エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない ~規格・添加剤・劣化など~

エンジンオイル

第十一回目はエンジンオイルについて。

エンジンオイルというのは

『潤滑・清浄・密封・冷却』

早い話がエンジンという精密機器を保護する人間でいう血液みたいな役割。

オイルは血液

というのは今さら説明する必要はないかと思いますが、おさらいも兼ねて規格から説明していきます。

オイル缶には大体この四つが記載されています。

オイル規格

長くなる癖があるので、ものすごく噛み砕きつつサクサク説明していきます。

『SAE規格(Society of Automotive Engineers)』

SAE規格

アメリカ自動車技術者協会が定めた規格。

これは

『冷えるほどドロドロで、熱くなるほどサラサラになる性質があるオイル』

においての寒暖差による粘度変化を表しているもの。

例えば10w-40の場合

10w=マイナス25℃でも凍らずに(凝固せずに)始動可能な粘度を保つ

40=オイルが100℃の時に40番程度の粘度を保つ

という意味で合わせて【”10w”-“40″】という事。

決して二つの粘度のオイルを混ぜているわけではありません。

トヨタキャッスルオイル

これが例えばクルマで主流な0w-20だったらマイナス35℃でも始動可能な粘度を保ち、100℃になった時は20番程度の粘度ですよという表記・・・って最近は16まで下がってるんですね。

粘度を下げてフリクションを減らすためなんでしょうが、燃費競争恐るべし。

昔は「SAE 40」や「SAE 30」といった単一粘度しか書かれていないシングルグレードがメジャーでした。

これは粘度調整技術がまだ発達していなかった時代に生まれたもので、粘度(温度)の許容範囲は当然10w-40などのマルチグレードより狭いです。

シングルグレードとマルチグレード

今どきのマルチグレード車なら真冬の宗谷岬に行くとかでない限り、基本的に上の粘度だけ合わせておけば大丈夫です。

ちなみに掛け離れた粘度の物を入れるとオイルポンプを壊したり、詰まったり油膜切れ起こしたりして壊れる恐れがあるのでご注意を。

特に指定より柔らかい(番手が低い)オイルを入れるのはオススメしません。

『API規格(American Petrileum Institute)』

API規格

これはアメリカの石油協会が定めた規格。

SAEが粘度を示す規格だったのに対し、このAPIはオイルの性能を示す格付けの様な規格。

SA(Sはガソリン車の意味)から始まりSB、SCと来て今ではSNまであります・・・が、今どきはほぼSL~SNな上にバイクの場合はあまり参考にならないので気にしないで大丈夫です。

『JASO規格(Japanese Automobile Standards Organization)』

JASO規格

バイクで一番見ないといけないのはこれ。

日本自動車規技術会が定めた二輪専用規格。つまりバイク用オイルにしか記載されていません。

この規格が生まれたのは先に紹介したAPI規格においてエコの観点から『耐摩擦』が重要視されるようになったから。

そのためオイルに『摩擦低減剤』という添加剤を入れる様になったわけですが、ミッションやクラッチが一体(同じオイルを使う)バイクにこの摩擦低減剤の入ったオイルを入れると滑ってしまう。

