YZF-R1(4XV)-since 1998-

1998R1

「ツイスティロード最速」

ここで登場するのが初代YZF-R1の4XV・・・あれほどこだわっていたゆとりは何処かへ消え去りました。

キッカケはご先祖様にあたるYZF1000Rのサンダーエースから走行に不要な部品を全て取っ払い軽くして走ってみたらとてつもないライトウェイトスーパースポーツになった事がきっかけ。

コンセプトスケッチ

初代YZF-R1の開発主査は三輪さんというYZF750SP(レーサーマシン)を作っていたレース出身の方なのですが、その三輪さんが

「レーシングテクノロジーを全て注ぎ込んだ」

というだけあって本当に凄い作りをしています。

YZF-R1エンジン

レーサーであるYZR500の公道仕様を作るのが目標として掲げられていただけあり、5バルブDOHC四気筒998cc150馬力という数字でだけでも凄いのですが、本当に凄いのは車体のディメンション。

ロングスイングアーム

構造に詳しくない人でもこの車体構成を見たら少しイビツな雰囲気を感じるのでは無いでしょうか。

参考までにFZR1000と比べてみましょう。

FZR1000ディメンション
R1ディメンション

エンジンに注目してみてください。明らかにエンジンが寄せ上がってるのが分かると思います。これはシャフトレイアウトを変えてるから。

「シャフトって何」的な人に簡単に説明しておくと、バイクというのは基本的に

・ピストン運動を回転運動に変えるクランクシャフト

・その回転をクラッチを通して受け取るメインシャフト

・ギアを入れてスプロケを回すドライブシャフト(カウンターシャフト)

の文字通り三本柱の構成となっています。これを主要三軸といいます。

主要三軸レイアウト

青が従来のレイアウトで赤がR1のレイアウトです・・・分かるかな。

R1はメインシャフトを持ち上げ、メインとカウンターを2階建てのようにしてエンジンの全長を大きく縮め、かわりにスイングアームとっても長く取った。

4XV

当時520mm前後がメジャーだったのに対し60mmも長い580mm。

全幅の4割以上をスイングアームが占めるという人間で言えば足長モデル体型の様なディメンション。

4XV壁紙

R1が「ツイスティロード最速」と銘打ったのも、世界で評価された走行性能もこの部分がキモ。

要するにただ速いだけ、軽いだけではなく、懐がとっても広いスーパースポーツだったからコレほどまでに大絶賛されたんです。

今となってはこの手法は現代のスポーツバイクにおいては欠かせない必然的な手法にまでなりましたね。

4XVフレーム

ただ調べてみて意外だったのは、このR1のディメンション、実はこのエンジン有りきの開発ではなくフレーム開発陣の要望から、つまりフレーム有りきの設計だったということ。

それにエンジン開発陣が応える形になり最初はTDMに近いエンジンレイアウトで進めていた。

ヤマハTDM850

するとフレームサイドから厳しいダメ出しをされてボツに。

その後もケツを叩かれまくった結果、上で出したようなGPマシン譲りの超コンパクト三角形レイアウトという極端なクランクレイアウトのエンジンが出来上がったというわけ。

ただR1が騒がれた理由としてもう一つ挙げないといけないのが顔。

R1顔

今でこそ珍しくもなんとも無いツリ目デュアルライトだけど、当時は攻撃的過ぎるデザインとして一目惚れする人が続出。だからR1が出た後の数年はどのメーカーもみんな同じような顔になりました。

初代YZF-R1は性能で驚かせ、ルックスでも驚かせた正に才色兼備スーパースポーツというわけです。

主要諸元
全長/幅/高 2035/695/1095mm
シート高 815mm
車軸距離 1395mm
車体重量 177kg(乾)
燃料消費率
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 998cc
最高出力 150ps/10000rpm
最高トルク 11.0kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後190/50ZR17(73W)
バッテリー GT12B-4
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
または
U27ESR-N
推奨オイル SAE 20W40~10W30
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.6L
交換時2.7L
フィルター交換時2.9L
スプロケ 前16|リア43
チェーン サイズ530|リンク114
車体価格

系譜図

fz750 1985年
FZ750
(1FM)
fzr1000 1987年
FZR1000
(3GM/3LK/3LG)
yzf1000r 1996年
YZF1000R Thunder Ace
(4SV)
4xv 1998年
YZF-R1
(4XV)
5jj 2000年
YZF-R1
(5JJ)
5pw 2002年
YZF-R1
(5PW)
5vy 2004年
YZF-R1
(5VY前期)
5vy後期 2006年
YZF-R1
(5VY後期/4B1)
4C8 2007年
YZF-R1
(4C8)
14b 2009年
YZF-R1
(14B~1KB/45B)
2012YZF-R1 2012年
YZF-R1
(45B/1KB/2SG)
2015YZF-R1 2015年
YZF-R1/M
(2CR/2KS/BX4)
2019YZF-R1 2019年
YZF-R1/M
(B3L/4BS)
系譜図
fz750 1985年
FZ750
(1FM)
fzr1000 1987年
FZR1000
(3GM/3LK/3LG)
yzf1000r 1996年
YZF1000R Thunder Ace
(4SV)
4xv 1998年
YZF-R1
(4XV)
5jj 2000年
YZF-R1
(5JJ)
5pw 2002年
YZF-R1
(5PW)
5vy 2004年
YZF-R1
(5VY前期)
5vy後期 2006年
YZF-R1
(5VY後期/4B1)
4C8 2007年
YZF-R1
(4C8)
14b 2009年
YZF-R1
(14B~1KB/45B)
2012YZF-R1 2012年
YZF-R1
(45B/1KB/2SG)
2015YZF-R1 2015年
YZF-R1/M
(2CR/2KS/BX4)
2019YZF-R1 2019年
YZF-R1/M
(B3L/4BS)

