冒険という感動創造トレール250DT1(214/233) -since 1968-

ヤマハDT-1

「NEW STANDARD TYPE」

当時の人なら知らぬものは居ないヤマハトレール250DT1またはDT-1(海外名)でお馴染みの名車。

この頃の日本というのはオフロードという概念が無い時代で、未舗装路向けと言えばオンロードベースにマフラーを打たない様に上げてブロックタイヤを履かせた俗に言うスクランブラーしかありませんでした。

DT-1

そんな中でDT1は

「未舗装路を思いっきり走れるバイク」

として登場したからわけで、それはそれは話題になりました。

DT1が誕生するキッカケとなったのはアメリカにあります。

アメリカでは当時ISDT(International Six Days Trial)というトライアルレースが人気で、その真似事をする若者が多く居ました。それを見た現地法人のYIC(北米ヤマハ)が

「公道も未舗装路も走れるバイクを造ってくれ」

と要請した事からDT1(デュアルパーパス トレール)は誕生したんです。

250DT1

ただし、最初にも言った通り当時の日本というのはまだオフロードというバイクについて全く理解がない状態だったから何をどう造ればいいのかチンプンカンプン。

そこでアメリカに

「要望を数値化してくれ」

と言ったらホイールベースからシート高から細かく数値化された要望が届いた。

DT-1プロトタイプ

それを元に開発が始まったわけですが、偶然なことにヤマハはその頃YX26というレース専用モトクロッサーの開発を始めていました。

YX26

これはオンロードレースで勝ったので、次はモトクロスで勝って更に知名度と技術力をアピールしようという狙いから。

処女作であるYA-1(通称 赤とんぼ)がそうだった様に、レースで勝つことで成り上がったヤマハらしい考えですね。

そしてその狙い通りYX26でヤマハはトライアル選手権を圧倒的な速さで優勝。

鈴木忠男

ちなみにその時のライダーは鈴木忠男さん。

SP忠男ってメーカーの名前を聞いたことがあると思いますが、その創業者です。他を寄せ付けないテクニックで天才ライダーと言われていました。

つまりアメリカからの要望が偶然にもYX26の開発と重なったおかげで、DTはオンロードベースのスクランブラーという存在から完全に脱却し、モトクロッサーベースのオフロード車(ヤマハ的にはトレール)として誕生する事が出来たというわけ。

250DT1カタログ写真

とにかく幅を抑えるため単気筒のピストンバルブ方式を採用したYX26ベースの頑丈かつ18.5馬力と強力なエンジン。

当時としては非常識なまでに長いストロークを持たせ底付きしないサスペンションと走破性を考えた4.00インチというトラック並の極太タイヤ。

高めの最低地上高にアンダーガードやマフラーガード、更にハンドルテンションバーも装備し、車重も徹底的な軽量化で乾燥重量はわずか112kg。

DT-1カタログ

本当に完璧な、今から見れば初めて正解と言えるオフロード市販車でした。

ただし何度も言いますが、当時はオフロードの存在も市場規模も未知だった。

だからヤマハも年間4,000台と想定していたのですが、いざ発売してみるとその三倍となる12,000台もの注文が全米から殺到。

全くもって生産が追いつかず納車一年待ちという事態になり、ここで初めてオフロード需要の高さを世界が知る事となったんです。

トレールDT1

もちろんそれは日本でも同じで、爆発的な人気と納期に悶々とする人が続出しました。

そんな他の追随を許さない圧倒的な走破性能で大きく話題となったDT1ですが、更に恐ろしいことに

『GYT(General Yamaha Tuning)』

と呼ばれるKITパーツが用意されていました。

これは早い話が今でいうフルパワー化みたいなものなんですが、変えるのは

・ピストン

・シリンダー

・キャブ

・マフラー

・スプロケ

たったこれだけ。

DT-1GYT

誰でも簡単に出来る変更にも関わらず、これだけで一気に30馬力にまでアップ。

このKITを組んだらもう本当にファクトリーモトクロッサー顔負けの鬼に金棒状態で、案の定モトクロスレースはDT1のワンメイク状態に。

モトクロスレース

もちろん人気上昇中だった全日本モトクロスレースでもDT1が優勝。

ちなみにこの時のライダーも鈴木忠男さんです。

正にイケイケとなったヤマハだったんですが、ここで手を緩める様なことはせず100や125のトレールも展開しオフロードの世界を拡充。

更にはオフロードの楽しさを体感してもらおうと全国各地でトレール教室を開催。

トレール教室

多くの者にDT1の魅力を理解してもらう狙いだったのですが、免許も車両も不要だった事から大人気となりトレールブームを巻き起こす事態にまで発展しました。

DT1が名車と言われるのはこのオフロード文化を開拓した事にあるわけですが、一方で人気となった理由はそれだけじゃない。

DT1が爆発的な人気となりトレールブームを巻き起こしたのは性能に負けずとも劣らないデザインを持っていたから。

250DT1コンセプトデザイン

開発は軽量化を筆頭とした機能最優先で数々の制約や修正があったものの、流石ヤマハとGKというべきか機能とデザインのコンビネーションが素晴らしかった。

特徴的な部分の一つとしてはマフラー。

DT1チャンバー

とにかく細くしたい狙いから、本来なら丸く膨らませないといけないチャンバーを非常識にも押し潰して楕円形状にするという先鋭さ。

そしてもう一つはタンク。

トレールという事からハンドルの切れ角は大きいほうがいいものの、大きくするとハンドルがタンクに干渉してしまう問題があった。

DT-1のタンク

そこでタンク前方のステム部を細めて袖付きにした事で切れ角の問題を解消しつつ独特なタンク形状に。

これらの創意工夫によっていま見てもカッコイイと思えるデザイン、当時としては斬新過ぎるデザインとして若者を中心に大好評となりました。

DT1のポスター

ちなみにこれはそんなデザインを引き立たせた有名なポスター。

見るからにシャレオツなんですが、100円で販売したところ電話注文が殺到したんだそう。

翌1969年にはウィンカーを装備したDT1/233型となり、1970年には7ポートで23馬力にまでアップしたDT250/291へとモデルチェンジ。

ヤマハトレールシリーズ

その後も1973年にはモトクロッサーMX250ベースの21インチホイールのDT250/450型になり、1975年DT250-II/512ではタンクとシート形状の変更。