JASO規格

そこで用意されたのがこのAPI規格と二輪特性を掛け合わせたJASO規格で、これには四種類あります。

JASOグレード

MA:摩擦係数の高いグレードでMT車の大半はこっち

MB:摩擦係数が低いグレードでベルト駆動のスクーターなどに多い

MA1:MAを低粘度にすることでフリクションを軽減した小排気量向け

MA2:MAを高粘度にして過酷な環境での油膜切れを防ぐ大排気量向け

MA1/MA2は2006年からですが、MA1と指定されているバイクはMA1を、MA2と指定されているバイクはMA2を入れなくてはいけません。

【ここで注意点】

自分のバイクは

「MTバイクだからMAだろう」

とか

「スクーターだからMBだろう」

と勝手に思い込まないように。

ヤマハだけみてもXJR400やFZRシリーズはMB指定、スクーターのTMAXはMA指定だったりと例外は結構あります。

オーナーズマニュアルで一度は確認しておきましょう。

次が最後で本題で長い話。

『基油分類』

オイルのグレード

これはいわゆるエンジンオイルのベースのグループを表す言葉でAPIが定めた分類。

鉱物油とか全合成とか聞いたことがあると思います。そしておそらく多くの人が一番気にする項目かと。

『グループI(ミネラル系)』

重質油を溶剤精製した鉱物油がベース。

『グループII(HIVI系)』

重質油を水素化処理した精製鉱油がベース。

※HIVI=HIgh Viscosity Index

『グループIII(VHVIもしくはXHVI系)』

グループIIを高度水素化分解した超高度水素化精製油または天然ガス(XHVI※シェルのみ)がベース。

※VHVI=Very High Viscosity Index

※XHVI=eXtremely High Viscosity Index

~ここまでが鉱油~

『グループIV(PAO系)』

軽質油のエチレンガスから重合して作られる合成系炭化水素がベース。

※PAO=Poly α Olefin

『グループV(エステル系)』

アルコールと脂肪酸によるエステル系など上記に属さない基油がベースのもの。

最近では大豆ベースのオイルが注目されているそう。

で、実際これがどう表記されて売っているのかというと

グループI:鉱物油

グループII:鉱物油または部分合成油

グループIII:全合成またはシンセティック

グループIV:化学合成油

グループV:化学合成油

と非常にわかりにくい。

特にややこしいのがグループ3の合成油(シンセティック)です。

これはカストロールとモービルが起こしたVHVI係争が起因。

カストロール

90年代にカストロールがVHVI(グループ3)ベースのマグナテックというオイルを

「合成油」

として売り出しました。

それを見たもう一つの有名なオイルメーカーであるモービルが

モービル

「グループ3(鉱油)なのに合成油とは何事か」

とNAD(アメリカの広告審議会)に意義を申し立てたんです。

結果は・・・セーフ。

この一件でそれまで部分合成油として売っていたオイルが全合成油になったり、化学合成油が100%とか言われ始めたりしました。

表記義務がないので場合によってはグループ3なのにフルシンセティックとか化学合成油とか言われていたりします。

この事からオイルにうるさい人の中には

「VHVI(グループ3)の化学合成油は偽物だ」

とか

「PAO(グループ4)やエステル(グループ5)こそ真の化学合成油だ」

とか言う人も居ます・・・。

が、必ずしもそうじゃないんですよ。

大きな石油メーカーやオイルメーカーがグループ3の全合成を高性能オイルだとして売っているのはセールスのためだけではなくちゃんと根拠があります。

オイルパーツ

そもそもオイルにおいて大事なのはベースの種類でなく性能。

その中でも非常に重要視されているのが

『粘度指数』

という数値です。

粘度指数というのは

「温度による粘度変化の強さ」

を表す数値。

もっと簡単に言うと

「冷たいとドロドロで、熱いとサラサラな性質を何処まで克服出来ているか」

という事。

粘度指数

良いオイルは粘度指数が高く粘度変化が緩やかで熱くなっても粘度があまり変わらない。

反対に悪いオイルというのは粘度指数が低く温度で粘度が急激に大きく変わる。

科学合成油の強みは油から使える分子を抽出(精製)して作る鉱物油に対し、化学合成油は使える分子を組み立てる(重合する)形で大きさを統一することが出来る事。

鉱物油と合成油

だから粘度指数を始めエンジンオイルとして狙った基本スペックを高める事が出来る。

「化学合成油は高性能」

と言われるのはこれが大きな要因。

そして高性能なエンジンが化学合成油前提だったりするのは高温時も粘度をしっかり保つ事を前提に作ってるから。

我々からすると寿命や清浄性が高い事が良いエンジンオイルですが、エンジニアの人たちにとっては

『どんな状況でも粘度が変わず安定している』

というのが良いエンジンオイルなんです。

じゃあ大手が高性能オイルとして売っているグループ3はどうかというと、実はグループ4や5となんら遜色ない粘度指数を持っています。

つまり

「グループ3だから4や5より低性能なオイル」

とグループ(基油)だけで判断するのは違うという事。

それにグループ4や5が完全な上位互換というわけでもないんですよ。

PAO系(グループ4)はシールを縮小させたり耐摩擦性が高すぎるデメリットがある。

エステル系(グループ5)はシールを膨張させたり水を吸って粘度低下を招きやすいデメリットがある。

特に注意してほしいのが高性能オイルの代名詞として崇められているエステル系。

エステル系は確かに冷却や潤滑など基本性能が飛び抜けているんですが、脱水して作られる化合物であることから水分を非常に吸いやすいデリケートな性質を持っています。

エステルは基本的にレースなど『ここ一番』というときに使う短期決戦オイルと思ってください。

添加剤の調合

その点VHVI系(グループ3)はそれらと遜色ない性能を持ちつつもシールへの攻撃性がなく何より鉱油ベースなのでローコスト。

VHVIにPAOやエステルをブレンドした合成油が主力となっているのはこれが理由。

以上が規格の話・・・ですが、エンジンオイルというのは基油だけでなく添加剤を加えて初めて完成するもの。

バイク用オイルの添加剤

だいたい基油8に対して添加剤2と言われています。

ザックリ分けて説明すると

『清浄・分散剤』

燃焼によって発生するカーボンなどの汚れをエンジンに付着させず吸収し保持するための添加剤。

エンジンオイルが黒くなるのはこれが吸収して留めているから。

つまり黒くなっているのはこの添加剤がちゃんと働いている証拠。

「色で交換時期は分からない」

というのはこれが理由。

いつまでも綺麗なままの方が逆に危ないです。ただし白くなったり濁ったりしていた場合、それは冷却水やガソリンなど異物が混じった可能性が高いので要交換です。

『酸化・錆防止剤』

オイルの酸化やエンジンの錆を抑制する添加剤。

『耐荷重添加剤』

摩耗や焼付きを防ぐための添加剤。

紛らわしいのですがクラッチを滑らせる摩擦低減剤とは違い、鉄のコーティング剤の様なもの。

クランクメタルオイル

始動直後にエンジンを全開にしたりするとクランク(メタル)が壊れたりするのは、この添加剤が低温では働かないから。

ちなみにオイルのベストな温度は100℃前後と言われています。

『消泡剤』

添加剤を入れると泡立ちがしやすくなり、結果としてエアを噛んで油圧が下がってしまう。

それを防止するため、添加剤のデメリットを消すための添加剤。

これ以外にも添加剤のせいで汚れやすくなるならカルシウム入れたり・・・とエンジンオイルというのはまさに薬漬け。

『粘度指数向上剤』

オイルが熱せられても粘度を保ち、油膜切れを起こさない様にするための添加剤。

ポリマー

子供の落書きかと言われそうですが、本当にこんな鎖状の形。

熱せられると大きく広がって粘度を増加させる働きがある。

つまり名前の通り粘度指数向上剤を入れると粘度指数が上がります。

ポリマーの有無

「じゃあこれ入れれば全部高性能オイルじゃん」

と思いますよね。

しかしこの粘度指数向上剤には大きな弱点があるんです。

それは

『熱やグリグリと潰される事』

がとっても苦手という事。

オイルフロー

つまりミッションやクラッチでオイルをグリグリと潰すバイクとは特に相性が悪い。

粘度指数向上剤で底上げすればするほど劣化による粘度低下の幅も大きく、急激な劣化を招いてしまう。

ワイドレンジでロングライフなオイルが(元の粘度指数が高い)合成油のみで鉱物油に無いのはこれが理由。

高いせん断性

同時にバイクメーカーが自社ブランドのバイク専用オイルで”せん断安定性の高さ”をアピールしているのは、この

「グリグリによる粘度低下に強いオイルですよ」

という事をアピールしているわけで、

『粘度で劣化は分からない』

というのもこれが理由。

粘度指数向上剤の効果が分かるのは100℃のとき。100℃のオイルを触ったら分かるかもしれませんが大やけどです。

オイルの劣化

粘度で判断してはいけない理由はもう一つあります。それは劣化が進むと粘度が上がるからです。

これは粘度指数向上剤が復活するわけではなく『酸化防止剤』が尽きてしまった事が原因。

オイルの劣化

酸化防止剤が尽きてしまったオイルは当然ながら酸化を防げなくなり、酸化物重合体(スラッジなど)の大量発生を許し粘度がどんどん上がっていく。

俗に言うワニス化というやつです。

「一度もオイル交換していないエンジンを開けたら中がドロドロだった」

といった類のモノを見たとこがある人も多いかと。

メーカー指定オイル交換時期

『5,000kmまたは1年で交換してください(※車種による)』

とメーカーが走行距離だけでなく期間で交換時期を定めているのは、この粘度低下と酸化の両方を考慮しているから。

それに加えて

「シビアコンディションの場合は早めに」

と言っているのはこれらが環境や使い方によって大きく変わるから。

特に大きなウェイトを占めているのが熱で、オイルの温度が上がるとそれだけ熱酸化が促進される。10℃上がると寿命が半減すると言われています。

結局の所エンジンオイルの交換時期というのは色や粘度で判断せず

「サービスマニュアル通りに交換しましょう」

という話。

長々と書いておいてそれかよと言われそうですが。

最後に小話・・・

オイル交換

「高いオイル(合成油)を長く使うか、安いオイル(鉱物油)を頻繁に変えるか」

といった議論というかポリシーを見たり聞いたりした事があると思います。

どちらも間違いではないと思うのですが、個人的には合成油を長く使うほうが良いかと思います。

というのも基油で話した鉱物油や合成油といったグループ分けには、粘度指数だけではなく『硫黄分』や『飽和分』というチェック項目があります。

APIグループ

これは要するに不純物の事。

そしてこの不純物というのはスラッジやデポジットの元なんです。

これは焼付きや摩耗を防ぐ耐荷重添加剤にも入っているのですが、同様にエンジンを汚す原因で最近では石油メーカーも硫黄分を含まない添加剤へシフトしています。

ZPテクノロジー

つまり安い鉱物油を頻繁に変えるというのはスラッジやデポジットの元をどんどん注いでいる・・・というのはちょっと大げさな言い方ですが、どっちか選べと言われたらしっかり脱硫してあり酸化や粘度低下に強い合成油や化学合成油を入れたほうが良いかと。

最後の最後に

「おすすめのオイルを教えてくれ」

と言われそうなので紹介します。

おすすめは・・・バイクメーカーの純正オイルです。鉱物油入れるなら絶対と言っていいくらい。

純正オイル

純正オイルは石油メーカーオイルに自社のラベルを貼ってるだけと思ってる人が多いですが違いますよ。

純正オイル

純正オイルというのはメーカーの科学部門エキスパートと大手石油メーカー(出光興産・昭和シェル・JXTGなど)がタッグを組み、お高い実験設備や実際に使われるエンジンを用い過酷な実験を繰り返した末に作られている高性能オイルです。

そして高性能オイルながら標準採用というスケールメリットによって、サードパーティ製には不可能なコストパフォーマンスの高さも持っています。

はてな一覧
フレームQandA第一回
フレームの種類と見分け方

馬力とトルク第二回
ジャングルジムで学ぶ馬力とトルク

サスペンションセッティング

第三回
難しくないセッティングプリロード調節

簡単だから要注意なメンテナンス

第四回
簡単だからこそ要注意日常メンテナンス

認定型式と通称型式

第五回
車名に続く記号について
~認定型式と通称型式~

個人売買は絶対ダメ

第六回
バイクの個人売買は絶対ダメ

アマリングの誤った消し方と安全な消し方

第七回
アマリングの誤った消し方と安全な消し方

エンジンブレーキ

第八回
エンジンブレーキの仕組みとデメリット

知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

第九回
知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

第十回
点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

第十一回
エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

リザーブタンクは高性能の証~リアサスペンションの構造~

第十二回
リザーブタンクは高性能の証
~リアサスペンションの構造~

サーキット初心者のススメ

第十三回
一生に一度はサーキットを走ろう
~サーキット初心者のススメ~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十四回
大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない
~大型はいいぞおじさんの巻~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十五回
スポーツバイクのポジションがキツい理由

タイヤの手組みは損して得取る

第十六回
タイヤの手組みは損して得取る
~交換の手順と留意点~

徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

第十七回
徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

バイク事故の原因~自損・単独事故編~

第十八回
バイク事故の原因~自損・単独事故編~

バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

第十九回
バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

バイク事故の原因~雑学編~

第二十回
バイク事故の原因~雑学編~

コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由~ファストアイドルの必要性~

第二十一回
コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由
~ファストアイドルの必要性~

フレームの種類と見分け方

フレームの種類

第一回目はフレームの種類について。

フレームというのは人間で言えば骨格のようなものでエンジンを始めとした主要部品を載せる土台であり、同時にエンジンからタイヤまで様々な部分から来る力を吸収する役目も持っています。

まあ今回はそんな小難しい話は置いといて

「フレームの形や名称が多すぎて分からない」

という事。確かにフレームは形はもちろん名称までメーカーによってバラバラだったりしますからね。これは「バイク豆知識:デルタボックスのデルタな部分」とちょっと内容が被ってしまうのですが、リクエストもあったのでもう一度分かりやすく書いていきます。

見分け方としてはザックリ言うとエンジンをどういう形で囲っているのかで見分ける事が出来ます。

シングルクレードルフレーム

シングルクレードルフレーム

文字通りシングル(一本)、でエンジンの周りのクルッと一本のフレームで囲っているシンプルイズベストなフレーム。

なんですがシングルクレードルフレームを採用しているバイクは剛性や強度の問題でほとんど無い。

※ここで補足

”剛性”って何となく聞いたことがあると思います。これは簡単に言うとフレームの変形しにくさ事。

ややこしいんですが”強度”とはまた別。強度というのは壊れにくさの事です。

フレームというのは曲がる際に適度に撓る必要があるのですが、剛性が低いとスピードを出した時(フレームに大きなストレスがかかった時)にいわゆる

『フレーム負け』

とよばれる問題が出てしまい、思ったように曲がれなかったり直線でまっすぐ走れなかったりしてしまう。人間でいうと腰砕け状態みたいな感じ。

極端ですが例えばママチャリで100km/h出したら曲ると間違いなく転けそうで怖いですよね。それはママチャリがそんな高負荷を想定したフレームではないからという部分が大きい。

じゃあ高ければ良いのかって言うとそうでもなく、最初に言ったようにフレームというのは曲がる際には適度に捩れる必要性がある。

再び極端な例えとして300km/h出る超高性能な大型スポーツバイクが、40km/hくらいのなんてこと無い速度で曲がろうとして”ステーン”と転んでしまう場面や動画を見たことあるかと思いますが、あれは剛性が高すぎてフレームが全く撓らないから。