YZF1000R Thunder Ace(4SV)-since 1996-

YZF1000R

「Supersport machines for the real world」

バードじゃないよエースだよ・・・なFZR1000の後継モデルとして発表されたYZF1000R THUNDER ACE。

ファイヤーブレードの影響なのかここに来て何故かペットネーム付きに。

ちなみに全く知られていませんが、当時は弟分のYZF600Rサンダーキャットと合わせてTHUNDERシリーズと呼ばれていました。

YZF1000Rサンダーエース

「YZF」という当時のワークスマシンの名が付いている事からも分かる通り、第二世代GENESISエンジンにYZF750Rのフレームをベースとした新設計デルタボックスを積んだフラグシップスポーツモデル。

※当初これをYZFの初出と書いていましたが、YZFの名が初めてつけられたのはYZF750SP/R(1993年)でした。大変失礼しました。

雷帝

145馬力に198kgと申し分のないスペックは持っているんだけど、FZR1000と同じく

「ビッグバイクにはゆとりが必要」

という考えをサンダーエースでもブレることなく貫いている。

サンダーエースリア

だから日本ではFZRと同じく刺激が足りないと人気は今ひとつだったんだけど、欧州では逆で

「This is サイコーにちょうどいい SuperSports」

と評価は高かった。

サンダーエース

98年にR1が発売された後も03年まで細々と販売されたんだけど、R1のインパクトが強すぎたせいか日本ではあまり知られていない。

最近になって日本でもそういう需要が増えているためか、再評価されつつありますね。

主要諸元
全長/幅/高 2085/740/1175mm
シート高 815mm
車軸距離 1430mm
車体重量 224kg(装)
燃料消費率
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 1002cc
最高出力 145ps/10000rpm
最高トルク 11.0kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前120/70R17
後180/55R17
バッテリー YTX14-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DR8EA
または
X24ESR-U
推奨オイル SAE 10W/30~20W/50
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量3.5L
交換時3.0L
フィルター交換時3.2L
スプロケ 前17|リア46
チェーン サイズ532|リンク110
車体価格
系譜図
fz750 1985年
FZ750
(1FM)
fzr1000 1987年
FZR1000
(3GM/3LK/3LG)
yzf1000r 1996年
YZF1000R Thunder Ace
(4SV)
4xv 1998年
YZF-R1
(4XV)
5jj 2000年
YZF-R1
(5JJ)
5pw 2002年
YZF-R1
(5PW)
5vy 2004年
YZF-R1
(5VY前期)
5vy後期 2006年
YZF-R1
(5VY後期/4B1)
4C8 2007年
YZF-R1
(4C8)
14b 2009年
YZF-R1
(14B~1KB/45B)
2012YZF-R1 2012年
YZF-R1
(45B/1KB/2SG)
2015YZF-R1 2015年
YZF-R1/M
(2CR/2KS/BX4)
2019YZF-R1 2019年
YZF-R1/M
(B3L/4BS)

XJR1300(5EA前期) -since 1998-

初期型XJR1300

「21世紀のビッグバイクスタンダード」

低速トルクの厚みを増すためにボアを2mm拡大し1250ccまでアップしたXJR1300こと5EA型。

一番の変更点はこのエンジンで、新たにメッキシリンダーと鍛造ピストンを採用することで摺動性を改善。要するに真円率が高くなって上下するピストンの摩擦が改善したわけです。

XJR1300エンジン

これはもともとYZFなどスーパースポーツ系のために編み出された技術なんですが

「空冷でもオイル消費量も減らせるメリットがある」

という事から採用された背景があります。

水冷の為に生まれた新技術を空冷に持ってくるっていうのは何とも面白い話ですね。

これらの変更からXJR1300は自主規制上限の100馬力を発揮するパワフルなモノになりました。

XJR1300カットモデル

他にもメーターも電気式になったりサスのセッティングなども変わっているんですが、もう一つ大きな変更点がタイヤサイズ。

【130/70/R17・170/60R17】から【120/70R17・180/55】

と現代のメジャーとなるサイズに変更し操縦性が向上。

初期型XJR1300

もちろんブレンボとオーリンズのセットも健在です。

ちなみに1200時代からそうですが、これはbremboやOhlinsが設計してヤマハがライセンス生産しているモノ。

厳密に言うとBremboは住友電工(現アドヴィックス)、Ohlinsは創輝(現ヤマハモーターパワープロダクツ)が生産。

だからヤマンボとかヤマリンズとか言われていますが偽物とかラベルだけとかいうわけではありません。

XJR1300初期型ホワイト

ところで最初にも言った通りエンジンの排気量が上がった事でナンバリングが変わったんですが、実はその割には先代XJR1200から大きく変わっていない。

それは見た目もそうだし性格もそう。チーム一丸となって造ったバイクだから余計な変更は要らないという事なんでしょうね。

主要諸元
全長/幅/高 2175/780/1115mm
シート高 775mm
車軸距離 1500mm
車体重量 230kg(乾)
燃料消費率 25.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 21.0L
エンジン 空冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 1250cc
最高出力 100ps/8000rpm
最高トルク 10.0kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後180/55ZR17(73W)
バッテリー GT14B-4
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.2L
交換時3.0L
フィルター交換時3.35L
スプロケ 前17|後38
チェーン サイズ530|リンク110
車体価格 930,000円(税別)
系譜図
XS11001978年
XS1100/E/S/SF
(2H7~9)
XJ650スペシャル1980年
XJ650SPECIAL
(4L6)
XJ7501981年
XJ750A/E/D
(5G8/5G9/29R/22N)
XJ9001983年
XJ900/S/F
(31A/58L/4BB)
XJR1200前期1994年
XJR1200/R
(4KG)
XJR1300前期1998年
XJR1300
(5EA前期)
XJR1300中期2001年
XJR1300
(5EA後期|5UX前期)
現行XJR13002006年
XJR1300/C
(5UX後期|2PN)

