TMAX560/TECH MAX(B3T/B7M) -since 2020-

七代目TMAX

「贅を知る、大人に。」

2021年から始まる新排ガス規制のEURO5に合わせてモデルチェンジとなったTMAX560/B3T型とTECH MAX/B7M型。

最初に変更点を上げると

・ボアを拡大し排気量を561ccに
・吸排気見直しで中高速アップと振動ノイズの軽減
・フロントウィンカーもLEDに
・Tをイメージしたテールライト
・冷却性を上げたエアダクト
・足付きを考慮したサイドカバー
・タンデム性を上げるリアカウル
・クロームブラックマフラー
・新設計エキゾースト(触媒)

という感じで排ガス規制への対応と走行性能アップがメインな感じです。

新型エンジン

そして+13万円のテックマックスモデルは

・無段階135mm調整電動スクリーン(ノーマルは二段階55mm)
・グリップヒーター
・シートヒーター
・クルーズコントロール
・プリロードと伸側減衰力アジャスター付きリアサス

を標準装備した上位モデルというか先代で言うDXみたいな存在。

TMAX560とTMAX560TECHMAX

トラコンや出力モード切替はノーマルも装備しておりグリップヒーターも後付可能。簡単に言うと先代のSXにクルーズコントロールが標準されたのがノーマルモデルという感じですね。

ちなみに欧州ではテールライトが変わったことが一番騒がれているようです。

TMAX530とTAMX560

TMAXはキープコンセプトで面白構造についても話したのでこれ以上あんま書くことない・・・という事で

「なぜ欧州ではTMAXが人気なのか」

という小話を少し。

TMAXが向こうでキングオブスクーターの異名を持っているのは前にも書いたんですが、主にどの国が一番買っているかというイタリアとフランスの人達が一番買ってる。

A2免許(日本でいう普二みたいなクラス)なのも相まって年間平均8000台前後が売れてるんですがそのうち半分をイタリアが、そして次いでフランスが占める感じで、要するにスクーターが文化として根付いてる国で圧倒的な支持を得てる。

年間販売台数8000台ってサラッと言いましたけど日本の大型バイクは年間販売台数一位でも3000台前後ですからね。まして100万円のスクーター・・・どんだけ人気なのか分かるかと。

TMAX530とTAMX560

しかし一方で同じくスクーターが根付いている日本では

「なんでそんなに人気なのか分からない」

「スクーターに100万円も出せない」

という感じで欧州のようには売れてないというか理解できない人が多いのが正直な所かと。

この違いは何かって話ですが、向こうの人にとってTMAXというバイクはこれと同じような存在なんです。

VWゴルフ

皆さんご存知フォルクスワーゲンを代表する名車ゴルフ。

唐突にゴルフを紹介されても意味不明だと思いますが、SNSなどこういうつぶやきをする人がいっぱい居る。

「サンタさんGolfとTMAXをください」

これこそがTMAX人気の答え。

何故ゴルフが人気なのかといえば様々な意見があるでしょうが一番は

「ドライビングプレジャーを味わえるちょっと贅沢な実用車」

ということから。TMAXはこれのバイク版なんです。

TMAX560

TMAXはたしかにオートマチックで楽に乗れるし、メットインもあるから荷物も載せられる便利な実用バイク。

でも立派なエンジンと車体を備えているからスポーツバイクに負けないプレジャーを気軽に味わえる・・・それも日々の道路で。

ここがTMAXの評価を分ける部分。

これはクルマにも比較的言えるんですが電車通勤やバス通勤が当たり前な事もあって日本でバイクに乗ると行為は”非日常”という要素が強い。

しかしイタリアやフランスではバイクに乗るという行為は毎日の通勤で当たり前な”日常”という要素が強い。だからこそ確かな造りで利便性を備えつつ運転そのものを楽しむ事を決して疎かにしてないTMAXが

『非日常ではなく日常を豊かにしてくれる乗り物』

として絶大な支持を得てるという話。

向こうの人からすると

「毎日使うんだから良いもの買うのは当然でしょ」

と言うんでしょうね。文化の違いというか価値観の違いというか。

日本でキングオブスクーターのTMAXを下駄車として使うのは勿体ないって思うのが恐らく大多数だと思うんだけど、その”勿体ない”っていう事こそが贅沢の象徴なわけで、そんな贅沢を思う存分堪能出来るように造られているのがTMAXなんですよね。

TMAX560カタログ写真

公式のキャッチコピー

「贅を知る、大人に。」

という言葉は正にそれを現してるかと。

主要諸元
全長/幅/高 2200/765/1420mm
シート高 800mm
車軸距離 1575mm
車体重量 220g(装)
[218kg(装)]
燃料消費率 22.1km/L
※WMTCモード値
燃料容量 15.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 561cc
最高出力 48ps/7500rpm
最高トルク 5.7kg-m/5250rpm
変速機 Vベルト
タイヤサイズ 前120/70-15(56H)
後160/60-15(67H)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR7G
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.6L
フィルター交換時2.9L
スプロケ
チェーン
車体価格 1,160,000円(税別)
[1,290,000円(税別)]
※[]内はTech MAX(B7M)
系譜図
SJ02J 2001年
TMAX
(5GJ)
SJ04J 2004年
TMAX
(5VU)
SJ08J 2008年
TMAX
(4B5)
SJ12J 2012年
TMAX530
(59C)
2015SJ12J 2015年
TMAX530
(2PW)
2017TMAX 2017年
TMAX530SX/DX
(BX3/BC3)
2020TMAX 2020年
TMAX560/TECH MAX
(B3T/B7M)

MT-25/MT-03 (B4W/B6W)  -since 2020-

2020年式MT-25

「意のままを、遊ぼう。」

兄弟車であるYZF-R25/R3から少し遅れる形でモデルチェンジしたMT-25/B4W型とMT-03/B6W型。

最初に主な変更点を上げると

・車体デザインの変更

・灯火のフルLED化

・倒立フォークの採用

・フル液晶メーター(燃費、水温、ギアポジ表示付き)

・更にアップされたハンドル

・ハザードランプ

などなど比較的マイナーチェンジに近い内容。

新型ポジション

跨ってみると更にハンドルが上がり直立に近いポジションになったことに気づくんですが、それ以上に激変したと言えるのがやはり顔。

MT-25

従来のハロゲンでは絶対に作れないLEDだからこそ可能なフェイスデザインで、ビームを発射しそうな口の部分がメインのヘッドライト、上に見える目のような部分がポジションランプになっています。

ちなみにヘッドライトといえばハロゲンとLEDの間にHIDというのが車の方で流行ったのを知っている方も多いと思いますが、なんでバイクはHIDを採用せずにすっ飛ばしてLEDになったのかというと理由の一つとして

「HIDを装着する場合はライトワイパーかウォッシャーが必須」

という義務が欧州などで課せられていたから。当然バイクにそんなもの付けるわけにはいかないのでHIDを採用できなかったという話。

制約についてはこれ以外にも色々とあるんですがそれはまた別の機会にして話を戻すと、2020年にモデルチェンジした部分としてもう一つ上げたいのがタンクとタンクカバー。

MT-25サイド

レイヤードカウルっぽい形に変わったんですが、それより印象的なのがかなりワイドになった事。

先代がシートカウルとほぼ同幅だったのに対し、このモデルは明らかにはみ出す大きさで250(320)とは思えないボリューム感。07や09よりたくましい張り出しになっています。

MT-25

気になって調べてみたら51mmワイドにしたとの事ですが、小顔効果もあってか数値以上の迫力。

MT-25/MT-03は他のモデルと違ってエントリーユーザーに人気のモデルだからボリュームを出すことで所有感を増す狙いかと最初は思ったんですが、おそらく配慮の形でもあるんじゃないかと。

なんの配慮かといえばMT-25/MT-03に新たに取り付けられたこれ。

MT-25サイド

転倒時にLEDウィンカーに強いテンションを掛けて壊さないようにするためじゃないかと。LEDウィンカーってカッコいいんですが、そのぶん壊すと高いですからね。実際このMT-25/MT-03も部品だけで一個7029円もします。

