GL1000(GL1) -since 1974-

GL1000GOLDWING

「キング・オブ・モーターサイクル」

ホンダ初となるリッターバイクであり、ゴールドウイングの原点でもあるGL1000GOLDWING。

「北米向けバイクを常識に囚われず白紙から作れ」

とCB750FOURなどにも携わった野末さんが指名され導き出した答えが振動がほぼなく低重心に出来る

初代ゴールドウィング

『水平対向四気筒エンジンにシャフトドライブ』

の貴族バイクでした。どちらもホンダ初です。

もちろんただ水平対向を積んでるわけではありません。

水平対向エンジンというかクランクが縦になるエンジンの宿命として前後長が長くなってしまうデメリットがあります。

フラット4

これは車の物なので形が違うのですが、シャフトが縦を向いてしまう為に

『エンジン→ミッション→ドライブシャフト』

と数珠繋ぎになりエンジン長が長くなってしまう問題があるわけです。

エンジン長が長くなると必然的に全長が長くなり眠いバイクになってしまう・・・そこで考えられたのが二階建てエンジン。

GL1000エンジン

エンジンの後ろにミッションを持ってくるのではなく、エンジンの下にミッションを潜り込ませるように配置。

GL1000はこれで前後長を抑えているわけです。

GL1000GOLDWINGカタログ

「別にグランドツアラーなんだから伸びてもいいのでは」

と思うかもしれませんが、ゴールドウィングが目指したのはただ上品なだけの貴族バイクじゃないんです。

ゴールドウィング1000

「気品の中に燃えるスポーツ魂を持っているバイク」

というのが初代GOLDWINGのコンセプト。

だからわざわざオルタネーターをクランクと逆回転にしてトルクリアクションを相殺しコーナリングの邪魔をしない工夫までされている。

エンジン以外の部分でもこだわりは強く、例えばミッションを二階建てにしたことで空いたエンジン後方のスペースをガソリンタンクとすることで低重心に貢献。

ゴールドウイングカタログ

ダミータンクにはエアクリーナーや電装系に加え小物入れになっています。

そんなGL1000はデビューするやいなや北米で話題となり、和製クルーザーとして非常に大きな第一歩となりました。

ただ残念ながら1000ccなので(750cc上限規制で)日本では販売されず、入ってきているのは個人輸入モノだけ。

GL750

実は国内向けに(本田宗一郎の要望もあり)750ccの計画も並列して進んでいたようですが、パワーが足りないとして結局お蔵入りとなりました。

晩年の1979年にはコムスターホイールとタンクメーターを装備。

GL1000後期

でも恐らくGL1000は皆が思うゴールドウイング像と掛け離れていると思います。

それもそのはずでGL1000はグランドツアラーという肩書はあったものの、この時点では大型カウルを付けるという構想は無かった。

GL1000

ジャパニーズネイキッド然としていたからアメリカでも大ヒットしてたZ1と被って見えた上に倍近い$3000だったので、確かに評判は良かったもののセールスは好調とは言いがたい物もあったのも実情。

この事から

「GL1000はZ1キラーとして生み出された」

という誤解が生まれたんでしょうね。ちなみにそれはGL1000ではなくCBX1000です。

主要諸元
全長/幅/高 2305/875/1225mm
シート高 810mm
車軸距離 1545mm
車体重量 265kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 19L
エンジン 水冷4サイクルOHC2バルブ水平対向4気筒
総排気量 999cc
最高出力 80ps/7000rpm
最高トルク 8.3kg-m/6500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.50-19
後4.50-17A
バッテリー
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
D7EA/D8EA/D9EA
または
X22ES-U/X24ES-U/X27ES-U
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
スプロケ
チェーン
車体価格
※国内正規販売なしのため
系譜図
M11972年
M1
(A0K)
GL1000GW1974年
GL1000
GOLDWING
(GL1)
GOLDWING12001980年
GL1100
GOLDWING
(SC02)
GL1200

1984年
GL1200
GOLDWING
(SC14)

GOLDWING-SE1988年
GL1500
GOLDWING
(SC22)
GOLDWING-SE1996年
VALKYRIE/TOURER
(SC34)
SC472001年
GL1800
GOLDWING
(SC47)
SC472004年
VALKYRIE RUNE
/NRX1800
(SC53)
SC682011年
GL1800
GOLDWING
(SC68)
F6C2014年
GOLDWING
F6B/F6C
(SC68)
20182018年
GOLDWING/TOUR
(SC79)

M1(A0K) -since 1972-

GOLDWING prototype

「プロジェクトM1」

CB750FOURでイケイケだったホンダがグランドツアラーの限界を探るために極秘裏に進めていたプロジェクトの車両。

初代ゴールドウィングであるGL1000が登場する3年前に製作されたモデルで水冷式水平対向六気筒で1470ccです。

M1試作機

実はこのエンジンは元々はこのバイクのために造られた物ではなく、有名な車であるシビックの為に開発された物です。

1973年に厳しい排ガス規制を初めてクリアしたCVCCシビックのエンジンになる予定(案の一つ)だった水平対向四気筒が元ネタ。

CVCCシビック

ただ最終的にシビックは直四でいくことに決まり、既に開発していた水平対向四気筒が宙ぶらりん状態に。

当時エンジン設計をしていた加藤さん曰くそれを見て

「せっかく造ったのに勿体無い(※別モ415)」

という話になりシリンダーを二つ足して六気筒化しバイクに積んでみたのがこのM1というわけ。

M1エンジン

ちなみにこの頃のホンダはまだシャフトドライブを持っていなかったのでドライブトレインはBMWの物をそのまま流用。

ゴールドウィングプロトタイプ

だからこれはゴールドウィングのプロトタイプというよりスタディモデルに近いんですが、六気筒案は直六として有名なCBXより前のこの段階から既に検証されていたという事ですね。

