「GET CLOSER」
5年ぶりのフルモデルチェンジとなったS型と、ABSレスのレースベースR型。
ブイブイ言わせていたSBKのレギュレーションが
「ライド・バイ・ワイヤ(完全電スロ)の標準装備」
に変更された事を機にモデルチェンジとなったわけです。
目立つ変更点はトラコンやウィリーコントロールなどBOSCHとの共同開発IMU。
更にBrembo製マスターシリンダーにモノブロックキャリパーM50、シフトアップ用のクイックシフター。
そして
「他社の10年先を行くサスペンション」
と太鼓判を押すSHOWAとの共同開発により誕生したバランスフリーフロントフォーク(以下BFF)です。
仕組みが分からずとも、ただならぬ雰囲気を持っているのを感じるのではないんでしょうか。
これだけ買おうと思ったら100万円近くします。
ちなみにリアサスも同様にバランスフリーなわけですが・・・じゃあ
「バランスフリーって何がフリーなの」
と思っている人も多いと思います。
SHOWAの説明ではこうなっています。
なるほど・・・全然分かりませんね。
もっとシンプルかつ大胆に割愛して説明します。
まず大前提としてダンパーには抵抗のためにオイルが入っています。矢印がオイルの流れだと思って下さい。
この抵抗が無いとスプリングがずっと上下に動くことになり収束しません。
いつまでもフワフワするサスがヘタってるとか抜けてるとか言われるのは、このオイルによる働きが上手くいってないからですね。
そしてこれがバランスフリー。何やら複雑になってますね。
通常サスが沈み込むとCOMP室(受け側)が高圧になり、TEN室(与える側)は低圧になります。
こうなる事に問題はないんですが、問題はこの後の戻る時にあります。
想像がつくと思いますが、戻る時の勢いは押す時よりも強力で勢いよく戻ります。
そうすると勢い余って戻り過ぎてしまい、若干バウンドのような挙動が出てしまう。これを”サスの遊び”と言うそうです。
そこでもう一度バランスフリーを見てみましょう。
バランスフリーは伸縮によって圧が掛かって通り抜けるオイルを単に逃すのではなく、反対側の後ろへ戻してるわけです。
こうすることで伸側と縮側の圧を平衡に保つ事ができ、サスの遊びが無くなるというわけ。
平衡(バランス)を保つ(フリー)からバランスフリーサスです。
さて・・・カワサキは2013年にWSBチャンピオンに輝いた後も、手を抜くことなく2015年から2017年まで三連覇を達成。
その結果、あまりにも強すぎるとしてレギュレーションが改定されました。
2017年まで15200rpmだった四気筒の回転数上限が14700rpmまでに下げられたんですが、カワサキは強すぎるので更に-600rpmというハンデが課せられました。
2017年に登場したZX-10RR(ZX1000Z)は、これらレースに対応の為に新たに出されたホモロゲーションモデルです。
簡単に言うと公式チューニングが施された特別エンジンを積んだ一人乗り専用モデルで、マルケジーニホイールまで装備。
2,532,600円で限定500台でワークスも2018年からはこのZX-10RRベースなんですが、恐ろしいことに今(※2018年R2時点)のところはハンデを物ともせずポイントリーダーに立っています。
このままだと途中から更に-250rpmのハンデが加わります。
ちなみに三連覇を果たしたのはジョナサン・レイという方なんですが、なんと2018年の鈴鹿8耐にTEAM GREEN(実質ワークス)での参戦が決定。
前人未到の四連覇を目論むヤマハ(ヤマハファクトリーレーシング)と、それを阻止せんと重い腰を上げたホンダ(HRC)のワークス対決かと思いきや、カワサキもスーパーバイク世界チャンピオンをぶつけてZXR-7以来となる優勝を目指すという・・・もうこれは見るしか無いですね。
話をZX-10Rに戻します。
2018年にはRRとはまた違うZX-10R SE/ZX1002Cという2,856,600円もするSPモデルも登場。
これはシフトアップダウン両対応のクイックシフターとマルケジーニに加えSHOWAの電子制御サス(EERA)を装備したモデル。
電子制御バランスフリーサスペンションというだけでも十二分に凄いんですが、この電子制御が凄い点は2つあります。
一つはIMUによる予測型ではなく、センサー内蔵でストローク量を実際に監視している実測型だということ。
そしてもう一つは制御がサーボモーターではなく、2倍の速さで制御出来るソレノイドバルブ制御だということ。
つまり正真正銘の、私達が思う理想の電子制御サスペンションに最も近いモデルだという事。
そしてそんなサスを付けた第一号がこのZX-10R SEなんです。
KAWASAKIとSHOWAって本当にベストパートナーなんでしょう・・・SHOWAってHONDAのグループ会社なんですけどね。
最後に・・・
このR/S型を先代からのマイナーチェンジ程度に考えている人が多いんじゃないかと思います。
そう思われてしまう最大の理由は見た目が大きく変わっていないからでしょう・・・でもそれは違いますよ。
プロジェクトリーダーの松田さんがこう仰ってました。
「トラックで良いバイクというのは、ストリートでも良いバイクであると考えています。
だから”トラック最速”をコンセプトにラップタイム短縮に繋がる所『エンジン・電子制御・サス・ブレーキ』に予算を全て投じました。」
「デザインが変わってないのはデザインに予算を割かなかったからです。」
売るためのモデルチェンジではなく、改良するためのモデルチェンジ。重工らしい渋さですね。
主要諸元
全長/幅/高 |
2090/740/1145mm |
シート高 |
835mm |
車軸距離 |
1440mm |
車体重量 |
206kg(装) |
燃料消費率 |
– |
燃料容量 |
17.0L |
エンジン |
水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 |
998cc |
最高出力 |
200ps/13000rpm |
最高トルク |
11.6kg-m/11500rpm |
変速機 |
常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ |
前120/70ZR17(58W) 後190/55ZR17(75W) |
バッテリー |
YTZ10S |
プラグ |
SILMAR9B9 |
推奨オイル |
カワサキ純正オイルR4/S4 または MA適合品SAE10W-40 |
オイル容量 |
全容量3.7L 交換時2.9L フィルター交換時3.3L |
スプロケ |
前17|後39 |
チェーン |
サイズ525|リンク114※16年モデル [サイズ525|リンク112]※17年モデル |
車体価格 |
2,045,000円(税別) ※スペックはマレーシア仕様 |
系譜図