RGV250Γ/SP/SP2(VJ21A)-since 1988-

RGV250Γ/VJ21A

「BRAND-NEW V」

後出しジャンケンに苦汁をなめさせられていた状況を打開するためVツイン型へと生まれ変わったRGV250Γ/VJ21A型の通称Vガン。

先代までの並列二気筒モデルはパラレルツインだからパラガンと言います。

VJ21Aエンジン

ちなみに何故レーサーレプリカがV型に落ち着いたのか簡単に言うと、2stスポーツのクランクケース式は混合器が下から上に行く仕組みなので燃焼室とは別に混合器が上に行く通路が必要になる。横に二つ並んだ並列でそれをやろうと思うとエンジンが大きくなる上にクランクシャフトも長くなるので重量や剛性、それにフリクションロスが発生してしまう。

だからシリンダーを前後に分けるV型にしたほうが何かと都合が良いんですね。250cc程度ならVツイン特有の全高も問題にならないですし。

VJ21Aフレーム

それに合わせられるフレームもエンジン同様に完全新設計の高剛性アルミツインスパーフレーム。

もちろん見て分かる様に外装も大きくスラント化された新設計のもの。

VJ21A SP

ちなみにこのモデルから市販車レース(SP250/F3)向けのSP仕様も登場。

・クロスミッション
・フルアジャスタのフロントフォーク
・リザーバー別体式リアサスペンション
・シングルシート
・専用キャブ(前期のみ)
となっています。ちなみにクロスミッションだけ採用していないモデルがSP2です。

そしてそしてVJ21A型と言えばこれですね。

pepsi

一時撤退していたWGPに復帰したRGV-Γ500と同じカラーリングのシュワンツペプシバージョン。

世界レースでこのペプシカラーを纏い、赤白カラーリングのライバル(意味深)と熾烈なバトルを繰り広げた当時を知る人にはたまらないカラーリング。

なお型式は同じVJ21A型でも翌89年モデル(コードK)では
・スロットルポジションセンサー
・エアソレノイドバルブ
など吸気/点火/排気系のデジタル制御化が加わっています。

主要諸元
全長/幅/高 2015/695/1065mm
シート高 755mm
車軸距離 1375mm
車体重量 128kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷2サイクル2気筒
総排気量 249cc
最高出力 45ps/9500rpm
最高トルク 3.8kg-m/8000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70-17
後140/60-18
バッテリー YT4L-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BR9ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量1.1L
スプロケ 前15|後46
チェーン サイズ520|リンク114
車体価格 569,000円(税別)
[609,000円(税別)]
※[]内はSP
系譜図
RG250/E1978年
RG250/E
(GT250/2)
RG250Γ1983年
RG250Γ
(GJ21A)
RG250Γ1985年
RG250Γ
(GJ21B)
VJ211988年
RGV250Γ/SP
(VJ21A)
VJ211988年
WOLF
(VJ21A)
VJ221990年
RGV250Γ/SP/SP2
(VJ22A)
VJ231996年
RGV-Γ250SP
(VJ23A)

RG250Γ(GJ21B)-since 1985-

250ガンマ三型

「第三章、豊饒のガンマ」

外見も中身も大幅に変更された後期モデルのB型。

キャスターやトレール角の見直し。そしてフロントサスにはプリロード調整機能を新たに追加しリアにはフルフローターサスペンションを搭載。

RG250三型

更に排気デバイスSAEC(Suzuki Automatic Exhaust Control)を採用する事で排気脈動の最適化を図り、中低速のトルクの谷間を解消。

これにより走りに更に磨きが掛かったわけです・・・が、まあアチコチで言われている様にこの頃からRG250Γは立場が危うくなります。

というのもRG250Γの爆発的なヒットで公道レーサー需要の高さが分かった事から、TZR250(1KT)やNSR250R(MC16)といったライバル車が登場したからです。RG250で話したRZ250の悪夢再びです。

この三つ巴(後にカワサキも参戦)になった事から、250でレーサーレプリカブームが巻き起こる事になります。

RG250GAMMA四型

スズキも対抗するため、翌86年の四型ではウィンカーのプッシュキャンセル化、サイドスタンドの警告灯装備など使い勝手を向上する改良。

更にはウォルターウルフカラーも限定販売。

ウォルターウルフ250ガンマ

ちなみにウォルターウルフっていうのはオイルビジネスで成功したオーストリア出身の実業家の事。

大のランボルギーニ好きでF1にも参戦していました。

当時スズキは全日本500クラスをこのカラーリングを纏ったRG-Γで戦っており、そのカラーリングを市販車にも持ってきたというわけ。

ウォルターウルフ

レーサーと同じカラーリングを纏ったバイクというのは今でこそ珍しくないけど、その始まりは実はこれ。

ただ厳密に言うとこれはスポンサーカラーではなくスズキから申し出て採用されたカラーリングなんです。だからカタログにも”参戦”とは書かれず”登場”とか”共鳴”とか書かれている・・・あまりにも似合いすぎてて知りませんでした。