XJR1200/R(4KG) -since 1994-

XJR1200初期

「ワイルドダイナミックパフォーマンス」

ヤマハのビッグネイキッドとして登場したXJR1200/4KG型。

欧州向けFJ1200のエンジンをベースに給排気を見直し、カムカバーやシリンダーブロックなどを魅せる部分を新設計。

そのエンジンを王道のダブルクレードルフレームに積み、リアサスには贅沢にもオーリンズを標準採用。

YAMAHA XJR1200

ところでXJR1200が誕生した背景には90年頃から始まっていたネイキッドブームが大型二輪免許の規制緩和を機に大型にも波及した事が大きな要因。

その波に乗ったのがZEPHYR1100やCB1000SFなどですね。

だからヤマハも対抗馬としてXJR1200を出したんですが、出たのは1994年と最後発の類でした。

4KGカタログ

何故これほど遅れたのかというと

「どう造ればいいのか分からなかった」

というのが大きな理由だったよう。

これまでヤマハと言えばスポーツ性や快適性など比較的数値や言葉で表すことが出来る性能を高めたビッグバイクを造り好評だった。

それに対しビッグネイキッドに求められるものは何かと言えば

『ビッグネイキッドらしい味』

という非常に難しい性能。

そこでヤマハ、宮地開発責任者が何をしたのかというと『ビッグネイキッドらしい味』を明確にする事でした。

そのために用いられたのが

ヒューマノニクス

『ヒューマノニクス』

と銘打たれた手法。

多くのライダーからサンプリングを取り

・トルクに厚みがある

・加速に安心感がある

・ハンドリングが鋭い

・低速なバンク中も安定している

といった

『良い要素だけど数値化が難しい要素』

を明確に数値化し曖昧さを排除する事にしたんです。これに凄く時間がかかった。

ちなみにこれはXJR400とこのXJR1200で初めて取り入れられた手法。

何故これが大事なのかというと、ユーザーに満足してもらう為という単純な事ではなく、開発チームの目標を明確にするためでもあったんです。

XJR1200カタログ写真

そうして各々が思い描くビッグネイキッド像を擦り合わせて造るのではなく、明確にビジュアル化されたビッグネイキッド像を立て目指すことでチームが一丸となれた。

後はもうチームみんなで走り込んでは調整の繰り返し。

そうして誕生したのが迷いも曖昧さもないヤマハのビッグネイキッドXJR1200というわけです。

XJR1200パンフレット

ちなみにこれは余談ですが、皆で走って調整してまた皆で走って調整して目標を繰り返し・・・というチーム全員がテストライダーという事もあって開発がとっても楽しいバイクだったそう。

楽しすぎて悪ノリしたのかこんなコンセプトまで造っています。

XJR1200レーサー

なぜ楽しかったのかと言えば

「アウトバーンを考慮しなくてよかったから」

です。

欧州で売る場合は平均時速180kmで路面もボコボコなアウトバーンをキッチリ真っ直ぐ走れる様にフレームやパワーを補強する必要がある。

アウトバーン

そうするとどうしてもそれ以下の速度域でのフィーリングが犠牲になる。

しかしビッグネイキッドのXJR1200は開発段階から日本専用と決まっていた。だからアウトバーンを考慮せず、時速50~100km域でのフィーリングを主体に考える事が出来た。

そしてその域というのはチーム全員が使える、チーム全員が感じ取れる域だったから開発が楽しかったというわけ。

その狙いが伝わったのかXJR1200はデビューと同時にビッグネイキッドの話題を独り占めするほどの人気となりました。

デビュー後も1995年にBremboキャリパーを採用、1996年にはリアサスのスプリングを黄色にするマイナーチェンジが入っています。

XJR1200R

ちなみに上の写真は同年に出たフレームマウントの大型カウル付きのちょっとレアなXJR1200R。

主要諸元
全長/幅/高 2175/765/1120mm
[2175/765/1255mm]
シート高 780mm
車軸距離 1500mm
車体重量 232kg(乾)
[233kg(乾)]
燃料消費率 25.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 21.0L
エンジン 空冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 1188cc
最高出力 97ps/8000rpm
最高トルク 9.3kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前130/70ZR17
後170/60ZR17
バッテリー YTX14-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.2L
交換時3.0L
フィルター交換時3.35L
スプロケ 前17|後38
チェーン サイズ532|リンク110
車体価格 930,000円(税別)
[950,000円(税別)]
※[]内はXJR1200R
系譜図
XS11001978年
XS1100/E/S/SF
(2H7~9)
XJ650スペシャル1980年
XJ650SPECIAL
(4L6)
XJ7501981年
XJ750A/E/D
(5G8/5G9/29R/22N)
XJ9001983年
XJ900/S/F
(31A/58L/4BB)
XJR1200前期1994年
XJR1200/R
(4KG)
XJR1300前期1998年
XJR1300
(5EA前期)
XJR1300中期2001年
XJR1300
(5EA後期|5UX前期)
現行XJR13002006年
XJR1300/C
(5UX後期|2PN)

