「SCREAMING IN-LINE 4 POWER」
2020年に登場したZX-25R/ZX250E型。
「四気筒の250ccなんてもう無理だよ」
と誰もが思い、誰もが諦めていた中で出された実に13年ぶりの四気筒250。多くの人が度肝を抜かれたと同時に、ZX250”E”という型式に感銘を受けた人も少なくないかと思いますが凄いのはエンジンだけじゃない。
・新設計DOHC16バルブ並列四気筒
・50mmのビッグボアで45馬力(ラム圧で46馬力)
・新設計高抗張力鋼トレリスフレーム&スイングアーム
・ビッグピストン倒立フォーク
・ホリゾンタルバックリンクリアサス
・ラジアルモノブロックキャリパー
・新設計5本スポーク&ラジアルタイヤ
・3モードのKTRC(トラクションコントロール)
・LOW/HIGHが選べる出力モード切り替え
・クラッチ操作を省くUP/DOWN対応KQS(クイックシフター※SEに標準)
・電子制御スロットルバルブ
・飾りじゃないラムエアシステム
・アシストスリッパークラッチ
などなど、IMU(慣性計測装置)こそ載っていないものの250にしては初っ端にしてフルスペック状態。まさにミニマムZX-Rと呼べる内容になっています。
いきなりフルスペック登場というのはZXR250を彷彿とさせるのですが
「ではZX-25Rは現代のZXR250なのか」
と聞かれれば一概にそうとも言い切れない部分もあります。というのもZX-25Rは現代のZXR250と言えるけど、現代のBALIUSとも言えるから。
ZX-25Rは何処からどう見てもスーパースポーツなんですが、乗り出してみるとビックリするほど乗りやすい。これは開発において大事にされたのがワインディングなどスポーツ性能が高いZXR250と、街中などの日常性能が高いBALIUSのいいとこ取りだったから。
それが最もよく現れているのがポジション。
ZXR250RとBALIUSの中間のようなポジションになっているのが分かるかと。
他にもシングルディスクとガチガチではない足回り、ペラペラではないシートと抑えられているシート高、ボリュームはあるけど絞っている車体幅など、色んな部分で窓口の広さと言いますか気軽さへの配慮が見て取れる。
これは開発の肝心要だったエンジンも例外ではなく、総削りのシリンダーヘッドによる高精度な燃焼室の形成や徹底したフリクションロスの軽減などで17,000rpm超の高回転型45馬力エンジンにしつつも、エクゾーストパイプを4-1ではなく4-2-1にすることで低中速トルクの強化も行っている。
だからZX-25Rは例えるなら
『取っつきやすくなったZXR250』
という表現が一番合うんじゃないかと思います。
やはり系譜が系譜なだけあって色んな所でZXR250やBALIUSと比べられていますが、開発者の思惑にもあるようにZX-25Rはそれらの上に立つモデルと言うよりもそれらを統合したようなモデル。
決してサーキットや峠を主体に置いてるモデルでもないし、街中を疾走することを主体に置いているバイクでもない絶妙な位置。
そこにABSやトラコンや電スロやクイックシフターなどライダーを補助する電子制御をモリモリにすることでその領域を大きく広げ、街中も峠もサーキットもツーリングも熟せるようになってる。
例えばSEに標準装備されているオートブリッパー付きクイックシフターも開発責任者の山本さん曰く
「ブレーキ操作に専念出来るように」
というのが狙いで、コンマ一秒を削るためというより求められる操作を減らすことで安心して楽しめるようにという配慮の現れなんですね。
だから100%買いなバイクであるからこそ敢えて少しだけ厳しい事をいうと、低中速の厚さや取り回しではそれに特化していたバリオスに、寝かし込みや切り返しのクイックさ等はそれに特化していたZXR250/Rに分があるのが正直な所。
あくまでもZX-25Rはその両方を臆することなくこなせる万能車という感じ。
ただしそんな中でZX-25Rだけが持っているものがあります・・・それは旋律された唯一無二の音。
音響技術の向上も相まって非常に洗礼された250の四気筒にしか出せない超高周波の超スクリーミングサウンド。
これは全てのモデルを含めても唯一無二といえるもので、ZX-25Rの一番の魅力はここにあると思います。
しかもZX-25Rは電子制御の恩恵もあってそんな最高の音を手軽に味わえるようになってる。100%買いと言えるのはこれが理由。
もう本当に走る楽器で忍び要素ゼロ。
最後に少し余談ですが、四気筒250ccはもう出ないと言われていた根拠の一つとして
『250ccレースのルールが2気筒まで』
というものがありました。
要するに四気筒を作ってもZXR250のSP250Fのように出場できるレースが無いからメーカーも造らないだろうと言われていた。
そんな状況下でこんなモデルを出してきたからビックリという話なんですが、何故カワサキは出したのかと言うと一つはインドネシア市場にあります。
インドネシアは日本市場と同じく日本メーカー同士による激しい攻防が行われており、また上位中所得国入りを果たす経済成長などでバイク選びも豊かになっているんですが、一点だけ日本と違う点としてバイクを購入しようと思った際に250cc以上は
『奢侈(しゃし)税が60%』
という贅沢税みたいな問題がある。
そしてスクーターなどのコミューターをほぼ扱わないカワサキは日本以上にスポーツメーカーという立ち位置なので、ここを狙ってZX-25Rを出した面が強い。
これが可能になったのはカワサキがいち早くスポーツバイクを市場に投入したというか、積極的な現地進出を果たしサプライヤーと強力な関係を築けたから。
ちなみに皮切りとなったのは2002年のKSR110になります。あれが予想外の大ヒットとなったのがすべての始まり。
・・・ところがこれで話は終わらない。
なんと全日本250ccレースであるJP250が2021年より四気筒、つまりZX-25Rの参加を可能とするレギュレーションの変更を行ったんです。
それまではカワサキも出場できない事が分かっていたので自分たちだけでワンメイクレースを開催する形をとっていたんですが、これで出場できるようになった。
もしかすると再び四気筒250ccの時代が来るかもしれない。
主要諸元
全長/幅/高 |
1980/750/1110mm |
シート高 |
785mm |
車軸距離 |
1380mm |
車体重量 |
183kg(装) [184kg(装)] |
燃料消費率 |
18.9km/L ※WMTCモード値 |
燃料容量 |
15.0L |
エンジン |
水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 |
249cc |
最高出力 |
45ps/15500rpm |
最高トルク |
2.1kg-m/13000rpm |
変速機 |
常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ |
前110/70R17(54H) 後150/60R17(66H) |
バッテリー |
YTX7A-BS |
プラグ |
LMAR9G |
推奨オイル |
カワサキ純正オイル または MA適合品SAE10W-40 |
オイル容量 |
全容量2.9L 交換時2.2L フィルター交換時2.2L |
スプロケ |
前14|後50 |
チェーン |
サイズ520|リンク116 |
車体価格 |
750,000円(税別) [830,000円(税別)]
※[]内はSE
|
系譜図
【関連車種】
CBR250RR/CB250の系譜|FZR250Rの系譜|Bandit250の系譜