“撓り”というのは”粘り”ともいえる要素で、ちゃんと走行に合った適度な剛性が必要というわけです。

話を戻します。

次に紹介するのはそんな剛性をもうちょっと上げたくて生まれたシングルクレードルフレームの進化系。

ダブルクレードルフレーム

ダブルクレードルフレーム

文字通りクレードルをダブルにしたフレーム。ヘッドパイプ(ハンドルを付ける部分)からグルッとパイプが左右それぞれエンジンの四隅を囲うように伸びているのが特徴的。

CBシリーズやXJRシリーズ、Bandit1250やDAEGなどいわゆるジャパニーズネイキッドスタイルのバイクに多く採用されています。赤フレームのCBが分かりやすいですね。

ダブルクレードルフレームCB400SF

グルッとエンジンを囲っているのがわかると思います。反対側も同じような形。

ちなみにこの形を更にギューっと下に押しやったのがスクーターによく使われるアンダーボーンフレーム。

アンダーボーンフレーム

これはスカイウェイブ400のフレームです。

ただしダブルクレードルフレームというのはシングルに比べてパイプが二本になるのでそれだけ重くなってしまうデメリットがある。

そこで次に紹介するのが

・軽いけど剛性が低いシングルクレードル

・剛性が高いけど重いダブルクレードル

この2つを掛け合わせたようなフレーム。

セミダブルクレードルフレーム

セミダブルクレードルフレーム

シングルクレードルフレームをベースにダウンチューブ(下側のフレーム)を途中から二本にしているフレームの事。

シングルの軽さや細さとダブルの高剛性その両メリットを取り入れた形のフレーム。

これを採用している車種は多いです。一般的なクラシック系はもちろん、オフロードバイクやハーレー等など、ハイスピード時の剛性よりも軽さの方が大事なバイクはだいたいこのフレーム。

セミダブルクレードルフレームWR250X

バイクではこのフレームが基本形といえるほど普及しているので、これをシングルクレードルフレームと言ってるところもあります。

ここでクレードルフレームのおさらいを兼ねて少し問題。上の写真はWR250Xでよく見てもらうと分かるのですがメインチューブ(上側のフレーム)も二本ありますよね。フレームだけで見るとこんな形。

セミダブル

これはYZ450Fのフレームなのですが形は上のWR250Xと近いです。

さて、これはダブルクレードルフレームでしょうか?

それともセミダブルクレードルフレームでしょうか?

正解は

『セミダブルクレードルフレーム』

です。

理由はダウンチューブ(下側のフレーム)が”途中で別れてるから”ですね。トップチューブ(上側のフレーム)は一本でも二本でも関係ありません。

少し意地悪な問題だったかもしれませんが、フレームというのは多種多様で

「限りなくダブルクレードルに近いセミダブルクレードル」

と結構曖昧な部分もあったりするわけです。

クレードル系のフレームはこれで全部になります。

クレードル系の特徴は

『ゆりかご(Cradle)』

という文字からも分かる通りエンジンを乗せる受け皿のような形になっているのが特徴で恐らくここまでは何となくわかってる人も多いかと。

分からなくなりがちなのはエンジンとの関係も大事ないわゆるダイヤモンド系でしょう。

ダイヤモンド/バックボーンフレーム

ダイヤモンドフレーム

アンダーチューブの無いダブルクレードルフレームみたいなカタチをしているのが特徴。上の写真はGPZ900Rのフレームです。

「剛性が全然足りずにヘロヘロになるんじゃないの」

と思いそうですが、GPZ900Rはこのフレームで世界最速を取りました。

それはフレームだけで剛性を何とかするのではなく、フレームに搭載されるエンジンも直付し纏めてフレームの一部にすることで剛性を稼ぎつつフレームの幅と重量を抑える事が出来たから。

バックボーンフレーム

昔はエンジンを積極的に剛性メンバーとして使うフレームをダイヤモンド、あまり使わない吊り下げるだけのフレームをバックボーンと言っていましたが、今では両者の厳密な区別方法は無く基本的に一緒でメーカー次第。ちなみに上の写真はホンダホーネット(MC31)の”バックボーンフレーム”です。

もっと分かりやすいのがスーパーカブを始めとしたホンダの横型エンジン搭載車。

バックボーンフレームDAX

これはDAXというバイクなのですが、もう何処からどう見てもエンジンを吊り下げてるだけのバックボーンフレームですね。

話を戻すとエンジンをフレームの一部として使うダイヤモンド/バックボーンフレームですがガッチガチの高剛性レイアウトかというとそうもでもない場合が多く、中排気量や人気の250ccクラスなどのスポーツバイクに多用されているカタチです。

CBR250RRフレーム

これは2017年から発売されたCBR250RR(MC51)のフレーム。アンダーチューブが無いのが一目瞭然ですね。

で、これまたちょっと注目してもらいたいのがメインチューブ(上のフレーム)の形。なんだかいっぱい棒が付いてるのが分かるかと思いますが、これは単純に補強です。

いくらエンジンをフレームの一部に使うとはいえ速度域(フレームへのストレス)が上がると耐えきれないのでこうやって補強をしているわけですが・・・この形どっかで見たことありませんか。それを次にご紹介。

トラス(トレリス)フレーム

トラスフレーム

トラスフレームまたはトレリスフレームと呼ばれるフレーム。

ドゥカティを始めとした海外メーカーが好んで使うフレーム形式ですね。上の写真はKTMのDUKEの物。

フレームで三角形(トラス)を作る事からトラスフレームと呼ばれていますが、簡単に言うと補強だけで構成されたダイヤモンドフレームみたいなもの。

ただフレームをよく見てもらうとわかるのですが、ただパイプを張り巡らせているだけでなく太さが箇所により太かったり細かったりします。

H2フレーム

無闇矢鱈に補強しているわけではなく、こうやって適材適所な補強をすることで剛性のバランスを取っているわけですね。

次に紹介するのはトラスフレームと同じくダイヤモンドフレームから派生したものの別の形となったフレーム。

ツインスパー/ツインチューブフレーム

ツインチューブフレーム

メインチューブ(上のフレーム)を太らせ、限りなく真っ直ぐな形でエンジンの横を通るように繋いでいる最も剛性を稼ぎ易い日本メーカーのハイパフォーマンス車に多いフレームレート。

ツインスパーもツインチューブも意味は同じです。

デルタボックスフレーム

エンジンを両脇から挟み込み積極的に剛性メンバーとして活用しているガッチガチフレーム。

ツインスパーについてはデルタボックスフレームで解説しているのでそちらをどうぞ。

お次は四輪車に広く採用されているタイプのもの。

モノコックフレーム

モノコックフレーム

このフレームもダイヤモンド系なのですが、これはフレームに部品(外装など)の役目も持たせようとして生まれたフレーム。

ZX-14Rやパニガーレなどに採用されていますがバイクではあまりメジャーなフレームではありません。理由はおそらく汎用性が乏しいから。

モノコックフレーム14R

ZX-14Rの場合フレームの中にバッテリーボックスやエアクリーナーボックスを兼ねたスペースを確保しています。

形としてはバックボーン&モノコックという感じですが一応カワサキとしてはモノコックフレームが公式見解。

こちらはちょっと分かりにくいパニガーレのフレーム。

モノコックフレームパニガーレ

こちらもエアクリーナーボックスを兼ねたフレームがチョコンと付いてるだけ。剛性メンバーとして活用するエンジン自体の剛性を上げることでフレームを減らし減量しているわけです。

最後は近未来感溢れるフレーム。

フレームレス

R1200GS

読んで字のごとくフレームが無いタイプ。フレームと呼べる部分は各部のパーツを繋ぎ止めているサブフレームのようなものしか無い。

BMWが積極的に取り入れている方法でエンジンとドライブトレイン(シャフトドライブ)がフレームの役割を担っています。

これもどちらかというと四輪の方に近いですね。

はてな一覧
フレームQandA第一回
フレームの種類と見分け方

馬力とトルク第二回
ジャングルジムで学ぶ馬力とトルク

サスペンションセッティング

第三回
難しくないセッティングプリロード調節

簡単だから要注意なメンテナンス

第四回
簡単だからこそ要注意日常メンテナンス

認定型式と通称型式

第五回
車名に続く記号について
~認定型式と通称型式~

個人売買は絶対ダメ

第六回
バイクの個人売買は絶対ダメ

アマリングの誤った消し方と安全な消し方

第七回
アマリングの誤った消し方と安全な消し方

エンジンブレーキ

第八回
エンジンブレーキの仕組みとデメリット

知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

第九回
知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

第十回
点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

第十一回
エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

リザーブタンクは高性能の証~リアサスペンションの構造~

第十二回
リザーブタンクは高性能の証
~リアサスペンションの構造~

サーキット初心者のススメ

第十三回
一生に一度はサーキットを走ろう
~サーキット初心者のススメ~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十四回
大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない
~大型はいいぞおじさんの巻~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十五回
スポーツバイクのポジションがキツい理由

