GS750/2/E/G/GL(GR72A) -since 1976-

GS750

スズキ初の直四バイクとなるGS750。

このGS750はスズキにとって非常に大きな転換期というかコレが生まれてなかった間違いなく今のスズキは無かったと断言できるバイクです。その事を中心にお話します。

キッカケはGS750が世に出る6年前の1970年、アメリカで制定されたマスキー法(厳しい排ガス規制)を発端に”排気ガス”という環境問題が重要視されるようになりました。この事を機に自動車メーカーもバイクメーカーも次々と4stに開発を切り替えていったわけですが、そんな中でスズキだけは2stに全力で4stは打ち切ることに・・・これが命取りになりました。

マスキー法

2stでもマスキー法をクリアできると踏んでみたはいいものの、当時の技術では厳しい排ガス規制をクリアすることが難しく難航。更に追い打ちを掛けるようにオイルショックによる原油価格高騰が起こり時代はエコ(低燃費)へ。

ここまで来ると流石に不味いとスズキも4stへシフトしていくことになったわけですが、2st一辺倒で4stの研究は止めていたのでエンジン開発が間に合わず売れる物が無くなってしまうという事態に。

実際スズキはマスキー法で自動車販売が出来なくなり倒産の危機を迎えました。それを救ったのはトヨタ(豊田家)。”トヨタとスズキが技術提携”というニュースが最近出ましたが、それにはこういう過去があったからです。

詳しくは「トヨタも昔バイクを売っていた ~豊田家と鈴木家~」をどうぞ

その一方で二輪は技術者達の死に物狂いの研究で何とか商品化に成功し誕生したのがGS750というわけ・・・なんですが、コレも実は一筋縄でいかなかったんです。

GSシリーズ

このGS750は最初はGX960として作られていました。当然ながら排気量は960ccです。何故なら当時アメリカで一世を風靡していたカワサキZ1(903cc)を超える事が至上命題だったから。

市場で好評を博していた2stトリプルのGT750が排ガス規制で販売できなくなる事が分かっていたのでそれに間に合わせる為に着々と製品化への道を進んでいました。

GT750

しかしここでも不測の事態が発生。それは免許制度の改定です。
当時は126~750cc(自主規制)まで自動二輪免許で乗れていました。しかしそれが75年から小型(~125cc)、中型(~400cc)、限定解除(400cc超)の三段階に別れる事が決定。

GS750エンジン

これがスズキのGX960計画を大きく狂わせました。何故なら400ccのバイクを新たに作る必要性が生まれたから。このことでせっかくのGX960計画は破綻。その代わりに立ち上がったのが750計画。

一体どうしてそうなったのかというと、設備の問題で直四750ccエンジンにすればその部品を半分に割って400ccパラツインを作れるから。ちなみにこれで生まれたのが同時発売となったGS400です。

もう売るものが無くなってしまう社運を賭けた時間との戦いなのにGX960ベースとはいえまた作り直し。

スズキGS750

それでも何とか製品化に成功し出てきたのがこのGS750というわけです。

ただGSが本当に凄いのは、そういった社運を賭けた二転三転劇があった事ではなく、二転三転劇があったにも関わらず、そして初の4st直四にも関わらず、チューニングの神様であるPOP吉村からオーバークオリティと言われるほどキッチリ作り上げてきたこと。これはスズキの社運を賭けた4stフラッグシップで絶対に失敗できないという事から従来の二倍以上の負荷テストを敷いていたからです。

GS750

結果として好評を得たGS750は1978年にはフロントダブルディスクとサスペンションが強化されたGS750ii、キャストホイールを履いたGS750E/Eiiにマイナーチェンジ。更に79年にはシャフトドライブのGS750G、そのアメリカンモデルのGLが追加されました。

