TDM850(4EP/3VD)-since 1991-

TDM850

「RUGGED(インテリジェンス力)」

一度見たら忘れないであろう非常にユニークな姿をしているTDM850。

先に紹介した初代スッテネで併売という形が取られましたんですが、このバイクが開発されるキッカケとなったものまたスッテネ。

TDM850国内仕様

どうキッカケになったのかというと、スッテネはラリーレプリカなだけありシチュエーションを選ばず走れる事からで欧州で好評を得ていたのですが一般ユーザーの用途を調査してみてるとオンロード寄りな用途の人が多い事が分かった。

そこで

「もっとオンロード重視のスッテネを」

となって造られたのがこのTDM850なんです。

TDM850デザインコンセプト

デザインは日本のGKとGD(欧州GKの子会社)で行われたものの

・オンロード感を推したい日本側

・デュアルパーパス感を推したい欧州側

でモメにモメた末に欧州がメインマーケットという事から日本側が折れた経緯があります。

もしかしたらそれがTRX850に繋がったのかもしれないですね。

TDM850線画

そんなTDM850なんですがスッテネをベースにしつつも849ccまで排気量を拡大する事で力強いトルクを獲得しミッションもワイドレシオ化。

またフレームも剛性の高いスチール製デルタボックスフレームが奢られました。

TDM850black

これにより軽やかな吹け上がりかつ低速からモリモリ来るトルクでオンロードなら向かうところ敵なしのストリートラリー

『キング・オブ・ザ・ワインディングロード』

として欧州にて爆発的なヒットに。

しかし・・・日本でTDM850というと見たこと無い人はおろか知らない人も結構いるかと。

それも無理もない話でTDM850は文化圏の違いが招く

TDM850カタログ写真

「欧州では人気だったけど日本では不人気だった」

というバイクあるあるの典型的な車種。

原因としてはデザインやコンセントもあるんですがもう一つはエンジン。

TDM850は日本国内におけるツインの課題を浮き彫りにし、ヤマハの二気筒に対する姿勢に多大な影響を与えたバイクでもあるんです。

後期モデルと関係する話なので詳しくはそちらで。

ちなみに併売されていたXTZ750SUPER TÉNÉRÉはTDM850の登場からしばらくして後継もなく生産終了となりました。

ヤマハTDM850

その理由は

「みんなTDM850の方を買うようになったから」

だったりします。狙いはドンピシャだったわけですね。

主要諸元
全長/幅/高 2175/780/1260mm
シート高 795mm
車軸距離 1475mm
車体重量 199kg(乾)
燃料消費率 30.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 849cc
最高出力 72ps/7500rpm
[77ps/7500rpm]
最高トルク 7.8kg-m/6000rpm
[7.6kg-m/6000rpm]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/80-18(58H)
後150/70-17(69H)
バッテリー GT12B-4
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル SAE20W-40
SAE10W-30
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.2L
交換時3.8L
フィルター交換時3.9L
スプロケ 前16|リア44
チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 750,000円(税込)
※スペックは国内仕様(4EP)
※[]内はEU仕様(3VD)
系譜図
XTZ750 1989年
XTZ750SUPER TÉNÉRÉ
(3LD/3TD/3VA)
TDM850前期 1991年
TDM850
(4EP/3VD)
XTZ850R 1995年
XTZ850R/TRX
RDM850後期 1996年
TDM850
(5GG/4XT)
TDM900 2002年
TDM900/A
(5PS/2B0)
XT1200z 2010年
XT1200Z
SUPER TÉNÉRÉ
(23P)
XT1200ze 2014年
XT1200ZE
SUPER TÉNÉRÉ
(2BS/2KB)

TDM850(5GG/4TX)-since 1996-

TDM850後期

「オーガニックバランス」

欧州における年間販売台数8000台超というはや欧州ヤマハの顔にまでなったTDM850の後期モデルとなる欧州仕様4TXと国内仕様5GG。

最初に変更点を上げると

・ライトを始め外見が一新

・ラジアルタイヤの採用

・フロントディメンションの変更

・80馬力にアップ

・タンク20Lアップ

などなど中身も外見も更にキリッとパワーアップしました。

4xtカタログ写真

ただ特筆すべき変更点はエンジンで、一年前に登場したTRX850譲りの270度位相クランクに変更。

これによって『キング・オブ・ザ・ワインディングロード』と言われていた評価に加え不等間隔燃焼によるパルス感がプラス。

オールラウンドスポーツとしてもう非の打ち所がないバイクになったんですが・・・少し野暮な話をします。

実はこのエンジンの変更にTDM850のエンジンを造ったチームはエンジン開発リーダーの小栗さんを筆頭に難色を示していました。

TDM850はもともと360度クランク(単気筒を2つ並べた形)で安定したトルクを出すうえに吹け上がりも軽くしておりビュンビュン回せる元気の良さを持ったパラツインだった。