タイヤの手組みは損して得取る

第十六回
タイヤの手組みは損して得取る
~交換の手順と留意点~

徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

第十七回
徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

バイク事故の原因~自損・単独事故編~

第十八回
バイク事故の原因~自損・単独事故編~

バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

第十九回
バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

バイク事故の原因~雑学編~

第二十回
バイク事故の原因~雑学編~

コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由~ファストアイドルの必要性~

第二十一回
コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由
~ファストアイドルの必要性~

点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

点火プラグ

第十回目はこれがないと始まらない点火プラグについて。

なんだかメカニズムの話ばかりになっていってる気がしますが、構わずに進めます。

プラグについてはDENSO(https://www.denso.co.jp)NGK(https://www.denso.co.jp)でも詳しく説明されています。

NGK

ちなみにこれはNGKによる説明資料なんですが、仕組みを知っている人やこれを見て

「なるほどね」

と理解出来る人にはこれから先は特に何も書いていません。

反対に電気が苦手で

「線がいっぱいあるのは分かる」

という人は一緒に勉強がてらお付き合いを。

社内に大きなツーリングクラブを持っているデンソーの公式によると

「点火装置で作られた高電圧がプラグの中心電極と接地電極…(以下略」

と呪文のような話ばかりなので、参照にしつつ怒られそうなくらい簡略化して説明していきます。

NGKスパークプラグ

火花を散らす事で混合気を着火している点火装置なのがプラグというのは知っていると思いますが、その火花を散らすためには約30000Vの高電圧が必要。

電圧というのは文字通り電気を押し流す圧力のこと。よく水の高低差(水圧)で例えられていますね。

電圧

ここで疑問点。

「13V前後しかないバッテリーからどうやって30000Vもの高電圧を発生させているのか」

という事から。

13Vを30000Vまで跳ね上げる役目を担っているのはプラグコードの手前にある100ml缶くらいのイグニッションコイルと呼ばれる部分。

ダイレクトイグニッションコイル

ただ最近は上のようにプラグホールに直接差し込むプラグケーブル一体型のダイレクトイグニッションの方がメジャーですね。

基本的にはどちらも一緒で、中身は鉄の棒とグルグル巻きにされたコイルが入っています。

バッテリーとイグニッションコイル

これで30000Vになっている・・・わけはないですね。これじゃただ通っているだけ。

ただし電気を通しているので電磁石となり、グルグル回る磁束という渦の流れが発生します。

イグナイター

ここで出てくるのがイグナイターと呼ばれるもの。大層な名前ですが要するにON/OFFのスイッチ。

プラグ点火に必要な30000Vの電圧を発生させようとした時、まずECUがイグナイターを制御し遮断してしまいます。

イグナイター制御

すると当然ながら電気の流れが止まってしまうんですが、磁束は現在の状態を保とうとする性質があるので流れ維持しようとする。

その性質(起電力)を利用することで300Vもの高電圧が発生するというわけ・・・って、まだ30000Vには程遠いですね。

この300Vを更に100倍の30000Vにするのがイグニッションコイルに巻かれているもう一つコイルである二次コイル。

二次コイル

一次コイルが300Vの電圧を発生させると、繋がっている二次コイルもつられて(相互誘導作用で)昇圧するようになっています。

ここでミソとなるのが一次コイルよりも多くコイルが巻かれている事。この巻数が多ければ多いほど一次コイルの電圧が倍々で増える。

つまり一次コイルの100倍の電圧になるよう二次コイルを大量にコイルを巻いているから300Vを100倍の30000Vまで昇圧出来るというわけ。

NGKイグニッションコイル

そして出来上がった凄まじい電圧をプラグに掛けるとわけですが、何故30000Vもの高電圧が必要かというと、雷が落ちるのと一緒で電気を通さない大気の壁を打ち破って放電しないといけないから。

放電

雷が落ちるのと同じ仕組みで、この放電によって生まれた火花を火種として点火に結びつけている。

ちなみに受け取ったマイナス側はそのままエンジンヘッドと繋ぐ事でアースとしています。

ただし本来ならば電気を通さない大気を強い圧力(電圧)をかけて破り通すので、フラッシュオーバーといってターミナルナットからマイナスである六角部へショートカットするように逃げてしまう(放電してしまう)恐れがある。

フラッシュオーバー

当然これでは点火が出来ないので電気を通さないセラミックで上部を覆ってショートカット出来ないようにしている。

点火プラグの電気の流れ

しかしただ覆うだけではなく、一工夫されています。

セラミックの上部分が段付きになっているのは皆さんご存知と思いますが、何故こうなっているのかというと

コルゲーション

「プラグキャップを噛ませるため」

と思っている人が多いと思いますが違います。

このデコボコはコルゲーションといって、プラスであるターミナルナットとマイナスの六角部の絶縁距離を長くするため。

絶縁体の距離稼ぎ

電気を通さない大気という絶縁体を破るために高電圧が必要という話ですが、それは反対に言うと絶縁体の長さが長いほど必要な電圧が高くなるとも言えるわけなので、こうやって波を打たせる事で30000Vでは絶対に破れないような距離を稼いでいるというわけです。

ところでプラグにもノーマルプラグとイリジウムプラグというのがありますね。

中心の電極がイリジウム(イリジウム+ロジウム合金)で出来ているのがイリジウムプラグで、ニッケル合金で出来ているのがノーマルプラグ。

ノーマルプラグとイリジウムプラグ

知っていると思いますがイリジウムプラグの方が点火性能も寿命も優れる上位互換的な立ち位置で少しお高い。

その事から

「イリジウム=高性能」

という認識が広まっていますが、少し語弊があるかと思います。イリジウムプラグがノーマルプラグに比べ

”何が違って何が優れているのか”

というと見た目通り尖っている事にあります。

一つは尖っている事で放電しやすいこと。

放電のしやすさ

先端が尖っているほど一点集中となり多少電圧が低くても簡単に放電してくれる。落雷のブレも少なくなります。

もう一つは火種の成長の邪魔をしないこと。

小さな火種が広がっていく中で、構造上どうしてもプラグとぶつかってしまい熱を奪ってしまう。

火種の邪魔をしない

これがイリジウムの場合、芯が細くまた落雷のブレも少ないことから受け皿も小さく出来るのでプラグが火種の邪魔(冷却損失)をする範囲を小さく出来るというわけ。

これらが可能になったのはイリジウム合金がとっても頑丈で耐摩耗性が高く、融点もニッケル合金の1.7倍となる2466℃と優秀だから。

エンジンプラグ

プラグというのは燃焼の熱で900℃近くまで熱くなったと思ったら、今度は冷却水や混合気で500℃近くまで冷まされるという寒暖差が非常に大きい過酷な環境に晒されている。

ノーマルプラグは角が落ちるのを見てもらうと分かる通り、ニッケル合金を細くするとその過酷な環境に耐えられないというわけ。

つまりイリジウムプラグの恩恵が一番受けられる状況というのは、パワーバンド時などではなくアイドル~低回転時など不安定な燃焼をしている時。

だからイリジウムプラグというのはエンジンの性能を上げる高性能プラグというよりも、常にストライクゾーンを外さない高安定なプラグと言ったほうが正しいかと思います。

その為

「イリジウムに変えたら目に見えてパワーが上がった」

とかは無いです。

その代わり燃費や低域における粘りやトルクの向上は体感出来る・・・かもしれない。

中身

言い忘れていましたが点火プラグには

「熱価(ねっか)」

とよばれるものがあります。

熱価表

これは簡単に言うとプラグの冷却性と思ってください。デンソーもNGKも必ず品番に記載しています。

いま言ったようにプラグというのは常に燃焼の炎に晒されているので、エンジンの中でも最も局地的に熱くなる部分です。

一番熱くなる場所

もしもプラグ温度が950℃以上になった場合、プレイグニッション(略してプレイグ)といって火花を飛ばす前に自動着火装置となり混合気の燃焼を誘発してしまう。

酷い場合になるとプレイグによって更にプラグと燃焼室の温度が局地的に跳ね上がり、更なるプレイグを起こす暴走型プレイグを招きます。こうなるとピストンが溶解したり穴が空いたりする。

でもそれでは熱価の説明になっていませんよね。

それなら全部冷えるプラグにすればいいだけの話。でもそうじゃないからわざわざ熱価なんて項目がある。

プラグというのは熱すぎても駄目だけど、冷えすぎても駄目なんです。

プラグ温度領域

プラグの温度が950℃を超えるとプレイグを起こすわけですが、反対に約450℃を下回ると”かぶり”や”くすぶり”という症状が出ます。これは要するに火花をちゃんと飛ばせない状態のこと。

プラグは燃焼室に顔を出している事からカーボンを被ってしまうんですが、通常(450℃以上)なら焼き切ってしまう。

カーボン

しかし熱価が高すぎてプラグの温度が上がらないと焼ききれず覆われてしまい、正しい点火が出来なくなるんです。

悪化しても最悪エンジンストールなので限界突破するプレイグほど深刻なダメージを覆う事はありませんが、質の悪い燃焼によるトルク低下を招きます。

だいぶ長くなってしまったので最後に注意点だけ言うと・・・

メーカーが定めているプラグの品番(熱価)というのは、バイクメーカーとプラグメーカー双方が相談と計算の限りを尽くした上で選択されている

”いつ如何なる時でも最適な温度にあるよう絶妙な熱価の物”

