「New Mid Concept」
ホンダが考えた新しい感動を具現化したバイク。
270度パラツインエンジンを前傾に62°と大きく傾けてスチールパイプフレームに搭載。
非常に低重心なのが写真を見ても分かりますね。
このプラットフォームをベースにクロスオーバーのNC700X、ネイキッドのNC700S、スクータータイプのINTEGRAの3バリエーションで展開。
これが出た時
「インテグラと言えば車だ。カッコインテグラ!」
なんて言われたけど、元々インテグラはバイク(1982年CBX400Fインテグラ)が始まりなので返してもらったと言ったほうが正しいです。
・・・というかカッコインテグラとか言っても今時の人は分からないか。ホンダのスポーツカーで昔インテグラっていうのがあったんです。
その車のキャッチコピーが「カッコインテグラ」で車も言葉も大ヒットしました。・・・って車の話はどうでもいい。
このNC700の特徴としてまず挙げられるのが低価格だということ。
日本はNC700X(欧州はインテグラ)が先行発売されたんですが、発売当時649,950円と700ccの大型なのにCB400より安いと大きく話題になりました。
どうしてこんなに安いのかと言えば約四割の部品を海外調達しているからですが、それだけでこれだけ価格が抑えられるなら苦労しない。最初に紹介した通り3モデルというバリエーション展開もコストを下げるため。工業製品の製造コストと言うのは出る数で決まりますから。
もちろん単純なコストカットだけでなくコスト節約のための工夫が随所に見受けられます。
例えばブレーキローターの部分。
NC700シリーズのフロントディスクローターって大径で中がスカスカだと思いませんか?
実はこれ、一枚からフロントローターもリアローターも取るっていう一枚で二度美味しい的な事をやってるから。
思わずナルホドと唸りますね。NC700のフロントローターがコスパと言う割に大きい物を付けてるのはこれが理由。
部品の海外調達もただ海外で作ってるというわけではなく、例えばフレームはインドで材料を調達して、フィリピンで加工して、日本(熊本製作所)で作ってる多国籍フレーム。
ちなみにこのバイクをタイなどのアジアで作っているという勘違いを見たりしますが作ってるのは熊本製作所ですし、エンジンに至っては完全国内生産です。
2016年4月の熊本大地震でこの製作所も被害を受けたようです。ここはホンダの国内二輪を一手に担う工場であり、世界各地にあるホンダ工場の中心マザーファクトリーでもある。だから熊本製作所は勿論のこと、被害に遭われた皆様の一日でも早い復興を祈っています。
さてまた話をNCにもどして・・・このNC700のエンジンはフィットのエンジンを半分にした物っていう逸話が有名ですね。
最近になって少し変わってきましたがそれでもバイクはずっと高馬力でナンボ、高回転でナンボ的な考えが当たり前で燃費の方はメーカーもライダーも関心がない。
しかしこのNC700のコンセプトは「Take Mid Easy」です。
つまりいつでも気軽に乗れるミドルクラス。気軽に何処へでも乗って行くなら燃費も大事という事で低燃費エンジンを作ろうと決まりました。会社からは「低価格の大型バイク」という要望だけで燃費については何も言われなかったそうですが、ただ低価格なだけのバイクなんてツマラナイとして燃費も追求するようにしたそうです。
が、先に言ったように今まで二輪で燃費なんて大して考えてこなかっただけあり、どうすれば燃費が良くなるのかサッパリで頓挫。
そんなこんなで行き詰った中での飲み会で
「フィットのエンジンを半分にして載せちゃえば、直列2気筒の670ccになりますね」
と、酔った勢いの冗談で言った一言が引き金に。すぐにフィットの開発陣に頭を下げて低燃費技術を乞い行ったそうです。
だから出来たエンジンのボアストロークはフィット(L13A型)とほぼ一緒。ストロークが数mm違うだけ。
実は二輪部門の人間と四輪部門の人間が接触して技術提供するのはホンダにとっては異例な事だそうです。同じホンダなのに大きい会社というのは違いますね。
そんなFITを参考に作ったエンジンですが、一風変わった作りをしていることをご存知でしょうか?