最終型の1977年DT250M/1N6型では『空飛ぶサスペンション』ことカンチレバー式モノクロスサスペンションを搭載し現代的なオフロード車となりました。

DT250

このトレールブームというかDTブームは日欧米全てで起こった事から、世界的な不況によってライバルたちが減収減益していく中でヤマハだけが増収増益。

このDT1の大成功によりオフロードのヤマハと呼ばれる様になると同時に

『世界のヤマハ』

へと急成長していったわけです。

そんなヤマハなんですが1990年からこんなポリシーを掲げています。

ヤマハ発動機のポリシー

<感動創造企業>

これはヤマハの

「世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する」

という企業目的を示す言葉なんですが、個人的にこの考えはDT1から来ているんじゃないかと思います・・・何故ならDT1が正にそうだったから。

DT1壁紙

我慢して走り抜けるか迂回するのが当たり前だった『嫌な道』を『ワクワクする道』に変えたバイク。

道なき道を走っていける『冒険』という新たな形を創造し、多くの人に感動を与えたバイクがDT1だからです。

主要諸元
全長/幅/高 2060/890/1130mm
シート高
車軸距離 1360mm
車体重量 112kg(乾)
燃料消費率 40.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 9.5L
エンジン 空冷2サイクル単気筒
総排気量 246cc
最高出力 18.5ps/6000rpm
最高トルク 2.32kg-m/5000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.25-19
後4.00-18
バッテリー
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
B8ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
スプロケ 前15|後44
※DT250(77~)
チェーン サイズ520|リンク102
※DT250(77~)
車体価格 193,000円(税別)
系譜の外側
DN-01

拒絶された渾身のATスポーツクルーザー
DN-01
(RC55)

gts1000

悪いのは人か技術か
GTS1000/A
(4BH/4FE)

750カタナ

カタナと名乗れなかったカタナ
GSX750S
(GS75X)

ザンザス

Zの亡霊と戦ったZ
XANTHUS
(ZR400D)

CBX400カスタム

30年経ってCBXと認められたアメリカン
CBX400CUSTOM
(NC11)

BT1100

イタリア魂が生んだもう一つのMT
BT1100 BULLDOG
(5JN)

GSX1300BK

本当の怪物は誰も求めていなかった
GSX1300BK B-KING
(GX71A)

ZR750F/H

死せるザッパー生ける仲間を走らす
ZR-7/S
(ZR750F/H)

ホンダCBX1000

大きすぎた赤い夢
CBX1000
(CB1/SC03/06)

GX750/XS750

ブランドは1台にしてならず
GX750
(1J7)

スズキGAG

SUZUKIのZUZUKI
GAG
(LA41A)

Z1300

独走のレジェンダリー6
Z1300/KZ1300
(KZ1300A/B/ZG1300A)

NM-4

アキラバイクという非常識
NM4-01/02
(RC82)

FZX750

大きな親切 大きなお世話
FZX750
(2AK/3XF)

GSX1400

踏みにじられたプライド
GSX1400
(GY71A)

750Turbo

タブーを犯したターボ
750Turbo
(ZX750E)

NR750

無冠のレーシングスピリット
NR
(RC40)

TRX850

現代パラツインスポーツのパイオニア
TRX850
(4NX)

GS1200SS

嘲笑される伝説
GS1200SS
(GV78A)

ゼファー1100

ZEPHYRがZEPHYRに
ZEPHYR1100/RS
(ZR1100A/B)

NS400R

狂った時代が生んだ不幸
NS400R
(NC19)

RZV500R

手負いの獅子の恐ろしさ
RZV500R
(51X/1GG)

RG500Γ

チャンピオンの重み
RG500/400Γ
(HM31A~B/HK31A)

AV50

なぜなにカワサキ
AV50
(AV050A)

ドリーム50

五十路の夢
DREAM50
(AC15)

フォーゲル

楽し危なし
POCKE/VOGEL
(4U1/7)

ストリートマジック

シンデレラスクーター
TR-50/TR-110
(CA1L/CF12)

Z750ツイン

鼓動と振動
Z750TWIN
(KZ750B)

フォルツァ125

市民権の象徴
FORZA125
(JF60)

SRX4/6

決して多くない人たちへ
SRX-6/SRX-4
(1JK/1JL~)

DR-Z400SM

最初で最後のフルスペック
DR-Z400S/SM
(SK43A/SK44A)

ZX-7R/RR

問題児レーサー
ZX-7R/RR
(ZX750P/N)

RC213V-S

2190万円の妥協と志向
RC213V-S
(SC75)

YZF-R7

7と1でWE/R1
YZF-R7
(5FL)

バーグマンFCS

エコの裏で蠢くエゴ
BURGMAN FCS
(DR11A)

エリミネーター750/900

名は体を現す
ELIMINATOR750/900
(ZL750A/ZL900A)

モトコンポ

こう見えて宗一郎のお墨付き
MOTOCOMPO
(AB12)

TDR250

聖地突貫ダブルレプリカ
TDR250
(2YK)

グース

決めつけられたシングルの正解
Goose250/350
(NJ46A/NK42A)

Z650

小さく見えるか大きく見えるか
Z650
(KZ650B)

X4

単気筒
X4
(SC38)

SDR200

軽く見られた軽いやつ
SDR
(2TV)

チョイノリ

59,800円に込められた思い
choinori
(CZ41A)

ゼファー750

復刻ではなく集大成
ZEPHYR750/RS
(ZR750C/D)

PS250

モトラリピート
PS250
(MF09)

DT-1

冒険という感動創造
トレール250DT1
(214/233)

Vストローム250

二度ある事は三度ある
V-STROM250
(DS11A)

エリミネーター250

周期再び
ELIMINATOR250/SE/LX
(EL250B/A/C)

CX500ターボ

打倒2ストのブースト
CX500/650TURBO
(PC03/RC16)