TDM850黒

360度クランクの二気筒は最初に誕生した二気筒という事もありWやボンネビルなどレトロ系のエンジンというのが当たり前だった中でビュンビュン回るタイプ。

「ありそうで無い面白い自信作のエンジン」

という背景があったので難色を示したんです・・・では何故変わったのとかというと残念な事に欧州と同じくらい大型バイクが売れる日本での評価が良くなかったんです。

TDM850後期サイド

欧州で高い評価を獲得した一方で日本でTDM850の発売前評価試験を行ったところ

「なんでこんなビュンビュン回るエンジンなの」

と疑問視する声が社内から多く聞かれた、というかそういう声しか上がってこなかった。

この大きな原因は先に話した通り豊かなトルクを生む360度クランクつまり等間隔燃焼が原因。

TDM850クランクアングル

安定したトルクを生む360度クランクというのは等間隔で燃焼する。

等間隔で軽やかに吹け上がる・・・・そう、フィーリングが直四に近いんです。

この結果TDM850は社内評価で

「直四みたい」

という”酷評”をされた。

「直四みたいなんて良いじゃん」

と思う方もいるかも知れない。

でもそう思うのは”直四好き”だから。メインターゲットである二気筒が好きな層の多くは違う。

「今までに無い面白いツインだね」

とは捉えてくれない。ドコドコと言わせて走る

「スポーツツインらしさ(味)が無い」

と捉えられてしまうです。実際ヤマハの社内評価でもそうだった。

この事に自信作だったエンジン設計の小栗さんは衝撃を受けたそう。※別モNo.319より

TDM850リア

360度からパルス感が分かりやすい270度へ変更という本来ならばフルモデルチェンジ級の変更をマイナーチェンジで行ったのはこの

「スポーツツインらしいツインしか認めてもらえない」

という市場背景が少なからずあったから。

この一件でヤマハは

『ツインに対する市場の固定観念』

を思い知る事となり、その後のツインスポーツの方向性に多大な影響を残す事になりました。

もちろん決してTRX850(270度クランク)のエンジンになった事が悪いと言いたいのではありません。

TRX850のエンジンが好評で一本化する意味合いもあったとは思います。実際このエンジンも同じ小栗さんが納得して開発したモノです。

ただ、直列のクランク角やV型のシリンダー角など一見すると多様な形があり認められている二気筒も、スポーツやクルーザーなど乗せるエンジンの形がセオリー化しているカテゴリという枠に収めた時に

TDM850後期カタログ写真

「枠を越える多様性を認めてもらえるか」

というと話が変わってくるという話。

そしてこの問題にヤマハが直面し葛藤したがTDM850・・・という話でした。

主要諸元
全長/幅/高 2165/790/1285mm
シート高 805mm
車軸距離 1475mm
車体重量 232kg(装)
燃料消費率 30.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 849cc
最高出力 80ps/7500rpm
最高トルク 8.2kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/80-ZR18
後150/70-ZR17
バッテリー GT12B-4
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.2L
交換時3.8L
フィルター交換時3.9L
スプロケ

前17|リア42
[前16|リア43※99年以降の4TX]

チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 798,000円(税別)
※スペックは国内仕様(5GG)
系譜図
XTZ750 1989年
XTZ750SUPER TÉNÉRÉ
(3LD/3TD/3VA)
TDM850前期 1991年
TDM850
(4EP/3VD)
XTZ850R 1995年
XTZ850R/TRX
RDM850後期 1996年
TDM850
(5GG/4XT)
TDM900 2002年
TDM900/A
(5PS/2B0)
XT1200z 2010年
XT1200Z
SUPER TÉNÉRÉ
(23P)
XT1200ze 2014年
XT1200ZE
SUPER TÉNÉRÉ
(2BS/2KB)

XTZ850R/TRX-since 1995-

XTZ850R

ここでちょっとご紹介しておきたいのがこのXTZ850RとXTZ850TRXというラリー専用のファクトリーマシン・・・と見せかけて実は市販車なマシン。

ヤマハはXTZ750SUPER TÉNÉRÉをベースにしたファクトリーマシンで戦っていたんですが、あまりの強さからレース運営側が

「もうファクトリーマシンは出場禁止。15台以上売った市販車だけにします。」

となった。

そこでヤマハが造ったのがほぼワークスマシン仕様のまま市販化したスーパーを通り越してウルトラテネレと言える様な300万円のスペサルマシン。

300万円というと高く思えるけどパリダカを第一線で戦えるワークスマシンと考えれば破格。

ヤマハがどれだけラリーを重要視してたかが分かりますね。まあ運営もそうやって第三の参加者(プライベーター)を募るが狙いだったわけですが。

ヤマハXTZ850R

更に1996年モデルからはXTZ850TRXというモデルに。

これは270度相違クランクのエンジンを積んだモデルで、ヤマハはパリダカ四連覇という偉業を成し撤退することになりました。

XTZ850Rパリダカ

ちなみにパリダカに出場しようと思ったら1000万円以上必要だと言われています。

エントリーフィー(入場料)だけで200万円ほど取られます。これは保険料みたいなもので、そのかわりどんな怪我をしても治療を現地で受け続ける限り無料。※治るまで帰れないという意味でもある

ただし優勝しても賞金はありません。貰えるのはトロフィーと名誉ある肩書だけですが、それでも大人気。

オンのマン島、オフのダカールといった所ですかね。

ダカールコース

あとダカールラリーをパリダカと言ってますが、今は治安などの問題からアルゼンチン~ボリビアという南米コースになっており全然パリからダカールではなかったりします。

主要諸元

※ファクトリーマシンのため不明

系譜図
XTZ750 1989年
XTZ750SUPER TÉNÉRÉ
(3LD/3TD/3VA)
TDM850前期 1991年
TDM850
(4EP/3VD)
XTZ850R 1995年
XTZ850R/TRX
RDM850後期 1996年
TDM850
(5GG/4XT)
TDM900 2002年
TDM900/A
(5PS/2B0)
XT1200z 2010年
XT1200Z
SUPER TÉNÉRÉ
(23P)
XT1200ze 2014年
XT1200ZE
SUPER TÉNÉRÉ
(2BS/2KB)

