「FACE YOURSELF」
数えること八代目となった2021年からのZX-10RのZX1002L型。
まず変更点をあげると
・最大出力回転数-300rpm(ZX-10RRは+500rpm)
・フロントフォークのオフセットを変更
・スイングアーム長を延長しピボットを1mm下げ
・上記に伴いホイールベースを10mm延長
・BFFのセッティングを変更
・ギア比の変更
・ポジションの変更
・ウイングレット内蔵カウル
・LEDヘッドライト&ウィンカー
・スマホ連動フルカラー液晶メーター
・クルーズコントロールシステム
・新型オイルクーラーにより冷却性強化
・サイレンサーを若干大型化
・車重+1kg
・カワサキケア+(メンテパック)
・KCMF:カワサキコーナリングマネジメントファンクション
(トラコン、ABS、ローンチ、エンブレ制御のリアルタイム調整)
・インテグレーテッドライディングモード
(トラコンとパワーモードの包括セレクト機能:スポーツ/ロード/レイン/ユーザー)
などとなっています。
実は今回のモデルチェンジは先代と重ねてみると分かりやすいのですが、構造的にはホイールベースやフォークオフセットが変わっている程度で、エンジンやフレームは基本的に先代からのキャリーオーバーとなっており最大出力も203馬力のまま。
これ何故かと言うとZX-10Rは存在意義であるSBK(市販車ベースレース)とそのライダーであるジョナサン・レイが関係しています。
ZX-10RはSBKにおいて
『驚異の六連覇(2015~2020)』
を達成し、向かうところ敵なし状態だったんですが、その立役者である王者ジョナサン・レイ(写真に写っている方)が
「ZX-10Rは良く出来ているから変えなくていいよ」
と言ったことが要因で、だから大きく変えなかったという話。
結局カワサキ(Kawasaki Racing Team)とジョナサン・レイが強いのはこういう信頼関係があるからで
「自分を尊重してくれるカワサキは素晴らしく、自分でも人生で最高の選択だと思っている。」
と言って複数年契約を結ぶだけでなく、鈴鹿8耐にも嫌な顔ひとつせず引き受け26年ぶりの優勝に貢献。
それに応えるようにカワサキも
「レイが変えなくていいと言ったので変えません(販促放棄)」
というまさに相思相愛といえる関係。
そりゃ六連覇しても不思議じゃないねって話ですが、正確に言うとレイの為に用意されたのは世界限定500台のZX-10RR/ZX1002N型の方になります。
・チタンコンロッド
・専用軽量ピストン
・DLCピストンピン
・専用カムシャフト
・専用バルブスプリング
・マルケジーニ鍛造ホイール
・サスの伸側をトラック寄りに変更
・レース用メッシュブレーキホース
・スパコルSP
・シングルシートカウル
などなどが奢られた299万円(ノーマルから+90万円)の世界限定500台のモデル。
正確に言うとこっちがレースのベースとなるモデルで、今回のモデルチェンジで更にピーク回転数を上げる改良が行われました。
なんでそれが大事なのかというと、この市販車レースというのはいろいろな制約があるんですが、その中でも近年新たに設けられ大きな波紋を呼んだのが2019年から新たに定められた
「リミッタ作動回転数+3%か最大出力発生回転数+1100rpm」
というエンジン回転数の上限ルール。
これはマシンの均一化を図るためなんですが、逆にいえば市販車で高めておけばレースでも高い回転数まで使うことが出来るわけで、そのために作られたのがZX-10RRというわけ。
象徴的なのが昨今のスペシャルモデルでは当たり前のように使われるようになったチタンコンロッドで、鉄に対しおおよそ半分の重さにできる。
なんでそれが重要なのか簡単に説明すると、上下運動によりそのまま上下に向かおうとする慣性力によってコンロッドには引っ張られたり押されたりする力が働く。
すると付け根ともいえる大端孔が変形(クローズイン現象)してしまい、レスポンスの悪化やフリクションロスの増大。そして最後には焼付きを起こしてしまう。
だから往復部分であるコンロッドを軽くして少しでもその力を弱めようとして使われるようになったのが軽さを取ったチタンなんですね。