一方で張り出しが大きくなったタンクカバーは相変わらず安い。

MT-25

部品が細かく別れたことで更に一個あたりの値段が安くなったので着せ替えも捗るようになった。

他のMTシリーズと同系統のヤンチャなデザインを持ちつつも、明らかに他より優しさというか買ってから泣きを見ないような配慮が見て取れるエントリーにうってつけなのがMT-25/MT-03の魅力ですね。

カタログ壁紙

ところで

「MT-25とMT-03ってどれくらい売れているんだ」

って話。というのも販売台数がYZF-R25/R3と合算でハッキリしないのでモヤモヤしてる人も多いかと思います。

>>年間販売台数TOP10

正確には分からないんですがヤマハの年間販売計画を見るとYZF-R25/3とMT-25/03の割合はザックリ言って『2:1』という感じ。ただショップ等に聞いてみると『3:1』という感じで、実際のところ見る頻度から言ってもそれくらいじゃないかと。

ちなみに2020年の販売台数はYZF-R25/3とMT-25/03合算で4921台。つまり1500台強じゃないかと思われます。

カタログ写真

最後に繰り返しとなりますが、この顔・・・これは後世語り継がれるレベルではなかろうか。

主要諸元
全長/幅/高 2090/755/1070mm
シート高 780mm
車軸距離 1380mm
車体重量 169kg(装)
燃料消費率 27.6km/L

※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC二気筒
総排気量 249cc

[320cc]
最高出力 35ps/12000rpm

[42ps/10750rpm]
最高トルク 2.3kg-m/10000rpm

[3.0kg-m/9000rpm]
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70-17(54S)

後140/70-17(66S)

[前110/70-17(54H)

後140/70-17(66H)]
バッテリー GTZ8V
プラグ

※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR8A-9
推奨オイル ヤマルーブ プレミアム/スポーツ/スタンダード

または

SAE 10W-30から20W-50
オイル容量

※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.4L

交換時1.8L

フィルター交換時2.1L
スプロケ 前14|リア48
チェーン サイズ428|リンク132
車体価格 565,000円(税別)

[595,000円(税別)]

※[]内はMT-03
系譜図
yzf-r252014年
YZF-R25
(1WD/2WD/BS8/B0E)
yzf-r32014年
YZF-R3
(B02)
mt-25|mt-032015年
MT-25|MT-03
(B04/B05)
2019年式YZF-R252019年
YZF-R25/R3
(B3P/B6P/B7P)
2020mt-25|mt-032020年
MT-25|MT-03
(B4W/B6W)

【関連車種】
CBR250/CB250の系譜GSX250R/GSR250の系譜Ninja250/Z250の系譜

TRACER9GT(BAP)-since 2021-

TRACER9GT/BAP

「Multirole fighter of the Motorcycle」

MT-09のフルモデルチェンジから半年ほどとなる2021年6月に発表されたTRACER900改めTRACER9GT/BAP型。

最初に変更点をあげるとMT-09の紹介とかぶる部分もありますが

・ストロークを上げて888ccとなった新設計エンジン
・スピンフォージドホイール
・MT-09と同じく新設計アルミダイキャストフレーム
・積載およびタンデムを考え新設計された専用リアフレーム
・MT-09と同様の6軸IMUによる電子制御
(車体姿勢計測型のABS/トラコン/ウィリー制御/スライドコントロール/ブレーキコントロール)
・フルLED&コーナリングランプ
・2モードKADS(KYB製電子制御サスペンション)
・アップ/ダウン対応クイックシフター
・ラジアルマスターシリンダー
・コーナリングランプ搭載の新スタイリング(アローシルエット)
・ダンパー内蔵のサイドケースステー
・3.5インチフルカラーデュアルTFTメーター
・10段階のハンドルウォーマー
・10段階(5mm間隔)可変のウィンドスクリーン
・シート高を先代比-40mmし足つき性を向上
・先代GTと同じくMT-09より60mm長いスイングアーム
・ハンドルガードの小型化

などとなっています。

カタログ写真

特筆すべき変更点としては、アップ/ダウン対応クイックシフターや電子制御6軸IMUによるフル電子制御もですが、目玉はやっぱりKYBが開発した二輪初となる

『KADS(KYB Actimatic Damper System)』

という電子制御サスペンション。

KYB KADS

遂にKYBも電サスの投入となったわけですが、後発なだけあり最初から即応性に優れるソレノイドバルブ駆動による1/1000秒単位で制御可能なレーシングスペックモノ。

加えて面白いのがプリロードアジャスターへのアクセス。

TRACER9GT KADS

なんと電子制御サスペンションなのにそのまま弄れるようになっている。

ブーツを外してカプラー外してやっとアクセスという電子制御ゆえの煩わしさが無いレイアウトになっているんですね。色んなシチュエーションが想定されるTRACER9GTにとっては尚のこと嬉しい配慮。

そしてもう一つ特筆すべきなのが大きく変わった見た目からも分かる通り、コーナリング中にイン側を照らしてくれるコーナリングランプが付いたこと。

顔に見えるシグネチャーランプ部分がその部分で、前照灯のロービームはその下の小さいライト。ちなみにその反対側がハイビームになっています。

ライトの構造

MT-09とYZF-R1のハイブリッドみたいな感じですね。

補足しておくと、近年ツアラーやマルチパーパスに採用が進んでいる有ると無いでは大違いのコーナリングライトですが、これが出始めたのは自動車基準調和世界フォーラム通称WP29、要するに国連が2013年にバイクに装備する事を許可したから。

そしてドンドン採用されて、トレーサーにも八年越しで採用となったわけですが、ちょっと遅かったですね。ここまで遅れてしまったのはコーナリングライトの許可条件が関係しています。

サイドビュー

コーナリングライトを装備するにあってクルマがハンドルの切れ角に応じて照射する用になっているのに対し、バイクはそうではなく

『バンク角に応じて照射する方式のみ許可』

という条件が設けられた。つまりIMU(慣性計測装置)を付けないとコーナリングライトを付けられないわけで、そのせいで採用がなかなか簡単にはいかなかったという話。

コーナリングライト

逆に言うとTRACER9GTを始めとしたマルチパーパスがIMUを率先して搭載している狙いは電子制御による車体コントロールだけでなく、このコーナリングライトを付けるためでもあるんですね。

話を戻すと、トレーサーはもともとMT-09TRACERとして登場し、TRACER900/GTになり、そして今回TRACER9GTとなったわけですが

「何故こうまで名前を何度も変えるのか」

という疑問をお持ちの人も多いかと。調べたところ、ちゃんと狙いというか開発された方々の思いがありました。

失礼ながら要約すると

「MT-09の派生モデルとして見てほしくない」

という話。

実際TRACERは二代目でベースのMT-09とは少し距離を置くような立ち位置になって、違う層へ人気が出ました。その事を名前でも明確にする狙い。

サイドビュー

しかし個人的にはトレーサーでもう一度名前を変えるというのは、かなりの勇気というか攻めの姿勢だなと思います。

というのも、このモデルを優先して書いている理由でもあるんですが、どうもバイク屋で聞いているとトレーサーからの買い替え・・・要するに先代から新型に乗り換える人が他のモデルより多いんだそうです。

傑作と名高いCP3エンジンで元気なパワーを持ちつつも、マルチパーパスとしては車体も絞られていて乗りやすいモタードツアラーという唯一無二の存在というの大きいとは思うんですが、もっとシンプルなところでいうと、リピーターを生む最も大事な要素は言うまでもなく

「高い満足度を与える」

という事に尽きる。つまりトレーサー買ってよかったと思ってる人が多いわけですね。なんかもうこれだけで疑いようのない名車と言えるのでないかと。

フェイスデザイン

でもだからこそ攻めの姿勢だなと思うわけです。既に高い評価を得ているということは逆に言うと、モデルチェンジでは既にかなり高いハードルがあるとも言える。

にも関わらずいくらフルモデルチェンジとはいえ名前を改めるという自ら更にハードルを上げるような事をしたのは、そんなリピーターすら満足させるほどの進化をさせたという自信の現われとしか。

車体価格を上げてでもトップエンドに近い最新装備を積んでいる事からもその意気込みが分かる・・・と言いたい所ですが、テクニカルレビューでプロジェクトリーダーの北村さんが実にカッコよく、実にヤマハらしい事を仰っていました。