YA-1

原点進行形
YAMAHA125
(YA-1)

rf400r

RでもFでもない
RF400R/RV
(GK78A)

250-A1

半世紀を迎えた吉凶のライムグリーン
250-A1/SAMURAI

Vツインマグナ

氷河期 of Liberty
V-TWIN MAGNA(MC29)

TDR50

RALLYってしまった原付
TDR50/80(3FY/3GA)

SW-1

オシャレは我慢
SW-1(NJ45A)

ボイジャー1200

可愛い娘は旅をせよ
Voyger XII
(ZG1200A/B)

WING

Twist and Shaft
WING
(GL400/GL500)

ビーノ

その愛嬌は天然か計算か
VINO
(SA10J/SA26J/SA37J/SA54J/AY02)

DRビッグ

爪痕を残し飛び去った怪鳥
DR750S/DR800S
(SK43A/SR43A)

テンガイ

愛おぼえていますか
Tengai
(KL650B)

CB92

雪辱のSSその名はシービー
CB92

XT400E

本当の名前は
ARTESIA
(4DW)

ジェベル250

ツールドジェベル
DJEBEL250/XC/GPS
(SJ44A/SJ45A)

KV75

混ぜるなキケン
75MT/KV75
(KV075A)

ダックス

泥遊びなら任せろ
DAX
(ST50/ST70/AB26)

ランツァ

単槍匹馬のラストDT
LANZA
(4TP)

GT750

水牛であり闘牛である
GT750
(GT750J~N)

SR400(RH16J)-since 2018-

RH16J

「SRで、あり続ける。」

再び規制によって生産終了を迎えつつも復活してきた七代目にあたるRH16J/B9F型。

こちらは40周年を記念して出されたSRの十八番である40周年モデルで、SRではお馴染みとなるサンバースト塗装と真鍮エンブレムになっています。

40周年モデル

昭和53年に生まれから40年、つまり平成の世を横断して令和になっても存続という偉業を達成した事になります。

最初にこの七代目モデルの変更点を上げると

・キャタライザーの改良

・キャニスターの装着

・電装/灯火系

・新設計マフラー

・新型ECU

などなど平成28年度(ユーロ4)排ガス規制への対応がメインとなっています。見分ける際に分かりやすいのがキャニスターですね。

キャニスター

これは蒸発ガスを大気放出させず吸収するためのもの。

キャニスターについてはトリッカーの方でしたので省きますが、この七代目SR400はセローと同じく2018年10月からのABS義務化に該当しないよう9月に滑り込むようにリリースされたモデルなので最長でも2021年9月までの販売になると思われます。

SR400の規制

要するに2年程度のモデルライフである事がほぼ確定しているわけですね。

だからもしも

「リアがディスクブレーキになるのは嫌だ」

と思ってるのならこのモデルがラストモデルになるのでお急ぎを。

もちろんそう思ってない人にもSRが欲しいなら間違いなく”買い”といえます・・・何故なら規制を逆手に取って激変した部分があるからです。

2018年式RH16J

SRに興味のある方ならこの2018年型に対してこういう意見を耳にした事があると思います。

「新型は音が凄く良い」

これは騒音規制の測定方式が(欧州準拠に)変わったことで実質的に少し緩和された事が理由の一つにあります。

それに伴い七代目SRはマフラーの内部構造が変更され排気口も先代よりも一回り大きくなっています。

2018年式SR400のマフラー

こうして抜けが良いマフラーにした事で音が格段に良くなった・・・という単純な話ではないのがクラフトマンシップ溢れるSRらしいところ。

前モデルにこの新型マフラーを付けたら同じ音になるのかというと残念ながらならないんです。というのも今回のモデルチェンジにおける最も大きい変更点はマフラーだけではなくバイクの脳にあたるECUにあります。

RH16JのECU

今回の排ガス規制ではOBD1(異常を知らせる機能)を装着する必要があり、そのためECUを処理能力の高いモデルに変更する必要があった。

これによりそのままでは入らないほどの大きさとなりレイアウトとシートサイドカバーを相変わらず変わっていない様に変えているんですが、同時にエンジンをこれまで以上に事細かに制御出来る様になったわけです。

そのおかげでこの七代目は中回転域にあったトルクの谷を解消する事が可能になったと同時に、高い演算能力と各種センサーを活用して”意図的な制御”を仕込むことが出来た。

2018年式SR400のエンジン

「僅かに燃料を多く吹いて僅かに点火時期を遅らせる」

という制御です。

燃料が余る状態で点火時期を遅らせるとまだ燃焼中だったり燃焼されず排気されるガスが出てきます。これは暖気中などに近い状態。

そしてそのまま排気されたガスはエキゾースト内で燃焼するんですが、燃焼するということは音や振動が出る。

RH16Jのマフラー

そう、これが良い音の正体なんです。

規制で必須となった高性能なECUを活用する形で『鼓動感』を出している。

「昔のバイクの方が音が良かったな」

という声を聞く事があると思いますが、この七代目は精密な制御によってそんな

『ちょっと燃調がファジーだったキャブ時代』

に限りなく近い音を出す様に出来たんです。

SR400キック

「精密な曖昧さで奏でる鼓動と音色」

これが七代目最大の変更点であり評判を呼んでいる魅力です。

主要諸元
全長/幅/高 2085/750/1100mm
シート高 790mm
車軸距離 1410mm
車体重量 175kg(装)
燃料消費率 29.7km/L
※WMTCモード値
燃料容量 12.0L
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 399cc
最高出力 24ps/6500rpm
最高トルク 2.9kg-m/3000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/100-18(54S)
後110/90-18(61S)
バッテリー GT4B-5
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BPR6ES
推奨オイル ヤマハルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時2.0L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前19|後56
チェーン サイズ428|リンク130
車体価格 530,000円(税別)
※40thは+110,000円
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)

