ZX-10R/RR(ZX1002L/N)-since 2021-

2021年型ZX-10R

「FACE YOURSELF」

数えること八代目となった2021年からのZX-10RのZX1002L型。

まず変更点をあげると

・最大出力回転数-300rpm(ZX-10RRは+500rpm)
・フロントフォークのオフセットを変更
・スイングアーム長を延長しピボットを1mm下げ
・上記に伴いホイールベースを10mm延長
・BFFのセッティングを変更
・ギア比の変更
・ポジションの変更
・ウイングレット内蔵カウル
・LEDヘッドライト&ウィンカー
・スマホ連動フルカラー液晶メーター
・クルーズコントロールシステム
・新型オイルクーラーにより冷却性強化
・サイレンサーを若干大型化
・車重+1kg
・カワサキケア+(メンテパック)

・KCMF:カワサキコーナリングマネジメントファンクション
(トラコン、ABS、ローンチ、エンブレ制御のリアルタイム調整)

・インテグレーテッドライディングモード
(トラコンとパワーモードの包括セレクト機能:スポーツ/ロード/レイン/ユーザー)

などとなっています。

2021年型ZX-10Rサイド

実は今回のモデルチェンジは先代と重ねてみると分かりやすいのですが、構造的にはホイールベースやフォークオフセットが変わっている程度で、エンジンやフレームは基本的に先代からのキャリーオーバーとなっており最大出力も203馬力のまま。

先代との比較

これ何故かと言うとZX-10Rは存在意義であるSBK(市販車ベースレース)とそのライダーであるジョナサン・レイが関係しています。

ZX-10RはSBKにおいて

『驚異の六連覇(2015~2020)』

を達成し、向かうところ敵なし状態だったんですが、その立役者である王者ジョナサン・レイ(写真に写っている方)が

ジョナサン・レイとZX-10R

「ZX-10Rは良く出来ているから変えなくていいよ」

と言ったことが要因で、だから大きく変えなかったという話。

結局カワサキ(Kawasaki Racing Team)とジョナサン・レイが強いのはこういう信頼関係があるからで

「自分を尊重してくれるカワサキは素晴らしく、自分でも人生で最高の選択だと思っている。」

と言って複数年契約を結ぶだけでなく、鈴鹿8耐にも嫌な顔ひとつせず引き受け26年ぶりの優勝に貢献。

それに応えるようにカワサキも

「レイが変えなくていいと言ったので変えません(販促放棄)」

というまさに相思相愛といえる関係。

そりゃ六連覇しても不思議じゃないねって話ですが、正確に言うとレイの為に用意されたのは世界限定500台のZX-10RR/ZX1002N型の方になります。

ZX-10RR/ZX1002N

・チタンコンロッド
・専用軽量ピストン
・DLCピストンピン
・専用カムシャフト
・専用バルブスプリング
・マルケジーニ鍛造ホイール
・サスの伸側をトラック寄りに変更
・レース用メッシュブレーキホース
・スパコルSP
・シングルシートカウル

などなどが奢られた299万円(ノーマルから+90万円)の世界限定500台のモデル。

RR専用部品

正確に言うとこっちがレースのベースとなるモデルで、今回のモデルチェンジで更にピーク回転数を上げる改良が行われました。

なんでそれが大事なのかというと、この市販車レースというのはいろいろな制約があるんですが、その中でも近年新たに設けられ大きな波紋を呼んだのが2019年から新たに定められた

「リミッタ作動回転数+3%か最大出力発生回転数+1100rpm」

というエンジン回転数の上限ルール。

これはマシンの均一化を図るためなんですが、逆にいえば市販車で高めておけばレースでも高い回転数まで使うことが出来るわけで、そのために作られたのがZX-10RRというわけ。

象徴的なのが昨今のスペシャルモデルでは当たり前のように使われるようになったチタンコンロッドで、鉄に対しおおよそ半分の重さにできる。

なんでそれが重要なのか簡単に説明すると、上下運動によりそのまま上下に向かおうとする慣性力によってコンロッドには引っ張られたり押されたりする力が働く。

すると付け根ともいえる大端孔が変形(クローズイン現象)してしまい、レスポンスの悪化やフリクションロスの増大。そして最後には焼付きを起こしてしまう。

クローズイン現象

だから往復部分であるコンロッドを軽くして少しでもその力を弱めようとして使われるようになったのが軽さを取ったチタンなんですね。

だからZX-10RRもノーマルで見るとZX-10Rとほぼ変わらないように見えますが・・・レースキットを入れるとご覧のようにガラッと変わる。

エンジンパフォーマンス

ちなみに効果絶大なことからレースにおいて市販車からの交換も禁止されたので標準装備となったわけですが、加えて言うと税別299万円という価格も実はレースが関係しています。

2020年から日本で始まったST1000(改造範囲が狭い市販SSレース)のベース車両の条件として

『税別300万円以下』

というものが定められたのでZX-10RRはこのレースにも参戦するために300万円を切る価格になっているというわけ。

だからこのRRモデルは、そういう限られた用途に使う人によってはお買い得なモデルになるわけです。ただ逆に一般人にノーマルで+100万円の違いを実感できるかと言えば恐らく・・・という事で10RR/N型の話はこれで終わって10R/L型に戻ります。

サイドビュー

中身がほぼ変えられなかったおかげというと少し語弊がありますが、その代わりにお金を掛けられたのが主に外装部分。

一つは待っていた人も多いであろう液晶メーターの採用。

フルカラーデジタルメーター

タイムに寄与しないということからJ/K型から10年間ほぼ変わらなかったメーターが遂にTFTカラー液晶へ変更されました。

そしてもう一つが今回のモデルチェンジの目玉であろう外装の大幅な刷新。シリーズ顔というかH2と同系のリバーマーク付き逆スラントノーズになり、さらに超速度域でフロント接地感を増すウイングレットを新たに装備しました。

2021年型ZX-10Rの顔

少し面白いのがライバルの追っかけはしないが信条のカワサキらしく、一般的な外付けではなく内蔵型で控えめにアッパーカウルに近い部分に設けられています。

これ何故こうなったのかというと、デザインと空力のバランスを考えた結果こういう形になったとの事。

LEDヘッドライト

「これがデザイン考慮した顔なのか」

と疑問に思われている方が居るかも知れないです・・・が、少し待たれよ。

まずもってスーパースポーツモデルをこんなローアングルで覗く事はなく、実際はライトの存在がかなり消えるので印象がかなり違う。

ただこれは昨今の逆スラントLEDヘッドライトモデルでは結構使われている手法なので取り立てて書く事ではないかと。ZX-10Rの顔が他と違うのはここから。

face yourself

このL/N型はライトが若干奥まった場所にあり、上下には飛び出たスポイラーが付いているんですが、バンクさせるほどコレが立って際立って存在感を増してくる。切り裂くという表現が本当にピッタリで、しかもウイングレットも内蔵だからそれが隠れてしまう事もない。

何が言いたいのかっていうと、このL/N型の顔はフルバンクが凄く映える。もっと言うとクリッピングポイントから抜けるまでのカメラ写りが最高にキマってる。

フルバンク時

「SBK王者らしいオーバーテイク映えデザインになっている」

という話。

主要諸元
全長/幅/高 2085/750/1185mm
シート高 835mm
車軸距離 1450mm
車体重量 207kg(装)
燃料消費率 16.5km/L
※WMTCモード値
燃料容量 17.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 998cc
最高出力 203ps/13200rpm
[204ps/14000rpm]
最高トルク 11.7kg-m/11400rpm
[11.4kg-m/11700rpm]
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/55ZR17(75W)
バッテリー YTZ10S
プラグ SILMAR9B9
推奨オイル カワサキ純正オイルR4/S4
または
MA適合品SAE10W-40
オイル容量 全容量4.0L
交換時2.9L
フィルター交換時3.4L
スプロケ 前17|後41
チェーン サイズ525|リンク116
車体価格 2,090,000円(税別)
[2,990,000円(税別)]
※[]内はZX-10RR/ZX1002N
系譜図
GPZ750R1986年
GPX750R
(ZX750F)
ZXR7501989年
ZXR750
(ZX750H/J/L)
1996ZX-9R1994年
ZX-9R
(ZX900B)
1998ZX-9R1998年
ZX-9R
(ZX900C/D)
2000ZX-9R

2000年
ZX-9R
(ZX900E)

2002ZX-9R2002年
ZX-9R
(ZX900F)
2004ZX-10R2004年
ZX-10R
(ZX1000C)
2006ZX-10R2006年
ZX-10R
(ZX1000D)
2008ZX-10R2008年
ZX-10R
(ZX1000E)
2010ZX-10R2010年
ZX-10R
(ZX1000F)
2011ZX-10R2011年
ZX-10R
(ZX1000J/K)
2016ZX-10R2016年
ZX-10R/RR/SE
(ZX1000R/S/Z/C)
2019ZX-10R2019年
ZX-10R/RR/SE
(ZX1002E/G/H)
2021ZX-10R2021年
ZX-10R/RR
(ZX1002L/N/)

【関連車種】
CBR1000RRの系譜YZF-R1の系譜GSX-R1000の系譜SuperBikeの系譜

Ninja1000SX(ZX1002K) -since 2020-

2020Ninja1000SX

「Best of Both Worlds」

再びモデルチェンジされNinja1000SXという日本名Ninja1000と海外名Z1000SXを足して2で割ったような名前に改められたZX1002K型。

最初に変更点を上げると

・灯火系のフルLED化

・マフラーを一本出しに変更

・吸気ファンネル及びカムの変更

・電スロ化&クルコン装備

・出力モードを4モードに変更(スポーツ・スタンダード・レイン・マニュアル)