シビックとゴールドウィングの意外な繋がりでした。

主要諸元

※プロトタイプのため不明

系譜図
M11972年
M1
(A0K)
GL1000GW1974年
GL1000
GOLDWING
(GL1)
GOLDWING12001980年
GL1100
GOLDWING
(SC02)
GL1200

1984年
GL1200
GOLDWING
(SC14)

GOLDWING-SE1988年
GL1500
GOLDWING
(SC22)
GOLDWING-SE1996年
VALKYRIE/TOURER
(SC34)
SC472001年
GL1800
GOLDWING
(SC47)
SC472004年
VALKYRIE RUNE
/NRX1800
(SC53)
SC682011年
GL1800
GOLDWING
(SC68)
F6C2014年
GOLDWING
F6B/F6C
(SC68)
20182018年
GOLDWING/TOUR
(SC79)

CRF1100L Africa Twin(SD10) -since 2019-

CRF1100L

「FORGED THROUGH ADVENTURE」

2019年に登場したCRF1100LのSD10型。

最初に変更点を上げると

・防風性能を上げた新型フェアリング
・エンジンを見直し1082ccにしつつ-2.5kg(DCT:-2.2kg)軽量化
・出力特性およびDCTの見直し
・排気デバイスを搭載した新開発マフラー
・クロスパイプを廃止した新設計フレーム
・リアサスペンションレイアウトを変更
・ハンドルポジションを22.5mmアップ
・6軸IMUによる電子制御
・Apple CarPlay対応6.5インチTFTメーター

以下はASモデル
・手動5段階可変スクリーン
・コーナリングライト
・電子制御サスERRA※OP

などなど排気量を上げただけかと思いきや実はほぼ全面的に変わってるフルモデルチェンジになっています。

いくつかピックアップするとまずエンジン。

CRF1100Lのエンジン

ストロークを6.4mm伸ばす事で1083ccとしているんですが、単純に伸ばしただけではなくピストンを20%軽量化することで往復部の耐久性も先代と変わらず確保。

さらにバランサギアのノイズ(遊び)対策として一歯少ないギアをスプリングで重ね、相手を挟み付けるように噛み合わせることで解消していたサブギア機構も交差(精度)を上げることで廃止。

CRF1100Lサブギア

これにより排気量を上げたにも関わらずエンジン単体で-2.5kg(DCT:-2.2kg)の軽量化に成功。

合わせてマフラーもEURO6に対応しつつ小型化し、音の変化を楽しめるCBR1000RR譲りの排気デバイスも装備。

CRF1100Lマフラー

お次はフレームなんですがコッチもすごい。

メインパイプの幅を20mm狭めると同時にクロスパイプを廃止というこれまた大胆な変更を敢行しました。

CRF1100Lフレーム

これは軽量化と同時にフレームに靭やかさをもたせ、マシンの挙動を穏やかにすると同時に安定した旋回特性にするため。

「アドベンチャーでこれって強度とか大丈夫なの」

と不安に思ってしまうところですが、代わりにヘッドパイプ周りとピボット周りそれにエンジンハンガーを見直すことで同等の強度を確保。

CRF1100Lリアフレーム

合わせてリアアームとスイングアームも鋳造と鍛造を連結させたものにしボディ全体で2.3kgの軽量化を実現しています。

ただ恐らく一番分かりやすく感じるであろう変更点は足付きじゃないかと思います。

というのもこの代の日本仕様はサスのストローク量を40mmほど減らす事で足付きを改善した先代でいうLD(Low Down)モデルが標準になりました。

CRF1100L

これは日本国内では環境の関係も相まってASのLD(Low Down)モデルが人気というかほぼそっちばかり売れた事が理由。

だからモデル数を絞ることによるコスト削減でLDのみになったんですが、砂漠の女王レプリカ(詳しくはNXR750参照)というバックボーンも相まって足長モデルを欲する要望がユーザーから出た事で欧州と同じ標準サス仕様のSモデルも限定受注ながら販売。

CRF1100LタイプS

まあSモデルは相当な物好きかスキルを持った玄人向けモデルなので除いたとしてもCRF1100Lは

【ノーマルモデル】
・CRF1100L
・CRF1100L DCT(DUAL Clutch Transmission)

【AdventureSportsモデル】
・CRF1100L AS(Adventure Sports)
・CRF1100L AS DCT
・CRF1100L AS ES(Electric Suspension)
・CRF1100L AS ES DCT

と6パターンもあって

「色々あってよく分からん」

と感じている方も多いかと思います。しかし今回の開発の狙いを知ればそれが明確になると思うので少しご紹介。

CRF1100Lへのモデルチェンジンの狙いがなんだったのかというと大きく分けて三つあり、一つはパワーを上げること。

CRF1100Lパワーカーブ

これは既存のCRF1000Lに対するアンケートを取った所

「もう少しパワーが欲しい」

という声が多く聞かれたから。だから排気量を上げる事になったんですが重くなることを何としても避けたいという事で最初に話したようストロークを上げるだけではなくほぼ全面的に作り直されることになった。