RG250GAMMA五型

最終となる87年の五型ではアンチノーズダイブが廃止され、ディスクローターの大径化や中空キャストホイール&リアタイヤのワイドリム化など足回りが強化されました。

主要諸元
全長/幅/高 2010/675/1170mm
シート高 735mm
車軸距離 1355mm
車体重量 128kg(乾)
[130kg(乾)]
燃料消費率
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷2サイクル2気筒
総排気量 247cc
最高出力 45ps/8500rpm
最高トルク 3.8kg-m/8000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前100/90-16(54H)
後110/80-18(58H)
バッテリー FB5L-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
B9ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量1.2L
スプロケ 前14|後37
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 460,000円(税別)
[480,000円(税別)]
※[]内はアンダーカウル付き
系譜図
RG250/E1978年
RG250/E
(GT250/2)
RG250Γ1983年
RG250Γ
(GJ21A)
RG250Γ1985年
RG250Γ
(GJ21B)
VJ211988年
RGV250Γ/SP
(VJ21A)
VJ211988年
WOLF
(VJ21A)
VJ221990年
RGV250Γ/SP/SP2
(VJ22A)
VJ231996年
RGV-Γ250SP
(VJ23A)

RG250Γ(GJ21A)-since 1983-

RG250Γ

「SUPER CHAMPION」

レーサーレプリカブームの火付け役として今も語り継がれる『栄光のΓ(ガンマ)』ことRG250Γ/GJ21A型。

そもそも何故ガンマが栄光なのかと言うと

一つは”栄光や勝利”という意味の古代ギリシャ語

『ゲライロウ:ΓεραIρω』

の頭文字から。

そしてもう一つはWGP500(今で言うMotoGP)チャンピオンマシンがRG-Γだから『栄光のΓ』なんです。

ウィニングヒストリーオブRG

このカタログ裏にズラッと並んでいるのがRG-Γが勝ったレース。

1976~1977年、1981~1982年と世界チャンピオンを獲得。恐らくスズキがレースで一番輝いていた時期。

では何故RG250Γが誕生することになったのかというと、二年ほど時代をさかのぼります。

海外カタログ

当時スズキの二輪部門はHY戦争の巻き添えにより100億円近い赤字を出していました。

>>HY戦争の解説

そのため活躍していたWGPからの撤退を余儀なくされるだけでなく、二輪事業そのものの撤退まで検討されるように。

そんな折に耳に入ったのが

「国土交通省がフェアリング(カウル)を認めるようになった」

という情報。

横内さん

これを二輪事業挽回のチャンスだと捉えた横内さんは、今までにないフェアリング付きのスポーツバイクを造る企画を始動。

その企画会議である若手が放った一言

「ガンマという名にしよう」

この一言で企画の方向性が決定的なものになりました。

いま説明したようにガンマという名前はスズキのGPレーサーを意味する名前。つまりガンマという名前のバイクにするということは公道を走れるGPレーサーにするという事。

しかしこれに反対する人は一人も居なかったそうです。それどころかチームはやる気に満ち溢れ

「ガンマと名乗る以上は絶対にその名を汚してはいけない」

として速さはもちろん絶対条件として採用されたのが有名な

『市販車初のアルミフレーム』

であるAL-BOXフレームです。

AL-BOXフレーム

当時はフレームといえば鉄が当たり前。アルミフレームなんてワンオフのレーサーくらい。

コストも10倍ほど違う事から当然ながら上から大反対に合い

「絶対にダメだ、クビにするぞ」

と常務から釘を差されるほどだったんですが横内さんが

「このままでは二輪事業が撤退になる。まだ何処も挑戦していないアルミフレームで勝負すれば成功するだけでなくスズキのブランドと技術力のアピールにもなる。」

と譲らず何度も説得する事でなんとか了承を得ることに成功し、溶接技師を掻き集め教育する事からスタート。

※当時はアルミ溶接機械が無かった時代

GJ21A壁紙

この市販車初のアルミフレームにはそんなドラマが詰まっているんです。

もちろんアルミフレームやフェアリングだけでなく

・クラストップの45馬力
・アルミバックステップ
・多段テーパーチャンバー
・フロント16インチホイール
・セパレートハンドル

など絢爛豪華な造りで圧倒的なマシンになりました。

しかし同時に車体価格も46万円(400クラス並)という圧倒的な高さになってしまった・・・絶対に成功させないといけない車種でこの高値。

横内さんも迷ったそうですが

「これだけの性能なんだからみんな分かってくれる。」

とユーザーを信じコストカットすることなく発売。

GJ21Aカタログ写真

結果はこうして歴史に大きく名を刻んでいる通り

「公道を走れるGPレーサーだ」

として大きく話題となり大ヒット。レース界隈ではこのバイクじゃないと勝負ならないほどでした。

そしてその勢いは留まる事を知らず翌84年には通常2型にマイナーチェンジ。

HBガンマ

カウルデザインが全体的にスラント化され、アルミフレームも剛性が上がったAL-BOXからMR-ALBOXへ進化。

更には対向4POTキャリパーとリア2POTのDECA(10の意味)PISTONを採用。

GJ21A壁紙

これらの改良で、既にクラスナンバー1だったパワーウェイトレシオから更に4kgも軽量化。

窮地に陥っていたスズキ二輪を救うと共に、スズキの技術力とブランド力を大いに示す結果となりました。

主要諸元
全長/幅/高 2050/685/1195mm
シート高 785mm
車軸距離 1385mm
車体重量 131kg(乾)
燃料消費率 45.3km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷2サイクル2気筒