【関連車種】
GB250CLUBMANの系譜ST250の系譜ESTRELLAの系譜

SR400(RH03J)-since 2010-

RH03J

「日本の、スタンダードです。」

2008年に実施された厳しい排ガス規制で

『空冷×単気筒×400』

という三大要素を全て兼ね備えていた為にカタログ落ちとなってしまったものの、およそ2年の歳月の後に復活した六代目SR400のRH03J型。

SR400wallpaper

ここでも型式は変わらず3HTのままで3HTRから3HTXまでと、2017年モデルから新コードのB0Hとなっています。

大きな変更点としてはキャブからFI(電子制御燃料噴射装置)になった事。

それだけかと思うかも知れませんが、これSRにとっては死活問題。

SR400フューエルポンプ

FIということは燃料を加圧する必要があるので、拳ほどの大きさもある燃料ポンプが必要になる。

スリムなSRにとってこれは非常に重荷。これをもしそのまま燃料タンクに突っ込むとタンクが盛り上がってしまうから。

SR400インジェクション

だからSRはわざわざ電装系の配置を全て見直し、なんとかサイドカバー部にスペースを設けてそこに押し込むことでサイドカバーを左右10mm高くするだけで済ませてある。

排ガスをクリーンにするために欠かせないマフラーもそう。このモデルから触媒とO2センサーを付けたものになり重量が変わりました。

SR400

だから取り付け位置を変える必要が生まれた。

でも単純に変えただけでは”変わってしまう”のでガードを付けたりしてそれを感じさせない様にしている。

しかしここまで電子制御化してもなおキックだけという潔さ。セルも検討したそうですが結局キックだけ。現存する市販車でキックだけってもうSR400だけじゃないかな。

今や伝統化して『儀式』と呼ばれるまでになりました。

キックスタート

ちなみにSRが欲しいけどキックが不安だと思ってる人に断っておきますが、SR400はデコンプ(キックを軽くするレバー)とキックインジケーター(キック位置の目印)が付いているのでかなり簡単です。

慣れると座ったまま3秒で掛けられるくらい簡単。

話を戻しますが、2年もの月日が空いてしまったのはこれら排ガス規制による変更だけでなく、製造ラインの問題も大きく関わっています。

というのも2008年規制で多くのモデルが販売不可になってしまった事を機にヤマハは製造ラインを集約したんですが、SRをそのラインに入れることが出来なかった。

これが何故かというと簡単な話で

B0H

「ハンドメイド過ぎるから」

です。

例えば今どき珍しいクリア塗装のクランクケースは三工程も掛けて手で磨く必要がある。スペシャルエディションになると八工程にもなる。

クランクは組立式だし、マフラーも仕上げは手溶接。そして何より組立に必要な治具もほとんどが昔からの古い専用品。

もっと細かい事を言うと、プロジェクトリーダーの山本さんが悩んだというのがピボットに付いているグリスニップルという今どき考えられない部品。

グリースニップル

グリスニップルというのはグリス注入口が付いたボルトの事なんですが

「これ要るんだろうか・・・」

と悩まれたそう。

これは錆びによる固着(ピボットシャフトが抜けなくなるのを)防止するのが狙いで1983年モデルから付けられたもの。

あくまでも当時の話であって品質が上がった今となっては無くても大丈夫なんでしょうが、悩んだ結果

「変える必要がないならそのままにしよう」

という事で結局そのまま。

35周年

こういう細かいながらも変えていない部分が非常に多いから今どきのバイクと一緒に造るのが難しかった。

それが仇となってしまったわけですが、じゃあどうやったのかというとゴルフカートの製造ラインにねじ込んだんです。

ヤマハのゴルフカート

幸運な事にゴルフカートが4st化に伴い製造ラインが見直されていた。そこで全く部署が違うにも関わらず何とかお願いしてSRも一緒に造ってもらえるように根回し。

復活に少し時間が掛かってしまったのはこれが理由。

最後に。

系譜を読まれて初めてSRが意外と手を加えられている事を知った人も多いかと思います。

ただそう思うのも当たり前な話。

1978と2018

『変えずに変える』

SRはこの難題に四半世紀以上も向き合い、どんなに厳しい時代になろうと逃げずに磨き上げて来たからです。

SINCE1978

今やその歴史の長さから

『ヤマハを体現したバイク』

と言われるまでになったわけですが・・・なんかちょっと安直で伝わり難いですよね。

それより

2018SR400

『ヤマハのクラフトマンシップを体現したバイク』

と言ったほうがしっくり来るかと。

主要諸元
全長/幅/高 2085/750/1110mm
シート高 790mm
車軸距離 1410mm
車体重量 174kg(装)
燃料消費率 41.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 12.0L
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 399cc
最高出力 26ps/6500rpm
最高トルク 2.9kg-m/5500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/100-18(54S)
後110/90-18(61S)
バッテリー GT4B-5
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BPR6ES
または
W20EPR
推奨オイル ヤマハルーブ
プレミアム/スポーツ/ベーシック
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時2.0L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前19|後56
チェーン サイズ428|リンク130
車体価格 550,000円(税別)
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)

SR400(RH01J) -since 2001-

RH01J

「シンプルであること」

五代目SR400ことRH01J型。このRH01Jというのは車検証やフレームに刻印されている車体型式で、これまで言っていた2H6や1JRといったモデルコードではありません。

というのも何故かこのモデルではモデルコードが変わらず先代同様3HTのままだから。(正確には3HTC~3HTS型)

