アマリングの誤った消し方と安全な消し方

アマリング

タイヤの端の使っていない部分がクッキリ輪っかとなって浮き出るアマリングという言葉を聞いたことがある人は多いと思います。

これは初心者というより初心者を脱したくらいの人や、大型のスポーツバイクに乗り換えた人などが気にする傾向にあるかと。

ワインディングロード

そしてアマリングにコンプレックスを抱き、消そうと峠を攻める・・・それ非常に危険な走りをしている可能性が高いです。

モラルの話でも説教でもありません。

これは該当する人はもちろん、そうでない多くの人にも言えるのですが

「フルバンクさせればアマリングは消える」

という”誤った認識”をしている人が非常に多いです。

そういう誤った認識をしているからアマリングを消そうとして

“スピードを上げて深く寝かせようとする走り”

“ジワジワと抑えつけるように寝かせ続ける走り”

をする。

無理バンク

こういう走り方は何の前触れも粘りもなく急に”スコーン”とまるで足払いをされたかの様なスリップダウンをします。

「本当に危険な誤った方法なので絶対に止めましょう」

このページで最も言いたいことはコレです。そしてそんな走りではアマリングを完全に消すことは出来ません。

何故ならタイヤの端というのは寝かせて使う部分ではなく

「潰して使う部分」

だからです。

正しいエッジの使い方

端を正しく使った場合タイヤはこんな感じで変形します。

比べると一目瞭然。

アマリングの正誤

イタズラに寝かせる曲がり方でアマリングを消そうとする行為がいかに危ないか分かるかと。

ですから

「アマリングは恥ずかしい」

という風潮がありますが実はそうではなく

「撫でる程度しか端を使っていないタイヤ」

「エッジをほとんど使っていないタイヤ」

の方が”正しく荷重を掛けていない証拠”だったりするので恥ずかしかったりします。

ダンロップタイヤ

アマリングは正しく曲がれている証拠です。

だから気にすることではありません・・・と言ったところでアマリングを気にしている人は何とか消そうとするし、そんな説教が聞きたいわけでもないのが正直な所かと。

もう答えは出てる様なものですが、正しいアマリングの消し方と言いますか、正しい端の使い方は

「キッチリ荷重を掛ける」

です・・・いやソレどうするんだって話ですよね。

ハングオフ

怒られそうで言いたくないんですが一番分かりやすいのがハングオフです。

こういうインに身体を入れて走っているのを見たことがあるかと思いますが、これの狙いの一つは荷重をタイヤの接地面にかけて潰すため。

厳密に言うと

「タイヤを潰してグリップを稼ぐため」

で、こういうちゃんと荷重を掛ける走行をすれば(環境にもよりますが)法定速度内でも端まで使えます。

「スポーツ走行では空気圧落とす」

って聞いたことがあると思いますが、それもタイヤを潰しやすくするため。

リーンイン

いきなりハングオフは無理でもリーンイン程度なら可能でしょう。足は開かずにお尻だけ落とす所から始めてみるのもいいかもしれません。

ちなみに動作は寝かし始める前に完了させておくものです。恐らく馴れない内は上半身に力が入って逆に曲がれなくなったり、反対に曲がりすぎたりするので本当に注意して下さい。

SV650

もう一つ大事なのは低回転&ハイギアードでアクセルをちゃんと開けて素早く立ち上がること。いつまでもダラダラと寝かしたり速度変化のない曲がり方は駄目。

少し後ろ乗りで、上半身はリラックスして、メリハリのある加減速で、リアタイヤに全意識を集中。※ライテク本の受け売り

ブリヂストン

「荷重とトラクションを掛けることで端を潰す」

です・・・が、これも最初に紹介した無理やり寝かせる走り方ほどでは無いにしろ危ないので正直あまりオススメしません。

というか恐らくこの方法を言われただけでアマリングを消せるのは極稀に居る才能を持った人くらいかと。

それよりオススメなのが八の字です。

八の字

実質的に反復練習で速度もせいぜい30km/h程度なので重大な事故や故障に繋がりにくい。

難点としては

・真面目にやるほど転倒する

・タイヤのサイドがモリモリ減る

・場所を見つけるのが大変

といった所でしょうか。

八の字には曲がるための動作が全て入っているので、アマリングを消すついでに小旋回やUターンなどの運転技術も向上する非常にオススメな方法です。

CBR1000RR

どれだけ頑張って寝かせてもアマリングが消えないのは速度やバンク角が不足しているからではありません。

「荷重が不足しているから」

です。

「寝ろ〜寝ろ〜」

ではなく

「潰れろ〜潰れろ〜」

です。

闇雲にスピードや回転数を上げて寝かせようとする必要はないです。というか何度でも言いますが

「本当に危険な誤った方法なので絶対に止めましょう」

これが主題です。

いずれにせよ安全運転と、タイヤの温度や空気圧管理、ウェアの装備などはしっかりして絶対に無理はしないこと。

バイク乗りは事故をおこすと全国放送で晒されるという事を肝に銘じておきましょう。

そして一日二日で出来るようになるものでもないという事も。

【最後に一番オススメの方法】

だれでも安全かつ容易にアマリングを一日で消す裏技的な方法があります。サーキットに行くことです。

鈴鹿サーキット

スピードレンジも走行ラインもRも公道とは全く違うので、何も考えずに空気圧を落として走るだけでラップタイム関係なく消せます。

ついでにタイヤが荒れて良いハッタリになります。こんなのを見たことある人も多いでしょう。

荒れたタイヤ

これは公道とは違って路面がギザギザで荒くなっているから。タイヤの食いつき方が全く違うから荒れるんです。

そしてサーキットが一番オススメな理由はもう一つあります。

サーキットを走ってみれば

走行会

“公道走行でのアマリングの有無に拘る事が如何に幼稚で低次元か”

を知る事となるからです。

最初はメーカー、正規取扱店、大型ショップ等が開く走行会や、サーキット場が行うスクールなどがライセンス等も要らず比較的安価なのでオススメです。

【書き忘れ】

ちなみにこれはラジアルタイヤの話で、250等に多く採用されているバイアスタイヤだと話が変わってきます。

というのもバイアスタイヤは簡単に言うとタイヤ全体で剛性を出す構造なのでラジアルタイヤの様には潰れません。

だからバイアスタイヤで端まで使うのはラジアルよりも難しく、メーカーも想定しない場合が多いため基本的に不可能だと思って下さい。

※端まで到達する前にバンクセンサーが当たる場合が大半

【関連】

加速でリアは沈まない〜アンチスクワット〜|バイク豆知識

どんなバイクもタイヤ次第|バイク豆知識

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排気量コンプレックス

※普通自動二輪を取得しアンダー400に乗っている方に向けたページです。

最近はだいぶ廃れてきたと思うのですがアンダー400に乗っている人なら排気量カーストを経験した事がある人も多いのではないでしょうか。

分かりやすいのが大型バイクを勧めてくる俗に言う

『大型はいいぞおじさん』

ですね。

どうして大型はいいぞおじさんが叩かれるのかといえば

排気量と偉さ

『排気量が大きい方が偉い』

という排気量カーストの様な考えが見え隠れするから。そんなさもしい考えの人に遭遇したら運が悪かった程度に思いましょう。

ただ大型はいいぞおじさんをちょっと擁護させてもらうと大型バイクを勧めてくるのは

「必ずしもカーストを意識して言ってるわけではない」

という事。

少し手厳しい事を言わせてもらうと

「排気量でマウントを取られた」

と捉えられてしまうのは言われた方も『排気量カースト』を潜在的ながら意識している場合もあるかと・・・もちろん言い方の問題もありますけどね。

ヤマハの大型バイク

今どき排気量カーストなどという時代錯誤なものを意識している大型乗りなんてそうそういません。

しかし誤解してほしくないのはだからといって

「排気量は関係ない=大型に乗らないでいい」

という話にはならないという事。決してそんな事はありません。

最近そういう類の問い合わせというか悩み相談を頂くようになったので今こうやって書いているわけですが、基本的に

『大型デビューする事を強く推奨』

しています・・・その理由は

ホンダの大型バイク

「絶対に後悔しないから」

です。

乗りたいと思える大型がある人はもちろん、大型に興味が無い人も大型自動二輪免許の取得し大型バイクに乗っても絶対に後悔しないと言い切れます。

恐らく『大型はいいぞおじさん』もそれが言いたいのだと思うので藪蛇を恐れず代弁する形で持論を書いていきたいと思います。

どうして大型デビューした方がいいのかというと排気量の幅が大きい大型バイクに乗ると

『排気量差がもたらす違い』

を知ることが出来るからです。

排気量の輪

その違いというのは『偉さ』ではなく『趣き』です。

バイクという乗り物は排気量が違えば違うほど姿形が似ていようとも全く別の趣きを持ったものになります。

カワサキの大型バイク

これ言うは易しなんですが、この言葉の意味を本当に理解するには実際に大型バイクに乗ってみないと人から幾ら言われても理解は出来ない。逆に言うと実際に乗ってみれば否が応でも理解出来ます。

大型に乗ったら間違いなく大型ならではの素晴らしさを実感し

『小は大を兼ねない』

という認識が生まれる。

しかし大事なのはそれだけではなく、その少し後になってから生まれるであろうもう一つの方。

『大は小を兼ねない』

という認識。

この大小の趣きの違い知ったら間違いなくその後のバイク選びが大きく変わります。

もっと排気量が大きいバイクを選ぶかも知れないし、少し排気量が小さいミドルを選ぶかも知れない。

スズキの大型二輪

再びアンダー400を選ぶ可能性だって十二分にある。これは付き合い方次第で十人十色だから本人にしか分からない。

でも仮にせっかく大型自動二輪免許を取ったのにアンダー400を再び選んだとしてもそれは決して無駄な出費でも回り道でもない。

「絶対に後悔しない」

と言い切れる理由はここにあります。

もしも大型自動二輪免許を取り大型バイクを経験した上でなおアンダー400のバイクを選んだとしてもその時は

「これで十分、これで満足」

なんて妥協の様な考えは絶対に生まれて来ないから。

アンダー400

「この『趣き』が好き」

と心の底から思えるようになってる。

大ならではの素晴らしさを知らなかった頃には気付けなかった

『小ならではの素晴らしさ』

を知った事でアンダー400を今よりもっと好きになれるから大型自動二輪免許を取って大型デビューしても絶対に後悔しないと言い切れるわけです。

大型を勧めるのは排気量至上主義という価値観を押し付けたいわけではなく

『排気量がもたらす趣きの違い』

を知って欲しいから勧めるんです。

ちなみに偉そうに言っていますがこれは小も大も知る大型乗りからすると眠くなるくらい当たり前な話。

大型バイクオーナー

愛車をコロコロ変える浮気癖がある大型乗り、大して乗らないのに多頭飼いする大型乗り・・・そして排気量の話題になる度に

「好きなバイクに乗れよ」

と呆れ気味に言う大型乗りが多いのもこの見識を持っているから。

『排気量は比べるものではなく趣きを測るもの』

という見識を持っているからなんです。

そんな排気量マウントにもカーストにもコンプレックスにも囚われない、排気量関係なく目に映るバイクがどれもこれも魅力的に見えて贅沢な悩みを抱えてしまう

排気量への見識

『バイクを最も楽しめる見識』

を育んでほしいから大型自動二輪免許を取って大型バイクに乗ってみることを強くお勧めする・・・という話でした。

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手組み交換

バイクで一番大きなウェイトを占める消耗品であるタイヤの出費を抑えたいと考え、通販でタイヤだけ買って自分で変える手組みを検討する人も多いかと思います。

実際それに関する問い合わせが非常に多いのでここらへんでAmazonのリンクでも貼って

「アレコレとこれを買ってレッツトライ」

と煽るように工具を宣伝しウハウハ・・・になりたい所なんですが、その前に少し聞いてほしい助言があるので止めておきます。

タイヤ交換

「節約目的なら手組みはオススメしない」

という事です。このページで一番言いたい事はこれ。

「自分で交換すれば安く上がる」

というのは専用工具を持っている事が前提の話で、一からこれらを揃えるとなると安く見積もっても工具だけで5万円ほどする。

タイヤ交換に必要な工具

「個人がそんな大枚はたいて元を取れるのか」

という話。

加えて素人がやると間違いなくホイールやスイングアームなどに傷をつけます。せっかくの新品タイヤをダメにする可能性すらある。

これらを考慮すると高いと思えるバイク屋のタイヤ交換も実はそんなにコストパフォーマンスは悪くないんです。

それでも何とかコストの方を抑えたいと思うなら

『持ち込みを受け入れてくれる所を探す』

『ツーリングがてら大型店に行って変える』

というのがベストとは言いませんがベターかと思います。

ハンドツール

一方でここまで説得されてもなお

「それでも自分でやるからさっさと教えろ」

と思うモノ好きな人も居るかと。

こういう人は言われなくても勝手にやると思うのですが、そういう後先考えない人の失敗を最小限に抑える手助けする気持ちで経験者として手組みする際に気をつけた方がいい事を書いていこうかと思います。