そしてもう一つがよく分からんっていう人へのヒントになる開発の狙い。

CRF1100LとAS

「ノーマルモデルとアドベンチャースポーツの区別化」

です。

先代でASが追加されたもののビッグタンクか否か程度の違いでコンセプトが立っていないという事からCRF1100Lではそれをより鮮明に出そうとなった。

AdventureSportsにのみ

・コーナリングヘッドライト
・可変式スクリーン
・チューブレスタイヤ
・SHOWAの電子制御サスペンションEERA

などが用意されているのは

アドベンチャースポーツのコンセプト

「どこまでも行けるアフリカツイン」

というツアラーというかトラベルエンデューロ色を明確化に分かりやすく打ち出す狙いがあり、反対に無印の方はリアキャリアなどの装備を極力省くことで装備重量の軽さを優先することで

ノーマルモデルのコンセプト

「どこでも行けるアフリカツイン」

というビッグオフ色を明確に打ち出す形にした。

CRF1100Lポジションマップ

つまりどっちが上位でどっちが下位とかではなく方向性が違う別のモデルであり、あとは好みに合わせてMT/AT(DCT)を選んでねっていう話。

先代の開発の狙いも含めたうえでチャートを作ればもう少し分かりやすいかなと思ったんです・・・が、思ったほど分かりやすくなかった。

CRF1100Lのグレード選び

まあ参考程度に。ちなみに上下対応のクイックシフターやDCT用シフトペダルがOPで用意されています。

ところでアフリカツインは2016年に登場し2018年にASモデルが追加・・・と思ったら2019年にフルモデルチェンジ。

「モデルチェンジ早くないか」

と感じている方も多いかと思います。

CRF1100Lの年表

こうやって並べてみるとなんと毎年何かしらのモデルチェンジをしている。

これ何故かというと森田プロジェクトリーダー曰く

「アフリカツインを今度こそ本気で育てる」

という思いがあるから。

CRF1100Lの壁紙

系譜を見てもらえるとわかる通りアフリカツイン(XRV)は知名度のわりに一度生産を終了しています。累計7.3万台以上を売るほどの人気だったんですが、もともと限定販売が前提だったためか2001年に生産終了。

それ以降ずっと再販の声があったにも関わらず応えられずにいたことをホンダも相当心苦しく思っていたようで、今度こそアフリカツインというブランドを途切れさせずまた育て上げるという意思の現れがこのモデルチェンジラッシュなわけですね。

ホンダCRF1100L

もちろん意気込みだけでなんとかなるほど甘い世界ではないんですが、幸いにもアフリカツイン日本はもちろんビッグアドベンチャーの本場欧州でも向こうでも

「本当に道を選ばずオフロードもしっかり走れる」

としてかなり評判が良く、難攻不落の絶対王者GSが君臨するドイツですら地元誌MOTORRAD(Beliebteste Honda-Modelle im vergangen Jahrzehnt)によると登場から4年ほどで既に1万台も売れ

「ここ10年で最も成功したホンダ車」

と称されたりしています。これはもしかすると・・・もしかするかも知れない。

参照:CRF1100L AfricaTwin|HONDA

主要諸元
  CRF1100L CRF1100L
Adventure Sports
全長/幅/高 2310/960/1350
S:2330/960/1395
2310/960/1520~1580
S:2330/960/1560~1620
シート高 810~830mm
S:850~870mm
車軸距離 1505mm
S:1575mm
車体重量 226kg(装)
S:226kg(装)
DCT+10kg
ES+2kg
238kg(装)
S:240kg(装)
DCT+10kg
ES+2kg
燃料消費率※WMTCモード値 21.3km/L
燃料容量 18.0L 24.0L
エンジン 水冷4サイクルOHC二気筒
総排気量 1082cc
最高出力 102ps/7500rpm
最高トルク 10.7kg-m/6250rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前90/90R21(54H)
後150/70R18(70H)
前90/90R21-54H
後150/70R18-70H
(チューブ)
バッテリー HY110
プラグ SILMAR8A9S
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.8L
交換時3.9L
フィルター交換時4.0L
DCT:全容量5.2L
交換時4.2L(フィルター交換時)
交換時4.2L(クラッチ交換時)]
スプロケ 前16|後42
チェーン サイズ525|リンク124
車体価格 1,470,000円(税別)
DCT+100,000円(税別)
1,640,000円(税別)
DCT+100,000円(税別)
ES+300,000円(税別)
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