XJR400R(4HM中期)-since 1998-

二代目XJR400R

「Fight or Sleep!」

Rモデルに一本化された第二世代のXJR400Rの4HM9~型。

・燃料タンクが+2Lされて20L

・フォークガード

・多機能メーター

・跳ね上がったテールカウル

・マルチリフレクターテールライト

・新設計シート

などなど。

1995XJR400R

改良は多岐にわたりました。

ちなみにシルバー塗装エンジンも特徴なんですが、これは最初の数年だけで再びブラック化。

さて少し話が逸れますが、XJR400はライバル車に対しサスが硬めに設定されています。

これは早い話がXJR400Rがスポーツネイキッドだから。

先のページでも話したと思いますが、XJR400Rは”わざと”トルクの谷を設けている。これはスポーツフィーリングを高めるため。

そしてその最高のスポーツフィーリングを活かすため、最高のスポーツフィーリングを台無しにしない為にサスペンションが高めに設定されているんです。

当然ながら回さない走り方だと乗り心地が硬い、そのかわり回して走るとそれがピタッとハマる。

それを空冷エンジンの街乗りメインのネイキッドで、発売前のテストでも硬いと言われたにも関わらず譲らず貫いたわけです。

主要諸元
全長/幅/高 2085/735/1090mm
シート高 760mm
車軸距離 1435mm
車体重量 201kg(装)
燃料消費率 41.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 20.0L
エンジン 空冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 399cc
最高出力 53ps/11000rpm
最高トルク 3.6kg-m/9500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70-17(54H)
後150/70-17(69H)
バッテリー GTX9-BS
または
TYX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.8L
交換時2.0L
フィルター交換時2.4L
スプロケ 前15|後45
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 599,000円(税別)
系譜図
xj4001980年
XJ400
(5M8)
XJ400Z1981年
XJ400D/Z/SP
(5L8/33M)
XJR4001993年
XJR400/S/R/R2
(4HM)
XJR400R1998年
XJR400R
(4HM中期)
XJR400R最終2001年
XJR400R
(4HM最終期)

XJR400/S/R/R2(4HM)-since 1993-

初代XJR400

「The Fighting Spirit」

1990年後になるとレーサーレプリカブームに疲弊する人たちが多くなり、レーサーとは無縁のスタンダートバイク(いわゆるネイキッド)の時代が到来。

そうなると当然ながら各社がネイキッドを出すのがセオリーでXJR400もそんな時代によって生まれた一台。

ヤマハXJR400

なんだけど、実はXJR400の開発自体はゼファーが登場する半年前から始まってた。

だからとっても開発が大変だったと開発責任者だった猪崎さんが仰っていました。

何が大変ってゼファーというネイキッドの正解が誕生してしまったから。

初期型XJR400カタログ

「ゼファーみたいなバイクを作れ」

という風潮に社内もなってしまったわけです。

だから

「ゼファーを作らないといけないのか」

と悩んだものの結局XJR400の目指す道はそっちじゃないと考え、ベンチマークにしたのはゼファーではなくCB-1やBandit400。

要するにスポーツネイキッドの道を選んだ。

XJR400カタログ

その結果として生まれたのが空冷スポーツネイキッドのXJR400。

深く刻まれたフィンが特徴の新設計空冷エンジンに挟角64度のDOHC4バルブ。そのおかげで馬力は自主規制値いっぱいの53馬力。

味付けもXJ400のコンセプトに沿ってて、空冷にも関わらずクロスレシオミッションで”回してナンボ”な味付け。

しかもわざとパワーに谷を作り二次曲線的な加速をする特性、そしてサスもΦ41の極太フォーク。空冷スポーツを空冷らしく楽しめるように造り込まれてる。

XJR400S

翌年の1994年には後にXJRのトレードマークとなるオーリンズのリアサスが付いたSモデルを限定4,000台で販売。

更に1995年にはピストン&コンロッド、イグナイター(点火制御)やマフラーなどの見直しが入り、それと同時にRモデルが登場。

オーリンズサスのスプリングも黄色になり、ブレーキにはブレンボが奢られた上位モデルです。

XJR400R2

その勢いは留まること無く1996年にはXJR400RIIも登場。

Rモデルに加えビキニカウルと多機能デジタルメーター、更に新設計の低反発シートであるワイラックスシート(この年から全車)を装備しシート高も10mmダウン。

XJR400R2カタログ

ただあんまり人気が無かった事と、後から丸目にする人が多かった事からまず見ることはないかと・・・ライバルだったCB400SF ver.Rと同じですね。

まあそれはさておき、XJR400は削りだしトップブリッジやオーリンズなどヤマハらしい質の高さと、拳をイメージしたとされるたくましいタンクや大きなヘッドを持った空冷エンジンなどヤマハらしからぬ無骨さが人気を呼びました。

1993XJR400カタログ

正に『平成のペケジェイ』だったわけですね。

主要諸元
全長/幅/高 2075/735/1080mm
[2075/735/1090mm]
シート高 770mm
{760mm}
車軸距離 1435mm
車体重量 178kg(乾)
燃料消費率 41.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 18.0L
エンジン 空冷4サイクルDOHC四気筒
総排気量 399cc
最高出力 53ps/11000rpm
最高トルク 3.6kg-m/9500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70-17(54H)
後150/70-17(69H)
バッテリー GTX9-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
CR9E
推奨オイル ヤマルーブ
プレミアム/スポーツ/スタンダードプラス
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量2.8L
交換時2.0L
フィルター交換時2.4L
スプロケ 前15|後45
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 579,000円(税別)
{609,000円(税別)}
※{}内はXJR400RII
系譜図
xj4001980年
XJ400
(5M8)
XJ400Z1981年
XJ400D/Z/SP
(5L8/33M)
XJR4001993年
XJR400/S/R/R2
(4HM)
XJR400R1998年
XJR400R
(4HM中期)
XJR400R最終2001年
XJR400R
(4HM最終期)