壁紙

「電子制御や新技術などが注目されやすいが、開発で大切にした事は乗るたび使うたびに悦びを感じてもらえる官能評価。」

装備や技術はすべて官能のため。人機官能マルチロールファイターここにありですね。

主要諸元
全長/幅/高 2175/885/1430mm
シート高 810~825mm
車軸距離 1500mm
車体重量 220kg(装)
燃料消費率 20.4m/L
※WMTCモード値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 888cc
最高出力 120ps/10,000rpm
最高トルク 9.5kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR9EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 1,320,000円(税別)
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

MT-09/SP(B7N/BAM)-since 2021-

2021MT-09

「The Roadeo Master」

公式では初のフルモデルチェンジとなったMT-09のB7N型とSPのBAM型。

まず最初に変更点を上げると

・デザインの大幅な刷新
・ストロークを伸ばし890cc(+43cc/+4ps)になった新設計エンジン
・サウンドデザインされた給排気系
・2.3kg軽量化された新設計アルミフレーム
・フロントラジアルマスターシリンダー
・スピンフォージドホイール
・軽量フロントサスペンション
・YCC-T(電子制御スロットル)
・6軸IMUとそれに伴う電子制御(トラクション、リフト、スライド、ブレーキ制御)
・フルカラーTFTメーター
・LEDウインカー
・可変式フットレスト
・アップダウン対応クイックシフター

2021MT-09SP

※以下SPの変更点
・塗り分けされた専用カラー
・スモーク処理されたブレーキリザーブタンク
・黒塗装ドリブンスプロケット
・KTB左右独立減衰力調整構造フォークにDLCを追加
・バフ&クリア塗装のスイングアーム
・クルーズコントロール(4速50km/h以上)

などなどフルモデルチェンジと謳うだけあり、ほぼすべてに手が加えれた形となりました。変わっていないのはブレーキキャリパーくらいですね。

MT-09フューチャーマップ

その中でも何が一番大きく変わったかといえば6軸IMU(慣性計測装置)とAPSG(電子制御スロットル)による制御の完全電脳化なんですが、見た目もマスの集中化とそれを視覚化させる事が狙いというだけありギュッと詰まったデザインになりました。

具体的にはメインフレームのヘッド(ステム)パイプを30mm下げると同時にヘッドライトユニットを極限までコンパクトにしつつステムに近づけるなどの改良が加えられています。

サイドビュー

小型に出来るLEDのメリットを存分に活かした形ですね。ちなみにホイールベースも10mm短縮。

ただ中身の方も結構変わっていて、要であるエンジンの方はFIからピストンやコンロッドさらにはクランクシャフトまで新設計すると同時に排気量を43cc上げて888ccに。

もう少し厳密に言うとストローク量を6.1mm上げ、低中速トルクを底上げした形でエンジンブロックには新色のガンメタに近い明るい塗装が採用されています。

しかしそれよりもこの代で最も紹介すべき新アイテムは間違いなく量販車初となるコレ。

ヤマハスピンフォージドホイール

『SPINFORGED WHEEL』

直訳すると回転鍛造ホイールなんですが、これの凄さを100%共感してもらうために鋳造ホイールと鍛造ホイールの違いについてからおさらいを兼ねて説明。

鋳造ホイールはデロデロに溶かしたアルミを型に流し込んで成形する製法。極端な話ですが型に流し込めば良いのでコストは安く複雑な構造も得意。

鋳造ホイール

ただし溶かして冷やすという製法の問題から鋳巣という強度を損なう空洞が出来やすく、また溶かしたアルミを隅々までキレイに流れるような型にしないと行けないので薄く(軽く)出来ない。

純正ホイールは一部を除きほぼ鋳造ホイールです。

対して鍛造ホイールというのはアルミをプレス機でバチーンと打って造られている製法。圧力で成形するので組織が密になるので強度が出る。

鍛造と鋳造

しかし肝心のプレス機が非常に高価なため大量生産には向かず、また複雑な形状を造るのも難しい問題もある。削り出しという工程を加えることでデザイン性を上げることが出来ますが、ただでさえ高いコストがなおのこと高くなる。

鍛造ホイール

鍛造ホイールといえばマルケジーニなどが有名ですね。

ホイールというのはいわゆるバネ下で一番重いものなので軽量化において最も効果的な箇所といえるものの、コストや量産の問題があるから鍛造ホイールは一部の超高級車にしか採用されない。

そこでヤマハが取り組んだのがこのスピンフォージドホイール。

スピンフォージドホイール

これはまず基本となるホイール(ディスク)部分を鋳造で精製した後に、回転する台に載せて金属のローラーで陶芸の”ろくろ”のようにリム端の部分に圧力をかけて成形する。

正式には

『フローフォーミング加工』

と言って、要するに鋳造で造ってからリムの部分を鍛造化する技術。これによりリムの厚みが従来の半分になり重量も前後で700gの軽量化に成功。

フローフォーミング加工

これ四輪の方でも一部のスポーツモデルなどに採用が進んでるんですが二輪の場合

・触れてはいけないリム中央部と端の幅が非常に狭く加工がシビア

・左右どちらのリムも外装を担っていることから跡などが見えてはいけない

・前後でホイールの形状が違う(量産効果が得られない)

など四輪とは比べ物にならないほどハードルが高かったために今まで実現されなかった。

では何故ヤマハがこれを実現出来たのかといえばそれはCFダイキャストなどからも分かる通りヤマハがアルミのプロフェッショナルであると同時に

「ホイールまで内製しているメーカーだから」

という話。

だからこそ実現出来たことですが、そんなヤマハですら企画の始まりを含めると実に5年がかりで、原材料の添加物配合率をコンマ%単位でオリジナルブレンドしてやっと実現出来たもの。

そして完成した第一弾となるのがこのMT-09に採用されたホイール。

鍛造と鋳造の良いところ取り

費用対効果を考えると量販ホイールはこれがもう完成形じゃないかと思います。

最後にまとめというか何というか。

2021年からのMT-09/SP(B7N/BAM)は、6軸IMUとそれに伴う電子制御の高度化、さらにアップ/ダウン対応クイックシフターに今お話した新時代ホイールことスピンフォージドホイール。

どう考えてもフラッグシップといえるフル装備なんですが、さらに驚きなのがこれで税別1,150,000円と破格な事。

2021MT-09カタログ

これは相当戦略的な価格というか・・・以下ちょっと主観なんですが、MT-09はこの代で少し立ち位置が変わった印象があります。

というのも元々MT-09は

「ネイキッドとモタードを掛け合わせた形」

というのは皆さんご存知かと思いますが、先代まで(特に初代)は明らかにモタード要素が強いモデルでした。まさにコンセプトにもあるロデオそのもので車体が水平をキープする事が殆どないようなハッチャ系。

それを今回は少し抑えた・・・というのもちょっと語弊がある。ここが絶妙なところで例えるなら今まで1から10までロデオ(モタード)だったのに対し、フル電脳化に伴って1から5まではライトウェイトなネイキッドで6から10まではモタードという感じ。

ロングストローク化でトルクを底上げしたエンジンからも分かる通り、トルクを楽しむ『マスターオブトルク』というコンセプトにさらに忠実に習った形にしたとも言えるわけですが、さらにその狙いを現しているのが純正オプションの拡充。

オプション

このモデルからスクリーンはもちろんトップケースまでボルトオンで簡単に脱着出来るよう考慮されて開発されています。

車体設計の段階から考えられている事の何が強みかといえば

「容易に脱着出来る」

という事。これがこの代のMT-09をよく現している要素と言えるかと。

ロデオマスターMT-09

「その日の気分でモタードにもネイキッドにもなれるヤマハ流ビッグスタンダード」

という感じですね。

主要諸元
全長/幅/高 2090/795/1190mm
シート高 825mm
車軸距離 1430mm
車体重量 189kg(装)
[190kg(装)]
燃料消費率 20.4m/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC三気筒
総排気量 888cc
最高出力 120ps/10000rpm
最高トルク 9.5kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR9A-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前16|リア45
チェーン サイズ525|リンク110
車体価格 1,100,000円(税別)
[1,150,000円(税別)]
※[]内はMT-09SP/BAM
系譜図
MT-09 2014年
MT-09/A
(1RC/2DR)
mt-09トレーサー 2015年
MT-09TRACER
(2SC)
XSR900 2016年
XSR900
(B09)
2017MT-09 2017年
MT-09/SP
(BS2/B6C)
TRACER900 2018年
TRACER/GT
(B5C/B1J)
2021mt-09 2021年
MT-09/SP
(B7N/BAM)
TRACER9GT 2021年
TRACER9GT
(BAP)