XTZ750 SUPER TÉNÉRÉ(3LD/3TD/3VA)-since 1989-

1989スーパーテネレ

「THE SPIRIT OF ADVENTURE」

ヤマハのアドベンチャーとして有名なスッテネことスーパーテネレ。その始祖となるのが1989年に登場したこのXTZ750 SUPER TÉNÉRÉです。

「そもそもTénéréって何」

という話ですが、これはサハラ砂漠の南西にあるテネレ砂漠のこと。

テネレ砂漠

トゥアレグ語で

「何もない」

という意味を指す言葉。

何でそんな地名を付けたのかというと文字通りこのテネレ砂漠というのは有名なパリダカ(ダカールラリー)の中で障害物が何もない事による高速走行ステージだから。

つまりSUPER TÉNÉRÉという名前には

「カッ飛んで行けるアドベンチャー」

という意味が込められているわけです。

ところで少し話が反れますがヤマハは第一回パリダカの王者だったりします。

XT500改

XT500をベースとしたこのXT500改で二輪四輪の区分すら無かった第一回パリダカにおいてワンツーフィニッシュ。

更に第二回では表彰台独占という快挙を成し遂げました。ただし、この頃はまだテネレという名前は付いていません。

じゃあtenereという名前が最初につけられたのはいつかといえばそれから約4年後となる1983年の事。

XT600テネレ

XT500(XT550)の後継として発売されたXT600Ténéréが始まりです。

しかし・・・実はこの頃になるとヤマハはパリダカで苦戦を強いられていました。

というのもパリダカで二気筒の優位性が高まりシングルしか持っていなかったヤマハは打つ手が無かったから。

そんな現状を打開したのが第一回優勝からちょうど10年後となる1989年に登場したこのバイク。

XTZ750スーパーテネレカタログ

「テネレには夢とロマンの歴史がある。アドベンチャーは常にヤマハがリードすべき」

ということでそれまでのテネレとは別に二気筒化したのがスーパーテネレ。

XTZ750FEATURES

「悪路も長時間走行もハイスピード巡航も街中も出来る性能」

という欲張りすぎるコンセプトを実現するため

・360度クランク水冷5バルブ2気筒

・ダブルクレードルフレーム

というワンクラス上の車格を持ったマシンに。

更に翌年にこれをベースに800ccまで排気量を上げたYZE750T Super Ténéréで出場。

YZE750

当初の目標通り二年目となる1991年に10年ぶりとなる優勝を勝ち取りました。

しかもただ優勝しただけではなく

『市販車ベースにも関わらず圧倒的な速さで1~3位を独占』

という快挙を成し遂げる形での大復活で、更にそこから前人未到の三連覇という文句のつけようが無い戦績。

このわずか数年で圧倒的な速さを持つスーパーテネレを造れたのにはワケがあります。実はこのスーパーテネレのエンジンの発端はバギーにあるんです。

スーパーテネレエンジン

このエンジンを造った山中さんは初代5バルブであるFZ750のエンジンも造った方なんですが、その後バギー部門に移動となりバギー用エンジンを造っていた。

しかしそのプロジェクトがお蔵入りとなり

「せっかく開発したエンジンが勿体ない」

という事で半分に割って流用する形から発展させ出来たのがスーパーテネレの5バルブ二気筒エンジンなんです。

ちなみにスーパースポーツでお馴染みの主要シャフトの三角形配置によるエンジンのコンパクト化という手法を初めて取り入れたも実はスッテネだったりします。

XT750スーパーテネレ

ある意味ではバギーがお蔵入りしたからこそ出せた名車であり、だからこそパリダカ三連覇を成し遂げるほどのポテンシャルを備えることが出来たというわけですね。

主要諸元
全長/幅/高 2285/815/1355mm
シート高 865mm
車軸距離 1505mm
車体重量 195kg(乾)
燃料消費率 38.7km/L
※WMTCモード値
燃料容量 26.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 749cc
最高出力 70ps/7500rpm
最高トルク 6.8kg-m/6750rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/90-21(54H)
後140/80-17(69H)
バッテリー YB14L-A2
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.2L
スプロケ 前16|リア46
チェーン サイズ520|リンク112
車体価格
※国内正規販売なしのため
系譜図
XTZ750 1989年
XTZ750SUPER TÉNÉRÉ
(3LD/3TD/3VA)
TDM850前期 1991年
TDM850
(4EP/3VD)
XTZ850R 1995年
XTZ850R/TRX
RDM850後期 1996年
TDM850
(5GG/4XT)
TDM900 2002年
TDM900/A
(5PS/2B0)
XT1200z 2010年
XT1200Z
SUPER TÉNÉRÉ
(23P)
XT1200ze 2014年
XT1200ZE
SUPER TÉNÉRÉ
(2BS/2KB)

MT-25/MT-03 (B4W/B6W)  -since 2020-

2020年式MT-25

「意のままを、遊ぼう。」

兄弟車であるYZF-R25/R3から少し遅れる形でモデルチェンジしたMT-25/B4W型とMT-03/B6W型。

最初に主な変更点を上げると

・車体デザインの変更

・灯火のフルLED化

・倒立フォークの採用

・フル液晶メーター(燃費、水温、ギアポジ表示付き)

・更にアップされたハンドル

・ハザードランプ

などなど比較的マイナーチェンジに近い内容。

新型ポジション

跨ってみると更にハンドルが上がり直立に近いポジションになったことに気づくんですが、それ以上に激変したと言えるのがやはり顔。

MT-25

従来のハロゲンでは絶対に作れないLEDだからこそ可能なフェイスデザインで、ビームを発射しそうな口の部分がメインのヘッドライト、上に見える目のような部分がポジションランプになっています。

ちなみにヘッドライトといえばハロゲンとLEDの間にHIDというのが車の方で流行ったのを知っている方も多いと思いますが、なんでバイクはHIDを採用せずにすっ飛ばしてLEDになったのかというと理由の一つとして

「HIDを装着する場合はライトワイパーかウォッシャーが必須」

という義務が欧州などで課せられていたから。当然バイクにそんなもの付けるわけにはいかないのでHIDを採用できなかったという話。

制約についてはこれ以外にも色々とあるんですがそれはまた別の機会にして話を戻すと、2020年にモデルチェンジした部分としてもう一つ上げたいのがタンクとタンクカバー。