TZR250R/RS/SP/SPR(3XV) -since 1991-

三代目TZR250

「2CYCLE SUPER SPORTS」

TZR250の最終形にして非常に評価の高いTZR250Rとプロダクションレースに標準を合わせた限定500台のTZR250R・SP。

前年にあたる1990年にワークス復帰していたGP250においてYZR250で優勝してからの発売というドンピシャなタイミングで登場。

・完全新設計V型二気筒
・ブラックコーティングアルミデルタボックスフレーム
・新設計スイングアーム
・クラス最軽量の126kg
・メッキシリンダー
・2ウェイYPVS
・カセット式ミッション
・ワイドリムタイヤ
・専用シリンダー/ピストン/クランク(SP)
・大型キャブレター(SP)
・大型ラジエーター(SP)
・6速クロスミッション(SP)
・伸圧減衰調整付き前後サスペンション(SP)

などなど先代の原型を留めないほどのフルモデルチェンジ内容。

中でも特徴的なのが一足先に市販レーサーTZ250がYZR250同様Vツインになった事でがそうなった様に、TZR250Rも遂に90°Vツインになったこと。

3XVのエンジン

「2st250のレーサーレプリカってどうしてみんなVツインなの。」

と思う人がいるかもしれないので超簡単に説明すると、2stは吸気(掃気)バルブと排気バルブの役割をピストンが担っているため、吸排気口のバイパスを燃焼室に沿うように設置しないといけない。

この状況でパワーを出そうと思ったら、その口も目いっぱい大きくして抵抗が生まれないようにする必要があるんですが、並列では隣のシリンダーとスペースの兼ね合い問題が出てくる。スペースを確保するためにシリンダーピッチ(シリンダーの間隔)を大きくしたらエンジンが大きくなってしまうし、クランクシャフトも伸びるので重量とフリクションロスが増えるなど弊害が出てしまう。

TZR250Rのクランク

「だったらシリンダー横並びを止めればいい」

という一つの結論に至ったのが90度Vツインという話。ただ2stの都合上、クランクピンを共有しない並列二気筒を捩じったような形で揺する振動が発生するため、TZR250R/3XVがそれを消すための偶力バランサーが付いています。

そんな事情からTZR250RもVツイン化したのですが、車体の方も新設計のデルタボックスフレームで全体的にコンパクト化。

TZR250Rフレーム

レーサーTZ250と同じく50%を超える前輪荷重とクラス最長58mmとなるロングスイングアームでハンドリング性能を大幅に向上。

ちなみにデザインも凝っていてアッパーカウルとテールカウルも尖らせるなど、デザインにも非常に定評があるモデルでした。

TZR250Rサイド

左から見たときに揃っていないチャンバーが非常にカッコいい。

それで肝心の速さはどうだったのかというと・・・速かったというか完成度がずば抜けていた。Vツイン処女作とは思えないほど速く、バランサーを搭載している事もあってか、レーサーレプリカとして非常に珍しくライダーを急かすことなく忠実かつ軽やかに熟す正に名馬と呼ぶべき素行の良さが評判でした。

もちろんレース界隈でも

「速い・素行がいい・TZ250部品が使える」

三拍子揃っていた事もあって大活躍。

TZR250R SP

SPレースは言うに及ばず、ノービスの頂であった鈴鹿四時間耐久レースでも6度の優勝を果たす快挙を成し遂げました。ちなみに2st勢として最後に優勝したのもこのTZR250R/3XVです。

まさに遅れてやってきたヤマハの真打ちでした・・・が、出るのが遅かったというか、この頃になると市場がレーサーレプリカに飽きていたので、レースをやっていた人たちは強烈に覚えている一方、一般ライダーはあまり印象を持っていない人が多い。

晩節を汚したとかならまだしも性能・戦績共に十分なのに昔も今も

『雑誌:1KT/2XT≒3MA>3XV』
『世間:3MA≒1KT/2XT>3XV』

という悲しい比率なのが基本で、涙を流す3XVオーナーが多い。

ただ、これについては当時のヤマハも覚悟の上だったとは思います。3XVが出る前からすでにレーサーレプリカブームは去りつつあったわけですから。それでもヤマハが全力投球で3XVを出してきたのは、1959年のYD-1からの始まりを見ればわかる通り、2stクオータースポーツというクラスを牽引してきたの自分たちであるという自負があったからではないかと。

TZR250SPR

TZR250R/3XVはそんなプライドの最後、本当に本当の最後を飾るにふさわしい集大成モデルでした。

TZR250R/3XVのモデルチェンジ概要

※初年度はTZR250R/SP(3XV1/3XV2)
※年末に先行販売されるSPについて翌年モデルに入れて紹介します

TZR250R/RS/SP(3XV4/3XV8/3XV5) -Since1992-

この代からレース向けモデルについてSPとは別に、ノーマルモデルから乾式クラッチと特別ペイントをした上記写真のRS(Racing Spirit:限定1000台)が追加されました。

