嘲笑される伝説 GS1200SS (GV78A) -since 2002-

GS1200SS

「蘇るレーシングスピリッツ」

スズキが2002年に発売したGS1200SS。21世紀のバイクとは思えない古めかしさを持っていますね。

このバイクが誕生したのは96年に一人のデザイナーが

「最近のバイクはスマートすぎる。もっと鉄っぽいバイクを、単車と呼ばれていた時代の無骨さを」

と思い自分がカッコいい思う”バイク像”を描いたスケッチが発端。それに周囲が共感し、形にしていくというCB1000などと同じ大前提のマーケティングをすっ飛ばした特殊な生まれ方をしています。

そしてデザイナーやエンジニアが思う鉄っぽく単車らしさあふれる古き良きマシンとして一致した答えが第一回鈴鹿耐久レース(通称8耐)でスズキとPOPヨシムラがタッグを組んで作り上げ優勝したGS1000。

1978GS1000R

GS1200SSが4バルブなのにGSXはなくGSとなっているのもこのバイクをイメージさせるため。

そんなこんなで自己満足に近いまま完成されたGS1200SSだったわけですが、上が知らぬ事なので当然ながら

「じゃあ大量生産して市販化」

とはならない。むしろ怒られる様な事。そこである奇策に出ます・・・それは

「新しいビッグバイク作ったから見に来て」

と社内広報で告知。するとその告知を見た社内の仲間がゾロゾロと押し寄せ、予想外の姿に衝撃を受ける人が相次ぎ、その事を小耳に挟んだ同僚がまた見に行くという口コミのような形で社内に拡散。

当初の予想だった50人を遥かに上回る300人超の人が押し寄せる反響を呼び、その結果を上に報告することで市販化への道を手に入れたというドラマのような経緯があるわけです。

GV78Aカタログ

そして満を持して発表されたGS1200SSですが、翌年に赤/黒、三年目には青/白とレジェンドカラーを相次いで投入という健闘も虚しくわずか3年で生産終了。漫画ばくおんなどで取り上げられた事もあるようなので知名度はあるかもしれませんね。

GS1200SSレジェンドカラー

ただこのバイクを不人気車と言うのは正しいですが、失敗したバイクというのはちょっと違います。

元々このバイクはデザイナーやエンジニアが

「自分が欲しいから造ったバイク」

売れるなんて最初から思っていませんでした。社内アンケートでも「好き20%:嫌い80%」と圧倒的な不人気。ただ反響はあったから自分たちと同じ考えを持った一部の物好きが買ってくれればいいという考えだったわけです。

構造的な事はINAZUMA1200がベースで特に目新しい機能も無いし、油冷については先に紹介したGSX1400で書いたのであんまり書くことがないんですが、じゃあ何故このバイクを選んだのかというとGS1200SSに対する声をSNSなどで検索した事がキッカケ。

GS1200SSカタログ写真

「GS1200SS=変な形のバイク」

という声が非常に多かったから。

しかしいま説明したようにGS1200SSというバイクはGS1000という第一回鈴鹿8時間耐久ロードレースでワークス体制で挑んできた国内ライバルメーカー全てに勝ち優勝した伝説マシンのレプリカなんです。

1980GS1000R

大きな大きなカウルは風を捌くため、アップライトなポジションは前傾姿勢の負担を減らすため当時なりに考えられた機能美なわけで、それを復刻しストリートバイクとして仕立てた形。

それなのに何故そんなに形を笑うのかといえば・・・歴史を知らない人からですね。8耐で起こした偉業という歴史を知ればGS1200SSの形がそんなネタにされる様なものでは無いことが分かってもらえると思います。

男のバイク

ただ別に知らずに笑っている事を批判したいわけでは無いですし、恥じることでも無いです・・・本題というか問題は

「何故だれも知らない(覚えていない)のか、何故だれも教えてあげないのか」

という事。

8耐というのは日本で最も大規模、最も人気のあるバイクの祭典。1980年からはル・マン24時間などと同じ世界耐久選手権の一つに昇格しました。ちなみにその年の8耐優勝マシンもGS1000Rです。

GS1000Rヨシムラ

「スズキといえばヨシムラ」

漠然とこう考えている人は多いと思いますが、それもこの8耐が始まりであり、今も良好な関係を築けているもこの事から。

更に言うなればスズキが世界耐久選手権に力を入れるようになったものこの頃からで、1980年に発足した世界耐久選手権チームSERT(スズキ・エンデュランス・レーシング・チーム)は2016年までに16回ものワールドチャンピオンに輝いています。

スズキSERT

パートナー企業は今も昔ももちろんヨシムラ。

話を8耐に戻すと1978年の第一回から年々動員数を増やし、ピークを迎えた1990年には決勝日だけで16万人を動員するほどにまで成長。これは今でいえば若者に人気なコミックマーケットの一日あたりの動員数とほぼ同等です。

しかしその頃をピークに(三ない運動などもあり)年々減少の一途を辿り、2000年代になる頃には半分以下の6万人を切るほどまでに減少。

結局この急速な減少で8耐が語られる事、後世に語り継がれる事が無くなり伝統が止まってしまったからGS1200SSを見ても分からない人が増えたのかと。 メディアへの露出も減りましたしね。