総排気量 247cc
最高出力 45ps/8500rpm
最高トルク 3.8kg-m/8000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前100/90-16(54S)
後100/90-18(56S)
バッテリー FB5L-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
B9ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量1.2L
スプロケ 前14|後37
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 460,000円(税別)
系譜図
RG250/E1978年
RG250/E
(GT250/2)
RG250Γ1983年
RG250Γ
(GJ21A)
RG250Γ1985年
RG250Γ
(GJ21B)
VJ211988年
RGV250Γ/SP
(VJ21A)
VJ211988年
WOLF
(VJ21A)
VJ221990年
RGV250Γ/SP/SP2
(VJ22A)
VJ231996年
RGV-Γ250SP
(VJ23A)

RG250/E(GT250/2)-since 1978-

1978RG250E

「みなぎるスポーツ感」

最初にRGの名を付けられたのはこのRG250/E。

一見すると名前くらいしか繋がりが無いように思えますが、実は結構繋がっています。

スポークホイールタイプが無印で、二年後に出されたキャストホイールを履いたタイプがRG250E。

今でこそ普通に見えるけど、スズキのWGPマシンだったRG(Racer ofGrandprix)と同じ名が付いている通りバリバリのスポーツ250。

RG250Eカタログ写真

じゃあ何故これほど知名度が無いのかと言えば、この頃(70年代後半)は4st化の流れが巻き起こっており2stは時代遅れという風潮だったから。

しかしヤマハからRZ250が登場し、それまでが嘘のように2stスポーツが再び脚光を浴びる様になったわけです。

有名な話ですね・・・が、ちょっと待ってほしいんです。

RG250E

そんなRZ250は1980年、対してこのRG250はその二年前の1978年。

5馬力ほど低いものの、2st250スポーツとしてはRG250の方が先に出ている。

というかですね、このRG250にも先代にあたる1971年登場のGT250が、その前にあたる1965年にはT250が居ます。

T250

果ては1956年のコレダ250シリーズなどスズキは時代に関係なくずっと2st250スポーツを造り続けていました。

しかもRG250は当時としては非常に珍しい250専用フレームに加え、認可が下りたばかりのキャストホイールをいち早く採用するというガンマに通ずるコンセプトを持っていた。

スズキRG250E

なのにうんともすんとも言わず誰も覚えていない。

これが何故かといえば当時は

「スズキ車はオジサン臭い」

と捉える人が多かったからですね。

まあこの問題があったからこそKATANAが生まれたわけですが、実はこのスズキ2st250スポーツの歴史はガンマ誕生にも一役買っているんです。

というもガンマを始めとした数々の名車を生み出してきた横内さんがスズキに入社した理由が、子供の頃にコレダ250TTの圧倒的な速さを目の当たりにしたことだから。

コレダ250TT

走って追いかけてオーナーにスズキのバイクである事を聞き、スズキに入社する事を決意されたんです。

もしもスズキが2st250スポーツを造っていなかったらWGPチャンピオンになることも、カタナやガンマが生まれる事も無かったかも。

主要諸元
全長/幅/高 2005/760/1055mm
シート高
車軸距離 1320mm
車体重量 126kg(乾)
燃料消費率 40km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 15.0L
エンジン 空冷2サイクル2気筒
総排気量 247cc
最高出力 30ps/8000rpm
最高トルク 2.9kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前3.00-18
後3.25-18
バッテリー FB5L-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
B9ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量1.5L
スプロケ
チェーン
車体価格 279,000円(税別)
系譜図
RG250/E1978年
RG250/E
(GT250/2)
RG250Γ1983年
RG250Γ
(GJ21A)
RG250Γ1985年
RG250Γ
(GJ21B)
VJ211988年
RGV250Γ/SP
(VJ21A)
VJ211988年
WOLF
(VJ21A)
VJ221990年
RGV250Γ/SP/SP2
(VJ22A)
VJ231996年
RGV-Γ250SP
(VJ23A)

ZX-25R(ZX250E) -since 2020-

ZX-25R/ZX250E

「SCREAMING IN-LINE 4 POWER」

2020年に登場したZX-25R/ZX250E型。

「四気筒の250ccなんてもう無理だよ」

と誰もが思い、誰もが諦めていた中で出された実に13年ぶりの四気筒250。多くの人が度肝を抜かれたと同時に、ZX250”E”という型式に感銘を受けた人も少なくないかと思いますが凄いのはエンジンだけじゃない。

ZX-25R/ZX250E

・新設計DOHC16バルブ並列四気筒
・50mmのビッグボアで45馬力(ラム圧で46馬力)
・新設計高抗張力鋼トレリスフレーム&スイングアーム
・ビッグピストン倒立フォーク
・ホリゾンタルバックリンクリアサス
・ラジアルモノブロックキャリパー
・新設計5本スポーク&ラジアルタイヤ
・3モードのKTRC(トラクションコントロール)
・LOW/HIGHが選べる出力モード切り替え
・クラッチ操作を省くUP/DOWN対応KQS(クイックシフター※SEに標準)
・電子制御スロットルバルブ
・飾りじゃないラムエアシステム
・アシストスリッパークラッチ