MT-25サイド

レイヤードカウルっぽい形に変わったんですが、それより印象的なのがかなりワイドになった事。

先代がシートカウルとほぼ同幅だったのに対し、このモデルは明らかにはみ出す大きさで250(320)とは思えないボリューム感。07や09よりたくましい張り出しになっています。

MT-25

気になって調べてみたら51mmワイドにしたとの事ですが、小顔効果もあってか数値以上の迫力。

MT-25/MT-03は他のモデルと違ってエントリーユーザーに人気のモデルだからボリュームを出すことで所有感を増す狙いかと最初は思ったんですが、おそらく配慮の形でもあるんじゃないかと。

なんの配慮かといえばMT-25/MT-03に新たに取り付けられたこれ。

MT-25サイド

転倒時にLEDウィンカーに強いテンションを掛けて壊さないようにするためじゃないかと。LEDウィンカーってカッコいいんですが、そのぶん壊すと高いですからね。実際このMT-25/MT-03も部品だけで一個7029円もします。

一方で張り出しが大きくなったタンクカバーは相変わらず安い。

MT-25

部品が細かく別れたことで更に一個あたりの値段が安くなったので着せ替えも捗るようになった。

他のMTシリーズと同系統のヤンチャなデザインを持ちつつも、明らかに他より優しさというか買ってから泣きを見ないような配慮が見て取れるエントリーにうってつけなのがMT-25/MT-03の魅力ですね。

カタログ壁紙

ところで

「MT-25とMT-03ってどれくらい売れているんだ」

って話。というのも販売台数がYZF-R25/R3と合算でハッキリしないのでモヤモヤしてる人も多いかと思います。

>>年間販売台数TOP10

正確には分からないんですがヤマハの年間販売計画を見るとYZF-R25/3とMT-25/03の割合はザックリ言って『2:1』という感じ。ただショップ等に聞いてみると『3:1』という感じで、実際のところ見る頻度から言ってもそれくらいじゃないかと。

ちなみに2020年の販売台数はYZF-R25/3とMT-25/03合算で4921台。つまり1500台強じゃないかと思われます。

カタログ写真

最後に繰り返しとなりますが、この顔・・・これは後世語り継がれるレベルではなかろうか。

主要諸元
全長/幅/高 2090/755/1070mm
シート高 780mm
車軸距離 1380mm
車体重量 169kg(装)
燃料消費率 27.6km/L

※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC二気筒
総排気量 249cc

[320cc]
最高出力 35ps/12000rpm

[42ps/10750rpm]
最高トルク 2.3kg-m/10000rpm

[3.0kg-m/9000rpm]
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70-17(54S)

後140/70-17(66S)

[前110/70-17(54H)

後140/70-17(66H)]
バッテリー GTZ8V
プラグ

※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR8A-9
推奨オイル ヤマルーブ プレミアム/スポーツ/スタンダード

または

SAE 10W-30から20W-50
オイル容量

※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L

交換時1.8L

フィルター交換時2.1L
スプロケ 前14|リア48
チェーン サイズ428|リンク132
車体価格 565,000円(税別)

[595,000円(税別)]

※[]内はMT-03
系譜図
yzf-r252014年
YZF-R25
(1WD/2WD/BS8/B0E)
yzf-r32014年
YZF-R3
(B02)
mt-25|mt-032015年
MT-25|MT-03
(B04/B05)
2019年式YZF-R252019年
YZF-R25/R3
(B3P/B6P/B7P)
2020mt-25|mt-032020年
MT-25|MT-03
(B4W/B6W)

【関連車種】
CBR250/CB250の系譜GSX250R/GSR250の系譜Ninja250/Z250の系譜

MT-25/MT-03(B04/B05) -since 2015-

MT-25

「大都会のチーター」

市街地での軽快性、日常での使い勝手、俊敏なスタイリングを調和させた新しいネイキッド。

MT-25デザインスケッチ

簡単に言ってしまうとYZF-R2/R3のネイキッド版となる2モデルで、エンジンや足回りなどに変更点はありません。

MT-25|MT-03

決定的に違うのはハンドルがバーハンドルになってポジションになっている事ですね。

ポジション比較

回してナンボなエンジンでありながらも上半身をフリーにすることでアグレッシブな視点移動を楽にしつつ、後輪に荷重を残せることで中低速での扱いやすさを向上。

MT-25バーハンドル

『大都会のチーター』

というコンセプトはこれから来ているんでしょう。

あと外装についてなんですが・・・

MT-25フェイス

なにげにインパクトある顔というかポジションランプなのもそうなんですが、何より取り上げたいのがタンクです。

MT-25タンク造形

YZF-Rもそうなんですが燃料タンクにプラスチックのカバーを被せる形になっているのでプレスでは到底成しえない凝った形状をしています。

プラスチックカバーというとマイナスなイメージを持たれるかもしれませんが、実はこれかなりメリットが大きい。

というのもプラスチックカバーということはつまり安いという事。3ピース構造で一枚あたり3000円もしない。

だから万が一立ちごけしたりして傷つけても簡単に新品に変えられるし、ちょっとしたカスタムならぬ衣替えも簡単に出来る。

日本のMT

これはプラスチックカバーだから出来ること。

違うカラーのタンクにしてもいいし、3ピースを活かしてバラバラな色気にも出来る・・・これ何気に凄い特権ではなかろうか。

主要諸元
全長/幅/高 2090/745/1035mm
シート高 780mm
車軸距離 1380mm
車体重量 165kg(装)
燃料消費率 24.4km/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC二気筒
総排気量 249cc
[320cc]
最高出力 36ps/12000rpm
[42ps/10750rpm]
最高トルク 2.3kg-m/10000rpm
[3.0kg-m/9000rpm]
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70-17(54S)
後140/70-17(66S)
[前110/70-17(54H)
後140/70-17(66H)]
バッテリー GTZ8V
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
[CR8E]
{LMAR8A-9}
推奨オイル SAE 10W-30から20W-50
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時1.8L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前14|リア48
チェーン サイズ428|リンク132
車体価格 485,000円(税別)
[515,000円(税別)]
※[]内はMT-03
※{}内は2018年モデル(B1E/B0B)
系譜図
yzf-r252014年
YZF-R25
(1WD/2WD/BS8/B0E)
yzf-r32014年
YZF-R3
(B02)
mt-25|mt-032015年
MT-25|MT-03
(B04/B05)
2019年式YZF-R252019年
YZF-R25/R3
(B3P/B6P/B7P)
2020mt-25|mt-032020年
MT-25|MT-03
(B4W/B6W)