TZR250Rカタログ

・キャブおよびCDI制御を変更しレスポンス向上
・スロットル同調機能を一つのディストリビューターに一元化
・フロントフォークのメタルをクラウニング加工
・Xリング採用の新型リアサスペンション
・板厚を2mmアップさせ剛性を上げた新設計スイングアーム
・調整幅を拡大したブレーキレバー
・ライトの常時点灯化およびハザードランプの採用
・上記に伴い低速での発電量を向上
・乾式クラッチ(RSのみ)

TZR250R/RS/SP(3XV6/3XV9/3XV7) -Since1993-

93年の1月から発売された40馬力の自主規制モデル。規制されたモデルという事が先行しがちですが、多岐に渡った改良により非常に評価が高かった。

1993TZR250R

ちなみに昨年末にSP(500台限定)が先行販売され、年明けにRS(1000台限定)そしてRという形で一か月毎に発売された経緯があるためモデルイヤーがややこしくなっています。

・TZ250と同型式のシリンダー
・フラットタイプのYPVS
・キャブレターをリセッティング
・オイル消費量を減らすデューティ(電子)制御オイルポンプ
・チャンバーを3段膨張式に変更し騒音削減
・乾式クラッチ(RS・SP)
・新型フロントフォーク(SP)
・新型リアサスペンション(SP)
・新型スイングアーム(SP)
・クイックファスナー(SP)

TZR250RS/SP(3XVA/3XVB) -Since1994-

94TZR250RS/3XV1

標準のRモデルがなくなり乾式クラッチを装備したRSとレースを想定したSPの2モデル展開になった94年型。

変更はカラーリングのみで、この年式だけフレームがシルバーなのが特徴。

TZR250SPR(3XVC) -Since1995-

TZR250Rの最終モデルでRSとSPの2モデル展開をやめ、SPをベースに公道からレースまで視野に入れた良いとこ取りコスパモデル。このモデルをもって1999年に販売終了。

・中低速トルクを向上させるトリプルYPVS
・新型キャブレター
・ワイドレシオ化(RSと同レシオ)
・新設計アルミデルタボックスフレーム
・サスペンションをリセッティングし調整幅を25段階に

主要諸元
全長/幅/高 1960/680/1075mm
シート高 780mm
車軸距離 1340mm
車体重量 91:126kg(乾)
91SP:128kg(乾)
93・SP:126kg(乾)
95SPR:132kg(乾)
燃料消費率 91:35.0km/L
91SP:34.0km/L
95SPR:35km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 15.0L
エンジン 水冷2サイクル二気筒
総排気量 249cc
最高出力 45ps/9500rpm
93以降:40ps/9000rpm
最高トルク 3.8kg-m/8000rpm
93以降:3.5kg-m/7500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70R17(54H)
後150/60R17(66H)
バッテリー GT4B-5
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BR8ECM/BR9ECM/BR10ECM
推奨オイル オートルーブ
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
1.5L
スプロケ 前14|後37
チェーン サイズ520|リンク110
車体価格 91:629,000円(税別)
91SP:829,000円(税別)
93:659,000円(税別)
93RS:699,000円(税別)
93SP:890,000円(税別
95SPR:780,000円(税別)
系譜図
YD1 1957年
YDシリーズ
YDS-1 1959年
250S/YDSシリーズ
dx250 1970年
DX250/PRO
(280/352)
RD250 1973年
RD250
(361~3N4)
4L3 1980年
RZ250/R/RR
(4L3/29L/1AR/1XG/3HM/51L)
1KT 1985年
TZR250
(1KT/2XT)
3MA 1989年
TZR250/SP
(3MA)
R1-Z 1990年
R1-Z
(3XC)
3XV 1991年
TZR250R/SP/RS/SPR
(3XV)

【関連車種】
NSR250Rの系譜250Γの系譜KR-1の系譜

R1-Z(3XC)-since 1990-

R1-Z

「初めに人ありき」

1990年の6月に登場したTZR250のネイキッド版・・・と簡単に片付ける事は出来ないR1-Z(ズィー)/3XC型。

元々ヤマハはレースだけでなくストリートでのスポーツも想定していました。前に消化したRZ250なども正にそこを睨んだモデル。

ヤマハR1-Z

しかし世の中が求めるスポーツがサーキットや峠で真価を発揮するレーサーレプリカに変わっていった。

このギャップに対しヤマハ自身も悩んだものの

「その意志はRZ250の方で貫けばいい」

という事でレーサーレプリカTZR250を”別のモデルとして”出す判断をします。TZR250が出た後もRZ250を併売していた理由はここにあるわけですが、そのRZ250ももう10年近くになろうとしていた事から企画の牧野さんが

「TZRが進化しているように、RZも進化すべきだ」

と考えてプロジェクトを主導。

3XCカタログ写真

・クロスしている専用トラスフレーム
・トランスミッションを中低速重視のクロスレシオ化
・少し絞った26mmフラットバルブ式キャブ
・楕円パイプによるトラス構造のスイングアーム
・前後17インチにインナーチューブ38mmの大径Fフォーク
・イニシャル及びリザーバータンク付きリアサスペンション
・特徴的なカーボンサイレンサー

などなど、TZR250/2XT(厳密に言うとTDR250)のパワフルエンジンを市街地とワインディングで如何に楽しむかを念頭に置かれた車体構成なんですが、非常に面白いのがプロジェクトリーダーを務められた竹本が一番大事にしたのが