主な変更点としてはキャブレターのセッティングの変更とエアインジェクションによる排ガス規制対応、更にドラムだったブレーキは再びディスクになりました。

初代とは反対の右側に付いてるのが特徴です。

RH01Jカタログ写真

2003年にはイモビアラーム、スロットルポジションセンサー、マフラー構造の変更などのマイナーチェンジが入っています。

少し残念な事にSR400は続いたものの、SR500は21世紀を迎えること無くカタログ落ちとなりました。

SR500最終モデル

ここでちょっとSR500の話をすると、排気量から見ても分かる通り日本の免許制度が変わった後は主に輸出向けとして展開していました。

最初は北米に向けて出していたんですが・・・

「なんだこのバイクは」

と全く理解されず数年でカタログ落ち。

しかしその一方で欧州では保険料の兼ね合いもあり

「気軽に楽しめるファンバイクだ」

として好評でした。

SR500ドイツ

中でもドイツで非常に人気を呼び、なんと意外な事に一時期は日本より売れていました。

ただその欧州向けも1999年モデルを最後に生産終了。

後にSR400が輸出されるようになるんですが、向こうの人からしたら

「なんで400なんだ」

と思っているでしょうね。

あともう一つ話しておかないといけない事があります・・・

SRミヤビ

SRは排ガス規制強化によりこのモデルで一度生産終了を迎える事になるのですが、実はこのRH01J型が誕生する少し前の1995年に一度生産終了しているんです。

理由はエンジンの金型が老朽化して使えなくなってしまったから。

SRのエンジン

もう四半世紀以上に渡って造り続けた故の問題。

金型というのは用意するのにはお金が、所有するのには税金が掛かる物。ロングセラー車の生産終了や部品欠品が相次ぐのはこれが理由です。

でもヤマハはわざわざ新たに金型を用意した・・・それもダメになった四半世紀前の金型と同じものを。

SR400三十周年

これはもう製造ではなくクラフトの域ですよね。

主要諸元
全長/幅/高 2085/750/1105mm
シート高 790mm
車軸距離 1410mm
車体重量 168kg(装)
燃料消費率 48.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 12.0L
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 399cc
最高出力 27ps/7000rpm
最高トルク 3.0kg-m/6500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前90/100-18(54S)
後110/90-18(61S)
バッテリー GT4B-5
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BPR6ES
または
W20EPR
推奨オイル ヤマハ純正オイル
エフェロSJ/SG/SF
10W-40から20W-40まで
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時2.0L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前19|後56
チェーン サイズ428|リンク130
車体価格 450,000円(税別)
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)

SR400(1JR/3HT)SR500(1JN/3GW)-since 1985-

四代目SR400

「深化。」

SR史上最大のヒットとなった四代目のSR400/1JRとSR500/1JN型。

主な変更としては、エンジンが再び見直されガスケットのメタル化とカムチェーンのアルミ化でオイルにじみを改善。

1JR

ロッカーアームに焼結チップを採用し、カムにもバーコリューブライトという表面処理をすることで耐摩耗性を更に向上。

ガソリンタンクも2Lアップの14Lとなり、ポリッシュからアルマイト加工の中空アルミリムの前後18インチに変更、サイドスタンドも鍛造になり信頼性と質感を向上。

しかし・・・一番は何と言ってもディスクブレーキからドラムブレーキへの変更ですね。

1JRカタログ写真

おまけにフロントフォークブーツを装着し、ポジションもバックステップ&ハンドル化で前傾気味に。

もはや回帰を通り越して退化と呼べるような変更で一気にトラディショナル感溢れるモデルへとなりました。

ドラム化しても制動距離がディスク時代から変わっていない事にメーカーの意地を感じますが、こうなった事には賛否両論ありました。

1984SR400

今と違ってSRを軽快な街乗りトラッカーとして評価している人たちや、自分たちでトラディショナルにしたいと考えていた人たちが居たからです。

しかし、こうなってほしいと願ったのもまた同じSRユーザー。

1992SR400スペシャルエディション

その声に応えた形となったこの1JR/1JN型は順調に販売台数を増やしていきました。

その人気は目を見張るものがあったため、遂に競合車が現れる様になりトラディショナル(カスタム)ブームが到来。

SR500/1JN

このトラディショナル(カスタム)ブームは本当にSRを救ったと言えるでしょう。

SRはもともとSRXにバトンタッチして終わる予定だったものの、社内から残すべきだという声が多かった事から存続する事になった経緯があるからです。

じゃあそんなブームが訪れた中でSRが生き抜くために何をやったかというと

【1988年(3HT1/3GW1)】

・カムを4度遅らせてマイルドに

・キャブを強制開閉式から負圧式に

・エアクリーナーボックスを拡大

・チェーンを428へダウンし騒音規制に対応

【1991年(3HT3/3GW3)】

・タンクを多重クリアのミラクリエイト塗装に

【1993年(3HT5/3GW4)】

・MFバッテリー化

・CDIや点火コイルの改良

【1994年(3HT6/3GW5)】

・セミエアフォーク廃止

・タンデムベルト廃止

・ACジェネレーターの改良

などなどブームが来ているジャンルとは思えないほどの小変更だけ。それでも1996年には約9000台とSRとしては最大の販売台数を記録。

SR20周年

時代が来よう来まいと、売れようと売れまいとSRはずっとSRのまま。

ヤマハのSRに対するぶれない姿勢はこのモデルで固まったと言えるんじゃないかと。

主要諸元
全長/幅/高 2085/735/1080mm
シート高 790mm
車軸距離 1410mm
車体重量 153kg(乾)
[153kg(乾)]
燃料消費率 47.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 14.0L
『12.0L』
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 399cc
[499cc]
最高出力 27ps/7000rpm
[32ps/6500rpm]
最高トルク 3.0kg-m/6500rpm
[3.7km-m/5500rpm]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.50S18
後4.00S18
バッテリー YB7L-B
<GT4B-5>
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BP6ES
{BPR6ES}
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時2.0L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前16|後47
{前19|後56}
チェーン サイズ530|リンク106
{サイズ428|リンク130}
車体価格 399,000円(税別)
[430,000円(税別)]
※スペックは1JR
※[]内はSR500(1JN)
※{}内は88年以降
※<>内は93以降
※『』内は96以降
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)