だからZX-10RRもノーマルで見るとZX-10Rとほぼ変わらないように見えますが・・・レースキットを入れるとご覧のようにガラッと変わる。
ちなみに効果絶大なことからレースにおいて市販車からの交換も禁止されたので標準装備となったわけですが、加えて言うと税別299万円という価格も実はレースが関係しています。
2020年から日本で始まったST1000(改造範囲が狭い市販SSレース)のベース車両の条件として
『税別300万円以下』
というものが定められたのでZX-10RRはこのレースにも参戦するために300万円を切る価格になっているというわけ。
だからこのRRモデルは、そういう限られた用途に使う人によってはお買い得なモデルになるわけです。ただ逆に一般人にノーマルで+100万円の違いを実感できるかと言えば恐らく・・・という事で10RR/N型の話はこれで終わって10R/L型に戻ります。
中身がほぼ変えられなかったおかげというと少し語弊がありますが、その代わりにお金を掛けられたのが主に外装部分。
一つは待っていた人も多いであろう液晶メーターの採用。
タイムに寄与しないということからJ/K型から10年間ほぼ変わらなかったメーターが遂にTFTカラー液晶へ変更されました。
そしてもう一つが今回のモデルチェンジの目玉であろう外装の大幅な刷新。シリーズ顔というかH2と同系のリバーマーク付き逆スラントノーズになり、さらに超速度域でフロント接地感を増すウイングレットを新たに装備しました。
少し面白いのがライバルの追っかけはしないが信条のカワサキらしく、一般的な外付けではなく内蔵型で控えめにアッパーカウルに近い部分に設けられています。
これ何故こうなったのかというと、デザインと空力のバランスを考えた結果こういう形になったとの事。
「これがデザイン考慮した顔なのか」
と疑問に思われている方が居るかも知れないです・・・が、少し待たれよ。
まずもってスーパースポーツモデルをこんなローアングルで覗く事はなく、実際はライトの存在がかなり消えるので印象がかなり違う。
ただこれは昨今の逆スラントLEDヘッドライトモデルでは結構使われている手法なので取り立てて書く事ではないかと。ZX-10Rの顔が他と違うのはここから。
このL/N型はライトが若干奥まった場所にあり、上下には飛び出たスポイラーが付いているんですが、バンクさせるほどコレが立って際立って存在感を増してくる。切り裂くという表現が本当にピッタリで、しかもウイングレットも内蔵だからそれが隠れてしまう事もない。
何が言いたいのかっていうと、このL/N型の顔はフルバンクが凄く映える。もっと言うとクリッピングポイントから抜けるまでのカメラ写りが最高にキマってる。
「SBK王者らしいオーバーテイク映えデザインになっている」
という話。
主要諸元
全長/幅/高 |
2085/750/1185mm |
シート高 |
835mm |
車軸距離 |
1450mm |
車体重量 |
207kg(装) |
燃料消費率 |
16.5km/L ※WMTCモード値 |
燃料容量 |
17.0L |
エンジン |
水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 |
998cc |
最高出力 |
203ps/13200rpm [204ps/14000rpm] |
最高トルク |
11.7kg-m/11400rpm [11.4kg-m/11700rpm] |
変速機 |
常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ |
前120/70ZR17(58W) 後190/55ZR17(75W) |
バッテリー |
YTZ10S |
プラグ |
SILMAR9B9 |
推奨オイル |
カワサキ純正オイルR4/S4 または MA適合品SAE10W-40 |
オイル容量 |
全容量4.0L 交換時2.9L フィルター交換時3.4L |
スプロケ |
前17|後41 |
チェーン |
サイズ525|リンク116 |
車体価格 |
2,090,000円(税別) [2,990,000円(税別)] ※[]内はZX-10RR/ZX1002N |
系譜図
【関連車種】
CBR1000RRの系譜|YZF-R1の系譜|GSX-R1000の系譜|SuperBikeの系譜