GS1200SSカタログ写真

まあ育たず根付いていないモータスポーツ文化を今更どうこういっても仕方がない話。

ただ一方で嬉しいことに2010年代からは運営やメーカーの努力もあり年々(少しづつですが)増加傾向で2016年の決勝日動員数は69000人にまで回復。そして世界耐久ロードレース選手権のプロモーターやCEOが鈴鹿8耐の国内四大メーカーが威信をかけて挑む事によるレベルの高さや、その事に熱狂する観客の質の高さに感動し、2017年からは世界耐久ロードレース選手権の最終戦に昇格しました。

8耐スズキ

画面越しに見るのと、生で見るのとでは迫力がまったくもって違うことや、チケットを買うと応援グッズが貰えたり、そこでしか買えないグッズや聞けない話、試乗といった特典もあるので一度は行ってみる事をおすすめします。

同じ歴史ある祭典のイギリスのマン島TTやフロリダ州で行われているデイトナバイクウィークに比べればそんなに難しい事では無いはずです。詳しくは鈴鹿8耐公式HPをどうぞ。ちなみに今年(2017/7/27~7/30)は記念すべき40回目で22歳までは無料チケットがあるとの事。

そして行った際にはぜひとも8耐の歴史を紹介している特設会場を訪れてみてください。そこには”変な形”ではなく”伝説の形”であるGS1000/Rが飾られています。

スズキGS1200SS

それを見て知った瞬間からGS1200SSへのイメージが180度変わるハズ。

主要諸元
全長/幅/高 2115/765/1220mm
シート高 770mm
車軸距離 1460mm
車体重量 210kg(乾)
燃料消費率 28.0km/L
※定地走行テスト値
燃料容量 20.0L
エンジン 油冷4サイクルDOHC4気筒
総排気量 1156cc
最高出力 100ps/8000rpm
最高トルク 9.6kg-m/6500rpm
変速機 常時噛合式5速リターン
タイヤサイズ 前120/70ZR17(58W)
後170/60ZR17(72W)
バッテリー YTX12-BS
プラグ
※2つの場合は手前が、3つの場合は中央が標準熱価
JR8B
推奨オイル スズキ純正
エクスター
オイル容量
※ゲージ確認を忘れずに
全容量4.6L
交換時3.3L
フィルター交換時3.5L
スプロケ 前15|後45
チェーン サイズ530|リンク112
車体価格 910,000円(税別)
系譜の外側
DN-01

拒絶された渾身のATスポーツクルーザー
DN-01
(RC55)

gts1000

悪いのは人か技術か
GTS1000/A
(4BH/4FE)

750カタナ

カタナと名乗れなかったカタナ
GSX750S
(GS75X)

ザンザス

Zの亡霊と戦ったZ
XANTHUS
(ZR400D)

CBX400カスタム

30年経ってCBXと認められたアメリカン
CBX400CUSTOM
(NC11)

BT1100

イタリア魂が生んだもう一つのMT
BT1100 BULLDOG
(5JN)

GSX1300BK

本当の怪物は誰も求めていなかった
GSX1300BK B-KING
(GX71A)

ZR750F/H

死せるザッパー生ける仲間を走らす
ZR-7/S
(ZR750F/H)

ホンダCBX1000

大きすぎた赤い夢
CBX1000
(CB1/SC03/06)

GX750/XS750

ブランドは1台にしてならず
GX750
(1J7)

スズキGAG

SUZUKIのZUZUKI
GAG
(LA41A)

Z1300

独走のレジェンダリー6
Z1300/KZ1300
(KZ1300A/B/ZG1300A)

NM-4

アキラバイクという非常識
NM4-01/02
(RC82)

FZX750

大きな親切 大きなお世話
FZX750
(2AK/3XF)

GSX1400

踏みにじられたプライド
GSX1400
(GY71A)

750Turbo

タブーを犯したターボ
750Turbo
(ZX750E)

NR750

無冠のレーシングスピリット
NR
(RC40)

TRX850

現代パラツインスポーツのパイオニア
TRX850
(4NX)

GS1200SS

嘲笑される伝説
GS1200SS
(GV78A)

ゼファー1100

ZEPHYRがZEPHYRに
ZEPHYR1100/RS
(ZR1100A/B)

NS400R

狂った時代が生んだ不幸
NS400R
(NC19)

RZV500R

手負いの獅子の恐ろしさ
RZV500R
(51X/1GG)

RG500Γ

チャンピオンの重み
RG500/400Γ
(HM31A~B/HK31A)

AV50

なぜなにカワサキ
AV50
(AV050A)

ドリーム50

五十路の夢
DREAM50
(AC15)

フォーゲル

楽し危なし
POCKE/VOGEL
(4U1/7)

ストリートマジック

シンデレラスクーター
TR-50/TR-110
(CA1L/CF12)

Z750ツイン

鼓動と振動
Z750TWIN
(KZ750B)

フォルツァ125

市民権の象徴
FORZA125
(JF60)