※一般的なチューブレスラジアルタイヤ前提で話を進めます。チューブタイヤや250に広く採用されているバイアスタイヤの手組みは初心者には難しいのでオススメしません。

【必要なもの】

・フロント&リアスタンド(J-TRIP)

・タイヤレバー3本(KTC製を最低1本)

・ビードクリーム(なんでもいい)

・ビードブレーカー(お金が無いなら自作)

・トルクレンチ(お金が無いなら安物)

・アクスルや各部用のレンチ(車載工具にもある)

・ムシ回し(あったほうがいい)

・リムプロテクター(無くてもいい)

・作業台(木の板でいい)

・コンプレッサー(無いならGSで)

タイヤ交換で必要となるであろうツールはこれくらい。センタースタンドがあるバイクはメンテナンススタンドを省けたりします。

メンテナンススタンドの注意点として安物スタンドは使い物にならないので絶対ダメで、J-TRIPなど有名メーカーの愛車に合ったウケを選ぶこと。

スイングアームボルト

スイングアームにボルト穴が付いているタイプのバイクに乗っている方はV字が一番安定するのでスタンドフックとV字受けタイプのスタンドを買いましょう。

ちなみにこのフックボルトは意外にも純正部品が用意されていたりします。

純正フックボルト

それが無いタイプの人はL字受けのスタンドにしてスイングアーム下を支えるタイプ。片持ちは専用品を。

あと車重があるバイクはロングアームタイプにしないと重すぎて持ち上げられない恐れがあります。

【1:アクスルシャフトを緩めておく】

慣れていても意外と忘れがちなのがこれ。

スタンドアップしてから緩める事も出来るんですが不安定なので接地した状態で少しだけ緩めておくこと。

フロントホイールのシャフト

フロントはフロントフォークにホルダーナット(ボルト)がついてるタイプは緩めてからにしましょう。

キズはもちろんナメないように注意してください。

【2:スタンドアップする】

水平な場所でサイドスタンドのままゴムやバンドでフロントブレーキをかけた状態にしてハンドルは左に切り、車体を垂直に立ててスタンドを掛けて上げる(レバーを押し下げる)だけ。

リアのスタンドアップ

この時スタンドアップされた愛車を見て惚れ直す事が出来ます。

※注意点

スタンドの掛け幅が合ってない場合はもちろん、反対側に倒す事を恐れて垂直にせず

『傾いたままスタンドアップ』

をしてしまうと車体を弾き飛ばすように倒してしまうので注意。

とはいえビビるなというのも無理な話なので慣れないうちは予めサイドスタンドの下に何か物を置いて垂直に近くしてから起こすようにすると反対側に倒してしまう恐怖が少し解消されます。

サイドスタンド

フロントはリアを上げたあとにハンドルを水平にしアンダーブラケットのホールに差し込んで上げるだけなので特に問題なし。

上げたらブレーキロックとサイドスタンドは解いておきましょう。

【3:ホイールを外す】

『フロントホイールの場合』

ブレーキキャリパーを外す

フォークのホルダーナット(フロント)を外す

フェンダーを外す(干渉する場合)

ABSセンサーを外す(干渉する場合)

アクスルシャフトを緩めて引き抜く

ホイールが外れる

『リアホイールの場合』

ブレーキキャリパーやサポートを外す

チェーンアジャスターを緩めてダルダルにする

フェンダーを外す(干渉する場合)

ABSセンサーを外す(干渉する場合)

アクスルシャフトを緩めて引き抜く

チェーンをスプロケから外す

ホイールが外れる

※注意点

・外すパーツや手順は車種によって違うので参考までに

・外したキャリパーは宙ぶらりんにするとブレーキホースに負担がいくのでホイールを外したら元の場所に仮止めしておきましょう

・ホイールの穴には簡単に外れるカバーとカラーがあるので左右を覚えて無くさない様に

・リアホイールを外すとチェーンやサポートが落ちてくる場合があるので注意

【4:タイヤのビードを落とす】

外れたホイールはまず作業台に載せます。

作業台といっても飛び出しているディスクローターやスプロケを収めて水平にする為のもので木枠みたいなものを作るだけ。

作業台

シングルディスクなど片方を水平に出来るなら地面と擦れて傷つかない様に厚めのマットを敷くだけでもいいです。

そうしたらタイヤの空気を完全に抜きビードを上下左右どちらも完全に落とします。

ビードを落とす

ビードブレーカーもスタンドと同じく安物はすぐ壊れるのでベストはJ-TRIPですが高いので自作している人が多いですね。

例えば長い木材に太めのL字取付金具をつけてホイールとタイヤのキワを押せばテコの原理で外れます。

ビード落とし

他にもジャッキで挟んで落としたりなどなど。コツはリムのギリギリを押しつぶす事。

※注意点

ビードを落とす方法の一つとして

『タイヤレバーだけでビードを落とす』

というのがあります。

レバーでタイヤを押し下げてビードを見える状態にしつつもう一本をひっくり返してその傍からホイールに当たるまで突き刺してビードの先をレバーで押し下げて落とすというもの。

レバーで落とす方法

これをやるとリムの内側にガリ傷を作ってしまうので正直オススメしません。最終手段と思ったほうがいいです。

【5:タイヤの片側を外す】

ビードを落としたらタイヤレバーをホイールとタイヤの間に突っ込んでビードをテコの原理を使ってすくい上げる様に持ち上げます。

レバーですくい上げる

最初に持ち上げる部分は間違ってバルブを抉ってしまうことを防ぐ為にもバルブ部分でおすすめ。

そうして持ち上げたらその部分は戻らない様にそのまま押さえつけて固定で、ソコから少し横に進んでまたビードを持ち上げるようにすくい上げる。

すくい上げる順番

例えば2番を新しいレバーで同じ様にやって1番と同じ様にそのままをキープ。

そして次は3番をまた新しいレバーで同じ様にやってストッパーの役目を終えた手前の2番のレバーを抜いて4番にいく。これの繰り返し。

ちなみに

「なんとしても傷を防ぎたい」

という人は先にリムプロテクターを嵌めておきましょう。ただしリムプロテクターを付けるとリムの厚みが増す形になるので難易度は上がります。

※注意点

もしもこの時に(特に序盤で)

「ビードとホイールの隙間が無くてレバーが入らない」

とか

「ビードを持ち上げられない」

となった場合は反対側のビードが上がっている可能性が高いので落ちているか確認。

ビードが落ちているか確認

この状態では絶対に外すことは出来ません。

外している反対側の部分を膝や足で抑えて(潰して)いる光景を見たことがあると思いますが、それはこうやってビードを落としたままにするためなので真似しましょう。

そしてこの時に絶対にやってはいけないのが

『レバーが入る所まで飛ばす事』

です。

順番は守る

次の場所にレバーが入らないからといってレバーが入る遠くまで順番を飛ばして無理やり外そうとするとホイールに大ダメージが入るので絶対にしないこと。

「どうやっても次が入らないor外せない」

という場合は

『タイヤ全体を持ち上げたり潰したりする』

『レバーを遠くから入れて手前まで持っていく』

『一つ前のレバーを少し戻して隙間を作る』

などの工夫で対処しましょう。

ちなみに

MCOL-260

「最低一本はKTCのレバーを」

と最初に書いたのもこれが理由で、KTCは高いだけあって先端が他よりも細く本当に良く出来ているから。

同じ様に見えてノーブランド品とはビードの上げやすさが天と地ほど違います。

KTCタイヤレバー

「ここぞの時に頼りになるのがKTCのタイヤレバー」

だからちょっと高いけど最低でも一本はKTCを用意しましょう。

【6:タイヤを完全に外す】

片方のビードを全部外し終わるとこういう状態になります。

片側が外れた状態

これで外す作業の半分が終了。

とはいえ残り半分の下側も手順は同じでホイールとビードの間にレバーを差し込んで持ち上げるを繰り返すだけ。

下側もレバーですくい上げる

何度も言いますがレバーを入れる隙間が無い時や持ち上げられない時は反対側のビードが上がっていないか確認し、決して欲張らず力任せに外そうとしない事。

こうして下側もコツコツやって2/3ほどまで来るとスポっと外れると思うのですが、それでも外れてくれない時は引き剥がすようにタイヤを引っ張ってみたりゴムハンマーでタイヤを縦にしてバシバシ叩けば外れてくれる・・・

ゴムハンマー

・・・かもしれない。

基本はレバーでちゃんと外す事を忘れずに。

【7:タイヤをはめる…前に補足】

タイヤをはめる時は外した手順と逆の事をするだけですが回転方向や軽点(黄色印)の確認をお忘れなく。

タイヤ合わせ

特に方向を間違えると二度手間になるのでパターンで何となく判断するのではなく、ホイールにも記載されている回転方向と合っているかちゃんと確認しましょう。

それでタイヤ銘柄なんですがサイズがあるなら初めての挑戦はミシュランのパイロットパワー系をオススメします。

パイロットパワー

理由として

・軽点が無いのでバルブ合わせが必要がない

・サイズが豊富で車種や用途を選ばない

・比較的安価な部類

などがあるんですが何よりも

「飛び抜けて柔いから」

です。

上に座ると潰れてしまうくらいフニャフニャなので手組みの難易度をかなり下げる事が出来ます。

タイヤはメーカーや銘柄や世代によって硬さがバラバラで使い終わったタイヤですらビクともしないくらいガッチリしているものもあります。

初心者がそんなガチガチ系を手組みで入れようと試みても

「これ絶対に入らないでしょ・・・」

と思うこと間違いなし。

もちろん入るんですが骨が折れるのもまた事実なので最初はパイロットパワー系が良いよという話。

手組みの味方

決してビバンダム君の回し者ではありません。

【8:タイヤをはめる】

新しいタイヤのビード部分の両方に滑らせてスルッと入れるためのビードクリームを塗っておきます。

ビードクリーム

そうしたら進行方向を確認してからガポっと手足と体重を使って下側のビードを半分くらいをホイールに嵌めてニュルッと外れてくるのを膝などで抑えつけます。

入れ始め

上側は入れない事。

あとはタイヤレバーを外す時とは反対方向に持ってレバーの上を滑らせるようにして入れていく。

レバーでビードを入れる

そうしてまず下側を全て入れたら最後の難関となる上側なんですが、どんどんキツくなるので残り1/3くらいからは更に慎重に刻むように。

ここで無理をするとビードが捲れたり千切れたりしてエア漏れの原因になります。何度も言いますがビードが落ちてるか確認しましょう。

最後はプロテクターを入れるスペースが無いほどの狭い隙間にレバーを差し込むんですが、この時に誤ってリム端までレバーの先が届いていないのにグイっと上げてしまうと見事なガリ傷が出来るので注意。

レバーで入れる最後

そうしてビード入れが完了したらビードシーティング俗に言うビード上げです。

コンプレッサーで空気を勢いよく入れて

『パンッパンッ』

とビードが上がった事を示す破裂音が2回鳴ったら念の為に一度空気を抜いて、もう一度入れ直しタイヤのサイドウォールが波を打ったりしていないか確認したら完成。

※注意点

・ビードとタイヤの間で指を挟まないように注意

・ビードが上がる破裂音は鳴らない場合もあるので入れすぎに注意

・エアーがダダ漏れで入っていかない場合はタイヤに乗って縦に潰しつつ入れる

・それでも入らない場合はラチェットをタイヤに沿うように巻いて締め付けて潰す

・軽点がズレた場合は同じくタイヤに乗ってホイールだけ引っ張る様に回す

・破裂音で驚かれるので借りる場合は一言声をかけたほうが良いかと

【9:タイヤを装着する】

外した時と逆の手順でホイールを嵌めてついでにチェーンのラインと張りを調整するだけですが、ホイールを持ち上げつつシャフトを通すのは大変でヘトヘトな身体に無慈悲な追い打ちを掛けてくるので無理して傷めないように。

あと最後の注意点としてアクスルシャフトは

アクスルシャフト

『必ずナット/ボルト側から規定トルクで締める事』

車体が持ち上がって倒れてしまう恐れがあるので最後の締めはまずフロントから下ろしてやりましょう。

あと意外と見落とされがちなのがその後に締めるホルダーナット(ボルト)で、実はこれも同じくらい大事・・・というかこっちのほうが大事だったりします。

ホルダーボルト

これが付いてるタイプはここをちゃんと締めないと振動やハンドリングに大きく影響します。

だから緩すぎずキツすぎない規定トルクでキッチリ上下左右、二度三度どころか六度七度と確認しながら規定トルクで(矢印が付いている場合はそちらから)締め込んでいきましょう。