主要諸元
全長/幅/高 2225/855/1170mm
シート高
車軸距離 1490mm
車体重量 223kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 748cc
最高出力 68ps/8500rpm
最高トルク 6.0kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.50H19
後4.00H18
バッテリー FTX12-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
B6ES
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.9L
交換時3.2L
フィルター交換時3.6L
スプロケ 前15|後41
チェーン サイズ630|リンク96
車体価格
系譜図
GR72A1976年
GS750/2/E/G/GL
(GR72A)
GSX750E1980年
GSX750E
(GR72A)
バンディット7501996年
GSF750
(GR7EA)
イナズマ7501998年
GSX750INAZUMA
(JS1AE)
GSR6002006年
GSR600
(GK7EA)
GSR7502011年
GSR750
(GR7NA)
00GSX-R7502017年
GSX-S750
(C533F)

GSX-R600(L1~)-since 2011-

2011年式GSX-R600

2011年に登場したL1は汗水涙を流して作り上げたバイクだと関係者が言っていた。
話を聞くとハーネス線の長さを1ミリ単位で削るまでもの軽量化を実施したとの事。

よっぽど自信があるのか事細かに詳細が書いてある。

GSX-R600透視図

新設計のフレームで1,350g
スイングアームで900g
フロントブレーキbrembo化で405g、
リアブレーキの小型化で262g、
フットペダルで53g
アクスルシャフトの小径化で46g、
ピストン四本で78g、
エキゾーストパイプとチャンバーで900g、
マフラーで800g

計4794gの軽量化・・・などなど。

2012GSX-R600

一つだけ残念な事があるとするなら、GSXシリーズはSSの定番カスタムであるシングルシートカウルがタンデムシートの形状がアレだったせいか最初から付いているという大盤振る舞いだったのだが、タンデムシートのデザインがマトモになったこのモデルから他社同様にOP扱いになってしまった。

良かったのか悪かったのか・・・

主要諸元
全長/幅/高 2030/710/1385mm
シート高 810mm
車軸距離 1385mm
車体重量 163kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 599cc
最高出力 126ps/13500rpm
最高トルク 6.8kg-m/11500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー FTX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9EIA-9
または
IU27D
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.9L
交換時2.2L
フィルター交換時2.5L
スプロケ 前16|後43
チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 1,200,000円(税別)
※モトマップ価格
系譜図
98GSX-R600 1997年
GSX-R600
(W/X/Y)
01GSX-R750 2001年
GSX-R600
(K1/K2/K3)
04GSX-R600 2004年
GSX-R600
(K4/K5)
06GSX-R600 2006年
GSX-R600
(K6/K7)
08GSX-R600 2008年
GSX-R600
(K8/K9/L0)
11GSX-R600 2011年
GSX-R600
(L1~)

【関連車種】
CBR600RRの系譜YZF-R6の系譜GSX-R750の系譜ZX-6Rの系譜DAYTONA675の系譜

GSX-R600(K8/K9/L0)-since 2008-

2008年式GSX-R600

一気に様変わりしハンサム化したK8
性能として一番のアピールポイントは出力特性を選べるS-DMS(Suzuki Drive Mode Selector)だろう。

その他にいたっては微調整でお茶を濁してる感がある。最新技術を惜しみなく投入し続け、トップをひた走っていたGSXだからもうやることが無いのだろう・・・

2009GSX-R600

個人的にこのモデルはR600の中でも印象が強い。というのも顔つきが従来の菱形ライトで頬からエアを吸うレイアウトを辞め、角の生えたような刺々しい三眼デザインで顎から吸気する形になったから。

K8フェイス

サイドから見るとハンサムな印象を受けるものの正面から見るとヒールさがかなり増している。
でも旧来からのGSXオーナーにとっては唯我独尊が売りであるスズキが他社に感化された感じがして不評な声も少なからずあった。