 一見するとなんてこと無い270度クランク(Vのツインの様な特性)のパラツインに見えますが、面白いことに吸排気系がほぼ一本化されている作りをしています。要するにツインエンジンなのにシングルエンジンみたいな吸排気レイアウトをしている。 
それがよく見て取れるのが吸気ポート。吸気の分岐がシリンダーヘッド内で行われてるんです。
皆さんご存知のように普通はもっと前の段階で気筒ごとにマニホールド(筒)で分けられています。何故ならそうしないと圧による吸気干渉を起こしてしまうから。要するに他のシリンダーの吸気動作を邪魔してしまって思い切り吸えなくなっちゃう。
しかしNCではそれを逆手に取って”敢えて”吸気干渉を起こし不規則な燃焼、つまり計算された干渉を起こし鼓動感を出してるわけです。CB1100なんかでもやってる技術ですが、コッチの場合は一本化した上でやってるから更に凄い。
コレはバルブを動かすカムシャフトで、(写真だと分かりにくいのですが)吸気干渉を計算して右と左でカムプロフィール(山の形)を変えてるんです。
他にも色々とあるんですがまとめると・・・
二輪初の軽量アルミロッカーアームを始めとした技術でフリクションロスを極限まで減らしつつ、意図的な吸気干渉で左右の燃焼に変化を起こし鼓動感を演出しつつ、吸気干渉による発熱差から来る歪みをアルミでも起こさせない設計をしつつ、アイドリングからストイキ(理想空燃比)に張り付く燃焼効率と排気脈動の最適化で41.0km/Lを実現しているわけです。
そのせいか特許の数も他の車種とは比べ物にならないほどあります。少しは凄さが伝わったでしょうか。
どうしても”低燃費”と聞くと四輪の影響もあって、薄く退屈な特性というイメージが湧いてしまう人が多いと思いますが、そういうわけじゃないという事だけでも伝わってれば幸いです。 
実際このバイクが出た時に凄く不評というか批判を受けていたのを思い出しますが、実は開発段階でも社内から懐疑的な声がかなり聞こえていたそうです。
しかし絶対的な自信を持っていた開発主査の青木さんはそれらを黙らせる為に、当時のホンダ社長であり、バイク大好きであり、同時にバイクにとてもうるさい伊東前社長が自ら行う市販予定車試乗テストにNC700を紛れ込ませた。
そしたら「今までにない挑戦的で面白い大型バイクだ」と数ある試作車の中でも大絶賛。
この一件以降はそれまであった反対の声がウソのように鎮まるどころか、「あの社長がベタ褒めしたバイクを俺にも乗せてくれ」と社内一の人気試作車になったそうです。
一般ライダーにはどうだったのかといえば、販売台数を見れば好評なのは一目瞭然ですね。
最後になりましたが、少し遅れてDCTモデルも追加されました。
    主要諸元
| 全長/幅/高 | 
2210/830/1285mm     [2195/760/1130mm]     {2195/790/1440mm} | 
| シート高 | 
830mm<LD:800mm>     [790mm]     {775mm} | 
| 車軸距離 | 
1540mm     {[1525mm]} | 
| 車体重量 | 
214kg(装)     [211kg(装)]     {238kg(装)} | 
| 燃料消費率 | 
41.0km/L     [41.5km/L]     [38.0km/L]     ※定地走行テスト値 | 
| 燃料容量 | 
14.0L | 
| エンジン | 
水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒 | 
| 総排気量 | 
669cc | 
| 最高出力 | 
50ps/6250rpm | 
| 最高トルク | 
6.2kg-m/4750rpm | 
| 変速機 | 
常時噛合式6段リターン     または     電子式6段変速(DCT) | 
| タイヤサイズ | 
前120/70R17(58W)     後160/60R17(69W) | 
| バッテリー | 
YTZ12S | 
プラグ     ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 | 
IFR6G-11K | 
| 推奨オイル | 
Honda純正ウルトラG1(10W-30) | 
| オイル容量 | 
全容量3.7L     交換時3.1L     フィルター交換時3.4L      または     【全容量4.1L     交換時3.2L     フィルター交換時3.4L    (クラッチ含む)     ※DCTモデル/INTEGRA】 | 
| スプロケ | 
前16|後43 | 
| チェーン | 
サイズ525|リンク114 | 
| 車体価格 | 
619,000円(税別)     [598,500円(税別)]     {770,000円(税別)}     ※スペックはNC700X(RC63)     ※[]内はNC750S(RC61)     ※{}内はINTEGRA(RC62)     ※ABSモデルは+4kg     ※DCTモデルは+12kg | 
 
系譜図