「Do you want PARADISE?」
1994年に登場した250ccアメリカンを代表する車種であるV-TWIN MAGNA/MC29型。
このバイクは400ccクラスでスティードが成功しアメリカンブームが巻き起こった事から
「エントリー層向けの250も作ろう」
となって開発された経緯があります。
括りとしてはV4で登場していたマグナの始まりであるVF750MAGNA(V45 MAGNA)の250cc版という形で1993年の東京モーターショーに
『V25 MAGNA』
という名前で出品されたのが始まり。
ちなみにマグナと聞くとたくましいイメージがありますがラテン語で
「偉大(女性形)」
という女神的な意味だったりします。
そんなVツインマグナはカスタム(マッスル系)がテーマだったんですが、それに一役買っているのが最大の特徴でもあるディッシュリアホイール。
名前の由来である”皿”感をものの見事に表現している完璧な一枚物。純正でこんなホイールを付けたバイクは早々なく国産車では初。
どうしてディッシュを何処もやらないのかというと、横風に煽られるからという事もありますがもう一つ問題となるのが引っ掛かる部分がないディッシュホイールにするとホイールバランスの為のウェイトを付けるのが難しくなるから。
だからマグナでも本当は採用を見送るハズだったんですが窪島デザイナーが
「これだけは絶対」
と譲らなかったため切削精度をとことん上げて
『ウェイトが不要な高精度バランスのディッシュホイール』
にする事でなんとか実現させた250らしからぬ非常に手の込んだホイールだったりします。
そんなこだわりもありVツインマグナはデビューと同時に人気を呼び(ちゃんとした数字を覚えて無くて申し訳ないのですが)95年度には年間販売台数1万台オーバーでトップセールスを記録しました。
更に二年後の1996年には
・ハザードランプ
・アジャスター付きブレーキレバー
・荷掛けフック付きグラブバー
など使い勝手を向上させるマイナーチェンジと共にSモデルを追加。
・フロントもディッシュホイール化
・各部メッキパーツ
・立体エンブレム
などなどカスタム感を更に高めたモデルとなっています。
その後は1999年に排ガス/騒音規制に対応、2004年には強化キーシリンダーや直結防止でセキュリティ強化など小変更のみ。
生産終了となる2007年まで大きく形を変えることなく続いたモデルとなりました。
さてさて・・・重ねて言いますがこのVツインマグナはそれはそれは人気でした。
ではその人気の秘訣が何かといえば一つは最初に話した通りアメリカンブームが起こっていたことがあります。
ただそんな中でマグナが一番人気になれたの理由はもちろん
「カッコよかったから」
ですね。
・400並の専用設計ロー&ロングボディ
・ドッシリ座れる440mmの広いシート
・V45と同径の太いフロント
・大きく寝ている前後サスと唯一無二のディッシュホイール
などなど本当にアメリカンの本流デザイン。
・・・と思いきや実はそうでもない。
マグナはアメリカンとして基本は抑えつつも随所が少し本流から外れています。
例えば短くカチ上がったダブルショットガンタイプという非常に攻撃的な形をしたマフラー。いくらカスタム系とはいえ純正でこの形はかなり独創的なもの。
ちなみにこれはデザイン性だけでなく厳しい騒音規制をクリアしつつも排気音をライダーに積極的に聞かせたいという狙いも含まれており、実際このノーマルマフラーは機能美として非常に好評でした。
もう一つ上げるとエンジン。
VツインマグナはVバンク(前後のシリンダーの開き)が90度と大きく開いてるVツインを搭載しています。
これはベースとなっているのがVT(正確にはXELVIS)のエンジンで、スポーツ性を上げる場合90度が振動面で有利だからなんですが、これがアメリカンとなると話が変わってくる。
アメリカンは振動を良しとされているし何より『塊感』を出すためにこの角度は可能な限り狭くするのが基本だから。
だからスティードなんかでも52度と非常に狭くなってるわけですがVツインマグナでは兄貴分がそうだったように90度と大きく開いてて少し変わってる。
その代わりに中身的な事をいうと名車と名高いVT系のエンジンだから走りが良いし、そのままというわけではなくクランクを重くして中低速の厚みを持たせるなどの改良も施されています。
この様にVツインマグナは明らかに要所のデザインが本流から外れている・・・にも関わらず何の違和感も無い。
奇跡かと思うほど何の違和感もなく纏まってる。
これこそが多くの人の心を掴んだVツインマグナの凄いところであり魅力なんですね。
ただ人気が出たのはそれだけではないと個人的には考えています。
そもそもなんでアメリカンブームが巻き起こったのかという話。
俗にいうアメリカンという乗り物は名前や皮切りとなったイージーライダー、それにオリジナリティあふれるカスタムをしてナンボという文化からも分かる通り社会や権威への対抗や反抗を示す
『自由を象徴する乗り物』
もっとストレートに言うと
『アウトロー』
という意味合いやイメージが強く、社会に対してそう考える人が増えるたびに人気となる他のバイクとは少し違う特殊な需要があります。
だからメーカーも
『シャドウ(ワイルド)』
『エリミネーター(排除)』
『サベージ(野蛮)』
『ドラッグスター(ドラッグレースカー)』
『レブル(反抗)』
『イントルーダー(侵入者)』
などなどそんなイメージを補強する攻めた名前を付ける。
ではアメリカンブームが巻き起こった90年代に社会で何があったのかといえば
『バブル崩壊』
ですね。
それまで当たり前だったと思っていた社会が揺らぎ、就職すらままならず見捨てられ絶望する若者が続出した。
そんな時代に現れたのが自由を象徴する本格的なアメリカンでありながら個性的でもあったV-TWIN MAGNA。
こんな社会から逃れて自由になりたいと思う一方で、そんなフリーダムは存在しない事も分かっていた多くの若者にとって
『郷に入るも郷にひれ伏していない自由な姿』
は250ccという身近なクラスでありながらも眩しいほどに大きく輝いて見え、これを所有し乗るという行為が自分が手にする事が出来る最大限の自由”リバティ”だと思えた。
多くの若者から絶大な人気と支持を得た理由はここにある。
社会から見捨てられた若者を照らした女神・・・それがV-TWIN MAGNAというバイクでした。
主要諸元
全長/幅/高 | 2315/845/1055mm [2330/745/1065mm] |
シート高 | 690mm |
車軸距離 | 1620mm |
車体重量 | 183kg(装) [184kg(装)] |
燃料消費率 | 34.0km/L [36.0km/L] ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 11L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC二気筒 |
総排気量 | 249cc |
最高出力 | 27ps/10000rpm |
最高トルク | 2.3kg-m/7500rpm |
変速機 | 常時噛合式5段リターン |
タイヤサイズ | 前120/80-17(61S) 後150/80-15M/C(70S) |
バッテリー | YTX7L-BS |
プラグ | CR8EH9(標準)/CR9EH9 または U24FER9/U27FER9 |
推奨オイル | ウルトラU(10W-30) または ウルトラSUPER8(10W-40) |
オイル容量 | 全容量2.4L 交換時1.9L フィルター交換時2.1L |
スプロケ | 前14|後38 |
チェーン | サイズ520|リンク数110 |
車体価格 | 539,000円(税別) [545,000円(税別)] ※[]内は99年以降モデル |