HAYABUSA(EJ11A)-since 2021-

HAYABUSA/EJ11A

「Ultimate Sport」

実に13年ぶりのフルモデルチェンジとなった三代目HAYABUSAことEJ11A型。

最初に変更点を上げると
・デザインの刷新
・設計の全面的な見直し
・6軸IMUを搭載
・電子制御スロットル(43mmへ小径化)
・スロープディベンデントコントロール(学習型ABS連動ブレーキ)
・ヒルホールドコントロール(上り坂停車時にリアブレーキを自動作動)
・スズキイージースタートシステム
・Brembo Stylema
・ディスクローターを310mmから320mmへ
・アナログ&デジタル五連メーター
・灯火系をフルLED化しDRLを装備
・ハンドルポジションを12mm手前に

SDMS-α・SDMS-α(下記電制のメーカープリセット3つとユーザープリセット3枠)
→トラクションコントロールシステム(10段階+OFF)
→アンチリフトコントロールシステム(10段階+OFF)
→出力モード切り替え(3段階)
→エンジンブレーキコントロールシステム(3段階+OFF)
→上下対応クイックシフター(2段階+OFF)

などなど書ききれないというかほぼ全てが変わっています。

正直なにから書けば良いのか分からなくなるレベルですが、まず見た目でも分かる通りデザインが新しくなりました。

HAYABUSA/EJ11A サイドHAYABUSAの象徴であるエアロダイナミクスを具現化したローロング&ワイドを守りつつ新世代を感じさせるものになっており、その中でもデザインの肝というか面白いところは二つあって、一つはフローの可視化。

フローの可視化メッキ加工がされたサイドスポイラーとマフラーでパワーフローを、塗り分けたダクトでエアフローを表現。そしてもう一つはアッパーカウル(ロゴの上辺り)を凹ませることでハイライトを作り、エアロダイナミクスを可視化する表現をしている。

ちなみに合わせてロゴも変更されています。

三代目のロゴ先代よりも少し斜体が抑えられ初代との間くらいになりました。そしてもう一つHAYABUSAのデザインで忘れてはならないのがコブ・・・も、ですが五連メーター。

三代目のロゴこちらも健在で中央にマルチインフォメーションカラーディスプレイ(モード、バンク角、ブレーキ圧、加速度、スロットル開度、オドメーター、燃費計、電圧計、航続可能距離など)を備えつつも、スピードメーターやタコメーターなどの計器はアナログ針。

中央のカラーディスプレイでバンク角やブレーキ圧といったメモリがグリグリ表示される両脇で、メーターの針がビュンビュン回るという非常にニクいハイブリッド構造になっています。

電子制御デバイスお次は中身の方ですが、最初にも話した通りボッシュ製6軸IMUと電子スロットルでフル電脳化されているんですが、単純なカタログスペックを先代と比べると

・最大出力が-9馬力で188馬力
・タンク容量が-1L減って20.0L
・車重が-2kgで264kg(装)

と大きく変わっていないどころか正直これだけ見ると少し首を傾げてしまうかもしれない内容。しかし実際は実にHAYABUSAらしいというか凄い事をやっている。

2021ハヤブサのディメンションここに映る部品の全てを見直し、再設計しているんです。

その最たる部分がエンジンで、燃焼室の変更やクランクの製造方法変更だけでなくボルトの一本、リング一枚まで全てが見直されている。これは先代のエンジンを壊れるまで何度も負荷テストを繰り返し設計し直した結果。

2021ハヤブサのエンジン四輪など様々な乗り物へ無茶積みされたりした実績からも分かる通り、HAYABUSAのエンジンは先代の時点ですでに耐久性には非常に定評があったんですが、それを更に上げてきた形。

HAYABUSAと言えばここに至るまで色んな噂が流れましたよね。

「次は排気量を上げる」
「ターボになるらしい」
「六気筒を計画している」

などなど様々な特許申請に基づく憶測が出た(というか実際に開発した)ものの、完成して出てきたモデルは先代から大きく変わりませんでした。

ハヤブサの素案これが何故かといえば開発の方々が口を揃えて言われているよう、開発で最も大事にされたポイントが

「HAYABUSAらしさを磨くことだったから」

というのが理由。

じゃあHAYABUSAらしさとは何かというとこれが難しい所というか人それぞれあるでしょうが、明らかに向上したと言えるのが名前にもなっている猛禽類の隼らしさ。

2021ハヤブサのカタログ普段はゆっくり悠々と飛びつつ、狩りになると一気に300km/hオーバーで急降下し仕留めるんですが、今回のモデルチェンジでこの特性をさらに向上させている。

もう少し分かりやすく説明するとHAYABUSAは

『0km/hから300km/hまでオールレンジなスポーツバイク』

と言う表現がピッタリかと思います。

2021ハヤブサのリア周り世界最速バイクとして有名なため、おっかなびっくり乗る必要がある怪物的なイメージを持たれる事が多いんですが、実はとっても優しく100km/h未満の日常域などでも普通に使える。

優しいというのは出力もそうだし、ポジションや足つきもそう。シートもスポーツタイプにしては厚めでハンドリングも非常に素直だから見た目に反してすごくジェントル。

しかし一方でグイっと捻ればいま例え回転数や速度が何処にあろうとあっという間に200km/hオーバーの世界に突入する性能を発揮しつつ、エアロダイナミクスに物を言わせたビシッと安定した走りを魅せる。

2021ハヤブサのスタイリングちなみに0km/hは言うまでもなくこの圧倒的な存在感と鷹狩(鷹匠)とも言える所有感。

HAYABUSAの性能でありアルティメットスポーツと銘打たれている理由は単純に世界最速だからというのではなく、このいわば

『正気と狂気』

が絶妙なバランスで共存しているからで、今回のモデルチェンジはそこを崩すことなく更に向上させる形になっている。

2021ハヤブサのポジションそれがよく現れているのが少し優しくなったポジション。そして高速域ではなく中速付近出力のさらなる厚み。

2021ハヤブサのパワーカーブこれこそがいま話したように何時如何なる速度でも使えるオールレンジ性能であり、何時如何なる時でもグッと捻ればあっという間にワープ出来る

『HAYABUSAらしさ』

をさらに磨いた証。この改良は地味といえば地味なんですが、先代や先々代を知っているほど驚かれると思います。

2021年式HAYABUSAただこれだけだと磨かれた”HAYABUSAらしさ”の説明にしては不足しているのが否めないかと。

少し話がそれますがご存知の方も多いようにリッターオーバースポーツというのは冬の時代と言っていいジャンルで、ハヤブサですら近年は当たり前のようにランク圏外(年間販売台数400台未満)でした。

レース規格にも絡んでおらずプラットフォーム展開も出来ていないモデルなら年間400台も売れない時点で辞めるか、せいぜい数年先の規制を通す対策だけのお茶を濁すようなマイナーチェンジに留めておくのが一般的。

HAYABUSAと鈴木社長そんな状況にも関わらず鈴木社長まで引っ張り出し一丸となって”ハヤブサらしさ”を追求する開発をしフルモデルチェンジ。

どうしてそこまでするのかと言えばスズキにとってHAYABUSAがリッターオーバースポーツモデルだからとか、自社の看板車種だからとか、世界最速バイクだからとか以前に

「HAYABUSAというバイクだから」

というのがあるから。

バイクを知らない人でもHAYABUSAは知っていることからも分かる通り、既にスズキの一製品という枠を超えた大きな存在と言っても過言ではなく、極端にいえばスズキは自分達だけでどうこうしていいモデルではないと考えている・・・これちゃんと根拠があるんです。