TRACER9GT(BAP)-since 2021-

TRACER9GT/BAP

「Multirole fighter of the Motorcycle」

MT-09のフルモデルチェンジから半年ほどとなる2021年6月に発表されたTRACER900改めTRACER9GT/BAP型。

最初に変更点をあげるとMT-09の紹介とかぶる部分もありますが

・ストロークを上げて888ccとなった新設計エンジン
・スピンフォージドホイール
・MT-09と同じく新設計アルミダイキャストフレーム
・積載およびタンデムを考え新設計された専用リアフレーム
・MT-09と同様の6軸IMUによる電子制御
(車体姿勢計測型のABS/トラコン/ウィリー制御/スライドコントロール/ブレーキコントロール)
・フルLED&コーナリングランプ
・2モードKADS(KYB製電子制御サスペンション)
・アップ/ダウン対応クイックシフター
・ラジアルマスターシリンダー
・コーナリングランプ搭載の新スタイリング(アローシルエット)
・ダンパー内蔵のサイドケースステー
・3.5インチフルカラーデュアルTFTメーター
・10段階のハンドルウォーマー
・10段階(5mm間隔)可変のウィンドスクリーン
・シート高を先代比-40mmし足つき性を向上
・先代GTと同じくMT-09より60mm長いスイングアーム
・ハンドルガードの小型化

などとなっています。

カタログ写真

特筆すべき変更点としては、アップ/ダウン対応クイックシフターや電子制御6軸IMUによるフル電子制御もですが、目玉はやっぱりKYBが開発した二輪初となる

『KADS(KYB Actimatic Damper System)』

という電子制御サスペンション。

KYB KADS

遂にKYBも電サスの投入となったわけですが、後発なだけあり最初から即応性に優れるソレノイドバルブ駆動による1/1000秒単位で制御可能なレーシングスペックモノ。

加えて面白いのがプリロードアジャスターへのアクセス。

TRACER9GT KADS

なんと電子制御サスペンションなのにそのまま弄れるようになっている。

ブーツを外してカプラー外してやっとアクセスという電子制御ゆえの煩わしさが無いレイアウトになっているんですね。色んなシチュエーションが想定されるTRACER9GTにとっては尚のこと嬉しい配慮。

そしてもう一つ特筆すべきなのが大きく変わった見た目からも分かる通り、コーナリング中にイン側を照らしてくれるコーナリングランプが付いたこと。

顔に見えるシグネチャーランプ部分がその部分で、前照灯のロービームはその下の小さいライト。ちなみにその反対側がハイビームになっています。

ライトの構造

MT-09とYZF-R1のハイブリッドみたいな感じですね。

補足しておくと、近年ツアラーやマルチパーパスに採用が進んでいる有ると無いでは大違いのコーナリングライトですが、これが出始めたのは自動車基準調和世界フォーラム通称WP29、要するに国連が2013年にバイクに装備する事を許可したから。

そしてドンドン採用されて、トレーサーにも八年越しで採用となったわけですが、ちょっと遅かったですね。ここまで遅れてしまったのはコーナリングライトの許可条件が関係しています。

サイドビュー

コーナリングライトを装備するにあってクルマがハンドルの切れ角に応じて照射する用になっているのに対し、バイクはそうではなく

『バンク角に応じて照射する方式のみ許可』

という条件が設けられた。つまりIMU(慣性計測装置)を付けないとコーナリングライトを付けられないわけで、そのせいで採用がなかなか簡単にはいかなかったという話。

コーナリングライト

逆に言うとTRACER9GTを始めとしたマルチパーパスがIMUを率先して搭載している狙いは電子制御による車体コントロールだけでなく、このコーナリングライトを付けるためでもあるんですね。

話を戻すと、トレーサーはもともとMT-09TRACERとして登場し、TRACER900/GTになり、そして今回TRACER9GTとなったわけですが

「何故こうまで名前を何度も変えるのか」

という疑問をお持ちの人も多いかと。調べたところ、ちゃんと狙いというか開発された方々の思いがありました。

失礼ながら要約すると

「MT-09の派生モデルとして見てほしくない」

という話。

実際TRACERは二代目でベースのMT-09とは少し距離を置くような立ち位置になって、違う層へ人気が出ました。その事を名前でも明確にする狙い。

サイドビュー

しかし個人的にはトレーサーでもう一度名前を変えるというのは、かなりの勇気というか攻めの姿勢だなと思います。

というのも、このモデルを優先して書いている理由でもあるんですが、どうもバイク屋で聞いているとトレーサーからの買い替え・・・要するに先代から新型に乗り換える人が他のモデルより多いんだそうです。

傑作と名高いCP3エンジンで元気なパワーを持ちつつも、マルチパーパスとしては車体も絞られていて乗りやすいモタードツアラーという唯一無二の存在というの大きいとは思うんですが、もっとシンプルなところでいうと、リピーターを生む最も大事な要素は言うまでもなく