SR400/SP(34F/34E)SR500/SP(34A/33Y)-since 1983-

三代目SR400

「伝統のビッグシングル」

スポークホイールモデルとキャストホイールモデルを併売する形となった三代目のSR400/SP(34F/34E)とSR500/SP(34A/33Y)型。

併売と言ってもキャストホイールのSPモデルは初年度だけ(一ロッドだけ)で生産終了。

どんだけ人気無いんだよって話ですが、それよりもSRとしては初めて大きく手が加えられたモデルで

・フロントフォークのセミエア化

・シールチェーン

・ハロゲンヘッドライト

・ラバーマウントウィンカー

・オイルライン/フローの見直し

・ピストンとヘッドバルブの変更

などの改良。

SR400/34F

そんな中でも大きいのがオイルラインの見直しで、それまでインテーク側からだったオイルをエキゾースト側へ優先的に送るオイルパイプを新造し偏摩耗対策を強化。

合わせてピストンリングやカムチェーン等にも手が加えられ、大幅に信頼性が向上しました。

そしてもう一つ紹介しておかないといけないのが7周年を記念して出された限定カラーのSR400LTDというモデル。

7周年記念モデル

ギター等によく使われるサンバースト塗装(グラデーションぼかし)が施されているのが特徴。

このれが非常に好評でこの後も

「SRの限定カラーと言えばこれ」

と言われる程の代名詞カラーになりました。

「そんな人気カラーなら常備させればいいのに」

と思うかも知れませんが、これが限定であることには意味があるんです。

SR400S

このサンバースト塗装というのは職人がマスキングから塗装まで一つ一つ手作業で仕上げているから大量に造ることが出来ない。

だから限定カラーというわけ。限定のための限定ではなく、数を出せないから限定なんです。

SR400LTD

ちなみにSR400として初めて音叉マークを付けたモデルでもあるんですが、実はこれヤマハのバイク全体で見ても1965年のYA-6(旧音叉マーク)以来の事。

今でこそ珍しくない音叉マークですが、タンクエンブレムとして復活させたのはSRだったりします。

ただし実はSRはこの頃もう売れ行きがあまりよろしくなかったようで、後継の話が進んでいました・・・そうして開発されたのがSRXというモデル。

「決して多くない人たちへSRX-6(1JK~)SRX-4(1JL~)|系譜の外側」

SRXについては上記のページをどうぞ。

主要諸元
全長/幅/高 2105/750/1110mm
[2105/845/1095mm]
シート高 810mm
車軸距離 1410mm
車体重量 158kg(乾)
[161kg(乾) ]
燃料消費率 44.0km/L
[45.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 12.0L
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 399cc
[499cc]
最高出力 27ps/7000rpm
[32ps/6500rpm]
最高トルク 3.0kg-m/6500rpm
[3.7km-m/5500rpm]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.50S19
後4.00S18
[前3.25S19
後4.00S18]
バッテリー YB7L-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BP6ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時2.0L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前16|後47
チェーン サイズ530|リンク106
車体価格 310,000円(税別)
[365,000円(税別)]
※[]内はSP
※SR500は+31,000円
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)

SR400/SP(3X7/3X6)SR500SP(3X4)-since 1979-

SR400SP

「逞しきビッグシングル」

SRをよく知らない人でもひと目で違いがわかるキャストホイールが特徴の二代目SR400SP/3X6とSR500SP/3X4型。

SPというのはキャストホイール仕様という意味なんですが、これまでキャストホイールはカウルと同じく国内では不認可でした。

ヤマハキャストホイール

それが認可されるようになった事で各メーカーともキャストホイールを付加価値として付けるようになり、またそれが流行っていたわけです。

だからヤマハもわざわざSPなんて記号を設けてアピールし、SRもその一環でキャストホイール&ロードタイヤ化で時流に乗った・・・んですが、これが思わぬ不評を買いました。

SR400キャストホイール

「なんて事をしてくれたんだ」

とイメージが変わってしまった事を残念がられ販売台数は約1500台まで減少。

+4kgという重量増による軽快感の損失も痛手でした。

コレについては社内からも疑問視する声が出たようで、三年後の82年に『スポークホイール&キャラメルタイヤ』という先祖返りしたSR400/3X7型(400のみ)を限定発売。

3X7

待ってましたと言わんばかりの人気でキャストホイールあっさりと抜く3200台を販売。

もうこの頃から今と変わらない立ち位置だったわけですね。

しかし実はこれ、この失敗があったからこそ今のSRがあると言っても過言じゃないなんです。

SR500SP

キャストホイール化によって

「ダサくなってしまった」

とか

「先代が恋しい」

とか言われる様になった事から

「ダサいSRを自分でカッコよくしよう」

という流れが生まれ、スポークホイールを筆頭に初代のようにするカスタムパーツ、BSAに近づけるカスタムパーツ、スクランブラースタイルにするカスタムパーツ。

数々のカスタムメーカーがイメージが変わってしまったSRに困り果てている人をターゲットにした。

SR400SPカタログ写真

結果としてカスタム文化がまだそれほどでもなかった時代に『弄れるバイク』という新しさで評判を呼びました。

カスタムブームの始まり、そして今も続くSRの武器の一つであるカスタムの豊富さはここ。

『流行に乗ってしまった失敗』

が全ての始まりなんです。

主要諸元
全長/幅/高 2100/775/1130mm
[2105/845/1095mm]
シート高 805mm
車軸距離 1410mm
車体重量 161kg(乾)
燃料消費率 44.0km/L
[45.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 12.0L
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 399cc
[499cc]
最高出力 27ps/7000rpm
[32ps/6500rpm]
最高トルク 3.0kg-m/6500rpm
[3.7km-m/5500rpm]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.25S19-4PR
後4.00S18-4PR
バッテリー YB7L-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BP6ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時2.0L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前16|後47
チェーン サイズ530|リンク106
車体価格 330,000円(税別)
[3,000円(税別)]
※[]内はSR500SP
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)

SR400(2H6)SR500(2J3)-since 1978-

SR400

「開発コード583」

XT500の登場から約2年後に登場したXT500のオンロード版『Single Roadsports』として登場した初代SR400/2H6型とSR500/2J3型。

SRは元々の企画段階ではBSAのゴールドスターを参考にスクランブラー~トラッカーとして登場する方針でした。

SR400

我々が思うSRとはだいぶ離れている印象を受けると思いますが、これはXT500同様に一番売らないといけない主要市場だったアメリカから

「XT500の(マッスルな)ダートトラッカーを造って」

という要望があったから。アメリカの人気レースであるフラットトラックでXT500のエンジンを積んだマシンが活躍したから背景があったからだと思います。

しかし更に転機となったのが1977年。

日本のバイク誌であるモトライダーが4月号にて

ロードボンバー

「ヤマハからロードボンバーが発売」

というエイプリルフールネタをやったんです。

これは本当はXT500のページでも紹介した通り鈴鹿六耐用に開発されていたレーサー。このマシンに一枚噛んでいたモトライダーがそれを隠して市販化という飛ばし記事みたいな事をやったわけです。