主要諸元
全長/幅/高 2040/715/1125mm
シート高 810mm
車軸距離 1400mm
車体重量 165kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 599cc
最高出力 121ps/12400rpm
最高トルク 6.9kg-m/11200rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー FTX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9EIA-9
または
IU27D
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.9L
交換時2.2L
フィルター交換時2.5L
スプロケ 前16|後43
チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 1,160,000円(税別)
※モトマップ価格
系譜図
98GSX-R600 1997年
GSX-R600
(W/X/Y)
01GSX-R750 2001年
GSX-R600
(K1/K2/K3)
04GSX-R600 2004年
GSX-R600
(K4/K5)
06GSX-R600 2006年
GSX-R600
(K6/K7)
08GSX-R600 2008年
GSX-R600
(K8/K9/L0)
11GSX-R600 2011年
GSX-R600
(L1~)

GSX-R600(K6/K7)-since 2006-

2006年式GSX-R600

初めてのフルモデルチェンジを行ったR600。シリーズ一との呼び声も高いモデル。というのもこのモデルで750と600の立場が逆転したから。

それまでは750のスケールダウンエンジンで戦ってきたけど、フルモデルチェンジに伴い600に適正化。SSとしては主流の三角形三軸レイアウトでエンジンがコンパクトになり、車体も一回り小型になった。

GSX-R600カウルレス

R750(R1000もそうだが)に最適化されたエンジンを使って第一線で戦うだけでなく勝っていたとは改めてスズキのSSの技術力には感服せざるを得ない。

ただデザインは別。

サイドカウルの造形といいマフラーのデザインといい纏まっていて非常にカッコいい。今でも人気が高いもの納得な話。

・・・ただタンデムシートがそれを全て壊す。

GSX-R600

取ってつけた座布団のようなシート・・・シングルシートカウルが付いているのがせめてもの救いか。

主要諸元
全長/幅/高 2040/715/1125mm
シート高 810mm
車軸距離 1400mm
車体重量 161kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 599cc
最高出力 126ps/12000rpm
最高トルク 6.9kg-m/11500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー FTX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.9L
交換時2.2L
フィルター交換時2.5L
スプロケ 前16|後43
チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 1,060,000円(税別)
※モトマップ価格
系譜図
98GSX-R600 1997年
GSX-R600
(W/X/Y)
01GSX-R750 2001年
GSX-R600
(K1/K2/K3)
04GSX-R600 2004年
GSX-R600
(K4/K5)
06GSX-R600 2006年
GSX-R600
(K6/K7)
08GSX-R600 2008年
GSX-R600
(K8/K9/L0)
11GSX-R600 2011年
GSX-R600
(L1~)

GSX-R600(K4/K5)-since 2004-

2004年式GSX-R600

K1から不動の速さを持っていたGSXシリーズだが、2004年に更なるモデルチェンジを行う。

遂に兄と同じ念願の倒立フォークになり、キャリパーをラジアルマウント化、ラムエアダクトの拡大で隼っぽい顔に、更に2kgの軽量化を施してきた。タダでさえクラス最速だったマシンが更に磨きがかかり、敵なしの状態が続く事になる。

GSX-R600カタログ写真

R1000やR750も同じでSS版ハヤブサと言っていい二代目K4/K5だが、何故かハヤブサ程の人気は出なかった。
ただ北米だけは例外で、「GSXシリーズこそが本物のSS」という風潮がある。どう転んでもCBRの一人勝ち状態である日本とは大違いで、20周年モデルも発売された。

20周年記念モデル

日本にもR750の20周年モデルは入ってきたがR600の方は正規では入ってきていないので先ずお目にかかる事はないと思う。カラーリングの参考となったモデルは勿論20年前の1985年に華々しいデビューを飾った初代R750

初代R750

限定モデルだがカラーリングだけじゃないのはさすがスズキ。オーナメント以外にも
・スリットの入った専用ブレーキローター
・フレームスライダー
・スモークスクリーン
・アルマイト処理したチェーンアジャスター
・スペシャルマフラー
・さらにシートがブルー
・さらにさらにチェーンまでブルーなどなど。

