁が左右に動くことで(穴が貫通し)ガスが入るわけですが、注目してほしいのはガスが入る方向とピストンの動く方向。

ルノワール機関の点火

ガスをピストンの先に入れて圧縮という我々が知ってる動きではなくピストンの裏側、今でいうとクランクケースの方に入れて点火する方式。

ルノワール機関の燃焼

つまりピストンを後ろから押す形になっている。

そして上死点まで到達したら今度は戻るんですが、その際に今度はまたその裏側からガスを入れる。

ルノワール機関の排気

そして燃焼したほうは排気側の滑り弁が通ずるので排気ガスはそこから押し出し、またガスを入れるという形。

この繰り返しだから2stと言えるわけです・・・分かりづらいですねスイマセン。

しかしこのルノワール機関は非常に効率が悪いものでした。何故なら見て分かる通り一切圧縮をしない構造だったから。

これはルノワールが

「圧縮は百害あって一利なし」

という今では信じられない考えをしていたからなんですが、これについては少し酌量の余地があります。

ルノワール機関の排気

というのも当時は高圧蒸気機関(ボイラー)が全盛だったのですが高圧に起因する爆発事故が多発していたんです。当たり前のように何百人もの人が犠牲になっていた。

かの有名な蒸気機関の父ジェームズ・ワットも生前その事を懸念して蒸気機関の高圧化には反対の立場でした。

高圧化に反対だったワット

それでもワットの特許が切れると同時に高圧化が進みワットの警告通り事故が急増してしまったんですが、しかしながら効率を上げるには圧縮が必要不可欠なのもまた事実。

それはこのガスエンジン(当時はガス)でも同様で、圧縮しない2stともいえるルノワール機関に対し

「何とかもっと燃焼効率を上げられないか」

として考えられた末に完成したのが”圧縮して燃焼”という手法をとったオットー機関(4st)なんです。

つまり本当に大雑把に言うと

「2stの燃焼効率をもっと良くするために圧縮を用いる形で発明されたのが4st」

という話。

ただ実はオットーも圧縮が良いことは分かっておらず結構あやふやな理論だったよう。

オットーエンジン

まあそれは置いておくとしてもルノワール機関の燃焼効率が4%足らずだったのに対しオットー機関は14%とその差は歴然で

『オットー機関(4st)が内燃機関』

という常識が生まれるまでに至りました・・・が、ところがです。ここからが面白い所。

オットーが1876年に発明したオットー機関(4st)が話題となり内燃機関の代表格になったにも関わらず、発明家たちは更に2stへ注力するようになりました。

結果としてオットー機関(4st)の誕生から5年後となる1881年に2stの礎ともなる発明をイギリスのデュガルド・クラークが成し遂げます。

クラークサイクル

『クラーク機関(2号機)』

図がややこしいですがブレイクスルー要素は至ってシンプル。

新しい混合気で排気ガスを追い出すという2stにとって欠かせない手法

『掃気』

を発明したんです。

クラークエンジン2

分かりやすく表すとこんな感じで燃焼室とは別に混合気を送る掃気/圧縮ポンプを設け、燃焼室の下死点付近に排気の為の穴を開けておく。

そして燃焼によってピストンが押し下げられると、その力で送る部屋のピストンが上がるのでその力で燃焼室に混合気を送る。

クラークエンジン2

送られてきた混合気は燃焼室内に発生している排気ガスを押し下げる様に上から入るので、必然的に排ガスを排気口へと導き燃焼室は再び混合気で満たされるという仕組み。まさに2stにおける掃気ですね。

圧縮しないルノワール機関を除くとこれが2stエンジンの始まりとも言え、このクラーク式は燃焼効率も16%と非常に高くイギリスを中心にオットー機関に負けずとも劣らないほど製造されました。

ちなみにオットーと違ってクラークは研究者の側面も持っており圧縮が大事なことを把握していたよう。

これで2stも4st並に対抗できるようになったかに思えたのですが・・・このクラーク機関の2年後、オットー機関(4st)を更に進化させた恐ろしい世紀の大発明が登場します。

ゴットリープ・ダイムラーのエンジン

『世界初の4stガソリンエンジン』

恐らくこのページでもっとも知名度があるオットーの協力者だったゴットリープ・ダイムラーが脱サラして独立した翌年の1883年に発明したものでガスに代わる燃料として液体燃料ガソリンを使った燃焼効率15%の内燃機関です。

ゴットリープ・ダイムラー

なぜこれほどまでにダイムラーが歴史に名を残す事になったのかというと自動車の父である事もそうなんですが、このページの主旨から言うと見慣れた形をしていることからも分かる通り

「使い道が無かったガソリンで動く超小型で高性能なエンジンだったから」

というのが要因。

世界初のガソリンエンジン

今では信じられない話ですが当時ガソリンは(危険性も考慮して)当たり前の様に捨てられていたそう。

だからこそガソリンを燃料に従来の四倍(800rpm)も回る高性能かつコンパクトなエンジンは最初こそ半信半疑だったものの動くことがわかると拍手喝采だったわけです。

対してクラーク機関やそれをベースにした2stエンジンは非常に複雑で鈍重で騒音も大きく、掃気/圧縮ポンプも必要だったため小型化も難しく再び劣勢になってしまいます。

クラークエンジン

またクラーク機関は掃気という手法を編み出したものの吹き抜け(混合気がそのまま排気されてしまう)問題が大きく残っていました。

しかしそれでも2stを諦めず発明に明け暮れる人達は絶えなかった。

そのかいあってダイムラーの驚異的な4stガソリンエンジン誕生から8年後の1891年に負けずとも劣らない2stエンジンが発明されます。

ジョセフ・デイ

『デイ・エンジン』

イギリスのジョセフ・デイが発明したこの2stエンジンはいま紹介したクラーク機関の最大のネガだった送るための掃気ポンプの役割をピストン圧縮による圧力変動に持たせ、またピストンを弁代わりにして吹き抜けを防ぐというもの。

デイ・エンジン

最大の特徴は駆動部がピストン、コンロッド、クランクだけという近代2stにも通ずる

「圧倒的なシンプルさである」

という事。

ちょっとした工作機があれば誰でも作れるほどのシンプルさだったため、小型を中心にガソリン化など様々な形に加速度的な発展を遂げる事になりました。

その中でも恩恵を受けたのが他ならぬバイク。

1902年にイギリスのアルフレッド・スコットという人が4stのバルブ構造を嫌いデイ・エンジンを礎としたオリジナルマシンを製作しレースに出場するやいなや大活躍。1911年には最高峰レースのマン島TTでファステストラップを叩き出すほど。

スコットモーターサイクル

あまりの速さから4stに対して7割の排気量という2001年まで続く事となる2st最高峰レースWGP500(2st500cc/4st500cc)に通ずるレギュレーションがこの時に設けたものの、それでも翌1912年と1913年にはトップのセニアクラスを二連覇という圧倒的な速さを記録。

これにより2stが再評価され、それまで4stに舵を切っていた様々なメーカーが2stの開発をするようになり、また容易で安価という事から新たな2stメーカーが世界中で誕生しました。

RT125とYA-1

ちなみに戦後200を超えるバイクメーカーが日本で生まれたのもこれが理由。2stなら比較的容易に造れた(2stなら欧州のバイクを模範しやすかった)からです。

これが非常にザックリな2st誕生の歴史なんですが、最後に主題のオチというか見解を少し。

オットーが4stという新しい形の内燃機関を発明し、ダイムラーが液体燃料(ガソリン)を用いてさらなる進化を示したにも関わらず

「どうして発明家や研究者は4stではなく2stに注力したのか」

というと、実はこれ素人である我々と同じ考えを発明家や研究者も持っていたから・・・それは

2ストと4ストの行程

「2回転で1度しか燃焼しない4stが正解なハズはない」

という考え。

4stだと燃焼は全行程の1/4しかない。しかし2stならこれが1/2になる。

どっちが効率が良さそうかと考えたら普通は2stですよね。だからみんな2stの研究や発明を止めなかった。

これについてはオットーやダイムラーによって4stに関する特許が抑えられていたという背景もあるんですが、4stではなく2stに注力した理由はそれだけじゃないかと。

というのも2stに関する偉大な発明をしたルノワール、クラーク、デイのお三方にはある共通点があります。

ルノワールとクラークとデイ

それはみなイギリス人だという事。

それに対して4stを生み出したオットーやダイムラーはドイツ人・・・対抗意識が芽生えないわけは無い。これはドイツ側が2st誕生後も4stに偏重していた側面から見てもそう言えるかと。