SRX4/6

決して多くない人たちへ
SRX-6/SRX-4
(1JK/1JL~)

DR-Z400SM

最初で最後のフルスペック
DR-Z400S/SM
(SK43A/SK44A)

ZX-7R/RR

問題児レーサー
ZX-7R/RR
(ZX750P/N)

RC213V-S

2190万円の妥協と志向
RC213V-S
(SC75)

YZF-R7

7と1でWE/R1
YZF-R7
(5FL)

バーグマンFCS

エコの裏で蠢くエゴ
BURGMAN FCS
(DR11A)

エリミネーター750/900

名は体を現す
ELIMINATOR750/900
(ZL750A/ZL900A)

モトコンポ

こう見えて宗一郎のお墨付き
MOTOCOMPO
(AB12)

TDR250

聖地突貫ダブルレプリカ
TDR250
(2YK)

グース

決めつけられたシングルの正解
Goose250/350
(NJ46A/NK42A)

Z650

小さく見えるか大きく見えるか
Z650
(KZ650B)

X4

単気筒
X4
(SC38)

SDR200

軽く見られた軽いやつ
SDR
(2TV)

チョイノリ

59,800円に込められた思い
choinori
(CZ41A)

ゼファー750

復刻ではなく集大成
ZEPHYR750/RS
(ZR750C/D)

PS250

モトラリピート
PS250
(MF09)

DT-1

冒険という感動創造
トレール250DT1
(214/233)

Vストローム250

二度ある事は三度ある
V-STROM250
(DS11A)

エリミネーター250

周期再び
ELIMINATOR250/SE/LX
(EL250B/A/C)

CX500ターボ

打倒2ストのブースト
CX500/650TURBO
(PC03/RC16)

YA-1

原点進行形
YAMAHA125
(YA-1)

rf400r

RでもFでもない
RF400R/RV
(GK78A)

250-A1

半世紀を迎えた吉凶のライムグリーン
250-A1/SAMURAI

Vツインマグナ

氷河期 of Liberty
V-TWIN MAGNA(MC29)

TDR50

RALLYってしまった原付
TDR50/80(3FY/3GA)

SW-1

オシャレは我慢
SW-1(NJ45A)

ボイジャー1200

可愛い娘は旅をせよ
Voyger XII
(ZG1200A/B)

WING

Twist and Shaft
WING
(GL400/GL500)

ビーノ

その愛嬌は天然か計算か
VINO
(SA10J/SA26J/SA37J/SA54J/AY02)

DRビッグ

爪痕を残し飛び去った怪鳥
DR750S/DR800S
(SK43A/SR43A)

テンガイ

愛おぼえていますか
Tengai
(KL650B)

CB92

雪辱のSSその名はシービー
CB92

XT400E

本当の名前は
ARTESIA
(4DW)

ジェベル250

ツールドジェベル
DJEBEL250/XC/GPS
(SJ44A/SJ45A)

KV75

混ぜるなキケン
75MT/KV75
(KV075A)

ダックス

泥遊びなら任せろ
DAX
(ST50/ST70/AB26)

ランツァ

単槍匹馬のラストDT
LANZA
(4TP)

GT750

水牛であり闘牛である
GT750
(GT750J~N)

「嘲笑される伝説 GS1200SS (GV78A) -since 2002-」への2件のフィードバック

  1. 愛のある紹介ページ、大変ありがとうございます。現役オーナーです。今も普通にロングツーにも使ってます。

    扱い易く丈夫な油冷ユニット、高めのハンドル、何よりデカイトップカウル。他ネイキッドと乗り比べると、ツーリング時にいかに楽か毎回思い知らされます。

    目立った高性能車では無いかもしれませんが、油冷エンジンの扱い易い性質や振動・音、そしてこのスタイル。200馬力とかMAX300キロとかどうでもよくなります。SSの類ではありませんからね。燃費もそれほど悪く無いですよ。

    困るのは…
    ・エンジンパッキン周りのオイルにじみ(23年だから仕方ないか)
    ・アンダーブリッジが何故か普通に鉄(サビる…先発車のイナズマはアルミなのに)
    ・エンジンの塗装が弱い(GSだけじゃないかもですが)
    ・希少車故か社外パーツが少ない、純正パーツはもっと少ない(油冷ファミリー車からフル動員流用)

    色々書きましたが、西日の中アスファルトに落ちたシルエットを見て一人で喜んでます。そしてコンビニに止めて戻って来るとまさにあのカタログ写真が再現…毎回笑います。

  2. 嘲笑する程ヘンなバイクじゃないと思いますよ、本当に。
    ツインならばTL1000 、4気筒ならGS1200SSという風に、“いつか必ず“と思っていたバイクでした。重篤な症状ですか?
    GSの方はMADMAX世代の自分にはジャストミートのスタイルなので(あっちはZだけど)、絶版になった際には「何故だ!」と絶望しました。
    しかもTLもGSもほぼ同じ時期に絶版になったもんですから、数年間自分のバイクの方向性を見失う時期を過ごしました。
    そんな時にB-KINGを出してくれたスズキが大好きです(笑)

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