が付いているんです。

最適な熱価

だから例えばプラグの焼け具合だけを見て、安易に違う熱価やタイプの物に変更するのは止めておきましょう。まあ居ないとは思いますが。

【最後の最後に余談】

プラグというとイリジウムやプラチナといったパッケージングや点火性能の進捗ばかりが話題になりますが、実はもっと目に見えるほど進捗している事があります。

それはプラグのネジ径です。

プラグサイズ

昔は点火プラグといえばM14(14mm)でした。それがM12になり、今ではM10が当たり前になった。

これが何故かと言うとプラグを小さくすればそれだけ吸排気バルブを大きく取れるし、ヘッド周りのウォータージャケット(冷却路)を広げられて冷却性能を向上できるから。

プラグスペース

要するにエンジンレイアウトの自由度が増すわけです。

デンソーの人いわくM10で一応は一段落らしいのですが、小さければ小さいほどエンジンは助かるので小型化は更に進むでしょう。

10mmが8mmになり、もしかしたら6mmまで細くなるかもしれない。

プラグサイズの変移

でも14mmから10mmまで4mmも細くなった事に誰も気付いていないのを見ると、たとえ更に4mm細くなって6mmになったとしても誰も気付かないかもね。

はてな一覧
フレームQandA第一回
フレームの種類と見分け方

馬力とトルク第二回
ジャングルジムで学ぶ馬力とトルク

サスペンションセッティング

第三回
難しくないセッティングプリロード調節

簡単だから要注意なメンテナンス

第四回
簡単だからこそ要注意日常メンテナンス

認定型式と通称型式

第五回
車名に続く記号について
~認定型式と通称型式~

個人売買は絶対ダメ

第六回
バイクの個人売買は絶対ダメ

アマリングの誤った消し方と安全な消し方

第七回
アマリングの誤った消し方と安全な消し方

エンジンブレーキ

第八回
エンジンブレーキの仕組みとデメリット

知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

第九回
知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

第十回
点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

第十一回
エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

リザーブタンクは高性能の証~リアサスペンションの構造~

第十二回
リザーブタンクは高性能の証
~リアサスペンションの構造~

サーキット初心者のススメ

第十三回
一生に一度はサーキットを走ろう
~サーキット初心者のススメ~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十四回
大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない
~大型はいいぞおじさんの巻~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十五回
スポーツバイクのポジションがキツい理由

タイヤの手組みは損して得取る

第十六回
タイヤの手組みは損して得取る
~交換の手順と留意点~

徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

第十七回
徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

バイク事故の原因~自損・単独事故編~

第十八回
バイク事故の原因~自損・単独事故編~

バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

第十九回
バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

バイク事故の原因~雑学編~

第二十回
バイク事故の原因~雑学編~

コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由~ファストアイドルの必要性~

第二十一回
コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由
~ファストアイドルの必要性~

難しくないセッティング プリロード調節

サスペンションセッティング

第三回目はサスペンションのセッティングについて。

正解が分からないからノータッチにしている人は初心者ベテラン問わず多いのではないでしょうか。伸び側、圧側、プリロード調節・・・チンプンカンプンかと思いますが、取り敢えず言っておきたいのは

「プリロード調節だけでもしよう」

という事です。

まずザックリですが一般的なサスペンション(テレスコピック式)の仕組みについてご説明。

テレスコピック正立フロントフォーク

凄く凄くザックリしてますがこうなってます。バネが伸び縮みすることで衝撃を吸収しているわけですね。

そしてプリロード調節が何の役割を担っているのかというと、中に入っているバネの初期荷重つまりどの程度縮めておくかを決める役割を担っているわけです。

サスペンションセッティング

Pre(事前)LOAD(負担)だからプリロード。

で、本題の何故プリロードを調整したほうが良いのかという話ですが、これは乗る人によって体重が千差万別な事からメーカーは”平均的なセッティング”でしか出荷していないからです。

一般的に言われているのはメーカーは体重が65~75kg前後のライダーが乗ることを想定していると言われています。だからメーカーの想定とは違う体重の人や、荷物を積んだりする用途をするとこういう事になる。

サスペンションセッティング

要するにサスペンションの可動範囲が偏ってしまう。サスペンションというのは縮んで衝撃を吸収する物というのが一般的ですが、伸びて”路面を追従する”のも仕事です。

だからこうやって可動範囲の中央がズレていると伸び切りや底打ちを招き、ハンドリングや乗り心地、安定性や路面追従性、はては制動距離(ブレーキの効き)に大きく影響が出てしまう。

プリロードというのはこの縮む・伸びるの両方をキッチリこなせるポジションにサスペンション(バネ)を留めておく為にある。

フロントプリロードアジャスター

プリロードを強めるとサスペンションが伸びて(上の図で言った)可動範囲が上側に行きます。反対にプリロードを弱めるとサスペンションが縮み可動範囲は下の方に行きます。

跨ってみて沈み過ぎてると感じたらプリロードを強める、全然沈んでいないと思ったらプリロードを弱める。見てくれる人が居ない場合はスマホなどで撮影するのもいいかもしれません。跨ってフルボトムの1/3程度沈むくらいがベストと言われています。

もちろんサーキットなどスポーツ走行がメインの場合やタンデムor積載をする際はプリロードを強め、街乗りやツーリングなどではプリロードを弱める、また足つきを良くしたいからプリロードを弱めるなどシチュエーションは色々です。

これらの写真は大型バイクの物ですがプリロード調節機能は基本的にどんなバイクにも付いています。フロントフォークで話をしてきましたがリアショックも同じ理屈です。

リアプリロードアジャスター

最適なプリロードで走る事は安全にもファンライドにも繋がるわけなので、難しく考えず一度セッティングしてみる事をおすすめします。

※いくつか注意点

・必ず標準値(工場出荷)を覚えて置く事(マニュアルに記載されています)

・フロントフォークは必ず左右の数値を合わせる事

・フロントのアジャスターは柔らかくナメやすいのでサイズのあった工具で慎重に回す事

・ダンパー調節(マイナスドライバーで回す別の調節機能)は分からないまま大きく弄らない事

・調整後は挙動が大きく変わる場合があるので確認運転は慎重に

はてな一覧
フレームQandA第一回
フレームの種類と見分け方

馬力とトルク第二回
ジャングルジムで学ぶ馬力とトルク

サスペンションセッティング

第三回
難しくないセッティングプリロード調節

簡単だから要注意なメンテナンス

第四回
簡単だからこそ要注意日常メンテナンス

認定型式と通称型式

第五回
車名に続く記号について
~認定型式と通称型式~

個人売買は絶対ダメ

第六回
バイクの個人売買は絶対ダメ

アマリングの誤った消し方と安全な消し方

第七回
アマリングの誤った消し方と安全な消し方

エンジンブレーキ

第八回
エンジンブレーキの仕組みとデメリット

知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

第九回
知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

第十回
点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

第十一回
エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

リザーブタンクは高性能の証~リアサスペンションの構造~

第十二回
リザーブタンクは高性能の証
~リアサスペンションの構造~

サーキット初心者のススメ

第十三回
一生に一度はサーキットを走ろう
~サーキット初心者のススメ~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十四回
大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない
~大型はいいぞおじさんの巻~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十五回
スポーツバイクのポジションがキツい理由

タイヤの手組みは損して得取る

第十六回
タイヤの手組みは損して得取る
~交換の手順と留意点~

徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

第十七回
徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

バイク事故の原因~自損・単独事故編~

第十八回
バイク事故の原因~自損・単独事故編~

バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

第十九回
バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

バイク事故の原因~雑学編~

第二十回
バイク事故の原因~雑学編~

コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由~ファストアイドルの必要性~

第二十一回
コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由
~ファストアイドルの必要性~

バイクの個人売買が絶対ダメな理由

「個人売買は絶対にダメ」

という話はよく聞くと思います。でも何故ダメなのかは誰も教えてくれないし、書かれてもいない。

右も左も分からず免許代でヒイヒイ言ってる未来ある新参が、苦いデビューとならない為にもそこら辺を説明していきたいと思います。

※参照:国民生活センター自動車公正取引協議会

※写真:ヤマハMOTOBOT君

どうして個人売買が駄目なのか一例として実際に起こった紛争と消費者センターの仲介結果を

「紛争解決委員会によるADRの結果の概要(pdf)」

から長くて重いので割愛して紹介。

【事案概要】

ネットオークションで落札したバイクのエンジンが掛からない

【申請者の主張】

キャブ、プラグ、ガスケットの修理費を出品者に払ってほしい

【申請者の言い分】

・届いた時点でエンジンが掛からなかった

・バイク屋に見せたらOH(修理)が必要と言われた

・タンク内部の腐食や錆や漏れが酷い

・3度修理に出したが直らない

【相手方の言い分】

・出荷前の点検では問題がなかった

・申請者の修理、エンジンの掛け方が悪い

・悪い評価を撤回し詐欺師扱いした事を謝罪してほしい

【備考】

・エンジン一発始動&アイドリング安定と書かれていた

・ノークレームノーリターンと書かれていた

・車両は相手方が業者オークションで購入した「査定:下」の物だった

【結果(仲介委員の判断)】

「エンジン一発始動&アイドリング安定」という表現があたかも相手方が保証してくれるかのような”誤解”を与えてしまった可能性を指摘した上で、申請人が相手方にした悪い評価とコメントを撤回することを条件にプラグ交換代として5000円を支払う事で和解。