入念な確認を

それでホイールバランスなんですが手で回してみて

『いつも同じ箇所が下に来る』

『高速走行で振動やブレを感じる』

などの問題が無い限りは気にしなくても・・・というと怒られそうなので取ったほうが良いのは間違いないとだけ言っておきます。最近のは元々バランスが良いので取ってない人やショップが多いのが現実ですが。

廃タイヤ

あと言い忘れていたのですが交換した廃タイヤはタイヤ屋なりGSなりに持っていけば有料(だいたい300円/本)で引き取ってくれます。

【終わりに】

以上がタイヤ交換の大まかな流れです。

最後にもう一度言いますがよほどのモノ好きか環境に恵まれていない限り自分でタイヤ交換するのはオススメしません。

手組みについて

整備不良の危険性を伴うのはもちろんですが、それより何よりいざ自分で道具を揃えてここや色んな所で予習しても絶対にすんなりはいかない。

一日掛かりで汗だくになるし、腰も痛めるし、筋肉痛になるし、ホイールに見事なガリ傷も作るから終わった時には

「もう二度としたくない」

と絶対に思う。手組みに慣れた人ですらそう思うんですから。

その結果せっかく揃えたスタンドや工具がオブジェと化してしまう。

タイヤ工具

もちろん回数を重ねれば前後合わせて1時間掛からずに終われるくらい上達したりもするけど、せいぜい2~3台が当たり前な個人でそうなれるのはずっと先の話。

だから節約目的なら損する未来しかないから本当にオススメしない。

でも得がないわけじゃない。

手組みをやってみると間違いなく今までよりホイールやタイヤ等の足回りを意識するようになるという得を得る事が出来ます。

例えば今までタイヤの銘柄や状態はおろか空気圧すらほとんど気にしてなかったのに

「走る前に測っておこう」

とかね。

何故なら自分で交換してちょっと不安だから。ホイールバランスだってそう。

そして慣れてきたら今度はスタンドアップやホイールの脱着で今まで見えなかった部分が見えるようになり、タイヤの脱着や手組みで少し自信が付いたことで色んな部分の整備に興味も持つようになる。

これが手組みすることによって手に入れる得。

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第三回

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プリロード調節

簡単だから要注意なメンテナンス

第四回

簡単だからこそ要注意

日常メンテナンス

認定型式と通称型式

第五回

車名に続く記号について

~認定型式と通称型式~

個人売買は絶対ダメ

第六回

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第七回

アマリングの誤った消し方と安全な消し方

エンジンブレーキ

第八回

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知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

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~サーキット初心者のススメ~

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第十四回

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~大型はいいぞおじさんの巻~

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スポーツバイクのポジションがキツい理由

タイヤの手組みは損して得取る

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~交換の手順と留意点~

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チェーンはチューンでチャーン

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バッテリー上がりは結果であり原因ではない

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一生に一度はサーキットを走ろう ~サーキット初心者のススメ~

サーキット場

もしもスポーツバイクに乗っているなら排気量やスキルや年齢に関係なく一度だけでもいいのでサーキットは走ってみた方が良いです。

スポーツに対する考え方が変わり、間違いなくその後のバイク人生に大きく影響を与えるからです・・・と言ってもどうすればいいのか分からない人が大半だと思うのでサーキットを全く知らない初心者に向けて一つずつ説明し解決していきたいと思います。

凄く長いですがお付き合いを。

ハードルその1
「参加方法が分からない」

モテギサーキット

ひとえにサーキット走行といっても色々あります。

『公認レース』
『草レース』
『フリー走行』
『スクール』
『走行会』
『体験走行会』

非常にザックリですが大体この様な感じで、上にあるほど金銭面も含めハードルが上がります。

その中で初心者がサーキットデビューするならここ。

サーキットの敷居のライン

サーキット走行に対して

「速い人達の中に放り出されるから怖い」

とか

「ライセンスと走行枠を買わないといけない」

などと思っているなら誤解です。

それはサーキットにドップリハマっている常連というか中~上級者向けである文字通り『フリー走行』などの話。

いきなりフリー走行も可能ではあるんですがサーキットを走ってみたいと思ったら『走行会』や『スクール』がベターです。

「体験走行会は違うのか」

という話ですがそれも含めて説明していきます。

【体験走行会】

バイク!バイク!バイク!

大規模ミーティングや大手ショップまたはサーキット場などが開催しているイベントで基本的に

・ライセンス不要

・先導車付き

・追い抜き禁止

・普段のウェアでOK

という感じで敷居は無いに等しいです。※走行会と分けるために体験と付けました

ただこれはサーキット走行というよりもサーキット場のお祭りに近いイベントで

「サーキットを走るぞ」

というより

「サーキット場を走るぞ」

というパレード的な意味合いが強いので主題とはちょっと違うかと。

取り敢えずサーキットがどんな場所なのか知りたいという人には数千円と安い場合が大抵なので打って付けかと思います。

【走行会】

走行会

主にショップや団体などがサーキットの走行枠を数時間だけ貸し切って走るいわば貸切フリー走行会。

規模によって上記の様な体験スタイルのクラスを設けている所も多いですが基本的に

・ライセンス不要

・追い抜きOK

・レーシングウェア必須

という感じで、サーキットでスポーツ走行してみるなら(コースを自由に走るなら)これが一番優しく手っ取り早いクラス。

料金はサーキット場やシーズンによってバラバラで1~3万円ほど。

サーキットの貸切

「でも走行会の開催情報を知らない」

という人も多いかと。

そういう時は世話になってるバイク屋や正規販売店、またはSNSなどで聞いたり検索してみてください。知ってる人が必ずいると思います。

もしも既に参加予定の人が読んでくれているなら呼びかけてあげてください。

バイク屋

「世話になっていないショップのイベントに参加って嫌な顔をされるのでは」

と心配するかも知れませんが事前に話しておけば結構歓迎されます。

というのもショップの走行会というのは最初に言ったように時間で貸し切って行う場合が大半なので、参加者(頭数)が増えるほど一人あたりの負担額やショップの負担額が減るから。人が集まらないと開催できないんです。

同じ釜ならぬ同じサーキットを食らう事で自然とバイク仲間が増えるメリットもあります。

もちろんキッチリした主催者だと参加枠(人数)や顧客のみなど参加条件を定めていて断られてしまう場合もありますけどね。

人見知りが凄いから無理だと思う人にはこっちがオススメ。

【サーキットスクール】

ライディングスクール

主にサーキット場が行ってるサーキット版ライディングスクール。

初心者から上級者までクラス別でカリキュラムが組まれており、半日から一日をかけて講師付きでみっちり走行出来るイベント。

・ライセンス不要

・レーシングウェア必須

費用は2万円前後で幅があるんですが基本的に費用対効果が一番ある有意義なイベント。そのため非常に人気が高く予約は早めに取らないと無理です。

「あの人見たことある」

って人がインストラクターをされていたりします。

つまりサーキット走行してみたいと思った場合の選択肢は主に二つ。

『ショップの走行会に参加する』

『スクールを予約して参加する』

というわけです。

※サーキット走行の流れ

サーキット走行の流れ

ここでちょっとサーキット走行の流れや注意事項を本当に簡単に説明。

主催者がスケジューリングや説明を事前にすると思うので心配は要らないんですが、予備知識としてサラッと覚えておいてください。

※ここに書かれているのは目安です。主催者やコースのルールが違う場合はそちらを最優先で守る様にしましょう

【1.準備して出発する】

・入念な整備(必須)

・ガムテープ(できれば布)

・レーシング装備一式

・ゲージ付エアポンプ

・タイラップ(可能なら)

・予備レバー(可能なら)

おそらく多くの人が自走(車に積んでこない)だと思うのですが、シングルシートカウルを持っている人はシートと両方持っていくと非常に便利です。

シートカウルを活用

この様にすればいちいちバッグを外す手間が省けます。

ちなみに大きいバッグを付けてツナギも入れておき、走行会が終わったら来た時のツーリングウェアに着替えてツナギは郵送で自宅に送るという手もあります。

そうすると帰りはツナギ分のスペースが空くのでお土産やら何やらが入るという算段。そのまま泊りがけで何処かに行く場合に有効ですね。

【2.手前でガソリンを入れる】

サーキットにもよりますがガソリン単価が高かったりそもそも無かったりするので手前で入れておきましょう。

【3.着いたらガムテープを貼る】

転倒などで破片が飛び散らない様に

・ミラー

・ライトレンズ

・ウィンカー

・反射板

などの保安部品は外すかガムテープで覆う必要があります。

可能ならば外しておいたほうが万が一の時の修理代も浮くのでおすすめです。

【4.空気圧を落とす】

ベタベタに落とす必要はありません。

既定値から1割ほど落としてまだ跳ねるようなら落とし、グニャグニャだと感じたら少し上げましょう。

ちなみにサスセッティングを弄ってるなら少し固めに。分からないなら取り敢えず標準に。

【5.スマホやカメラはしっかり固定する】

走行時の映像を撮影したいと思う方はしっかり固定しましょう。

最近カメラをコース上に落とす事故が増えており運営の頭を悩ませているとの事です。

吸盤やテープなど簡易固定は公道では大丈夫でもサーキットでは簡単に外れます。

「簡単に外せる=簡単に外れる」

です。

ボルトマウントにワイヤリングなど二重三重の固定をして挑みましょう。落とすと運営/主催者/参加者に多大な迷惑をかける事になります。

また身体マウントも危ないので非推奨です。

※サーキットや運営によっては既に禁止

【6.終わったらガムテープを剥がす】

剥がしたガムテープやゴミがコースに入ると大惨事を招くので絶対にそこら辺に置いたり捨てしないように。

あと剥がす時は塗装も一緒に剥がれる可能性があるので慎重に・・・これが走行会で一番気をつけないといけない事かも知れない。

ちなみにそうならないようにガムテープではなく養成テープを貼る人も居ますが、粘着力が弱くキッチリ貼らないと走行中に剥がれてしまうので初心者向けではないです。

※サーキットによっては禁止されている

※走行時の注意編

カーブス

【出入りは手足信号】

コースに出入りする際はウィンカーは使えないので足や手をウィンカーの代わりに出します。

そしてコースに入った際は最初は(既に走っている人と速度差があるため)コースの端を走って様子を見て、コースを走っている人がいない事を確認して走行ラインに加速しながら入る。

反対にピットに戻る際はピットインのかなり手前からコース端にバイクを寄せて手足を上げて入る旨を後続車に伝えて徐々にスピードを落とす・・・という感じです。

端に寄るポイントや合流するポイントはコースによるんですが、取り敢えず覚えておいて欲しい事は一つ。

合流と離脱のライン

「ピットの一つ手前のコーナーから急にピットに入ったり、ピットから出た瞬間にコースに合流したりしないこと」

ヤッツケな絵で申し訳ないですが、寄るタイミングや合流するタイミングを逃したからかといってこういう事をしてはいけません。高確率で接触事故を招いてしまう非常に危険な行為なのでそれだけは止めましょう。