ただそれよりも大きかったであろう要素が18~19世紀のイギリス史で絶対に外すことが出来ない要素。

産業革命

『産業革命』

です。

この産業革命の原動力が何かと言えば途中でも少し紹介した蒸気機関。イギリスはこの蒸気機関を基軸に工業大国になりました。

内部の熱で動かす内燃機関の一種であるレシプロエンジンと、熱を送ることで動かす外燃機関の一種である蒸気機関に一体何の関係があるのかと思うかもしれませんが、実はこの二つは切っても切り離せない関係にあります。

何故なら

SL

「内燃機関は蒸気機関の応用が始まりだから」

です。

ピストン、コンロッド、クランク、弁、内燃機関に当たり前に付いてるこれらは全て蒸気機関によって生み出された産物なんです。

そして重要なのは蒸気機関は反対の見方、レシプロエンジン側から見ると2stに近い構造をしているという事・・・つまり蒸気機関が国の基幹産業だったイギリス人にとっては

「2stなのが原動機の常識だった」

というわけ。

それが如実に現れているのが最初の2stとして紹介したルノワール機関。

蒸気機関とルノワール機関

蒸気機関の延長線上にある非常に酷似した構造なのが分かるかと思います。

こういう背景があったからこそ蒸気機関の概念から大きく外れた4stという存在は受け入れがたいものがあった。

今回は割愛しましたがオットー機関(4st)をベースとしながら発明したピストンを二個設けることで実質2st化した同じくイギリスのアトキンソンもそう。

アトキンソンサイクル

「2回転で1度しか燃焼しない4stが正解なハズはない」

そう考えるイギリスの発明家が多かったからこそ4stが誕生し世界がそれを正解だと認めた後も2stの研究や発明が止まらず、幾度もの紆余曲折の末に4stに負けずとも劣らない

「1回転に1度ちゃんと燃焼する2stという内燃機関」

が誕生した・・・という話でした。

文献:内燃機関の歴史(富塚 清)

開発当初は違う名前だったホンダ車たち

ホンダデザイン

ホンダはデザインスケッチなどコンセプトの原案を広報や雑誌などで広く公開されているので目にする機会が多いのですが、まだファミリーネームが固まっていない(特に80~90年代)モデルでは

「最初はこんな名前だったんだ」

と思うことが多々あります。

そこでそういった『初期段階では違う名前だったバイク』を集めてみたので紹介していこうと思います。

『TT400』

GB400

GB400のコンセプトスケッチ。

既に250がGBとして出ていたので習う形になったものの原案ではTT400だった。

ちなみにTTとはマン島TTレースの事。

『GLS250』

フュージョン

ビッグスクーターとしてお馴染みフュージョンのコンセプトスケッチ。

ゆったり系バイクという事でGLファミリーに分類しようとする意図があったものと思われます。

『CBR400R』

CBR400R

CBR400Fの後継にあたるCBR400R AERO/NC23の案の一つ。

VFR400Rとの棲み分けの為に最終的にツアラー路線になったものの、AEROというネームは設けられずレーサー色を捨てていないスタイル。

『COSA ROSSA』

スパーダ

実際に販売された時の名前はVT250SPADA

COSA ROSSAはイタリア語で『赤いやつ(女性)』という意味でよく見ると片持になってる。ちなみにSPADAは剣。

『Diablo』

ワルキューレ

ホンダの水平対向クルーザーでお馴染みワルキューレのコンセプトスケッチ。

最初はディアブロという悪魔を意味するネームでした。それが戦女神になるとは何だか物語を感じる。

『Bandit』

ブロスコンセプト

スズキでお馴染みのBanditですが実はホンダはその約7年前にBROSでその名前を検討していた。

しかもこの名前が出るのはBROSのだけではありません。

スティード

なんとスティードも最初はBanditと名付けられていたんですね。ちなみにスティードはバンディットと同い年デビュー。

もしもホンダがBanditを先に出していたらスズキのBanditはどんな名前になっていたのか。

『NXV』

アフリカツイン

アフリカツインの別名(海外名)はXRVですが案の段階ではNXVだった。

由来はもちろん砂漠の女王ことNXRからでしょう。

『BZ』

cb-1

レプリカの次を担うバイクとして開発されたCB-1のボツネーム。

拘ったにも関わらず売れなかったものの、これがキッカケで次のバイクが生まれます。

『PHANTOM』
『DIABLO』
『CB998』

CB1000SF

BIG-1でお馴染みCB1000SFの原案。

初期(デザイナー)の段階ではPHANTOMで、自主制作チーム内ではDIABLOとよばれ、最終案ではCB998と呼ばれていたようです。

『NS50F』
『NS50R』

NS-1

エヌワンの愛称でお馴染みNS-1の案。

当初はNS50Fから車名を変えずに行く案やスイングアームに補強を加えレーサー寄りにしたRにする案があったよう。ただNS50Rは既にNS50Fのレースベースで使われていました。

『RVF750』

RC30

RC30という型式名で有名なVFR750Rのコンセプトスケッチ。

RVFレプリカなんだからRVF750という話かと思いますが、やはり最初はマフラーは右に出す予定だったよう。

『VFR750R』

RC45

RC30の後継となるRVF/RC45のコンセプトスケッチ。

面白いことにRC30がRVFと付けようとしたのとは反対にこちらはVFR-Rという名前で始まっていた。

『CB250』

ホーネット

若者に人気だったホーネットのコンセプトスケッチ。

先代ジェイドの反省なのか最初は普通にCB250と入れる予定だった様で・・・よく見るとマフラーが右ではなく左から出ている。

『CBR1100 ULTIMATE』

CBR1100XX

CBR1100XXスーパーブラックバードのコンセプトスケッチ。

少し見づらいですがアッパーサイドに白抜きでULTIMATEと入っています。飛行機大好きなエンジニアがブラバみたいだと言わなかったらこの名前になっていたかもしれない。

『VR1000』
『THUNDER996』
『VT900R』

ファイヤーストーム

ファイヤーストーム(北米名スーパーホーク)でお馴染みVTR1000F

VRは米国案、THUNDERは欧州案、そしてVT900Rは日本案の名前。最終的にVTR996に纏まりVTR1000Fになったよう。

『SUPER BIKE 999 SPEC-1』

SP1

別名RVTの名前を持つVTRのホモロゲバージョンとなるVTR1000SP1

最初はシートカウルにSUPERBIKE999というサブネームが付いておりデカールもRacingではなく『SPEC-1』とホモロゲ感溢れるものだった。

もしも999と名乗っていたら二年後に出るducati 999はどうしていただろう。

『VFR-X』

VFR-X

VFR1200Fのイメージコンセプト。

いまでこそXといえばクロスオーバーですが元来Xは究極という意味があり実際ヘッドライトもXを強く意識したものだった。

パンツとか言われていますがXが由来なんです。

『750(900)FOUR』

CB FOUR

CB1100が誕生するキッカケとなったコンセプトスケッチ。

ここからコンセプトモデルCB-FOURとなり最終的にCB1100となりました。FOURと付けられなかったのは大人の事情か。

「当時のまま復刻してくれ」という願いが聞き届けられない理由

1978年のラインナップ

「〇〇を見た目そのままで復刻してくれ」

という止むことの無い要望。

そういう場合に上げられる車種は歴史に名を刻んでいる名車がほとんどで

・プレミア価格で買えない

・部品供給が途絶えてる

などの理由が背景にあり、特に近年は旧車の価格がさらに暴騰。業者オークションでも

VFR750R(未使用車)→680万円

FZR750R→380万円

Z1000MK2→350万円

CB400FOUR→200万円

NSR250R/MC28→280万円

などでもはや投機のような値段になっている。

しかし残念ながらその声が聞き届けられる事は歴史を見ると分かる通りほぼ無い。新車の方もレトロブームが到来した事で往年の名車を意識したモデルが色々と出ています・・・が、インスピレーションこそ感じるものの明らかに元ネタのモデルとは形が違いますよね。