・上下対応クイックシフター

・4段階調節機能付きスクリーン

・カウル形状の変更

・フルカラー液晶メーター

・ETC2.0を標準装備

・RIDEOLOGY(ログアプリ)対応

などとなっています。

2020Ninja1000SX変更点

簡単に言うと電子制御化を進めた形で、装備はもちろん出力特性もより調教されたものになりました。

これまたZ1000そっちのけでモデルチェンジっていう・・・やっぱりNinja1000が人気なんでしょうね。それにしてもこのクラスでクイックシフターを標準装備、しかもアップ/ダウン両対応型というのは流石の一言。

2020Ninja1000SXホワイト

クラッチ操作とおさらば出来るクイックシフターは一度使うとあまりの快適さに感動するんですが、同時にアップのみの対応だとダウンも欲しくなるから我慢して乗るか更に払って社外に変更(しかも結構いい値段する)というパターンになりがちだから。

ここらへんの事情を鑑みての装備だと思います。細かい話だけど購入後の満足度を重視するカワサキらしい対応でもある。

ちなみにこのモデルになって車体価格が210,600円も上がって1,485,000円(税込)となりました。

電スロやクイックシフターを始めとしたモデルチェンジの内容を考慮しても少し割高に感じている人が居るかも知れないので説明しておくと、この大幅な値上げはモデルチェンジの内容というよりも

『カワサキケアモデル』

と呼ばれるクラスになった事が要因です。

Ninja1000SXカワサキケア

これは簡単に言うとメンテナンスパックの事で

・1ヶ月点検+オイル&フィルター交換

・6ヶ月プラザ安心点検(27項目点検)

・12ヶ月法定点検+オイル&フィルター交換

・18ヶ月プラザ安心点検(27項目点検)

・24ヶ月法定点検+オイル&フィルター交換

・30ヶ月プラザ安心点検(27項目点検)

の費用込の値段(S4オイルとフィルターを含む)になったから値上げになった感じがするという話。

※冴速など上位オイルがいい場合は差額でOK

「メンテパックに入った方が得ですよ」

って言われて何だかんだで乗り出し価格が高くなるパターンではなく最初からコミコミになってる非常に珍しいパターン。つまりNinja1000SXを買った場合、3年間はメンテナンス費用が不要というわけ。

加えてこのサービスは購入店舗だけではなく全国のカワサキPLAZAで受けることが出来る上、車体に付属したサービスなので仮に中古車購入だったとしても3年未満だった場合サービスは受けられるという話。

Ninja1000SXカタログ写真

Ninja1000SXが(Z H2と並んで)このシステムのトップバッターという事で車体の話よりカワサキケアの話になってしまったのですが、最近カワサキはショップ管理ではなくプラザ管理の中古車つまり全国のプラザで買えるようにする取り組みを始めたのでこれから先この恩恵を受ける車種や機会は増えると思われます。

主要諸元
全長/幅/高 2100/830/1190~1225mm
シート高 820mm
車軸距離 1440mm
車体重量 236kg(装)
燃料消費率 17.5km/L
※WMTCモード
燃料容量 19.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 1043cc
最高出力 141ps/10000rpm
最高トルク 11.3kg-m/8000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/50ZR17(73W)
バッテリー YTX9-BS
プラグ CR9EIA-9
推奨オイル カワサキ純正オイルR4/S4
または
MA適合品10W-40
オイル容量 全容量4.0L
交換時3.2L
フィルター交換時3.8L
スプロケ 前15|後41
チェーン サイズ525|リンク112
車体価格 1,485,000円(税込)
系譜図
Z11972年
900Super4
(Z1/A/B)
Z900
(A4)
Z1000A1976年
Z1000
(Z1000A1/2)
Z1-R1977年
Z1-R/2
(Z1000D)
Z1000MK2
(Z1000A3~)
Z1000J1981年
Z1000J
(Z1000J)
Z1000R
(Z1000R)
Z1100GP1981年
Z1100GP
(Z1100B)
Z1100R
(Z1100R)
GPz11001983年
GPZ1100
(ZX1100A)
ZR1000A2003年
Z1000
(ZR1000A)
ZR1000B2007年
Z1000
(ZR1000B)
ZR1000D2010年
Z1000
(ZR1000D)
Ninja10002011年
Ninja1000
(ZX1000G/H)
ZR1000L/M2014年
Z1000
(ZR1000F/G)
Ninja1000
(ZX1000L/M)
ZX1000W2017年
Z1000/R
(ZR1000H/J)
Ninja1000
(ZX1000W)
ZX1002K2020年
Ninja1000SX
(ZX1002K)

【関連車種】
VTR1000の系譜FZ1/FAZERの系譜GSX-S1000/Fの系譜

Z H2/SE(ZR1000K/L)-since 2020-

ZH2

「THE NEW Z」

新たなフラッグシップZとして登場したスーパーチャージャー付きのZ H2/ZR1000K型。

ベースとなっているのはスーパースポーツ系のH2ではなくバランス型のH2SXですが、SXを剥いただけかというと全く違います。
・アップライトのファットハンドル
・フレームマウントのヘッドライト
・剛性を下げしなやかにした専用フレーム
・バルブタイミングと燃調を中低速寄りに変更
・FI口径の小径化
・二次減速比をショート化
・両持ちスイングアーム
・触媒内蔵サイレンサー
・クイックシフター
・SHOWA製SSF-BF
・ホイールを星型から6本スポークに
・ブレンボM4.32モノブロックキャリパー
・フルカラーTFTメーター
・インテグレーテッドライディングモード
(トラコンや出力モードの包括的な切替機能)
・RIDEOLOGYアプリに対応
・Kawasaki Care+

などなどSXよりちょっと豪華になっているんですが、決定的に違う部分としてZ H2はストリートファイターというかネイキッドでポジションが起き気味なことと装備重量もSX比マイナス20kgの240kgと軽量化がされていること。

ZH2のデザイン

デザインの方も

『SUGOMI&Minimalist』

というコンセプトに沿って外装も最小限にはなっているんですが、スーパーチャージャーのエアインテークダクトを前に出さないといけない事もありネイキッドとしてはフロントが大きめで低めのハーフカウルが付いているような形。

更に翌2021年4月には豪華版となるZ H2 SE/ZR1000L型も登場。

ZH2SE

・KECS(電子制御サス)
・スカイフックEERA(電子制御アジャスト)
・ブレンボStylema(上位ブレンボキャリパー)
・ブレンボマスターシリンダー
・スーパーチャージャーエアインテークの銀鏡塗装
・スーパーチャージャーの赤刻印

などとなっているんですが、Z H2が発売されて何が一番衝撃だったかというとH2シリーズにしては凄くお買い得な価格設定だったこと。

H2 Carbon3,300,000円
H2SX SE+2,570,000円
H2SX SE2,220,000円
Z H2 SE1,980,000円
Z H21,720,000円

なんとH2CARBON一台でこれを二台買えちゃうほど安い。スカイフックテクノロジーを搭載した電子制御サスEERA(イーラ)を装備したSEモデルですら税別で200万円を切る安さ。

ちなみにスカイフックテクノロジーというのは簡単に説明するとサスペンションが沈み込んで戻る時の戻りすぎ、反動に近い制御をダンパーの電子制御で最小限に抑え込む技術。

「通常の電子制御サスペンションEERA(イーラ)と何が違うの」

という話をザックリすると、もともとサスペンションには”スカイフック”という究極の乗り心地理論みたいなものがある。

スカイフックの仕組み

こうして車体を宙吊りにすればどれだけサスペンションが動いてもバネ上のピッチング(前後の姿勢変化)が無くなるから最高の乗り心地になるという話なんですが、文字通り空から吊るすというのは現実問題として不可能。

なので車体に備えられたIMU(慣性計測装置)とサスペンションに内蔵されたストロークセンサーで車体姿勢を完全に把握し、減衰力を1/1000秒単位で素早く変え抑えることにより

『バネ上に挙動を可能な限り伝えないようにする制御』

というのが先に四輪の方で生まれ、今回それが二輪でも加わったという話。

スカイフックテクノロジー

これの効果はいま話したように乗り心地の大幅な向上なんですが、しかし一方でレインモードでしか採用されていない事からも分かる通りバネ上に乗っている形であるライダーも車体姿勢を把握しにくくなってしまうので少し違和感が生まれるのもまた事実。

だからこれはスポーツ系装備というよりも乗り心地を向上させる巡航向けのまったりシステムと言った方が良い感じ。

ZH2フロント

「じゃあなんでネイキッドのZに付けられたのか」

って話ですが二者択一の装備ではなくボタン一つでどうとでも変えることが出来る電子制御サスペンションで、先にも言ったようにZ H2はフロントマスクが結構たくましく楽なポジションも相まって普通に巡航もロングスクリーンを付ければイケるという要素を狙ったんじゃないかと。

ただZ H2で何よりも書くべきはスーパーチャージャー。

スカイフックテクノロジー

「いやいやスーパーチャージャーなのはもう知ってるよ」

って人も多いかと思います。でもこれが出たのは本当に凄いことであり、これがH2シリーズの真打ちじゃないかと。

というのも重ねて言いますがバイクで過給が根付かなかったのは急激なトルク変動がマンマシンの一体感というバイクにとって非常に大事な要素を阻害する、もっというと危なかったから。

そんな常識がある中でその危うさを極致下においてエキサイトメントという武器にしたのが第一弾のH2/R。そしてワンクラス上のパワーで余裕を持って走れるダウンサイジングに近い考えを武器にした第二弾のH2SX/SE。

そしてそして低中速寄りにチューニングしポジションも取っつきやすいアップライトで比較的軽く振れるフレンドリーさを武器に出た第三段がZ H2/SE・・・そう、Z H2は過給を積極的に楽しむことを武器にしている。