主要諸元
全長/幅/高 2055/715/1150mm
シート高 825mm
車軸距離 1400mm
車体重量 161kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 599cc
最高出力 126ps/13000rpm
最高トルク 7.1kg-m/10800rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー FTX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.6L
交換時2.8L
フィルター交換時3.1L
スプロケ 前16|後45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 980,000円(税別)
※モトマップ価格
系譜図
98GSX-R600 1997年
GSX-R600
(W/X/Y)
01GSX-R750 2001年
GSX-R600
(K1/K2/K3)
04GSX-R600 2004年
GSX-R600
(K4/K5)
06GSX-R600 2006年
GSX-R600
(K6/K7)
08GSX-R600 2008年
GSX-R600
(K8/K9/L0)
11GSX-R600 2011年
GSX-R600
(L1~)

GSX-R600(K1/K2/K3)-since 2001-

2001年式GSX-R600

このモデルを見るとピンと来る人も多いだろう。それもそのはず顔が1000-750-600と統一されたから。
当時R1の影響で流行っていた二眼を採用せず、それどころか1000から600まで統一させてアイデンティティを確立したのは凄い。HAYABUSAの成功も相まって今や一眼のヒール顔はスズキの代名詞にもなった。

いやでもちょっと似せすぎというか区別が・・・正立フォークなのが600なんだけど顔だけ見ると・・・

GSXシリーズ

もしこの顔だけ見て区別が付いた方はGSXマニアですね。ちなみに正解は左から600-750-1000です。

99年のYZF-R6の登場により600ccクラスが激化。R1の方がリッターなせいかよく語られるけど600の方が熾烈だったかもしれない。それでもスズキはあくまで750主体の開発に拘った。

GSX-R600カタログ写真

84年から始まり長年に渡って様々な排気量のSSを作り続けたスズキに一日の長があったのは誰の目にも明らかでした。

主要諸元
全長/幅/高 2040/715/1135mm
シート高 830mm
車軸距離 1410mm
車体重量 163kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 599cc
最高出力 115ps/13000rpm
最高トルク 7.0kg-m/11500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー FTX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.8L
フィルター交換時3.1L
スプロケ 前16|後45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格
系譜図
98GSX-R600 1997年
GSX-R600
(W/X/Y)
01GSX-R750 2001年
GSX-R600
(K1/K2/K3)
04GSX-R600 2004年
GSX-R600
(K4/K5)
06GSX-R600 2006年
GSX-R600
(K6/K7)
08GSX-R600 2008年
GSX-R600
(K8/K9/L0)
11GSX-R600 2011年
GSX-R600
(L1~)

GSX-R600(W/X/Y)-since 1997-

1998年式GSX-R600

GSX-R750がフルモデルチェンジしたのを機に投入された初代GSX-R600。

当時600ccは俗にいうナナハンやリッターオーバーの廉価版で当然このR600もR750から色々とスポイルされている。

1998年式GSX-R600カタログ

750が倒立フォークなのに対し600は正立フォーク、FIなのに対しキャブとちょこちょこ変更されています。

主要諸元
全長/幅/高 2100/720/1165mm
シート高 830mm
車軸距離 1385mm
車体重量 175kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 600cc
最高出力 106ps/12000rpm
最高トルク 6.7kg-m/10000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー FTX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.6L
フィルター交換時2.8L
スプロケ 前16|後46
チェーン サイズ525|リンク108
車体価格
系譜図
98GSX-R600 1997年
GSX-R600
(W/X/Y)
01GSX-R750 2001年
GSX-R600
(K1/K2/K3)
04GSX-R600 2004年
GSX-R600
(K4/K5)
06GSX-R600 2006年
GSX-R600
(K6/K7)
08GSX-R600 2008年
GSX-R600
(K8/K9/L0)
11GSX-R600 2011年
GSX-R600
(L1~)

VTR1000SP-2(SC45後期)-since 2003-

SC45後期

「THE REAL-WORLD SUPERBIKE」

VTR1000SP/SC45の後期モデルとなる通称SP-2。

・ツインインジェクション化
・スクリーンの高さを30mm延長
・ステム/キャスター&トレール角の変更
・スイングアームピボット変更
・スロットルボディ径の拡大
・6kgの軽量化
・フレームの全般的な見直し