申請人、相手方の双方がこれに同意したことから和解が成立した。

いやいや・・・って思いますよね。5000円じゃ修理費を賄えないし腐食や錆はどうするのよっていう。ハーネスもボロボロと書いてある。

まとめると

「完動車と思っていたのが腐った不動車で5000円しか返ってこなかった」

という事になる。明らかに申請人(落札者)が損をしている。

何のバイクを幾らで落札したのかは書いていませんが、輸送費も払ったと書いてあるので間違いなく大赤字でしょう。

これで分かる恐ろしい点は二つ

・エンジン一発始動、アイドリング安定という文字は保証ではない

・相手が個人を装った業者または関係者だった可能性が高い

という事。

何故これほど悪い条件になってしまったのかというと申請人にも落ち度があったから。

「現物を確認せず、質問もしなかったから」

という落ち度。これも少しツッコミ所がありますよね。じゃあフロントフォークのシール一つからハーネスの一本まで全部状態を質問するか、現地に行って確認しなきゃいけないのかという話になる。

でもそういう結果になった。

要するにネットでの個人売買というのは、買い手が圧倒的に不利ということ。

意図的に問題点を隠していたとしても

「聞かなかったから、確認しなかったから。」

と言われるとそれだけで買い手の落ち度になりうる。この案件の相手方(出品者)は

「錆は輸送中に起こったトラブル」

という詭弁に聞こえる弁明もしています。訴訟すればもっといい条件になったかもしれませんが時間もお金も掛かりますからね。

ちなみに車の方になりますが訴訟まで行なった例が(これまた何ページあるんだよっていう)「ネットオークションにおける出品者の瑕疵担保責任:弁護士 藤田(pdf)」として消費者庁にありました。

出品された中古のアルファロメオ164を約12万円(落札価格7万+輸送費5万)で落札したものの、ガソリンが漏れるだのドアが閉まらないだので、まともに走らせるのに修理費が30万円弱掛かった。

そこで出品者は瑕疵担保責任を果たしていない(欠陥品を売りつけた)として修理費&駐車費40万円と慰謝料30万円合わせて70万円の賠償を求めた。

結果は・・・

「相場より安いからセーフ(要約)」

として棄却。

納得いかなかった落札者が控訴したところ

「一部瑕疵に当たるので3万円のみ請求容認する」

として終わり。

要するに

「相場より安い」

という事から棄却、極一部の修理費しか認められなかった。

これは極端な例かもしれませんし、ネットオークションに出してる車両全てがそうではありませんが、どちらにせよ目利きは愚か整備すら出来ない新参が、何が隠れているか分からないパンドラの箱のような個人物に手を出してはいけない。

「安さに釣られた結果、安さに足元を掬われる」

という正に安物買いの銭失いで痛い目を見ますよ。ネットの普及でこういったトラブルがどんどん増えてると消費者庁も喚起しています。

ただしこういった個人売買トラブルはネットに限った話だけじゃないんです。厄介なことに顔見知りや友人同士の善意による個人売買でも起こりうる。

自分のバイクが今どういう状態で何処に問題を抱えているのか完全に把握してる人は居ないでしょう。

ありがちなのが

「乗らなくなったから。」

といった理由で友人に売る時。

長期間動かしていないバイクというのは各部の錆、ゴム類の割れ、ガソリン詰まり等、見た目では分かりにくい部分が駄目になっている事が多い。

買う方もバッテリーやプラグといった消耗品を交換すれば動く程度に考えていたりするので、そういった想定外の出費でトラブルが起きる。知らなかったと言い合った所で何も解決せず関係にしこりやヒビが入るだけです。

それに譲渡・名義変更手続きも自分達でしないといけない。名義を変えずに乗るなんて言語道断ですよ。

やり方は簡単ですが平日の日中に市役所や運輸局に行くのは大変です。不慣れだと何往復かする事になったりもする。

それでも友人間でやり取りする時は、売る時は廃車手続きをした後にくれてやるくらいの気持ちで、買う時は不動車を引き取るくらいの気持ちで居ることです。

じゃあバイクは何処から買えばいいのか・・・というと(当たり前ですが)バイク屋です。バイクはバイク屋で買うものです。

「でもバイク屋だって良し悪しがあるっていうし」

って思うでしょう。確かにその通り。

皆さんはバイク屋と消費者における中古車売買のトラブルって一年間にどのくらい起こっていると思いますか。

実は減少傾向とはいえ今も(把握してるだけでも)年間300件以上、一日一件ペースで起こっています。

そしてその半数は”故障・不調”によるもの。

ちなみにこれは「自動車公正取引協議会」という恐らく聞き慣れないであろう機関のデータ。

ここは

「公正な取引で信頼される販売」

を推進する機関。簡単に言うと消費生活センターの自動車・二輪車特化機関の様なもので、バイクの販売に関しセールストーク一つに至るまで厳しい取り決めをしトラブルを無くす活動をしています。

例えば車体価格を掲載するプライスカードについてもバイクの状態が消費者に明確に伝わるようルールを設けている。

ちなみに少し前までよく見ていた

「新同」「お買い得」「特価」「極上」「完全整備済」

といった謳い文句を見なくなったのは、消費者が誤解を招くとして禁止したからです。

そしていま特に力を入れているのが2016年の10月から始めた走行距離の偽装、メーター戻しの撲滅。

減算車、メーター交換車、疑義車、それぞれしっかりシールに記載して表記して売れという話。

これら公正取引協会のルール守らなかった場合、消費者庁から行政処分されます。

そしてこの公正取引協会のルールを学び、遵守してるバイク屋の事を公取協会員店と言います。

会員のバイク屋には店先にこういったシールが貼られている。ドリームやYSPやワールドやPLAZAといったディーラーも入ってます。

つまりもしバイクを買う際や検討している際にまだ店が決まっていないなら公取協会員の公取協のルールを遵守しているバイク屋から選びましょう。加盟店は“公取協のホームページ”で検索する事が可能です。

・・・なんかMOTO BOT君を使ったせいで良くも悪くも少し緩い宣伝みたいになりましたね。

はてな一覧
フレームQandA第一回
フレームの種類と見分け方

馬力とトルク第二回
ジャングルジムで学ぶ馬力とトルク

サスペンションセッティング

第三回
難しくないセッティングプリロード調節

簡単だから要注意なメンテナンス

第四回
簡単だからこそ要注意日常メンテナンス

認定型式と通称型式

第五回
車名に続く記号について
~認定型式と通称型式~

個人売買は絶対ダメ

第六回
バイクの個人売買は絶対ダメ

アマリングの誤った消し方と安全な消し方

第七回
アマリングの誤った消し方と安全な消し方

エンジンブレーキ

第八回
エンジンブレーキの仕組みとデメリット

知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

第九回
知ってるようで知らないディスクブレーキの仕組みと大事なこと

点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

第十回
点火プラグは絶妙な落雷装置 ~仕組みと雑学~

エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

第十一回
エンジンオイルの劣化は色や粘度では分からない~規格・添加剤・劣化など~

リザーブタンクは高性能の証~リアサスペンションの構造~

第十二回
リザーブタンクは高性能の証
~リアサスペンションの構造~

サーキット初心者のススメ

第十三回
一生に一度はサーキットを走ろう
~サーキット初心者のススメ~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十四回
大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない
~大型はいいぞおじさんの巻~

大型自動二輪免許を取っても絶対に後悔しない

第十五回
スポーツバイクのポジションがキツい理由

タイヤの手組みは損して得取る

第十六回
タイヤの手組みは損して得取る
~交換の手順と留意点~

徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

第十七回
徐行でバランスを崩す初心者と崩さない熟練者の違い

バイク事故の原因~自損・単独事故編~

第十八回
バイク事故の原因~自損・単独事故編~

バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

第十九回
バイク事故の原因~対車両・相互事故編~

バイク事故の原因~雑学編~

第二十回
バイク事故の原因~雑学編~

コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由~ファストアイドルの必要性~

第二十一回
コールドスタートでエンジン回転数が上がる理由
~ファストアイドルの必要性~

F4 第二世代 -since 2009~-

第二世代F4

2009年にフルモデルチェンジ

750ccは廃止され1000ccへ一本化されました。

一般的にこの年式から第二世代と言われています。

見た目はLED化やマフラーエンドなどの細部がリファインしたくらいで大きくは変わってませんね。

マフラーエンド

かと言って古さも感じない。

完成されたデザインって事なんでしょう。奇才マッシモ・タンブリーニ恐るべしです。

ちょっとF4の話というよりMVアグスタの話ばかりしてしまったので、少しF4の中身の話を。

F4最大の特徴は「ラジアルバルブ」

ラジアルバルブ

ラジアルバルブっていうのは文字通りバルブがちょっと傾いている事。

(少しだから見ても分からないと思いますが)