「ストリートでスーパーチャージャーを気軽に堪能出来る」

という本当に世が世なら間違いなく許されなかったであろう企業の社会的責任ギリギリを責めたコンセプトになっている。

エンジン性能

信号ダッシュや交差点からの立ち上がり、前が開けた時などあらゆる日常シーンで目と鼻の先にブーストゾーンがある。

ポジションもアップライトだから簡単にフロントが離陸すると同時に、身構えないと首を痛めてしまうほどのワープを

「キュルルル、ヒュルルル」

というタービンが生む音と一緒に”比較的誰でも簡単にそこら辺の道で”堪能出来るようになっている。Z H2がH2シリーズの真打ちじゃないかと思う理由はここ。

カワサキH2シリーズ

これこそがスーパーチャージャーが最も活きる使い方だから。

重ねて言いますが、この手軽にブーストはエンジン(クランク)から動力を貰うスーパーチャージャーだからこそ可能なこと。

スーパーチャージャーの構造

ターボだとこうはいかない。何故なら排気を動力源にするターボはある程度の排圧がないと首を痛めるほどのブーストが効かないから。

もちろんデメリットもあって高回転になるとターボのほうが効率が良い。でもそれはあくまでも高回転域での話でストリートでは難しいうえに、吹け上がりや排気音もタービンに邪魔されて濁ったものになる。

つまり何が言いたいのかというと

「このZ H2はスーパーチャージャーを本当に上手く活用してる」

という事。でもだからこそ本当にギリギリアウ・・・じゃなくてセーフ。

ZR1000K

過給機が載っていることが武器ではなく、過給による変化をそれもストリートで楽しむことを武器にしている。

間違いなく乗り手をブースト依存症にし、右手との戦いを一番強いるネイキッドというか別の意味でストリートファイター。

H2シリーズの展開においてカワサキ広報さんが話されていた

「より多くの方にスーパーチャージャーを」

という文言の”多くの方”というのは単純に台数を出す云々の話ではなく、まさかスーパーチャージャーというアドレナリン放出機能の真髄を広く知ってもらう事だったとは。

主要諸元
全長/幅/高 2085/810/1130mm
[2085/815/1130mm]
シート高 830mm
車軸距離 1455mm
車体重量 240kg(装)
[241kg(装)]
燃料消費率 16.9km/L
※WMTCモード値
燃料容量 19.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 998cc
最高出力 200ps/11000rpm
最高トルク 14.0kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/55ZR17(75W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR9E9
推奨オイル カワサキ純正オイルR4/S4
または
MA適合SAE10W-40
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.7L
交換時3.5L
フィルター交換時4.3L
スプロケ 前18|後46
チェーン サイズ525|リンク118
車体価格 1,720,000円(税別)
[1,980,000円(税別)]
※[]内はSE/ZR1000L
系譜図
マッハ31969年
500SS MACH3
(H1)
マッハ41972年
750SS MACH4
(H2)
H22015年
Ninja H2
(ZX1000N/X/ZX1002J)
H2R2015年
Ninja H2R
(ZX1000P/Y)
H2SX2018年
Ninja H2SX/SE
(ZX1002A/B/D)
zh22022年
Z H2/SE
(ZR1000K/L)

V-STROM1050/XT(EF11M)-since 2020-

ブイストロム1050

「THE MASTER OF ADVENTURE」

2020年排ガス規制であるEURO5を契機にモデルチェンジされたV-STROM1050/XTのEF11M型。

最初に主な変更点を上げると

・LEDヘッドライト
・6段階の輝度調整が可能なフル液晶メーター
・クランクケース樹脂カバー
・3段階スクリーン調整(工具必要)
・新設計セパレートシート
・アルミテーパーハンドル
・鉄製フットレスト
・USB端子
・スロットルバイワイヤ(電子スロットル)
・スロットルボアを拡大
・3パターンの出力特性が選べるSDMS
・IMUを5軸から6軸へ
・トラコン制御をOFFを含む3段階から4段階へ

などの変更が入っています。

※スリッパークラッチやローRPMアシストは先代に引き続き搭載

ブイストロム1050XT

スポークホイールモデルであるXTの方はそこからさらに

・後下がりを防ぐヒルホールドコントロール
・勾配に応じたABS制御を行うスロープディペンデントコントロール
・前後を連動させ自然に制動距離を短くするロードディペンデントコントロール
・モーショントラックブレーキ(前後連動2モードABS ※先代は標準)
・クルーズコントロール

などの最新電子制御機能に加え

・LEDウィンカー
・クリアテールレンズ
・シート下に12VのACC電源
・新型ミラー
・センタースタンド
・パニアステー
・エンジンガード
・ナックルガード
・11段階スクリーン(工具不要)
・+20mmに出来る新設計シート

など基本的にOPで用意しているものを最初から備えた豪華版となりました。

ブイストロム1050とXT

ちなみに車体価格は

『無印:1,300,000円|XT:1,380,000円』

電子制御に加えて13万円分以上のOPが付いているにも関わらずXTは僅か8万円差。ただでさえ買い得なV-STROM1050が更にお買い得感の増す形になっています。

でもこのモデルで話題となったのはご存知のように見た目ですね。

往年の名車というか色んな意味で有名なビッグオフのDR-BIGことDR750を完全に意識したものに変わりました。

V-STROM1050とDR750S

アドベンチャーにネオレトロ(ヘリテージ)要素を加えて綺麗にまとめるというスズキらしからぬ匠さなんですが、何を隠そうデザインを担当したのがDR-BIGをはじめオフロードバイク全般を手掛けてきた宮田さんだからなんだとか。

ちなみに中身の方を説明するとナンバリングが1000から1050と+50されている事から排気量が上がったのかと思いきや、実際の排気量は1036ccのまま変わっていない。

ただ

・スロットルバルブの大径化
・それに伴い給排気のカムを変更
・オイルクーラーの水冷化

など大きく手を加えており排ガス規制が強化されたにもかかわらず排気量はそのまま+7馬力を達成。さらに吹け方に相当拘ったことでフィーリングも大幅に向上しています。

V-STROM1050エンジン

じゃあなんで上げたのかって話ですが

・フラットダート等で恩恵を受けるであろう電子制御を始めとした改良の数々

・DR-BIGのデザイン踏襲

でオフ色が強いアドベンチャーに生まれ変わった事をアピールするためにナンバーを上げたんじゃないかと思います。

V-STROM1050の各部

思います・・・が、個人的かつ余計な見解を言うとそれでもV-STROM1050/XTのメインステージはあくまでも先代から変わらずオンロードにあるかと。

ビッグオフの怪鳥デザインがキマっているのでそっちに目が行きがちなんですが決して騙されてはいけません。

V-STROM1050のフレーム

その皮を剥くとスーパースポーツかなと思うほど細マッチョなボディを持っており、それに載ってるエンジンも元気ハツラツな100mmボアのVツインエンジン。

だからアクセルをグイっと捻った時の中毒性があるパルス感やワインディングを流した時の軽快さなど、良い意味でイメージを裏切るスポーツ性や官能性を持ってる。

その理由は

「大元がVツインスーパースポーツのTL1000だから」

といえばそれまでなんですが、明らかにその要素というかゾーンみたいなものが意図的に残され守られてるから。

V-STROM1050(EF11M)

結局のところモード切替やトラコン細分化やクルコンなどの電子制御がコストに厳しいスズキ車でも一二を争うほど贅沢に奢られているのは、アドベンチャークラスのフラッグシップモデルという立ち位置も当然あるけど

『高揚を生むTL1000の息吹』

みたいなものを犠牲にすることなくフラットダートやツーリングなどアドベンチャーに求められる多様性に対応するためなんじゃないかと。

主要諸元
全長/幅/高 2265/870/1515mm
[2265/940/1465mm]
シート高 850mm
[830~850mm]
車軸距離 1555mm
車体重量 236kg(装)
[247kg(装)]
燃料消費率 20.3km/L
※WMTCモード値
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 1036cc
最高出力 106ps/8500rpm
最高トルク 10.1kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/80R19(59H)
後150/70R17(69H)
[前110/80R19(59V)
後150/70R17(69V)]
バッテリー FTZ14S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR8BI-9
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.7L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前16|後41
チェーン サイズ525|リンク116
車体価格

1,300,000円(税別)
[1,380,000円(税別)]
※[]内はXTモデル

系譜図
TL1000S 1997年
TL1000S
(VT51A)
TL1000R 1998年
TL1000R
(VT52A)
Vストロム1000 2002年
V-STROM1000
(VT53A)
SV1000 2003年
SV1000/S
(VT54A)
Vストロム1000 2014年
V-STROM1000ABS
(VU51A)
2017V-STROM1000 2017年
V-STROM1000ABS
(VU51A後期)
2020V-STROM1050 2020年
V-STROM1050/XT
(EF11M)

【関連車種】
DR750S/DR800S(SK43A/SR43A)|系譜の外側Africa Twinの系譜SUPER TÉNÉRÉの系譜VERSYS1000の系譜

PCX/e:HEV/160(JK05/JK06/KF47)-since 2020-

PCX JK05

「Personal Comfort Saloonとしての更なる進化」

わずか三年ほどでフルモデルチェンジされ早くも五代目となったPCX/JK05とe:HEV/JK06とPCX160/KF47。

最初に変更点をあげると

・4バルブの新型エンジンesp+を搭載
・スロットルボディ径をΦ26から28へ拡大
・吸/排気系を新設計
・上記改良によりにより0.27馬力UP
・プーリーサイズの拡大およびクラッチ形状の見直し
・ヘッドパイプの剛性を高めつつ760g軽量化した新設計フレーム
・ハンドルをラバーマウント化
・リアのディスクブレーキ化とABSを標準化
・トラクションコントロールシステムの搭載
・ラゲッジボックスを2.4L拡大し30.4Lへ
・グローブボックスに3AのUSB Type-Cソケット
・前後タイヤサイズをアップ&リアを13インチにダウン
・リアアスクルのストローク量を10mm増加
・ABSを標準化しコンビブレーキは廃止
・全体的なデザインの刷新
・反転型デジタル液晶メーター