などなど、IMU(慣性計測装置)こそ載っていないものの250にしては初っ端にしてフルスペック状態。まさにミニマムZX-Rと呼べる内容になっています。

ZX-25Rスターダストホワイト

いきなりフルスペック登場というのはZXR250を彷彿とさせるのですが

「ではZX-25Rは現代のZXR250なのか」

と聞かれれば一概にそうとも言い切れない部分もあります。というのもZX-25Rは現代のZXR250と言えるけど、現代のBALIUSとも言えるから。

ZX-25Rリアビュー

ZX-25Rは何処からどう見てもスーパースポーツなんですが、乗り出してみるとビックリするほど乗りやすい。これは開発において大事にされたのがワインディングなどスポーツ性能が高いZXR250と、街中などの日常性能が高いBALIUSのいいとこ取りだったから。

それが最もよく現れているのがポジション。

ZX-25Rのポジション

ZXR250RとBALIUSの中間のようなポジションになっているのが分かるかと。

他にもシングルディスクとガチガチではない足回り、ペラペラではないシートと抑えられているシート高、ボリュームはあるけど絞っている車体幅など、色んな部分で窓口の広さと言いますか気軽さへの配慮が見て取れる。

ZX-25Rのポジション

これは開発の肝心要だったエンジンも例外ではなく、総削りのシリンダーヘッドによる高精度な燃焼室の形成や徹底したフリクションロスの軽減などで17,000rpm超の高回転型45馬力エンジンにしつつも、エクゾーストパイプを4-1ではなく4-2-1にすることで低中速トルクの強化も行っている。

ZX-25Rのエンジン

だからZX-25Rは例えるなら

『取っつきやすくなったZXR250』

という表現が一番合うんじゃないかと思います。

やはり系譜が系譜なだけあって色んな所でZXR250やBALIUSと比べられていますが、開発者の思惑にもあるようにZX-25Rはそれらの上に立つモデルと言うよりもそれらを統合したようなモデル。

ZX-25Rのターゲット

決してサーキットや峠を主体に置いてるモデルでもないし、街中を疾走することを主体に置いているバイクでもない絶妙な位置。

そこにABSやトラコンや電スロやクイックシフターなどライダーを補助する電子制御をモリモリにすることでその領域を大きく広げ、街中も峠もサーキットもツーリングも熟せるようになってる。

例えばSEに標準装備されているオートブリッパー付きクイックシフターも開発責任者の山本さん曰く

「ブレーキ操作に専念出来るように」

というのが狙いで、コンマ一秒を削るためというより求められる操作を減らすことで安心して楽しめるようにという配慮の現れなんですね。

ZX-25Rのコックピット

だから100%買いなバイクであるからこそ敢えて少しだけ厳しい事をいうと、低中速の厚さや取り回しではそれに特化していたバリオスに、寝かし込みや切り返しのクイックさ等はそれに特化していたZXR250/Rに分があるのが正直な所。

あくまでもZX-25Rはその両方を臆することなくこなせる万能車という感じ。

ただしそんな中でZX-25Rだけが持っているものがあります・・・それは旋律された唯一無二の音。

ZX-25Rのカタログ

音響技術の向上も相まって非常に洗礼された250の四気筒にしか出せない超高周波の超スクリーミングサウンド。

これは全てのモデルを含めても唯一無二といえるもので、ZX-25Rの一番の魅力はここにあると思います。

ZX-25Rのカタログ

しかもZX-25Rは電子制御の恩恵もあってそんな最高の音を手軽に味わえるようになってる。100%買いと言えるのはこれが理由。

もう本当に走る楽器で忍び要素ゼロ。

最後に少し余談ですが、四気筒250ccはもう出ないと言われていた根拠の一つとして

『250ccレースのルールが2気筒まで』

というものがありました。

ZX-25Rとレース

要するに四気筒を作ってもZXR250のSP250Fのように出場できるレースが無いからメーカーも造らないだろうと言われていた。

そんな状況下でこんなモデルを出してきたからビックリという話なんですが、何故カワサキは出したのかと言うと一つはインドネシア市場にあります。

インドネシアの事情

インドネシアは日本市場と同じく日本メーカー同士による激しい攻防が行われており、また上位中所得国入りを果たす経済成長などでバイク選びも豊かになっているんですが、一点だけ日本と違う点としてバイクを購入しようと思った際に250cc以上は