トラコンとかモード切り替えとかそこら辺の機能はF4でわざわざ説明する必要もないかと思うので割愛。

先にも話したけどF4のエンジンはフェラーリのエンジニアが作った物ということで当然ながらラジアルバルブもフェラーリが生み出した技術。

フェラーリ642

ラジアルバルブは吸排気口の面積を大きく取れるというメリットがある。

ただFerrariのそれとは違いF4はロッカーアームを使わない直動型のラジアルバルブ。

その開発が非常に難航したんだけど、それを救ったのはなんと当時ホンダのF1エンジニアだった日高義明さん。

F4にホンダの技術が入っていたとは驚きですね。

ホンダフェラーリ

MVアグスタのよってフェラーリとホンダの技術が融合って歴史的な事じゃなかろうか。

そんな紆余曲折がありつつも形となったMV AGUSTA F4は伝説になった・・・かといえばそうでもなかったです。

ライバルメーカーたち(というか日本メーカー)との競争激化で経営不振に陥ると、ハスクバーナやドゥカティといった買収していたメーカーを売却し最後にはほぼMVアグスタ一本に。

そして社名もMVアグスタに改名し元のカジバはその一部門になるという上下がひっくり返ったような会社に。

それでも不振が続いたため、買収され、売られ、捨てられと2000年代は色んなメーカーを転々としていました。

アグスタ本社前

そんなこんなでたらい回しにあっていたMVアグスタですが、2010年に売却という形で晴れて自由の身(カジバ経営)に。

そこでMVアグスタが最初に取った行動は値下げでした。

それも289万円から210万円と大幅なもの。

理由は当初は円高だと言われてましたが円安になっても値段はそれほど変わらず。

走る宝石といえど売れないとまた飼い殺しに合っちゃうからそれを防ぐためか

もっと多くの人に乗って欲しいのか公式アナウンスは無いのですが

どちらにしろハードルを下げてきたわけですね。

日本で「MVアグスタ」というとその知名度・認知度の低さからBimotaと同様に

超高級ブランドバイクと捉えられている人が多いです。

アグスタ工場

確かに安くはないですがよく考えてみてください。

ブレンボ&オーリンズのCBR1000RR SPが200万円なのに対し

ブレンボ&フェラーリエンジンのF4が220万円って超高額でしょうか?

1000RR SPと同じブレンボ&オーリンズを装備したトップグレードのF4RRでも300万円です。

安くはないですが超高級でもないですよね。ドゥカティとどっこいくらい。

むしろ一台一台職人の手によって作られているフェラーリバイクと考えれば安いと思っても不思議じゃない。

F4RR

フェラーリエンジンですよ。

マッシモ・タンブリーニが作った走る宝石ですよ。

(アフターサービスはあまり期待できませんが・・・)

最後に余談

MV500Tre

最初に言った通りMVアグスタは「サーキットの覇者」が原点です。

意外に思うかもしれませんが

再建してレース規格に沿った規格で進化してきたF4

実はレースではガチンコ(ワークス参戦)で世界と戦った事はまだありません。

このことから「アグスタなのは名前だけ(中身はカジバ)」とか「負けてる事を恐れてる」とか色々と陰口を叩かれました。

上にも書いてますが、飼い殺し状態だった事や予算の問題、当然技術的な問題など様々な理由で再建後もずっと参戦せずにいたのは事実です。

まあそれだけMVアグスタへの期待が大きいということでもありますが。

が、自由の身になって最初にしたことが値下げなら次にしたことは

F3を開発しWSB(ワールドスーパーバイク)のSSK(ミドルスーパースポーツ部門)へのワークス参戦でした。

かつてのサーキットの覇者がどれだけやれるのか、それはそれは世界が興味津々。

F3

最初はみな期待していなかったものの、実力も年を追う毎に増し僅か数年で優勝争いが出来るレベルにまで達しました。

SBK F4さらに、2015年からF4RCで待望のSBKワークス参戦が決定。

サーキット覇者の伝説が再来するのか見届けてみるのも面白いかもしれませんね。

レースがよく分からない人は「ロードレースの系譜」もどうぞ。

エンジン:水冷4サイクルDOHC4気筒(本国仕様)
排気量:998cc
最高出力:
195{201}ps
13400{13600}rpm
最大トルク:
11.3{11.6}kg-m/9600rpm
車両重量:191{190}kg(乾)
※{}内はRRモデル

系譜図
アグスタ125

1923年~
F4が生まれるまで

F4_750

1999年~
第一世代F4

F4_1000

2009年~
第二世代F4

F4 第一世代 -since 1999~-

カジバ

時代はそれから少し飛んで1990年代中頃。

イタリアでCAGIVA(カジバ)というメーカーが当時ありました。

ドゥカティやハスクバーナを筆頭にバイクメーカーを次々に買収し僅か10年で超巨大オートバイメーカーへと成り上がった会社です。

巷でこのメーカーが

「マッシモ・タンブリーニやフェラーリのエンジニアと協力してフェラーリバイクを作ろうとしている」

という噂が広まっていました。

もともとドゥカティとフェラーリは本社も近く企業間の仲も良好なうえに

その道中の高速道路で謎の赤いカウルを付けたバイクの目撃情報が多々あったからです。

プロトタイプF4

それがこのバイク。

なんかF4とは似ても似つきませんよね。

ゴッツいツインスパーフレームだし何より美しくない。

それもそのはずでこのプロトタイプはいわばフェイクモデル。

実はもう一台、謎の赤いバイクが存在したんです。

それがこれ。

マッシモ・タンブリーニが生み出したトレリスフレームと片持ちスイングアーム・・・

カジバ916

どう見てもドゥカティの916・・・・・・じゃなかった。

(上の写真がプロトタイプで下は916)

916

なんと皮こそ916だけどトレリスフレームとピボットプレートのハイブリッドフレームに直四のフェラーリエンジンを積んでいる。

もうお分かりになったと思います。

アグスタF4カウルレス

そう、コレこそがF4(フェラーリ4)だった。

カジバはアグスタのブランド使用権を取得し1999年にMVアグスタの名を復活。

アグスタF4

そして発表されたのがMVアグスタF4でした。

名門の復活、タンブリーニの設計&デザインに世界中が称賛。

オルガンパイプマフラーと呼ばれる四本出しに度肝を抜かれた人も多いのでは?

F4四本出し

今ではすっかりアグスタの象徴になりましたね。

ちなみにモデルをざっくり紹介すると

oro

最初が1999年のF4 Oroで限定300台

そして同年に出た廉価モデルがF4 750S

セナモデル

2002年~のEVOまたは750SRモデルとSENNAモデル限定300台

750SPR

2004~は750Sをベースにレースユースに特化したSPRモデル

こちらも限定300台。

なんかもうF4になるとOHLINSやbremboが当たり前なんで書く気も・・・ってよく見てください。

F4oro足廻り

なんとSHOWAのサスにNISSINのキャリパーではありませんか。

フェラーリバイクにしちゃ随分と庶民的だな~。

って思ったけどよく見たら巷に溢れてる物と違ってF4専用のオーダーメイド品な模様。

ブレンボだオーリンズだと騒ぐクラスとは次元が違うって事ですかね・・・

F4 1000S

そして2005年には排気量を1000ccまで上げたF4 1000AGOとSが追加。

その後も

Tamburini、Senna、Vektro Strada、Pista、R、CC、RR312等など

合わせると10以上の限定モデルを出してるので書ききれません。

全部書くととんでもない量になっちゃうので割愛させてもらいます・・・ごめんなさい。

まあしかしそんな中でもコレだけは知っとけというのが2006年に発表されたF4CC

アグスタF4 CC

CCは普通の限定モデルであるF4のエンジンの排気量を更に上げ1078ccとしたスペシャルなエンジンを搭載したスペシャルモデル

・・・最早なにがスペシャルで何がスペシャルじゃないのかわかりませんね。

ちなみにCCというのは社長であるクラウディオ・カスティリョーニの頭文字から。

カウルはカーボン、細部のアルミは全て手仕上げ、公称200馬力オーバー。

F4CCテール

お値段驚きの1500万円。

ドゥカティのデスモセディチも裸足で逃げ出す値段ですね。

そりゃブレンボも付くわって話です。

ちなみに見慣れないサスペンションはMARZOCCHI(マルゾッキ)製。

知る人ぞ知るイタリアのサスペンションメーカーです。

エンジン:水冷4サイクルDOHC4気筒(本国仕様)
排気量:749{1078}cc
最高出力:
126{200}ps
12600{12200}rpm
最大トルク:
7.5{12.7}kg-m
10500{9000}rpm
車両重量:180{187}kg(乾)
※{}内はCCモデル