ヘリテージモデル

「クルマと違って歩行者頭部保護規制とか無いんだから騒音規制と排ガス規制クリアだけソックリしたモデルを出せば大ヒット間違いなしだろうに」

と疑問に思っている方も多いと思うのでザックリ簡単に解説して行きたいと思います。

理由1.そもそも生産出来ない

昔のモデルを復活させる時に最も問題となるのがこれ。

『金型』

という大量生産の要とも言える設備(工具)の問題になります。

金型

大雑把に言うとこれでバシバシ作った部品を組み立てて完成させているのが製品なんですが、そういう製品を生業としている製造業において金型というのは門外不出な企業秘密の塊。

だから開発費から導入費までトータルで見ると億単位のコストが掛かったりする。これは1〜2個造るわけではなく万単位で迅速かつ安定して生産(ショット)出来る高い信頼性も必須だから。一つでも金型に問題が発生したら生産ライン全体が止まっちゃいますからね。

しかもそんな思いをしてまで導入しても金型というのは

・使うほど摩耗する

・同じ形しか作れない

という問題があるので一定の数を生産しストックしたら破棄し、次のモデルに向けた新しい金型へ新陳代謝のように移り変わっていく。

金型の摩耗

だからメーカーも旧車の金型は既に持っていないんです。

部品供給打ち切りや、その事を嘆く人が出る理由もこれ。補修部品っていうのは基本的に生産後にストックした在庫限りみたいなものなんですね。

ちなみにこれは金型が企業秘密の塊であるがゆえに

『固定資産税の対象』

という事も強く影響しており、これがあるからメーカー(及びその下請け)は経営の観点から迅速に生産して迅速に金型を廃棄するようになってる。

ヤマハパーツセンター

部品を全部ストックしていたら倉庫がとんでもない規模になってしまう問題もあります。

加えて問題となるのがジェネレーションギャップ。

これは量産効果(規模の経済と範囲の経済)に関する問題で、製造業というのは

・稼働率の高さ

・製造数の多さ

ザックリ分けてこの2つの要素次第で全く同じものでもコストが1/10にも10倍にもなる宿命がある。

範囲の経済

だから特にクルマが象徴的ですがメーカーはその開発費および製造費を少しでも抑えるために色んなモデルで色んな部品を共有してる。そうすれば単純に安く出来るだけではなく、予算に余裕が出来るので更にお金を掛ける事が出来ますからね。

じゃあもしそんな中で何世代も前の形をした金型や部品を用意して復刻させたらどうなるか。

廃れた技術

「いや今さらこんな足回り他にどう使えと・・・」

となってしまい結果的に専用部品の塊つまり超ハイコストモデルになってしまうから厳しい。これらが生産の都合上出来ない理由。

ハザードランプの有無

これユーザーが後から付けようと思ったら1万円前後するんですが、これをメーカーが最初から付けようと思ったら僅か20円/台ほどで付けられる。

たったそれだけのコストにも関わらず何故付けないのかというと、この20円というのはあくまでも買う側の目線だから。売る側のメーカーからすると20円じゃないんです。

『生産台数×20円』

で原価企画や利益目標を大いに圧迫するから簡単には足せないという話。 –>

 

理由2.嬉しくない売れ方をする

嬉しくない売れ方

もし仮に生産上(コスト)の問題をクリアしたとしても売れ方にも問題を抱えてる。

これは

「〇〇で〇〇なモデルが欲しい」

という要望にも通ずるものがあって、言い方が悪いんですがそういった”比較的誰でも思いつく製品”っていうのは実はそれほど売れないのが分かってる。

その理由は

『意外性』

という要素が無いから。ヒット製品になるにはこれが必須なんです。

顕在需要と潜在需要

「自分でも欲しいものが分かっていない潜在需要を如何に掘り起こせるか」

がヒットに直結する。

大ヒットし今では名車と言われているモデルもほぼ例外なくこの意外性があった。

もちろんそれでも誰もが知る名車なら一定の需要があるでしょう。モノよりコトが重視されるようになった現代なら年間販売台数一位を記録するかもしれない・・・でも仮にそうなってもメーカーは手放しでは喜べない。

というのも顕在需要向けの(意外性が無い)製品というのは明確に欲しいと定まってる人への製品なので

『飛びつくか、全く興味を示さないかの二択』

という極端な売れ方をするから。

こういう売れ方はメーカーとしてはあまり嬉しくない。最初はドカンと注文が入るけど、その駆け込みが終わったら稼働率も製造数もガクッと落ちるからです。

生産の問題でも話した通り設備っていうのは用意するのも維持するのもお金が掛かるのでメーカーは開発段階から無駄が出ないように

『製造年数と総製造数』

をある程度予測して絶妙な生産キャパシティを決めるのが一般的。

そうした時に欲していた人達が殺到して初年度はドカンと売れるものの、二年目以降は閑古鳥が鳴く売れ方になってしまう顕在需要向けの要素が強い製品というのはどうしても設備に大きな無駄が生まれてしまう。

売れ行き

無駄を生まないように

「当時の3倍の価格で完全予約制で納車は3年後です」

なんて売り方にしてハイ分かりましたと素直に待つ人は居ないですよね。そんなのが罷り通るのはフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーくらい。だから取り扱いが非常に難しい。

ちなみに

『一ヶ月で一年分を受注』

『納車半年待ち状態』

などの現象や人気殺到なのになかなか増産しなかったりするのもこの余剰設備問題によるもの。さっさと増産(増設)してくれって納車待ちの人は思うけど、メーカーとしては後で負債になる事が分かりきってるから簡単には出来ない。