JK06

以下PCX e:HEV/JK06
・名称をHYBRIDからe:HEVに変更
・ラゲッジボックスを23.0Lから24.0Lへ拡大

KF47

以下PCX160/KF47
・排気量を7cc上げて156cc/15.8馬力に

などとなっています。

このモデル最大の特徴としてはまず何と言っても新型エンジンeps+かと。

esp+エンジン

ボア径を大きくして面積を広げて4バルブ化した形で、ピストン裏にオイルを噴射して冷却効率を上げる事で圧縮比も向上。

125:ボアΦ52.4,mm→53.5mm、ストローク57.9→55.5mm、圧縮比11.0→11.5

160:ボアΦ57.3,mm→60.0mm、ストローク57.9→55.5mm、圧縮比10.6→12.0

この改良の狙いは単純に出力を稼ぐためではなく、燃費と出力それに静粛性など全てを向上させるのが狙い。

esp+ピストン

そのためにクランク新造とクランクベアリングをボールベアリングからローラーベアリングに変更する事で高剛性化。さらにカムチェーンテンショナーも追従性に優れる油圧式に変更するなどして騒音や振動を低減させる改良が加えられています。

その意匠は車体の方にも現れていて、分かりやすいのがステム周り。

ステム周り

不快な振動を抑えるためにハンドルホルダーがラバーマウントに変更されました。しかしラバーマウントにはハンドリングのダイレクト感が少し損なわれてしまうデメリットもある。そこでPCXはその分メインフレームのヘッドパイプの剛性を上げる改良を加えて捻じれを抑える事でダイレクト感を損なわないようにしている。

ホイールもインチダウンさせてリアのストローク量を稼ぐことで底付きを防ぎつつ、減ったエアボリュームによる乗り心地の悪化はワイドタイヤにすることでクリアしている。

JK05

この様にとにかくネガな部分を潰して全性能、コンフォートサルーン性能を向上させる改良がアチコチに見て取れるのが五代目PCXというわけです。

しかしながら

「いくら何でもモデルチェンジ早すぎるのでは」

とも感じてる人も多いかと。先代から3年弱しか経ってないんですから。

コンセプトデザイン

これについてはどうもアジア(特にインドネシア等)の方で、永遠のライバルが出したブルーコアエンジンのモデルの攻勢が凄くて、熾烈な争いが起こっているんだとか。当たり前のように半年納車待ちとかなってる日本からすると信じられない話ですね。

以下ちょっと余計な余談ですが、車やバイクのキャッチコピーで

「クラスを超越」

なんて表現が使われているのをよく目にしますが、このPCXは本当にその言葉がピッタリなモデルだなと思います。

というのもPCXは当然ながらコミューターと呼ばれるクラスなんですが、これをコミューターとして使うにはそれなりの覚悟が必要になるから。

KF47アクセサリー

PCXはいま説明してきた通り、フルスペックという言葉ですら足りないほどの性能に加え、見て分かる通り非常に高く洗練されているデザインと質感を兼ね備えているから、狭いところを走って擦ってしまう事はもちろん、雑に乗ろうとして外装を蹴ってしまった時の精神的ダメージは他のコミューターの追随を許さないほどのモノがある。

ついでに言うなら盗難の心配もする必要がある。

JK05

だからコミューターつまり下駄として使うにはそれなりの勇気と覚悟が必要というのはそういう事からなのですが、どうしてそんなネガな事を言うのかといえば、それこそがクラスを超越している証だから。

そんな気遣いをしてしまうというのは、言い換えればそれだけ所有欲を満たしてくれるとも言える。メットイン機能付きの小型コミューターでそうなってしまうモデルなんてそうそう無い。

JK05メーター周り

ただ、クラスを超越していると思う根拠はそんな見た目だけではなく運転している時の感覚もそう。

PCXは決して大きくはないのだけど小さくもない車体とフロント14インチと整ったエアロダイナミクスによって、操安性がクラスにあるまじき高さを持っており、さらに150や160は当然のことながら125でも超低燃費エンジンとは思えないほどパワフルに走る。

JK05サイド

加えてステップスルーではなく跨って乗るタイプだから、運転すると少し大きい原二スクーターというよりも

『小さいビッグスクーター』

という表現が適切のような感覚を覚える。

だから普通ならちょっとキツいと感じたり、止めておこうと考える距離でも楽に走れてしまうモノを持っており、休日もこれで済ませてしまう恐れすらある。

JK05カタログ写真

パーソナルコンフォートサルーンというコンセプトは伊達じゃない。

PCXがクラスを超越していると思える理由でした・・・例えるなら上のクラスを食っちゃうバイク版N-BOXですかね。

【関連車種】

LEADの系譜CYGNUSの系譜TRICITYの系譜Addressの系譜

主要諸元
全長/幅/高 1935/740/1105mm
シート高 764mm
車軸距離 1315mm
車体重量 132kg(装)
{136kg(装)}
[132kg(装)]
燃料消費率 47.4km/L
[51.2km/L]
[45.2km/L]
※WMTCモード値
燃料容量 8.1L
エンジン 水冷4サイクルOHC単気筒
総排気量 124cc
[156cc]
最高出力 12.5ps/8750rpm
+{1.9ps/3000rpm}
[15.8ps/8500rpm]
最高トルク 1.2kg-m/6500rpm
+{0.44kg-m/3000rpm}
[1.5kg-m/8500rpm]
変速機 Vマチック
タイヤサイズ 前110/70-14(50P)
後130/70-13(63P)
バッテリー GTZ8V
{GTZ6V}
[WTZ8VIS]
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
LMAR8L-9
推奨オイル
(トランスミッション含む)
Honda純正ウルトラE1(10W-30)
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量0.9L
交換時0.8L
トランスミッションオイル容量 全容量0.14L
交換時0.12L
Vベルト 23100-K1Y-J11
[23100-K1Z-J11]
車体価格 357,000円(税別)
{448,800円(税別)}
[407,000円(税別)]
※{}内はe:HEV(JK06)
※[]内はPCX160(KF47)
系譜図
2010年
PCX
(JF28)
1502012年
PCX/150
(JF28後期/KF12)
20142014年
PCX/150
(JF56/KF18)
20182018年
PCX/HYBRID/150
(JF81/JF84/KF30)
20202020年
PCX/e:HEV/160
(JK05/JK06/KF47)

X-ADV(RH10) -since 2021-

RH10

「ADVENTURE URBAN TRANSPORTER」

X-ADVとしては二代目となる2021年3月発売のRH10型。

・1kg軽量化された新設計フレーム
・電子制御スロットルの採用
・新型FIを採用
・給排気やバランサーの見直しで4馬力向上と1.4kg軽量化されたエンジン
・メットインスペースが+1Lで23Lに
・ウインカーオートキャンセラー
・エマージェンシーストップシグナル
・新型スクリーン

など2021年モデルのNC750X/RH09と共通の変更が多くなっているのですが、X-ADV/RH10はそれに加えて

・DRLの採用
・HSVCSを搭載
・シート前方を絞って足つき性向上(日本仕様はダウンサスも継続採用)
・4速から6速までをロングレシオ化
・DCTのシフトスケジュール設定を2段階から5段階に
・グラベルが加わった5つのライディングモード
(スポーツ/”グラベル”/スタンダード/レイン/ユーザー)
・メットインスペース内にUSB Type-C(15W/5V,3.0A)
・スマートキーのメインスイッチをノブ式からプッシュ式へ変更
・パーキングブレーキをハンドル右側へ移設
・空いたスペースにフェアリングポケットを新設
・4つの表示パターンを選べる多機能5インチカラーTFTメーター
・純正パニアケースをOPで用意(トップはスマートキー連動型)

など更に様々な改良と追加が入っています。

X-ADVデイタイムランニングライト

DRLというのはデイタイム・ランニング・ランプといって簡単に言うと

「シグネーチャーランプを昼間点灯の代わりにしてもOK」

という2020年末から解禁された制度で、ホンダとしてはこのX-ADVが第一号。

光るロゴ

ちなみにDRL点灯中は目尻にあるロゴも光る遊び心つき。

あともう一つ説明が必要だと思われる新機能が

『HSVCS(Honda Smartphone Voice Control system)』

というやつで、簡単に言うとスマホとヘッドセットのBluetooth接続を補佐するシステム。

HSVCS

スマートフォンとヘッドセットを直接ペアリングするのではなく、間に本体に内蔵されたBluetoothユニットを挟む形で

・ナビ(GoogleMapで矢印をメーター表示)
・電話
・メッセージ送受信(SMS)
・音楽

をスマホを操作せずバイクに乗りながら行えるようになる。※2021/11/28時点ではBluetooth4.2以上のAndroidのみ

これだけだとバイクが介入する必要性があまり無いように感じられるもののそうでなく、これの肝となる部分は左ハンドルに備え付けられたセレクトスイッチ。

HSVCSスイッチ

例えば電話やSMSなどが来るとヘッドセットから

「電話に出るor電話に出ない」

「SMSを読み上げるor読み上げない→音声入力で返信するor返信しない」

という風に二択方式の案内が入り、ハンドルについている物理スイッチの左右でそれぞれYES/NOを選択出来るようになる。説明するまでもないですが、こうすることでグローブをつけたままで確実な操作が出来るようになる。