「高い満足度を与える」

という事に尽きる。つまりトレーサー買ってよかったと思ってる人が多いわけですね。なんかもうこれだけで疑いようのない名車と言えるのでないかと。

フェイスデザイン

でもだからこそ攻めの姿勢だなと思うわけです。既に高い評価を得ているということは逆に言うと、モデルチェンジでは既にかなり高いハードルがあるとも言える。

にも関わらずいくらフルモデルチェンジとはいえ名前を改めるという自ら更にハードルを上げるような事をしたのは、そんなリピーターすら満足させるほどの進化をさせたという自信の現われとしか。

車体価格を上げてでもトップエンドに近い最新装備を積んでいる事からもその意気込みが分かる・・・と言いたい所ですが、テクニカルレビューでプロジェクトリーダーの北村さんが実にカッコよく、実にヤマハらしい事を仰っていました。

壁紙

「電子制御や新技術などが注目されやすいが、開発で大切にした事は乗るたび使うたびに悦びを感じてもらえる官能評価。」

装備や技術はすべて官能のため。人機官能マルチロールファイターここにありですね。

主要諸元
全長/幅/高 2175/885/1430mm
シート高 810~825mm
車軸距離 1500mm
車体重量 220kg(装)
燃料消費率 20.4m/L
※WMTCモード値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 888cc
最高出力 120ps/10,000rpm
最高トルク 9.5kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 1,320,000円(税別)
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-09/SP(B7N/BAM)-since 2021-

2021MT-09

「The Roadeo Master」

公式では初のフルモデルチェンジとなったMT-09のB7N型とSPのBAM型。

まず最初に変更点を上げると

・デザインの大幅な刷新
・ストロークを伸ばし890cc(+43cc/+4ps)になった新設計エンジン
・サウンドデザインされた給排気系
・2.3kg軽量化された新設計アルミフレーム
・フロントラジアルマスターシリンダー
・スピンフォージドホイール
・軽量フロントサスペンション
・YCC-T(電子制御スロットル)
・6軸IMUとそれに伴う電子制御(トラクション、リフト、スライド、ブレーキ制御)
・フルカラーTFTメーター
・LEDウインカー
・可変式フットレスト
・アップダウン対応クイックシフター

2021MT-09SP

※以下SPの変更点
・塗り分けされた専用カラー
・スモーク処理されたブレーキリザーブタンク
・黒塗装ドリブンスプロケット
・KTB左右独立減衰力調整構造フォークにDLCを追加
・バフ&クリア塗装のスイングアーム
・クルーズコントロール(4速50km/h以上)

などなどフルモデルチェンジと謳うだけあり、ほぼすべてに手が加えれた形となりました。変わっていないのはブレーキキャリパーくらいですね。

MT-09フューチャーマップ

その中でも何が一番大きく変わったかといえば6軸IMU(慣性計測装置)とAPSG(電子制御スロットル)による制御の完全電脳化なんですが、見た目もマスの集中化とそれを視覚化させる事が狙いというだけありギュッと詰まったデザインになりました。

具体的にはメインフレームのヘッド(ステム)パイプを30mm下げると同時にヘッドライトユニットを極限までコンパクトにしつつステムに近づけるなどの改良が加えられています。

サイドビュー

小型に出来るLEDのメリットを存分に活かした形ですね。ちなみにホイールベースも10mm短縮。

ただ中身の方も結構変わっていて、要であるエンジンの方はFIからピストンやコンロッドさらにはクランクシャフトまで新設計すると同時に排気量を43cc上げて888ccに。

もう少し厳密に言うとストローク量を6.1mm上げ、低中速トルクを底上げした形でエンジンブロックには新色のガンメタに近い明るい塗装が採用されています。

しかしそれよりもこの代で最も紹介すべき新アイテムは間違いなく量販車初となるコレ。

ヤマハスピンフォージドホイール

『SPINFORGED WHEEL』

直訳すると回転鍛造ホイールなんですが、これの凄さを100%共感してもらうために鋳造ホイールと鍛造ホイールの違いについてからおさらいを兼ねて説明。

鋳造ホイールはデロデロに溶かしたアルミを型に流し込んで成形する製法。極端な話ですが型に流し込めば良いのでコストは安く複雑な構造も得意。

鋳造ホイール

ただし溶かして冷やすという製法の問題から鋳巣という強度を損なう空洞が出来やすく、また溶かしたアルミを隅々までキレイに流れるような型にしないと行けないので薄く(軽く)出来ない。

純正ホイールは一部を除きほぼ鋳造ホイールです。

対して鍛造ホイールというのはアルミをプレス機でバチーンと打って造られている製法。圧力で成形するので組織が密になるので強度が出る。

鍛造と鋳造

しかし肝心のプレス機が非常に高価なため大量生産には向かず、また複雑な形状を造るのも難しい問題もある。削り出しという工程を加えることでデザイン性を上げることが出来ますが、ただでさえ高いコストがなおのこと高くなる。

鍛造ホイール

鍛造ホイールといえばマルケジーニなどが有名ですね。

ホイールというのはいわゆるバネ下で一番重いものなので軽量化において最も効果的な箇所といえるものの、コストや量産の問題があるから鍛造ホイールは一部の超高級車にしか採用されない。

そこでヤマハが取り組んだのがこのスピンフォージドホイール。

スピンフォージドホイール

これはまず基本となるホイール(ディスク)部分を鋳造で精製した後に、回転する台に載せて金属のローラーで陶芸の”ろくろ”のようにリム端の部分に圧力をかけて成形する。

正式には

『フローフォーミング加工』

と言って、要するに鋳造で造ってからリムの部分を鍛造化する技術。これによりリムの厚みが従来の半分になり重量も前後で700gの軽量化に成功。

フローフォーミング加工

これ四輪の方でも一部のスポーツモデルなどに採用が進んでるんですが二輪の場合

・触れてはいけないリム中央部と端の幅が非常に狭く加工がシビア

・左右どちらのリムも外装を担っていることから跡などが見えてはいけない

・前後でホイールの形状が違う(量産効果が得られない)