などなど書ききれない程の数々の変更が加えられていますが、SP-2における最大の狙いはフレーム剛性を少し柔らかく(捻じれやすく)見直してハンドリングを向上させたこと。

SC45後期

これによって乗りやすくなったんですが、乗りやすくなったといってもそれは街乗りとかそういうレベルではなく・・・なんでって結局はこれらの変更もHRCがレースしながら改良してきたワークスマシンのフィードバックだから。

市場を考慮してモデルチェンジしたわけではなくHRCが

「こうしたほうが勝てるマシンになるよね」

っていう改良を市販車の段階から実装させたモデル。

SP-2/SC54カタログ

どんだけHRC(レース)しか見てないんだって話。

このSP-2が出るまでの2002年時点でVTR1000SPは

・WSB
・鈴鹿8耐(4連覇)
・ルマン24時間
・マン島TT
・デイトナ200マイル

などなど名だたるレースで勝利をあげタイトル総ナメに近い状態。にも関わらず更なる改良SP-2で鬼に金棒と化した・・・わけですが不運が訪れます。

レース協会がWSBで使うタイヤをピレリのワンメイクにすると発表したんです。

ブラックフレームSP2

レースでミシュランを好んで使っていたホンダはこれに猛反対。

どうもVTR1000SPWはタイヤとのマッチングにシビアな面があったようなので飲むわけにはいかなかったんでしょう。

そしてもう一つの要素がこれまで
『四気筒750cc、二気筒1000cc』
という二気筒優遇だったレギュレーションが
『四気筒1000cc、二気筒1200cc』
へと改定され二気筒1000ccの優位性が無くなるどころか使い物にならなくなった事。

SP2とSPW

まるでVTR1000SPをレースから追い出すような環境に急変したわけです。

これらによりホンダは怒ってワークス撤退を表明。CBR1000RRがこの後を担うようになるわけですが、よっぽど腹が立ったのかワークス参戦はずっとしませんでした。

つまり話を戻すとSP2は登場と同時に余命一年の宣告を受けたという話。

SP2の顔

なんとも悲しい運命・・・かと思いきや実はそうとも言い切れなかったりする。

というのもこのSP2なんと北米では2006年までRVT1000/RC51(SP3~SP6)として非常に人気だったんです。

なぜ北米で人気だったのかというと一つは『デイトナ200マイル』というアメリカで一番人気のある伝統レースで2002年にポールトゥウィンという完璧な勝利をあげ、全米シーズンチャンピオンにも輝いたから。

VTR1000SPとニッキー・ヘイデン

ちなみにその時のライダーは後にMotoGP王者となるニッキー・ヘイデンです。

そしてもう一つはVTR1000Fプロトタイプのくだりを読まれているならおわかりかと思います。

VTR1000SPとニッキー・ヘイデン

「自分たちが欲したVツインスポーツだったから」

ですね。

アメリカン人ライダーがデイトナ200を完勝し性能を証明した自分たち好みのバイク

『名実ともに完璧なVツインスポーツ』

となればそりゃ人気も出ますよね。

VTR1000SPとニッキー・ヘイデン

ただ一方で日本は直4が好まれる上に空前のSSブームが起こっていたので消えたことすら話題になりませんでした・・・まあ広告もほとんど打たずカタログもペライチだった事から見ても、ホンダも数を売るつもりは無かったみたいですから仕方のない話なんですけどね。

そんな登場からわずか4年足らずで消える事となったVTR1000SPですが、このバイクが登場しレースで猛威を奮えば奮うほど界隈からは

「ホンダ大人げないぞ」

という声が聞かれました。

VTR1000SP-2センター

理由は最初に話した通り、二気筒の優遇が顕著になった事でそれまで培ってきたV4を捨ててV2にしたから。要するにプライドは無いのかって話なんですがVTR1000SPWのエンジン設計PLだった野村さんいわく