そしたらこれを真に受けてハートを射抜かれる人が続出し、バイク屋やヤマハ本社へロードボンバーに対する問い合わせや予約が殺到という想定外の反応に。

この反響の大きさを受けてヤマハはSRを更にオンロード寄りな形に軌道修正。

SR500エンジン

とはいうもののエンジンなどは基本的にXT500のまま

・吸気バルブの拡大

・冷却フィンの大型化

・フライホイールマスを12.5%増加

などの変更を加え、四点リジッドで振動を軽減させた新設計のオイルタンクインフレームに搭載。

SR400初代プレス写真

ちなみに日本とフランス向けだった400はストローク量を縮めることで399cc化・・・というか本当にそれだけで、キャブを覗けば500とほぼ一緒。

というのも400は法的にやむを得ず造った面が強いモデルだったから。しかしいざ造ってみるとショートストローク化による歯切れの良いレスポンスが好評っていう。

そのことが現れているのが500と400の相違点。初代モデルは色々と特徴があります。

初代SR400カラーリング

まず500はテールカウルが無く、400はテールカウルはあるけどある代わりにグラブバーが無い。

ポジションも500はアップライトハンドルなのに対し、400がコンチネンタルハンドル。

オジサマ向けの500なのに対して400はショートストロークで機敏な事からスポーツ寄りにされてる。

そんな発動場となったSRは、もともとXT500をオンロード仕様にする人がチラホラ居たことから400は約2000台、500も約1300台とそれなりに人気を呼びました。これも海外ではアメリカ向けに造ったけど、結局売れたのはドイツだったとか。

初代SR400

ただ経緯が経緯なだけに初期型はオンロードモデルなのにブロックタイヤなど立ち位置がまだハッキリしていなかった事もあり、わずか一年ほどですぐにモデルチェンジする事になりました。

まさかこのモデルが40年以上も続くモデルになるとはこの時は誰も思っていなかったでしょうね。

主要諸元
全長/幅/高 2105/765/1135mm
[2105/845/1155mm]
シート高 810mm
車軸距離 1410mm
車体重量 158kg(乾)
燃料消費率 44.0km/L
[45.0km/L]
※定地走行テスト値
燃料容量 12.0L
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 399cc
[499cc]
最高出力 27ps/7000rpm
[32ps/6500rpm]
最高トルク 3.0kg-m/6500rpm
[3.7km-m/5500rpm]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.50S19
後4.00S18
バッテリー YB7L-B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BP6ES
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L
交換時2.0L
フィルター交換時2.1L
スプロケ 前16|後47
チェーン サイズ530|リンク106
車体価格 310,000円(税別)
[350,000円(税別)]
※スペックは2HR
※[]内はSR500(2J3)
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)

XT500(1E6) -since 1976-

1E6

「I’aventure」

SRを語る上で絶対に外すことが出来ないのが偉大なご先祖様であるXT500/1E6型。

このバイクが誕生したキッカケはUSヤマハから

「4stビッグシングルのオフロードが欲しい」

と言われた事が始まり。

これは当時アメリカで4stのスクランブラーをボアアップなどして楽しむ人たちが出始めていたから。そこを狙い撃ったのがXT500というわけ。

XT500カタログ写真

サラッと言いましたがどうしてスクランブラーが全盛だったのかといえば4stビッグオフ自体がまだ未知に近い時代だったから。

ましてヤマハは当時まだまだ2stがメインだったので、お手本となるバイクもなく右も左もわからない状況。そのため最初は4stナナハンTX750の部品を流用した単気筒450ccのトコトコ系なプロトタイプを開発しアメリカでテスト。

すると現地で物凄いダメ出しが来た・・・それもそのハズ、向こうの人が求めるのはもっとガンガン走れる4st版ビッグモトクロッサーだったからです。

エンジン設計の大城さんいわく、このダメ出しで開発チーム火がつき

「軽く、コンパクトで、高い耐久性を誇り、なおかつ美しい」

をコンセプトに掲げSC500(2st500モトクロッサー)をベースに再開発。

ビッグシングルXT500

「1グラム1円(1円のコストで1グラム削る)」

を合言葉に4stでネガとなる重さを改善し、最低地上高を稼ぐドライサンプかつフレームにオイルタンクの役割を持たせる画期的な『オイルタンクインフレーム』を新開発。

オイルタンクインフレーム

ちなみに車体担当だった大野さんはトヨタ2000GTにも携わった方で、エンジンの方でも500ccにまで拡大しつつ同様に2000GTで培ったヘッド技術を投入。

結果タイヤのブロックパターンを捩じ切ってしまう問題を起こすほどガンガンな物にパワーアップしました。

※ヤマハ:XT500開発者インタビューより

XT500リアビュー

更に凄いのはこれだけの性能をもたせつつカリフォルニアのモハーヴェ砂漠(35,000km2)を難なくはしりきれる耐久性も持たせたこと。

これはプロトタイプのダメ出しで火が付いた開発チームが自ら乗り込んで走り込むようになった際に耐久性の大事さを再確認させられたから。

その熱の入れっぷりは凄まじく、有名なのが始動を容易にするために備えたデコンプなどを含めた耐久性を検証するためにやった

『一万回のキックテスト』

何が何でも壊れないエンジンに仕上げたかった大城さんの発案で、一人100回をチーム内でローテーション。

XT500メカニズム

まさに体当たりといえる開発で造られたXT500は好評どころか歴史に名を残すほどの名車となったんですが、そうなった経緯も凄い。

ビッグシングルバイクが全盛だったのは1960年代で、XTが出た70年代後半は多気筒や2stがメインだった。

じゃあなんでこんな4stビッグシングルが売れたかというと、ポテンシャルの高さを見抜いた目の肥えたコアな人達が飛びついたから。

XT500北米

具体的に言うとレースをやっている様な人たち。

そういう人達にとってXT500やTT500(保安部品が付いていないコンペモデル)は4st特有の粘りと信頼性をもった最高のバイクだった。

だからアメリカではモトクロスやエンデューロはもちろん、畑違いなフラットトラック(オーバルダート)にまで持ち込んでくる人まで出た・・・これが全米を震撼する出来事を起こす事になります。