『奢侈(しゃし)税が60%』

という贅沢税みたいな問題がある。

そしてスクーターなどのコミューターをほぼ扱わないカワサキは日本以上にスポーツメーカーという立ち位置なので、ここを狙ってZX-25Rを出した面が強い。

インドネシアのZX-25R

これが可能になったのはカワサキがいち早くスポーツバイクを市場に投入したというか、積極的な現地進出を果たしサプライヤーと強力な関係を築けたから。

ちなみに皮切りとなったのは2002年のKSR110になります。あれが予想外の大ヒットとなったのがすべての始まり。

・・・ところがこれで話は終わらない。

なんと全日本250ccレースであるJP250が2021年より四気筒、つまりZX-25Rの参加を可能とするレギュレーションの変更を行ったんです。

ZX-25Rのワンメイクレース

それまではカワサキも出場できない事が分かっていたので自分たちだけでワンメイクレースを開催する形をとっていたんですが、これで出場できるようになった。

もしかすると再び四気筒250ccの時代が来るかもしれない。

主要諸元
全長/幅/高 1980/750/1110mm
シート高 785mm
車軸距離 1380mm
車体重量 183kg(装)
[184kg(装)]
燃料消費率 18.9km/L
※WMTCモード値
燃料容量 15.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 249cc
最高出力 45ps/15500rpm
最高トルク 2.1kg-m/13000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後150/60R17(66H)
バッテリー YTX7A-BS
プラグ LMAR9G
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量2.9L
交換時2.2L
フィルター交換時2.2L
スプロケ 前14|後50
チェーン サイズ520|リンク116
車体価格

750,000円(税別)
[830,000円(税別)]

※[]内はSE

系譜図
ZXR250A1989年
ZXR250/R
(ZX250A/B)
ZXR250C1991年
ZXR250/R
(ZX250C/D)
バリオス1991年
BALIUS
(ZR250A)
バリオス21997年
BALIUS2
(ZR250B)
2020年
ZX-25R
(ZX250E)

【関連車種】
CBR250RR/CB250の系譜FZR250Rの系譜Bandit250の系譜

ZXR250/R(ZX250C3~) -since 1993-

ZXR250C3

バリオスでも説明した通り規制により40馬力となったZXR250の最終型となるZX250C3~型。

馬力が下がったのは残念な事だけどそれ以上に残念だったのがレプリカブームが去ってしまい、最初に言ったSP250Fを始めとしたアマチュアレースもドンドン無くなっていってしまった。

そんな窮地を打開しようとしてカワサキが取った手段は漫画によるアピールでした。

その名もZXR MAN。

ZXRコミック
ZXRコミック2
ZXRコミック3

気弱な主人公がZXR250に乗ることでZXRマンへと変身し悪を倒すというコテコテなヒーローコミックをカタログに掲載(厳密に言うとC1型のカタログに)。肩のK-CASパイプがトレードマークですね。誰が見てもZXR。

効果があったのかと言われれば・・・

というか既に89年にはGSX-R250が、91年にはFZR250Rが、C3登場の翌年94年には最大のライバルだったCBR250RRも生産終了に。ZXR250は一番最後まで、95年まで粘ったんですが時代の波には逆らえず。

というか自社が出したゼファーによるネイキッドブームに潰されるってなんとも皮肉な話です。今こんなバイクが出たら40馬力の規制後モデルだろうが飛びつく人が多そうだけどね。

主要諸元
全長/幅/高 2000/685/1090mm
シート高 735mm
車軸距離 1360mm
車体重量 141kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 15.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 249cc
最高出力 40ps/15500rpm
最高トルク 2.3kg-m/11000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後140/60R18(64H)
バッテリー YB9L-A2
プラグ CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量2.6L
交換時2.1L
フィルター交換時2.55L
スプロケ 前14|後48
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 609,000円(税別)
系譜図
ZXR250A1989年
ZXR250/R
(ZX250A/B)
ZXR250C1991年
ZXR250/R
(ZX250C/D)
バリオス1991年
BALIUS
(ZR250A)
バリオス21997年
BALIUS2
(ZR250B)
2020年
ZX-25R
(ZX250E)

ZXR250/R(ZX250C/D) -since 1991-

ZXR250C

「WONDER SPORTS」

ZXR250/Rに対抗してきたライバル勢に負けじと登場からわずか二年でフルモデルチェンジされた二代目のZXR250/ZX250C型とZXR250R/ZX250D型。

スラントノーズに一枚物のライトレンズでハンサム系になったのが特徴ですが

・新設計アルミフレーム
・ホイールをX字6本スポーク化
・エンジンヘッドを変更し燃焼室の改良
・ボア拡大で更にショートストローク化
・軽量クランクシャフト
・ヘッドライトの常灯化
・リザーブタンク付きリアサス(Rのみ)

などなど更に性能に磨きを掛けた改良となりました。

91ZXR250

ちなみに一点だけ残念ポイントとして車高調整機能はオミットされました。

「そもそもレーサーレプリカで車高調とは」

と感じている方も多いと思うので説明すると先代はアッパーマウントがメインフレームのクロスパイプを貫通しており、ワッシャーで20mmほど調整する事が可能になっていました。

ZXR250の車高調機能

なかなかアナログというか地味な事もあって活用してる人があまり居なかったんでしょうね。

ZXR250/Rでもう一つ解説しておきたいのがK-RAS。

今でこそ有名なラムエアですが、有名になったからこそもう一度説明しておかないといけない。なぜならZXRのラムエアはTZR250/3MAの後方排気と同じくらい非常に紛らわしいから。