【関連車種】
SUPER TÉNÉRÉの系譜V-STROM1000の系譜VERSYS1000の系譜R1200GSの系譜

CRF1000L Africa Twin(SD04) -since 2016-

SD04

「True Adventure」

実に15年ぶりの復活となったアフリカツインのCRF1000L/SD04型。

CRF1000Lのエンジン

最大の特徴は52°Vツイン742ccから270°クランク並列二気筒998ccのエンジンになっていること。

これは車体のコンパクト化とマスの集中化を図る狙いがあり、これのおかげでリッターとは思えないほどコンパクトになっています。

CRF1000LとXRV750

もちろん最低地上高を考慮したドライサンプな上に、二軸一次バランサーが付いているので疲労に直結する振動はほぼありません。

そんなCRF1000Lで面白い試みなのがDCTを採用したグレードがあること。

DCT

「アドベンチャーでDCTって・・・」

と思った方も多いかと思います。

悪路になるとどうやっても滑るから意図的に引っ張って地面を掻いたり、半クラやギアチェンを使うシーンも多々あるわけですからね。

これについてはホンダも最初はお試し程度の半信半疑でテストしたんですが、やってみると意外と良い事がわかったから採用する事になりました。

2016アフリカツイン

クラッチレスは良く捉えるとエンジンストールの恐れが無いわけです。

つまりどんなに神経を使う道でもアクセルワークに集中出来る。このメリットが想像よりも大きかった。

ベースとなっているのはVFR-Xの物ですが、もちろんそのままではなくオン/オフどちらも熟せるアフリカツインに合わせてチューニングされた物です。

ABSスイッチ

それに加えアフリカツインは”G(グラベル)モード”というシステムがあります。

DCTは実質ATなので、ギアチェンやアクセルのON/OFF時にはギクシャクしないように半クラ制御が入ります。

この半クラ制御がアクセルで物言わせて走る場合が多い未舗装路では違和感として現れる場合がある。

といってもコンマ何秒の世界なんですが、このGモードはそのコンマ何秒の半クラ状態を更に縮める為の制御。よりアクセルワークをダイレクトに地面に伝える為のモードというわけ。

アフリカツインのカタログ写真

もちろんギアチェンを自動にしないMTモード、引っ張るSモードLv1~3、自動のDモードなど自分でチョイス出来るようにもなっています。

それに走行モードとABSのON/OFFとTCSのモードを組み合わせると・・・

Dモード

全部で80通りの走行モードが・・・ホンダのDCTアドベンチャーへの本気度が見て取れますね。

もちろん従来どおりのMTモデルもあります。

開発責任者の飯塚さんのニュアンスから察するにDCTモデルは本気アタックするような人に向けた機能ではなく、気軽に楽しめるようにした初~中級者向けの機能。

「そんなの要らない」

って上級者の方はMTモデルをどうぞという話。

シルバーアフリカツイン

さて、そもそも何故いまになってアフリカツインが復活したのかというと

・アフリカツインの再販を望む声が多かった

・欧州を中心にアドベンチャーブームが再燃した

・ホンダがダカールラリーに再参戦した

などなど様々な理由がありますが、恐らく一番大きいのはマーケットからの要望と思います。

ちなみに現在はパリダカではなくダカールラリー。

これは治安や政治的な問題で舞台が南米になったから。ちなみにレギュレーションは二気筒450ccまでとなってます。

話を戻すと、アフリカツインはアドベンチャーの中でもかなりオフロード寄りな造り。

フレーム

分かりやすい所で言えばクラストップの21インチFホイールや、クラストップの45mmフロントフォークなど。

明らかにオマケではなく”本気で”オフを走れる様に造ってある。

CRF1000Lスケッチ

メディア向けの試乗会でもわざわざモトクロスコースを用意して走らせてる事を見ても明らか。

その意気込みというか思い切りの良さが伝わったのか、このCRF1000Lは発売一週間で年間販売目標の1000台を超えてしまうほどの人気となりました。

MTとDCTの割合は半々で購入層は40~50代がメインとのこと。

新型タイヤ

やっぱりNXRや旧アフリカツインの世代に人気なんでしょうね。

翌2017年に排ガス規制に対応させ約3馬力アップし、2018年にはマイナーチェンジ。

2018年CRF1000L

・電子制御スロットル
・オートウィンカーキャンセラー
・急ブレーキを後続に知らせるエマージェンシーブレーキランプ
・HSTC(電子制御)の設定幅向上
・リチウムイオンイオンバッテリー
・グリップヒーターとACC電源の標準装備
・上下対応クイックシフター※OP

などのマイナーチェンジが実施され、それと同時に

・大型ワイドスクリーン
・24Lのシームレスビッグタンク
・ステンレス専用キャリア
・フロントガード
・フロントユーティリティポケット
・ストローク量を増やした専用サス

が備えられたCRF1000L AS(Adventure Sports)というグレードが追加。

CRF1000Lアドベンチャースポーツ

専用サスペンションの関係でただでさえ常人には厳しい足つきだったのに、更にシート高が60mm上がるというガチンコ仕様なんですが流石にそこら辺はホンダも考慮しており、ASモデルにはサスストロークを縮めてシート高を60mmつまりノーマルと同じシート高にしたLD(Low Down)モデルが用意されました。

こちらが非常に人気だったみたいですね。

最後に・・・

アフリカツインは非常に高い評価と人気を獲得しています。

2016アフリカツイン

その理由は

『NXR~アフリカツインというブランド』

『ダカールラリーからのフィードバック』

といった事もあるでしょうが、一番の理由は車体設計を担当された山倉(写真中央)さんにあると思います。

開発メンバー

山倉さんは子供の頃にパリダカを見てラリーに目覚め、そして砂漠の女王NXRの快進撃に感動し、旧アフリカツインを購入し、ホンダに入社することを決意された方。

そして希望通りホンダに入社してからも

「アフリカツインの設計がしたい。現代技術のアフリカツイン造りたい。」

と、ずーっと言い続けていた。

もうアフリカツインを造るためだけにホンダに入社した様な方で、念願のアフリカツイン復活プロジェクトがスタートした瞬間からヤル気が炎に。

コンセプトスケッチ

自身が担当する事となった車体設計はもちろん、エンジンも妥協したくないとHRCでMotoGPにも携わっていたスペシャリストの飯田さんを呼び寄せ、デザイナーの小松さんにはアフリカツインらしさを力説。