テキサスで行われたフラットダートレースにて、なんとハーレーワークスのVR750や王者ケニー・ロバーツのXS650改を抑え、リック・ホーキンスのTT500が勝利したんです。

TT500

ツインエンジンが当たり前だったフラットトラックでまさかの優勝。

「あのシングルエンジンは何だ」

と話題になり、XT500/TT500だと分かるとユーザーはもちろん王者ケニーまで乗り換えるほどに。

結果としてダートだけでなくモトクロスやバハ1000などあらゆるレースで使われるようになり、そして活躍する姿を目の当たりにした人達もXT500/TT500を買い求めアメリカはビッグシングルブームへと突入することになりました。

XT500

一方で欧州の方はどうかというと、こっちもレースが絡んでいる。

XT500/TT500はもともとアメリカ向けバイクで欧州では後回しでした。そんな中でファーストコンタクトとなったのがISDEという1975年末にイギリスで行われていた6日間にも及ぶエンデューロレース。このレースにアメリカ人ライダーがXT500(おそらく先行生産された200台)で参戦したことが始まり。

これを見たスウェーデンヤマハの代理店に勤めていた4st好きなモトクロスレーサーのハルマンとランディが

「なんだそのバイクは・・・レースが終わったら売ってくれ」

と直談判し買い取った後に自分たちでハスクバーナのフレームに積むなどチューニングし、モトクロッサー版XT500を開発。

それを日本のヤマハに見せて

「世界モトクロス選手権に参戦したらXT500の宣伝になる」

と直談判し、開発と資金調達の目処を立てて参戦。

HL500

そうして開発されたのがこの

『HL500(Hallman Lundin)』

というモデル。

※MXWORKSBIKE.COMより

レースでの様子

HL500は並み居る2st500ワークス勢に負けずポイントを獲得するなど大健闘をしたことで、クロスするように販売されたXT500がドイツを中心にヒット。

HL500の存在は向こうではかなり有名なようで、XT500をHL500風にするレプリカ的なカスタムが流行ったりもしました。

そんな欧州でさらなるヒットを呼ぶキッカケとなったのが有名なパリダカ。

XT500パリダカモデル

フランスヤマハがXT500SPL(TT500ベースのビッグタンク仕様)にて、1979年の第一回ダカールラリー(旧名オアシスラリー)をワンツーフィニッシュ、第二回では表彰台独占という快挙を達成。

これによりもう欧州でその名を知らぬものは居ないと言い切れるほどの存在に。

XT500パリダカモデル

ちなみにXT500が欧州で人気となった理由には他にも

「構造がシンプルで修理やカスタムがしやすい」

という部分も大きかったようです。だからダカールラリーでも勝てたんでしょうね。

そして最後は日本・・・実は日本でも話題になったんですよ。

それは発売の翌年にあたる1977年に行われた鈴鹿六耐(八耐の前身)での事。

ロードボンバー/SHIMA498YというシマR&Dの島英彦さんと三栄書房社長だった鈴木脩己さんがタッグを組んで造ったモデル。

ロードボンバー

XT500のエンジンをオリジナルフレームに搭載したこのマシンがエントリーしたんですが、当時は無謀というか誰も注目していませんでした。

「四気筒のリッターバイクに敵うハズは無い」

と。

ところが単気筒ならではの軽さと燃費を武器に八位入賞という下馬評を大きく覆す結果となり一転してシングルの星として。

ロードボンバーについてはもう一つ話題があるのですがそれはSRのページで話すとして、XT500はこのように日欧米全てのレースで結果を残し歴史に名を刻む事になりました。

改めてもう一度言いますが、何が凄いってこれヤマハにとって4stビッグシングル第一作目という事。

XT500壁紙

にも関わらずフラットダートでワークスに勝って、モトクロスで2stと互角の勝負を繰り広げて、畑違いの鈴鹿でもマルチ相手に善戦し、ダカールラリーでは敵なしで連覇。

これを名車と言わず何と言いましょう。

最後に小ネタ。

XT500カタログ

XT500は最初の試作機がダメ出しされて作り直した経緯があるという話をしたんですが、実はその後にもう一度作り直された経緯がある。

原因はXT500を開発する上で掲げたコンセプト

「軽く、コンパクトで、高い耐久性・・・なおかつ美しい」

の”美しい”の部分を満たしていなかったから。

というのも性能を追い求めた結果エンジンの形が左右で大きく違うものになってしまったから。

XT500サイドビュー

エンジン担当だった大城さんはこれがどうしても納得がいかず、最後の最後で作り直してるんです。

※ヤマハニュースNo487

SRにおける造形美の一端を担っているエンジンの美しさは実はこのXT500譲りなんですね。

XT500

XT500はパフォーマンスだけではなく、美しさまでも妥協なく磨き上げられた文句のつけようがないビッグシングルでした。

主要諸元
全長/幅/高 2170/875/1180mm
シート高 835mm
車軸距離 1420mm
車体重量 139kg(乾)
燃料消費率 43.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 8.8L
エンジン 空冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 499cc
最高出力 30ps/5800rpm
最高トルク 3.9kg-m/5400rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前3.00-21-4PR
後4.00-18-4PR
バッテリー 6N6-3B
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
D8EA
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.2L
交換時1.2L
フィルター交換時1.3L
スプロケ 前16|後44
チェーン サイズ520|リンク100
車体価格 370,000円(税別)
系譜図
XT500 1976年
XT500
(1E6)
2H6 1978年
SR400(2H6)
SR500
(2J3)
3X6 1979年
SR400/SP
(3X7/3X6)
SR500SP
(3X4)
34F 1983年
SR400/SP
(34F/34E)
SR500/SP
(34A/33Y)
1JR 1985年
SR400
(1JR/3HT)
SR500
(1JN/3GW)
RH01 2001年
SR400
(RH01J)
RH03 2010年
SR400
(RH03J)
RH16J 2018年
SR400
(RH16J)