だいぶザックリですがこういう問題があるから現実問題として復刻車を造ることが出来ないという話・・・ですがオマケでもう一つ。

余談.モノづくりとしてのプライド

インダストリアルデザイン

一番推したい事というか理解して欲しい事。

当たり前のように売っており、また当たり前のように町中を走ったりしている市販車を開発している人達っていうのは

「車体の軽量化を頑張ったら俺が軽量化したわ」

なんてジョークになってないジョークを飛ばすほど文字通り開発が三度の飯より好きな人達が当たり前の世界。

趣向性が強いバイクは特にその傾向があって開発中のモデルを

「世界一可愛いと思ってる嫁」

「天塩にかけて育ててる娘」

「毎日夢に出てくる悪魔」

などと例えるほど溺愛し、心血を注ぐように開発している。

KATANA CAD

そうやって理想と現実の間で藻掻きながらも名車と称してもらえるようなモデルを造ろうとしているのに、当時の名車をソックリそのまま造れっていうのは

「良いものを造る努力はしなくていい」

と言ってるようなもの。

これはモノづくりの否定であり侮辱でもある。その往年の名車だって良いものを造ろうと尽力したからこそ誕生できたんですから。

ちなみにこれは最近のネオレトロが似てるんだけど明らかに元ネタとは違う形になっている事にも通じていて

「何故もっと似せなかったのか」

って考えてる人も多いと思うんですが、上で話した生産の問題や需要の問題も勿論ある。

でも一番はこれらのモデルっていうのは元ネタである往年の名車を実際に乗っていたエンジニアや憧れて入社したようなエンジニアが

『往年の名車へのリスペクトと、ハリボテじゃない良い物を造りたいというプライド』

この両方を掛け合わせた形だから似てるんだけど明らかに違うんですね。

最後の最後に。

どうしても昔のモデルが欲しい、復刻して欲しいモデルがある人がいるならこうアドバイスします。

気持ちは痛いほど分かるが復刻の可能性はゼロだから腹を括って中古を買うべし。

エンジンは2stと4stだけじゃない ~5stと6stエンジン~

4stエンジンイラスト

エンジンと言えば2stか4st・・・というか排ガス問題で2stがほぼ死滅したため4stになった現代。

もう4stが常識であるかの様な世の中ですが、そんな状況に異を唱える者たちによって5stや6stが生み出されている事をご存知でしょうか。

おさらいを兼ねてサックリと2stと4stの話を。

2stはクランクが360°回転することですべての行程を終わらせる内燃機関ですね。

下がってくるピストンによってクランク室の圧力が上がり掃気ポートを伝って燃焼室に吹き込まれ、排ガスが押し出される。

2ストローク

再びピストンが上がり始めると掃気ポートと吸気ポートが塞がれ圧縮/燃焼する。

その燃焼で再びピストンが下がり始めて・・・以下繰り返し。相変わらず下手な絵ですいません。

2stが排ガス規制を通すことが難しいのは潤滑オイルを一緒に燃やしてしまう事もありますが、未燃焼ガスが一緒に排気されてしまう問題もあります。

チャンバー

チャンバーっていう膨らんだエキパイを見たことがあると思いますが、あれは排ガスの圧力波を引っくり返して一緒に出てきてしまった未燃焼ガスを押し戻して蓋をする役割があります。

ただそれでも未燃焼ガスをキッチリ戻すことは出来ないから規制を通すのが難しいという話。

要するに一石二鳥な行程なんだけど仕事が少しオザナリになってしまう感じ。

次は4stの話。

4stは何となく知ってる人も多いと思います。

4ストローク

混合気を吸って、圧縮して、燃焼して、排気。

720°つまりクランクが二回転で一つの行程が完了。

一つ一つの行程がキッチリ分かれており安定しているのが特徴です。

これを踏まえて紹介するのが5ストロークエンジン。

行程が奇数の時点で普通じゃない感じが伝わると思いますが、5ストロークのエンジンは3気筒または3の倍数の気筒数である必要があります。

5ストロークエンジン

これでワンセット。

まず一番なり三番なりが4stと同じ様に

「吸気・圧縮・膨張・排気」

をします。

しかしその排気ポートはエキゾーストではなく隣(真ん中)のシリンダーの吸気に繋がっている。

5ストロークヘッド

上から見るとこんな感じです。

そしてその排気エネルギーで真ん中のピストンを押し下げクランクを回す。

これを両サイドですると

5ストロークエンジンの流れ

で綺麗に整う。

『吸気・圧縮・膨張・排気(吸気)・排気』

900°つまりクランク二回転半ですべての行程が完了するから5ストローク。

5ストロークエンジン

これはただ捨てているだけの排気損失をターボなどのデバイスを持ちいらずとも利用できるようにした形。

ただしこれはバルブレイアウトに大きな制約があり直列にも出来ない。そしてクランクは360度に固定されるし、中央シリンダーのフリクションロスも大きい。

要するに費用対効果が無いので実用化されていないというのが現実です。

お次は6ストローク。

1080°つまりクランク三回転で行程が完了する6ストロークは実は結構メジャーです。

基本的に4ストローク目の排気までは4stと同じで、残りの2ストロークは何をしているのかと、単に空気を吸ってそのまま吐くパターンが一つ。

6ストロークのパターン1

これの狙いは4ストローク目に当たる排気で排出しきれなかった残留排ガスを燃焼室から綺麗に排出し燃焼室の温度を下げるため。

ピーキーな高圧縮エンジンでノッキングを回避するために持ちいられる方法です。

これとは別に空気ではなく排気ガスを循環させ、もう一度吸い込んでそのまま吐くパターンもあります。

6ストロークのパターン2

「なんでわざわざ排ガスをもう一回吸うのか」

って思いますよね。

このパターンが使われるのは燃費競技などの極端な場合。

もてぎエコチャレンジ

燃費競技では常にエンジンを動かしているわけではなく、加速が必要なときにだけエンジンを動かすようになっている。

エコチャレンジラン

そうした時に問題となるのがエンジンのオーバークール。

エンジンが冷えすぎているとガソリンの気化/混合が上手く行かず燃費が悪くなってしまう。だから熱い排ガスを入れて保温しているというわけ。

ホンダエコチャレンジ最高記録

これは毎年行われているホンダエコチャレンジで、最高記録は2011年の3644.869km/Lだそう。

ちなみにエンジンはスーパーカブC50です。

まあ説明するまでもないけど、これらが実用化されないのは

「オンかオフか」

の二択という極端な走行で初めて真価を発揮するエンジンだから。

次に紹介するのは面白いけど、実現は難しいであろうパターン。

先に紹介した2パターンと同様に排気までは従来どおり。そして5ストローク目で何をするかと言うと・・・なんと水を入れる。

6ストロークのパターン3

燃焼で熱くなった燃焼室に注水することで水蒸気を発生させ、その力でピストンを押し下げクランクを回すというもの。

しかも水による気化潜熱はガソリンの比ではないので冷却性も大幅に向上・・・なんですが、水を吹くので腐食の問題があり実用域には達していません。

ウォーターインジェクション

しかし最近BOSCHが腐食を起こさないウォーターインジェクション技術を確立したようで・・・もしかしたら有り得るかも。

既にBMWのM4 GTSとかいう車が近いことをやってますしね。(エアクリーナーの先で少し水を吹く)

ちなみに簡略化してるので鋭い人は気づくと思うのですが、いま紹介してきた6ストロークエンジンはカムやバルブが別に用意されていたり、カム山が二つあってハート型の様になっていたりとエンジンヘッドも特徴的だったりします。

で・・・ここまでは何となく4stの延長線上にある感じですよね。

という事で最後に紹介するのは非常にユニークな『バジュラズ6』とよばれる6ストロークエンジン。

1ストローク目

もうこれだけで普通じゃない感じが伝わると思うのですが、まず1ストローク目は普通に空気を吸います。

2ストローク目でその空気を左上にある燃焼室の外枠に運ぶ。それと同時に燃焼室では燃焼を開始。

2ストローク目

3ストローク目でその燃焼を利用するため左から二番目のバルブが開く。

3ストローク目

ここで注目して欲しいのは最初に燃焼室の外枠に運ばれた空気。これが燃焼による熱で温められているのがポイント。

燃焼が終わり発生した排ガスを4ストローク目で排出。

4ストローク目

そして5ストローク目になってやっと出番なのが最初に吸われた空気。

外枠で温められ膨張した空気を放つ様にバルブを開くわけです。

5ストローク目

締めの6ストローク目で膨張し冷却された空気を燃焼室に運ぶ。

6ストローク目

で、1ストローク目に戻る。

これがバジュラズシックスと呼ばれる6ストロークの仕組み。

なかなか面白いんですが・・・圧倒的に出力が稼げない。

まあこれはこのバジュラズ6だけでなく全般に言える話。

燃費はいいし排ガスも少ないんだけど、ポンピングロスやフリクションロス、更にレスポンス悪化や部品点数増など、4stほど色んな意味で効率的じゃない事が5stや6stの致命的な課題。