更にはアプリがフリーズなど応答を停止した場合も自動で再起動を掛けてくれる機能付きだから、スマートフォンはメットインスペースに新たに設けられたUSB Type-Cソケット(15W/5V,3.0A)に繋いで放り込んでおけばOK。

HSVCSスイッチ

より洗礼されたスマートキーも合わさって

「煩わしさを徹底して排除した形」

になったのが今回の一番の変更点じゃないかと。フレームもステア周りの剛性が上げられて走りにも磨きが掛かっているんですけどね。

ところでX-ADVがこれほど贅沢というか高待遇な改良が加えられたのは、弟分などが登場している事からもお分かりの通り大成功を収めたからというのがあります。

X-ADVのフロントとリア

X-ADVは約120万円とNC兄弟の中でも最高値なのですが、それにも関わらず初代モデルはMCN(イギリスのバイク誌)によると、2019年までに世界で約32,000台(ヨーロッパだけで7,500台)のセールスを記録。近年のホンダ車を代表するスマッシュヒットモデルとなりました。

ちなみに免許制度の関係で需要が小さいであろう日本でも年間500台前後の販売となっています。

このヒットの要因が何処にあるのかといえばズバリ

「ビッグスクーターの概念を覆したモデルだったから」

という点に尽きるかと思います。

X-ADVサイドビュー

先代でも少し話しましたがビッグスクーターは

・パワーユニットが埃を被る下側にある
・車重やバネ下が重くなりがち
・メットイン機能でシート高が上がるので大径ホイールが難しい
・同理由でロングストロークのサスペンションなども難しい

といった問題があることから

「オフロードとスクータースタイルを両立させるのは難しい」

というのが現実問題としてあった。だからオンロードとしてコンフォートやスポーツに振るしか無かった。X-ADVはそんな定石を覆した形。

クロスオーバースタイル

とはいえ実際のところNC派生の新型スクーター(X-ADV)を造るプロジェクトが始まった際も、最初からこのSUVスタイルだったわけではなく、インテグラのような従来スタイルの案もあった。

では何故SUVスタイルに方針決定されたのかというと、レジャーでも使えるビッグスクーターがほしいという要望がフランスやイタリアからあったというのも要因なのですが、決定打となったのはプロジェクトリーダーの見崎さんいわく

「こういうバイクがあったら楽しいよね」

というEZ-9に通ずる実にホンダらしい至極単純な理由から。

SUVデザイン

そしてそれに呼応するようにそういうのが大好きなイタリアホンダ(アフツイと同じMaurizio Carbonaraさん)がノリノリでSUVコンセプトデザインを作成。これがX-ADVの始まりになります。

参照:How the Honda X-Adv went from concept to reality|MCN

実際に形にすることが出来たのはX-ADVのパワーユニットがスクーターではなく一般的なオートバイだからというのが大きいというのは先代でも話した通り。

ディメンション

でもX-ADVが絶妙だったのはここから。

というのも見てわかるようにメットイン機構を設け、そのためにリアホイールを15インチにインチダウンするなど、決してスクーターが持つ利便性という武器を捨ててまでオフロード偏重にしているわけではないから。

ラゲッジスペース

「じゃあオフロードっぽいのはただの飾りか」

っていうと決してそうではなく、開発にはホンダのフラッグシップアドベンチャーでありガチンコアドベンチャーでもあるアフリカツインのメンバーも招集されノウハウが注入されました。

しかしそこで目指したものはアフリカツインに迫れるような性能を持つ優れたアドベンチャーというわけではなく

「オフロードを走ってもワクワク出来るエモーショナルを持たせる」

ということでした。

大ヒットとなった要因は間違いなくここで、X-ADVはコンセプトとパフォーマンスそのどちらも大事にしたのは心を躍らせる『ワクワク感』だったわけです。

2021X-ADV

今までにないタフなルックスを見て心が躍る・・・だけじゃない。

乗ってみるとメットインがあってゆったり座れるポジションだから街乗りも楽だけど、あくまでスクーターに擬態した形だから足回りのバタつきや鈍重さが無いからスポーティな走りを楽しめる。

豊富な低速トルク&超低燃費なエンジンとクラッチ不要のATだからストップアンドゴーの多い街乗りに最適だけど、ベルトによる無段階変速ではなくDCTだからエンジン回転数の変化を楽しみながらの走ることも出来る。

そして何よりエンストの心配無用でアクセルワークに集中できるから、躊躇なく道を外れて悪路を楽しく走ることだって可能。

X-ADVフランス仕様

X-ADVはコミューターの要件を満たすプレジャー要素の塊みたいなモデルになっているから、それが結果として

「平日はコミューターとして、休日はアドベンチャーとして使えるバイク」

という評価を獲得し、多くの人をワクワクさせているという話。

コミューターとして使うも、アドベンチャーとして使うもオーナー次第。スポーツ多目的車(Sport Utility Vehicle)というコンセプトに偽りなしですね。

余談・・・

ご存知の方も多いとは思いますが、ホンダは昔からAT(クラッチレス)の可能性を広げるために色んなタイプのAT車を出しては受け入れられず消えていった歴史がある。

そんな歴史を持つだけにX-ADVのヒットは本当に感慨深いものがあるし、同時にそんな歴史があるからこそX-ADVを造れたんだろうなと。

主要諸元
全長/幅/高 2200/940/1340mm
シート高 790mm
車軸距離 1580mm
車体重量 236kg(装)
燃料消費率 27.7km/L
※WMTCモード値
燃料容量 13L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 745cc
最高出力 58ps/6750rpm
最高トルク 7.0kg-m/4750rpm
変速機 電子式6段変速(DCT)
タイヤサイズ 前120/70R17(58H)
後160/60R15(67H)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
FR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量4.0L
交換時3.1L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
スプロケ 前17|後38
チェーン サイズ520|リンク118
車体価格 1,200,000円(税別)
系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)

NC750X(RH09) -since 2021-

2021年式NC750X

「CROSSOVER URBAN TRANSPORTER」

NC750Xとしては三代目となるRH09型。このモデルからSが無くなりXのみとなりました。

まず変更点を上げると

・スタイリングの大幅な刷新
・灯火系のフルLED化
・サスペンションをリセッティング
・吸/排気系を新設計し4馬力アップ
・スロットルボアを拡大
・新型フューエルインジェクション
・スロットルバイワイヤ(電スロ)
・軽量ピストンの採用
・エンジンのバランサー軸径を見直し
・エンジン全体で1.4kgの軽量化
・1.6kg軽量化された新設計フレーム
・全体で計7kgの軽量化
・4つのライディングモード
(スポーツ/スタンダード/レイン/ユーザー)
・新型LCDメーター
・ウインカーオートキャンセラー
・エマージェンシーストップシグナル
・メットインを1L拡大し23Lに
・新開発ハイブリッド表皮シート
・アシスト&スリッパークラッチ※MTモデル
・MT/DCTともにローレシオ化

などなど排気ガスの第4次(EURO5)規制へ対応するとともに、電子制御スロットルを筆頭に結構大掛かりな変更となっています。

フルオプション

今回モデルチェンジの狙いはズバリ走行性能になります。

吸気系の大幅な刷新に加えスロットルボアの2mm拡大、それに電子制御スロットルと軽量ピストンの採用により4馬力アップでご覧の通り。

RH09パワーカーブ

上が大きく伸びているのがわかるかと思います。

しかしこれだけでなく最初にもあげた通り7kgもの大幅なダイエットまでやっており、スポーツ性能を高めたモデルチェンジとなりました。

その意図がよく現れているのがフロントを17インチのままだったこと。これ結構驚き。

400Xと750Xのホイール

というのも弟分というか同系である400Xが一足先にフロントを19インチにしてクロスオーバー要素を強めるモデルチェンジをしていたから。そんなもんだからてっきりNC750Xも19インチになるのかと思ったら17インチをキープ。

ロードタイプとして併売していた750Sと統合する意味合いがあったのか、明らかにオンロードユーズを誇示した形で共有プラットホーム展開の分布図においてセンターに置かれるようなモデルになりました。

LEDヘッドライト

シリーズの看板車種であることを明確にするためか、レイヤード感を増したカウルや分割されたLEDヘッドライト(上がローで下がハイ)などデザインもさらに気合が入ったものに。

RH09カタログ写真

ここで改めてNC750シリーズのコンセプトをおさらいしたいんですが

「フィットのエンジンを半分に割った(参考に開発した)」

という逸話が有名でそのことから”バイク版フィット”とか言われましたが、エンジンだけではなくコンセプトもフィットに通ずるものがあります。

当たり前のように30km/Lを超える燃費だったり、見かけによらず23Lものメットイン容量を備えていたり、毎日乗っても苦じゃない落ち着いた性格(挙動)だったり。まさにフィットがそのままバイクになったような感じ。

750X/RH09壁紙

ただし今回はそのコンセプトは崩さない範囲でアクティブさを加えた形。例えるなら・・・バイク版フィットモデューロXといったところでしょうか。

主要諸元
全長/幅/高 2210/845/1330mm
シート高 800mm
車軸距離 1525mm
[1535mm]
車体重量 214kg(装)
[224kg(装)]
燃料消費率 28.6km/L
※WMTCモード値
燃料容量 14.0L
エンジン 水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒
総排気量 745cc
最高出力 58ps/6750rpm
最高トルク 7.0kg-m/4750rpm
変速機 常時噛合式6段リターン
[電子式6段変速(DCT)]
タイヤサイズ 前120/70R17(58W)
後160/60R17(69W)
バッテリー YTZ12S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
IFR6G-11K
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量 全容量4.0L
交換時3.4L
フィルター交換時3.6L
[全容量4.0L
交換時3.1L
フィルター交換時3.4L (クラッチ含む)
]
スプロケ 前16|後43
[前17|後41]
チェーン サイズ520|リンク114
車体価格