有名なのが毎年恒例の鳥取町八頭町の隼駅祭り。

HAYABUSA祭全国から1000台以上のHAYABUSAオーナーが駆けつける町おこしでスズキも協賛しチャリティイベントを催しているんですが、スズキのしかもバイクの規模でこれをやるのは相当な負担。

じゃあなんでスズキは続けるのかと言えばこれでオーナーとの繋がりを持てる(実態を知れる)からで、実際にこのイベントでHAYABUSAに関するアンケートを何度も何度も取っている。

もう一つあげると2015年の第44回東京モーターショーで出品した『CONCEPT GSX』という発泡スチロールの塊のようなコンセプトオブジェ。

コンセプトGSXこれ、一般の方に”HAYABUSAらしさ”とは何かを問いかける為にわざわざ用意した物なんです。

この代で標準色3色に加え、組み合わせを15通り用意されたカラーオーダープランが用意されたのもその影響。

HAYABUSAカラーオーダーこれは間違いなくカラーリングに関するアンケートを何度も取った故に設けられたことで、定番の人気カラーを基軸としながらも一人ひとりが思い描くHAYABUSAらしいカラーに可能な限り応えるために他ならない。

どうしてそこまでユーザーの声を聞くのか・・・それはメディアで度々口にしていますが

「HAYABUSAは世界中にいるオーナーやファンクラブに支えられたからこそここまで続ける事が出来た」

とスズキは考えているから。

ずっと変わらずHAYABUSAを支持してくれるオーナーが多く居たからこそ初代9年、二代目13年と非常に長いモデルライフと継続的な生産を続ける事が出来た。

歴代HAYABUSAではなぜ多くの人に支えられたのかといえばそれは

「HAYABUSAが長く愛してもらえる魅力を持つバイクだったから」

としか言いようがない事で、同時にこれこそがHAYABUSAの魅力であり

『HAYABUSAらしさ』

と言えるもの。

だからこそ支えてくれている人たちが抱いているHAYABUSAの魅力を更に研ぎ澄ませ共に歩むことを止めない。そしてその為に必要だと考え導き出した答えが全ての部品を見直すことによる耐久性の向上だったわけですね。

耐久テストエンジン設計の溝口さんも公式インタビューで

「長いこと乗ってください。10万km、20万km、なんなら50万km。」

と仰っていました。

普通ならそこまで考慮しないし、そんな造りをしていたらコスト増に加えて買い替え需要が無くなるからビジネス的には有り得ない話。でもHAYABUSAにはそれが許されている。なぜなら長く愛し支えてもらうことを前提としているHAYABUSAにとって故障や寿命というのは裏切りだから。

一過性のブームで造っているわけでも売っているわけでもない。

スズキ HAYABUSA「長く大事に飼ってもらう事を大前提とした正気と狂気のアルティメットスポーツ」

それがHAYABUSAなんですね。

主要諸元
全長/幅/高 2180/735/1165mm
シート高 800mm
車軸距離 1480mm
車体重量 264kg(装)
燃料消費率 15.4km/L
※WMTCモード値
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 1339cc
最高出力 188ps/9700rpm
最高トルク 15.2kg-m/7000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/50ZR17(73W)
バッテリー FTZ14S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR8EIA-9
または
IU24D
推奨オイル スズキ純正 エクスターMA2
または
10W-40
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.1L
交換時3.2L
フィルター交換時3.4L
スプロケ 前18|後43
チェーン サイズ530|リンク114
車体価格 1,960,000円(税別)
[2,010,000円(税別)~]
※[]内はカラーオーダープラン
系譜図
GSX-R1100G1986年
GSX-R1100(GU74A)
GSX-R1100K1989年
GSX-R1100(GV73A前期)
GSX-R1100M/N1991年
GSX-R1100(GV73A後期)
GSX-R1100P/R1993年
GSX-R1100W(GU75A)
99GSX1300R 1999年
GSX1300R
(GW71A)
081300R2008年
HAYABUSA1300(GX72A前期)
2013HAYBUSA1300R2013年
HAYABUSA(GX72A後期)
2014HAYBUSA1300R2014年
隼 (GX72B)
2014HAYBUSA1300R2021年
HAYABUSA(EJ11A)

【関連車種】
CBR1100XXの系譜FJR1300の系譜ZX-14R/GTRの系譜

GSX-S1000GT(EK1AA) -since 2022-

2022GSX-S1000GT

「GT Riding Pleasure Personified」

GSX-S1000より遅れること半年後となる2022年2月より発売となったGSX-S1000GT/EK1AA型。

先に出てたGSX-S1000をベースにしつつも

・空力を元にデザインされた新設計のフルフェアリング
・ハンドルをラバーマウント化すると共に幅+22mm&手前に14mm
・積載を考慮した専用設計シートフレーム
・メイン及びタンデムシートの肉厚化
・クルーズコントロール(30~180km/h)
・6.5インチTFTフルカラーメーター
・メーター横に充電用USBソケット(Type-A)
・ETC2.0の標準装備
・スマホ連動アプリSUZUKI mySPIN(電話/地図/音楽/カレンダー)
・ヘルメットホルダー(タンデムシート下)
・GSX-S1000に対して+15万円
・サイドケースを始めとした数々のオプション

などツアラー色を強めたモデルとなっています。

2022GSX-S1000GTオプション

しかし一方でデザインに関してはスーパースポーツも顔負けなほど超攻撃的なルックスに大変貌。

しかも、例えばサイドカウルの張り出し部分は足への風を避けるためなど、単に見た目だけの造形ではなく風洞をしっかり考えられた機能美だったりします。

2022GSX-S1000GTデザイン

加えて嬉しいのが、グランドツアラー化に伴うオプションパーツの充実。

ハイスクリーンやサイドケースはもちろんのこと、タンクバックやプロテクション、エンジンガードやスライダーなどスズキとしては珍しく需要があるアクセサリーを純正で用意しています。

2022GSX-S1000GTオプション

チーフエンジニアの安井さんが

「真のグランドツアラーを目指した」

と仰っている通り、GSX-S1000GTは安心感がかなりある。

例えばライダーの身体的&精神的負担となる要素を可能な限り減らすため

・ハンドルマウントやステップにラバーを装着
・ポジションを更にアップライト化
・電スロによる完全制御

などの改良が各所に見て取れるんですが、一番体感できる違いは比較的スリムでありながらライダーを包み込むよう車体になっている事。

2022GSX-S1000GTオプション

前のりでイケイケの無印と決定的に違う部分はここで、ズシンと車体に鎮座する、まるでBandit1250Fを彷彿とさせるような包容力を持っている。

「リラックスして走れるGSX-R1000」

という感じでしょうか。

2022GSX-S1000GTオプション

昔ブイブイ言わせていたリターンライダーにドンピシャなのではと個人的には思います。

もちろんAモードで回せばGSX-Rが顔を出すし 、店頭でエンジンを掛けてみただけで思わずハンコを押したくなるほどの高音質な給排気サウンドも健在ですけどね。

主要諸元
全長/幅/高 2140/825/1215mm
シート高 810mm
車軸距離 1460mm
車体重量 226kg(装)
燃料消費率 16.6km/L
※WMTCモード値
燃料容量 19.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 150ps/11000rpm
最高トルク 10.7kg-m/9250rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/50ZR17(73W)
バッテリー FT12A-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9EIA-9
または
IU27D
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前17|後44
チェーン サイズ525|リンク116
車体価格 1,450,000円(税別)
系譜図
GSX-S1000 2015年
GSX-S1000
(GT79A/GT79B)
GSX-S1000F 2015年
GSX-S1000F
(GT79A/GT79B)
2001GSX-S1000 2021年
GSX-S1000
(EK1AA)
GSX-S1000gt 2022年
GSX-S1000GT
(EK1AA)

【関連車種】
VTR1000の系譜FZ1/FAZERの系譜Z1000/Ninja1000の系譜

GSX-S1000(EK1AA) -since 2021-

2021GSX-S1000

「The Beauty of Naked Aggression」

2021年8月に初のフルモデルチェンジを果たし二代目となったGSX-S1000/EK1AA型。

最初に変更点を上げると

・デザインの刷新
・エンジン出力の見直し(EURO5対応)
・ハンドルを23mm広く20mm手前に変更
・新型液晶メーター
・電子制御スロットル
・トラクションコントロールを3段階から5段階へ
・3段階のライディングモード(出力モード)
・双方向クイックシフター
・新型アシストスリッパ―クラッチ