そしてオフに明るくないメンバーと意思疎通するために、自己所有の旧アフリカツインを持ち出し社内のエンデューロ大会に出場。

エンデューロ大会

その活動を始めたおかげでメンバー全員がアフリカツインがどういうバイクなのか、アフリカツインの魅力が何なのか、エンデューロが如何に楽しいかを共有することが出来た。

それどころか山倉さんの熱にやられてアフリカツインを自費で購入するメンバーが6人も出る始末。

誰よりもアフリカツインに思い入れがある山倉さん、そしてその思いを共有したメンバーによって開発されたCRF1000L Africa Twin。

2016アフリカツイン広告

アフリカツイン愛溢れる人達が造ったら、そりゃ良いアフリカツインが出来るわって話。

※2019年:ETC2.0を標準装備化

主要諸元
全長/幅/高 2335/930/1475mm
{2330/930/1475mm}
シート高 870~850mm
車軸距離 1505mm
車体重量 232kg(装)
[242kg]
{230/240kg(装)}
燃料消費率 21.6km/L
{21.1km/L}
※WMTCモード値
燃料容量 18L
エンジン 水冷4サイクルOHC二気筒
総排気量 998cc
最高出力 92ps/7500rpm
{95ps/7500rpm}
最高トルク 9.7kg-m/6000rpm
{10.1kg-m/6000rpm}
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前90/90R21(54H)
後150/70R18(70H)
バッテリー YTZ14S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR8A9S
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.9L
交換時3.9L
フィルター交換時4.1L
[全容量5.2L
交換時4.2L(フィルター交換時)
交換時4.2L(クラッチ交換時)]
スプロケ 前16|後42
チェーン サイズ525|リンク124
車体価格 1,250,000円(税別)
[1,350,000円(税別)]
※[]内はDCTモデル
※{}内は2019年モデル
※ASは+10kg
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

XL1000V VARADERO(SD01/02)-since 1999-

バラデロ

「Change your VIEW」

実質的にトランザルプのリッター版として登場したXL1000Vバラデロ。

エンジンは日本でもお馴染みVTR1000Fの90°Vツインを使っているので、厳密に言うと系譜は繋がっていません・・・が、同じアドベンチャークラスという事で少しご紹介。

ちなみにバラデロっていうのはキューバ最大のリゾート地であるバラデロ半島から取ってます。
XL1000V

トランザルプの方を読んでもらってると分かる通り、このクラスのマルチパーパスというのは欧州で人気があります。

それはこのバラデロも例外ではなく、エンジン元であるVTR1000が2007年の排ガス規制を機に生産終了したのに対し、このバラデロはVTR1000Fを差し置いて2003年にFi化(SD02型)され継続販売。
VARADERO

スペインで2013年まで生産発売され根強い人気がありました。

元気なエンジンを積んだ楽ポジバイク・・・例えるなら”ストリートラリー”ですね。

主要諸元
全長/幅/高 2300/930/1465mm
シート高 838mm
車軸距離 1560mm
車体重量 265kg(装)
燃料消費率
燃料容量 25L
エンジン 水冷4サイクルDOHC二気筒
総排気量 996cc
最高出力 94ps/7500rpm
最高トルク 10.1kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/80R19(59H)

後150/70R17(69H)

バッテリー 6N4-2A-4
プラグ

※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価

DPR8EVX-9

[IJR8B9]

推奨オイル
オイル容量

※ゲージ確認を忘れずに

交換時3.4L

フィルター交換時3.6L

スプロケ 前16|後47
チェーン サイズ525|リンク112
車体価格

※国内正規販売なしのため

※[]内はSD02

系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

Africa Twin(RD03/04/07) -since 1988-

アフリカツイン/RD03

「ON THE TRAIL OF HEROS.」

先に紹介した通りホンダはNXR750の公道モデルとしてトランザルプを出しました。

しかし

「もっとNXR750なバイク」

という声が多かった。

要するにもっとラリーレイド感溢れるNXR750レプリカって事ですね。

初代アフリカツイン

その期待に応える様にホンダが出したのだラリーレイド感が溢れ出ているアフリカツイン。

名前の由来はもちろんパリダカ。広大なアフリカの大地を連想させるという理由から命名されました。

RD03

24Lと大きめカウルマウントタンクに大きな丸目二眼がNXR750を彷彿させますね。

アフリカツインとNXR

日本では馴染みがありませんが、海外ではXRVという車名でした。

アフリカツインは簡単に説明するとトランザルプを更にオフロード寄りにした形。

アフリカツイン構造

こう言うとトランザルプと同じ様に見た目だけと思いがちですが、アフリカツインの場合は違います。

専用のサスペンションとフレームで潤沢なホイールトラベル、大径ホイール&ディスクローター&フェンダー兼カバー。

キャブやら何やら(以下省略)でちゃんと煮詰められたオフロード寄りのデュアルパーパス。

1988アフリカツイン

その証拠に実はアフリカツインもパリダカに出場してるんです。

参戦したのはプロダクションクラス(無改造)というクラスで・・・しかも見事に優勝。それも一回ではなく1989-1990と二連覇。

アフリカツインパリダカ

これだけでアフリカツインが見掛け倒しのラリーレプリカじゃない事が分かるかと思います。

「本当にパリダカを走れるマシンが買える」

としてトランザルプ同様に世界中で人気となり、限定ながらモデルチェンジを繰り返す事になりました。

Africa Twin
(RD04)
-since 1990-

RD04

二代目のRD04型。

・キャブの大径化及び742cc化で57馬力

・ホイールベースを10mm延長

・ヘッドライトの光量アップ

・ダブルディスクブレーキ化

・バッテリー容量アップ

・ハイスクリーン化

・多機能デジタルメーター(92年モデル)