「数値云々ではなく乗ってみてどうか」

設計の数値よりも乗った時の感覚、感性を最優先して開発したという事。

R1-Zブラック

そしてもう一つ大事にしたのが所有感。乗って楽しいだけでなく、見ても楽しめる所有感にも注力。

分かりやすいのが純正とは思えない片側二本出しカーボンサイレンサーや、上でも言った綺麗なX字のパイプフレーム。

R1-Zカタログ写真

いま見ても通用するというか秀でたデザインですが、特に注目してほしいのがR1-Zのデザインを際立たさせているフレームパイプ結合部分の丸くなっている部分。

R1-Zポスター

実はこれ鍛造なんですが、ただの鍛造ではなく冷間鍛造といって冷えた状態(常温)で叩いて成形したもの。表面が綺麗に仕上がるという理由だけで採用というこだわりっぷり。

当時の資料から言葉を借りると、ヤマハがユーザーに感じてほしかったのはレプリカでもテイスティでもない。

「2st特有のスパルタンとフリーダム」

このSENSEを具現化したモデルがR1-Zでした。

R1-Zパンフレット写真

エントリークラスでもあった250にしてはあまりにも玄人感があったためか、当時はどちらかというと敬遠されたモデルだったんですが、時代が追いついたのか近年になり再評価されて人気がうなぎ登りになりました。

主要諸元
全長/幅/高 2005/700/1040mm
シート高 775mm
車軸距離 1380mm
車体重量 133kg(乾)
燃料消費率 34.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 16.0L
エンジン 水冷2サイクル二気筒
総排気量 249cc
最高出力 45ps/9500rpm
最高トルク 3.7kg-m/8500rpm
変速機 常時噛合式6速リターン
タイヤサイズ 前110/70-17(54H)
後140/70-17(66H)
バッテリー GT4L-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
BR8ES/BR9ES
推奨オイル オートルーブ
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
1.2L
スプロケ 前14|後45
チェーン サイズ520|リンク114
車体価格 489,000円(税別)
系譜図
YD1 1957年
YDシリーズ
YDS-1 1959年
250S/YDSシリーズ
dx250 1970年
DX250/PRO
(280/352)
RD250 1973年
RD250
(361~3N4)
4L3 1980年
RZ250/R/RR
(4L3/29L/1AR/1XG/3HM/51L)
1KT 1985年
TZR250
(1KT/2XT)
3MA 1989年
TZR250/SP
(3MA)
R1-Z 1990年
R1-Z
(3XC)
3XV 1991年
TZR250R/SP/RS/SPR
(3XV)

TDM850(4EP/3VD)-since 1991-

TDM850

「RUGGED(インテリジェンス力)」

一度見たら忘れないであろう非常にユニークな姿をしているTDM850。

先に紹介した初代スッテネで併売という形が取られましたんですが、このバイクが開発されるキッカケとなったものまたスッテネ。

TDM850国内仕様

どうキッカケになったのかというと、スッテネはラリーレプリカなだけありシチュエーションを選ばず走れる事からで欧州で好評を得ていたのですが一般ユーザーの用途を調査してみてるとオンロード寄りな用途の人が多い事が分かった。

そこで

「もっとオンロード重視のスッテネを」

となって造られたのがこのTDM850なんです。

TDM850デザインコンセプト

デザインは日本のGKとGD(欧州GKの子会社)で行われたものの

・オンロード感を推したい日本側

・デュアルパーパス感を推したい欧州側

でモメにモメた末に欧州がメインマーケットという事から日本側が折れた経緯があります。

もしかしたらそれがTRX850に繋がったのかもしれないですね。

TDM850線画

そんなTDM850なんですがスッテネをベースにしつつも849ccまで排気量を拡大する事で力強いトルクを獲得しミッションもワイドレシオ化。

またフレームも剛性の高いスチール製デルタボックスフレームが奢られました。

TDM850black

これにより軽やかな吹け上がりかつ低速からモリモリ来るトルクでオンロードなら向かうところ敵なしのストリートラリー

『キング・オブ・ザ・ワインディングロード』

として欧州にて爆発的なヒットに。

しかし・・・日本でTDM850というと見たこと無い人はおろか知らない人も結構いるかと。

それも無理もない話でTDM850は文化圏の違いが招く

TDM850カタログ写真

「欧州では人気だったけど日本では不人気だった」

というバイクあるあるの典型的な車種。

原因としてはデザインやコンセントもあるんですがもう一つはエンジン。

TDM850は日本国内におけるツインの課題を浮き彫りにし、ヤマハの二気筒に対する姿勢に多大な影響を与えたバイクでもあるんです。

後期モデルと関係する話なので詳しくはそちらで。

ちなみに併売されていたXTZ750SUPER TÉNÉRÉはTDM850の登場からしばらくして後継もなく生産終了となりました。

ヤマハTDM850

その理由は

「みんなTDM850の方を買うようになったから」

だったりします。狙いはドンピシャだったわけですね。

主要諸元
全長/幅/高 2175/780/1260mm
シート高 795mm
車軸距離 1475mm
車体重量 199kg(乾)
燃料消費率 30.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 18.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 849cc
最高出力 72ps/7500rpm
[77ps/7500rpm]
最高トルク 7.8kg-m/6000rpm
[7.6kg-m/6000rpm]
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/80-18(58H)
後150/70-17(69H)
バッテリー GT12B-4
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル SAE20W-40
SAE10W-30
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.2L
交換時3.8L
フィルター交換時3.9L
スプロケ 前16|リア44
チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 750,000円(税込)
※スペックは国内仕様(4EP)
※[]内はEU仕様(3VD)
系譜図
XTZ750 1989年
XTZ750SUPER TÉNÉRÉ
(3LD/3TD/3VA)
TDM850前期 1991年
TDM850
(4EP/3VD)
XTZ850R 1995年
XTZ850R/TRX
RDM850後期 1996年
TDM850
(5GG/4XT)
TDM900 2002年
TDM900/A
(5PS/2B0)
XT1200z 2010年
XT1200Z
SUPER TÉNÉRÉ
(23P)
XT1200ze 2014年
XT1200ZE
SUPER TÉNÉRÉ
(2BS/2KB)