などなどとなっています。

一番目につくのはやはりデザインで、大変貌を遂げました。

フロントフェイス

ヘッドライトはモノフォーカス(小型プロジェクター)式LEDを縦に並べた無機質デザインへと変更。サイドシュラウドもダウンフォースを稼ぐウイングレットを備えています。

ネイキッドにウイングレットなんて要らないだろうとツッコミたくなりますが、元がGSX-R1000と考えれば不思議でもない。ただ恐らくこれの一番の狙いはデザイン。

デザイナーの村上さんいわく

「戦闘機がモチーフ」

との事で、その演出の意味も兼ねているんだと思われます。

GSX-S1000デザイン

ここまでゴリゴリな無機質デザインになったのも納得ですね。

ただそれと同じくらい注視しないといけないのが中身というか性格。具体的にいうと電子制御スロットルです。

電子制御

今さら説明するまでもない話ですが、ライダーがスロットルを捻るとワイヤーが直接スロットルバルブを開く機械式から、捻った量を電気信号に変えてECUに送り、演算してモーターが代わりに開ける電子式なのが電子制御スロットル通称電スロ。

燃料噴射装置(キャブからFI)に次いで、遂にスロットルまで完全制御化に置くという技術革新。

「ライダーとマシンのアクセルを1:1にしない事が可能」

というメリットがあります・・・これ一見すると悪い事のように思えるけどそうじゃない。

一番わかりやすいのが低速域でのシーン。アクセルを一旦閉じてエンジンが低回転になった時にライダーがグイっとアクセルを捻ると、エンジンの吸入が弱いので上手く吸えず重点効率が落ちてしまうモタツキのような問題(オーバーベンチュリ)が起こってしまう。

更にパワーが出ないからと増すようにアクセルを捻ってしまうと、遅れて想定以上のパワーが出てしまい置いて行かれる感覚、俗にいうドン付きが起こる。

これを回避する方法としては

・アクセルを握りこむよう丁寧に早めに開ける

・アクセルを完全には閉じない(フューエルカットを防ぐ)

等の方法があるんですが、頭では分かっていても実行するのは相当上手い人じゃないとなかなか難しい。

エンジン性能曲線

これを電子制御スロットルがカバー(トルクマネジメント)してくれるというわけ。

この恩恵は乗れば一発で分かります。ストリート走行において最も大事である低中速が恐ろしいほどスムーズになっているから。

GSX-S1000リア

ただ電スロ化によるメリットはもう一つあります。それは幅広いエンジン性能の演出。

俗にいうパワーモード切替なんですが、それまでFIやセカンダリスロットルバルブなどによる制御でやっていた事が、メインスロットルバルブでも出来るようになるので幅が物凄く広くなる。

じゃあGSX-S1000/EK1AA型がどうなったかというと、まずAモードは先代と同じく、本当にGSX-R1000(K5)を剥いただけの正真正銘ストリートファイターなハッチャ系。

Bモードはそれを少し穏やかにしている特性。とはいえこれでも十二分に首を持っていかれる。

出力モード

そしてそれを更に穏やかにしたCモード・・・これが目から鱗というか、一番の狙いだったんじゃないかと思うほどの要素。というのも、このCモードはパワーカーブを見てもらうと分かる通り直線的で順当なリッタースポーツバイク的な特性になっている。

何度も言いますがGSX-S1000はGSX-R1000のエンジンがベースなので、パワーバンドに差し掛かった瞬間、2段ロケットのようなえげつない加速をする。

これこそが初代で言われた

『GSX-R1000の牙』

なんですが、そんな特性だから豹が描かれるのも納得な野性味あふれる凶暴性があった。それが今回、先代同様に豹モードはAモードに据え置きつつ、ルーズさは受け入れてくれるCモード、例えるなら野良猫モードが加わったおかげでストリートにおける懐の広さが大きくなった。

The Beauty of Naked Aggression

出力モード切り替え機能自体は珍しくもなんともないんですが、GSX-S1000はあまりにもAモードが牙むき出しだからこそCモードの落差というか高低差が際立っている。

もしかしたら2022年に生産終了となったGSX-S750の受け皿という狙いもあったのかも知れないですね。正直日本のストリートで乗るならS750の方が向いていると思うのですが、やはり心情的な事から試乗ではS1000の方が圧倒的に人気でした。そりゃ誰だって使う使わない関係なく、どうせ乗るなら最速級に乗りたいのが心情というもの。

今回のモデルチェンジは電子制御スロットルと出力モードによって、そこを大きくカバーしてある。

「150馬力の最速級をストリートでストレスなく乗りたい。」

というワガママに最大限応えたモデルチェンジかと。

カタログ写真

ただ一つ難点として、メーターが暗くて見えにくいという問題がありますが、これはきっと

「メーターなんて見るな。本能のままに走れ。」

というスズキからのメッセージではなかろうか。

主要諸元
全長/幅/高 2115/810/1080mm
シート高 810mm
車軸距離 1460mm
車体重量 214kg(装)
燃料消費率 16.6km/L
※WMTCモード値
燃料容量 19.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 150ps/11000rpm
最高トルク 10.7kg-m/9250rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/50ZR17(73W)
バッテリー FT12A-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9EIA-9
または
IU27D
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.4L
交換時2.8L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前17|後44
チェーン サイズ525|リンク116
車体価格 1,300,000円(税別)
系譜図
GSX-S1000 2015年
GSX-S1000
(GT79A/GT79B)
GSX-S1000F 2015年
GSX-S1000F
(GT79A/GT79B)
2001GSX-S1000 2021年
GSX-S1000
(EK1AA)
GSX-S1000gt 2022年
GSX-S1000GT
(EK1AA)

GIXXER SF250(ED22B)-since 2020-

SF250/ED22B

「BORN OF GREATNESS」

先に紹介したGIXXER250のフルカウルバージョンとなるGIXXER SF250/ED22B。

SFは”スポーツフェアリング”という意味でネイキッド版との違いは

・セパレートハンドル
・フルフェアリング
・カウルマウントミラー

などとなっています。

SF250セパレートハンドル

決定的な違いはフェアリングもそうなんですが、セパレートハンドル化に伴う前傾ポジションでフロント荷重が増し安定寄りなものになっている事。

SF250デザインスケッチ

それ以外の部分はネイキッド版と同じで+4kgと+3万円。

ところでネイキッド版のGIXXER250とフルカウル版のSF250どっちが人気なのかって話ですが、たまたま二輪車新聞に載っていた並列物の販売台数でいうとおおよそ

『無印:SF250|1:2』

でSF250の方が倍近い人気のようです。

SF250デザインスケッチ

やはり時代はフルカウルなのか。まあ確かにSF250のデザイン凄く纏まってて良いですからね。

以下は初心者の方に向けたちょっとした個人的余談。

「免許取得中でGIXXER250を検討しているので書いて欲しい」

という旨の嬉しい問い合わせが結構あってて恐れながら書かせてもらってるんですが、じゃあこのモデルどうかといえば

SF250壁紙

「本当に完璧なまでに初心者向けのバイク」

と思います。

初心者向けっていうのは軽くて運転しやすいからとか、コスパが良いからとかも勿論あるんですが一番は

ジクサー250 LED

「教材みたいなバイクだから」

です。

GIXXER250/SF250を検討するという事は少なからずスポーツ走行に興味があると思われるのですが、スポーツ走行をする場合こういうモデルが本当に勉強になる。

最大の要因はシングルエンジン(単気筒)だからです。

シングルエンジン

簡単に言うとシングルエンジンはピストンつまりパワーを生む機械であり機会が一つしか無いことから、アクセルワークに対するエンジンの応答が多気筒のように掛け算も割り算もされずそのまま返ってくるから凄く分かりやすい。