840,000円(税別)
[900,000円(税別)]
※[]内はDCTモデル

系譜図
NC700S2012年
NC700S/X/INTEGRA
(RC61/63/62)
NC750S2014年
NC750S/X/INTEGRA
(RC70/72/71)
2016NC750S2016年
NC750S/X
(RC88/90/89)
XADV2017年
X-ADV
(RC95)
2021NC750X2021年
NC750X
(RH09)
RH102021年
X-ADV
(RH10)

CBR600RR(PC40最終) -since 2020-

2020CBR600RR

「Awaken the Race」

もう終わったものと思っていたらまさかの復活を遂げた本当に本当の最後になるであろうCBR600RRのPC40最終型。

2020CBR600RRデザインスケッチ

最初に変更点をあげると

【外側】
・クラス最小のCD値(空気抵抗係数)
・ダウンフォースを稼ぐウイングレッド(フロント荷重寄与)
・ヘッドライトとウィンカーのLED化
・急制動の検知でハザード点灯
・新設計スイングアーム(3mm延長/-150g/剛性見直し)

【内側】
・ロングリーチプラグによる冷却効率強化
・キャタライザーの大型化(EURO4対応)
・フルカラーTFT液晶メーター
・スロットルバルブの電子化と大径化
・吸気ポートの大径化
・バルブタイミングや材質の変更
・アシストスリッパークラッチ

【その他】
・5軸IMU(慣性計測装置)
・車体姿勢推定型ABS
・5段階の出力モード切替
・9段階のトラクションコントロール
・3段階のウイリー緩和制御
・3段階のエンブレ制御
・3段階の上下対応クイックシフター(※オプション)

という感じで、早い話がフル電子制御化(CBR1000RR/SC77から拝借)とピークパワーを上げる改良が施されました。

パワーカーブ

何気に日本国内としては17年目にして初めての正真正銘フルパワー仕様でもあるんですが、サーキット性能をアップさせることで主にアジアなどの市販車600レースに対応するためとの事。

ウィングレットなど見た目もCBR1000RR-Rの流れを汲む形になったことで

「CBR600RRもトラック至上主義に」

と思いがちなんですが、車体やポジションがほぼ変わっていない事から見てもキープコンセプト。

2020CBR600RRディメンション

コンセプトは何かっていうと前期でも話しましたが

『圧倒的な乗りやすさ』

です。

このPC40型は本当にSSの中で一番乗りやすいと言っても過言じゃないほどそれが極まってる。

分かりやすいのがポジションでCBR600RR/PC40はSSのわりにはかなり前傾姿勢が緩く優しい。SS慣れしている人間からするとツアラーかと錯覚するほどで、街乗りやツーリングにも無理なく使える乗りやすさがある。

ハンドリング

しかしその一方で主戦場であるサーキットを走ってもちゃんとフロントに安心感があってバッチリとハマるから

『乗りやすい=速く走れる』

っていう本当に反則級の優しさを持ってる。

これはホンダのファクトリーマシンである

「乗りやすさこそが速さに繋がる」

というRCV精神から来ているもので、それを忠実に再現しているのがCBR600RR/PC40の特徴であり凄い部分であり最終型でも変わっていない最大の武器。

2020年式CBR600RRデザイン

正直に言うともう新たに起こすほど開発費が掛けられなかったのも大きいんでしょうがCBR600RRの場合はそれで正解だったと思います。センターアップマフラーなんかその象徴かと。

ところで

「なんでもう最終型なの」

って話が気になっている人も多いと思うので時事ネタになりますが話すと、まず第一に2020年10月からの排ガス規制EURO5には対応せず滑り込むように8月末に発売された事が一つ。

2020年式CBR600RR発売日

そしてもう一つがご存知の方も多いと思いますがクラスの人気低迷。

600のスーパースポーツっていうのは日本以外だと欧州がメインターゲットだったんですが

・リーマンショック
・競争激化(過激化)による消費者離れ
・馬力(パワーウェイトレシオ)で区切る免許に統一
・上記に関連して保険も青天井

などによりブームが去ったというより市場が消え去ったに等しいものになったのが要因。

ドイツのバイク保険

スーパーバイク大好きなイギリスですらこのクラスはもう車種あたり年間30台前後しか売れていないんだそう。

この余波で市販600の存在意義である

『世界レースWSS(600ccの市販車世界レース』

も2022年からはトライアンフのDAYTONA765やドゥカティのPanigale V2(955cc)など規格をオーバーするモデルも参戦できるよう柔軟な変更が行われる予定になった。

つまりもう四気筒600の必要性が無くなってきちゃったわけです。

そんなもんだから

・日本メーカー(ライバル)も参戦は2021年まで
・ホンダはベイビーブレードをWSSに参戦させない※ホモロゲ(参戦資格)自体は取ろうと思えば取れる

という話も上がってます。

じゃあ公式でも言われている巨大市場のアジアはどうかというと、まだバイクが日用品の域を出ていない国が多い。

アジアでの600SS

趣味としてバイクを利用する人が増えてきている国としてはインドネシアがあるんだけど

『250cc以上で60%、500cc以上で125%の物品税』

という形になっているので売るに売れない。

唯一可能性があるのが大型二輪の関税が2017年末で撤廃され税金もそんなに高くないタイなんですが、世帯平均月収が3万バーツ(約10万)なのでさすがに160万円のミドルスポーツは厳しい。

サイドビュー

ついでに言うとお金持ち国家アメリカはオフロードとクルーザーがメインなうえ大排気量主義なので600SSは人気がありません。

最後と言えるのはこれらの理由があるからで

「このクラスを買える環境にあるのは日本のライダーだけ(誰も買わないけど)」

というなんとも皮肉な環境なんですが、これは言い換えるとレースベースとしてはアジア需要が第一にあるものの市販車としては

「日本のために出した意味合いが凄く強い」

という事。CBR600RRのフルスペック(フルパワー)仕様を正規で出せなかった歴史もありますしね。

レースベース

なかなか粋な事をするもんだって話ですが、さらに粋なのが最後の最後でこのカラーリングだった事。

ただこれが出た時このトリコロールカラーに二の足を踏む人が結構いましたね。野暮な話ですがそれも分からなくもない話。

というものCBR600RR(特にPC40型)は20~30代と比較的若くトラックとは少し距離をとってるライダーに人気だったこと事から、ホンダも街に溶け込むスタイリッシュなカラーリング展開をしていたから。

トリコロールカラー

この赤基調に青白ラインのトリコロールカラーに違和感を感じる人が出てくるもそういう背景があるから仕方がないという話なんですが、そう思ってる人に是非とも知って欲しいというか聞いて欲しい事があります。

「このパターンのトリコロールカラーは過去にもあった」

という事です。

それがいつかといえば1973年。

ドリームCB750FOURを市販車レースに出すために造られたCB750Racer。

1973年CB750R

初めて世界レースへ打って出た市販スーパースポーツであり、初めてRが付いたCBレーサーであり、初めてトリコロールカラーを纏ったモデル。

明らかにこれに通ずるカラーリングなんです。

これが偶然なのか意図したものなのかは分からない。

2020CBR600RRカタログ

でもどちらにしろ

「最後を飾るのにこれほど相応しいカラーリングはない」

と言えるんじゃないかと。

※補足:HRC/トリコロールの由来と一人の日本人レーサー|バイク豆知識

主要諸元
全長/幅/高 2030/685/1140mm
シート高 820mm
車軸距離 1375mm
車体重量 194kg(装)
燃料消費率 17.3km/L
※WMTCモード値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4バルブ四気筒
総排気量 599cc
最高出力 121ps/14000rpm
最高トルク 6.5kg-m/11500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー YTZ10S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR9C9
推奨オイル Honda純正ウルトラG1(10W-30)
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時2.7L
フィルター交換時2.8L
スプロケ 前16|後41
チェーン サイズ525|リンク112
車体価格 1,460,000円(税別)
系譜図
CBR600RR(PC37前期)

2003年
CBR600RR
(PC37前期)

CBR600RR(PC37後期)2005年
CBR600RR
(PC37後期)
CBR600RR(PC40前期)2007年
CBR600RR
(PC40前期)
CBR600RR(PC40中期)2009年
CBR600RR
(PC40中期)
CBR600RR後期2013年
CBR600RR
(PC40後期)
CBR600RR最終2020年
CBR600RR
(PC40最終)

【関連車種】
YZF-R6の系譜GSX-R600の系譜ZX-6Rの系譜DAYTONA675の系譜

CBR1000RR-R/SP(SC82)-since 2020-

SC82

「“Total Control” for the Track」

大きく生まれ変わり名前もRがもう一つ付いてCBR1000RR-RとなったSC82型。

・RC213V-Sと同じ81mmボア
・新設計のフィンガーフォロワー
・チタンコンロッド
・セミカムギアトレイン
・218馬力
・フレーム新設計
・5軸IMUから6軸IMUへ
・キーレス
・タービュレーター(ウィングレット)
・アクラポビッチマフラー
・bremboリアキャリパー
・ユニットプロリンクの廃止
・電子ステアリングダンパー
・SHOWA製ビッグピストンフォーク&バランスフリーリアサス

【以下はCBR1000RR-R SP】
・上下対応クイックシフター※素モデルはOP
・リチウムイオンバッテリー
・バランス取りピストン&コンロッド
・OHLINS製第2世代電子制御式前後サス
・bremboフロントキャリパー

