「スーパースプリント アメリカン」
対北米戦略車として造られたVmaxまたはVMX1200。
昔はV-MAXとハイフンが付いたりしていたのでハイフンがあったり大文字だったりしても間違いではないんだけど、一応いまはVmaxと小文字で書かれるように統一されているようです。
さて
「アメリカを造る」
という目標から始まったプロジェクトは、当時としては最高馬力となる145馬力を引き下げたドラッガーへとたどり着きました。
まずこうなった経緯から説明すると、この頃のヤマハは日欧でこそ人気を獲得していたけど北米では今ひとつ波に乗れていない状態だった。
そんな中でUSヤマハからある提案がされました。
「V8のマッスルバイクを造れ」
という言っている意味がよく分からない提案。
しかしヤマハは郷に入っては郷に従えと、開発チームをアメリカに送り出した。
そこで目にしたものは若者から年配の人まで夢中になってドラッグレースを楽しんでいる姿だった。
そういう事かと理解したヤマハは
「ゼロヨン10秒を切るバイク」
という目標を掲げ、当時最大排気量だったベンチャーロイヤルのV4エンジンをベースに145馬力という当時としては最高となる馬力を叩き出すエンジンを開発したというわけ。
しかし見てもらうと分かる通り、VmaxのエンジンはVの挟み角が90°ではなく少し狭い70°になっている。
だから点火タイミングも180-270-470-720と、180°の直四とも、同じ180°クランクのV4とも、ハーレーなどに代表される45°Vツインとも違う独特なもの。
何故70°なのかというと
・狭くして間延び感を抑え生きたサウンドを出したい
・でもキャブレターは4つ積みたい
という反比例する二つの狙いを両立させるために導き出した挟み角が70°だったから。
ただし90°でないため一次振動という大きな振動が発生する。だからVmaxはその振動を消すために馬力ロスとなる一次バランサーを採用しています。
つまり馬力を出すにはVmaxのエンジンは不利な形・・・にも関わらずVmaxが145馬力を叩き出せたのは、有名なコレのおかげ。
「V-BOOST」
ですね。
V-BOOSTというのは一気筒に一つ付いているキャブの下にある混合気の通路インテークマニホールドの前後を連結(貫通)させて擬似的に一気筒デュアルキャブにする仕組み。
簡単に表すとこんな感じで、6000rpmから徐々に開き、8500rpmで全開となります。
これはキャブレターが横並びな直四ではなく前後にあるV4だから可能となった仕組みであり、微塵もガソリンを惜しまないアメリカ向けらしい仕組みですね。ちなみに燃費は街乗りで10km/L前後。
そして合わせて必須となるのがW吸気でも枯渇しない大容量エアクリーナーボックス。
そのためVmaxはタンク下が全面エアクリボックスとなっておりガソリンタンクはシート下。
これは低重心にするためでもあるんだけど、この関係でタンク容量はリザーブ込みで15Lしかない。
つまり10km/L×15Lで街乗りしていると満タンでも150km/Lしか走れないという割り切りっぷり。
ちなみ吸気はVmaxのトレードマークでもある大きなエアダクトから・・・と思いがちだけど実はこれダミーで、本当はこのダミー同士の間から普通に吸っていたりします。
ここで少し面白い小話をすると、このVブーストはフルパワーの逆輸入車のみに付けられた構造で、国内仕様には付いておらず95.2馬力しかなかった。
そのことから日本でも年を追うごとに(後にワイズギアからV-BOOSTキットが出たものの)逆輸入が人気となりました。
しかし逆輸入と一重にいってもVmaxだけで主に7つの仕様地があり馬力はバラバラ。
カナダ仕様 | 145馬力 |
アメリカ仕様 | 143馬力 |
カリフォルニア仕様 | 135馬力 |
南アフリカ仕様 | 135馬力 |
欧州仕様 ※V-BOOST無 | 100馬力 |
日本仕様 ※V-BOOST無 | 97馬力 |
他にもフランス仕様などもありますが、代表的な仕様地はこれくらい。つまり最高馬力のフルパワー仕様はカナダ仕様という事になる。
そのため
「カナダ仕様こそ真のVmax」
という認識が広まった。
ただし差があると言っても数馬力で、晩年には横並びとなったのに
「カナダ仕様こそ真のVmax」
という認識は生産終了まで覆る事はなくカナダ仕様だけが突出して人気でした。
どうしてここまで仕様地へのこだわりが生まれたのかと言えばもちろん
「怒涛の加速」
を最高の形で味わいたい人が多かったからでしょう。
発売当時フルスロットルに出来る人は誰も居ないんじゃないかと言われるほどでした。
「SSの方が速いんじゃないの」
と思う人が居るかもしれませんね。
たしかにタイムや実速度だけで見ると昨今のSSの方が速い。でも乗り比べてどちらが速く感じるかと言えば10人中10人がVmaxと答えるでしょう。
それはこの伏せようにも伏せられない体感的な速度やGを考慮していない低いポジション。
そこに合わせられる6000rpmからターボのようにドッカン加速するVブーストがあるから。
Vmaxは
「”乗る”ではなく”しがみ付く”バイク」
と言ったほうが正しい感じです。
ただそんな狂気さにはもう一役買っている要素があります・・・それはヘロヘロなフレーム。
普通に走っていても剛性が足りていないのを感じ取れるほどヘロヘロだったから
「設計ミスじゃないのか」
とか
「リコールしろ」
とか言われる始末でした・・・が、これはワザとそうしているんです。
その狙いはコンセプトの一つにあります。
「何よりもエンジン」
というコンセプト。
「とにかくエンジンを、エンジンだけを感じ取って欲しい」