エンジンストローク

でも4stもガソリンエネルギーの7割以上をロスしてるわけだからベターではあってもベストではないのが現状。

だから皆が、それこそエンジニアですら当然のように思っている4stという固定観念を吹き飛ばすストロークが現れる可能性はゼロじゃないという話。

右コーナーが苦手な理由

右コーナー

多くのバイク乗りは右コーナーが苦手だと言われています。タイヤを見たら左よりも右が余っている人が大半かと。

何故右コーナーが苦手なのかというと、これは様々な原因があり一概には言えない部分があります。

その為

「原因はコレだ」

と決めつける事は難しいのですが、恐らく多くの人が当てはまるであろう原因を挙げていこうと思います。

原因1:左側通行だから

右コーナーの半径

左側通行における右コーナーは左コーナーよりもRの半径が大きくなり、バイクが寝ている時間(距離)が長い。

更に走行車線がセンターラインよりも先で狭く見えてしまうので、クリッピングポイント(最もインによる場所)が分かり辛い事が多い。

顕著に現れる例がヘアピンカーブ。

ヘアピンカーブ

曲がるキッカケを掴みきれず刺さりそうになる緑ライン。それを恐れてセンターを割ってしまう赤ライン。

どちらも危ない走行ですが経験ある方も多いかと思います。ちなみに黄色が大体の正しいラインです。

なぜそうなってしまうのかと言うとインに向かうのが早すぎるから。

インに付くのが早すぎる

ただこれにも左側通行ならではの問題が関係しています。

それは左側通行における右カーブというのはアウト側が基本的にガードレールまたは壁や崖という事。

右回り

「膨らんでコースアウトしたくない」

という恐怖心が自ずとそうさせてしまうんです。

実際公道は水はけを良くするためにカマボコ状(中央が高い)の逆バンクが基本なので、アクセルを開けるとアウトに膨らみやすくなってる。その事が更に心理に働きかけている面もあります。

日本の交差点

まあそもそも左側通行という事で右左折をする頻度が全く違うという事もありますけどね。左側通行における右折は基本的に一時停止や徐行からですし。

原因2:操作系が右側に集中してるから

右バンク

クラッチレス等の一部のバイクを除き、曲がる時というのはギアチェンジも減速も済ませておくのが基本。

曲がっている最中はアクセルとリアブレーキ操作がメインになるわけですが、奇しくもこの二つはどちらも右側にある。

つまり右コーナーの場合、それらの操作を狭く窮屈になっている中で行う必要がある為にアクセルワークがラフになってしまう。

Uターン(最小の右回り)等での転倒(アクセルとリアブレーキ操作ミス)がいい例かと思われます。

原因3:利き足と軸足

利き足と軸足

足というのは交互に動かします・・・当たり前ですね。

ここで突然ですが皆さんバイクに乗る時どっちの足を上げて乗りますか。

バイクに跨る時

恐らく多くの人が右足を上げて乗るんじゃないかと思います。

右足が利き足の人が多いから当たり前と思われるかもしれませんが、足は手と違い動かさない方にも大きな役割があるんです。

それは

「体重を残して安定させる」

という軸としての役目。

要するに踏ん張る足という事ですが、この軸足というのは利き足では無い方、つまり左足が得意な人が多い。

イン側荷重

そしてバイクは曲がる時、イン側の足でバランスを取ります。

つまり右コーナーがぎこちなくなってしまうのは、軸足として使うことに慣れていない右足でバランスを取らないといけないからというわけ。

足をつく方

乗る時だけでなく停車する時、または停車中に着く足は左足ですが、利き足である右足を着くと意外と安定しないのが分かると思います。

※立ちゴケする可能性があるので気をつけて

大まかに分けてこの3つが右コーナーを難しく感じさせている理由と言われています。

右コーナーが苦手といっても人によって苦手さは千差万別で、無駄に力が入っている人、フォームが固くなっている人、ラインを読めていない人、目線が落ちている人などなど修正箇所も人それぞれ。

右コーナリング

トドのつまり右コーナーが苦手なのは多かれ少なかれ右コーナーに対して苦手意識を持っているから。

ただ、ここまで書いておいてアレですが、これを読んで更に苦手意識を持つのは非常にマズいです。苦手意識を持つとタダでさえ駄目なのに更に駄目になってしまうから。

だから

「右コーナーが苦手だ。」

と考えるのは絶対にやめましょう。

右コーナーが苦手

「まだ慣れてないだけ。」

こう考えるようにしましょう。実際そうなんですから。

“肩の力を抜く”

これが右コーナー克服の第一歩です・・・まあそれが難しいんですけどね。

ホンダ車が優等生と言われる理由 ~圧縮比の話~

ホンダウイング

ホンダのバイクは優等生とよく言われていますね。

そう言われる最大の理由はライバル車よりも馬力が低い事が多いからかと。

では何故ホンダはいつも馬力が低い傾向にあるのか考えた事はあるでしょうか。

先に答えを言ってしまうと

「圧縮比が低い場合が多いから」

というのが大きな理由です。

なるべく簡単な説明を心がけます。ちなみに4stの話です。

圧縮比とは

圧縮比というのは文字通り混合気をどれだけ圧縮するかという事で、圧縮比を高く設定すると取り出せる仕事量(熱効率)も上がるので馬力が上がります。

分かりやすい例として600ccのスーパースポーツを挙げてみます。※2008年ごろのモデル

ZX-6R圧縮比13.3:1128馬力
YZF-R6圧縮比13.1:1129馬力
GSX-R600圧縮比12.9:1126馬力
CBR600RR圧縮比12.2:1118馬力
平均値圧縮比12.8:1125馬力

○○:1というのは要するに何分の1にまで圧縮するかという事で、CBR600RRは12.2分の1とライバル車よりも一段落ちる圧縮比な事から馬力も少し低いですね。

何故ホンダだけ圧縮比が低いのかというと、高圧縮によるデメリットを嫌っているからです。

空気は圧縮されると熱を持つ性質がある事から、高圧縮=高圧にすればするほどプラグが点火した火が届く前に圧力に負けて勝手に火が付いてしまうノッキングという異常燃焼を起こしやすくなる。

ノッキング

ノッキングが起こるとプラグ点火による膨張とぶつかることで衝撃波が生まれシリンダー内を駆け巡る事に。

キンキン、チリチリと衝撃波が壁にあたって跳ね返る音を聞いたことがある人も多いと思います。

ノッキングは熱損失となりエンジン内の温度が跳ね上がり、また燃焼効率もガタ落ちとなるので良い事は一つもありません。

ただしリタード制御といって点火タイミングを遅らせて(遅角させ)シリンダー内の圧力を上げないようにする機能が付いているので神経質になる必要はない。

「どうして点火タイミングを遅らせると圧力が上がらないのか」

って話ですよね。

4ストローク

点火のタイミングというのはピストンが一番上に来た時(混合気の圧縮が完了した時)と思いがちですが、実際は一番上に来る少し前に点火されています。

この理由の1つは、一気にバンッと燃えるLPGガス等とは違い、ガソリンは燃え広がるのに時間がかかるから。

そしてもう1つは、ピストンにも丁度いいタイミングというのがあるから。

これは自転車に例えると分かりやすいです。

ペダルを漕ぐ時に一番力が伝わるのはペダルが少し進んだ時ですよね。

自転車のペダル

これと同じでピストンにも丁度いいタイミングがあるんです。

これらの事からガソリンが燃えるタイムラグとピストンがドンピシャに来る位置を計算し点火タイミングを早めているというわけ。

ただし早めに点火することには問題があります。

ピストンが上がり切る前に点火をするということはピストンが圧縮中(上昇中)なのに燃焼膨張を始めるわけなので、当然ながらシリンダー内の圧力が跳ね上がりノッキング(意図しない自然発火)を起こしやすくなる。

進角点火

つまりリタード制御(点火を遅らせる制御)をすることでノッキングを回避できるのは、ピストンの圧縮に逆らわない様にしてるから。

遅角点火

しかしこれはいま話した様に膨張のタイムラグ、ペダルを漕ぐタイミングがかなり遅れるのでノッキング時ほどではないにしろ本来のパワーは得られない。レスポンスやフィーリングも悪化します。