K-CASとK-RAS

アッパーカウルの穴からタンクに刺さるように付いているホースは

『K-CAS(Kawasaki Cool Air System)』

といってエンジンヘッドに冷たい走行風を導くことで冷却するためにあります。

走行風をエアクリーナーに導く

『K-RAS(Kawasaki Ram Air System)』

はその下のダクトからで、エアクリーナーまで上るように繋がっているんです。アッパーカウルから繋がっているのが当たり前な今だからこそ誤解しやすい要素ですね。

リアビュー

さて・・・そんなレーシングスーパーウェポンことZXR250/Rですが、C型になるとカタログもこんなポップというかキャッチーな物を用意するようになりました。

ZX250Cカタログ写真

なんと擬人化。

随分と時代を先取りしている。しかもちゃんとコミック展開。

ZXRコミック

川崎クンと綾子チャンがデートをしていると、危ない集団に襲撃され綾子チャンが連れ去られピンチ。

そこに現れたZXR250/Rに乗るとスーパーマンならぬZXRマンに変身。

ZXRコミック2

悪い奴らを成敗し、綾子チャンを見事に救出。

ZXRコミック3

何だ夢かと思ったら夢ではなく、綾子チャンが川崎クンに惚れ直し川崎クンはZXRへの感謝。めでたしめでたし。

コッテコテのアメリカ漫画でこれだけ見るとクスッと出来るんですが、これの狙いを知るとあんまり笑えない部分もある。

というのも同世代の他車種でも書いているんですが、この頃になるとレーサーレプリカブームが既に去りつつあり、時代はネイキッドやクラシックなどに移ろいゆく中でした。

きっかけは同社から1989年に出たゼファーでカワサキ自身も生産が追いつかないほどまでに加熱。

ZXR250/C3

対してレーサーレプリカは車体価格の高騰も相まって市場もレースも冷めゆく一方で、レーサーというそれまでポジティブだった要素がネガティブな要素として捉えられるようになった。だからこんな漫画タッチでレーサーのレの字も感じ取れないカタログになっているという話。

1993年からは40馬力自主規制が設けられるようになったことでその傾向は更に強くなり、唯一の武器であったスペックも取り上げられ、SPレース向けのZXR250R/ZX250Dが1992年をもって生産終了。

ZXR250R最終モデル

市場の流れに合わせてレースもネイキッドレースに移行したのが決定打でした。

一方で継続販売されていたノーマルモデルもカタログを開いてみると、感じでスーパーウェポンと名乗っていたのが嘘のようにカジュアルな紹介。

ZXR250/C3カタログ2

それだけ市場が大変動というかちゃぶ台返しのような事態になっており、そしてカワサキもなんとかZXR250を存続させるためにこういう画策をしていたわけです。

E型が世間を騒がせた現代からすると信じられないような話ですけどね。

ZXR250最終カタログ

結局ZXR250はライバルがどんどん消えゆく中でも細々ながら販売が続けられ、1999年にライムグリーン(上記ZXR400と同色)を出し生産終了となりました。

主要諸元
全長/幅/高 2000/685/1090mm
シート高 735mm
車軸距離 1360mm
車体重量 141kg(乾)
燃料消費率 50.5km/L
[48.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 15.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 249cc
最高出力 45ps/16000rpm
最高トルク 2.5kg-m/11500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後140/60R18(64H)
バッテリー YB9L-A2
プラグ CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量2.6L
交換時2.1L
フィルター交換時2.55L
スプロケ 前14|後48
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 609,000円(税別)
[669,000円(税別)]
※[]内はZXR250R(ZX250D)
系譜図
ZXR250A1989年
ZXR250/R
(ZX250A/B)
ZXR250C1991年
ZXR250/R
(ZX250C/D)
バリオス1991年
BALIUS
(ZR250A)
バリオス21997年
BALIUS2
(ZR250B)
2020年
ZX-25R
(ZX250E)

ZXR250/R(ZX250A/B) -since 1989-

ZXR250A

「Racing Super Weapon」

1989年に登場したクラス最後発でありカワサキとしては初でもあるクオーターマルチ250のZXR250/ZX250A型とZX250R/ZX250B型。

・前傾35°水冷DOHC16バルブ直四(完全新設計)
・伸/圧独立カートリッジ式の倒立フォークをクラス初採用
・K-RAS(ラムエア)を量販車初採用
・車高調機能付き7段階可変可能なリアサス
・E-BOX(オールアルミ)フレーム
・大径Wディスク(300mm)&対向4ポットキャリパー

などなど同時に登場したZXR400に負けず劣らずの初っ端フルスペック状態。もちろん馬力は規制上限の45馬力。

ZXR250R/ZX250A

更に上の写真にあるRモデルのZXR250R/ZX250BはSP250Fという4st/250ccレースを考慮し

・クロスミッション
・32mmのビッグキャブ
・4段階の伸側調節と無段階プリロード調整が可能なアルミボディのリアサス
・前後ラジアルタイヤ
・シートカウルにSPORT PRODUCTION