Africa Twin
(RD07)
-since 1993-

RD07

三代目となるRD07型。

・フレーム新設計で

・シート見直し

・キャブ変更

・ホイールベース10mm短縮

・リアをラジアルタイヤ化

・EGマッピング&カウル&スクリーン見直し(95年モデル)

そして2000年(一部の国では2003年)に生産終了となりました。

アフリカツインカタログ

言うまでもありませんが、約10年という息の長さがあったのはNXR750レプリカという要素を除いてみてもよく出来ていたから。

山道も林道も高速道も全てを何不自由なく熟せるスーパーアドベンチャーでした。

主要諸元
全長/幅/高 2310/900/1320mm
[2330/895/1420mm]
{2320/905/1430mm}
シート高 880mm
{865mm}
車軸距離 1550mm
[1560mm]
{1550mm}
車体重量 221kg(装)
[236kg(装)]
{234kg(装)}
燃料消費率 32.0km/L
[30.0km/L]
{24.1km/L}
※定地走行テスト値
燃料容量 24L
{23L}
エンジン 水冷4サイクルV型OHC二気筒
総排気量 647cc
[{742cc}]
最高出力 52ps/7500rpm
[{57ps/7500rpm}]
最高トルク 5.7kg-m/6000rpm
[{6.1kg-m/5500rpm}]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/90-21(54S)
後130/90-17(68S)
{前90/90-21(54H)
後140/80-17(69H)}
バッテリー YB12A-B
[YB14-B2]
{FTX14-BS}
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
交換時2.2L
フィルター交換時2.6L
[{全容量3.2L
交換時2.4L
フィルター交換時2.6L}]
スプロケ 前16|後48
[{前16|後43}]
チェーン サイズ525|リンク124
{サイズ525|リンク122}
車体価格 749,000円(税別)
[789,000円(税別)]
{890,000円(税別)}
※[]内はRD04
※{}内はRD07
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

XL600V TRANSALP(PD06) -since 1987-

トランザルプ600V

「RALLY TOURING」

ここで登場するのがアフリカツ・・・ではなくトランザルプ。

先に紹介したパリダカのワークスマシンNXRを彷彿させるスタイリングのオンロードマシンとして登場しました。

XL600V

別名XL600Vともいい、こう見えてXLシリーズの一車種だったりします。

開発もXLを担当したチームでコンセプトは

「NXR750の持つ快適性のオーバーラップ」

ちなみにTRANS(超える)ALPS(アルプス)でつなげてTRANSALP。

ただこう見えてベースとなっているのは偉大な二つのレーサーを生んだXLV750Rではなく、VT500というクルーザー。

V52

Vバンクも45度ではなく52度と僅かながら開いた別物を600ccにまで拡大したエンジン。

こう書くと

「見た目だけのパリダカマシン」

と思いがちですが・・・まあ違うと否定できない部分もあります。

ただしトランザルプは道を選ばないデュアルパーパスと非常によく出来ていたのは事実です。

なんでも、開発チームいわくベース(VT500)が完全なオンロードだったのが逆に良かったそう。

XL600Vカタログ写真

オフロードモデルに使われるエンジンというのは、オン/オフ両対応できる汎用性を考慮して設計されているのが基本。

しかしトランザルプの場合、オフを全く鑑みていないVT500だった。

だから開発チームはXLで培ったオフロード要素を全力で注ぎ込まないとオフ要素をもたせる事が出来ないと考えたんです。

トランザルプカタログ

そうして全力でXLのノウハウを詰め込んで出来上がったのを見たら

”オンもオフも高いレベルで熟せる万能マシン”

が誕生したというわけ。

怪我の功名みたいなバイクですね。

トランザルプはその高い快適性と汎用性から欧州で爆発的な人気を誇りました。

TRANSALP600V

危ない部類(100ps/250kmオーバー)ではない事から保険料が安いこと、そしてパリダカマシンNXR750を彷彿とさせるスタイルも追い風となりました。

対して日本は最初の数年のみの販売・・・まあ日本は文化がね。最近になって盛り返して来てますが。

だから生産も途中から欧州に切り替わり、ダブルディスクブレーキ化や外装変更などが加わりしました。

XL650V TRANSALP
(RD10/11)
-since 2000-

XL650Vトランザルプ

これは二代目RD10型とスペイン生産に切り替えられたRD11型。

ボアを拡大し647ccとし、リアタイヤも120/90R17に変更。

XL700V TRANSALP
(RD13/15)
-since 2008-

トランザルプ700

三代目となるRD13型(スペイン産)とRD15型(イタリア産)。

ボア拡大と圧縮比の向上、更にFI化に加え大型ヘッドライト、前後ラジアルタイヤ化など。

日本からすると考えられないけど、向こうではトランザルプはアフリカツインと共に一時代を築いたTWO BROTHERという立ち位置なんですよ。

主要諸元
全長/幅/高 2265/875/1275mm
シート高 850mm
車軸距離 1505mm
車体重量 197kg(装)
燃料消費率
燃料容量 18L
エンジン 水冷4サイクルOHC52度V型二気筒
総排気量 583cc
最高出力 52ps/8000rpm
最高トルク 5.4kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/90R21(54S)
後130/80R17(65S)
バッテリー YB12A-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.8L
交換時2.2L
フィルター交換時2.2L
スプロケ 前15|後47
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 598,000円(税別)
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