もしも寄るタイミングや合流するタイミングが合わなかったり掴めなかった場合は継続してコース端を走り様子を見ましょう。

【旗は最優先で守る】

サーキットにはマーシャルポストと呼ばれる監視塔があり何かあると旗でそれを伝えます。

マーシャルポスト

レースなどでも見たことがある思いますが、旗が振られたら必ず守りましょう。

色に関わらず旗が振られたらピットに戻って一息付くのも手です。

サーキットフラッグ

【無理に抜かない】

前を走る車両を抜くという行為は想像よりも遥かに難しいので、レースのようなオーバーテイク行為はよほどの速度差や技量差がない限りは止めましょう。

前に自分より遅いバイクが居たらホームストレート等で余裕を持って抜くか、一度ピットに戻って仕切り直すのも手です。

【道を譲らない】

自分よりも速い人に後ろに付かれると非常に焦ってしまう気持ちや申し訳ない気持ちになるかと思います。

しかしだからといって譲るような行為をしてはいけません。

なぜなら後ろについた速い人は

「次のコーナーでインorアウトから抜こう」

と考えていたりするから。

NSF100

唐突な減速や走行ラインの変更で譲ろうとする行為は予想だにしないブロック行為となり接触に繋がったりするんです。急なピットインやピットアウトがダメなものこれが理由。

焦らず前だけを見ましょう。抜くのもテクニックの一つなので抜けないその人が悪いくらいに考えておいて良いです。

【早めの休憩】

サーキット走行というのは想像の何倍も疲れます。

走ってる間は大丈夫と思っていても降りるとフラフラしたり。

それに気付かず走り続けると要らぬミスを招くので休憩は早めに。もしくは決められた時間が終わったらちゃんと休むように。

ピットストップ

【走行会はレースでもタイムアタックでもない】

トドのつまり走行中はこれを心がけておけばOK。

走行会は『みんなでサーキット走行を楽しむイベント』であってレースやタイムアタックをするイベントではありません。

目を三角にして120%の力で走るのではなく、楽しく笑いながら走れるくらいの余裕を持って走るもの。

速い遅い、膝が擦れる擦れない、そんな事は気にするだけ無駄。自分なりにサーキットを楽しむのが走行会です。

まあとにかく何度も言いますが走行会にしろスクールにしろ難しく考える必要はないです。

おそらくここに書いてあるルールを読んでいざ参加してみたら

「なんか系譜に書いてあるより緩いんだけど」

と拍子抜けする場合が大半だと思います。だから本当に気負う必要はないですよ。

参加の意志が決まったら次に立ちはだかるであろうハードルがこれ。

ハードルその2
「装備が高い」

クシタニのツナギ

『レーシングスーツ』

『レーシンググローブ』

『レーシングブーツ』

『胸部&脊椎パッド』

『ヘルメットリムーバー(※)』

『インナー(※)』

※必須ではない

何回行くかも分からない中でこれだけの物を用意する必要があるというのは気が引けても無理もない話。

これを解決する方法は二つあります。

ツナギレンタル

【レンタルサービスを利用する】

クシタニやダイネーゼなどのアパレルメーカー、または大手ショップなどがツナギのレンタルを行っています。

大体2万円ほどで借りる事が出来るので何よりも安く済ませたいならこれ。

【安全装備と思って買う】

皆さん多分ヘルメットは良いやつを持っていると思います。

では胸部プロテクターや脊椎パッドまたはそれが入ったウェア持ってますか・・・持っていない人が大半だと思います。

プロテクター

サーキットの装備いわゆるレーシング装備というのは決して公道で使えない装備ではありません。

プロテクターの入ったレザーのグローブやブーツそして胸部&脊椎パッドというのはツーリングなどでも推奨される非常に安全性が高い装備です。

ズサーと滑った時にレザーではなくナイロン等だと簡単に擦り切れます。

だから流石にツナギは抵抗があるにしても

「ツーリングにも使える安全装備」

と考えれば少し値は張りますがそれだけの価値は間違いなくあるのでこれを機に買ってしまうのをオススメします。

ボスコモト10万円セット

ちなみに安く手っ取り早く済ませたいならボスコモト(ベリック・アレンネス)の一式10万円セットがあり、ツナギだけならセールや年末年始の福袋などがあります。

一つだけ注意点として個々で購入する場合はブーツインとブーツアウトには気をつけましょう。

ブーツインとブーツアウト

ツナギもブーツも基本的にはブーツイン設計なんですが、中には脛ガード付きのブーツアウト設計(主にダイネーゼなど)もあるので

「せっかく買ったのに入らない」

とならない様に注意。

ここまでくればもうサーキットは目と鼻の先ですが・・・最後のハードル。

ハードルその3
「転倒しそう、危なそう」

転倒

サーキット走行はスピードレンジが公道と違う上に、転倒動画なども出回っているので危険だと思ってる人も多いかと思います。

嘘は言いたくないので正直に言いますが、実際のところ走行会で転倒が起こるのは珍しくありません。

ただし走行会まして初心者レベルでの転倒はスリップダウンか曲がれずグラベルに突っ込む場合がほとんどで、投げ出されるハイサイドや回転しながら飛んでいって大破などレースで見る様な事故は早々起こりません・・・というか初心者レベルの走行ではまず起こせません。

ただおそらく一番怖いのはそこではなく

帰れない

「転倒して帰れなくなったらどうしよう」

という事だと思います。

ただしここでも走行会やスクールというのが助けになります。

走行会やスクールというのはそういったトラブルに何度も直面してきた主催者やベテランの人達が居るので助けを求めましょう。というか間違いなく助けてくれると思います。

最後に・・・

「何故サーキットを走った方が良いのか」

サーキットのコーナー

そもそも何故そんなにサーキット走行を勧めるのかという話ですが、サーキットを楽しむと

「公道で無理をしなくなるから」

です。

というのもサーキットでのスポーツ走行は上手い下手関係なく公道の比ではないエキサイトメントがあります。

一度それを体感するとあれほど目を三角にして走り回った峠道をどれだけ攻めてもサーキットのエキサイトメントには遠く及ばない事を痛感する。

そうするとそんな小さなリターンに対するリスクの大きさに気づいて公道で無理をしなくなるんです。

サーキット沼

サーキットでのスポーツ走行は確かに準備費用や参加費用が高いし転倒する危険性もあります。

でもサーキットなら転倒してもほとんどがグラベル(エスケープゾーン)に突っ込んで傷だらけになるだけで済む。

しかしこれが公道になるとエスケープゾーンなんて存在しないからサーキットの半分のスピードと半分以下のエキサイトメントでもバイクや命を失う可能性がある。

グラベル

「本当に高く付くのは公道なのかサーキットなのか」

そのリスクとリターンを身を持って気付けるから一度は

『最高のエキサイトメントを味わえるサーキット走行』

をした方が良いよという話。

最後に何度目か分かりませんが・・・みんなでサーキットを楽しむのが走行会、そしてみんなで学ぶのがスクールなので難しく考える必要も身構える必要も無いですよ。

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ディスクブレーキの仕組み

第九回目は誰もが知っているつもりになっているディスクブレーキについて。

当たり前のように使っていますが、実はとってもよく考えられたブレーキシステムなんですよ。

まず最初にディスクブレーキの流れを簡単に説明すると

ブレーキを握る事でマスターシリンダーがフルード液を押す

ホースを伝ってキャリパー内のピストンを油圧で押し出す

ピストンがブレーキパッドをローターに押し付ける

摩擦によりブレーキが掛かる

ディスクブレーキの主要部品

ですね。

「それくらい知ってるよ」

って人が多いでしょうし、1ページでブレーキを全部書けというのも無理な話なので端折りつつ行きます。

まず最初はブレーキで一番初めに動作するマスターシリンダーから。

マスターシリンダー

ブレーキレバーのそばに付いている細長い筒みたいなものがマスターシリンダー。

仕組みを簡単に表すとこんな感じです。

マスターシリンダーの仕組み

本当はもっと複雑な経路があるんですが、要するにレバーを引くとマスターシリンダー内のピストンが押されフルード液に圧を掛ける・・・わけですが

ブレーキの流れ

「どうしてこんな小さな物と力であんなに重いバイクを止められるのか」

って不思議に思いませんか。

実はこれには皆さんよくご存知な

「テコの原理」

が使われています。

テコの原理

回転するボルト部を支点に、レバーを握ることで力点となり、作用点がマスターシリンダーを押す。

つまりギュッと握っている力がそのままマスターシリンダーを押しているわけではなく、テコの原理によって増幅された力がマスターシリンダーを押しているわけです。

ところで

“ラジアルマスターシリンダー”

というのを聞いたことがある人が多いかと思います。

ラジアルマスターシリンダーの仕組み

これは文字通りマスターシリンダーが従来のように水平ではなくレバーと同じ垂直方向に動く様になっている物の事。

スーパースポーツなどお高いバイクでは当たり前な装備となっています。

従来型とラジアルマスターの違い

「ラジアルだと何が良いのか」

って話ですが、レバーを握ってもらえば分かる通りテコの原理を使っている以上、マスターシリンダーを常に真っ直ぐ押すことは出来ない。

従来型のブレーキレバーの動き

どうしても軽くカーブを描いてしまう。

するとライダーの入力(力)に対し、レバーの角度によって伝わる力が一定でないからタッチの感覚差が大きくなってしまう。

これを何とかしようとして編み出されたのがラジアルマスターシリンダー。

ラジアルブレーキレバーの動き

テコの原理の支点と作用点を近づける事でレバー比を大きくし、レバーの振れ幅を小さくしている。

その代わりストローク量も減るので、ラジアルマスターシリンダーは従来型よりも大径のマスターシリンダーピストンなのが一般的。

マスターシリンダーのストローク量

従来型が深さで圧を稼ぐロングストロークなのに対し、ラジアル型は径の大きさで圧を稼ぐショートストロークというわけ。

つまりラジアルマスターシリンダーというのは、ブレーキの性能を上げる為というよりも精度を増すための構造。

ブレーキ周りで一番影響力がある部分はパッドでもキャリパーでもなくこのマスターシリンダーです。誰が握っても分かるほど通常とラジアルではタッチが全く違います。

NISSINのラジアルマスター

「よし俺もラジアルマスターシリンダーにしよう」

と思われた方が居るかもしれませんが、ちょっと待ちましょう。

ディスクブレーキにはテコの原理だけでなくマスターシリンダー径(圧)が大きく関係している原理がもう一つあります。

密閉された流体の一点に力を加えると同じ強さの力が全ての部分に伝わる。

パスカルの原理

「パスカルの原理」

です・・・ザックリな絵ですが。

テコの原理ほどではないですが、中学か高校物理で習ったはずなので何となく覚えている人が多いかと思います。風船が綺麗に膨らむウンタラカンタラですね。

つまりキャリパーピストンとマスターシリンダーの径(圧)というのはブレーキ性能に直結しているわけです。

キャリパーポット数

パスカルの原理なのでポット数が増えれば増えるほど力はそのまま倍々で増していきます。ちなみに対向では倍になりませんが、Wディスクでは倍になります。

ただし基本的にポット数を増やす場合はキャリパーピストンの径を小さくするのが一般的なので、ポット数だけで単純に強さが決まるわけではありません。

ブレンボのラジアルマスター

話をマスターシリンダーに戻すと、他車種の流用にしろサードパーティ製にしろマスターシリンダーを変更する時は(単純に同一直径で選ぶのでなく)車種にあった物にしましょう。