など変更が禁じられていた箇所をレース向けに予め変更したモデル。もう本当にこれでレース負けてもマシンのせいには出来ないと言えるほどの性能でした。

基本的にZXRは本気でレースでの勝利を狙ったスパルタンモデルといえ、それはこの250も変わらず。

たとえばフレームはもちろん高剛性のリブ付きアルミフレーム。

ZXR250トップ

更に足回りも捻じれに強い倒立フォークでカッチリしたもの。おまけにポジションもかなりの前傾とヤル気全開。

エンジンも8000rpm前後までは本当に250かと疑いたくなるほどパワーが無い反面、それ以降は目の覚める加速が19000rpmまで続く形。

兄貴分が採用している中空3本スポークではなく5本スポークだったり、スクリーンをカウルの上からマウントしているなど若干の違いこそあれど、サーキットに一番主軸を置いているSP250F用の250レーサーレプリカはこのZXR250/Rだったと言い切れるんじゃないかと。

ZX250Aサイド

その証拠にレースでもZXR250Rはとっても大活躍しました。

大活躍したというか人気だったと言ったほうが正しいかもしれないですね。というのもこのSP250Fというのはワークスではなくバイクショップなどのアマチュアレースという意味合いが強いレースだったから。でもだからこそカワサキはこんな本気モデルを出したんじゃないかと。

ワークス対決になるとやはりどうしてもカワサキはお金が無い事もあって非常に厳しい。しかしアマチュアレースなら純粋な市販車としての性能が物を言うからこそ250もここまで作り込んで出した。

初代ZXR250

この姿勢は二年目にも現れています。

ZXR250/Rはわずか11ヶ月後に
・エンジン含む各部の軽量化
・フロントラジアルタイヤ化(ノーマルモデル)
・剛性が見直された新設計スイングアーム
・上記に伴いサスのリセッティング
・湾曲シフトペダル
・シート変更で高さが-10mm
・クランクシャフトを軽量化(Rモデルのみ)

というフルモデルチェンジ級の改良を行いました。

ZXR250カタログ写真

ZX250/Rは

『本気だった250レーサーレプリカ』

と言えるモデルでしたね。

主要諸元
全長/幅/高 2020/695/1105mm
シート高 740mm
車軸距離 1370mm
車体重量 144kg(乾)
燃料消費率 50.0km/L
[48.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 249cc
最高出力 45ps/15000rpm
最高トルク 2.6kg-m/11500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後140/60R18(64H)
バッテリー YB9L-A2
プラグ CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量2.6L
交換時2.1L
フィルター交換時2.55L
スプロケ 前14|後48
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 580,000円(税別)
[630,000円(税別)]
※[]内はZXR250R(ZX250B)
系譜図
ZXR250A1989年
ZXR250/R
(ZX250A/B)
ZXR250C1991年
ZXR250/R
(ZX250C/D)
バリオス1991年
BALIUS
(ZR250A)
バリオス21997年
BALIUS2
(ZR250B)
2020年
ZX-25R
(ZX250E)

ZXR400/R(ZX400L/M最終) -since1993-

ZXR400final

「本当に作りたかったレーサーレプリカ」

ZXR400/Rの最終型になる93年以降(L3~/M3~)は自主馬力規制で53馬力に落とされ、中低速寄りにデチューンされました。厳密に言うと再びリファインされた翌年94年のL4~/M4~が最終ですが。

1993ZXR400カタログ

結局レーサーレプリカブームが去ったことと、馬力規制から市場が縮小し全日本ロードレース選手権TT-F3(4st400cc)が無くなってしまったためZXR400/Rもあえなく生産終了。

ただ筑波など辛うじて存続している地方400レース(4st400cc/2st250cc)では生産終了して15年以上経った今でもZXR400Rが当たり前のように走っています。

ZXR400Rでレースしてる人が居るというのが正しいけどね。他にもNSR250RとかCBR400RRとかも走ってるので、まるでレーサーレプリカ時代にタイムスリップしたかのような・・・話がソレました。

ZX400L4

そんなZXR400だけど本当ならばコレは世に出るはずではなかったバイクなんです。

このバイクの指揮を取ったのはレーサーZXRシリーズも担当していたデザイナー兼エンジニアの西村さんという方だったのですが、この方は91年のL1/M1型を最後にカワサキを退社されています。

エンジニアがキャリア最後の花としてフラッグシップモデルやスポーツモデルを担当するのは珍しい事ではないのでこれだけ聞くと大した事ではないように思えますが、裏には壮絶な実際は壮絶なドラマがあったんです。

ZXR400R/L3

何度も言ってきましたがカワサキは大成功したGPZ900Rの経験からアンチレーサーレプリカ路線、つまり

「レーサーレプリカは作らない」

という方針でした。先に出た2st250のレーサーレプリカであるKR-1の商業的失敗でその考えは更に強くなっていたと思います。

しかし西村さんを筆頭にカワサキのエンジニア達はレース技術を市販車に生かせない状況に我慢の限界が来ていた。

でも上は絶対にレーサーレプリカを承認しない。そこで上への報告用にアンチレーサーレプリカのダミー車を用意し、ZXR400/Rは秘密裏に開発するという荒業・・・というかお世辞にも褒められない手段を取りました。