など四輪とは比べ物にならないほどハードルが高かったために今まで実現されなかった。

では何故ヤマハがこれを実現出来たのかといえばそれはCFダイキャストなどからも分かる通りヤマハがアルミのプロフェッショナルであると同時に

「ホイールまで内製しているメーカーだから」

という話。

だからこそ実現出来たことですが、そんなヤマハですら企画の始まりを含めると実に5年がかりで、原材料の添加物配合率をコンマ%単位でオリジナルブレンドしてやっと実現出来たもの。

そして完成した第一弾となるのがこのMT-09に採用されたホイール。

鍛造と鋳造の良いところ取り

費用対効果を考えると量販ホイールはこれがもう完成形じゃないかと思います。

最後にまとめというか何というか。

2021年からのMT-09/SP(B7N/BAM)は、6軸IMUとそれに伴う電子制御の高度化、さらにアップ/ダウン対応クイックシフターに今お話した新時代ホイールことスピンフォージドホイール。

どう考えてもフラッグシップといえるフル装備なんですが、さらに驚きなのがこれで税別1,150,000円と破格な事。

2021MT-09カタログ

これは相当戦略的な価格というか・・・以下ちょっと主観なんですが、MT-09はこの代で少し立ち位置が変わった印象があります。

というのも元々MT-09は

「ネイキッドとモタードを掛け合わせた形」

というのは皆さんご存知かと思いますが、先代まで(特に初代)は明らかにモタード要素が強いモデルでした。まさにコンセプトにもあるロデオそのもので車体が水平をキープする事が殆どないようなハッチャ系。

それを今回は少し抑えた・・・というのもちょっと語弊がある。ここが絶妙なところで例えるなら今まで1から10までロデオ(モタード)だったのに対し、フル電脳化に伴って1から5まではライトウェイトなネイキッドで6から10まではモタードという感じ。

ロングストローク化でトルクを底上げしたエンジンからも分かる通り、トルクを楽しむ『マスターオブトルク』というコンセプトにさらに忠実に習った形にしたとも言えるわけですが、さらにその狙いを現しているのが純正オプションの拡充。

オプション

このモデルからスクリーンはもちろんトップケースまでボルトオンで簡単に脱着出来るよう考慮されて開発されています。

車体設計の段階から考えられている事の何が強みかといえば

「容易に脱着出来る」

という事。これがこの代のMT-09をよく現している要素と言えるかと。

ロデオマスターMT-09

「その日の気分でモタードにもネイキッドにもなれるヤマハ流ビッグスタンダード」

という感じですね。

主要諸元
全長/幅/高 2090/795/1190mm
シート高 825mm
車軸距離 1430mm
車体重量 189kg(装)
[190kg(装)]
燃料消費率 20.4m/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 888cc
最高出力 120ps/10000rpm
最高トルク 9.5kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR9A-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 1,100,000円(税別)
[1,150,000円(税別)]
※[]内はMT-09SP/BAM
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

TRACER900/GT(B5C/B1J) -since 2018-

TRACER900/B5C

「Two Sides of the Same Coin: Sports and Travel」

2018年からのMT-09TRACER改めTRACER900となったB5C型。

最初に変更をあげると

・大型フロントスクリーン

・新設計ハンドル&シート

・6馬力アップ

・60mm延長されたスイングアーム

・新デザインのフロントカウル/マウントステー/フットレスト

などなどとなっており、このモデルからは新たにTRACER900GT/B1J型というグレードも登場。

TRACER900GT/B1J

・フルアジャスタブルフロントフォーク

・リモートアジャスター付きリアサス

・多機能フルカラー液晶メーター

・クイックシフター(アップのみ)

・クルーズコントロール

・グリップヒーター

などを装備しています。

TRACER900の変更点

ホイールベースの60mm延長などからもわかるよう従来のMT-09路線から更に少し離れて快適性と巡航性能を向上させたツーリング寄りなモデルになりました。

基本的にデザインは先代を継承している形なんですが

・ハイスクリーンとアッパーカウル

・ウィンカーの位置

・ブッシュガード形状

・パニアマウントステー形状

などの見た目が変わっています。

MT-09TRACERとTRACER900

こうやって見るとTRACERはデザインが纏まっててキメラバイクがベースには見えないですね。

ちなみにTRACERは安くない派生モデルながら人気があって本家のMT-09と変わらないほど売れていたりするんですが、人気といえばコンフォートシートと同時に

『パフォーマンスダンパー(旧名パワービーム)』

を付けるのが流行っているみたいですね。

パフォーマンスダンパーのメカニズム

これはヤマハが開発したフレーム用の制振ダンパーで

『世界初の粘性技術』

として注目されTOYOTAのクラウンアスリートVXを皮切りにクルマの方ではスポーツモデルでの採用が進んでいます。

パフォーマンスダンパーのメカニズム

一体このダンパーが何なのかという話ですが、フレームというのは路面から伝わる力を吸収変形し減衰するという事を繰り返しながら走行している。

この変形には剛性という聞いた事があるであろう要素が関係しており剛性を高くするほど変形に強くなるんですが、高くしすぎると吸収しないのでゴツゴツした乗り心地になる。スポーツ性が高いモデルなんかが正にそれですよね。

しかし吸収できるよう剛性を低くしすぎるとフレームの変形が収まらず(減衰しきれず)真っ直ぐ走るのも大変になるという二律背反のような問題がある。

だからこそ画期的だと言われたのがこのパフォーマンスダンパーで。

TRACERのパフォーマンスダンパー

「直進安定性が増した」

「振動が減った」

という肯定的な意見が多いですが、分かりやすい例がハンドルが振られてまっすぐ走れなくなってしまうウォブルという現象。

これが起こる1番の原因はフレームの剛性不足により減衰しきれず共振を起こしてしまうから。ヤマハのパフォーマンスダンパーを付けると安定するのは、こういったフレームの減衰を補助してくれる(和らげてくれる)から安定する。