まあ一番気をつけなくてはいけないのは干渉かと思いますが。横につける事が前提だったハンドルに縦の物を付けるわけですから。

残念ながらまだ話は続きます。

マスターシリンダーによって押されたブレーキフルードがホースを伝ってキャリパーピストンを押す事でブレーキが掛かる。

ブレーキキャリパー

じゃあブレーキを離したら・・・圧が無くなるのでブレーキが解除されますよね。

この時、押し出されたピストンがどうなるかというと、出たままではなく引っ込みます。

ピストンリリース

誤解している人が多いですが、決して出っぱなしではありません。

この役割を担っているのがゴミが入らないようキャリパーに掘られた溝に嵌めてあるダストシールの更に内側にあるピストンシール。

キャリパーシール

ピストンシールは

「ピストンとキャリパーの隙間を密閉しフルードを漏らさない為の栓」

と一般的に言われていますが、役割はそれだけじゃないんです。

ピストンシールはピストンが押し出されると一緒に前に出ます。しかしピストンシールの根元は動かないキャリパー側に固定されているので撓るようにピストンに付いていく。

ピストンシール

そう、つまりこの撓ったピストンシールが戻ろうとする力によってピストンが戻るんです。

ピストンに付着したダストを洗い落とす”ブレーキの揉み出し”が大事と言われる理由や

「絶対にシールの溝にキズを付けるな」

と言われている理由はここにあります。

ただの太い輪ゴムに見えますが実はとっても重要な部品で、溝やシールの形状はメーカーによって何種類もあり車種によって使い分けられています。

ラジアルマウントキャリパー

ちなみにマスターシリンダーと同じようにキャリパーでも”ラジアルマウントキャリパー”というのがありますね。

これはまあ見て分かる通りキャリパーを横から固定するのではなく、縦で固定するタイプのキャリパーの事。

ラジアルマウントボルト

普通は縦ではなく横ですよね。

キャリパーマウント

「こうすると何が良いのか」

っていうと、ブレーキキャリパーというのは動いているホイールを受け止めようとするので強い力が掛かる。だから意外とガタガタ動く。

そこでキャリパーを固定するボルトを放射状に付ける事で、そのガタガタを抑えるという話。

ガタガタ動く範囲が通常とラジアルでは10倍以上違うと言われてます・・・が、ラジアルマスターシリンダーとは対照的に分かる程の効果があるかというと。。。

あともう一つ説明しておきたいのがモノブロックキャリパーというやつ。

2ピースとモノブロック

普通はモナカの様な2ピースなんだけど、そうではなく1枚ものというか1ブロックになってるキャリパーがモノブロックキャリパー。

これは単純に軽くする事が狙い。

モノブロックのメリット

モノブロックにすることで頑丈なボルトも、ボルトを差すスペースも要らなくなる・・・モノブロックのアングルが若干間違えていますね。

※追伸

一体成型による剛性確保を書いていないというご指摘を受けましたスイマセン。

ブレーキを掛かるとパッドを押す凄い力が掛かるので、同時にキャリパーを開こう(曲げよう)とする力が掛かる。

そうした時に一体型のモノブロックだと見て分かる通り剛性が高いから簡単には変形せず安定した制動力を掛けられるという話。

【最後に一番大事なこと】

こうやって散々偉そうに端折りながら説明してきたディスクブレーキシステムですが、大前提として正常なブレーキフルードが入っていないと動作しません。

そしてブレーキフルードというのは最低でも2年毎に交換することが推奨されています。

ブレーキフルードの交換目安

これはヤマハのオーナーズマニュアルからですが、他のメーカーも同じ。

ブレーキフルードを交換しないといけない理由は

「劣化してブレーキが効かなくなるから」

と言われています。

ブレーキフルードは劣化し黒くなってくると沸点が下がりベーパーロック(フルードの沸騰)を起こしやすくなるから。

要するに効かなくなるわけで、マニュアルにも酷使する下り坂ではエンブレ使えと書いてありますね。

ベーパーロックの注意文

ただ今どきのフルードは性能が良い上にバイクはブレーキが剥き出しなのでベーパーロックなんて簡単には起こしません。

じゃあ変えなくていいのかというと断じて違います。

「絶対に最低でも二年毎に変える事」

これはベーパーロックよりも厄介な問題を招くからです。

フルードはグリコールという成分で出来ており、ブレーキホースから(拡散浸透する)水分を、隙間からダストを吸います。

そして交換せずにいると結晶化といってカチカチな粒のような個体が出来たり、ドロドロデロデロな沈殿物が出来てしまう。

問題はそれが”出来る事”ではなく”出来る場所”です。

この結晶やヘドロが何処に付くのかというと、フルードラインの一番下にある大事なピストンシールに付くんです。

ピストンシールの結晶化

戻る力というのはシールの撓りだけなのでとっても弱い。だから些細な詰まりや抵抗が起こるだけでピストンが戻れなくなる。

そしてこれの何が厄介かというと

「なかなか気付くことが出来ない」

という事です。

どうして気付けないのか・・・それは

「テコの原理とパスカルの原理でブレーキは効くから」

ブレーキの流れ

多少詰まったり固まったりして流れや動きが悪くなっても、フルードが少しでも通り、押すことが出来ればブレーキは効くんです。

ただしこれは押すときだけの話で戻りは悪いまま。

新旧ピストンシール

無視できない程の引き摺りを起こすようになってようやく異常に気付く。

しかしもうそこまで行くとキャリパーシールもマスターシリンダーもそれら不純物で駄目になっているのでオーバーホールするしかなくなる。

ずっとブレーキを掛けた状態で走行していたワケなので、お高いディスクローターも熱で曲がり駄目になっている場合もあります。ABS付きの場合ABSユニットまでダメになってしまう可能性もある。

ディスクローターの焼け

ディスクローターがこんな風に茶色く焼けてませんか。それ引き摺ってる可能性高いですよ。

こうならない為にも、後で泣かない為にもブレーキフルードは最低でも2年毎にちゃんと交換するようにしましょう。

純正ブレーキフルード

自分で交換する際は塗装を痛めるので他の部分につかないようにする事と、間違ってもグリコール系(一般的なバイクはコッチ)とシリコン・鉱物系(ハーレーや一部の旧車)を混ぜないこと。入れた瞬間に結晶化してオーバーホールするハメになります。

【まとめ】

ブレーキというとビギナーもベテランもついつい

「効くか、効かないか」

に意識を持っていきがちだけど

ディスクブレーキシステム

「戻るか、戻らないか」

も同じくらい意識を持って見てあげないといけないという事です。

はてな一覧
フレームQandA第一回
フレームの種類と見分け方

馬力とトルク第二回
ジャングルジムで学ぶ馬力とトルク

サスペンションセッティング

第三回
難しくないセッティングプリロード調節

簡単だから要注意なメンテナンス

第四回
簡単だからこそ要注意日常メンテナンス

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第五回
車名に続く記号について
~認定型式と通称型式~

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エンジンブレーキの仕組みとデメリット

エンジンブレーキ

「エンジンブレーキって何処に付いてるんですか」

と聞かれた時に答えられない人、また

「エンジンブレーキよく使っている」

という人に向けたページです。少し長いですけどお付き合いを。

最初にエンジンブレーキの仕組みについてなるべく簡単に説明します。※一般的なMTバイク前提

主要三軸イラスト

エンジンブレーキに関与している部分は当たり前ですがエンジンです・・・って、これじゃ分かりにくいので簡易イラストを作りました。

主要三軸イラスト

クランクはピストンの下に付いてるもの、インプットシャフトとアウトプットシャフトというのは一般的にミッションと呼ばれている部分。

インプットをメイン、アウトプットをカウンターと言う場合も・・・というかそう言う場合が多く、走行する上で絶対に欠かす事が出来ない三本柱で、主要三軸とも言われています。

色分け

普通はピストンの上下運動をクランク(赤)が回転運動へ変換し、端に付いているプライマリーギアやチェーンでインプット(青)を回し、更にアウトプット(緑)とのギア比で変速を完了させてチェーンやシャフトドライブを介してタイヤを回す。

動力のフロー

エンジンブレーキが掛かる時はこの力関係が逆転した時。

簡単に言うとクランク(赤)の回る力より、駆動しているアウトプット(緑)の回る力が上回った場合です。

チェーンやドライブシャフトを介してアウトプット(緑)を回し、インプット(青)で変速され、クランク(赤)を無理やり回す。

動力のフロー2

押し掛けもこれ。要するにエンジン回して駆動するのではなく、駆動でエンジンを回しているということです。

ではどうして減速するのかというとエンジンを回すのが大変だから。

皆が捻るアクセルの開度というのはエンジンの口にあたるスロットルバルブの開度と直結しています。

色分け

アクセルを開ければ開けただけ上の写真のようにガバッと開くし、アクセルを戻せば閉じる。

つまりアクセルを戻すと失速してしまうのは、このスロットルバルブが閉じてしまうから。よく注射器で表されています。

スロットルバルブの役目

ピストンが空気を吸えないからシリンダー内が負圧になり、下がる事に大きな力が必要となる。

この抵抗がエンジンブレーキの代表的な原因の一つ。厳密に言うとピストン運動に至るまでの機械損失も大きい。

失速する理由はこれ・・・ですが、これだけだと説明不足ですよね。

一般的に言われるエンジンブレーキというのはアクセルオフにした時の減速ではなくシフトダウンした時にくるあの

『ギュイン』

でしょう。

これを説明するにはギア比というものも見なくてはいけません。

動力のフロー2

例えばこのバイクは三速6000回転では60km/h出る。

じゃあここから二速に落としたら・・・ギュインとエンブレが掛かって失速しますよね。

これが何故かと言うと

「エンジンと速度が合っていないから」

スロットルバルブの役目

60km/h走行をする場合、三速では6000rpmでよかったけど二速では8000rpmまで回る必要がある。

つまりシフトダウンするとエンジンの回転数が速度に対して足りていない状況になるわけです。

だから

「エンジンさん遅いよ8000rpmだよ」

と駆動が遅いエンジンを無理やり8000rpmまで吊り上げようとする。そのために力が使われるから回転数が上がりつつも、ギュインと両方回転数の良い落とし所まで失速するわけです。

エンブレ

これがシフトダウン時の強烈なエンジンブレーキの正体。

そしてもう一つエンジンブレーキに関して言われるのが

「エンブレは使うべきか使わざるべきか」

という話。

これはバイクに限って言うと

「率先して使うものではない」

と言えます。

何故かと言うとデメリットが結構大きいから。

油冷エンジン

一つは最初に話したエンジンが負圧になる事が関係しています。

負圧になると圧が高い所から吸おうとしますよね。でもさっき言ったスロットルバルブなどは閉まってるから全然吸えない。

しかしまだ吸える所があるんです。それはピストンの下、クランク室です。

スロットルバルブの役目

シリンダーというのはもともとオイルの膜を張る程度のクリアランスが設けられているのでそこを伝ってオイルやブローバイガスが吸い上げられるように燃焼室に入ってきてしまうんですね。

俗にいう

『オイル上がり』

と言うやつです。あまり神経質になる必要はありませんが、エンブレを使うほど消費するオイル量が増えるのは事実です。

それより問題なのはクラッチ。

クラッチ

クラッチというのは最初に紹介した三軸のインプットに付いており、クランクとインプットの橋渡しが役割。

もう少し拡大して詳しく表すとこうです。

クラッチの仕組み

ちなみに上の図はクラッチが繋がっている状態。バネの力で抑えられています。

クラッチの仕組み

これが離れている(クラッチを切っている)状態・・・若干飛び出しちゃってますが。

そして走行中にクラッチを切ったらどうなるかというと、こうなる。

走行中にクラッチを切った場合

橙と青でそれまで一つだった回転が二つに分けられる。反対に言うと二つの回転を一つにも出来る。

つまりギア比で言った通り、両者の速度差を受け止めるのもクラッチの仕事。

クラッチ板

だからシフトダウン時のギュインとなる速度差による減速はクラッチにとっては本当に酷な事なんです。文字通り身を粉にして両者の間中を合わせないといけない。

エンジンブレーキを多用するとクラッチ板(の摩擦材)がどんどん減ります。半クラッチ操作でエンブレの強さを制御する行為も同様です。

クラッチ板

ブレーキパッドの節約とエンブレを多用していたらクラッチ板のほうが摩耗して高く付きますよ。

少し話が反れますが

「シフトチェンジは素早く、クラッチは少し切るだけでいい」

と言われるのは、この青と橙の速度差を可能な限り小さくするため。

変速ショック

アクセルを戻してクラッチを切ると分かりますが、エンジンの回転数が落ちますよね。そうなると駆動で回っているインプットシャフト(青)との速度差が大きくなり、繋いだ時の負荷が大きくなる。

シフトチェンジでショックが大きくギクシャクしてしまう人の大半はこのクラッチの切り過ぎが原因。走行中のシフトチェンジ時のクラッチは本当に少し切るだけでいいという事です。

話を戻すとエンブレを多用すると負担が増す部分はもう一つあります・・・それはチェーンです。

エンブレ使うとチェーンが伸びるのが早くなります。これはエンジンブレーキによってアウトプット(エンジンの回転)とタイヤで速度差が出るから。

チェーンが伸びる

実際に後輪を減速させる部分はここ。

どうしてエンブレを強く掛けすぎるとリアがロックしてしまうのかも分かるかと思います。

タイヤが回るまいとする抵抗するエンジンに負けてチェーンを引っ張れなくなるからロックしてしまうんですね。

チェーンはもちろんスプロケにも非常に悪いです。クラッチなんかより高く付きます。

ボディ

神経質になるほどではないにしろエンジンブレーキは車体のアチコチに負荷を掛けます。

タンデム時や低速・停車時などでは使えるので絶対に使ってはいけないとは言いませんが、シフトダウンして”ギュイン”と唸らせるほど強く掛けるのはバイクに優しくないのであまりしないようにしましょう。

フロントブレーキ

ブレーキの主役はフロントブレーキです。エンブレではなくフロントブレーキを酷使する事。

最後に少し説教臭い事を言わせてもらうと

「初心者ほどエンブレに頼ってしまう」

というのが定説です。

これはいま説明してきたようにエンブレというのは挙動がリアブレーキと一緒だから。ノーズダイブ(前のめり)しない安心感があるから強力なリアブレーキとして重宝してしまいがちになる。