何故それが良いのかって言うとこのアクセルワークっていうのは本当に、本当にライディングにおいて大事だから。

運転が上手な人や速い人は何が違うのかっていうとアクセルワークが違う。

「繊細かつ大胆なアクセルワークを身につけているから」

と言っても過言じゃないほどで、逆に言うとこれが成っていないとどれだけ高性能なマシンやタイヤにしようが上手くならないというのは定説。

だからスポーツに属するカテゴリの練習やスクールなんかでも

『シングルスポーツ』

というのは非常に好まれるし勧められるんです・・・が、一方で市場ではあまり理解されない側面もあるため

・日常使いに特化したエントリータイプ

・日常使いを犠牲にしたエキスパートタイプ

という両極端なモデルになりがちな傾向がある。

ジクサー250エンジン

GIXXER250/SF250が初心者向けだと思う根拠はここにあって、低回転からモリモリ走る250ccのシングルエンジンと軽さで初心者でも比較的楽に街乗りなどの日常使いが出来る要素がしっかりありつつも

「そこから一歩踏み込んだスポーツ要素」

も合わせ持っている非常にバランスが取れたシングルスポーツモデルだから。

だから最初のうちは何も考えなくても楽に走れる良いバイクに感じると思います。でも慣れてきてアグレッシブな運転に挑戦するようになると途端にその楽さは無くなる。高性能な多気筒モデルにありがちな上手く走れてるという”勘違い”はさせてはもらえない。

それにモード切り替えやトラコンなどマシン側で特性を変えてくれる物はほぼ付いておらずサスペンションもリアのプリロードのみ。大きく変える事が出来るのは自分自身のアクセルワークしかないから上手く乗れるようになろうと思ったら

「考えながらアクセルを捻る」

という上達のために必須な要素を必然的に強く求められる。

ジクサー250カタログ

それを右も左もまだ分かっておらず変なクセも持っていない真っ白な状態から始める事が出来るのは

『初心者の特権』

であり、その経験は間違いなく長く続くバイクライフを豊かにする最短ルートになる。だからGIXXER250/SF250は初心者にはもってこいなモデルと思うわけです。

主要諸元
全長/幅/高 2010/740/1035mm
シート高 800mm
車軸距離 1345mm
車体重量 158kg(装)
燃料消費率 37.7km/L
※WMTCモード値
燃料容量 12.0L
エンジン 油冷4サイクル単気筒
総排気量 249cc
最高出力 26ps/9000rpm
最高トルク 2.2kg-m/7300rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後150/60R17(66H)
バッテリー YTX7L-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
MR8E-9
推奨オイル エクスター
R9000/R7000/R5000
10W-40 MA2
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量1.8L
交換時1.18L
フィルタ交換時1.2L
スプロケ 前13|後40
チェーン サイズ520|リンク108
車体価格 438,000円(税別)
系譜図
NZ250 1986年
NZ250/S
(NJ44A)
ジクサー250 2020年
GIXXER250
(ED22B)
ジクサーSF250 2020年
GIXXER
SF250
(ED22B)

GIXXER250(ED22B)-since 2020-

ED22B

「油冷で、走ろう。」

2020年にスズキから出た新世代シングルスポーツで

・ABS
・前後LEDライト
・フル液晶デジタルメーター
・154kg(装)
・26ps/9000rpm
・408,000円(税別)

という非常にバランスが取れているというかコスパが良いGIXXER250/ED22B型。

ED22B

最初にGIXXERについて説明すると欧米などではスズキの看板車種であるGSX-Rの事で

「ジーエスエックスアール」

「ジエクスアー」

「ジクサー」

という感じで根付いた愛称の事。ちなみにジグサーではなくジクサーです。

日本ではどちらかと言うと

「ジスペケ」

って愛称のほうが有名かなと思います。

ジクサー250

このモデルで取り上げるべきはもはや説明不要とも言える油冷エンジン・・・なんですが、今回はちょっと違ううえによく考えると油冷エンジンってGSX1400以来20年ぶりとなるので

「油冷って何」

と思ってる若者も多いでしょうからザックリ簡単に説明。

油冷というのは性能向上によって空冷(走行風)ではオーバーヒート(パワーダウン)するようになってきたエンジンを、潤滑のために入れているオイルを吹き付ける事でさらに冷やすようにした冷却方式のこと。

スズキSACS

『SACS(Suzuki Advanced Cooling System)』

といって、キッカケは次世代の冷却方式として注目されていた水冷を英語ではLiquid Cooling(液冷)と書くことをヒントに

「液体であって水が絶対ではないなら既に入っているオイルを水代わりにすれば水路や混濁の心配もいらず隅々まで冷やせる」

とGSX-Rシリーズの生みの親でもある横内さんが閃き誕生したのが発端で、スズキは80年代後半からこの技術をスズキの顔として大々的にアピールしていました。

もっと単純に分かりやすくいうと下記の見た目からも分かる通り

冷却方式による外見の違い

『油冷は空冷の冷却強化版』

という感じです。

空冷おじさんに負けないくらい油冷にこだわる油冷おじさんが居るのもこのため。最近はだいぶ減りましたけどね。

・・・と、ここまで書いておいてアレなんですがGIXXER250の油冷は少し違います。

SEPエンジン

冷却用のフィンが付いおらずパッと見では水冷エンジンと見間違うほどの造形。

この理由はいま説明した

『SACS(Suzuki Advanced Cooling System)』

ではなく

『SOCS(Suzuki Oil Cooling System)』

という別タイプの油冷エンジンだから。

SOCS

Advancedの文字が抜けた形になってるんですが、これどういう事かというとGIXXER250で新たに採用された油冷エンジンは放熱性能を上げるのが一番の狙いじゃない。

「軽くコンパクトにするため」

という狙いが一番にあるんです。

スズキのフラッグシップモデルであるGSX-Rなどを見ても分かる通り、現代では水冷が冷却方式としてはもっともベターとされているんですがベストとまでは言い切れない部分もある。

というのも水冷というのは上で話したようにオイルやガソリンと混ざってはいけない水を使うので

・冷却水(エンジンの熱を取る水)
・リザーブタンク(冷却水の貯蔵タンク)
・ウォーターポンプ(水を送るポンプ)
・ウォータージャケット(冷却水を流す水路)
・サーモスタット(オーバークールを防ぐ切替弁)

などなど冷却専用の装備を別に設ける必要がありスペースやコストなどを圧迫する問題がある。

GIXXER250はパワーよりもスリムさとコンパクトさを稼ぐ事が命題だったため、これらは軽視できない問題だった。しかし空冷ではいくらなんでも放熱が弱いからパワーが稼げない。

オイルライン

そこで再登場することになったのが油冷。

最初から入っているエンジンオイルを旧来のように上から吹き付けるのではなく、まるで水冷の冷却水のようにエンジンの周囲を這わせる事で冷却する方法を編み出し採用に至ったという話。

ジクサー250エンジン

ブランドありきではなく本来持つ特性が合致していたから採用されたという正に新世代の油冷エンジンであり、装備重量154kgかつ408,000円というコスパの良さはここにある。

それにしてもまさか油冷がこういう形で武器になる日が来るなんて・・・と感慨深くなるんですが、もう少し話を脱線させるとこのGIXXER250はインドで爆発的な人気(3000台/月)となっているGIXXER150に続く形で出たモデルになる。

ただし向こうで250はトップエンドの部類なのでインドでも400台/月ほど。つまりこのモデルは実はかなり日本市場を意識したモデルなんですね。

じゃあ日本国内はどうなのかというと若者に好評で入荷次第ドンドン売れており上々なセールスを記録しているようです。※並列物で500台/月ほど

ジクサー250カタログ写真

NZ250そしてグースという二度に渡る挫折から30年の歳月を経ての再々チャレンジで成功を収めたGIXXER250。

『3度目の正直油冷シングル』

といえるんじゃないかと。

主要諸元
全長/幅/高 2010/805/1035mm
シート高 800mm
車軸距離 1345mm
車体重量 154kg(装)
燃料消費率 37.7km/L
※WMTCモード値
燃料容量 12.0L
エンジン 油冷4サイクルSOHC単気筒
総排気量 249cc
最高出力 26ps/9000rpm
最高トルク 2.2kg-m/7300rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後150/60R17(66H)
バッテリー YTX7L-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
MR8E-9
推奨オイル エクスター
R9000/R7000/R5000
10W-40 MA2
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量1.8L
交換時1.18L
フィルタ交換時1.2L
スプロケ 前13|後40
チェーン サイズ520|リンク108
車体価格 408,000円(税別)
系譜図
NZ250 1986年
NZ250/S
(NJ44A)
ジクサー250 2020年
GIXXER250
(ED22B)
ジクサーSF250 2020年
GIXXER
SF250
(ED22B)