という思惑があり、それにはエンジンを受け止めるフレームの包容力は邪魔な存在。
だから可能な限り剛性を落とし存在感を消しているというわけ。
ただこれにはVmaxが歴史に名を残す事となったもう一つの理由、デザインにも関係しています。
Vmaxは見て分かる通り
「アメリカの具現化」
がデザインコンセプトです。
そこで開発チームの一員でもあったGKデザインの一条さんは、アメリカでアメ車の代名詞であるV8エンジンの車を中古で購入。
そして乗り回しているうちに
「デカいエンジンに緩いボディで力任せに地面を蹴る愛おしい感覚こそアメリカ」
という事に気付かされた。
Vmaxのフレームが弱い理由はここにも繋がっているというわけ。
ちなみにVmaxを手掛ける上で一条さんが大事にしたのは
「マイナスのデザイン」
という考え。
Vmaxというと”マッチョ”という言葉がピッタリなんですが、よく見てみるとシート回りやエキゾーストなど絞る所は徹底的に絞ってある。
これが
「膨らみを持たせる程、膨らんでいないマイナスの部分が際立つ」
というマイナスのデザイン。
センスの次元が違いすぎて今ひとつピンと来ない人も多いと思います。
しかしそんな人も一条さんがVmaxのデザインで強く影響されていると言った物を見れば、その意味が分かります。
そしてその強く影響されている物も、これまた実にアメリカらしい物。
米空軍の戦闘機F102です。
言われてみれば確かにボディ後部のクビレと前方にあるエアダクトなどVmaxと通ずる所がありますね。
ちなみに一条さんは根っからの飛行機好き。
言い忘れていましたが、タイトルに型式を書いていないのは物凄い数になるからで・・・モデルチェンジの略歴を含め箇条書きで書いていこうと思います。
初期型 1985~1986
フロント5本スポークホイール。
カナダ仕様:1GR/1VM
アメリカ仕様:1FK/1UT
カリフォルニア仕様:1JH/1UR
二型 1987~1989
フロントのディッシュホイール化。
カナダ仕様:2LT/3JP3
アメリカ仕様:2WE/3JP1
カリフォルニア仕様:2WF/3JP2
三型 1990~1992
デジタル進角&吸排気見直し
カナダ仕様:欠番
アメリカ仕様:3JP-4/7/9
カリフォルニア仕様:3JP-5/8/A
日本仕様:3UF-1/2
四型 1993~1994
フロントフォーク大径化&ディスクローターの大径化&4POTキャリパー化など。
カナダ仕様:3JP-B/E
アメリカ仕様:3JP-C/F
カリフォルニア仕様:3JP-D/G
日本仕様:3UF3/4
五型 1995~2002
レギュレーター・クランクケース変更&カートリッジ式オイルフィルターへ変更
翌96年にはドライブシャフト周りが見直されカナダが140馬力に、アメリカ仕様が135馬力にダウン。
カナダ仕様:3JP-J/K/L/R/U/|5GK-1/4/7/B
アメリカ仕様:3JP-H/M/S/V/X|5GK-2/5/9
カリフォルニア仕様:3JP-J/N/T/W/Y|5GK-3/6/A
日本仕様:3UF-5/6 ※1998年モデルをもって廃止
最終型 2003~2007
点火方式をデジタル化とサスペンションのリセッティング。
カナダ仕様140馬力(最終年度135馬力)、アメリカ仕様&南アフリカ仕様135馬力
カナダ仕様:5GK-E/N/T/Y|4C4-5
アメリカ仕様:5GK-C/L/R/W|4C4-3
南アフリカ仕様:5GK-G/H/P/U/V|4C4-1/2
となっています。
オーナー間では通称型式ではわかりにくいので、認定型式で区別するのが広まっているようですね。
補足:車名に続く記号(型式)について~認定型式と通称型式~
最後に
改めてVmaxを振り返ってみると、最後の最後まで変わらずとも色褪せなかった名車ですね。
何がそんなに人を惹きつけたのかと言えばデザインと、そのデザインに負けない
「怒涛の加速」
でしょう。
この怒涛の加速が一体どんなものなのかというのは実は簡単に説明できるんですよ・・・なぜならVmaxに乗ったことがない人も怒涛の加速を知ってるから。
それは初めてバイクに乗ってアクセルを捻った時です。
首がモゲると思ったその感覚、ウィリーして吹っ飛ぶと思ったその感覚。
Vmaxはそんな懐かしい感覚を思い出させてくれる怒涛の加速を持ったドラッガー。
病み付きになる人が多いのも納得でしょう。
主要諸元
全長/幅/高 |
2300/795/1160mm |
シート高 |
765mm |
車軸距離 |
1590mm |
車体重量 |
283kg(装) |
燃料消費率 |
– |
燃料容量 |
15.0L |
エンジン |
水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 |
1197cc |
最高出力 |
145ps/9000rpm |
最高トルク |
12.4kg-m/7500rpm |
変速機 |
常時噛合式5速リターン |
タイヤサイズ |
前110/90-18(61V) 後150/90-15(74V) |
バッテリー |
YB16AL-A2 |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
DPR8EA-9 または X24EPR-U9 |
推奨オイル |
– |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量4.7L 交換時3.5L フィルター交換時3.8L |
スプロケ |
– |
チェーン |
– |
車体価格 |
890,000円(税別) ※スペックはフルパワー仕様 ※価格は90年国内仕様 |
系譜図