「フレーム剛性ではなくフレームの減衰力を上げるのがパフォーマンスダンパー」

という話で、フレームに粘着性を持たせたという意味も何となく分かるかと。

TRACERのカタログ写真

ただし直進安定性が増すという事はそれを崩す事がキッカケであるコーナリングが若干硬くなる面もある。

それでもTRACERで人気なのはパッタンパッタンと右へ左へ寝かし込んで駆け抜ける走りよりも、色々と積載しつつ程よいスポーツ巡航というフレームに少し辛い用途をする人が多いからじゃないかと。

TRACER900GT壁紙

ちなみにこのパフォーマンスダンパーは簡単に脱着出来る上に作用ストローク量が1mm以下なので、サスペンションのように熱やダストによるシール劣化からのオイル漏れやガス抜けという心配がほとんど無い。

もう一つの敵である紫外線もカバーが付いてるので圧倒的にメンテナンスフリーという要素も持っていたりします。だから車の方でも純正採用されたりしているんでしょうね。

値段は約3万円と安くは無いけど高くもなく長寿命なので試してみるのもあり・・・というTRACERというよりもパフォーマンスダンパーのセールページでした。

主要諸元
全長/幅/高 2160/850/1375mm
シート高 850~865mm
車軸距離 1440mm
車体重量 214kg(装)
[215kg(装)]
燃料消費率 19.7m/L
※WMTCモード値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 846cc
最高出力 116ps/10,000rpm
最高トルク 8.9kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.4L
フィルター交換時2.7L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 1,030,000円(税別)
[1,110,000円(税別)]
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-09/SP(BS2/B6C)-since 2017-

2017MT-09

「Multi performance Neo roadster」

大成功を収めたMT-09の二代目となるBS2型。

MT-09

大きく変わったのは見て分かるようにデザインですが最初に纏めると

・フルLEDヘッドライト

・ショートテール

・片持ちアルミリアフェンダー

・シート形状の変更

・マフラーエンドの変更

・クイックシフター(シフトアップのみ)

・アシスト&スリッパークラッチ

・圧側減衰調整機能付き倒立フロントフォーク

・新規制に合わせ6馬力アップ

となっています。

MT-09

それにしたってデザイン攻め過ぎじゃないかと思うわけですが、これ本当はもう少し違うデザインでした。

しかしクレイモデル(粘土で造った等身大モデル)を目の前にした時に

「なんか違うよな」

となりデザインをやり直す事になったのですが、その際に

・エンジニア用のクレイモデル

・デザイナー用のクレイモデル

の2つを用意し各々が思う次期MT-09を削ったら、それを互いに交換してまた削っていくという作業を行った。

こうして両者の意見を擦り合わせていった結果この形になったんですが、自分の好きに削れるという事で守谷デザイナーいわく

「こうすればもっと過激になるねという感じで少し悪ノリになった。批判は甘んじて受け入れます。」

との事。※ミーティングにて

2017MT09

一気にワルっぽくなった理由にはこういう背景があったんですね。

テールも前にも増してとんでもない形になった事で前にも増してデザインコンセプトである異種混合(モタードとネイキッドのハイブリッド)感が凄い事になってる。

2018MT-09

ただ実はMT-09が異種なのは中身もそうなんです。

初代で話した通りMT-09はCP3(クロスプレーン三気筒)というエンジンを積んでいるクロスプレーンコンセプトのモデルなんですが・・・これ正確に言うと少し違うんですよね。

クロスプレーンコンセプトというのは簡単に説明するとピストンの往復運動中の速度差による慣性トルクを別のピストンで相殺する事で

「求められたトルクを求められただけ出す」

というのが狙い。

だからMT-07のCP2エンジンやMT-10のCP4エンジンはタイミングが直角になってる。

クロスプレーンクランク

ところがCP3エンジンは120°毎だから実は完全に相殺出来ているわけじゃない。だから完璧なクロスプレーンではない・・・んですが同時にこれにはメリットもある。

「スクリーム感(マルチ感)が生まれる」

という事です。

CP2やCP4ほどまではいかないものの一般的な四気筒などと比べると慣性トルクは遥かに小さく同じようなメリットがある一方で、点火タイミングが等間隔だから回すとモーターの様に駆け上がる四気筒っぽさも持ってる。

つまりMT09は見た目はトレールとネイキッドのハイブリッドであり、中身はフラットプレーンとクロスプレーンのハイブリッド。

2017MT-09カタログ写真

異種混合というコンセプトの通り、中も外も相反するものが混じっている

『正真正銘のキメラバイク』

と言えるかと。

頭のネジが外れている人が予想以上に多くて人気モデルとなったためか2018年からは豪華装備でスポーツ性を高めたMT-09SP/B6C型を追加販売。

MT-09SP/B6C

・OHLINS製リモートアジャスター付きリアサス

・KYB製SP専用3ウェイアジャスター倒立フォーク

・黒背景の反転液晶メーター

・専用塗装&グラフィック

・専用表皮シート

となっているモデルで差額は僅か10万円。

MT-09SPの変更点

コストが許されるならここまでやっていたんだろうなという雰囲気が伝わってくるモデルで、購入層もそれを感じ取っているのかSPに注文が殺到しているんだとか。

主要諸元
全長/幅/高 2075/815/1120mm
シート高 820mm
車軸距離 1440mm
車体重量 193kg(装)
燃料消費率 19.7m/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 845cc
最高出力 116ps/10000rpm
最高トルク 8.9kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.4L
フィルター交換時2.7L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 930,000円(税別)
[1,030,000円(税別)]
※[]内はMT-09SP/B6C
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)