TDM850(5GG/4TX)-since 1996-

TDM850後期

「オーガニックバランス」

欧州における年間販売台数8000台超というはや欧州ヤマハの顔にまでなったTDM850の後期モデルとなる欧州仕様4TXと国内仕様5GG。

最初に変更点を上げると

・ライトを始め外見が一新

・ラジアルタイヤの採用

・フロントディメンションの変更

・80馬力にアップ

・タンク20Lアップ

などなど中身も外見も更にキリッとパワーアップしました。

4xtカタログ写真

ただ特筆すべき変更点はエンジンで、一年前に登場したTRX850譲りの270度位相クランクに変更。

これによって『キング・オブ・ザ・ワインディングロード』と言われていた評価に加え不等間隔燃焼によるパルス感がプラス。

オールラウンドスポーツとしてもう非の打ち所がないバイクになったんですが・・・少し野暮な話をします。

実はこのエンジンの変更にTDM850のエンジンを造ったチームはエンジン開発リーダーの小栗さんを筆頭に難色を示していました。

TDM850はもともと360度クランク(単気筒を2つ並べた形)で安定したトルクを出すうえに吹け上がりも軽くしておりビュンビュン回せる元気の良さを持ったパラツインだった。

TDM850黒

360度クランクの二気筒は最初に誕生した二気筒という事もありWやボンネビルなどレトロ系のエンジンというのが当たり前だった中でビュンビュン回るタイプ。

「ありそうで無い面白い自信作のエンジン」

という背景があったので難色を示したんです・・・では何故変わったのとかというと残念な事に欧州と同じくらい大型バイクが売れる日本での評価が良くなかったんです。

TDM850後期サイド

欧州で高い評価を獲得した一方で日本でTDM850の発売前評価試験を行ったところ

「なんでこんなビュンビュン回るエンジンなの」

と疑問視する声が社内から多く聞かれた、というかそういう声しか上がってこなかった。

この大きな原因は先に話した通り豊かなトルクを生む360度クランクつまり等間隔燃焼が原因。

TDM850クランクアングル

安定したトルクを生む360度クランクというのは等間隔で燃焼する。

等間隔で軽やかに吹け上がる・・・・そう、フィーリングが直四に近いんです。

この結果TDM850は社内評価で

「直四みたい」

という”酷評”をされた。

「直四みたいなんて良いじゃん」

と思う方もいるかも知れない。

でもそう思うのは”直四好き”だから。メインターゲットである二気筒が好きな層の多くは違う。

「今までに無い面白いツインだね」

とは捉えてくれない。ドコドコと言わせて走る

「スポーツツインらしさ(味)が無い」

と捉えられてしまうです。実際ヤマハの社内評価でもそうだった。

この事に自信作だったエンジン設計の小栗さんは衝撃を受けたそう。※別モNo.319より

TDM850リア

360度からパルス感が分かりやすい270度へ変更という本来ならばフルモデルチェンジ級の変更をマイナーチェンジで行ったのはこの

「スポーツツインらしいツインしか認めてもらえない」

という市場背景が少なからずあったから。

この一件でヤマハは

『ツインに対する市場の固定観念』

を思い知る事となり、その後のツインスポーツの方向性に多大な影響を残す事になりました。

もちろん決してTRX850(270度クランク)のエンジンになった事が悪いと言いたいのではありません。

TRX850のエンジンが好評で一本化する意味合いもあったとは思います。実際このエンジンも同じ小栗さんが納得して開発したモノです。

ただ、直列のクランク角やV型のシリンダー角など一見すると多様な形があり認められている二気筒も、スポーツやクルーザーなど乗せるエンジンの形がセオリー化しているカテゴリという枠に収めた時に

TDM850後期カタログ写真

「枠を越える多様性を認めてもらえるか」

というと話が変わってくるという話。

そしてこの問題にヤマハが直面し葛藤したがTDM850・・・という話でした。

主要諸元
全長/幅/高 2165/790/1285mm
シート高 805mm
車軸距離 1475mm
車体重量 232kg(装)
燃料消費率 30.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 20.0L
エンジン 水冷4サイクルDOHC2気筒
総排気量 849cc
最高出力 80ps/7500rpm
最高トルク 8.2kg-m/6000rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前110/80-ZR18
後150/70-ZR17
バッテリー GT12B-4
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
DPR8EA-9
または
X24EPR-U9
推奨オイル
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.2L
交換時3.8L
フィルター交換時3.9L
スプロケ

前17|リア42
[前16|リア43※99年以降の4TX]

チェーン サイズ525|リンク114
車体価格 798,000円(税別)
※スペックは国内仕様(5GG)
系譜図
XTZ750 1989年
XTZ750SUPER TÉNÉRÉ
(3LD/3TD/3VA)
TDM850前期 1991年
TDM850
(4EP/3VD)
XTZ850R 1995年
XTZ850R/TRX
RDM850後期 1996年
TDM850
(5GG/4XT)
TDM900 2002年
TDM900/A
(5PS/2B0)
XT1200z 2010年
XT1200Z
SUPER TÉNÉRÉ
(23P)
XT1200ze 2014年
XT1200ZE
SUPER TÉNÉRÉ
(2BS/2KB)