一次旋回と二次旋回

しかし少なくともオンロードスポーツ系のバイクでそんな乗り方をしていては綺麗にも気持ちよく曲がる事も出来ません。

何故なら曲がる時はフロントブレーキで荷重を前にやりフロントフォークを沈めて曲がり始めるが基本です。だから上手い人はエンブレをメインブレーキに使ったりしません。

CB1100

もしもエンジンブレーキによる減速をメインに使っているなら

「エンブレに頼った減速をやめる事」

これはバイクだけでなく自分が気持ちよく曲がる為の第一歩でもあります。

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エンジンオイル

第十一回目はエンジンオイルについて。

エンジンオイルというのは

『潤滑・清浄・密封・冷却』

早い話がエンジンという精密機器を保護する人間でいう血液みたいな役割。

オイルは血液

というのは今さら説明する必要はないかと思いますが、おさらいも兼ねて規格から説明していきます。

オイル缶には大体この四つが記載されています。

オイル規格

長くなる癖があるので、ものすごく噛み砕きつつサクサク説明していきます。

『SAE規格(Society of Automotive Engineers)』

SAE規格

アメリカ自動車技術者協会が定めた規格。

これは

『冷えるほどドロドロで、熱くなるほどサラサラになる性質があるオイル』

においての寒暖差による粘度変化を表しているもの。

例えば10w-40の場合

10w=マイナス25℃でも凍らずに(凝固せずに)始動可能な粘度を保つ

40=オイルが100℃の時に40番程度の粘度を保つ

という意味で合わせて【”10w”-“40″】という事。

決して二つの粘度のオイルを混ぜているわけではありません。

トヨタキャッスルオイル

これが例えばクルマで主流な0w-20だったらマイナス35℃でも始動可能な粘度を保ち、100℃になった時は20番程度の粘度ですよという表記・・・って最近は16まで下がってるんですね。

粘度を下げてフリクションを減らすためなんでしょうが、燃費競争恐るべし。

昔は「SAE 40」や「SAE 30」といった単一粘度しか書かれていないシングルグレードがメジャーでした。

これは粘度調整技術がまだ発達していなかった時代に生まれたもので、粘度(温度)の許容範囲は当然10w-40などのマルチグレードより狭いです。

シングルグレードとマルチグレード

今どきのマルチグレード車なら真冬の宗谷岬に行くとかでない限り、基本的に上の粘度だけ合わせておけば大丈夫です。

ちなみに掛け離れた粘度の物を入れるとオイルポンプを壊したり、詰まったり油膜切れ起こしたりして壊れる恐れがあるのでご注意を。

特に指定より柔らかい(番手が低い)オイルを入れるのはオススメしません。

『API規格(American Petrileum Institute)』

API規格

これはアメリカの石油協会が定めた規格。

SAEが粘度を示す規格だったのに対し、このAPIはオイルの性能を示す格付けの様な規格。

SA(Sはガソリン車の意味)から始まりSB、SCと来て今ではSNまであります・・・が、今どきはほぼSL~SNな上にバイクの場合はあまり参考にならないので気にしないで大丈夫です。

『JASO規格(Japanese Automobile Standards Organization)』

JASO規格

バイクで一番見ないといけないのはこれ。

日本自動車規技術会が定めた二輪専用規格。つまりバイク用オイルにしか記載されていません。

この規格が生まれたのは先に紹介したAPI規格においてエコの観点から『耐摩擦』が重要視されるようになったから。

そのためオイルに『摩擦低減剤』という添加剤を入れる様になったわけですが、ミッションやクラッチが一体(同じオイルを使う)バイクにこの摩擦低減剤の入ったオイルを入れると滑ってしまう。

JASO規格

そこで用意されたのがこのAPI規格と二輪特性を掛け合わせたJASO規格で、これには四種類あります。

JASOグレード

MA:摩擦係数の高いグレードでMT車の大半はこっち

MB:摩擦係数が低いグレードでベルト駆動のスクーターなどに多い

MA1:MAを低粘度にすることでフリクションを軽減した小排気量向け

MA2:MAを高粘度にして過酷な環境での油膜切れを防ぐ大排気量向け

MA1/MA2は2006年からですが、MA1と指定されているバイクはMA1を、MA2と指定されているバイクはMA2を入れなくてはいけません。

【ここで注意点】

自分のバイクは

「MTバイクだからMAだろう」

とか

「スクーターだからMBだろう」

と勝手に思い込まないように。

ヤマハだけみてもXJR400やFZRシリーズはMB指定、スクーターのTMAXはMA指定だったりと例外は結構あります。

オーナーズマニュアルで一度は確認しておきましょう。

次が最後で本題で長い話。

『基油分類』

オイルのグレード

これはいわゆるエンジンオイルのベースのグループを表す言葉でAPIが定めた分類。

鉱物油とか全合成とか聞いたことがあると思います。そしておそらく多くの人が一番気にする項目かと。

『グループI(ミネラル系)』

重質油を溶剤精製した鉱物油がベース。

『グループII(HIVI系)』

重質油を水素化処理した精製鉱油がベース。

※HIVI=HIgh Viscosity Index

『グループIII(VHVIもしくはXHVI系)』

グループIIを高度水素化分解した超高度水素化精製油または天然ガス(XHVI※シェルのみ)がベース。

※VHVI=Very High Viscosity Index

※XHVI=eXtremely High Viscosity Index

~ここまでが鉱油~

『グループIV(PAO系)』

軽質油のエチレンガスから重合して作られる合成系炭化水素がベース。

※PAO=Poly α Olefin

『グループV(エステル系)』

アルコールと脂肪酸によるエステル系など上記に属さない基油がベースのもの。

最近では大豆ベースのオイルが注目されているそう。

で、実際これがどう表記されて売っているのかというと

グループI:鉱物油

グループII:鉱物油または部分合成油

グループIII:全合成またはシンセティック

グループIV:化学合成油

グループV:化学合成油

と非常にわかりにくい。

特にややこしいのがグループ3の合成油(シンセティック)です。

これはカストロールとモービルが起こしたVHVI係争が起因。

カストロール

90年代にカストロールがVHVI(グループ3)ベースのマグナテックというオイルを

「合成油」

として売り出しました。

それを見たもう一つの有名なオイルメーカーであるモービルが

モービル

「グループ3(鉱油)なのに合成油とは何事か」

とNAD(アメリカの広告審議会)に意義を申し立てたんです。

結果は・・・セーフ。

この一件でそれまで部分合成油として売っていたオイルが全合成油になったり、化学合成油が100%とか言われ始めたりしました。

表記義務がないので場合によってはグループ3なのにフルシンセティックとか化学合成油とか言われていたりします。

この事からオイルにうるさい人の中には

「VHVI(グループ3)の化学合成油は偽物だ」

とか

「PAO(グループ4)やエステル(グループ5)こそ真の化学合成油だ」

とか言う人も居ます・・・。

が、必ずしもそうじゃないんですよ。

大きな石油メーカーやオイルメーカーがグループ3の全合成を高性能オイルだとして売っているのはセールスのためだけではなくちゃんと根拠があります。

オイルパーツ

そもそもオイルにおいて大事なのはベースの種類でなく性能。

その中でも非常に重要視されているのが

『粘度指数』

という数値です。

粘度指数というのは

「温度による粘度変化の強さ」

を表す数値。

もっと簡単に言うと

「冷たいとドロドロで、熱いとサラサラな性質を何処まで克服出来ているか」

という事。

粘度指数

良いオイルは粘度指数が高く粘度変化が緩やかで熱くなっても粘度があまり変わらない。

反対に悪いオイルというのは粘度指数が低く温度で粘度が急激に大きく変わる。

科学合成油の強みは油から使える分子を抽出(精製)して作る鉱物油に対し、化学合成油は使える分子を組み立てる(重合する)形で大きさを統一することが出来る事。

鉱物油と合成油

だから粘度指数を始めエンジンオイルとして狙った基本スペックを高める事が出来る。

「化学合成油は高性能」

と言われるのはこれが大きな要因。

そして高性能なエンジンが化学合成油前提だったりするのは高温時も粘度をしっかり保つ事を前提に作ってるから。

我々からすると寿命や清浄性が高い事が良いエンジンオイルですが、エンジニアの人たちにとっては

『どんな状況でも粘度が変わず安定している』

というのが良いエンジンオイルなんです。

じゃあ大手が高性能オイルとして売っているグループ3はどうかというと、実はグループ4や5となんら遜色ない粘度指数を持っています。

つまり

「グループ3だから4や5より低性能なオイル」

とグループ(基油)だけで判断するのは違うという事。

それにグループ4や5が完全な上位互換というわけでもないんですよ。

PAO系(グループ4)はシールを縮小させたり耐摩擦性が高すぎるデメリットがある。

エステル系(グループ5)はシールを膨張させたり水を吸って粘度低下を招きやすいデメリットがある。

特に注意してほしいのが高性能オイルの代名詞として崇められているエステル系。

エステル系は確かに冷却や潤滑など基本性能が飛び抜けているんですが、脱水して作られる化合物であることから水分を非常に吸いやすいデリケートな性質を持っています。

エステルは基本的にレースなど『ここ一番』というときに使う短期決戦オイルと思ってください。

添加剤の調合

その点VHVI系(グループ3)はそれらと遜色ない性能を持ちつつもシールへの攻撃性がなく何より鉱油ベースなのでローコスト。

VHVIにPAOやエステルをブレンドした合成油が主力となっているのはこれが理由。

以上が規格の話・・・ですが、エンジンオイルというのは基油だけでなく添加剤を加えて初めて完成するもの。

バイク用オイルの添加剤

だいたい基油8に対して添加剤2と言われています。

ザックリ分けて説明すると

『清浄・分散剤』

燃焼によって発生するカーボンなどの汚れをエンジンに付着させず吸収し保持するための添加剤。

エンジンオイルが黒くなるのはこれが吸収して留めているから。

つまり黒くなっているのはこの添加剤がちゃんと働いている証拠。

「色で交換時期は分からない」

というのはこれが理由。

いつまでも綺麗なままの方が逆に危ないです。ただし白くなったり濁ったりしていた場合、それは冷却水やガソリンなど異物が混じった可能性が高いので要交換です。

『酸化・錆防止剤』

オイルの酸化やエンジンの錆を抑制する添加剤。

『耐荷重添加剤』

摩耗や焼付きを防ぐための添加剤。

紛らわしいのですがクラッチを滑らせる摩擦低減剤とは違い、鉄のコーティング剤の様なもの。

クランクメタルオイル

始動直後にエンジンを全開にしたりするとクランク(メタル)が壊れたりするのは、この添加剤が低温では働かないから。

ちなみにオイルのベストな温度は100℃前後と言われています。

『消泡剤』

添加剤を入れると泡立ちがしやすくなり、結果としてエアを噛んで油圧が下がってしまう。

それを防止するため、添加剤のデメリットを消すための添加剤。

これ以外にも添加剤のせいで汚れやすくなるならカルシウム入れたり・・・とエンジンオイルというのはまさに薬漬け。

『粘度指数向上剤』

オイルが熱せられても粘度を保ち、油膜切れを起こさない様にするための添加剤。

ポリマー

子供の落書きかと言われそうですが、本当にこんな鎖状の形。

熱せられると大きく広がって粘度を増加させる働きがある。

つまり名前の通り粘度指数向上剤を入れると粘度指数が上がります。

ポリマーの有無

「じゃあこれ入れれば全部高性能オイルじゃん」

と思いますよね。

しかしこの粘度指数向上剤には大きな弱点があるんです。

それは

『熱やグリグリと潰される事』

がとっても苦手という事。

オイルフロー

つまりミッションやクラッチでオイルをグリグリと潰すバイクとは特に相性が悪い。

粘度指数向上剤で底上げすればするほど劣化による粘度低下の幅も大きく、急激な劣化を招いてしまう。

ワイドレンジでロングライフなオイルが(元の粘度指数が高い)合成油のみで鉱物油に無いのはこれが理由。

高いせん断性

同時にバイクメーカーが自社ブランドのバイク専用オイルで”せん断安定性の高さ”をアピールしているのは、この

「グリグリによる粘度低下に強いオイルですよ」

という事をアピールしているわけで、

『粘度で劣化は分からない』

というのもこれが理由。

粘度指数向上剤の効果が分かるのは100℃のとき。100℃のオイルを触ったら分かるかもしれませんが大やけどです。

オイルの劣化

粘度で判断してはいけない理由はもう一つあります。それは劣化が進むと粘度が上がるからです。

これは粘度指数向上剤が復活するわけではなく『酸化防止剤』が尽きてしまった事が原因。

オイルの劣化

酸化防止剤が尽きてしまったオイルは当然ながら酸化を防げなくなり、酸化物重合体(スラッジなど)の大量発生を許し粘度がどんどん上がっていく。

俗に言うワニス化というやつです。

「一度もオイル交換していないエンジンを開けたら中がドロドロだった」

といった類のモノを見たとこがある人も多いかと。

メーカー指定オイル交換時期

『5,000kmまたは1年で交換してください(※車種による)』

とメーカーが走行距離だけでなく期間で交換時期を定めているのは、この粘度低下と酸化の両方を考慮しているから。

それに加えて

「シビアコンディションの場合は早めに」

と言っているのはこれらが環境や使い方によって大きく変わるから。

特に大きなウェイトを占めているのが熱で、オイルの温度が上がるとそれだけ熱酸化が促進される。10℃上がると寿命が半減すると言われています。

結局の所エンジンオイルの交換時期というのは色や粘度で判断せず

「サービスマニュアル通りに交換しましょう」

という話。

長々と書いておいてそれかよと言われそうですが。

最後に小話・・・

オイル交換

「高いオイル(合成油)を長く使うか、安いオイル(鉱物油)を頻繁に変えるか」

といった議論というかポリシーを見たり聞いたりした事があると思います。

どちらも間違いではないと思うのですが、個人的には合成油を長く使うほうが良いかと思います。

というのも基油で話した鉱物油や合成油といったグループ分けには、粘度指数だけではなく『硫黄分』や『飽和分』というチェック項目があります。

APIグループ

これは要するに不純物の事。

そしてこの不純物というのはスラッジやデポジットの元なんです。

これは焼付きや摩耗を防ぐ耐荷重添加剤にも入っているのですが、同様にエンジンを汚す原因で最近では石油メーカーも硫黄分を含まない添加剤へシフトしています。

ZPテクノロジー

つまり安い鉱物油を頻繁に変えるというのはスラッジやデポジットの元をどんどん注いでいる・・・というのはちょっと大げさな言い方ですが、どっちか選べと言われたらしっかり脱硫してあり酸化や粘度低下に強い合成油や化学合成油を入れたほうが良いかと。