系譜図
アグスタ125

1923年~
F4が生まれるまで

F4_750

1999年~
第一世代F4

F4_1000

2009年~
第二世代F4

F4が生まれるまで -since 1923~-

MotoGP

MVアグスタの歴史を知っている人は少ないと思います。

ということでまずMVアグスタの歴史からサラッとご紹介していこうと思います。

もともとMVアグスタというのはアグスタ伯爵が作ったイタリアの航空機(主にヘリコプター)メーカーでした。

アグスタ伯爵

しかし敗戦で飛行機の製造を禁止されるハメに。

どうしようか考えてた伯爵は「イタリアの名誉を取り戻せる事業を」と考えました。

すると当時すでにレースで世界中から喝采を浴びていたフェラーリをみて

「じゃあうちはオートバイ界のフェラーリを作ろう」と思ったのがキッカケ。

ちなみにMVアグスタのMVはMeccanica(力学) Verghera(町の名前)という意味があります。

さて、オートバイ事業に参入したアグスタは当時大手だったベネリやドゥカティから技術者をヘッドハンティングし、次々と高性能バイクを生み出していきます。

この時まだ1940年代。ホンダがやっと創業した頃です。

そしてフェラーリと同じようにレースへ注力。

その結果としてMVアグスタはWGP(現MotoGP)で圧倒的な速さを誇り、タイトル総ナメ状態が20年近く続きました。

その伝説は今も語られ続けています。

4C500

その速さの最大の理由として挙げられるのが、世界初にして唯一無二だった並列四気筒エンジン。

ホンダがCB750FOURを作り上げる実に20年前の時点でアグスタは既に直四を作っていたのです。

当時ちょうど視察に訪れていた本田宗一郎もコレにはビックリで工場まで押しかけたとか。

アグスタ750S

しかしそんな栄光の歴史とは裏腹に71年、転機が訪れました。

当時社長をやっていたドメニコ・アグスタが急死し、弟のコラード・アグスタが社長に就任。

その弟の経営方針の転換でアグスタはオートバイ事業からの完全撤退が決定しました。

というのも実はこの頃アグスタは経営危機に陥っていた。

そこで解禁され好調だった航空機製造への一本化の為にオートバイ事業を切ったと言われています。

これでアグスタはオートバイの世界から消えてしまうことになったわけです。

ちなみに航空機製造のアグスタは今でもアグスタウェストランドとして現存。

アグスタ社製ヘリコプター

富士山やアルプスなどで警察が使っているヘリコプターもアグスタ製だったりします。

系譜図
アグスタ125

1923年~
F4が生まれるまで

F4_750

1999年~
第一世代F4

F4_1000

2009年~
第二世代F4

1190RX/SX -since 2014-

1190RX

ニューモデルとして出して来たのが1190RXとネイキッドモデルとして1190SX・・・なんですが、2015年にHEROから見限られ再び経営破綻。

1190SX

オークションに掛けられた結果、レアメタル等を扱うAtlantic Metals(アトランティックメタル)のバイク好きCEOが落札し再び復活・・・かと思いきや期日内に資金を用意できず復活ならず。

2016EBR

その後グダグダありつつも三度目のオークションにてLAP(Liquid Asset Partners)というインディアンモーターサイクルも手掛けたコンサルティング会社に買収される事で今度こそ本当に復活。

開発どころではなかったのもあり、基本的には先代1190RSのブラッシュアップモデル。ただ流石エリックというべきかまた独創的な物が一つフロントに追加されています。

1190SX

これはディスクローターとキャリパーピストンへ走行風を積極的に当てることで冷却性を上げ熱ダレを防ぐ装備。

そして今EBRがどうなっているのかというと・・・実は2017年に想定を大幅に下回る経営だった事からまたまた破産し競売に掛けられる事に。

1190SX

しかも今までとは違い、手を差し伸べてくれる企業や投資家が現れなかった為、設備からパーツの一つに至るまでバラ売り。

つまり遂にEBR/Buellという会社は完全に消える事が決まりました。

最後に・・・。

エリックビューエル

「TRILOGY OF TECH(技術のトリオジー)」

マスの集中化×高剛性フレーム×バネ下重量の軽減

これはエリックがバイクを作るに辺りこだわり続けていた理論です。

エリックビューエル

エリックがこう考えるようになったのはまだBuellが発足する前、TZ750でレーサーとして走っていた時代。

エリックはこの時レース中の事故で友人を二人亡くしているんです。この出来事がキッカケでエリックの中にある考えが生まれました。

「バイクは何よりもコントローラブルじゃないといけない」

そして生まれたのが技術のトリオジー。エリックはその考えを、ワンマンと批判されようと、会社が何度破産しようと、結局最後まで貫き通しました。

最後の最後に・・・

XB2の時に

「ビューエルはアメリカよりも欧州の方で人気がある」

と言いましたが、実はアメリカでのビューエルの評価はそんなに高くないんです。

日本車に劣る信頼性、弄りにくい独自構造、度重なる破綻などで不甲斐ないバイクメーカーという認識。この2017年の完全消滅もそれほど話題になっていません。

1190RX

海外メーカーに負けないアメリカのスポーツバイクを作ることに死力を尽くしてきたエリック・ビューエルを惜しむ声が、復活を望む声が、肝心のアメリカから全く聞こえない。

こんな悲しい話は無いです・・・。

※2021年追伸

EBRは2019年から新会社となり2021年から再びビューエルブランドで1190シリーズを展開し始めています・・・が、エリックビューエルさんは関わっていません。

現在はクラウドファンディングで立ち上げたFUELLという電気自動車会社のCTO(最高技術責任者)を務めています。ちなみに2024年にエリックが造った電動バイクが発売予定。

参照:fuel.com(公式)

エンジン:水冷4サイクルDOHC二気筒
排気量:1190cc
最高出力:
185ps/10600rpm
最大トルク:
14kg-m/8200rpm
車両重量:173kg(乾)
※スペックは1190SX

系譜図
エリックビューエル 創業者
Erik Buell
RR1000/1200 1986年
RR1000/1200
RS1200 1989年
RS1200
S2 1994年
S2 Thunderbolt
S1 1996年
S1 Lightning
S3 1996年
S3/T Thunderbolt
M2 1997年
M2 Cyclone
X1 1999年
X1 Lightning
BLAST 2000年
Blast
XB9シリーズ 2003年
XB9R Firerbolt
XB9S Lightning
XB12シリーズ 2004年
XB12R Firerbolt
XB12S Lightning
XB12X ULYSSES
1125シリーズ 2007年
1125R
1125CR
1125シリーズ 2011年
1190RS
1190シリーズ 2015年
1190SX
1190RX

1190RS -since 2011-

1190RS

「EBR:ERIC BUELL RACING」

インド最大の二輪メーカーのヒーローと提携・援助で復活したビューエル。会社の場所は勿論ビューエル時代と同じウィスコンシン州で今度は従業員13人からスタート。

先代1125でROTAXに作らせたエンジンの権利を購入しエリックがほぼ全て作り直したニューエンジンが積まれています。

ただこのバイクは100台限定&300万円という実質的にレースを走るためのホモロゲーションモデルだからまず見ることも無いし、正規で入ってきていないので買うことも無いと思います。一応国内でも4台ほど何処かの誰かかが購入したようですが。

エリックZTL

そういえばビューエルの特徴の一つであるZTL(ゼロ・トーション・ロード)について説明していませんでした。日本ではXB9が初出のブレーキシステム。

ZTL2

見れば分かりますがディスクローターがホイールのリムにマウントされているわけです。こうする事でディスクローターのインナーが不要になり軽く出来るというわけ。バネ下軽量が狙いで同クラス比-2kg以上だそうです。

ただキャリパーが一般的な外から差し込むタイプではなく中から差し込むタイプなので、ブレーキパッドを変えるだけでもホイールを外す必要があるというメンテナンス性の悪さがあったりします。一応外さないでも出来るように逃げが作られてはいますが・・・

1190RSリア

それにしても目につくのが懐かしきコムスターの様なリアホイールですね。

と言っても今の人はわからないので説明するとコムスターホイールっていうのはホンダが編み出したホイールでComposite(合成)とStar(星形)という意味。

1190RSリア

スポークプレートをリベットでリムに固定しているホイール。組み立て式キャストホイールみたいな感じ。キャストホイールが認可されていなかった時代の産物です。

重ねて言いますがこの1190RSはちゃんとキャストホイールですよ。ただ形がコムスターホイールに似ているというだけです。

小言。

恐らくビューエルに関心がある人の多くは

「空冷こそビューエルであり水冷はビューエルではない」

と思われてるかと。

実際X1ライトニングは11,228台。そしてXB9が合算で22,961台、XB12は45,929台も製造されてました。それに対し水冷化した1125Rは5,836台、CRモデルは3,099台とXBシリーズの半分以下。

EBR1190

もちろんこれはハーレーが取扱を止めた事や経営のゴタゴタもありますが、水冷化を望んでいない人が多かったのも大きな理由。

これは本当に難しかったと思います。

日本の空冷ビューエル乗りに怒られそうですが、Buellが成功したのは他の何処にもない唯一無二の味を持っていたスポーツ版ハーレーだったから。

しかしエリックが目指していたのは味があるスポーツバイクではなくMade in USAのスポーツバイク。本意とは別の形で世間に認められたわけです。

1190

つまりハーレーと手が切れ、水冷のコンパクトなDOHCエンジンを選んだという事は言い換えれば、この水冷モデルこそエリックが本当に作りたかったバイクとも言えるんじゃないかと。

エンジン:水冷4サイクルDOHC二気筒
排気量:1190cc
最高出力:
185ps/10600rpm
最大トルク:
14kg-m/8200rpm
車両重量:173kg(乾)
※スペックは1190SX

系譜図
エリックビューエル 創業者
Erik Buell
RR1000/1200 1986年
RR1000/1200
RS1200 1989年
RS1200
S2 1994年
S2 Thunderbolt
S1 1996年
S1 Lightning
S3 1996年
S3/T Thunderbolt
M2 1997年
M2 Cyclone
X1 1999年
X1 Lightning
BLAST 2000年
Blast
XB9シリーズ 2003年
XB9R Firerbolt
XB9S Lightning
XB12シリーズ 2004年
XB12R Firerbolt
XB12S Lightning
XB12X ULYSSES
1125シリーズ 2007年
1125R
1125CR
1125シリーズ 2011年
1190RS
1190シリーズ 2015年
1190SX
1190RX