「遊びの天才」
2004年に登場したBMXをバイク化したようなトライアル系ともフリースタイル系ともX系とも言える佇まいの初代トリッカーことXG250 TRICKERの5XT型。
プロジェクトリーダーがセローの生みの親である近藤さんである事や、少し後に同じエンジンを積んだセローが出たことから
『セローの派生モデル』
というイメージで片付けてしまいがちですが全くもって異なるモデルです。
このトリッカーは
「みんなが夢中になって楽しめるバイク」
という開発コンセプトを元に造られたモデルで、下の写真は最初に登場した2003年東京モーターショーモデル。
真ん中にいるのはコンセプトを先鋭化したPROモデルで右にあるのは原付版のチビッカー。
そもそもこのプロジェクトの発端となったのが何処にあるのかというと商品企画の樋口さんが
「ストリート軽二輪の売れ筋がTWしかない」
という状況に懸念を抱いた事がキッカケ。
そこで幾つか案を出してプレゼンしたところ社内で一番人気が高かったのが
『コンパクト&パワフルで振り回せるバイク』
というコンセプトだった。
これがトリッカーの素案になります。
そうしてセローの生みの親でありかつてはトライアル選手でもあった近藤さんをプロジェクトリーダーに据え開発が開始。
「振り回して楽しいとはなんぞや」
と議論と数々の試走を重ねた結果
・スムーズにターン出来る
・段差を楽に超えられる
・ウイリーが簡単に出来る
などの小排気量が得意とする要素から大排気量が得意とする要素まで様々な意見が出された。
そしてこれらの意見をまとめる際にベンチマークとなったのがキッズ向け2stモトクロッサーYZ80とSEROW225の二台。
同じ取り回しの良さを持ちつつもパンチがあるYZ80と安心感のあるSEROW225。
「この二台の良い所取りをしたバイクを」
となったわけです。
それを実現するためにTRICKERは本当に無茶な事をやっています。
何が無茶ってセローよりも小さく短いフレームにセローより大きいエンジンを押し込んだから。
しかもシート高もセローより低くするという無茶なオマケ付き。
このレイアウトはフレームを何百回もミリ単位でやり直した末に何とか形に出来たもので、プロジェクトリーダーの近藤さんも
「このバイクはシート下に凝縮という名の芸術が詰まっている」
と豪語するほど。
そうしてセローより20mmも低い全長とシート高のコンパクトで足つきベッタリな、更には125かと思うほど短かいホイールベースとパンチがあるエンジンで振り回せるトリッカーが完成した。
ただトリッカーにはもう一つ絶対条件がありました・・・それは
「40万円を切ること」
です。
これがどうしてかというと近藤PLを始めチームのみんなが
「若者にバイクの本当の楽しさを伝える必要がある」
という危機感を持っていたから。
若者に乗ってもらうにはシート高を始めとした取り回しはもちろんのこと車体価格も安くしないと選んでもらえない。
だから車体価格もギリギリまで詰めて40万円を切ることも絶対で、実際に車体価格は税別ながら399,000円を切った安さだった。
そのため質感への予算はほとんど設けられず、それらは翌年から発売された特別塗装やメッキなどが施された+2万円のトリッカーSでカバー。
一体なぜそんなに若者に対する危機感を持っていたのかというと少子化・・・じゃない。
当時の若者に圧倒的に支持されていたバイクがビッグスクーターだったからです。
この頃は空前のビッグスクーターブーム。まだ記憶に新しい人も多いと思います。
そんな状況に対し
「ビッグスクーターでは若者のバイク愛は育たない」
という危機感を覚えた開発チームの思いが振り回して遊べるトリッカーを生んだわけです。
広報の加藤さんいわくトリッカーは
「打倒ビッグスクーターの意気込みで造った」
との事・・・自分たちがマジェスティで生んだブームを自分たちで倒しにかかるっていう。
※インタビュー記事:別冊モーターサイクリスト317
主要諸元
全長/幅/高 |
1980/800/1145mm |
シート高 |
790mm |
車軸距離 |
1330mm |
車体重量 |
120kg(装) |
燃料消費率 |
50.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 |
6.0L |
エンジン |
空冷4サイクルOHC単気筒 |
総排気量 |
249cc |
最高出力 |
21ps/7500rpm |
最高トルク |
2.14kg-m/6500rpm |
変速機 |
常時噛合式5速リターン |
タイヤサイズ |
前80/100-19(49P) 後120/90-16(63P) |
バッテリー |
TYZ7S |
プラグ ※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価 |
DR7EA |
推奨オイル |
ヤマルーブ プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス |
オイル容量 ※ゲージ確認を忘れずに |
全容量1.4L 交換時1.2L フィルター交換時1.3L |
スプロケ |
前15|リア45 |
チェーン |
サイズ428|リンク124 |
車体価格 |
399,000円(税別) |
系譜図
系譜図