NXR750-since 1986-

ホンダNXR750

『砂漠の女王』

NewXRということからNXR750と名付けられたアフリカツインのご先祖様というか起源であるホンダのパリダカワークスマシン。

水冷化やクランク新造なので見た目は大きく違うわけですが、前ページのRS750Dを造った松田さんが直後に手掛けたモデルな事もあり同じ45°Vツイン90°位相エンジンを積んでいます。

NXR750エンジン

ちなみに説明していませんでしたが、位相というのはクランクピンを前後で共有せずに(並列二気筒のように)それぞれ設けて少しずらす事。

こうすることで狭角ながら一次振動(大きな振動)が無いVツインとなります。

そんなNXR750の武器はトラクション感が強い90°位相Vツイン(495-225)もそうですが、安定性を向上させる事も重視された。

例えばいま説明した水冷化ですが、当時はまだ空冷がメジャーだった時代。何故なら水がない砂漠でラジエーターが壊れたり、漏れや詰まりが起こったら修復が不可能だからです。

NXR750サイド

でも安定した性能(冷却性)を確保するなら絶対に水冷がいい。

そこで取った方法が

「冷却を二分割する」

という方法。

NXR750フロント

万が一、転倒やアクシデントで片方のラジエーターを壊しても、ラジエーターを除くように繋げれば片肺とはいえオーバーヒートは防げる。

これのおかげでNXR750はオーバーヒートによるトラブルが一度もありませんでした。

そしてもう一つは燃料タンク。

パリダカNXR

パリダカは450kmを走り切る燃料を積むことがレギュレーションで決められていました。

そしてNXR750の燃費は10km/L。悪いように思えますが、これは現地の燃料が粗悪で圧縮比を高く出来ないから。

つまり約50Lもの燃料を積めないといけない。しかしそんな大容量を通常通りの方法で積むと重心や重量バランスが崩れてしまう。

NXR750リア

そこで編み出されたアイディアが

「燃料ラインを三分割する」

というラジエーターに通ずる考え。

NXR750の燃料タンクは前にメイン二つ(左右分割&脱着式)、そしてリアに一つという独立した三つのタンク構造になっています。

NXR750のガソリンタンク

下の方に行くほど膨れ上がるメインタンクはNXR750のトレードマークですね。

そしてフューエルコックの位置を三つ揃える事で燃料の移動をスムーズにし重量バランスの問題を解決。

更には万が一、転倒などでどれか駄目になってもコックを閉めて移せば走れるという革新的かつ手堅い構造。

なんでも妊娠中の奥さんの(下のほうが膨らんでいる)お腹を見て閃いた構造なんだとか。

NXR750ダカールラリー

NXR750が四連覇を成し遂げられたのはこの”堅実さ”があったからです。

一つ面白い話をすると、初参戦の1986年パリダカの雰囲気が一変したのは有名な話。

何故ならホンダの参戦マシンがWGPと同じスポンサーカラー・・・ロスマンズカラーだったからです。

NXR750壁紙

「ロスマンズカラー×ホンダ×謎のバイク」

これだけでホンダが本気でパリダカを取りに来たのが誰もが分かった。

そしてその下馬評通り・・・どころか下馬評を大きく上回るパリダカ四連覇という伝説を残しました。

主要諸元

※ファクトリーマシンのため不明

系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

XL600R PHARAOH(PD03) -since 1985-

pd03

「アドベンチャー・ロマン」

XL500の後継となるXL600R PHARAOH。

大きな変更点は真っ赤に塗られたRFVCエンジン。RFVCエンジンについてはCRF250の方で紹介したと思うので割愛させてもらいます。

ファラオ

「なんでファラオ」

というとファラオラリーに参戦した事と、そのイメージから取っています。

ただ先代同様に日本ではこの重武装したPHARAOHだけでしたが、海外ではノーマルにあたるXL600R/XR600Rも販売されていました。

XR600R

これがそのXR600Rです。

そしてこっちが公道モデルのXL600R。

ホンダ PD03

パッと見は一緒に見えるんですが、公道向けと否公道向けなので中身(特に足回り)が違います。

初パリダカだったXLの後継なので当然ながら同じ様に挑んでいます。

これがXR600RベースのパリダカマシンXL600L。

XL600Rヌブー

XRなのにXLなのはセールスのため・・・だったんですが、時代は単気筒でなく二気筒が圧倒的に優位だった。

だからこのXL600Lでは結果は残せず。

パリダカに社運をかけていたと言ってもいいフランスホンダから

「もっとラリー向けのバイクを作ってくれ、これじゃ勝てない」

とケツを叩かれる事になるわけです。

というのも当時パリダカ発祥の地であるフランスを筆頭に欧州ではパリダカ熱が凄まじく、パリダカの成績がセールスに直結してたから。

そのためダカールラリーの成績と連動するようにXLの売上が落ちていたんです。

主要諸元
全長/幅/高 2205/865/1195mm
シート高 880mm
車軸距離 1445mm
車体重量 182kg(装)
燃料消費率 35.0km/L
※定地走行燃費
燃料容量 28L
エンジン 空冷4サイクルOHC単気筒
総排気量 591cc
最高出力 42ps/6500rpm
最高トルク 4.8kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.00-21-4PR
後5.10-17-4PR
バッテリー YB14-A2(セル)
YB3L-A(キック)
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DP8EA9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
交換時1.9L
スプロケ 前15|後40
チェーン サイズ520|リンク106
車体価格 548,000円(税別)
系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)