「抵抗はあったがそれよりも勝ちたかった」

との事・・・SP-1でも言いましたがVTR1000SPって結局これなんですよね。

VTR1000SPはワークス技術を多くの人に提供する意味合いが強かったRVF/V4と違い、自分たちが勝つためのマシンとして造られた意味合いが非常に強い。レースでも今のホンダからは想像がつかないほど貪欲に勝利を取りに行くワークス体勢だった。

ホンダVTR1000SP-2ブローシャ―

当時のホンダは本当に勝利に飢えてたんだと思います。

だからこのVTR1000SPというバイクは多くの人に夢を与え続けてきたホンダが

「自分達も夢を見たい」

とマーケットもブランドもフィロソフィーも、優等生キャラもかなぐり捨て自身の飢えを満たす為だけに造り上げた

『わがままボディのスーパーバイク』

と言えるんじゃないかと。

VTR1000SP-2カタログ

だってVTR1000SP関係の資料をどれだけ調べても勝つ為のこだわりや苦労だけでセールストークが一切見当たらないんですよ。

「いやあ大変でした」

ってニコニコしながら言ってる話しかない。

参考文献:RACERS41

主要諸元
全長/幅/高 2060/725/1145mm
シート高 825mm
車軸距離 1420mm
車体重量 194kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 18L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 999cc
最高出力 136ps/9500rpm
最高トルク 10.7kg-m/8000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70-17(58W)
後190/50-17(73W)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
IFR9H11(標準)/IFR8H11
または
VK27PRZ11(標準)/VK24PRZ11
推奨オイル ウルトラGP(10W-40)
オイル容量 全容量4.3L
交換時3.5L
フィルター交換時3.9L
スプロケ 前16|後40
チェーン サイズ530|リンク106
車体価格
※国内正規販売なしのため
系譜図
VTR1000F前期1986年
VTR1000F
Prototype
VTR1000F前期1997年
VTR1000F
(SC36前期)
VTR1000F後期2001年
VTR1000F
(SC36後期)

VTR1000SP-12000年
VTR1000SP-1
(SC45前期)
VTR1000SP-22003年
VTR1000SP-2
(SC45後期)

【関連車種】
VFRの系譜YZF-R1の系譜GSX-R750の系譜ZX-10Rの系譜

VTR1000SP-1(SC45前期)-since 2000-

SP1サイド

「The V-Twin superbike supreme」

ホンダが出してきたホモロゲーションモデルの中でも異彩を放つVTR1000SP/SC45型。北米ではRC51という非常にややこしい名前も持っていたりします。

まずもってこのバイクが何故誕生したのかというとバイクレースの中でMotoGPとは別に

『WSB(ワールドスーパーバイク)』

という市販車いわゆるスーパースポーツで行われるレースが行われており、この頃は

『四気筒750cc|二気筒1000cc』

というレギュレーション(ルール)でした。

VFR750R/RC30やRVF/RC45が750ccだったのもこれが理由なんですが、90年代後半になると排気量と最低重量の関係で二気筒が非常に有利になった。

そのためいくらRVF/RC45が凄いバイクだったとはいえホンダも苦戦しチャンピオンを逃す年が続いていた。

VTR1000SP-1コンセプトスケッチ

そこでVFR750R/RC45に代わるマシンとして開発されたのがVTR1000SP/SC45というわけ。

元々VTR1000Fというバイクが先に登場していたのでVツインのレーサーも出るだろうと巷で噂されていました・・・が一向に出ず、実際に出たのはVTR1000Fから約3年後となる2000年とかなり遅かった。

この原因は

「VTR1000がSPありきじゃなかったから」

という理由が一つ。

SP1リア

もともとVTR1000F/SC36が開発されていた段階ではまだSPは開発の話すらされていなかったんですね。

じゃあ開発のキッカケは何かというと朝霞研究所(二輪開発部門)がVTR1000Fと同時進行でレーサー仕様をHRC(レース部門)に持ち込んで開発を始めた事。

これにHRC側が目をつけたもののストリート重視でピボットレスだったVTR1000Fベースでは剛性が足りず世界レースで戦うのは難しい(WSBはフレームの変更が禁止)という事から独自にVツインエンジンのプロトタイプワークスマシンを開発。