ちなみに

「耐ノック性の高いハイオク仕様の高圧縮エンジンにレギュラーを入れても壊れないけど性能は落ちる」

と言われているものこのリタード制御が理由。

これが点火タイミングの難しい所。

点火タイミング

点火タイミングを早めれば気持ちよく回ってパワーも出るけど、圧が増すのでノッキングを起こす可能性が上がる。

一般的には無視できる範囲のノッキングしか起こらないところまで点火時期を早めるのがベターだと言われています。その為レース用のマシンやキットでは点火時期を市販モデルより早める様になっている。

※エンジンブローと隣合わせなので安易に弄らない様に

ただしコレはピークパワーだけを見た時の話です。

低圧縮エンジン

常にパワーバンドに入れる走りをするならば別ですが、少なくとも公道ではそんなの無理な話。

ここで問題となるのがエンジンというのは低回転域が、簡単に言うとゆっくりした動き(燃焼)が苦手という事。

特に高圧縮エンジンの場合、素早い燃焼に貢献する混合気の渦(流速)を押し潰して消してしまう等の問題があるので更にノッキングを起こしやすく(ノッキングによる膨張時間を与えることに)なる。

エンジンのスムーズさ

その為このようにカタログのパワーカーブではスムーズでも、実用途ではノッキングを起こし易くなる。しかしそれでは乗れたものではないので先に話したリタード制御(点火の遅角)が入る。

つまり少し大袈裟に言うと

「高圧縮エンジンは実用域で綺麗に気持ちよく回れていない(点火できていない)場合が多い」

ということ。

ホンダはこれを嫌っているんです。

では実用域でも点火タイミングをドンピシャで合わせるにはどうしたらいいか。

圧縮比を下げる

圧縮比を上げなければいいんです。

圧縮比が低ければピークパワーを稼ぐことが難しくなる代わりに、点火時に跳ね上がるシリンダー内圧力も下がるからノッキングの問題が軽減され点火タイミングの自由度が増す。

つまり低回転でも高回転でもドンピシャで気持ちよく回る点火タイミングが可能になる。

ホンダのバイクが大人しいとか、優等生とか言われる理由。そして下から上までモーターの様に回るとか言われるもこれが大きな理由。

ホンダR&D

「安易に圧縮比を上げてはいけない」

ホンダのエンジニアはこう考えているという話。

断っておきますが”高圧縮が悪”で”低圧縮が善”という話ではないですよ・・・実際2017年に出たCBR1000RRやCBR250RRはそうも言ってられなかったのかモリモリ高圧縮エンジンです。

点火タイミング

ホンダに限らず実用性のあるバイクが低圧縮なのは理由があるし、高圧縮なのも理由がある。

ただ圧縮比の高低で測れるのはピークパワーであり、必ずしもフィーリングと直結するわけではないという事です。

レンタルバイクがもたらすもの ~メーカーが事業に乗り出した理由~

バイクレンタル

ヤマハが2018年末からメーカー直々に始めたと思ったら、2020年にはホンダも参入・・・かと思ったらカワサキもモトオークレンタル経由ですが始めたバイクレンタルサービス。

乗用車のレンタカーと違ってレンタル専用の事業所があるわけではなく、公式サイトから該当店舗(ドリームやYSPやPLAZAなどのディーラー)に用意されている車両を予約して当日その店舗に受付にいく形。

料金は大まかに平均して書くと

 4時間 24時間
大型クラス 14,000円 19,000円
普通クラス 10,000円 12,000円
小型クラス 5,000円 6,000円

だいたいこんな感じで

・対人無制限(相手へ賠償)

・対物無制限(相手の物への賠償)

・搭乗者障害特約(自分や同乗者への補償)

・無保険車傷害保険(無保険車との事故を補償)

・時間と距離が無制限のロードサービス

などなど要点を抑えている任意保険料込み。

ただし

『車両保険(借りたバイクの補償)』

『営業補填(修理で一時的に利用不可になった場合の補償)』

は入っていないので転倒や事故などでバイクを壊してしまうと修理費と営業補償を自己負担する必要がある。

バイクレンタル

だからホンダやヤマハなどは自己負担をゼロにするフルカバータイプの保険オプション

『1500~4000円/日 ※クラスによる』

も付ける事を推奨しています。

ちなみに保険適用には事故証明が必須なので立ちごけでも警察を呼ぶようご注意を。あと一番気をつけないといけないのは盗難で、盗難保険は無いので盗られたら弁償になります。

まあ本題はこれじゃないので車両や保険など注意事項が気になる方は公式ホームページを読んでもらうとして本題に入ります。

【主なバイクレンタルサイト(参照)】

HondaGO バイクレンタル

ヤマハ バイクレンタル

モトオークレンタル

レンタル819(キズナレンタル)

上記の説明を聞いた多くのバイク乗りが

「レンタル代が14,000円で保険が4000円って4時間借りるだけで18,000円もするのかよ」

と思ってるのではないでしょうか。

18,000円あればパーツやウェアや遠征費が賄えるほどの額、乗用車ならクラスによっては1泊2日も可能な料金。転倒という可能性があり仕方ないとはいえ正直ちょっと高くて率先して利用しようとは思わないですし

「メーカーが直々に展開するほどの事業(規模)なのか」

という疑問すら湧いてくるんですが、メーカーが直々にそれも精力的にレンタルバイク事業を展開しているのは

「顧客が既存のバイク乗りじゃないから」

です。

レンタルバイクは買い替えや気になっているモデルを長時間借りて好きに試走出来るという需要もある。でも一番の顧客は免許は持っているけど車両は持っていない人達。

レンタルバイクの利用者

『バイク未保有者(ペーパーライダー)』

が乗るためなんです。

皆さん二輪免許は持っているけどバイクは保有していない休止ライダーやペーパーライダーがどれくらい居ると思いますか・・・これ驚きますよ。

正解は

バイクレンタル

『64.9%』

とっても多いですよね。

ちなみに免許改定による繰り上げで二輪免許所持者となった1965年以前の人を除いても二輪免許所持者は約1000万人いるとされているので人口にして約650万人。

つまり

「潜在的なライダーが650万人も居る」

という事になる・・・そう、メーカーがレンタルバイク事業を直々に乗り出したのはこの人達を狙ってのこと。

非保有層

既存の倍近く存在する様々な理由でバイクを保有していない人達をバイクビジネスに結びつけたいという狙いからメーカーはレンタルバイクを始めた部分が強くあると思われるんです・・・が、ビジネスと言っても単純にレンタルビジネスとしてではないですよ。

自動車工業会の二輪車市場動向調査2017のトピック調査で非保有層の中には

「いずれはまたバイクを所有したい」

と考えている人が少なくない事が分かってる。

わざわざ二輪免許を取ってるんだから当たり前な話ですが、メーカーとしてはここを掘り起こしたいんです。

しかし現役ライダーですら新しいバイクを買おうと思っても車体価格などに躊躇するのに、バイクライフと少し距離を取っている潜在ライダーがいきなり100万円前後の物を買うっていうのはかなり敷居が高い。

そこで突破口になるのが購入ほど敷居が高くないレンタルバイクというわけ。

オーナーの増加

そして同時にここで重要となるのが最初にも言ったように

「バイクレンタルちょっと高い」

と思ってる現役バイク乗り。メーカーがレンタルバイク事業を精力的に展開するようになった要因は実はここにある。

何故これが重要なのかというとレンタル事業には

「保有者(既存顧客)の喪失」

という懸念事項があるから。

要するに商品を買うのを止めてレンタルで済ませる層が出てきてしまい、掘り起こすどころか埋めてしまうような事態を招いてしまう問題・・・しかしバイクはそうならない事が展開していくうちに分かった。