もしかしたらそれがZX-4だったのかも知れないですね。わざわざ同じ四気筒400ccエンジンを新規でもう一つ作ったのもこれなら納得がいきますし。

ZX400L4

「一切妥協のない最速400を作ろう」

と西村さんはメンバーを説得し、皆もそれに呼応したわけです・・・わけですが、そう事は上手く行かず虚偽の報告が上にバレて西村さんは会社と喧嘩し辞めることに。

ここでZXRプロジェクトは頓挫するハズだったのですが、残されたメンバーたちが署名活動を行い、会社や西村さんに直訴することで西村さんはプロジェクトに復職。完成させる事が出来たわけです。

ZXR400/Rがとてつもない性能で登場し、フルモデルチェンジに近い年次改良を行い、その翌年には更に上を行くフルモデルチェンジという青天井な改良を重ね、卑怯と言われるまでの速さを誇った事。おまけで整備性や耐久性を軽視している事。

これらは会社はもちろんマーケティングやバイク屋そして購入して乗るライダーすらも無視し、エンジニアたちが作りたいように作ったからなんですね。

その好き勝手っぷりの締めとなるのは西村さんが最後に手掛けたとされるZX400L1型(初年度)にあたる1991年式ZXR400のボディーカラー。

初年度カラー

レーサーレプリカといえばスポンサーカラーやメーカー・チームカラーを連想させる多彩な色使いが当たり前の時代に、青や赤の単色カラーというレーサーレプリカにもカワサキにも全く関連性のない色。しかも黒フレーム。

ZXR400ラフデザイン

これは空力を考え抜いて作り上げた造形が”一番栄える色”という理由から。もう本当に、完全に自己満足ですね。

引責なのか自主的なのかは分かりませんが、指揮を取った西村さんはこのZXR400(L/M型)の完成を最後に退社することとなりました。今にして思えばアンチレーサーレプリカのゼファーとバッティング、矛盾するようなラインナップとなったものこの為でしょう。

ZXR400L1ブルー

現代のZXRであるZX-Rなどでも稀に出てくる青や赤の単色カラーは、もしかしたらこれの名残なのかも知れないですね。

お世辞にも商業的に成功したとは言えないZXR400/Rは

「カワサキの400レーサーレプリカ」

と言われるのが一般的ですが、その言葉の中には

ZXR400ファイナル

「カワサキの(エンジニア達がクビを覚悟で作った)400レーサーレプリカ」

という見えないドラマが隠されているわけです。

主要諸元
全長/幅/高 1995/710/1080mm
シート高 780mm
車軸距離 1385mm
車体重量 160kg(乾)
[159kg(乾)]
燃料消費率 45.5km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 398cc
最高出力 53ps/12000rpm
最高トルク 3.6kg-m/10000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/60R17(55H)
後160/60R17(69H)
バッテリー FTX9-BS
プラグ CR9EK
または
U27ETR
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量3.0L
交換時2.8L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前15|後45
[前16|後45]
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 739,000円(税別)
[839,000円(税別)]
※[]内はRモデル(M型)
系譜図
ZX400G1988年
ZX-4
(ZX400G)
ZX400H1989年
ZXR400
(ZX400H/J)
ZX400L

1991年
ZXR400
(ZX400L/M)

ZXR400最終

1993年
ZXR400
(ZX400L/M最終)

ZXR400/R(ZX400L/M) -since1991-

ZX400L

「未確認走破物体」

今まで我慢して溜まりに溜まった熱を一気に爆発させたかのようなZXR400だったけど、まだまだ熱が冷めやらぬようで3年目で再び大きくフルモデルチェンジ。

エンジン・キャブ・サスペンション・ブレーキ・フレーム、もうとにかくほぼ全て見直し。先代の時点でも驚異的な速さだったんだけど、このモデルでその速さは卑怯と言われるほどに。

ZX400L1

最後に登場して最後まで渾身のモデルチェンジを繰り返し頭一つ抜きん出た速さを持っていたため、もうこの頃になるとレースに出たいならZXR400R一択とまで言われる状況になりワンメイク状態。

しかもプロダクションモデルのRは緑しかなかったらレースも一面がグリーン一色になったりして、バッタしか居ないバッタレースとか言われる始末。

4st400ccレーサーレプリカ市場において締めを取ったのは間違いなくこのZXR400/Rでしょうね。

ZX400Lカタログ

熱い宇宙推しなカタログも話題になりました。

※ZXR400のネイキッドモデルになるザンザスは系譜の外側で書いてしまったので申し訳ないですが飛ばさせてもらいます。読まれたい方は「ザンザスの系譜|系譜の外側」をどうぞ。

主要諸元
全長/幅/高 1995/710/1080mm
シート高 780mm
車軸距離 1385mm
車体重量 160kg(乾)
[159kg(乾)]
燃料消費率 45.5km/L
[46.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 398cc
最高出力 59ps/12000rpm
最高トルク 4.0kg-m/10000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/60R17(55H)
後160/60R17(69H)
バッテリー FTX9-BS
プラグ CR9EK
または
U27ETR
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量3.0L
交換時2.6L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前15|後45
[前16|後45]
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 739,000円(税別)
[839,000円(税別)]
※[]内はRモデル(M型)
系譜図
ZX400G1988年
ZX-4
(ZX400G)
ZX400H1989年
ZXR400
(ZX400H/J)
ZX400L

1991年
ZXR400
(ZX400L/M)

ZXR400最終

1993年
ZXR400
(ZX400L/M最終)