それを元に擦り合わせるように市販車レベルに落とし込んだ

『HRCスペシャルマシンの市販版』

がVTR1000SP/SC45というわけ。

VTR1000SP-1カタログ写真

「VTR1000Fと同じ部品はウィンカーくらい」

というジョークになってないジョークが生まれるほど全く別物になった事にはこういう背景があった。

ちなみに朝霞研究所はレース開発を取られた気がしないでもないですが、VTR1000Fレーサーもお蔵入りさせるのが勿体なかったのかモリワキの手に渡りVTR1000SPより早い1997年つまりVTR1000F登場と同時にレース出場しています。

モリワキワークスVTR1000F

これ朝霞チューンがベースだったんですね。

ただ発売が遅くなったもう理由はもう一つありました。それは開発の難航。

RC51

Vツインだろうが唯一無二のカムギアトレーンで133馬力(KITで172馬力、ワークスは180馬力以上)というHRCらしいエンジンになっているんですが、難航したのはエンジンではなくフレームの方。

SP1のフレーム

世界レースにも耐えうる剛性を確保するため様々なパターンのフレームが造られたものの、Vツインという未知の領域への挑戦だった為なかなか満足のいくものが出来ず試行錯誤の連続で最終的に50以上ものフレームを製作する事になったんだそう。

これらのため本来ならば1999年からの予定だったのが1年遅れて2000年からの発売&ワークス参戦となりました。

HRC_RC51

ちなみにVTR1000SPがエキスパート向けと呼ばれる部分もここにあります。

VTR1000SPは”一応”市販車でRVFの様な限定でも超高額マシンでもなかったから比較的誰でも買うことが出来ました。しかし同時に決して誰でも乗れるのようなバイクでもなかった。

・Vツイン特有の瞬発力ゆえ繊細さを求められるアクセルワーク
・非常に硬いサスペンション
・強力過ぎるブレーキ
・低速ではすぐにオーバーヒート

などなど色々あるんですが、やっぱり一番はフレームの想定域が高すぎて生半可な走りを受け付けないほど硬派というか硬かった事。

SC57

レースを視野に開発されたホモロゲーションモデルが乗りにくいのは珍しい事じゃないんだけど、それを考慮しても完全に割り切ってるとしか思えないほどだった。

じゃあレースではどうだったのかというと2000年に市販車世界レースWSBにVTR1000SPWでワークス参戦するやいなやコーリン・エドワード(写真左#2)がチャンピオンを獲得。

