「ニューマッハウェーブ」
カワサキが1992年に出した今では珍しくもなんともないストリートファイターなザンザス。
エンジンはZXR400の物をベースにカム角とバルブタイミング、そしてピストンヘッドを変更して更に低速寄りにリセッティングしたもの。
それでも上限の53ps/11500rpmを発生させるのを見れば分かる通り、ローギアード化も相まって下からとてつもなく速いネイキッド。
それもそのはずで何を隠そうザンザスは
「シグナルGPでワンクラス上に勝つ」
という目標の元に開発されたバイクだから。
少し話をザンザスが出る前まで遡ると、カワサキはザンザスを出す3年前の1989年に皆さんご存知『ZEPHYR』を造り出しました。
「肩肘張らずに付き合えるジャパニーズスタンダード」
という狙いが見事に的中し大ヒット。
旧来のZを髣髴とさせるその姿に惚れた人は非常に多いでしょう。
そんな状況だったからカワサキはこの路線で行くのかと思ったら、ザンザスなんていうゼファーの対極なバイクを出してきたんだから驚きなわけです。
そこで少し野暮な推測、それは
「現代版マッハと言われているけど本当はZを造ったのでは」
という事。
というのもZというのはカワサキのフラッグシップモデルだから・・・知らない人の為にも少しZの歴史を振り返ってみましょう。
Zの始まりは川崎重工業を世界のKAWASAKIにした1972年のZ1やZ2です。
「世界初のDOHC直列4気筒」
として登場し、圧倒的な速さを持っていたことで大ヒットしました。
そしてその流れは400においても同じで、400におけるZの始まりは1979年に出たZ400FX。
「クラス初のDOHC直列4気筒」
というZに通ずるものをもち、年間販売台数トップに躍り出るほどの大ヒットしました。
しかしいつ頃からか
「Z=オールドネイキッド」
という少し違った方向へとZブランドは進みました。
これは道を切り開いたZ1/Z2や400FXがデザインや性能があまりにもセンセーショナルだった。
しかしZというのは元々
『究極のZ』
もっとわかりやすく言うと
『世界最高のロードスポーツ』
というのが本来のコンセプトであって、空冷2バルブ直四のオールドネイキッドを表す意味では無い。
そんな中で出たザンザスは400としては最高のロードスポーツと言っても遜色のないネイキッド。
だから
「これこそ本来あるべきZの道では」
と思うわけです。
※追記
当時のプレスリリースや資料諸々を手に入れて読んだところ、商品企画の吉田さん曰く
「ゼファーとは違う次世代のZがイメージ」
と明言されていました。やはりザンザスの狙いはソコにあった。
ザンザスは周囲の反対を押し切り企画会議で猛プッシュした事でGOサインを貰い始まったプロジェクト。
贅肉を削ぎ落とし機能美に徹するというデザインテーマのスケッチ(特にマフラー)を見た時は、大変な仕事になると頭を抱えたエンジン担当の渡辺さん。
シグナルGPでワンクラス上に勝つという高すぎる目標に妥協なく挑み、予定には無かった新型ラジアルタイヤを強行採用した車体担当の本多さん。
「過激なほど皆が開発努力をしてくれたお陰で完成することが出来た」
と開発部門チーフの藤井さんも仰るほど、チームは”次世代のZ”を造ることに全力だった。
「やはりザンザスはZだった」
という推測が当たった事を喜んだものの、同時に半分ハズレとなる少し悲しくなる事も分かりました。
過激なほどの努力によって造られたザンザスでしたが、オールドネイキッドブームの前には人気も出ず、4年余りで生産終了という冷ややかな市場反応だったのは周知の事実かと思います。
しかし、この冷ややかな反応は市場だけでなく社内でもそうだったんです。
当時カワサキはゼファーシリーズでイケイケだった事に加え、後にロングセラーとなるエストレヤも同時開発中だった。
だから社内の人間も皆そっちに夢中で、誰もザンザスのプロジェクトやコンセプトに興味を示さなかった。
「みんな頑張っているのに誰も興味を示してくれないのが可哀想だった」
と藤井さんも漏らすほどチームと社内の温度差は大きかったんです。
市場からも身内からも理解されなかった可哀想なバイク・・・が、時代が少し進んで10年後の2003年。
カワサキが水冷Z1000を出したのはまだ記憶に新しいと思います。
新世代のZという事でしたが、開発段階ではザンザス900という名前で進んでいました。
Zの商標が切れそうだった事からZ1000と名前を改められたのは有名な話ですが、それだけの理由ではないと思います。
だって水冷モノサスのカッ飛び系なんてそれまでのZのイメージを覆す事になるんですから。
どう見てもザンザスの系譜といえる造り。
そしてミソはそんなバイクをZにするというザンザス時代では考えられない事をやったということ。
これはひとえにザンザスが持っていた”次世代のZ”というコンセプトを身内が理解してくれた事、そしてザンザスが生産終了後に再評価される流れが出来た事からでしょう。
だからこそザンザス900改めZ1000はまだストファイブームとは言い難い中で成功を収めただけでなく、遺産であると同時に亡霊でもあったZのイメージを塗り替える事も出来たのではないかと。
主要諸元
全長/幅/高 | 2030/745/1070mm |
シート高 | 775mm |
車軸距離 | 1380mm |
車体重量 | 168kg(乾) |
燃料消費率 | 44.0km/L ※定地走行テスト値 |
燃料容量 | 14.0L |
エンジン | 水冷4サイクルDOHC4気筒 |
総排気量 | 398cc |
最高出力 | 53ps/11500rpm |
最高トルク | 3.7kg-m/9500rpm |
変速機 | 常時噛合式6速リターン |
タイヤサイズ | 前110/70R17(54H) 後160/60R17(69H) |
バッテリー | YTX9-BS |
プラグ | CR9EK または X27ETR |
推奨オイル | カワサキ純正オイル または MA適合品SAE10W-40 |
オイル容量 | 全容量3.0L 交換時2.8L フィルター交換時3.0L |
スプロケ | 前15|後46 |
チェーン | サイズ520|リンク108 |
車体価格 | 629,000円(税別) |