最後の最後に

「おすすめのオイルを教えてくれ」

と言われそうなので紹介します。

おすすめは・・・バイクメーカーの純正オイルです。鉱物油入れるなら絶対と言っていいくらい。

純正オイル

純正オイルは石油メーカーオイルに自社のラベルを貼ってるだけと思ってる人が多いですが違いますよ。

純正オイル

純正オイルというのはメーカーの科学部門エキスパートと大手石油メーカー(出光興産・昭和シェル・JXTGなど)がタッグを組み、お高い実験設備や実際に使われるエンジンを用い過酷な実験を繰り返した末に作られている高性能オイルです。

そして高性能オイルながら標準採用というスケールメリットによって、サードパーティ製には不可能なコストパフォーマンスの高さも持っています。

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フレームの種類と見分け方

フレームの種類

第一回目はフレームの種類について。

フレームというのは人間で言えば骨格のようなものでエンジンを始めとした主要部品を載せる土台であり、同時にエンジンからタイヤまで様々な部分から来る力を吸収する役目も持っています。

まあ今回はそんな小難しい話は置いといて

「フレームの形や名称が多すぎて分からない」

という事。確かにフレームは形はもちろん名称までメーカーによってバラバラだったりしますからね。これは「バイク豆知識:デルタボックスのデルタな部分」とちょっと内容が被ってしまうのですが、リクエストもあったのでもう一度分かりやすく書いていきます。

見分け方としてはザックリ言うとエンジンをどういう形で囲っているのかで見分ける事が出来ます。

シングルクレードルフレーム

シングルクレードルフレーム

文字通りシングル(一本)、でエンジンの周りのクルッと一本のフレームで囲っているシンプルイズベストなフレーム。

なんですがシングルクレードルフレームを採用しているバイクは剛性や強度の問題でほとんど無い。

※ここで補足

”剛性”って何となく聞いたことがあると思います。これは簡単に言うとフレームの変形しにくさ事。

ややこしいんですが”強度”とはまた別。強度というのは壊れにくさの事です。

フレームというのは曲がる際に適度に撓る必要があるのですが、剛性が低いとスピードを出した時(フレームに大きなストレスがかかった時)にいわゆる

『フレーム負け』

とよばれる問題が出てしまい、思ったように曲がれなかったり直線でまっすぐ走れなかったりしてしまう。人間でいうと腰砕け状態みたいな感じ。

極端ですが例えばママチャリで100km/h出したら曲ると間違いなく転けそうで怖いですよね。それはママチャリがそんな高負荷を想定したフレームではないからという部分が大きい。

じゃあ高ければ良いのかって言うとそうでもなく、最初に言ったようにフレームというのは曲がる際には適度に捩れる必要性がある。

再び極端な例えとして300km/h出る超高性能な大型スポーツバイクが、40km/hくらいのなんてこと無い速度で曲がろうとして”ステーン”と転んでしまう場面や動画を見たことあるかと思いますが、あれは剛性が高すぎてフレームが全く撓らないから。

“撓り”というのは”粘り”ともいえる要素で、ちゃんと走行に合った適度な剛性が必要というわけです。

話を戻します。

次に紹介するのはそんな剛性をもうちょっと上げたくて生まれたシングルクレードルフレームの進化系。

ダブルクレードルフレーム

ダブルクレードルフレーム

文字通りクレードルをダブルにしたフレーム。ヘッドパイプ(ハンドルを付ける部分)からグルッとパイプが左右それぞれエンジンの四隅を囲うように伸びているのが特徴的。

CBシリーズやXJRシリーズ、Bandit1250やDAEGなどいわゆるジャパニーズネイキッドスタイルのバイクに多く採用されています。赤フレームのCBが分かりやすいですね。

ダブルクレードルフレームCB400SF

グルッとエンジンを囲っているのがわかると思います。反対側も同じような形。

ちなみにこの形を更にギューっと下に押しやったのがスクーターによく使われるアンダーボーンフレーム。

アンダーボーンフレーム

これはスカイウェイブ400のフレームです。

ただしダブルクレードルフレームというのはシングルに比べてパイプが二本になるのでそれだけ重くなってしまうデメリットがある。

そこで次に紹介するのが

・軽いけど剛性が低いシングルクレードル

・剛性が高いけど重いダブルクレードル

この2つを掛け合わせたようなフレーム。

セミダブルクレードルフレーム

セミダブルクレードルフレーム

シングルクレードルフレームをベースにダウンチューブ(下側のフレーム)を途中から二本にしているフレームの事。

シングルの軽さや細さとダブルの高剛性その両メリットを取り入れた形のフレーム。

これを採用している車種は多いです。一般的なクラシック系はもちろん、オフロードバイクやハーレー等など、ハイスピード時の剛性よりも軽さの方が大事なバイクはだいたいこのフレーム。

セミダブルクレードルフレームWR250X

バイクではこのフレームが基本形といえるほど普及しているので、これをシングルクレードルフレームと言ってるところもあります。

ここでクレードルフレームのおさらいを兼ねて少し問題。上の写真はWR250Xでよく見てもらうと分かるのですがメインチューブ(上側のフレーム)も二本ありますよね。フレームだけで見るとこんな形。

セミダブル

これはYZ450Fのフレームなのですが形は上のWR250Xと近いです。

さて、これはダブルクレードルフレームでしょうか?

それともセミダブルクレードルフレームでしょうか?

正解は

『セミダブルクレードルフレーム』

です。

理由はダウンチューブ(下側のフレーム)が”途中で別れてるから”ですね。トップチューブ(上側のフレーム)は一本でも二本でも関係ありません。

少し意地悪な問題だったかもしれませんが、フレームというのは多種多様で

「限りなくダブルクレードルに近いセミダブルクレードル」

と結構曖昧な部分もあったりするわけです。

クレードル系のフレームはこれで全部になります。

クレードル系の特徴は

『ゆりかご(Cradle)』

という文字からも分かる通りエンジンを乗せる受け皿のような形になっているのが特徴で恐らくここまでは何となくわかってる人も多いかと。

分からなくなりがちなのはエンジンとの関係も大事ないわゆるダイヤモンド系でしょう。

ダイヤモンド/バックボーンフレーム

ダイヤモンドフレーム

アンダーチューブの無いダブルクレードルフレームみたいなカタチをしているのが特徴。上の写真はGPZ900Rのフレームです。

「剛性が全然足りずにヘロヘロになるんじゃないの」

と思いそうですが、GPZ900Rはこのフレームで世界最速を取りました。

それはフレームだけで剛性を何とかするのではなく、フレームに搭載されるエンジンも直付し纏めてフレームの一部にすることで剛性を稼ぎつつフレームの幅と重量を抑える事が出来たから。

バックボーンフレーム

昔はエンジンを積極的に剛性メンバーとして使うフレームをダイヤモンド、あまり使わない吊り下げるだけのフレームをバックボーンと言っていましたが、今では両者の厳密な区別方法は無く基本的に一緒でメーカー次第。ちなみに上の写真はホンダホーネット(MC31)の”バックボーンフレーム”です。

もっと分かりやすいのがスーパーカブを始めとしたホンダの横型エンジン搭載車。

バックボーンフレームDAX

これはDAXというバイクなのですが、もう何処からどう見てもエンジンを吊り下げてるだけのバックボーンフレームですね。

話を戻すとエンジンをフレームの一部として使うダイヤモンド/バックボーンフレームですがガッチガチの高剛性レイアウトかというとそうもでもない場合が多く、中排気量や人気の250ccクラスなどのスポーツバイクに多用されているカタチです。

CBR250RRフレーム

これは2017年から発売されたCBR250RR(MC51)のフレーム。アンダーチューブが無いのが一目瞭然ですね。

で、これまたちょっと注目してもらいたいのがメインチューブ(上のフレーム)の形。なんだかいっぱい棒が付いてるのが分かるかと思いますが、これは単純に補強です。

いくらエンジンをフレームの一部に使うとはいえ速度域(フレームへのストレス)が上がると耐えきれないのでこうやって補強をしているわけですが・・・この形どっかで見たことありませんか。それを次にご紹介。

トラス(トレリス)フレーム

トラスフレーム

トラスフレームまたはトレリスフレームと呼ばれるフレーム。

ドゥカティを始めとした海外メーカーが好んで使うフレーム形式ですね。上の写真はKTMのDUKEの物。

フレームで三角形(トラス)を作る事からトラスフレームと呼ばれていますが、簡単に言うと補強だけで構成されたダイヤモンドフレームみたいなもの。

ただフレームをよく見てもらうとわかるのですが、ただパイプを張り巡らせているだけでなく太さが箇所により太かったり細かったりします。

H2フレーム

無闇矢鱈に補強しているわけではなく、こうやって適材適所な補強をすることで剛性のバランスを取っているわけですね。

次に紹介するのはトラスフレームと同じくダイヤモンドフレームから派生したものの別の形となったフレーム。

ツインスパー/ツインチューブフレーム

ツインチューブフレーム

メインチューブ(上のフレーム)を太らせ、限りなく真っ直ぐな形でエンジンの横を通るように繋いでいる最も剛性を稼ぎ易い日本メーカーのハイパフォーマンス車に多いフレームレート。

ツインスパーもツインチューブも意味は同じです。

デルタボックスフレーム

エンジンを両脇から挟み込み積極的に剛性メンバーとして活用しているガッチガチフレーム。

ツインスパーについてはデルタボックスフレームで解説しているのでそちらをどうぞ。

お次は四輪車に広く採用されているタイプのもの。

モノコックフレーム

モノコックフレーム

このフレームもダイヤモンド系なのですが、これはフレームに部品(外装など)の役目も持たせようとして生まれたフレーム。

ZX-14Rやパニガーレなどに採用されていますがバイクではあまりメジャーなフレームではありません。理由はおそらく汎用性が乏しいから。

モノコックフレーム14R

ZX-14Rの場合フレームの中にバッテリーボックスやエアクリーナーボックスを兼ねたスペースを確保しています。

形としてはバックボーン&モノコックという感じですが一応カワサキとしてはモノコックフレームが公式見解。

こちらはちょっと分かりにくいパニガーレのフレーム。

モノコックフレームパニガーレ

こちらもエアクリーナーボックスを兼ねたフレームがチョコンと付いてるだけ。剛性メンバーとして活用するエンジン自体の剛性を上げることでフレームを減らし減量しているわけです。