2000年VTR1000SPW

デビューイヤーでいきなり目的を達成したわけですが、それだけじゃないのがこのバイクの凄いところ。

同年の鈴鹿8耐でも宇川徹&加藤大治郎コンビがコースレコードを更新するほどの速さで優勝。

8耐VTR1000SPW

ちなみに翌2001年も皆さんご存知バレンティーノロッシが勝利しV2を達成しています。

更には二気筒としては史上初となるルマン24時間耐久レースの優勝。そしてそしてマン島TTでも2000年にミスターマン島ことジョイ・ダンロップの最多勝利数にも貢献。

8耐VTR1000SPW

なんと銅像まで建てられました。

結局これがSPがどういうバイクかを如実に表していますよね。

市場からの評価は決して良いとは言えなかったけど、一方レースではこれ以上無いほどの戦果を上げた。

これが何故かといえばVTR1000SP/SC45はユーザーに最高だと思ってもらう為に開発されたバイクじゃないから。

VTR1000SP-1

「HRCを始めレースで戦う者にとって最高だと思える為に造ったVツインだったから」

ですね。

主要諸元
全長/幅/高 2060/725/1120mm
シート高 815mm
車軸距離 1410mm
車体重量 200kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 18L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 999cc
最高出力 133ps/9500rpm
最高トルク 10.7kg-m/8000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70-17(58W)
後190/50-17(73W)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
FR9BI-11(標準)/FR8BI-11
または
IK27C11(標準)/IK24C11
推奨オイル ウルトラGP(10W-40)
オイル容量 全容量4.3L
交換時3.5L
フィルター交換時3.9L
スプロケ 前16|後40
チェーン サイズ530|リンク104
車体価格
※国内正規販売なしのため
系譜図
VTR1000F前期1986年
VTR1000F
Prototype
VTR1000F前期1997年
VTR1000F
(SC36前期)
VTR1000F後期2001年
VTR1000F
(SC36後期)

VTR1000SP-12000年
VTR1000SP-1
(SC45前期)
VTR1000SP-22003年
VTR1000SP-2
(SC45後期)

VTR1000F(SC36後期)-since 2001-

SC36後期

「心震わすスーパーVツイン」

VTR1000Fの後期モデル。

後期モデルで燃料タンクが2L増えてハンドルの垂れ角も見直され若干ツアラー寄りになりました。HISSも新たに装備。

ファイヤーストーム後期

最初にこのFモデルこそVTR1000だと言ったんですが、それは構造だけでなく欧州が求めた”味”の部分まで非常に良く出来てるから。

ツインならでは細身やトルク感はもちろんのこと、ピボットレスフレームのおかげで程よいダルさ。

上手い人が乗ると圧倒的にSPモデルの方が速く走れるだろうけど、恐らく大半の人はこのVTR1000Fの方が速く楽しく走れる。

ファイヤーストーム

車名にFコンセプト(オールマイティ)の意味を表すFが付いてるだけの事はあるってことです。

VFやVFRなど数々の大型バイクを手がけてきた開発リーダーの齋藤さんも

「公道で最大に楽しめて2乗りも出来る究極のFを目指した」

と仰っています。

でも残念なことにキャブモデルだったのが災いし、排出ガス規制強化により2007年モデルをもって生産終了となってしまいました。

バラデロ

同じエンジンを積んだXL1000バラテロはFI化して2013年まで売られたんですが・・・。

まあVツインスポーツのメイン市場である欧州ではやっぱりドゥカティが強いし、日本勢はSVが快進撃を繰り広げてましたからね。

肝心の日本も四気筒がステータスでVツイン市場は無いに等しいから。

ファイヤーストームカタログ写真

ただこの件にしては開発チームも既定路線というか分かっていたみたいです。

エンジン設計をされた角さんがまだ絶賛発売中だった当時の時点でこう仰っていました。

「VTR1000Fの出発点は四気筒と二気筒に乗る人は人種が違うということ。だからいくら今売れているからといっても二気筒は二気筒・・・VTR1000Fがメジャーになることは無いと思います。でもそれでいいと思うんですよ。二気筒は四気筒に飽きた人が、四気筒にはないアクセルの開けやすさと低域の不安定さを楽しむ為のマニアックな乗り物。」

SC36カタログ写真

「そしてVTR1000Fはそういう人の為のバイクなんです。」

主要諸元
全長/幅/高 2050/720/1155mm
シート高 810mm
車軸距離 1430mm
車体重量 218kg(装)
燃料消費率 25.1km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 18L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 995cc
最高出力 93ps/8500rpm
最高トルク 8.7kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70-17
後180/55-17
バッテリー FTX12-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EVX9
推奨オイル ウルトラG2/G3(10W-40)
オイル容量 全容量4.5L
交換時3.7L
フィルター交換時3.9L
スプロケ 前16|後41
チェーン サイズ525|リンク102
車体価格 920,000円(税別)
系譜図
VTR1000F前期1986年
VTR1000F
Prototype
VTR1000F前期1997年
VTR1000F
(SC36前期)
VTR1000F後期2001年
VTR1000F
(SC36後期)

VTR1000SP-12000年
VTR1000SP-1
(SC45前期)
VTR1000SP-22003年
VTR1000SP-2
(SC45後期)