オーナーの減少

理由はいま言ったように保有層は所有する喜びやカスタムする喜びを得ることが出来ないなどの理由からレンタル運用(やサブスクなどの定額制)にあまり関心がないから。

割高に感じてしまうのが正にそれ。

一方で非保有層(潜在ライダー)は所有したいと思ってる層が一定数いるので、例え意図しなくてもレンタルバイクを利用して久しぶりに乗ると

オーナーの増加

「やっぱバイクは楽しいから欲しい」

となり顧客になる可能性が少なからずある。

つまりレンタルバイクは顧客を増やすことはあっても減らすことはない物凄い販促なんです。

あくまでも考察というか分析ですが纏めると、メーカーが直々に大して旨味が無いであろうレンタルバイク事業を精力的に展開しているのは

「潜在ライダーを掘り起こし購入してもらう(顧客になってもらう)ための踏み台だから」

という話。

最後にちょっと個人的な考えを述べると、現役ライダーがレンタルバイクに否定的な考えをするのは分かるというか自然な話ですし率先して利用すべきとも思いません。

ただ、レンタルバイクを利用している人は約80%の確率でペーパーやリターンなどまだバイクに慣れていない人が乗っている。

レンタルバイクのナンバープレート

もしもナンバープレートが『ろ』か『わ』になってるレンタルバイクを見かけたら若葉マークだと思って、気持ち程度でいいのでバイクの先輩としてジェントルに接したいし、そうして欲しいな思う次第です。

「”K”awasakiを探せ!」総合カタログに込められた遊び心

フライングK

カワサキのロゴでお馴染みのフライングK

そんなフライングKが年一回発行されるカワサキの総合カタログの表紙にこっそり紛れ込んでいる事をご存知でしょうか?

これは知る人ぞ知る毎年恒例の遊びで”必ず”何処かに入っています。

今回は比較的簡単な2013年カタログをご紹介。

カワサキへの信仰心が強い人ほどすぐ見つかるそうですよ。

カワサキ総合カタログ2013

さて何処にあるか分かりますか?※見つけたから何か貰えるといった特典はありません。

「どうしても分からない教えて!」という人はコチラをクリック(答え)

※2016年ウェアカタログ表紙(JPG)

※2017年ウェアカタログ表紙(JPG)

しかしカワサキにこんな遊び心があったとは意外ですよね。

もしバイク屋さんに置いてたら待ち時間の暇つぶしがてら探して見るのも一興かもしれません。

二気筒エンジンが七変化した理由 -クランク角について-

二気筒エンジン

直四至上主義が蔓延っていた国内ではほんの十年ほど前までは安物バイクと見向きもされなかったのですが、技術向上による侮れない性能とコストパフォーマンスの高さから市民権を得て来ている二気筒。

ひとえに『二気筒』といっても色んな種類がある事を何となく知ってる人も多いかと。位相クランクだの180度クランクだの耳にしたことがあるでしょう。

YZF-R25エンジン

実際この記事もリクエストを頂いて書いているわけですが、じゃあそれが

「どういう意味なのか、どうしてそんな事をしてるのか」

という事ですが、先に答えを言うと振動の問題が大きいです。

なるべく噛み砕いてWikipediaのアニメーションを切った張ったして書いていこうと思います。あまり詳しく書くとボロもでますし。

まずエンジンというのは

「1.吸気(180度)→2.圧縮(360度)→3.燃焼(540度 ※これが走る力になる)→4.排気(720度)」

4ストローク

というピストンが二往復、ピストンが付いてるクランクが二回転(720度)で1セットとなり走っているわけですが、たった二つピストンを付けるだけなのに他の多気筒と違い非常にバリエーション(特性)に富んでいるのが二気筒エンジン。

まず代表的なのが「パラレルツイン(パラツイン)」という並列二気筒エンジン。

バリエーションとしては

・360度クランク

・180度クランク

・270度クランク

三種類ほどあります。クランク角を示す○○○度というのは上で言ったエンジンの行程で

「一つ目が”3.燃焼(540度)”に来た時に、もう一つが何番(何度)にいるか」

を角度で表しているわけ。

それでもよく分からないという人は自転車のペダルを思い浮かべて下さい。

自転車のペダル

二気筒におけるクランク角というのは、左右それぞれのペダルが上に来るタイミングを現している数字みたいなもの。

『360度クランク並列二気筒』

クランクアングル

“ダン、ダン、ダン、ダン”と360度間隔で交代交代燃焼する等間隔燃焼。

一つが”3.燃焼(540度)”の時、もう一つは”1.吸気(180度)”をしています。540-180=360だから360度クランク。

360度クランクアニメ

代表的な車種はヤマハのTMAX530やBMWのF800など。等間隔燃焼なのでエンジンが出しゃばらず低速から安定したトルクが出る。

ただしシングルエンジンを二つ並べたような形なので一次振動という大きな振動が起こる。

『180度クランク並列二気筒』

クランクアングル

“ダダッ・・・ダダッ”と不等間隔燃焼。Ninja250やYZF-R25やCBR400などスポーツモデルの並列二気筒エンジンはこれが基本です。

一つが”3.燃焼(540度)”にきた時もう一つは”2.圧縮(360度)”にいます。540-360=180だから180度クランク。

何故そんな変なタイミングを取ってる(クランクを捻っている)のかということ、360度クランクで話をした振動が問題だったから。

360度クランクアニメ

この360度だと単気筒で起こっていたピストンの上下運動(そのまま上下に向かおうとする慣性力)による振動も単純に二倍になってしまいクランクが綺麗に回れない事から出力や回転数を上げるのが難しくなった。

そこで誕生したのが左右それぞれのピストンがそれぞれ反対の動きをし、互いの振動を打ち消し合う180度クランク。

180度クランクアニメ

こうやって左右のピストンが反対の動きをすることで互いが互いの上下運動に寄る振動を打ち消し合うので、360度クランクで問題だった振動が問題にならない・・・んだけどコレはコレで360度には無かった別の振動が生まれます。

それは偶力振動といって要するにピストンが左右対称に動いていない事から生まれるエンジンを揺すり回すような振動。

偶力振動

更に180度は燃焼タイミングがあまりに極端でトルクの波が大きい事から発進時など低域での扱いやすさに難があります。

『270度クランク並列二気筒』

270度クランクアングル

“ダ・ダ、ダ・ダ”とこんな感じです。分かりませんよね懲りずにスイマセン。

これは360度と180度のように必然的に生まれたクランク角というよりも、並列二気筒の可能性を求めた結果生まれたクランク角。発端はヤマハのパリダカです。

“3.燃焼(540度)”にきた時もう一つは”2.吸気途中(270度)”にいます。540-270=270だから270度クランク。

270度ピストン

こうすると点火タイミングが180度ほど極端にならずタイヤを休ませる時間が空くことでトラクションに優れている事と、エンジンのパルス感を味わえる・・・っていうのはよく聞く話だと思うけど270度のメリットはもう一つあって、360度や180度だと発生する微振動(二次振動)が発生しません。

何故かというとピストンの上下するスピードというのは一回転する間にも一定ではなく速い遅いを繰り返してるんですが、270度(90度)ズレてれば片方の速度が変わっても、もう一つが逆のゾーンに入って相殺するから。

慣性トルク

正確に言うとコンロッドの傾斜によるピストンの速度差。難しいから上の写真で納得してください。これは慣性トルクの写真なんですが。

ただし、270度はその角度通りピストンが左右非対称に動いてお互いを打ち消し合わないので360度と同じように大きい振動と揺れ動く振動が出ます。

ちなみに

一次振動というのはクランクが一回転する毎に一度起こるから一次振動。お尻を突き上げたりパーツが脱落するほどの大きい振動。

二次振動というのはクランクが一回転する毎に二度起こるから二次振動。ハンドルから伝わってきたりするビリビリとした微振動。

正確に言うと偶力振動も一次と二次があるのですが、これは消すのが基本なので感じることはほぼ無いかと。

ちなみにもっと言うと四次振動や六次振動などもありますが、問題となるのは二次振動まで。

纏めると

【360度】
大きい振動(一次振動):有
細かい振動(二次振動):有
揺する振動(偶力振動):無
特徴:低回転域から扱いやすいけど振動が大きく回転数を上げるのが苦手