最後は近未来感溢れるフレーム。

フレームレス

R1200GS

読んで字のごとくフレームが無いタイプ。フレームと呼べる部分は各部のパーツを繋ぎ止めているサブフレームのようなものしか無い。

BMWが積極的に取り入れている方法でエンジンとドライブトレイン(シャフトドライブ)がフレームの役割を担っています。

これもどちらかというと四輪の方に近いですね。

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点火プラグ

第十回目はこれがないと始まらない点火プラグについて。

なんだかメカニズムの話ばかりになっていってる気がしますが、構わずに進めます。

プラグについてはDENSO(https://www.denso.co.jp)NGK(https://www.denso.co.jp)でも詳しく説明されています。

NGK

ちなみにこれはNGKによる説明資料なんですが、仕組みを知っている人やこれを見て

「なるほどね」

と理解出来る人にはこれから先は特に何も書いていません。

反対に電気が苦手で

「線がいっぱいあるのは分かる」

という人は一緒に勉強がてらお付き合いを。

社内に大きなツーリングクラブを持っているデンソーの公式によると

「点火装置で作られた高電圧がプラグの中心電極と接地電極…(以下略」

と呪文のような話ばかりなので、参照にしつつ怒られそうなくらい簡略化して説明していきます。

NGKスパークプラグ

火花を散らす事で混合気を着火している点火装置なのがプラグというのは知っていると思いますが、その火花を散らすためには約30000Vの高電圧が必要。

電圧というのは文字通り電気を押し流す圧力のこと。よく水の高低差(水圧)で例えられていますね。

電圧

ここで疑問点。

「13V前後しかないバッテリーからどうやって30000Vもの高電圧を発生させているのか」

という事から。

13Vを30000Vまで跳ね上げる役目を担っているのはプラグコードの手前にある100ml缶くらいのイグニッションコイルと呼ばれる部分。

ダイレクトイグニッションコイル

ただ最近は上のようにプラグホールに直接差し込むプラグケーブル一体型のダイレクトイグニッションの方がメジャーですね。

基本的にはどちらも一緒で、中身は鉄の棒とグルグル巻きにされたコイルが入っています。

バッテリーとイグニッションコイル

これで30000Vになっている・・・わけはないですね。これじゃただ通っているだけ。

ただし電気を通しているので電磁石となり、グルグル回る磁束という渦の流れが発生します。

イグナイター

ここで出てくるのがイグナイターと呼ばれるもの。大層な名前ですが要するにON/OFFのスイッチ。

プラグ点火に必要な30000Vの電圧を発生させようとした時、まずECUがイグナイターを制御し遮断してしまいます。

イグナイター制御

すると当然ながら電気の流れが止まってしまうんですが、磁束は現在の状態を保とうとする性質があるので流れ維持しようとする。

その性質(起電力)を利用することで300Vもの高電圧が発生するというわけ・・・って、まだ30000Vには程遠いですね。

この300Vを更に100倍の30000Vにするのがイグニッションコイルに巻かれているもう一つコイルである二次コイル。

二次コイル

一次コイルが300Vの電圧を発生させると、繋がっている二次コイルもつられて(相互誘導作用で)昇圧するようになっています。

ここでミソとなるのが一次コイルよりも多くコイルが巻かれている事。この巻数が多ければ多いほど一次コイルの電圧が倍々で増える。

つまり一次コイルの100倍の電圧になるよう二次コイルを大量にコイルを巻いているから300Vを100倍の30000Vまで昇圧出来るというわけ。

NGKイグニッションコイル

そして出来上がった凄まじい電圧をプラグに掛けるとわけですが、何故30000Vもの高電圧が必要かというと、雷が落ちるのと一緒で電気を通さない大気の壁を打ち破って放電しないといけないから。

放電

雷が落ちるのと同じ仕組みで、この放電によって生まれた火花を火種として点火に結びつけている。

ちなみに受け取ったマイナス側はそのままエンジンヘッドと繋ぐ事でアースとしています。

ただし本来ならば電気を通さない大気を強い圧力(電圧)をかけて破り通すので、フラッシュオーバーといってターミナルナットからマイナスである六角部へショートカットするように逃げてしまう(放電してしまう)恐れがある。

フラッシュオーバー

当然これでは点火が出来ないので電気を通さないセラミックで上部を覆ってショートカット出来ないようにしている。

点火プラグの電気の流れ

しかしただ覆うだけではなく、一工夫されています。

セラミックの上部分が段付きになっているのは皆さんご存知と思いますが、何故こうなっているのかというと

コルゲーション

「プラグキャップを噛ませるため」

と思っている人が多いと思いますが違います。

このデコボコはコルゲーションといって、プラスであるターミナルナットとマイナスの六角部の絶縁距離を長くするため。

絶縁体の距離稼ぎ

電気を通さない大気という絶縁体を破るために高電圧が必要という話ですが、それは反対に言うと絶縁体の長さが長いほど必要な電圧が高くなるとも言えるわけなので、こうやって波を打たせる事で30000Vでは絶対に破れないような距離を稼いでいるというわけです。

ところでプラグにもノーマルプラグとイリジウムプラグというのがありますね。

中心の電極がイリジウム(イリジウム+ロジウム合金)で出来ているのがイリジウムプラグで、ニッケル合金で出来ているのがノーマルプラグ。

ノーマルプラグとイリジウムプラグ

知っていると思いますがイリジウムプラグの方が点火性能も寿命も優れる上位互換的な立ち位置で少しお高い。

その事から

「イリジウム=高性能」

という認識が広まっていますが、少し語弊があるかと思います。イリジウムプラグがノーマルプラグに比べ

”何が違って何が優れているのか”

というと見た目通り尖っている事にあります。

一つは尖っている事で放電しやすいこと。

放電のしやすさ

先端が尖っているほど一点集中となり多少電圧が低くても簡単に放電してくれる。落雷のブレも少なくなります。

もう一つは火種の成長の邪魔をしないこと。

小さな火種が広がっていく中で、構造上どうしてもプラグとぶつかってしまい熱を奪ってしまう。

火種の邪魔をしない

これがイリジウムの場合、芯が細くまた落雷のブレも少ないことから受け皿も小さく出来るのでプラグが火種の邪魔(冷却損失)をする範囲を小さく出来るというわけ。

これらが可能になったのはイリジウム合金がとっても頑丈で耐摩耗性が高く、融点もニッケル合金の1.7倍となる2466℃と優秀だから。

エンジンプラグ

プラグというのは燃焼の熱で900℃近くまで熱くなったと思ったら、今度は冷却水や混合気で500℃近くまで冷まされるという寒暖差が非常に大きい過酷な環境に晒されている。

ノーマルプラグは角が落ちるのを見てもらうと分かる通り、ニッケル合金を細くするとその過酷な環境に耐えられないというわけ。

つまりイリジウムプラグの恩恵が一番受けられる状況というのは、パワーバンド時などではなくアイドル~低回転時など不安定な燃焼をしている時。

だからイリジウムプラグというのはエンジンの性能を上げる高性能プラグというよりも、常にストライクゾーンを外さない高安定なプラグと言ったほうが正しいかと思います。

その為

「イリジウムに変えたら目に見えてパワーが上がった」

とかは無いです。

その代わり燃費や低域における粘りやトルクの向上は体感出来る・・・かもしれない。

中身

言い忘れていましたが点火プラグには

「熱価(ねっか)」

とよばれるものがあります。

熱価表

これは簡単に言うとプラグの冷却性と思ってください。デンソーもNGKも必ず品番に記載しています。

いま言ったようにプラグというのは常に燃焼の炎に晒されているので、エンジンの中でも最も局地的に熱くなる部分です。

一番熱くなる場所

もしもプラグ温度が950℃以上になった場合、プレイグニッション(略してプレイグ)といって火花を飛ばす前に自動着火装置となり混合気の燃焼を誘発してしまう。

酷い場合になるとプレイグによって更にプラグと燃焼室の温度が局地的に跳ね上がり、更なるプレイグを起こす暴走型プレイグを招きます。こうなるとピストンが溶解したり穴が空いたりする。

でもそれでは熱価の説明になっていませんよね。

それなら全部冷えるプラグにすればいいだけの話。でもそうじゃないからわざわざ熱価なんて項目がある。

プラグというのは熱すぎても駄目だけど、冷えすぎても駄目なんです。

プラグ温度領域

プラグの温度が950℃を超えるとプレイグを起こすわけですが、反対に約450℃を下回ると”かぶり”や”くすぶり”という症状が出ます。これは要するに火花をちゃんと飛ばせない状態のこと。

プラグは燃焼室に顔を出している事からカーボンを被ってしまうんですが、通常(450℃以上)なら焼き切ってしまう。

カーボン

しかし熱価が高すぎてプラグの温度が上がらないと焼ききれず覆われてしまい、正しい点火が出来なくなるんです。

悪化しても最悪エンジンストールなので限界突破するプレイグほど深刻なダメージを覆う事はありませんが、質の悪い燃焼によるトルク低下を招きます。

だいぶ長くなってしまったので最後に注意点だけ言うと・・・

メーカーが定めているプラグの品番(熱価)というのは、バイクメーカーとプラグメーカー双方が相談と計算の限りを尽くした上で選択されている

”いつ如何なる時でも最適な温度にあるよう絶妙な熱価の物”

が付いているんです。

最適な熱価

だから例えばプラグの焼け具合だけを見て、安易に違う熱価やタイプの物に変更するのは止めておきましょう。まあ居ないとは思いますが。

【最後の最後に余談】

プラグというとイリジウムやプラチナといったパッケージングや点火性能の進捗ばかりが話題になりますが、実はもっと目に見えるほど進捗している事があります。

それはプラグのネジ径です。

プラグサイズ

昔は点火プラグといえばM14(14mm)でした。それがM12になり、今ではM10が当たり前になった。

これが何故かと言うとプラグを小さくすればそれだけ吸排気バルブを大きく取れるし、ヘッド周りのウォータージャケット(冷却路)を広げられて冷却性能を向上できるから。

プラグスペース

要するにエンジンレイアウトの自由度が増すわけです。

デンソーの人いわくM10で一応は一段落らしいのですが、小さければ小さいほどエンジンは助かるので小型化は更に進むでしょう。

10mmが8mmになり、もしかしたら6mmまで細くなるかもしれない。

プラグサイズの変移

でも14mmから10mmまで4mmも細くなった事に誰も気付いていないのを見ると、たとえ更に4mm細くなって6mmになったとしても誰も気付かないかもね。

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第三回目はサスペンションのセッティングについて。

正解が分からないからノータッチにしている人は初心者ベテラン問わず多いのではないでしょうか。伸び側、圧側、プリロード調節・・・チンプンカンプンかと思いますが、取り敢えず言っておきたいのは

「プリロード調節だけでもしよう」

という事です。

まずザックリですが一般的なサスペンション(テレスコピック式)の仕組みについてご説明。

テレスコピック正立フロントフォーク

凄く凄くザックリしてますがこうなってます。バネが伸び縮みすることで衝撃を吸収しているわけですね。

そしてプリロード調節が何の役割を担っているのかというと、中に入っているバネの初期荷重つまりどの程度縮めておくかを決める役割を担っているわけです。

サスペンションセッティング

Pre(事前)LOAD(負担)だからプリロード。

で、本題の何故プリロードを調整したほうが良いのかという話ですが、これは乗る人によって体重が千差万別な事からメーカーは”平均的なセッティング”でしか出荷していないからです。

一般的に言われているのはメーカーは体重が65~75kg前後のライダーが乗ることを想定していると言われています。だからメーカーの想定とは違う体重の人や、荷物を積んだりする用途をするとこういう事になる。

サスペンションセッティング

要するにサスペンションの可動範囲が偏ってしまう。サスペンションというのは縮んで衝撃を吸収する物というのが一般的ですが、伸びて”路面を追従する”のも仕事です。

だからこうやって可動範囲の中央がズレていると伸び切りや底打ちを招き、ハンドリングや乗り心地、安定性や路面追従性、はては制動距離(ブレーキの効き)に大きく影響が出てしまう。

プリロードというのはこの縮む・伸びるの両方をキッチリこなせるポジションにサスペンション(バネ)を留めておく為にある。

フロントプリロードアジャスター

プリロードを強めるとサスペンションが伸びて(上の図で言った)可動範囲が上側に行きます。反対にプリロードを弱めるとサスペンションが縮み可動範囲は下の方に行きます。

跨ってみて沈み過ぎてると感じたらプリロードを強める、全然沈んでいないと思ったらプリロードを弱める。見てくれる人が居ない場合はスマホなどで撮影するのもいいかもしれません。跨ってフルボトムの1/3程度沈むくらいがベストと言われています。

もちろんサーキットなどスポーツ走行がメインの場合やタンデムor積載をする際はプリロードを強め、街乗りやツーリングなどではプリロードを弱める、また足つきを良くしたいからプリロードを弱めるなどシチュエーションは色々です。

これらの写真は大型バイクの物ですがプリロード調節機能は基本的にどんなバイクにも付いています。フロントフォークで話をしてきましたがリアショックも同じ理屈です。

リアプリロードアジャスター

最適なプリロードで走る事は安全にもファンライドにも繋がるわけなので、難しく考えず一度セッティングしてみる事をおすすめします。

※いくつか注意点

・必ず標準値(工場出荷)を覚えて置く事(マニュアルに記載されています)

・フロントフォークは必ず左右の数値を合わせる事

・フロントのアジャスターは柔らかくナメやすいのでサイズのあった工具で慎重に回す事

・ダンパー調節(マイナスドライバーで回す別の調節機能)は分からないまま大きく弄らない事

・調整後は挙動が大きく変わる場合があるので確認運転は慎重に

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