などなど。

ノーマルが242万円でSPが278.3万円なんですが、初年度の内約は8割がSPで年間計画台数800台も早々に越えたとの事。※二輪車新聞より

そんな何もかも変わって大人気なCBR1000RR-Rですが、まずエンジンについて話すと一言で言うならばビッグボア化と慣性重量の削減によるパワーアップ。

ピストン

MotoGPでも上限に定められているRC213Vと同径の81mmボアになったピストンと合わせて拡大されたバルブ。

そしてもはや説明不要のチタンコンロッドにギアを一枚挟むセミカムギアトレインとフィンガーフォロワー駆動などなど。

セミカムギアトレイン

セミカムギアトレインは上の写真のままでチェーンの長さを抑えることで遠心力を抑える事と、クランクの振動をタイミングギアで受け止めてチェーンを暴れさせないようにする事によるフリクションロスが狙い。

フィンガーフォロワーはZX-10Rでも話したと思うのですが、ザックリ言うと開閉するバルブに付ける部品を減らし軽量化することでより高回転化を可能にするもの。

ただCBR1000RR-R/SC82型の面白いのは他所と違ってそのフィンガーフォロワーのセットが内側に付いている事。

フィンガーフォロワー

逆につけた理由はコンパクト化とのことですがセミカムギアトレインによるカムの逆回転化もあったのかなと。

他にもスターターをクランクではなくクラッチ経由で回す(始動する)ようにした事から、ボアが大きくなったにも関わらずサイズは小さくなっています。

それにしてもこれで日本メーカーのリッターSS全部がフィンガーフォロワーになりましたね。

ただこのSC82のエンジンはもう一つ面白い事があります。それはウォータージャケットが2階建てになったこと。

ビルドインボトムバイパス

ラジエーターで冷やされた冷却水はまず2階側の通路を通って一番熱くなるシリンダー上部の熱を奪うと、今度はホースで戻るのではなく下部を通って戻る。

CBR1000RR-R冷却方式

要するに昔の風呂釜にあった追い焚きの逆バージョンみたいなものですね。

これの狙いは戻りのホースを無くすことやコールドスタート時のブローバイや排ガス対策もだけど

CBR1000RR-Rの温度変化

『エンジン全体の温度を一定に保ち、熱による歪みを減らす』

というのが公式としての狙い。2階建てというよりホースのビルドイン化と言ったほうがいいかな。

これらの変更により217.6馬力という国産トップのスペックを叩き出したわけですね。LPLの石川さんも簡単にこのスペックは抜けないだろうと自信を持って仰っていました。

ただパワーだけではなく車体の方も大きく変わっていて、まずダウンフォースを稼ぐ羽根が付いたのが特徴。これはダウンフォースを稼ぐためにあるもので、恐ろしいのがこれ付けてもなおクラス最小な空気抵抗値となる0.270を叩き出していること。

CBR1000RR-Rのウィングレット

それで思い出したんですが羽根もそうですけど最近この空力に悪そうな逆スラントノーズ顔が流行っているじゃないですか。

これライトの存在感を消すトレンドデザインだと思っていたんですが、従来のすくい上げるように尖ったスラントノーズだと250km/hオーバーなどハイスピード域になると揚力といって持ち上げてしまう流れが発生する事が近年になって分かったんだとか。

CBR1000RR-Rの正面

でもトンネルなど圧縮された空気による衝撃音(空気鉄砲)を防ぐのも大事なのでそう単純にはいかない・・・っていう新幹線の方で小耳に挟んだ話。

ロールなどもあるバイクには当てはまらないかもしれないですね。テキトーな事を言ってすいません。

話を戻すと他にもユニットプロリンクが廃止されました。

ユニットプロリンクというのはスイングアームまでで動作を完結させる技術で詳しくは前のモデルを読んで欲しいんですが、これはメインフレームに自由度を与える(スイングアームからの伝わる負担を軽減する)事が狙い。ただ一方でスイングアームで完結してしまう事からバネ下が重くなってしまう一長一短な部分もあった。

ユニットプロリンクの廃止

そこで今回はサスペンションのアッパー側を一般的なフレーム・・・ではなくエンジン後部に付ける形に変更。

これでメインフレームの自由度を確保しつつバネ下の重量を抑えたんだろうと思います。ちなみにこの手法もRCVと全く同じなんだとか。

最後にオマケといってはなんですがマフラー。

アクラポビッチ

アクラポビッチ社との共同開発品がグレード問わず標準搭載という大盤振る舞い。

エキパイの端には排気バルブが付いており中低速では一般的な複室式マフラーとして、高回転になるとバルブが開いてストレートタイプになる形。

CBR1000RRの排気フロー

公式資料が少し間違っているようなので勝手ながら継ぎ接ぎしてわかりやすくした図がこれ。右の赤い蓋が排気バルブです。

低回転域では大排気量特有の少し籠り気味な低音が効いた音で、一定回転数になると社外のストレートチタンみたいな乾いた音になるという事ですね。

アクラポビッチ

それでなんでこんな立派なマフラーを付けたのかという話なんですがオートバイ2020/1月号インタビューによると

「変なマフラーを付けてほしくなかったから」

という考えからだそう。

恐らくエンジンが超々高回転型で初めてピークパワーを発揮するものになり中低速のトルクが無くなっているため、シンプルなストレートタイプが主流である社外マフラーだと抜けが良すぎて背圧を稼げず乗れたものじゃなくなるからかと。もちろん倫理的な意味合いもあるんでしょうけどね。

変更点が多すぎるのでもう最後にしますがラムエアをどストレートで持ってくるためにキーシリンダーを廃止しキーレス化しスイッチ周りも一新。

CBR1000RR-Rのハンドルスイッチ

これで制御を選択するわけですが

MODE:3ライディングモード

P:パワーコントロール1~5

T:トルクコントロール0~9

W:ウィリーコントロール0~3

EB:エンブレコントロール1~3

S:電サスコントロールA1~3|M1~3(SPのみ)

CBR1000RR-Rのメーター

・レーススタートモード(6000~9000rpm制御)

・電子ステダンコントロール1~3

・クイックシフター上下共に1~3(SPのみでノーマルはOP)

・ABSコントロール1~2

などなど選択肢が多すぎ。まあモード選ぶだけで後は勝手にやってくれるから細かいことを気にしないなら良いんですが。

【余計な余談】

ここまでの変更点や名前にRがもう一つ追加された事や

『“Total Control” for the Track』

と従来のコンセプトにTrackの文字が付いた事からも分かる通りCBR1000RR-Rは完璧なトラック志向になりました。なんでこうなったかというと

「レースが強く関係している」

と思われます。

というのも日本国内のスーパースポーツレースである全日本ロードレース選手権というのは

・JSB1000(改造範囲が大きい市販車リッタークラス)

・J-GP2(改造範囲が大きい市販車600クラス)

・ST600(範囲が狭い市販車600クラス)

・J-GP3(4st250ccレーサーで行われるクラス)

と別れていました。下の図はそれを怒られそうなくらい簡易に表したものです。

CBR1000RR-Rの温度変化

それで国内トップレースにあたるJSB1000はワークスが犇めき合う何でもあり状態で鈴鹿八耐を見据えたものになっていたんですが、一方でその600版にあたるJ-GP2というクラスは

『ロードレース世界選手権Moto2(中排気量版MotoGP)』

に繋っていた。いまMotoGPで活躍中の中上さんもこのサクセスロードを歩んでいます。

中上さん

しかしホンダが2018年をもってMoto2へのエンジン(CBR600RRの直列四気筒)供給の契約が終わり、代わりにトライアンフの三気筒765ccという日本には存在しない規格になりました。

これによりJ-GP2とMoto2の関係性が切れていまい

「J-GP2で勝ってMoto2へ」

というサクセスロードが無くなってしまったんですね。ワイルドカード(推薦枠)の資格も失ってしまいました。

CBR1000RR-Rの温度変化

つまりJ-GP2が世界と繋がっていないレースになってしまったというわけ。

これはいかんという事で日本のレースを取り仕切るMFJが2019年をもってJ-GP2を廃止し、2020年から新たに

『ST1000』

というレースを開催する事に。文字からも読み取れるように市販の1000SSをベースに改造範囲を狭くして窓口を広げたクラス。

ST1000

そしてレギュレーションをアジア版のASB1000や鈴鹿八耐のSST(スーパーストッククラス)と合わせ、ECUなど簡易な変更だけで相互に参戦できる体制にしたんです。

ここで重要となるのが

「ストックレースはノーマルの地力が勝敗を大きく左右する」

という事・・・そう、つまりCBR1000RR-R/SC82はこの新しくなった局面を狙って出された面があるという事。

ただもう一つあるというか、どちらかというとこっちのほうが大きい理由。

ホンダは2019年までJSB1000にワークス参戦したのですが、2020年から舞台をその世界版であるSBKに移すことになったんです。

SBKにワークス参戦

ホンダが世界最速市販車を決めるSBKにワークス参戦するのは実に18年ぶり。VTR1000SPでキレて撤退したとき以来の事です。

そして世界レースのSBKは実は国内レースのJSB1000よりレギュレーション(改造範囲)が厳しい。

だからこそ世界最速を死守する事に全力でまさかのデザインそのままというセールス度外視な緑色のやつとか、それ市販車じゃなくてMotoGPマシンだろと言いたくなる赤色のやつとか値段が飛び抜けたマシンが誕生しているわけですが、それと同じ様にこのCBR1000RR-R/SC82というモデルも

CBR1000RR-R SP

『自分達が世界最速を勝ち取るために造ったマシン』

というわけ。まさにマシンだけでなく状況もVTR1000SPの再来なんです。

このレースの話を読んで

「RR-Rは凄いから興味あるけどレース話には興味ないっす」

って思った人も多いと思います・・・でも敢えてしました。なんでってこれ恐らく一般人には乗れたもんじゃないから。

CBR1000RR-R俯瞰

このモデルは公道メインで稀にサーキット程度のエンジョイ層が楽しめるように造ってない。ラップタイムの短縮やレースで勝つことなど上を目指して走っている

『スリックタイヤしか履かない様なガチ勢』

が楽しめるように造ってる。

実際にそういう人たちは長々と話してきたこれらの事にも詳しいから発売を待たずに予約という形で既に取り合いを起こしてるようですし、開発総責任者の石川さんも初心者向きではないと各紙のインタビューで正直に答えています。