ZX-25R(ZX250E) -since 2020-

ZX-25R/ZX250E

「SCREAMING IN-LINE 4 POWER」

2020年に登場したZX-25R/ZX250E型。

「四気筒の250ccなんてもう無理だよ」

と誰もが思い、誰もが諦めていた中で出された実に13年ぶりの四気筒250。多くの人が度肝を抜かれたと同時に、ZX250”E”という型式に感銘を受けた人も少なくないかと思いますが凄いのはエンジンだけじゃない。

ZX-25R/ZX250E

・新設計DOHC16バルブ並列四気筒
・50mmのビッグボアで45馬力(ラム圧で46馬力)
・新設計高抗張力鋼トレリスフレーム&スイングアーム
・ビッグピストン倒立フォーク
・ホリゾンタルバックリンクリアサス
・ラジアルモノブロックキャリパー
・新設計5本スポーク&ラジアルタイヤ
・3モードのKTRC(トラクションコントロール)
・LOW/HIGHが選べる出力モード切り替え
・クラッチ操作を省くUP/DOWN対応KQS(クイックシフター※SEに標準)
・電子制御スロットルバルブ
・飾りじゃないラムエアシステム
・アシストスリッパークラッチ

などなど、IMU(慣性計測装置)こそ載っていないものの250にしては初っ端にしてフルスペック状態。まさにミニマムZX-Rと呼べる内容になっています。

ZX-25Rスターダストホワイト

いきなりフルスペック登場というのはZXR250を彷彿とさせるのですが

「ではZX-25Rは現代のZXR250なのか」

と聞かれれば一概にそうとも言い切れない部分もあります。というのもZX-25Rは現代のZXR250と言えるけど、現代のBALIUSとも言えるから。

ZX-25Rリアビュー

ZX-25Rは何処からどう見てもスーパースポーツなんですが、乗り出してみるとビックリするほど乗りやすい。これは開発において大事にされたのがワインディングなどスポーツ性能が高いZXR250と、街中などの日常性能が高いBALIUSのいいとこ取りだったから。

それが最もよく現れているのがポジション。

ZX-25Rのポジション

ZXR250RとBALIUSの中間のようなポジションになっているのが分かるかと。

他にもシングルディスクとガチガチではない足回り、ペラペラではないシートと抑えられているシート高、ボリュームはあるけど絞っている車体幅など、色んな部分で窓口の広さと言いますか気軽さへの配慮が見て取れる。

ZX-25Rのポジション

これは開発の肝心要だったエンジンも例外ではなく、総削りのシリンダーヘッドによる高精度な燃焼室の形成や徹底したフリクションロスの軽減などで17,000rpm超の高回転型45馬力エンジンにしつつも、エクゾーストパイプを4-1ではなく4-2-1にすることで低中速トルクの強化も行っている。

ZX-25Rのエンジン

だからZX-25Rは例えるなら

『取っつきやすくなったZXR250』

という表現が一番合うんじゃないかと思います。

やはり系譜が系譜なだけあって色んな所でZXR250やBALIUSと比べられていますが、開発者の思惑にもあるようにZX-25Rはそれらの上に立つモデルと言うよりもそれらを統合したようなモデル。

ZX-25Rのターゲット

決してサーキットや峠を主体に置いてるモデルでもないし、街中を疾走することを主体に置いているバイクでもない絶妙な位置。

そこにABSやトラコンや電スロやクイックシフターなどライダーを補助する電子制御をモリモリにすることでその領域を大きく広げ、街中も峠もサーキットもツーリングも熟せるようになってる。

例えばSEに標準装備されているオートブリッパー付きクイックシフターも開発責任者の山本さん曰く

「ブレーキ操作に専念出来るように」

というのが狙いで、コンマ一秒を削るためというより求められる操作を減らすことで安心して楽しめるようにという配慮の現れなんですね。

ZX-25Rのコックピット

だから100%買いなバイクであるからこそ敢えて少しだけ厳しい事をいうと、低中速の厚さや取り回しではそれに特化していたバリオスに、寝かし込みや切り返しのクイックさ等はそれに特化していたZXR250/Rに分があるのが正直な所。

あくまでもZX-25Rはその両方を臆することなくこなせる万能車という感じ。

ただしそんな中でZX-25Rだけが持っているものがあります・・・それは旋律された唯一無二の音。

ZX-25Rのカタログ

音響技術の向上も相まって非常に洗礼された250の四気筒にしか出せない超高周波の超スクリーミングサウンド。

これは全てのモデルを含めても唯一無二といえるもので、ZX-25Rの一番の魅力はここにあると思います。

ZX-25Rのカタログ

しかもZX-25Rは電子制御の恩恵もあってそんな最高の音を手軽に味わえるようになってる。100%買いと言えるのはこれが理由。

もう本当に走る楽器で忍び要素ゼロ。

最後に少し余談ですが、四気筒250ccはもう出ないと言われていた根拠の一つとして

『250ccレースのルールが2気筒まで』

というものがありました。

ZX-25Rとレース

要するに四気筒を作ってもZXR250のSP250Fのように出場できるレースが無いからメーカーも造らないだろうと言われていた。

そんな状況下でこんなモデルを出してきたからビックリという話なんですが、何故カワサキは出したのかと言うと一つはインドネシア市場にあります。

インドネシアの事情

インドネシアは日本市場と同じく日本メーカー同士による激しい攻防が行われており、また上位中所得国入りを果たす経済成長などでバイク選びも豊かになっているんですが、一点だけ日本と違う点としてバイクを購入しようと思った際に250cc以上は

『奢侈(しゃし)税が60%』

という贅沢税みたいな問題がある。

そしてスクーターなどのコミューターをほぼ扱わないカワサキは日本以上にスポーツメーカーという立ち位置なので、ここを狙ってZX-25Rを出した面が強い。

インドネシアのZX-25R

これが可能になったのはカワサキがいち早くスポーツバイクを市場に投入したというか、積極的な現地進出を果たしサプライヤーと強力な関係を築けたから。

ちなみに皮切りとなったのは2002年のKSR110になります。あれが予想外の大ヒットとなったのがすべての始まり。

・・・ところがこれで話は終わらない。

なんと全日本250ccレースであるJP250が2021年より四気筒、つまりZX-25Rの参加を可能とするレギュレーションの変更を行ったんです。

ZX-25Rのワンメイクレース

それまではカワサキも出場できない事が分かっていたので自分たちだけでワンメイクレースを開催する形をとっていたんですが、これで出場できるようになった。

もしかすると再び四気筒250ccの時代が来るかもしれない。

主要諸元
全長/幅/高 1980/750/1110mm
シート高 785mm
車軸距離 1380mm
車体重量 183kg(装)
[184kg(装)]
燃料消費率 18.9km/L
※WMTCモード値
燃料容量 15.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 249cc
最高出力 45ps/15500rpm
最高トルク 2.1kg-m/13000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後150/60R17(66H)
バッテリー YTX7A-BS
プラグ LMAR9G
推奨オイル カワサキ純正オイル
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量2.9L
交換時2.2L
フィルター交換時2.2L
スプロケ 前14|後50
チェーン サイズ520|リンク116
車体価格

750,000円(税別)
[830,000円(税別)]

※[]内はSE

系譜図
ZXR250A1989年
ZXR250/R
(ZX250A/B)
ZXR250C1991年
ZXR250/R
(ZX250C/D)
バリオス1991年
BALIUS
(ZR250A)
バリオス21997年
BALIUS2
(ZR250B)
2020年
ZX-25R
(ZX250E)

【関連車種】
CBR250RR/CB250の系譜FZR250Rの系譜Bandit250の系譜