RS750D/NS750-since 1983-

RS750D

ここで紹介しておきたいのがXLV750Rのエンジンをベースに作られたRS750Dというダートレーサー。

一件アフリカツインとは何の関係も無い畑違いなマシンに思えますが大いに関係しているのでお付き合いを・・・。

このバイクは

『グランドナショナルチャンピオンシップ(以下GNC)』

というアメリカで非常に人気があるオーバル状ダートトラックのレースに向けてHRCが造ったワークスマシン。

グランドナショナルチャンピオンシップ

「肝が据わっているやつが勝つ」

と言われるバイク界のインディ、もっと簡単に言うとバイク版の競馬みたいなもの。

ホンダはこのレースに1979年からアメリカホンダ(以下AHM)主導でCX500のエンジンを750まで拡大しつつ縦に積み直してチェーンドライブ化したCX500改で挑んでいました。

しかしそれでも最も力を入れていたハーレー勢(XR750)に全くもって歯が立たなかった。そこでAHMは本社に力を貸すように直談判したのが始まり。

何故AHMはそうまでしてGNCに力を入れていたのかと言うと、1つはいま話した通りこれがアメリカで最も根付いているレースだったから。

そんなレースに勝てばアメリカ中にホンダの技術を証明出来て認めてもらえると考えたらからなんですが、実にアメリカらしいのが単に勝つだけではなく重要だったのがVツインという事。

「アメリカではVツインじゃないと勝った事にはならないから絶対にVツイン」

という前提条件があったから本社が用意したエンジンが無いと始まらないAHMだけでは限界があった。

そしてもう1つは天才フレディ・スペンサーの存在です。

アメリカで最も根付いているレースという事もあり当時フレディ・スペンサーもホンダから参戦していた。

AHMはこのスペンサーを

『GNC王者からのWGP(ロードレース世界選手権)王者』

という道を取らせたいと考えていた。何故ならライバルがその道を歩んでアメリカのヒーローとなったから・・・そう、ケニー・ロバーツです。

インターカラー(USヤマハカラー)のままWGPの優勝を掻っ攫ったGNC出身のアメリカ人ライダー。

「彼と同じスターの道を歩ませたい、彼を上回りたい」

という考えていたんですね。

この狙いにホンダも答え、NRブロック(後のHRCとなるNRを開発した部署)が開発したエンジンを積んだのがNS750というモデル。

NS750

これでホンダは見事GNCでスペンサーを優勝に導く事が・・・出来なかった。

このNS750は1982年までに僅か1勝というホンダらしからぬ戦績の悪さでした。

原因は携わった車体設計の三神さん曰く

「正直ハーレーを過小評価していた」

との事ですが、何よりもトラクション性能を煮詰めきれてなかった事にあった。

もともとCX500/GL500というミドルロードスポーツのエンジンがベースだったので100馬力近いハイパワーな一方でクランクマスが軽い事から一発一発が弱くトラクションが弱かった。

このダートレーサーは

『サイドワインダー』

という一見するとカッコいいアダ名がある事をご存知の方も多いかと思いますが、これ元々はそんなNS750の醜態を揶揄する形で生まれた言葉。

スペンサーとNS750

有り余るパワーを軽い吹け上がりで瞬時に発揮する出力特性と弱いトラクションという組み合わせからスペンサーをもってしてもスライドばかりでずっとカウンターを当て続けて走るレベルだった。

つまりずっと斜めを向いたまま走っており、シリンダーヘッドも捻れたりしていた事から

ガラガラヘビ

『The sidewinder(ヨコバイガラガラヘビ)みたいなマシン』

と揶揄されるようになったという話。

※ヨコバイガラガラヘビとはアメリカ南西部に生息する横巻きで砂漠を移動するヘビ

この問題がトラクションにある事と気付いたエンジン設計の松田さんが自身が新たに手掛けていたXLV750Rのエンジンをベースに変更。

さらに車体側もロードレーサーNS500の足回りの流用するなどしてこのページの主役であるRS750Dというモデルを開発。

ホンダ RS750D

ガラガラヘビだったのが嘘のように圧倒的な速さを誇り1984年に念願だったチャンピオンをリッキーグラハムの活躍により獲得。

加えてこのエンジンはプライベーターへの販売が義務付けれていたので皆がこぞって購入。あまりの速さからリストラクター(吸気制限)が設けられたもののそれでも速く、結果として4年連続でホンダ勢がチャンピオンを獲得したという話。

FTRへ採用されたのでカラーリングに見覚えがある人も多いかと思いますが、それもこのRS750Dの偉業を元にしたものです。

HRC RS750D

そして何故アフリカツインの系譜にこのバイクを載せたのかというのもおわかりかと。

このNS750の失敗から生まれたRS750Dというマシンとトラクションに関するそのノウハウ。これが直後のパリダカでも大いに活きる事になるんですね。

参照:別冊モーターサイクリスト410|RACERS Vol.37

主要諸元

※ファクトリーマシンのため不明

系譜図
XL5001979年
XL500S/R
(PD01)
XL600Rファラオ1985年
XL600R PHARAOH
(PD03)
XLV750R1983年
XLV750R
(RD01)
RS750D1983年
RS750D/NS750
NXR7501986年
NXR750
トランザルプ1987年
TRANSALP
(PD06)
(RD10/11/13/15)
XRV600アフリカツイン1988年
Africa Twin
(RD03/04/07)
バラデロ1999年
VARADERO
(SD01/02)
CRF1000L2016年

CRF1000L
Africa Twin
(SD04)

CRF1000L2019年

CRF1100L
Africa Twin
(SD10)