壁紙

RRではなくRR-Rとなった理由もここにあると個人的に考えます。

CBR1000RR-RはCBR1000RRの進化版というよりも

「RRのRaceモデル」

と言ったほうが合ってるかと。

なんかSC82の紹介で先代SC77や先々代SC59を担ぎ出して悪く言ってる記事をチラホラ見かけて悲しくなったのですが、一般人なら間違いなくあっちの方が乗りやすいし楽しいし速い。

あっちのほうがRRらしいとさえ思います。それくらいこのCBR1000RR-R/SC82は従来のコンセプトから大きく外れている。

CBR1000RR-Rのポジション

比較的優しいポジションも売りだったものがここまでコンパクトになっている事を見れば伝わるかと。シートもとペラッペラで+10mmも高くなったので跨って絶句する人も居ると思う。

そしてこれも見て欲しい。

CBR1000RR-Rパワーカーブ

戦闘力が増したのは公道はおろかサーキットでも相当な手慣れじゃないと活かせない域だけでそれ以下の領域では先代よりも低いんです。まるで2stみたいな急勾配のパワーカーブ。

ただ誤解しないで欲しいんですが別に

「RR-Rはダメだ」

とか

「初心者は買うな」

とか言いたいわけじゃないですよ。これらの思惑、バックグラウンドを知ってほしいという事。

CBR1000RR-R SP

「これは凄いRRという単純なモノじゃないんだよ、18年ぶりのホンダのワガママなんだよ」

という話。

しつこいですがこれ本当に最後のワークスマシンだったVTR1000SP

『自分達が勝つためだけに造ったマシン』

の再来。

ファイヤーブレード

もともとCBR1000RRはそんなVTR1000SPの後釜として2004年に据えられたんですが、ホンダはCBR1000RRでの世界レースへのワークス参戦は過去一度もしませんでした。

これはVTR1000SPの役割が終わった際にV4のRVFに戻らなかった事にも繋っていて、HRCでVTR1000SPWのLPLだった鈴木さんいわく

「V4は構造が難解でプライベーターが付いてこれない」

という背景があったから。※RACERS41より

つまりV4のRVFではなくL4のCBR1000RRを後釜に据えて自分達は沈黙を守り続けていたのは

「プライベーターなどレースの裾を広げる役割を担わせたマシンだったから」

というわけ・・・だったんですが、今回それが18年目にして遂に破られた。

ホンダCBR1000RR-R

自分達が勝つために造った従来のコンセプトも裾の広さもヘッタクレもない

『初めての大人げないRR』

になったんです。

EVの流れが迫っている昨今、1959年のCB92から続いてきたガソリンエンジンによるスーパーバイクレースにホンダが本気で挑むのはこれが最後になる可能性も十二分にある。もしかすると最後の花を飾るつもりなのかもしれない。

そう考えると乗らず飾ってレースを応援という選択肢も大いに”アリ”かと。

主要諸元
全長/幅/高 2100/745/1140mm
シート高 830mm
車軸距離 1455mm
車体重量 201kg(装)
燃料消費率 16.0km/L
※WMTCモード値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 999cc
最高出力 218ps/14500rpm
最高トルク 11.5kg-m/12500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後200/55ZR17(78W)
バッテリー YTZ7S
[HY85S]
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
SILMAR10C95
推奨オイル Honda純正 ウルトラG1
SAE10W-30
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.0L
交換時2.8L
フィルター交換時3.0L
スプロケ 前16|後43
チェーン サイズ525|リンク
車体価格 2,420,000円(税込)
[2,783,000円(税込)]
※[]内はSP
系譜図
cbr750rr1990年
CBR750RR
Prototype
SC281992年
CBR900RR
(SC28前期)
sc28-21994年
CBR900RR
(SC28後期)
sc331996年
CBR900RR
(SC33前期)
sc33-21998年
CBR900RR
(SC33後期)
sc442000年
CBR929RR
(SC44)
sc502002年
CBR954RR
(SC50)
sc572004年
CBR1000RR
(SC57前期)
SC57後期2006年
CBR1000RR
(SC57後期)
sc592008年
CBR1000RR
(SC59前期)
sc59後期2012年
CBR1000RR/SP
(SC59後期)
SC772017年
CBR1000RR/SP1/SP2
(SC77)
SC822020年
CBR1000RR/SP
(SC82)

【関連車種】
VTR1000F/SPの系譜YZF-R1の系譜GSX-R1000の系譜ZX-10Rの系譜SuperBikeの系譜

スーパーカブ C125(JA58)-since 2021-

JA58

「New Cub is Your Cub」

2021年9月にモデルチェンジし二代目となったC125/JA58型。

・エンジンをロングストローク化
・圧縮比を9.3から10.0にアップ
・馬力が0.1psアップ
・燃費がWMTCモード値で2.7km/L向上
・ABSを標準装備
・新排ガス規制に対応
・前後サスペンションの見直し
・スマートキーの形状変更
・グレー、ブラックを廃止し新色のレッドを追加

などとなっています。

JA58赤色

主な変更点はエンジンなんですが、これは端的にいうとそれまでのWAVE125iからGROMにベースを変更した事が理由。

もともと親戚みたいな関係だったのに加え、横型エンジンだからこそ可能だった合わせ技のような形。さすが4mini界を支えるエンジン。

見た目の方は先代から大きく変わっておらず、分かりやすいのはいま話したエンジン変更によるケースカバーの造形と、フロントフォークにABSのために付けられたスピードセンサーを隠すためのカバーが付いている事。そしてタンデムステップそしてスマートキーの形状が変更された事くらい。

JA48とJA58

まあそもそも歴代スーパーカブがそうだったように、カブらしさを大きく変える事は不可能に近いですからね。

ということで余談ですが

「じゃあそのカブらしさとは何か」

っていう話を少し。

初代スーパーカブのコンセプトを端的に表すと

「親しみやすく使い勝手の良い乗り物」

でした。

これがカブらしさの原点であり、スーパーカブの歴史はこのコンセプトを磨き上げるモデルチェンジの繰り返しともいえます。

例えばあるスーパーカブ開発者は低燃費性を上げる改良を行いました。

これは

「いつガソリンを入れたか忘れさせるのがスーパーカブだ」

という面白い表現というか考えから。

ではC125の開発で大事にされたカブらしさが何かというと

JA58のコンセプト

「自然と綺麗な姿勢になるように」

だったそうです。言われてみれば確かにスーパーカブってそうですよね。

ナイセスト ピープル

ちなみにこの広告は今回追加された赤モデルの元ネタ、アメリカ向けスーパーカブことCA100。※郵政カブじゃないですよ

ただそれでもスーパーカブの基本形は変わっていない。これが何故かといえばスーパーカブの形っていうのは、完成が高くて変えようがないからなんですね。

これはスーパーカブの系譜でも書いたのですが、長い歴史で色んな開発者が携わる中で、みな自分の色を出そうと模索するけど結局出来なかった歴史でもある。

変えないようにしたわけではないです。スーパーカブは既に我々の想像を遥かに超える高いレベルの域にあったから、ホンダの技術者をもってしても変えられなかったんです。

象徴的な一つエピソードを紹介すると2005年の東京モーターショーに出されたE4-01というモデル。

ナイセスト ピープル

一見するとスーパーカブと何の関係も無いように思えますがそうでもない。

というもの、このモデルは二輪の頂であるWGP(NSR500)そしてMotoGP(RC211V)の開発指揮を取り続けた吉村さんという方が、HRCを離れホンダ社員として最後に

「究極的に使い勝手の良い世界一のバイク」

として考案し開発されたモデル。

『Elegance』『Excitement』『Enjoyment』『Easy』という四要素を備えている事からE4-01と名づけられたんですが、吉村氏はこれを造りあげたときにショックを受けた。

「これスーパーカブとレイアウトが同じだ」

と気づいたからです。#Racers13|三栄書房より

MotoGPを牽引してきた超大御所ですら、人を豊かにする世界一のバイクをゼロから造ってみたらスーパーカブになってしまった。スーパーカブを超える事は出来なかったというお話。

JA58壁紙

この形は懐かしいとかオシャレとかネオクラシックとか色んな魅力が詰まっているのは事実ですが、あくまでもそれは肉付けであって骨格は結局のところ”スーパーカブ”である事にある。

つまりスーパーカブC125っていうのは、ただ振り返って開発されたモデルではなく、振り返ったうえでもう一度前を見据えて開発された

『ホンダイズムのフラッグシップ』

といえるのではないかと。

主要諸元
全長/幅/高 1915/720/1000mm
シート高 780mm
車軸距離 1245mm
車体重量 110kg(装)
燃料消費率 66.1km/L
※WMTCモード値
燃料容量 3.7L
エンジン 空冷4サイクルOHC単気筒
総排気量 123cc
最高出力 9.8ps/7500rpm
最高トルク 1.0kg-m/6250rpm
変速機 常時噛合式4速リターン
タイヤサイズ 前70/90-17M/C(38P)
後80/90-17M/C(50P)
バッテリー YTZ5S
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CPR7EA-9
推奨オイル Honda純正ウルトラG1
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量1.0L
交換時0.8L
フィルター交換時0.85L
スプロケ 前14|後35
チェーン サイズ420|リンク106
車体価格 400,000円(税別)
系譜図
JA482019年
SuperCub C125
(JA48)
JA552020年
CT125・HunterCub
(JA55)
JA582021年
SuperCub C125
(JA58)