【180度】
大きい振動(一次振動):無
細かい振動(二次振動):有
揺する振動(偶力振動):有
特徴:回転数を上げるのが得意だけど低域が苦手で不快な偶力振動も発生する

【270度】

大きい振動(一次振動):有

細かい振動(二次振動):無

揺する振動(偶力振動):有

特徴:数字通り360度と180度の特性を足して2で割ったような特性

二気筒クランク角

ザックリ言ってこんな感じです。大きい振動、細かい振動、揺れる振動、無くせるのはどのクランク角でも一つしかない。

ただ恐らく

「ツインに乗ってるけどそんな振動ないよ」

って思ってる人が多いかと思われます。

それはバランサーと呼ばれる振動を打ち消す重りの付いたシャフトが付いているから。

バランサー

例えば360度や270度の場合は大きい一次振動を消すバランサー(一次バランサー)が付いている場合がほとんどですし、180度の場合は左右に揺れ動く振動を消すバランサー(偶力バランサー)が必須です。

※偶力振動は横揺れなので非常に不快に感じる

GSR250エンジン

ただしバランスシャフトは魔法のステッキではなく代償があります。クランクの動力で動くわけなので出力や燃費が犠牲になるんです。

更に重りのついた棒を一本追加するわけなので、複雑化しエンジンレイアウトへの負担やコストも増えます。

250並列二気筒180度クランクのスポーツタイプが偶力振動のバランサーだけで二次振動のバランサーを付けていないのもそういう理由から。深刻な振動ではないから演出の為に残している面もありますが。

ただそんな二気筒でもバランサーが要らない二気筒があります。

『バンク角90度V型二気筒』

燃焼間隔は並列二気筒エンジンの270度クランクと同じです。

Vツインで”クランク角”ではなく”バンク角”と言ってるのは、Vツインというのはクランク(クランクピン)が実質的に単気筒分しかなく、本来なら一つしか付けない所に二つのピストン(コンロッド)を付けてるから。だから次の角度がない。

V型2気筒エンジン

そのかわりシリンダーという燃焼室で左右に振り分けることでタイミングを変えてるからVツインはクランク角ではなくバンク角(シリンダーの開き)で表すようになってる。

これがV4になるとまた二つ付ける場所が必要となりクランクピンが追加されるのでクランク角という言葉が出てきます。

V4については>>VFR400R(NC30)の系譜で少し語っていますので割愛。

【90度Vツイン】

大きい振動(一次振動):無

小さい振動(二次振動):無

揺する振動(一次偶力振動):無

なんと振動を生まない。

これは説明が非常に難しいので簡単に言うと180度並列二気筒のように互いが互いのピストン運動による振動を相殺するうえに、2つとも同じ軸にあり左右へ揺する運動も起こらないから。

※正確に言うと二次と偶力が発生するものの無視出来る程度

しかも並列二気筒のように並べなくていいからスリム。

つまり

「二気筒の最適解は90度Vツイン」

・・・とは、ならないんですねコレが。

90度Vツインはその名の通り2つのピストンを並べなくていいけど、そのかわり90度もピストンの間を広げないといけないから前後に長いエンジンとそれを収める長いスペースが必要になる。

並列二気筒と90度Vツイン

長いスペースが必要になるということは必然的に全長やホイールベースが伸るから少し眠いバイクになってしまう。

ちなみにハーレーなどが45度とかなり狭い角度にしているのはデザインの関係。

ハーレー狭角エンジン

キュッと開きを縮める事で塊感を出すためにこんなに狭くしてる。

話を戻すと、理想的なバランスを誇るけど前後が長すぎる90度Vツイン。それをなんとかしようとしたドゥカティが生み出したのが・・・

『バンク角90度L型二気筒』

Lツイン

90度Vツイン自体を更に90度傾けL字にして搭載することで全長を抑えるようにしたわけです。

これで万事解決・・・かと思いきや、コレをすると後ろのシリンダーが立ってしまうのでフレームや吸排気といった周囲のレイアウトに大きな制約を生んでしまう。

90度VツインとLツイン

だからLツインは(Vツインもそうですが)基本的に整備性が悪くバイク屋は結構面倒がったり工賃が高くなったり。

もう一つ上げるとエンジンで一番重い部分はクランク部(丸い部分)なんですが、Vツインはシリンダーの片方が前に飛び出している為に後ろ寄りに積むことになるので前輪荷重分布が不足してしまい走行安定性が損なわれてしまう。

ましてL型になると更にシリンダーを前に押し出す事になるのでその問題が顕著になる。

そんな中で生まれたユニークエンジンがバンク角52度と狭角ながら90度と同じ燃焼タイミングを持たせたVツインエンジン。

『V型位相クランク二気筒』

位相クランクVツイン

一つのクランクピンに2つ付ける従来の方法ではなく、クランクウェブと呼ばれる仕切りを設け別角度に二気筒目をズラして付けてる。

上の写真はホンダの52度位相クランク。

ちなみに位相角の求め方は

『180-(シリンダー挟み角×2)』

で、この52度バンクならクランク角は76度。

こうすると確かにV型のデメリットである前後長は抑えられるけど実質的に並列二気筒に近いクランク形状になるので、幅が増えクランクが重くなってしまう事と

“わずかな一次振動と偶力振動”

が発生してしまう。

つまり狭角というスペース的有利を取る代わりに無振動スリムいうVツインの武器を少し削った形になる。

ただし砂漠の女王と呼ばれたホンダのパリダカマシンNXRもこの方法を取っていました。それだけV型の前後長というのは軽視できない問題なんです。

VツインやLツインにやたらビッグボア(直径が大きいピストン)が多いのも

「全長を少しでも抑えたい」

という狙いがあるからだったりします。

ならばと出てくるのがモトグッツィに代表されるエンジン。

『バンク角90度Y型二気筒』

モトグッツィYツイン

確かに縦に積むとVツイン最大のデメリットである前後長は抑えられるしエンジンの振動はない。

ただしエンジンを90度回すということはすなわち駆動系も90度回す事になるのでチェーンドライブと相性が悪い。向き(クランクの回転)が縦になっているエンジンのバイクがほぼシャフトドライブなのはこれが理由。

ニーグリップ、ライダーの膝が当たらないように考慮しないといけないので必然的に後ろ乗りになり、バンク角も稼げない問題もあります。

最後はBMWでお馴染みの二気筒。

『バンク角180度F型二気筒』

BMWフラットツイン

最大のメリットはエンジンを低く積めて低重心に出来る事と一番熱くなるエンジンヘッドを効果的に冷やせること。これはY型もだけどね。

燃焼間隔は360度の等間隔。

F型というか水平対向なんだけど、これも上で話したホンダの位相クランクと同じようにピストンがそれぞれ別のクランクピンに付いてる形。

「フラットツインは振動が少ない」

と思ってる人がチラホラいるけど、ピストンが左右それぞれ反対方向に動くので揺れ動く偶力振動が発生し、見ても分かる通りバンク角が圧倒的に稼げない事とY型と同じく駆動も90度回ってしまうデメリットがある。

MT-01エンジン

そしてこれらV型・L型・Y型・F型全てに共通する難点としてシリンダーやヘッド(エンジンの上半分)が2つ必要だという事があります。

重量増やコスト増に繋がってしまうわけですね。

もう長くなってしまったのでいい加減締めると

「たった二つの気筒を組み合わせるだけ」

なのにこれほど多彩な形が生まれたのは

「たった二つしか組み合わせる気筒数がないから」

ということです。

二気筒の種類

その結果がこの七変化。どういう組み合わせをしようが一長一短で最適解はない。

同じ気筒数でこれほど色んな形があるのは間違いなくバイクの二気筒エンジンだけでしょうね。

奥が深い二気筒エンジンの世界でした。